(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110176
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】血液ポンプ及び補助人工心臓システム
(51)【国際特許分類】
A61M 60/178 20210101AFI20230802BHJP
A61M 60/232 20210101ALI20230802BHJP
A61M 60/829 20210101ALI20230802BHJP
A61M 60/824 20210101ALI20230802BHJP
A61M 60/416 20210101ALI20230802BHJP
【FI】
A61M60/178
A61M60/232
A61M60/829
A61M60/824
A61M60/416
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011448
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】392000796
【氏名又は名称】株式会社サンメディカル技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】大和 淳司
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077DD08
4C077FF04
(57)【要約】
【課題】モータの安定動作を維持しつつ小型化を実現することが可能な血液ポンプと、使用者にとって負荷を軽減することが可能な補助人工心臓システムを提供すること。
【解決手段】血液ポンプ10は、モータ14は、台座部17を貫通しポンプ室Rに達するシャフト32、コイル34が巻回されたステータ30、ステータ30が挿通可能な永久磁石40、内周面に永久磁石40を固着するロータ枠42で構成されるロータ31を有している。ロータ31は、シャフト32の裏蓋21側を軸支する下固定軸受43と、下固定軸受43に対してステータ30を挟んでポンプ室R側を軸支する上固定軸受44とを有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって回転する送液機構の遠心作用によって血液を移動させる血液ポンプであって、
前記モータを収容する機体、及び前記機体の台座部に固定され、前記台座部とで前記送液機構を収容するポンプ室を構成するケーシングを有し、
前記モータは、前記台座部を貫通し前記ポンプ室に達する回転軸であるシャフト、中央部に前記シャフトが挿通可能な貫通孔が設けられコイルが巻回されたステータ、前記ステータが挿通可能なステータ挿通孔を有する永久磁石、及び、内周面に前記永久磁石を固着する側壁部及び前記シャフトを軸支するための中心孔が開口された底部を有する略椀形状のロータ枠で構成されるロータを有し、
前記送液機構は、前記ポンプ室において前記シャフトの先端部に軸支されており、
前記シャフトの一方側の端部を軸支する下固定軸受と、前記下固定軸受に対して前記ステータを挟んで他方側を軸支する上固定軸受とを有し、
前記下固定軸受は、前記機体の軸方向外側に突出して配置されている、
ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプにおいて、
前記機体の前記モータを収容する空間を密閉する裏蓋をさらに有し、
前記シャフトの前記裏蓋側は、前記シャフトと一体となって回転する下回転軸受を介して前記下固定軸受によって支持されており、
前記シャフトの前記送液機構側は、前記シャフトと一体となって回転する上回転軸受を介して前記上固定軸受によって支持されている、
ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の血液ポンプにおいて、
前記下回転軸受及び前記上回転軸受には、外周面にクールシール液を流すことが可能な溝が形成されている、
ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載の血液ポンプにおいて、
前記ステータは、周囲をステータケースで密閉されている、
ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項5】
請求項2に記載の血液ポンプにおいて、
前記台座部及び前記上固定軸受を外周方向から貫通し、前記上固定軸受と前記上回転軸受との間にクールシール液を送る上クールシール液循環路と、
前記裏蓋及び前記下固定軸受を外周方向から貫通し、前記下固定軸受と前記下回転軸受との間に前記クールシール液を送る下クールシール液循環路と、
をさらに有している、
ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の血液ポンプと、
体外に設けられ、クールシール液を前記血液ポンプに循環する制御装置と、
を有している、
ことを特徴とする補助人工心臓システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液ポンプ及び補助人工心臓システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓移植までの患者の生命を維持するための、血液に運動エネルギーを与える血液ポンプ及び当該血液ポンプを用いて心臓の機能の一部を補う補助人工心臓システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の補助人工心臓システムは、体内に埋め込まれる血液ポンプと、心臓の血流を接続するための人工血管と、制御装置とから構成されている。制御装置は、補助人工心臓システムの使用者の体外で用いるためのものであり、チューブによって血液ポンプに接続されており、チューブには、モータを駆動制御するためのケーブル(信号線)、及びクールシール液を循環させるクールシール液循環路が内挿されている。
【0004】
特許文献1に記載の血液ポンプは、ポンプ室に収容されたインペラなどの送液機構によって、血液をポンプ室の流入口から流入させ、ポンプ室の流出口から流出させて使用者の体内に送り込む血液ポンプである。この血液ポンプは、送液機構と、この送液機構を駆動するモータと、送液機構とモータとを連結するシャフトとを有している。モータは、永久磁石をシャフトに固定して回転子であるロータと、ロータの外周を取り巻くようにコイルが巻回された固定子であるステータとで構成されている。モータは、ステータの内側をロータが回転する、いわゆるインナーロータ型モータである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
補助人工心臓システムに使用する血液ポンプは、使用者の負担を軽減するために小型化することが求められている。インナーロータ型モータの場合、ロータの回転軸に近い位置に与圧力の作用点が配置されることになる。そのため、シャフトの送液機構側を支持するための回転側摺動部材に加えられる与圧力、力の方向などのばらつきを抑えることが可能となる。しかし、所定の起磁力を得るためには、コイルの断面積が大きくなり、シャフトの軸方向の厚みが増加してしまう。また、ロータは片持ち支持構造のため、インペラに加えられる負荷とモータが発生する負荷とを固定側摺動部材で受けることになるため、固定側摺動部材とシャフトとの間の支持長さをロータの構成範囲より回転側摺動部材の近傍まで延長している。このような構成のインナーロータ型モータを小型化しようとすると、シャフトの支点間距離を短くしなければならず、動作の安定性や出力を維持しながら小型化することは困難である。
【0007】
また、血液ポンプは、血液ポンプ内部の摺動部の潤滑、シール性、冷却などの維持機能を果たすクールシール液(例えば、注射用水など)を循環させるクールシール液循環路を有している。特許文献1に記載のクールシール液循環路は、機体の送液機構側を通り、固定側摺動部材のシャフトの支点より上方側で固定側摺動部材を断面方向に貫通している。小型化(薄型化)のために、クールシール液循環路をシャフトの始点より下方側に移動させると、シャフトの支持長さが短くなるため血液ポンプの小型化を困難にしている。
【0008】
そこで、本発明は、このような課題の少なくとも一つを解決するためになされたもので、モータの安定動作を維持しつつ小型化を実現することが可能な血液ポンプと、使用者にとって負荷を軽減することが可能な補助人工心臓システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明の血液ポンプは、モータによって回転する送液機構の遠心作用によって血液を移動させる血液ポンプであって、前記モータを収容する機体、及び前記機体の台座部に固定され、前記台座部とで前記送液機構を収容するポンプ室を構成するケーシングを有し、前記モータは、前記台座部を貫通し前記ポンプ室に達する回転軸であるシャフト、中央部に前記シャフトが挿通可能な貫通孔が設けられコイルが巻回されたステータ、前記ステータが挿通可能なステータ挿通孔を有する永久磁石、及び、内周面に前記永久磁石を固着する側壁部及び前記シャフトを軸支するための中心孔が開口された底部を有する略椀形状のロータ枠で構成されるロータを有し、前記送液機構は、前記ポンプ室において前記シャフトの先端部に軸支されており、前記シャフトの一方側の端部を軸支する下固定軸受と、前記下固定軸受に対して前記ステータを挟んで他方側を軸支する上固定軸受とを有し、前記下固定軸受は、前記機体の軸方向外側に突出して配置されていることを特徴とする。
【0010】
[2]本発明の血液ポンプにおいては、前記機体の前記モータを収容する空間を密閉する裏蓋をさらに有し、前記シャフトの前記裏蓋側は、前記シャフトと一体となって回転する下回転軸受を介して前記下固定軸受によって支持されており、前記シャフトの前記送液機構側は、前記シャフトと一体となって回転する上回転軸受を介して前記上固定軸受によって支持されていることが好ましい。
【0011】
[3]本発明の血液ポンプにおいては、前記下回転軸受及び前記上回転軸受には、外周面にクールシール液を流すことが可能な溝が形成されていることが好ましい。
【0012】
[4]本発明の血液ポンプにおいては、前記ステータは、周囲をステータケースで密閉されていることが好ましい。
【0013】
[5]本発明の血液ポンプにおいては、前記台座部及び前記上固定軸受を外周方向から貫通し、前記上固定軸受と前記上回転軸受との間にクールシール液を送る上クールシール液循環路と、前記裏蓋及び前記下固定軸受を外周方向から貫通し、前記下固定軸受と前記下回転軸受との間に前記クールシール液を送る下クールシール液循環路と、をさらに有していることが好ましい。
【0014】
[6]本発明の補助人工心臓システムは、上記[1]から[5]のいずれかに記載の血液ポンプと、体外に設けられ、クールシール液を前記血液ポンプに循環する制御装置と、を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の血液ポンプは、モータによって回転する送液機構の遠心作用によって血液を移動させる血液ポンプである。特許文献1に記載の血液ポンプは、シャフトが片持ち支持構造のいわゆるインナーロータ型モータであることから、モータが発生する負荷(出力)を安定して送液機構に伝達するためには、シャフトを支持するための軸方向長さを長くした方がよい。しかし、軸方向の長さを長くすると血液ポンプの小型化が困難になる。本発明の血液ポンプは、ステータの外周を囲むようにロータが配置された、いわゆるアウターロータ型モータを使用している。ロータは、ロータを挟んで下固定軸受と上固定軸受とでシャフトが支持される両端支持構造を有している。そのことから、モータが発生する負荷(出力)を安定して送液機構に伝達することが可能となるため、下固定軸受と上固定軸受との距離を短くすることができ、血液ポンプを小型化することが可能となる。
【0016】
また、本発明の血液ポンプは、一方側(送液機構側)の上固定軸受と上回転軸受との間にクールシール液を送る上クールシール液循環路と、他方側(モータ下方側)の下固定軸受と下回転軸受との間にクールシール液を送る下クールシール液循環路とを有している。このように、血液ポンプは、ロータを両端支持構造とし、モータの負荷(出力)を安定して送液機構(インペラ)に伝達し、かつ、クールシール液循環路を上下2系統に設けることによって、上記各摺動部の潤滑性及びシール性を向上し、かつ小型化を実現することが可能となる。
【0017】
以上説明したように、本発明の血液ポンプによれば、モータの安定動作を維持しつつ小型化を実現することが可能となる。また、本発明の補助人工心臓システムによれば、上記血液ポンプを有するため、使用者にとって負荷を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】血液ポンプ10を体内に埋め込んで使用する補助人工心臓システム1の構成を模式的に示す説明図である。
【
図2】血液ポンプ10を中心軸Gを通る切断線で切断した縦断面図である。
【
図3】特許文献1に記載の血液ポンプにおける力点Pa、作用点Em、支点A,Bの配置を示す図である。
【
図4】本実施の形態の血液ポンプ10における作用点Emと力点Pa及び支点A,Bの配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る補助人工心臓システム1及び血液ポンプ10について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0020】
(補助人工心臓システム1の構成)
図1は、血液ポンプ10を体内に埋め込んで使用する補助人工心臓システム1の構成を模式的に示す説明図である。補助人工心臓システム1は、使用者2の体内に埋め込まれる血液ポンプ10、血液ポンプ10と使用者2の自己心臓3の左心室(図示は省略)とを接続する人工血管4、血液ポンプ10から使用者2の体内に血液を戻すための人工血管5、使用者2の体外に設けられる制御装置6、及び、制御装置6と血液ポンプ10とを接続するチューブ7によって構成されている。
【0021】
制御装置6は、血液ポンプ10の動作を制御するとともに、冷却用液体(以降、クールシール液CSという)を血液ポンプ10に供給した後、クールシール液CSを回収し濾過する機能を有している。図示は省略するが、チューブ7の内部には、制御装置6と血液ポンプ10とを接続するケーブル(信号線)、及びクールシール液CSを血液ポンプ10の内部に循環させる上クールシール液循環路60及び下クールシール液循環路61(
図2参照)に連通するシール液流路を有している。
【0022】
血液ポンプ10を体内に装着して使用する場合、使用者2の負担を軽減するために(クオリティーライフの向上のために)、血液ポンプ10の本来の機能を維持しつつ血液ポンプ10を小型化することが求められている。そこで、血液ポンプ10の小型化を実現する構成について説明する。
【0023】
(血液ポンプ10の構成)
図2は、血液ポンプ10を中心軸Gを通る切断線で切断した縦断面図である。血液ポンプ10は、ポンプ室Rに収容された送液機構11の遠心作用によって左心室の血液を流入口12から流入させ、ポンプ室Rから血液を流出口13に流出させて使用者2の体内に送り込む装置である。血液ポンプ10は、送液機構11、送液機構11に回転力を与えるモータ14、モータ14を支持する機体15、及び機体15に嵌着させてポンプ室Rを構成するケーシング16を有している。機体15は台座部17、及び台座部17から立ち上げられ下方側に開口する側壁部18を有する略椀形状の部材であって、台座部17はポンプ室Rとモータ14を収容する空間22とを区画している。
【0024】
ケーシング16は略漏斗形状を有し、上方側先端部には、人工血管4と連通する流入口12が設けられ、下方側の縁は機体15の台座部17に固定されている。ケーシング16と台座部17とによってポンプ室Rが構成される。なお、ケーシング16には、人工血管5に接続するための接続管部20が設けられており、接続管部20にはポンプ室Rと連通する流出口13が設けられている。
【0025】
送液機構11は、回転することによる遠心作用によって血液を移動させる機能を有し、
図2に示す例においてはインペラ11aがその機能を担う。送液機構11は、機体15の台座部17及びケーシング16によって構成されたポンプ室Rに収容されている。機体15の側壁部18には、台座部17のポンプ室Rに対して反対側の開口部を密閉するように裏蓋21が固定されている。モータ14は、台座部17、側壁部18及び裏蓋21との間の構成される空間22に収容される。続いて、モータ14の構成について説明する。
【0026】
モータ14は、ステータ30、ロータ31、及びロータ31を回転可能に軸止するシャフト32によって構成されている。ステータ30は、積層鋼板製のコイルコア33にコイル34が巻回されて構成されている。ステータ30は、耐水性のステータケース35に収容されてリング形状のユニットとして構成されている。ステータケース35は、クールシール液CSが内部へ侵入することを防ぐ。ステータ30は、シャフト32に接触しない直径を有する貫通孔30aを有して裏蓋21の内側底面に固定されている。ステータ30には、所定の起磁力が得られるようにコイル34が巻回されている。
【0027】
ロータ31は、中央部にステータ30を挿通することが可能なステータ挿通孔40aを有する永久磁石40、永久磁石40の外周に固定されるバックヨーク41、永久磁石40及びバックヨーク41をシャフト32に固定するロータ枠42によって構成されている。永久磁石40は、周方向にN極、S極が交互に複数組が配置されている。ロータ枠42は、扁平な略椀形状を有しており、側壁部42aの内周面にバックヨーク41を介して永久磁石40が固定されている。ロータ枠42の底部42bには、底部42bを貫通する中心孔42cが開口されている。この中心孔42cにシャフト32を圧入することによって一体化される。ロータ31はシャフト32の中心軸Gを回転軸として回転し、シャフト32の先端部に軸止されたインペラ11aを回転させる。
【0028】
シャフト32は、ステータ30のステータ30の貫通孔30aを貫通し、一方側の端部が下固定軸受43によって軸支される。また、シャフト32の他方側の端部は、機体15の台座部17を貫通してポンプ室Rの内部に突出し、台座部に固定された上固定軸受44によって軸支される。下固定軸受43は、裏蓋21の下方側に突出した軸受保持部21aの内側に固定されている。シャフト32の下端側には、下回転軸受45が下固定軸受43の内部に埋設されるように配設される。シャフト32の下端側には、シャフト32を横断する固定ピン46が挿入されており、下回転軸受45には、固定ピン46に嵌合可能な溝45aが形成されている。ロータ31が単体のときに、シャフト32の下方側から下回転軸受45をスライド移動させながら溝45aを固定ピン46に嵌合させることによって、下回転軸受45はシャフト32と一体となって回転するように構成されている。換言すると、シャフト32の下方側は、下回転軸受45を介して下固定軸受43に軸支される。下回転軸受45は、下方側にスライド移動させてシャフト32から取り外すことが可能となっている。
【0029】
シャフト32の上方側には、上回転軸受47が上固定軸受44の内部に埋設されるように配設されている。下回転軸受45と同様に、シャフト32には、上固定軸受44の内側において、シャフト32を横断する固定ピン46が挿入されており、上回転軸受47には、固定ピン46に嵌合可能な溝47aが形成されている。ロータ31を機体15に組み込む前に、シャフト32の上方側(インペラ11a側)から上回転軸受47をスライド移動させながら固定ピン46に溝47aを嵌合させることによって、上回転軸受47はシャフト32と一体となって回転する。換言すると、シャフト32は、上回転軸受47を介して上固定軸受44に軸支される。上回転軸受47は、上方側(インペラ11a側)にスライド移動させてシャフト32から取り外すことが可能となっている。
【0030】
図2に示す例においては、ロータ31は、下回転軸受45及び上回転軸受47を介して下固定軸受43と上固定軸受44によって軸支されている。これは、モータ14をユニット化して血液ポンプ10に組み込むための構成である。従って、下回転軸受45及び上回転軸受47を使用せずに、シャフト32を下固定軸受43と上固定軸受44とで直接軸支する構成とすることも可能である。シャフト32は、下固定軸受43と上固定軸受44との間でインペラ11aの回転に支障がない範囲で軸方向にクリアランスを有している。
【0031】
なお、ロータ31が回転する際に、ロータ枠42の側壁部42aは機体15の側壁部18に接触しない十分な隙間をとり、永久磁石40の内周面はステータ30(ステータケース35)の外周面に接触しない隙間をとって構成される。但し、永久磁石40の内周面とステータ30の外周面との隙間は、磁気効率を高めるために、接触しない範囲で小さくすることが望ましい。上記のように構成されるモータ14は、特許文献1に記載のステータの内側でロータが回転するインナーロータ型モータに対してアウターロータ型モータという。
【0032】
下回転軸受45と下固定軸受43との軸方向の接触長さ、及び、上回転軸受47と上固定軸受44との軸方向の接触長さは、各軸受に加えられる面圧を小さくし、各軸受の焼き付けを防ぐことに配慮するとともに、回転負荷が小さくなるように適宜設定される。なお、モータ14は、常に回転方向が一定になるように制御されている。
【0033】
シャフト32の上固定軸受44の上方には、シールリング50、クッションリング51、送液機構11(インペラ11a)が上固定軸受44の上方側端部44aから順に積層されている。シールリング50は、インペラ11aをシャフト32に上方側から組み込むことによって弾性を有するクッションリング51を介して上固定軸受44の上方側端面44aに圧接される。また、クッションリング51は、シャフト32との間に直径方向のクリアランスを有していることから、ロータ31の回転を妨げる負荷を最小限に抑えている。
【0034】
続いて、上クールシール液循環路60及び下クールシール液循環路61の構成について
図2を参照して説明する。上クールシール液循環路60は、機体15の上方(インペラ11a側)において、台座部17及び上固定軸受44を外周方向から貫通している。台座部17は、上クールシール液循環路60が構成される部分のみが突出して、それ以外の周囲を薄くし軽量化をはかっている。クールシール液CSは、上クールシール液循環路60を通って上固定軸受44と上回転軸受47との隙間、上固定軸受44とシャフト32との径方向の隙間に浸透する。上回転軸受47の外周面には、斜め方向に湾曲する溝(図示は省略)が上下方向に亘って形成されている。クールシール液CSは、この溝内を移動しながら上回転軸受47と上固定軸受44との間を潤滑しつつ上方側に移動し、上固定軸受44とシールリング50との間の微小な隙間に浸透し、上固定軸受44とシールリング50との間を潤滑しつつ血液のモータ14側への侵入を防いでいる。
【0035】
下クールシール液循環路61は、下方側の裏蓋21、下固定軸受43を外周方向から貫通している。裏蓋21は、下クールシール液循環路61が構成される部分のみが突出して、それ以外の周囲を薄くし軽量化を図っている。クールシール液CSは、下クールシール液循環路61を通って下固定軸受43と下回転軸受45との隙間、下固定軸受43とシャフト32との径方向の隙間、下回転軸受45とシャフト32との径方向の隙間、下回転軸受45及びシャフト32の先端面と下固定軸受43との間に浸透する。下回転軸受45の外周面には、斜め方向に湾曲する溝(図示は省略)が上下方向に亘って形成されている。クールシール液CSは、この溝内を移動しながら下回転軸受45と下固定軸受43との間を潤滑しつつ上方側に移動し、モータ14が収容される空間22に移動し、ロータ31及びステータ30を冷却する。ステータ30の周囲は、ステータケース35でカバーされているためクールシール液CSが内部に浸透し、モータ14の性能に影響することはない。
【0036】
以上説明したように、上クールシール液循環路60から送られるクールシール液CSは、上固定軸受44と上回転軸受47との間の潤滑及びシール性のために機能する。また、下クールシール液循環路61から送られるクールシール液CSは、下固定軸受43と下回転軸受45との間の潤滑及びモータ14の冷却のために機能する。クールシール液CSは、上固定軸受44と上回転軸受47との間や、下固定軸受43と下回転軸受45との間などの微小な隙間に適量を浸透させるため、制御装置6からの送液圧力が適切に制御される。なお、血液ポンプ10に送り込まれたクールシール液CSは、
図2に示す血液ポンプ10の背面側に設けられるクールシール液回収路(図示は省略)から吸引され、制御装置6で濾過された後、血液ポンプ10の内部に循環される。
【0037】
続いて、血液ポンプ10の小型化の考え方について
図3、
図4を参照しながら説明する。なお、
図3、
図4は、モータの支持構造から作用点Em、力点Pa、支点A,Bの関係を模式的に表し、特許文献1との相違点と、血液ポンプ10が小型化できることを説明するものである。
【0038】
図3は、特許文献1に記載の血液ポンプにおける力点Pa、作用点Em、支点A,Bの配置例を示す図である。
図3に示すように、力点Paと作用点Emとの間に支点A,Bが配置されている。作用点Emは、シャフトの末端位置であって、モータによる負荷F2(出力)の発生位置である。力点Paは、インペラの回転よって負荷F1が発生する位置である。特許文献1の血液ポンプにおいては、支点Aは、固定側摺動部材とシャフトとの接触部のインペラ側端部であり、支点Bは、固定側摺動部材とシャフトとの接触部のロータ側端部である。なお、負荷F1,F2が発生する位置は、面圧や負荷を計算するために設定した位置である。
【0039】
すなわち、特許文献1に記載の血液ポンプでは、作用点Emと力点Paの間に支点A,Bが配置されている。各点において、力点Paと支点Aとの間の距離をL1、支点Aと支点Bとの間の距離をL2、支点Bと作用点Emとの間の距離をL3とすると、L1≒L2、(L1+L2)≫L3の関係にある。(L1+L2+L3)を短くした方がロータの力の伝達効率が高くなる。しかし、ロータ(シャフト)は、支点A,Bによって支持される、いわゆる片持ち支持構造のため、L2を短くするとシャフトの揺らぎによって力点Paにおける負荷F1が変動し、モータの安定駆動を維持することが困難となる。つまり、特許文献1に記載の血液ポンプにおいては、支点間の距離を短くして小型化することが困難であるといえる。
【0040】
図4は、本実施の形態の血液ポンプ10における作用点Emと力点Pa及び支点A,Bの配置を示す図である。
図4に示すように、作用点Emは、支点Aと支点Bとの間に配置されている。支点Aは、上固定軸受44でシャフト32を支持する位置であり、支点Bは、下固定軸受43でシャフト32を支持する位置でシャフト32の末端位置としている。作用点Emは、モータ14が発生する負荷F2(出力)の位置である。力点Paは、インペラ11aの回転よって発生する負荷F1の位置である。なお、負荷F1,F2が発生する位置は、面圧や負荷を計算するために設定した位置である。
【0041】
力点Paと支点Aとの距離をL4、支点Aと作用点Emとの距離をL5、作用点Emと支点Bとの間の距離をL6とする。ロータ31は、支点Aと支点Bとで支持される、いわゆる両端支持構造のため、L4<L5であれば、負荷F1が特許文献1と同じ場合、モータ14が発生する負荷F2(出力)を抑えることが可能となる。また、血液ポンプ10は、L4<(L5+L6)としているから、力点Paによる負荷F1の変動は、既述した特許文献1の構成よりも小さいく、小型化が可能となる。なお、アウターロータ型モータを使用することによって、下固定軸受43の位置のみを血液ポンプ10から突出させることが可能となり、血液ポンプ10の体積を大きく増やさずに、作用点Emと支点Bとの間の距離L6を長くすることが可能となり、支点A,Bにおける面圧を抑えることが可能となる。
【0042】
以上説明した血液ポンプ10は、ステータ30の外周にロータ31が配置された、いわゆるアウターロータ型モータを使用している。ロータ31は、ロータ31を挟んで下固定軸受43と上固定軸受44とでシャフト32が支持される両端支持構造を有している。そのことから、モータ14が発生する負荷F2(出力)を安定して送液機構11(インペラ11a)に伝達することが可能となるため、下固定軸受43と上固定軸受44との間の距離(L5+L6)を短くすることができ、血液ポンプ10を小型化することが可能となる。当然、血液ポンプ10の小型化により軽量化することも可能となる。
【0043】
さらに、血液ポンプ10は、機体15(裏蓋21)から軸方向外側に下固定軸受43のみを突出させている。そのため、下固定軸受43と上固定軸受44との距離(L5+L6)を必要十分に長くしたとしても、全体としては小型化、軽量化することが可能となる。以上のことから、血液ポンプ10によれば、モータ14の安定動作を維持しつつ小型化を実現することが可能となり、使用者2にとって負荷を軽減することが可能となる。
【0044】
ロータ31は、一方側がシャフト32と一体となって回転する下回転軸受45を介して下固定軸受43によって支持されており、他方側がシャフト32と一体となって回転する上回転軸受47を介して上固定軸受44によって支持される。下回転軸受45及び上回転軸受47は、シャフト32に対して着脱可能に構成される。このような構成にすることによって、モータ14の組み立て性を高め、ロータ31をユニット化し機体15に容易に組み立てたり、機体か15から容易に分解したりすることが可能となる。
【0045】
また、下回転軸受45及び上回転軸受47の外周面には、クールシール液CSを流すことが可能な溝が形成されていることから、下固定軸受43と下回転軸受45との摺動面、上固定軸受44と上回転軸受47との摺動面にクールシール液CSを循環させて潤滑性を高めることが可能となる。
【0046】
また、ステータ30は、周囲がステータケース35で密閉されている。既述したように、血液ポンプ10は、下クールシール液循環路61から下固定軸受43と下回転軸受45との間にクールシール液CSを流す構成であって、この流路からステータ30が収容されている空間22にクールシール液CSが入り込む。そこで、ステータ30をステータケース35で密閉することによって、ステータ30をクールシール液CSから保護しながら、ステータ30及びロータ31を冷却することが可能となる。
【0047】
また、血液ポンプ10は、送液機構11側の上固定軸受44と上回転軸受47との間にクールシール液CSを送る上クールシール液循環路60と、モータ14下方側の下固定軸受43と下回転軸受45との間にクールシール液CSを送る下クールシール液循環路61とを有している。このように、血液ポンプ10は、上下2系統の上クールシール液循環路60及び下クールシール液循環路61を設けることによって、両端支持構造のアウターロータ型モータであっても、摺動部の潤滑を可能とし、小型化を可能にしている。
【0048】
また、補助人工心臓システム1は、血液ポンプ10を有している。血液ポンプ10は小型化が可能であるため、血液ポンプ10を体内に装着し使用する際の使用者2の負荷を軽減することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1…補助人工心臓システム、2…使用者、3…自己心臓、4,5…人工血管、6…制御装置、7…チューブ、10…血液ポンプ、11…送液機構、11a…インペラ、12…流入口、13…流出口、14…モータ、15…機体、16…ケーシング、17…台座部、18…側壁部、20…接続管部、21…裏蓋、21a…軸受保持部、22…空間、30…ステータ、30a…貫通孔、31…ロータ、32…シャフト、33…コイルコア、34…コイル、35…ステータケース、40…永久磁石、40a…ステータ挿通孔、41…バックヨーク、42…ロータ枠、42a…側壁部、42b…底部、42c…中心孔、42d…内周面、43…下固定軸受、44…上固定軸受、45…下回転軸受、46…固定ピン、47…上回転軸受、47a…溝、50…シールリング、51…クッションリング、60…上クールシール液循環路、61…下クールシール液循環路、A,B…支点、CS…クールシール液、Em…作用点、F1,F2…負荷、G…中心軸、Pa…力点、R…ポンプ室