(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110224
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置の評価システム、及び、三次元積層造形装置の評価方法
(51)【国際特許分類】
B22F 12/90 20210101AFI20230802BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20230802BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20230802BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230802BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20230802BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230802BHJP
B22F 10/85 20210101ALI20230802BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230802BHJP
【FI】
B22F12/90
B29C64/153
B29C64/393
B33Y30/00
B33Y50/02
B33Y10/00
B22F10/85
B22F10/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011528
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】成田 竜一
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AC04
4F213AP06
4F213AP11
4F213AQ01
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】パウダーベッドに形成される溶融池の状態に基づいて造形品質を評価する。
【解決手段】本願はパウダーベッドに加工用ビームを照射して積層造形を行う三次元積層造形装置の評価システムに関する。本システムは、計測部と、造形品質評価部とを備える。計測部は、パウダーベッドの加工用ビームの照射位置に形成される溶融池を計測する。造形品質評価部は、パウダーベッドの表面に対する溶融池の深さ、又は、パウダーベッドの表面から所定深さにおける溶融池の幅の少なくとも一方に基づいて、造形品質を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウダーベッドに加工用ビームを照射して積層造形を行う三次元積層造形装置の評価システムであって、
前記パウダーベッドの前記加工用ビームの照射位置に形成される溶融池を計測するための計測部と、
前記パウダーベッドの表面に対する前記溶融池の深さ、又は、前記パウダーベッドの表面から所定深さにおける前記溶融池の幅の少なくとも一方に基づいて、造形品質を評価するための造形品質評価部と、
を備える、三次元積層造形装置の評価システム。
【請求項2】
前記溶融池の深さが許容範囲外である場合、前記照射位置に前記加工用ビームを再照射、又は、前記積層造形を中断する、請求項1に記載の三次元積層造形装置の評価システム。
【請求項3】
前記造形品質評価部は、前記溶融池の幅が、前記パウダーベッドの表面における隣接する2つのビード間のハッチ間隔より小さい場合に、内部に未溶融領域があると評価する、請求項1又は2に記載の三次元積層造形装置の評価システム。
【請求項4】
前記計測部は、OCT計測技術を用いて前記照射位置に対して、前記加工用ビームと独立した光学系を有する計測用ビームを照射することにより、前記溶融池を計測する、請求項1から3のいずれか一項に記載の三次元積層造形装置の評価システム。
【請求項5】
前記計測部は、OCT計測技術を用いて前記照射位置に対して、前記加工用ビームと共通した光学系を有する計測用ビームを照射することにより、前記溶融池を計測する、請求項1から3のいずれか一項に記載の三次元積層造形装置の評価システム。
【請求項6】
前記加工用ビーム及び前記計測用ビームの照射位置が一致するように、前記加工用ビーム、及び、前記計測用ビームの少なくとも一方の収差を補正するための収差補正部を更に備える、請求項4又は5に記載の三次元積層造形装置の評価システム。
【請求項7】
パウダーベッドに加工用ビームを照射して積層造形を行う三次元積層造形装置の評価方法であって、
前記パウダーベッドの前記加工用ビームの照射位置に形成される溶融池を計測するステップと、
前記パウダーベッドの表面に対する前記溶融池の深さ、又は、前記パウダーベッドの表面から所定深さにおける前記溶融池の幅の少なくとも一方に基づいて、造形品質を評価するステップと、
を備える、三次元積層造形装置の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元積層造形装置の評価システム、及び、三次元積層造形装置の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状に粉末を敷設されてなるパウダーベッドに、光ビームや電子ビーム等の加工用ビームを照射することによって、三次元形状物を積層造形するための三次元積層造形技術が知られている。このような三次元積層造形技術では、粉末を敷設してパウダーベッドを形成する工程と、当該パウダーベッドに加工用ビームを照射して焼結層を形成する工程とを繰り返し実施することで、複数の焼結層が一体として積層されることで三次元形状物が製造される。
【0003】
この種の三次元積層造形技術では、多層にわたって造形が繰り返し行われるため、造形完了までに比較的長い時間を要する。そのため、造形途中に異常が生じたまま造形を進めてしまうと、積層数が増加するに従って欠陥が成長するなど、完成した造形品に不良をもたらすおそれがあり、造形中に造形品質を評価することが望まれる。例えば特許文献1では、造形中におけるパウダーベッドを形状測定することにより、パウダーベッドの平坦性が十分でない等の事象が検知された場合に、異常として判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2019/030837号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三次元積層造形技術では、パウダーベッドに対して加工用ビームを照射することにより、少なくとも1層以上の厚さにわたって溶け込むように溶融池を形成して造形が行われる。溶融池はパウダーベッドの表面から所定の深さにわたって形成されるため、上記特許文献1のようなパウダーベッドの表面の形状測定では、加工用ビームによる溶融池の形成が適切に行われているか評価することができない。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、パウダーベッドに形成される溶融池の状態に基づいて造形品質を評価可能な三次元積層造形装置の評価システム、及び、三次元積層造形装置の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る三次元積層造形装置の評価システムは、上記課題を解決するために、
パウダーベッドに加工用ビームを照射して積層造形を行う三次元積層造形装置の評価システムであって、
前記パウダーベッドの前記加工用ビームの照射位置に形成される溶融池を計測するための計測部と、
前記パウダーベッドの表面に対する前記溶融池の深さ、又は、前記パウダーベッドの表面から所定深さにおける前記溶融池の幅の少なくとも一方に基づいて、造形品質を評価するための造形品質評価部と、
を備える。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る三次元積層造形装置の評価方法は、上記課題を解決するために、
パウダーベッドに加工用ビームを照射して積層造形を行う三次元積層造形装置の評価方法であって、
前記パウダーベッドの前記加工用ビームの照射位置に形成される溶融池を計測するステップと、
前記パウダーベッドの表面に対する前記溶融池の深さ、又は、前記パウダーベッドの表面から所定深さにおける前記溶融池の幅の少なくとも一方に基づいて、造形品質を評価するステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、パウダーベッドに形成される溶融池の状態に基づいて造形品質を評価可能な三次元積層造形装置の評価システム、及び、三次元積層造形装置の評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る三次元積層造形装置の全体構成図である。
【
図2】
図1の計測部の一構成例を示す模式図である。
【
図3】
図2のパウダーベッドの表面上における加工用ビーム及び計測用ビームの走査経路を上方から示す図である。
【
図4】
図3の基準点からの距離に対する加工用ビーム及び計測用ビームの収差を示すグラフである。
【
図5】
図1の計測部の他の構成例を示す模式図である。
【
図6】
図1の計測部の他の構成例を示す模式図である。
【
図7】
図1の計測部の他の構成例を示す模式図である。
【
図8】一実施形態に係る評価方法を示すフローチャートである。
【
図9】パウダーベッドに形成された溶融池の幾つかの形成例を模式的に示す断面図である。
【
図10】パウダーベッドの表面上における加工用ビームの走査経路を上方から模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
まず少なくとも一実施形態に係る評価システムの評価対象である三次元積層造形装置1について説明する。
図1は、一実施形態に係る三次元積層造形装置1の全体構成図である。
【0013】
三次元積層造形装置1は、粉末を層状に敷設してなるパウダーベッドに対して加工用ビームを照射することにより、積層造形によって三次元形状物を製造するための装置である。三次元積層造形装置1は、三次元形状物が造形される土台となるベースプレート2を備える。ベースプレート2は、XY面に垂直なZ方向(鉛直方向)に沿った中心軸を有する略円筒形状のシリンダ4の内側に昇降可能に配置されている。ベースプレート2上には、後述するように粉末が敷設されることによりパウダーベッド8が形成される。パウダーベッド8は、造形作業の間、各サイクルにてベースプレート2が下降する毎に、上層側に粉末が敷設されることにより新たに形成される。
【0014】
尚、本実施形態の三次元積層造形装置1では加工用ビームとして光ビームを照射する場合を示すが、電子ビーム等の他の形態の加工用ビームを使用する場合にも、本発明の思想は同様に適用可能である。
【0015】
三次元積層造形装置1は、ベースプレート2上に粉末を敷設してパウダーベッド8を形成するための粉末敷設ユニット10を備える。粉末敷設ユニット10は、ベースプレート2の上面側に粉末を供給し、その表面を平坦化することによって、ベースプレート2の上面全体に亘って略均一な厚さを有する層状のパウダーベッド8を形成する。各サイクルで形成されたパウダーベッド8には、後述する加工用ビーム照射ユニット14から加工用ビームが照射されることによって選択的に固化され、次サイクルにて、粉末敷設ユニット10によって再び上層側に粉末が敷設されることで、新たなパウダーベッド8が形成されることによって、層状に積み重ねられていく。
【0016】
尚、粉末敷設ユニット10から供給される粉末は、三次元形状物の原料となる粉末状物質であり、例えば鉄、銅、アルミニウム又はチタン等の金属材料や、セラミック等の非金属材料を広く採用可能である。
【0017】
三次元積層造形装置1は、パウダーベッド8を選択的に固化するようにパウダーベッド8に加工用ビームを照射するための加工用ビーム照射ユニット14を備える。加工用ビーム照射ユニット14から照射される加工用ビームは、パウダーベッド8上にて、その表面8a(XY面)に沿って二次元的に走査される。このような加工用ビームの二次元走査は、造形目的となる三次元形状物に応じたパターンで実施される。
【0018】
このような構成を有する三次元積層造形装置1では、各サイクルにおいて、粉末敷設ユニット10によってベースプレート2上に粉末を敷設することでパウダーベッド8が形成され、当該パウダーベッド8に対して加工用ビーム照射ユニット14から加工用ビームを照射しながら二次元走査することで、パウダーベッド8に含まれる粉末が選択的に固化される。造形作業では、このようなサイクルが繰り返し実施されることで、固化された造形層15が積層され、目的となる三次元形状物が製造される。
【0019】
また三次元積層造形装置1は、パウダーベッド8に加工用ビームを照射することで行われる積層造形について造形品質を評価するための評価システム100を備える。評価システム100は、計測部110と、造形品質評価部120とを有する。
【0020】
計測部110は、パウダーベッド8の加工用ビームの照射位置に形成される溶融池を計測するための構成である。前述したように、パウダーベッド8に加工用ビームが照射されると、照射位置に敷設された粉末が固化されるが、その過程において照射位置における粉末が溶融することで溶融池が形成される。計測部110は、溶融池に対して計測用ビームを照射することにより溶融池を計測であり、パウダーベッド8の表面に対する溶融池のZ方向に沿った深さ、及び、任意の深さにおける溶融池の幅(XY平面に沿った幅)を計測可能である。
【0021】
造形品質評価部120は、計測部110の計測結果に基づいて造形品質を評価するための構成である。造形品質評価部120は、計測部110で計測された溶融池の形状(深さや幅)に基づいて、パウダーベッド8に加工用ビームを照射することで適切な造形が行われているかを品質評価する。
【0022】
このような造形品質評価部120は、例えば、コンピュータのような演算処理装置として構成され、より具体的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0023】
続いて前述した計測部110の幾つかの構成例について具体的に説明する。計測部110は、例えば、光干渉断層撮影(OCT:Optical Coherence Tomography)計測技術を用いた溶融池の計測が可能である。OCT計測に関する基本的な計測原理については公知の例に倣うが、計測部110は、波長が可視~近赤外領域(例えば800-900nm)である計測用ビームを取り扱う。
【0024】
ここで
図2は
図1の計測部110の一構成例を示す模式図である。この構成例では、計測部110は前述の加工用ビーム照射ユニット14と一体的に構成されており、加工用ビーム源20から出力された加工用ビームB1、及び、計測用ビーム源22から出力される計測用ビームB2は、それぞれ共通の光学系24を介してパウダーベッド8に照射される。光学系24は、ハーフミラー26と、ガルバノスキャナ28とを含む。加工用ビーム源20から出力される加工用ビームB1、及び、計測用ビーム源22から出力される計測用ビームB2は、ハーフミラー26を通過した後、ガルバノスキャナ28によって、XY平面に沿って広がるパウダーベッド8の表面上を走査される。
【0025】
尚、パウダーベッド8の表面上における加工用ビームB1の走査経路は、予め加工プログラムによって規定されており、ガルバノスキャナ28は不図示の制御装置によって当該走査経路が実現されるように駆動される。
【0026】
計測用ビームB2は、加工用ビームB1と共通の光学系24を有することで、パウダーベッド8の表面のうち加工用ビームB1の照射位置に導かれ、パウダーベッド8の表面に対して、計測用ビームB2の波長に対応する深さで侵入する。そしてパウダーベッド8からの散乱光は、ガルバノスキャナ28を介してハーフミラー26において、計測用ビームB2の一部がハーフミラー26で反射された参照用ビーム(不図示)と合波され、計測部110では、その干渉光信号を検出することで、照射位置における断層画像として溶融池を計測する。
【0027】
ここで
図3は
図2のパウダーベッド8の表面上における加工用ビームB1、及び、計測用ビームB2の走査経路を上方から示す図であり、
図4は
図3の基準点Oからの距離L(=(X
2+Y
2)
1/2)に対する加工用ビームB1及び計測用ビームB2の収差を示すグラフである。加工用ビームB1については、基準点Oからの距離Lが増加するに従って、収差Y1(色収差+歪曲収差)が次式のように単調に増加する(Aは任意の係数)。
Y1=A×L (1)
一方の計測用ビームB2については、基準点Oから所定距離L1(加工用ビームB1の照射位置と計測用ビームB2の照射位置との間隔)までの範囲では、距離Lが増加するに従って収差Y2(色収差+歪曲収差)が次式のように単調に減少する(Bは任意の係数)。
Y2=-B×L (2)
また計測用ビームB2については、所定距離L1(加工用ビームB1の照射位置と計測用ビームB2の照射位置との間隔)より離れた範囲では、距離Lが増加するに従って収差Y2(色収差+歪曲収差)が次式のように単調に増加する(B、Cは任意の係数)。
Y2=B×L+C (3)
尚、
図3では、XY平面の基準点Oとして、ガルバノスキャナ28の直下が規定されている。
【0028】
パウダーベッド8に照射される加工用ビーム及び計測用ビームは波長が異なる場合、その波長差に起因する色収差によって、加工用ビームと計測用ビームのZ方向に沿った焦点距離に少なからずズレが生じてしまう。また
図3において基準点Oから離れた位置では、加工用ビーム及び計測用ビームは、ガルバノスキャナからZ方向に対して斜めにパウダーベッド8の表面に照射されることとなるため、基準点Oの近傍に比べて、前述の色収差に加えて歪曲収差も生じてしまい、加工プログラムで規定される目標経路Rに対して少なからずズレが生じてしまう。
図4に示すように、このような色収差、及び、歪曲収差は、基準点Oからの距離が大きくなるに従って増加する傾向を示す。
【0029】
そのため
図2の構成では、加工用ビームB1、及び、計測用ビームB2は共通の光学系を有するものの、収差によって色収差や歪曲収差による影響によって、加工用ビームB1の照射位置に、計測用ビームB2を精度よく照射することは容易ではないが、このような課題は、次に示す構成例によって好適に解消可能である。
【0030】
図5は
図1の計測部110の他の構成例を示す模式図である。
図5に示す構成例では、加工用ビームB1、及び、計測用ビームB2は、互いに独立した第1光学系24A、及び、第2光学系24Bを有する。具体的には、加工用ビームB1に対応する第1光学系24Aは、第1ガルバノスキャナ28Aを備える。加工用ビーム源20から出力される加工用ビームB1は、第1ガルバノスキャナ28Aを介してパウダーベッド8に照射される。一方で計測用ビームB2に対応する第2光学系24Bは、第2ガルバノスキャナ28Bを備える。計測用ビーム源22から出力される計測用ビームB2は、第2ガルバノスキャナ28Bを介してパウダーベッド8に照射される。
【0031】
この構成例では、加工用ビームB1、及び、計測用ビームB2は、互いに独立した第1光学系24A、及び、第2光学系24Bを有するため、第1光学系24A及び第2光学系24Bが互いに同期制御することで、加工用ビームB1及び計測用ビームB2の色収差、及び、歪曲収差を軽減することができる。本実施形態では、第1光学系24Aが有する第1ガルバノスキャナ28Aを制御するための第1制御部30Aと、第2光学系24Bが有する第2ガルバノスキャナ28Bを制御するための第2制御部30Bとを同期するための同期制御部32を備える。
【0032】
例えば同期制御部32は、第1制御部30A及び第2制御部30Bを介して、加工用ビームB1及び計測用ビームB2の収差がそれぞれゼロになるように同期制御を行う。具体的には、
図4を参照して前述した式(1)~(3)で示される各収差Y1、Y2がゼロになるように、第1制御部30A及び第2制御部30Bを同期制御する。これにより、加工用ビームB1の照射位置に対して、精度よく計測用ビームB2を照射することが可能となる。
【0033】
また
図5の構成例のように、加工用ビームB1と計測用ビームB2とをそれぞれ照射するための構成を互いに独立した光学系24(第1光学系24A及び第2光学系24B)で構成する場合には、第1ガルバノスキャナ28A及び第2ガルバノスキャナ28Bは走査速度が同じ又は近い機種を用いてもよい(より好ましくは同機種にしてもよい)。更に走査速度を揃えた2つのガルバノスキャナを同期制御することで、加工用ビームB1及び計測用ビームB2を同時に共通の照射位置に導くことができるため、精度のよい溶融池のリアルタイム計測が可能となる。
【0034】
また
図5の構成例のように、加工用ビームB1と計測用ビームB2とをそれぞれ照射するための構成を互いに独立した光学系24(第1光学系24A及び第2光学系24B)で構成する場合には、計測用ビームB2に対応する第2ガルバノスキャナ28Bとして、計測用ビームB2の波長に適した仕様を選定することで、色収差の影響を排除してもよい。この場合、加工用ビームB1に対応する第1ガルバノスキャナ28Aと走査速度が異なる機種が選定されると、前述したように走査速度が同じ又は近い機種である場合に比べて加工用ビームB1と計測用ビームB2を同時に照射するためのタイミング制御が複雑になるものの、色収差を排除することで加工用ビームB1と計測用ビームB2の照射位置を一致させるための位置制御を単純化することができる。
【0035】
また
図5の構成例のように、加工用ビームB1と計測用ビームB2とをそれぞれ照射するための構成を互いに独立した光学系24(第1光学系24A及び第2光学系24B)で構成する場合には、第1光学系24A又は第2光学系24Bの少なくとも一方は、収差を補正するための収差補正光学系34を含んでもよい。
【0036】
図6は
図1の計測部110の他の構成例を示す模式図である。
図6の構成例では、互いに独立した第1光学系24A又は第2光学系24Bのうち第2光学系24Bに収差補正光学系34が設けられた場合を例示している。この構成例では、第2光学系24Bのうち第2ガルバノスキャナ28Bと計測用ビーム源22との間に、収差補正光学系34が設けられている。これにより、加工用ビームB1と計測用ビームB2とを互いに独立した光学系とした場合においても、加工用ビームB1と計測用ビームB2の収差を排除し、加工用ビームB1及び計測用ビームB2を同時に共通の照射位置に導くことで、精度のよい溶融池のリアルタイム計測が可能となる。
【0037】
また
図7は
図1の計測部110の他の構成例を示す模式図である。加工用ビームB1と計測用ビームB2とが互いに共通した光学系24を有する場合には、
図7に示すように、加工用ビームB1の光路、又は、計測用ビームB2の光路の少なくとも一方に収差補正光学系36が設けられていてもよい。この構成例では、計測用ビームB2の光路上において、計測用ビーム源22とハーフミラー26との間に収差補正光学系36が設けられている。このように収差補正光学系36を設けることで、加工用ビームB1と計測用ビームB2とが異なる波長である場合であっても、収差を排除できる。
【0038】
続いて上記構成を有する評価システム100によって実施可能な評価方法について説明する。
図8は一実施形態に係る評価方法を示すフローチャートである。
【0039】
まず粉末敷設ユニット10によってベースプレート2上に粉末を敷設することで新たなパウダーベッド8が形成され、当該パウダーベッド8に対して加工用ビーム照射ユニット14によって加工用ビームB1が照射される(ステップS1)。すなわちステップS1では、前回サイクルで形成された造形面上に粉末が敷設されることでパウダーベッド8の新たな層が形成され、当該層に対して加工用ビームB1が照射されることで溶融池が形成される。
【0040】
続いて計測部110は、加工用ビームの照射位置に対して計測用ビームB2を照射することにより、パウダーベッド8に形成される溶融池を計測する(ステップS2)。ステップS2における溶融池の計測は、例えばOCT計測技術を利用した上記各態様に係る計測部110では、溶融池の近傍における断層画像を取得することにより、溶融池のパウダーベッド8の表面に対する深さ、及び、所定の深さにおける幅を含む溶融池の形状に関する情報が計測結果として得られる。
【0041】
続いて造形品質評価部120は、ステップS2における計測結果に基づいて、造形品質を評価する(ステップS3)。ステップS3では、計測結果に基づいてパウダーベッド8の表面に形成されている溶融池の形状を特定することにより、加工用ビームB1がパウダーベッド8に照射されることで適切な造形が行われているかが評価される。
【0042】
続いて造形品質評価部120は、ステップS3の評価結果に基づいて、造形品質が正常であるか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4の判定は様々な観点から行うことができるが、例えば、溶融池の形状を特定するための各種パラメータが、予め加工プログラム等によって規定される許容範囲内にあるか否かに基づいて行われる。そして正常でないと判定された場合(ステップS4:NO)、当該状態を改善するための対策が実施される(ステップS5)。一方、正常であると判定された場合(ステップS4:YES)、次の造形サイクルに移行し、処理はステップS1に戻される。
【0043】
ここでステップS4及びS5における造形品質の評価判定と、その判定結果に応じて実施される対策について具体的に説明する。
図9はパウダーベッド8に形成された溶融池50の幾つかの形成例を模式的に示す断面図である。この例では、造形品質評価部120は、溶融池のうちパウダーベッド8の表面からZ方向に沿った溶け込み深さ(以下、適宜「深さ」と称する)THが、予め設定された許容範囲内にあるか否かに基づいて造形品質の評価を行う。許容範囲は、下限閾値THmin及び上限閾値THmaxによって規定される(すなわち許容範囲はTHmin<TH<THmaxである)。(a)ケース1~(d)ケース4に示す例では、下限閾値THminはパウダーベッド8の1層分の厚さであり、上限閾値THmaxはパウダーベッド8の5層分の厚さである場合を示しているが、これらは適宜設定可能である。
【0044】
(a)ケース1~(d)ケース4では、造形サイクルごとに敷設された多層にわたるパウダーベッド8の断面構造が示されている。まず(a)ケース1では、溶融池50の深さTHは許容範囲の下限閾値未満(THmin>TH)となっている。この場合、ステップS4では、タイプAの異常が有ると判定され、ステップS5ではタイプAの異常に予め対応する対策Aが実施される。本実施形態では、対策Aは溶融池50がある位置に対して加工用ビームB1の再照射が行われる。このように許容範囲に対して溶融池50の深さTHが小さすぎる場合には、当該位置に加工用ビームB1の再照射を行うことにより、適切な深さTHを有する溶融池50を形成し直すことができる。
【0045】
また(b)ケース2及び(c)ケース3では、溶融池50の深さTHは許容範囲内になっている(THmin<TH<THmax)となっている。この場合、ステップS4では、正常であると判定される(上記のように次の造形サイクルに移行する)。
【0046】
また(d)ケース4では、溶融池50の深さTHは許容範囲の上限閾値を超えている(THmax<TH)となっている。この場合、ステップS4では、タイプBの異常が有ると判定され、ステップS4ではタイプBの異常に予め対応する対策Bが実施される。本実施形態では、対策Bは造形サイクルの中断である。このように許容範囲に対して溶融池50の深さTHが大きすぎる場合には、進行中の積層造形を中断することで加工条件を見直したり、当該異常に起因して将来的に欠陥が進行するような事態を効果的に回避できる。
【0047】
続いて、ステップS4及びS5における造形品質の評価判定と、その判定結果に応じて実施される対策について他の例を説明する。
図10はパウダーベッド8の表面上における加工用ビームB1の走査経路を上方から模式的に示す図であり、
図11A~
図11Bは
図10のA-A線断面図である。
【0048】
本実施形態では、パウダーベッド8の表面上において、加工用ビームB1が
図10に示す経路に沿って折り返し走査されることにより、ビード60が形成される。このビード60は折り返された2つのビードが隣接するように構成される。以下の説明では、互いに隣接する2つのビード60のうち、先に形成された方を第1ビード60A、第1ビード60Aより後に形成された方を第2ビード60Bとして扱い、特に、第2ビード60B上に加工用ビームB1が照射されることで、第1ビード60A及び第2ビード60Bにわたって溶融池50が形成されている場合を想定して説明する(すなわち、第2ビード60Bに加工用ビームB1が照射されることで、隣接する第1ビード60Aが伝熱によって第2ビード60Bとともに溶融することで、第1ビード60A及び第2ビード60Bにわたって溶融池50が形成される)。
【0049】
尚、
図10では図示を省略しているが、計測部110によって照射される計測用ビームB2は、前述のように加工用ビームB1の照射位置に対して照射される。そのため、計測用ビームB2の照射位置もまた
図10に示す加工用ビームB1の走査経路と同様である。
【0050】
ステップS2では、計測部110は
図11A~
図11Bに示すように第1ビード60A及び第2ビード60Bにわたって形成される溶融池50を計測し、ステップS3では、造形品質評価部120は、ステップS2の計測結果に基づいて造形品質の評価を行う。本実施形態では、計測部110は、このような溶融池50について、パウダーベッド8の表面から所定の深さ(より具体的には、一層分(前層表面)の深さ)における幅Wを計測する。
【0051】
またステップS3では、造形品質評価部120は、ステップS2で計測された溶融池50の幅Wが基準値Ws以上であるか否かに基づいて造形品質を評価する。ここで基準値Wsは、隣接する2つのビード間のハッチ間隔(第1ビード60A及び第2ビード60Bの間隔)である。
図11Aは、溶融池50の幅Wが基準値Ws未満である場合が示されており、この場合、2つのビード間には未溶融領域Sが存在することとなり、ステップS5では造形品質が正常でないと判定される(ステップS3:NO)。この場合、続くステップS6では、前述のタイプAの異常が判定された場合と同様に、対策として、溶融池50がある位置に対して加工用ビームB1の再照射が行われることにより、適切な深さを有する溶融池50を形成し直すことができる。一方で、
図11Bに示すように、溶融池50の幅Wが基準値Ws以上である場合には、2つのビード間には未溶融領域Sは存在せず、ステップS5では造形品質が正常であると判定される(ステップS3:YES)。
【0052】
以上説明したように上述の各実施形態によれば、パウダーベッド8に加工用ビームB1が照射されることで加工用ビームB1の照射位置に形成される溶融池50を計測した結果に基づいて、溶融池のパウダーベッド8の表面に対する深さTH、又は、溶融池50の幅Wが特定される。本システムは、このように特定された溶融池50の深さTH、又は、幅Wの少なくとも一方に基づいて、パウダーベッド8の表面より内部に形成される溶融池50の状態を把握し、造形品質を好適に評価できる。
【0053】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0054】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0055】
(1)一態様に係る三次元積層造形装置の評価システムは、
パウダーベッド(8)に加工用ビーム(B1)を照射して積層造形を行う三次元積層造形装置(1)の評価システム(100)であって、
前記パウダーベッドの前記加工用ビームの照射位置に形成される溶融池(50)を計測するための計測部(110)と、
前記パウダーベッドの表面に対する前記溶融池の深さ(TH)、又は、前記パウダーベッドの表面から所定深さにおける前記溶融池の幅(W)の少なくとも一方に基づいて、造形品質を評価するための造形品質評価部(120)と、
を備える。
【0056】
上記(1)の態様によれば、パウダーベッドに加工用ビームが照射されることで加工用ビームの照射位置に形成される溶融池を計測した結果に基づいて、溶融池のパウダーベッドの表面に対する深さ、又は、溶融池の幅が特定される。本システムは、このように特定された溶融池の深さ、又は、幅の少なくとも一方に基づいて、パウダーベッドの表面より内部に形成される溶融池の状態を把握し、造形品質を好適に評価できる。
【0057】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記溶融池の深さが許容範囲外である場合、前記照射位置に前記加工用ビームを再照射、又は、前記積層造形を中断する。
【0058】
上記(2)の態様によれば、計測部によって計測されたパウダーベッドの表面に形成された溶融池の深さに基づいて、加工用ビームの再照射による造形面の補修や、積層造形の中断が行われる。例えば、溶融池の深さが小さすぎる場合には、当該位置に加工用ビームの再照射を行うことにより、適切な深さを有する溶融池を形成し直すことができ、また溶融池の深さが大きすぎる場合には、進行中の積層造形を中断することで加工条件を見直したり、当該異常に起因して将来的に欠陥が進行するような事態を効果的に回避できる。
【0059】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記造形品質評価部は、前記溶融池の幅が、前記パウダーベッドの表面における隣接する2つのビード間のハッチ間隔(Ws)より小さい場合に、内部に未溶融領域(S)があると評価する。
【0060】
上記(3)の態様によれば、パウダーベッドの表面より内部に形成される溶融池の幅を、パウダーベッドに形成されるビード間のハッチ間隔と比較することにより、パウダーベッドの内部にビード間に未溶融領域があるか否かを好適に評価できる。
【0061】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記計測部は、OCT計測技術を用いて前記照射位置に対して、前記加工用ビームと独立した光学系(24)を有する計測用ビーム(B2)を照射することにより、前記溶融池を計測する。
【0062】
上記(4)の態様によれば、OCT計測技術を用いることで、パウダーベッドの表面から溶け込むように形成される溶融池を好適に計測できる。特に、OCT計測に用いられる計測用ビームは、加工用ビームと独立した光学系を有することにより、加工用ビーム及び計測用ビームに用いられる光波長に起因する色収差や、加工用ビーム及び計測用ビームの照射位置に起因する歪曲収差による影響を好適に抑制できる。
【0063】
(5)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記計測部は、OCT計測技術を用いて前記照射位置に対して、前記加工用ビームと共通した光学系を有する計測用ビームを照射することにより、前記溶融池を計測する。
【0064】
上記(5)の態様によれば、OCT計測に用いられる計測用ビームは、加工用ビームと共通した光学系を有することにより、簡易的な構成で本装置を実現できるとともに、加工用ビームと計測用ビームとの照射タイミング制御が複雑になることを抑制できる。
【0065】
(6)他の態様では、上記(4)又は(5)の態様において、
前記加工用ビーム及び前記計測用ビームの照射位置が一致するように、前記加工用ビーム、及び、前記計測用ビームの少なくとも一方の収差を補正するための収差補正部(34,36)を更に備える。
【0066】
上記(6)の態様によれば、収差補正部を有することで、加工用ビーム及び計測用ビームに用いられる光波長に起因する色収差や、加工用ビーム及び計測用ビームの照射位置に起因する歪曲収差による影響を抑制することにより、加工用ビーム及び計測用ビームの照射位置を好適に一致することができる。
【0067】
(7)一態様に係る三次元積層造形装置の評価方法は、
パウダーベッド(8)に加工用ビーム(B1)を照射して積層造形を行う三次元積層造形装置(1)の評価方法であって、
前記パウダーベッドの前記加工用ビームの照射位置に形成される溶融池(50)を計測するステップと、
前記パウダーベッドの表面に対する前記溶融池の深さ(TH)、又は、前記パウダーベッドの表面から所定深さにおける前記溶融池の幅(W)の少なくとも一方に基づいて、造形品質を評価するステップと、
を備える。
【0068】
上記(7)の態様によれば、パウダーベッドに加工用ビームが照射されることで加工用ビームの照射位置に形成される溶融池を計測した結果に基づいて、溶融池のパウダーベッドの表面に対する深さ、又は、溶融池の幅が特定される。本システムは、このように特定された溶融池の深さ、又は、幅の少なくとも一方に基づいて、パウダーベッドの表面より内部に形成される溶融池の状態を把握し、造形品質を好適に評価できる。
【符号の説明】
【0069】
1 三次元積層造形装置
2 ベースプレート
4 シリンダ
8 パウダーベッド
8a 表面
10 粉末敷設ユニット
14 加工用ビーム照射ユニット
15 造形層
20 加工用ビーム源
22 計測用ビーム源
24 光学系
24A 第1光学系
24B 第2光学系
26 ハーフミラー
28 ガルバノスキャナ
28A 第1ガルバノスキャナ
28B 第2ガルバノスキャナ
30A 第1制御部
30B 第2制御部
32 同期制御部
34,36 収差補正光学系
38A 第1収差補正光学系
38B 第2収差補正光学系
50 溶融池
60 ビード
60A 第1ビード
60B 第2ビード
100 評価システム
110 計測部
120 造形品質評価部
B1 加工用ビーム
B2 計測用ビーム
O 基準点
R 目標経路
S 未溶融領域