IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-海藻の着生基盤および藻場造成方法 図1
  • 特開-海藻の着生基盤および藻場造成方法 図2
  • 特開-海藻の着生基盤および藻場造成方法 図3
  • 特開-海藻の着生基盤および藻場造成方法 図4
  • 特開-海藻の着生基盤および藻場造成方法 図5
  • 特開-海藻の着生基盤および藻場造成方法 図6
  • 特開-海藻の着生基盤および藻場造成方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110190
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】海藻の着生基盤および藻場造成方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20230802BHJP
   A01K 61/77 20170101ALI20230802BHJP
【FI】
A01G33/00
A01K61/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011476
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
【テーマコード(参考)】
2B003
2B026
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003BB01
2B003CC05
2B003DD01
2B003DD04
2B003EE04
2B026AA02
2B026AA05
2B026AB05
(57)【要約】
【課題】海藻が着生し生育できる基盤強度を有し、かつ、藻食動物による海藻の食害を抑制し、海藻が効率的に分布可能であるとともに、カーボンニュートラルの実現に寄与可能な海藻の着生基盤および藻場造成方法を提供する。
【解決手段】この海藻の着生基盤10A,10Bは、浚渫土と固化材とを混合し、500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を発現する基盤材料が水中に投入されて設置され、次式から求められる空隙率が最大で20%である。
空隙率%=(1-前記基盤材料の投入量m/前記基盤材料による体積m)×100
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浚渫土と固化材とを混合し、500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を発現する基盤材料が水中に投入されて設置され、次式から求められる空隙率が最大で20%である海藻の着生基盤。
空隙率%=(1-前記基盤材料の投入量m/前記基盤材料による体積m)×100
【請求項2】
前記固化材は、製鋼スラグ、セメントおよび高炉スラグ微粉末の内のいずれか1つもしくは2つまたはすべてである請求項1に記載の海藻の着生基盤。
【請求項3】
前記基盤材料に由来する二酸化炭素排出量がコンクリート材料に由来する二酸化炭素排出量の1/2以下となるように前記浚渫土と前記固化材とが配合されている請求項1または2に記載の海藻の着生基盤。
【請求項4】
前記固化材の補助材としてフライアッシュが配合されている請求項1乃至3のいずれかに記載の海藻の着生基盤。
【請求項5】
浚渫土と固化材とを混合し、500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を発現する基盤材料を作製する工程と、
前記基盤材料を固化前に水中に投入する工程と、
前記基盤材料により、次式から求められる空隙率が最大で20%である海藻の着生基盤を形成する工程と、を含む藻場造成方法。
空隙率%=(1-前記基盤材料の投入量m/前記基盤材料による体積m)×100
【請求項6】
前記投入された固化前の基盤材料を押しながら均すことで前記空隙率を低下させる請求項5に記載の藻場造成方法。
【請求項7】
前記基盤材料の固化前の水中投入工程を省略し、前記作製した基盤材料を、気中で養生し固化してから水中に投入する請求項5に記載の藻場造成方法。
【請求項8】
前記固化材として、製鋼スラグ、セメントおよび高炉スラグ微粉末の内のいずれか1つもしくは2つまたはすべてを混合する請求項5乃至7のいずれかに記載の藻場造成方法。
【請求項9】
生育が期待される海藻の種類に基づいて前記基盤材料の目標強度を設定し、
配合試験により前記浚渫土と前記固化材との配合量を前記目標強度に基づいて決定する請求項5乃至8のいずれかに記載の藻場造成方法。
【請求項10】
海藻の生長を促進する栄養塩を供給する栄養塩供給材料を混合する請求項5乃至9のいずれかに記載の藻場造成方法。
【請求項11】
前記材令28日強度を補助的に増加するための、前記固化材以外の強度増加補助材料を混合する請求項5乃至10のいずれかに記載の藻場造成方法。
【請求項12】
固化処理土によって造成された浅場の上に前記着生基盤を配置する、または、前記浅場の表層部分を前記着生基盤に置き換える請求項5乃至11のいずれかに記載の藻場造成方法。
【請求項13】
前記着生基盤を、原地盤上に広く平坦に形成する、マウンド状に盛り上げて形成する、または、護岸の裏込石上に形成する請求項5乃至11のいずれかに記載の藻場造成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻が着生できる海藻の着生基盤および藻場造成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海藻の着生基盤として天然石やコンクリートブロック、鉄鋼スラグ水和固化体、浚渫土固化体等が使用されているが、これは、砂泥域では海藻の遊走子の着生が困難であり、また、波浪によって動揺する転石には大型藻類が着生しにくいためである。また、カルシア改質土等による浅場造成の場合、カルシア改質土上に被覆石の配置や覆砂が行われている。被覆石を使用した場合には海藻が、覆砂を行った場合には海草(アマモ等)が生育する。
【0003】
海草のアマモに関しては、特許文献1が浚渫土に固化促進材を混合して20~500kN/mの改質土を海底に敷設する方法を開示する。
【0004】
一方、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量と吸収量とを均衡させるカーボンニュートラルの達成のために、温室効果ガスの排出量の削減並びに吸収作用の保全及び強化が必要であるとされている(非特許文献1参照)。排出された二酸化炭素は、その一部が海藻や植物プランクトンの光合成により吸収されるが、その吸収量は森林の二酸化炭素の吸収量よりも多いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-100103号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「カーボンニュートラルとは」環境省HP https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
【非特許文献2】川俣茂・木元克則「波浪による海藻の流失に関する研究」https://www.mf21.or.jp/suisankiban_hokoku/data/pdf/z0000629.pdf
【非特許文献3】北原繁志・今林弘・岩成正勝「人工動揺基質へのホソメコンブ固着力に関する研究」日本水産工学会学術講演会講演論文集 2008,p.47-50 https://thesis.ceri.go.jp/db/files/00105090001.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
海草のアマモは底質中に節のある長い地下茎とヒゲ状の根を伸ばすため、強度が大きい条件では繁茂することができない。これに対し、石材やコンクリートブロックに付着器によって着生する海藻では、より高強度な着生基盤が必要となる。
【0008】
海藻の生育要因としては、物理的要因(光、付着基質、水温等)、化学的要因(塩分、栄養塩類等)、動力学的要因(水の動ぎ、干出等)、生物的要因(藻食動物による食害等)等があり、その他の環境条件が適していても、基盤強度が不足する場合、海藻が分布しないことになる。
【0009】
また、ウニ等による海草・海藻の食害による磯焼けが問題となっており(非特許文献3参照)、柱状礁のような柱状等の形状の工夫やウニフェンスの設置、ウニの駆除等が行われているが、コストや効率の点で課題がある。一方、カーボンニュートラルの実現に向けて、二酸化炭素排出量の多いコンクリートではなく、二酸化炭素排出量が少ない材料が求められている。
【0010】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、海藻が着生し生育できる基盤強度を有し、かつ、藻食動物による海藻の食害を抑制し、海藻が効率的に分布可能であるとともに、カーボンニュートラルの実現に寄与可能な海藻の着生基盤および藻場造成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための海藻の着生基盤は、浚渫土と固化材とを混合し、500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を発現する基盤材料が水中に投入されて設置され、次式から求められる空隙率が最大で20%である。
空隙率%=(1-前記基盤材料の投入量m/前記基盤材料による体積m)×100
【0012】
この海藻の着生基盤によれば、浚渫土と固化材とを混合した基盤材料が500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を有することで、かかる基盤材料が水中投入されて設置された着生基盤は、海藻が着生し生育できる充分な基盤強度を有するとともに、着生基盤の空隙率が0~20%であり、最大で20%であることで、ウニ等の藻食動物が棲息する場所が少なくなり、ウニ等による海藻の食害を抑制でき、海藻が効率的に分布できる。また、二酸化炭素を吸収する海藻が分布できるので、カーボンニュートラルの実現に寄与できる。なお、基盤材料の水中投入は、基盤材料の固化前でも固化後でもよい。
【0013】
上記海藻の着生基盤において、前記固化材は、製鋼スラグ、セメントおよび高炉スラグ微粉末の内のいずれか1つもしくは2つまたはすべてであることが好ましい。
【0014】
前記基盤材料に由来する二酸化炭素排出量がコンクリート材料に由来する二酸化炭素排出量の1/2以下となるように前記浚渫土と前記固化材とが配合されていることが好ましい。これにより、着生基盤の材料由来の二酸化炭素の排出量を抑制できるので、カーボンニュートラルの実現に寄与できる。
【0015】
前記固化材の補助材としてフライアッシュが配合されていてもよい。なお、固化材である製鋼スラグ・高炉スラグ微粉末、および、フライアッシュは、製鉄や製紙や発電の副産物であり、材料の二酸化炭素の排出量は小さいので、カーボンニュートラルの実現に寄与できる。
【0016】
上記目的を達成するための藻場造成方法は、浚渫土と固化材とを混合し、500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を発現する基盤材料を作製する工程と、前記基盤材料を固化前に水中に投入する工程と、前記基盤材料により、次式から求められる空隙率が最大で20%である海藻の着生基盤を設置する工程と、を含む。
空隙率%=(1-前記基盤材料の投入量m/前記基盤材料による体積m)×100
【0017】
この藻場造成方法によれば、浚渫土と固化材とを混合し、500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を発現する基盤材料を作製し、この基盤材料が水中投入されて設置された着生基盤は充分な基盤強度を有し、海藻が着生し生育できる藻場を造成できるとともに、着生基盤の空隙率が0~20%であり、最大で20%であることで、ウニ等の藻食動物が少なくなり、ウニ等による海藻の食害を抑制できることから、海藻が効率的に分布できる藻場となる。また、二酸化炭素を吸収する海藻が分布できるので、カーボンニュートラルの実現に寄与できる。
【0018】
上記藻場造成方法において、前記投入された固化前の基盤材料を押しながら均すことで前記空隙率を低下させることが好ましい。
【0019】
前記基盤材料の固化前の水中投入工程を省略し、前記作製した基盤材料を、養生し固化してから水中に投入するようにしてもよい。
【0020】
前記固化材として、製鋼スラグ、セメントおよび高炉スラグ微粉末の内のいずれか1つもしくは2つまたはすべてを混合することが好ましい。
【0021】
生育が期待される海藻の種類に基づいて前記基盤材料の目標強度を設定し、配合試験により前記浚渫土と前記固化材との配合量を前記目標強度に基づいて決定することが好ましい。海藻の種類によって必要な固着力が異なるので、周辺海域の環境条件や海藻分布、対象地点の水深等をもとに対象とする海藻を定め、目標強度を設定し、配合試験を行い、目標強度を満たすように浚渫土と固化材との配合量を決定することで、生育が期待される海藻の藻場を効率的に造成することができる。
【0022】
海藻の生長を促進する栄養塩を供給する栄養塩供給材料を混合することが好ましい。これにより、海藻の生育を促進し、藻場の効率的な造成に寄与できる。かかる栄養塩供給材料として、たとえば、堆肥、木チップ、竹チップ等がある。
【0023】
前記材令28日強度を補助的に増加するための、前記固化材以外の強度増加補助材料を混合することが好ましい。これにより、固化材の配合量を低減することができる。かかる強度増加補助材料として、短繊維、木毛等がある。
【0024】
カルシア改質土等の固化処理土によって造成された浅場の上に前記着生基盤を配置する、または、前記浅場の表層部分を前記着生基盤に置き換えるようにしてもよい。
【0025】
前記着生基盤を、原地盤上に広く平坦に形成する、マウンド状に盛り上げて形成する、または、護岸の裏込石上に形成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の海藻の着生基盤および藻場造成方法によれば、海藻が着生し生育できる基盤強度を有する着生基盤を形成できかつウニ等の藻食動物による海藻の食害を抑制し、海藻・藻場が効率的に分布できるとともに、カーボンニュートラルの実現に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態による海藻の着生基盤を概略的に示す側面図(a)(b)である。
図2】本実施形態による藻場造成方法の各工程S01~S10を説明するためのフローチャートである。
図3】本実施形態による藻場造成方法の別の例を説明するためのフローチャートである。
図4】本実施形態による着生基盤を浅場の上に形成する例を示す概略図(a)(b)である。
図5】本実施形態による着生基盤を護岸の裏込石上に形成する例(a)および護岸の裏込石側に形成する例(b)(c)を示す概略図である。
図6】実験例1の投入後の全景写真(a)、近景写真(b)、3Dスキャナーによる外観図(c)、径300mmの供試体のCTスキャン測定例の写真(d)および同じく別のCTスキャン測定例の写真(e)である。
図7】実験例2の投入後の全景写真(a)、近景写真(b)、3Dスキャナーによる外観図(c)、径300mmの供試体のCTスキャン測定例の写真(d)および同じく別のCTスキャン測定例の写真(e)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態による海藻の着生基盤を概略的に示す側面図(a)(b)である。
【0029】
まず、本実施形態の海藻の着生基盤について図1(a)(b)を参照して説明する。図1(a)(b)のように、海藻の着生基盤10A,10Bは、浚渫土と固化材を混合し、500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を発現する基盤材料を作製し、固化前の基盤材料が水中に投入されて固化することで原地盤G上に形成され、海藻SWが着生し生育している。生育する海藻SWとしては、コンブ、アラメ・カジメ、ホンダワラ等がある。なお、投入後の着生基盤10A,10Bは、その上部が平坦である必要はなく、多少の凹凸があった方が海藻SWの付着上好ましい。
【0030】
図1(a)の海藻の着生基盤10Aは、原地盤G上に広く略平面状に形成されている。また、図1(b)の海藻の着生基盤10Bは、原地盤G上にマウンド状に盛り上げて形成されている。なお、着生基盤10A,10Bは、固化後の基盤材料が水中投入されて原地盤G上に設置されるようにしてもよい。
【0031】
固化材として、製鋼スラグ、セメント、高炉スラグ微粉末のいずれか1つ、2つまたはすべてを使用することができる。固化材の補助材としてフライアッシュを混合してもよい。基盤材料に由来する二酸化炭素排出量がコンクリート材料に由来する二酸化炭素排出量の1/2以下となるように浚渫土と固化材とを配合する。これにより、カーボンニュートラルの実現に寄与できる。
【0032】
なお、製鋼スラグ、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等の固化材料は、製鉄や製紙や発電の副産物であり、二酸化炭素排出原単位が小さいので、二酸化炭素排出原単位の大きいセメントに変えて、かかる固化材料を配合した基盤材料は、二酸化炭素排出量の少ない材料となり、カーボンニュートラルの実現に寄与できる。
【0033】
また、原地盤G上に形成された海藻の着生基盤10A,10Bは、その空隙率が0~20%である。空隙率は、基盤材料による総体積に対する隙間の体積割合であり、空隙率が大きくなると、隙間が増える。空隙率20%は、たとえば、テトラポッド50%、礫40%程度よりもかなり小さい値である。また、流動性が高い混合直後のカルシア改質土は空隙率0%である。空隙率が20%を越えて大きくなると、隙間が増える結果、ウニ等の藻食動物の隠れ場所となって、ウニ等が棲息し易くなる。なお、ウニの殻径を考えると5cm以上の隙間が少ない方がよい。
【0034】
着生基盤の空隙率は、固化前の基盤材料の水中投入や成形により調整できる。図1(a)(b)の着生基盤10A,10Bは空隙率が比較的小さいが、空隙率が最大で20%であることで、着生基盤10A,10Bにおいてウニ等の藻食動物の隠れ場所が少なくなり、ウニ等が棲息し難くなり、ウニ等による海藻の食害を抑制できる。また、基盤材料を固化後に水中投入する場合の着生基盤の空隙率の調整は、たとえば、図1(a)(b)の着生基盤10A,10Bよりも小さい基盤材料を投入して空隙(隙間)を埋めることによって行うことができる。
【0035】
水中投入後の着生基盤の空隙率は、具体的には投入後の地形を3Dスキャナー等により測定し、その測定体積mを基盤材料の体積mとし、次式(1)から求めることができる。
空隙率%=(1-基盤材料の投入量m/基盤材料による体積m)×100 (1)
【0036】
固化材等の想定添加量は以下の通りである。
・製鋼スラグ:10~40vol%(表乾密度3.0g/cmとすると300~1200kg/m
・セメント:50~400kg/m
・高炉スラグ微粉末:80~650kg/m
・フライアッシュ:50~300kg/m
・浚渫土の含水比:1.0~3.0wL程度(wL:液性限界)
【0037】
海藻としてコンブを例とし着生基盤の目標強度の設定例を説明する。コンブの固着力を最大で80Nとし(非特許文献2,3を参考に設定)、付着器面積を4cm×4cmとすると、単位面積あたりの固着力は50kN/mとなる。この値以上の力がコンブに働くと、コンブが着生基盤から剥離することになる。このため、着生基盤はこれ以上の強度を発現するようにすることが必要である。着生基盤がこれ未満の強度であると、海藻が付着した状態で着生基盤の表面が剥離し流出することになる。海藻が付着した状態の着生基盤には、波や流れの影響により引張力が働くことになるが、引張強度=圧縮強度×1/10とすると(下記参考文献1,2参照)、必要な強度は50kN/m×10=500kN/mとなる。また、流れの比較的早い岩礁域に分布するガラモやアラメの固着力は大きく、245N以上との報告があるが、同様に必要強度を計算することができる。
参考文献1:http://kentiku-kouzou.jp/2kyu-cocreteasyukuhipari.html
参考文献2:http://mizushima-cg.com/shiratori/strengthoutline_0003.pdf
【0038】
目標強度の上限の9800kN/mは、準硬石相当の強度(9.8N/mm)を想定したものである。通常の人工石では、9.8N/mm以上の強度発現を目標とすることが多いが(下記参考文献3,4参照)、発現強度を大きくすると、セメント等の固化材の混合比率を増やす必要があり、材料由来の二酸化炭素排出量が増えることになり、カーボンニュートラルの実現上好ましくない。
参考文献3:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejoe/71/2/71_I_1173/_pdf
参考文献4:
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/2012/67-06/67-06-0325.pdf
【0039】
本実施形態による海藻の着生基盤によれば、浚渫土と固化材とを混合した基盤材料が500kN/m以上、9800kN/m以下の材令28日強度を有することで、かかる基盤材料が水中投入されて設置された着生基盤10A,10Bは、海藻が着生し生育できる充分な基盤強度を有するとともに、着生基盤10A,10Bの空隙率が0~20%であり、最大で20%であることで、ウニ等の藻食動物の隠れ場所が少なくなって、ウニ等が棲息し難くなり、ウニ等による海藻の食害を抑制でき、海藻が効率的に分布できる。また、二酸化炭素を吸収する海藻を効率的に生育し分布できるので、カーボンニュートラルの実現に寄与できる。
【0040】
次に、本実施形態による藻場造成方法について図2図3を参照して説明する。図2は、本実施形態による藻場造成方法の各工程S01~S11を説明するためのフローチャートである。図3は、本実施形態による藻場造成方法の別の例を説明するためのフローチャートである。
【0041】
図2のように、まず、藻場の造成対象地の環境条件(水深、水温、波浪条件、ウニ等の藻食生物の生息状況等)を文献調査や実地調査等により確認する(S01)。確認した造成対象地の環境条件と生育を期待する海藻の種類に基づいて海藻・基盤形状を選定する(S02)。
【0042】
次に、海藻の種類によって必要な固着力が異なるので、選定した海藻の種類に基づいて基盤材料の目標材令28日強度を設定する(S03)。かかる目標材令28日強度は、500kN/m以上、9800kN/m以下の範囲内である。また、着生基盤の形状(好適水深までの嵩上げ、隙間の少ない構造等)を設定する。
【0043】
次に、含水比1.0~3.0wL程度の浚渫土と、固化材としての製鋼スラグ、セメント、高炉スラグ微粉末と、固化材の補助材としてのフライアッシュとの配合を変えた配合試験を行う(S04)。
【0044】
配合試験により得た28日養生後の供試体の一軸圧縮強さ試験をJIS A1216:2009に基づいて、または圧縮強度試験をJIS A 1108 に基づいて行い、工程S03で設定した目標材令28日強度を越えているか否かを判断し(S05)、目標材令28日強度に達していない場合(S05のNo)、配合を変えて配合試験(S04)を行う。
【0045】
目標材令28日強度を越えている場合(S05のYes)、次に、その配合による基盤材料に由来する二酸化炭素排出量がコンクリート材料に由来する二酸化炭素排出量の1/2以下であるか否かを確認し(S06)、1/2を越えている場合(S06のNo)、配合を変えて配合試験(S04)を行う。1/2以下である場合(S06のYes)、その配合に決定する(S07)。このようにして、目標材令28日強度を満たすとともに基盤材料に由来する二酸化炭素排出量がコンクリート材料に由来する二酸化炭素排出量の1/2以下である配合を決定する。なお、二酸化炭素排出量の確認工程S06は、配合試験工程S04において行うようにしてもよい。
【0046】
次に、決定した配合により浚渫土と固化材とを混合し、基盤材料を作製する(S08)。必要な場合フライアッシュも混合する。混合は、たとえば、ミキサ混合やバックホウ混合等の工法を用いて行うことができる。
【0047】
次に、固化前の基盤材料を藻場の造成対象地に水中投入する(S09)。かかる固化前の基盤材料の水中投入は、グラブ、バックホウのバケット、トレミー管等を使用して行うことができる。
【0048】
次に、投入された基盤材料を所定期間水中養生し(S10)、海藻の着生基盤を形成する(S11)。このようにして、たとえば、図1(a)のような着生基盤10Aを原地盤G上に広く平坦に形成することができる。
【0049】
上述のような固化前の基盤材料の投入により、自重で材料が変形し、空隙が少ない着生基盤を形成できる。また、グラブ等を使用して水中投入後の基盤材料を押しながら均すことにより、さらに空隙を減らすことができる。
【0050】
図2では基盤材料を固化前に水中投入したが、図3のように、固化後に水中投入してもよい。すなわち、図2と同様にして決定された配合により基盤材料を作製し(図2の工程S08)、気中で養生し(S21)、固化する(S22)。次に、固化した基盤材料を水中投入し(S23)、着生基盤を形成する(S24)。このようにして、たとえば、図1(b)のような着生基盤10Bを原地盤G上にマウンド状に盛り上げて形成することができる。
【0051】
図2図3のようにして形成される着生基盤によれば、海藻が着生し生育できる充分な基盤強度を有し、着生基盤の空隙率が0~20%であり、最大で20%であることで、ウニ等の藻食動物の隠れ場所が少なくなって、ウニ等が棲息し難くなり、ウニ等による海藻の食害を抑制でき、海藻が効率的に分布できるので、藻場を対象地に効率的に造成することができる。また、二酸化炭素を吸収する海藻を効率的に生育し分布できる藻場を造成できるので、カーボンニュートラルの実現に寄与できる。
【0052】
次に、海藻の着生基盤の設置場所について別の例を図4図5を参照して説明する。図4は、本実施形態による着生基盤を浅場の上に形成する例を示す概略図(a)(b)である。図5は、本実施形態による着生基盤を護岸の裏込石上に形成する例(a)および護岸の裏込石側に形成する例(b)(c)を示す概略図である。
【0053】
図4(a)のように、たとえば、カルシア改質土のような別の固化処理土により原地盤G上に造成された浅場SHの上部SHaに覆砂の代替材として図1(a)と同様の着生基盤20Aを配置する。また、図4(b)のように、浅場SHの上部SHaに覆砂の代替材として図1(b)と同様の着生基盤20Bを配置してもよい。なお、図4(a)(b)の浅場SHの表層部分を着生基盤20A,20Bに置き換えるようにしてもよい。着生基盤20A,20Bは基盤材料の固化前または固化後の水中投入であってよい。かかる着生基盤20A,20Bにより藻場を対象地に効率的に造成することができる。
【0054】
図5(a)のように、原地盤G上に構築された基礎捨石M上に設置されたケーソンから構成された護岸KSには陸側に裏込石BSが配置されているが、この裏込石BSの斜面に沿って図1(a)と同様の着生基盤30を形成する。着生基盤30は、裏込石BSの斜面上の空隙を塞ぐ。また、図5(b)のように、護岸KSの裏込石BSのさらに陸側の原地盤G上にたとえばカルシア改質土等からなる固化処理土層50が造成され、その固化処理土層50上に図1(a)と同様の着生基盤40Aを形成する。また、同じく固化処理土層50上に図1(b)と同様の着生基盤40Bを形成する。着生基盤30,40A,40Bは基盤材料の固化前または固化後の水中投入であってよい。かかる着生基盤30,40A,40Bにより藻場を対象地に効率的に造成することができる。
【0055】
また、本実施形態による海藻の着底基盤には、海藻の生長を促進する栄養塩を供給する堆肥、木チップ、竹チップ等の栄養塩供給材料をさらに混合してもよく、これにより、海藻の生育を促進し、藻場の効率的な造成に寄与できる。
【0056】
また、着底基盤の強度を補助的に増加するための、固化材以外の短繊維、木毛等の強度増加補助材料をさらに混合し、固化材の配合量を低減することができる。
【0057】
(配合試験)
次の表1に示すケース1~8について配合試験を行い、その配合試験結果を表1に示す。ケース1~5とケース6~8は異なる浚渫土を使用し、ケース1~5の浚渫土は液性限界(wL)120.6%、含水比200%(ケース5のみ180%)であり、ケース6~8の浚渫土は液性限界(wL)74.5%、含水比111.8%である。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、全ケースで500kN/m以上の強度が得られたが、ケース1、3は強度が9800kN/mを越え、過剰であるため、セメント添加量を減らすか他の配合を選択することになる。ケース2,5~8のように、通常の人工石(9800kN/m以上)よりも低い発現強度とするため、浚渫土の使用量を増やすことが可能となる。また、ケース1は、二酸化炭素排出量が生コンクリートの排出原単位316kg-CO/mの50%以上となっているため、セメント添加量を見直すか他の配合を選択する必要がある。ケース1のように、二酸化炭素排出原単位の多いセメントを使用した場合、着生基盤へ着生した海藻によって二酸化炭素が固定されたとしても、着生基盤の材料製造時に排出した二酸化炭素量を固定するまでには長期間必要となる。
【0060】
次に、本発明による水中投入実験例について説明するが、本発明はかかる実験例に限定されるものではない。
【0061】
実験条件
(1)浚渫土の性状:含水比79.5%、液性限界53%、細粒分含有率73.7%
(2)カルシア改質土:浚渫土混合率 70vol%、カルシア改質材(製鋼スラグ)混合率 30vol%
(3)投入量:30m/各実験例
(4)投入方法:水深5.5mの場所にバケット(0.8m)による投入
(5)空隙率の測定:3Dスキャナーにより測定した体積mを体積mとして上記式(1)により算出、表面の凹凸はカウントせず
【0062】
実験結果
実験例1としてスランプ2.7cmの固化前のカルシア改質土をバケット降下後水底付近で投入した。図6に投入後の全景写真(a)、近景写真(b)、3Dスキャナーによる外観図(c)、径300mmの供試体のCTスキャン測定例の写真(d)および同じく別のCTスキャン測定例の写真(e)を示す。3Dスキャナーにより測定した空隙率は11%であり、図6(d)(e)のCTスキャン測定例の写真から、空隙は長さ10cm未満、幅5cm未満、不連続であった。
【0063】
実験例2としてスランプ1.9cmの固化前のカルシア改質土をバケットから水面付近で投入した。図7に投入後の全景写真(a)、近景写真(b)、3Dスキャナーによる外観図(c)、径300mmの供試体のCTスキャン測定例の写真(d)および同じく別のCTスキャン測定例の写真(e)を示す。3Dスキャナーにより測定した空隙率は16%であり、図6(d)(e)のCTスキャン測定例の写真から、空隙は長さ10cm未満、幅5cm未満、不連続であった。
【0064】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の海藻の着生基盤および藻場造成方法によれば、海藻が着生し生育できる基盤強度を有する着生基盤を形成できかつウニ等の藻食動物による海藻の食害を抑制し、藻場が効率的に分布し、二酸化炭素を吸収する海藻が効率的に分布でき、また、基盤材料に由来する二酸化炭素排出量を低減できることから、カーボンニュートラル達成に寄与することができる。
【符号の説明】
【0066】
10A,10B 着生基盤
20A,20B 着生基盤
30,40A,40B 着生基盤
50 固化処理土層
BS 裏込石
G 原地盤
KS 護岸
M 基礎捨石
SH 浅場
SW 海藻
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7