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特開2023-110225構造物の振動モード同定方法及び振動モード同定システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110225
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】構造物の振動モード同定方法及び振動モード同定システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
G01M7/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011529
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松岡 弘大
(57)【要約】
【課題】現地での試験によって構造物の振動モードを適切に同定する。
【解決手段】構造物の複数の加振点を加振し(ステップSt1)、当該加振点における加振力を計測する(ステップSt2)とともに、構造物の計測点において、加振点の加振によりレールを伝搬する波動の加速度を計測する(ステップSt3)。加振力と加速度に基づいて、計測点における加速度の周波数応答関数を導出する(ステップSt4)。前記周波数応答関数に基づき、前記構造物の振動モード形を同定する(ステップSt6)。加振点と計測点の観測信号間で生じる時刻同期誤差を位相基準化により補正する(ステップSt7)。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の振動モードを同定する方法であって、
前記構造物の複数の加振点を加振し、当該加振点における加振力を計測する工程と、
少なくとも前記加振点よりも少ない数で設定される前記構造物の計測点において、前記加振点の加振による前記構造物の振動の加速度を計測する工程と、
前記加振力と前記加速度に基づいて、複数の前記加振点の各々に対応する複数の周波数応答関数を導出する工程と、
複数の前記周波数応答関数に基づき、前記構造物の振動モード形を同定する工程と、
前記加振点と前記計測点の観測信号間で生じる時刻同期誤差に基づいて、複数の前記周波数応答関数の位相基準化を行う工程と、を含むことを特徴とする、振動モード同定方法。
【請求項2】
前記振動モードの固有振動数を同定する工程、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の振動モード同定方法。
【請求項3】
前記固有振動数を前記周波数応答関数のピーク振動数に基づいて同定することを特徴とする、請求項2に記載の振動モード同定方法。
【請求項4】
前記固有振動数の同定に際しては、
複数の前記周波数応答関数の包絡線を算出し、当該包絡線に基づいて前記ピーク振動数を抽出する、ことを特徴とする、請求項3に記載の振動モード同定方法。
【請求項5】
前記計測点は、前記構造物において1点に設けられていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の振動モード同定方法。
【請求項6】
前記位相基準化を行う工程においては、
複数の前記加振点のうちの1点を基準点として設定し、
当該基準点の加振時における前記周波数応答関数の位相を、他の全ての前記加振点と対応する前記周波数応答関数の位相から差し引く、ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の振動モード同定方法。
【請求項7】
前記基準点を、複数の前記加振点のうち、モードベクトルの振幅が最大となる点に設定する、ことを特徴とする、請求項6に記載の振動モード同定方法。
【請求項8】
前記構造物は、移動体の通過に供される橋梁であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の振動モード同定方法。
【請求項9】
構造物の振動モードを同定するシステムであって、
前記構造物の複数の加振点における加振力を計測する加振力計測装置と、
前記構造物の計測点において、前記加振点の加振による前記構造物の振動の加速度を計測する加速度計測装置と、
前記加振力と前記加速度に基づいて、前記構造物の振動モード形を同定する振動モード同定装置と、
を備え、
前記振動モード同定装置は、
前記加振力と前記加速度に基づいて、複数の前記加振点の各々に対応する複数の周波数応答関数を導出する周波数応答関数導出部と、
前記加振点と前記計測点の観測信号間で生じる時刻同期誤差に基づいて、複数の前記周波数応答関数の位相基準化を行う位相基準化部と、
前記位相基準化がされた後の複数の前記周波数応答関数に基づき、前記構造物の振動モード形を同定する振動モード形同定部と、
を備えることを特徴とする振動モード同定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動モード同定方法及び振動モード同定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が走行する鋼鉄道橋においては、列車の通過時にレール-車輪間で発生する転動音や部材振動に起因する構造物音等の振動・騒音問題が生ずる場合がある。そこで従来、構造物としての鋼鉄道橋の性能評価の一環として、当該鋼鉄道橋の固有振動数や振動モード形を同定すべく、多くの検討が進められている。
【0003】
かかる振動モード形の同定は、例えば非特許文献1及び非特許文献2に開示されるように、一般的には多数の加速度計(センサ)を構造物(鋼鉄道橋)に設置して行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】松岡弘大、貝戸清之、渡辺勉、曽我部正道.(2011).走行列車荷重を利用した RC 鉄道高架橋の部材振動の同定と動的挙動の把握.土木学会論文集 A1(構造・地震工学)、67(3)、545-564.
【非特許文献2】松岡弘大、曽我部正道、渡辺勉.(2018).欧州高速鉄道における合成箱桁橋床版部材の高次共振挙動と加速度評価.土木学会論文集 A1(構造・地震工学)、74(1)、125-144.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した鋼鉄道橋の構造物音は、過去の騒音測定結果から、概ね200Hz以上の高周波の振動数帯を有することが判明している。しかしながら、このような構造物騒音に寄与するような高周波の振動モードは、一般的に多くの腹・節を持つ複雑な振動モード形を有するため、多点計測に基づいた既存の手法を用いて振動モード形を同定するには、膨大な数のセンサを鋼鉄道橋に設置する必要がなる。このため、厳しい時間的・空間的制約を有する現地計測において鋼鉄道橋の振動モード形を同定することは、現実的に困難であった。
【0006】
また、振動モード形の同定に際しては、振動試験を行う際に、加速度等の応答と共に構造物の打撃を行うハンマの加振力を取得するが、前記した200Hz以上の周波数領域では加振力と応答の時刻同期誤差が振動モードの同定に大きな誤差を生じさせる可能性があり、加振力の活用にも大きな制約があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、現地での試験によって構造物の振動モードを適切に同定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、構造物の振動モードを同定する方法であって、前記構造物の複数の加振点を加振し、当該加振点における加振力を計測する工程と、少なくとも前記加振点よりも少ない数で設定される前記構造物の計測点において、前記加振点の加振による前記構造物の振動の加速度を計測する工程と、前記加振力と前記加速度に基づいて、複数の前記加振点の各々に対応する複数の周波数応答関数を導出する工程と、複数の前記周波数応答関数に基づき、前記構造物の振動モード形を同定する工程と、前記加振点と前記計測点の観測信号間で生じる時刻同期誤差に基づいて、複数の前記周波数応答関数の位相基準化を行う工程と、を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明では、多点加振と相反定理を利用して構造物の振動モードを同定する。相反定理を用いることで、加振点と計測点を入れ換えることが可能である。すなわち、従来のように多数のセンサを設置する代わりに、これらのセンサ設置点を加振することで、模擬的に多点計測と等価な情報が得られる。具体的に本発明では、複数の加振点における加振力と計測点における加速度に基づいて加速度の周波数応答関数を導出するが、この多点加振による周波数応答関数は、多点計測による周波数応答関数と等しくなる。そして、導出された周波数応答関数から、構造物の局所的な振動モードの同定が可能になる。
【0010】
また本発明によれば、計測点は少なくとも1点であればよいため、簡素な計測システム構成で多点計測と等価な情報を得ることができる。そして、計測点が減少することで、計測のための準備作業を縮減できるという利点も有する。
【0011】
更に本発明によれば、加振点と計測点の観測信号間で生じる時刻同期誤差を、周波数応答関数の位相基準化により補正する。構造物騒音に寄与するような高周波の振動数帯では、一般的に加振力と応答の時刻同期誤差が振動モードの同定に誤差を生じさせるため、加振力の活用には制約があった。この点本発明では、周波数応答関数の位相基準化により、この時刻同期誤差の補正を行うため、高周波での多点加振によるモード同定を実現できる。
【0012】
前記振動モード同定方法は、前記周波数応答関数のピーク振動数に基づき、前記振動モードの固有振動数を同定する工程、を含んでいてもよい。また、当該前記固有振動数は、複数の前記周波数応答関数の包絡線を算出し、当該包絡線に基づいて前記ピーク振動数を抽出することで同定してもよい。
【0013】
前記計測点は、前記構造物において1点に設けられていてもよい。
【0014】
前記周波数応答関数の位相基準化は、複数の前記加振点のうちの1点を基準点として設定し、当該基準点の加振時における前記周波数応答関数の位相を、他の全ての前記加振点と対応する前記周波数応答関数の位相から差し引くことで行われてもよい。この時、前記基準点は、複数の前記加振点のうち、モードベクトルの振幅が最大となる点に設定してもよい。
【0015】
前記構造物は、移動体の通過に供される橋梁であってもよい。
【0016】
別な観点による本発明は、構造物の振動モードを同定するシステムであって、前記構造物の複数の加振点における加振力を計測する加振力計測装置と、前記構造物の計測点において、前記加振点の加振による前記構造物の振動の加速度を計測する加速度計測装置と、前記加振力と前記加速度に基づいて、前記構造物の振動モード形を同定する振動モード同定装置と、を備え、前記振動モード同定装置は、前記加振力と前記加速度に基づいて、複数の前記加振点の各々に対応する複数の周波数応答関数を導出する周波数応答関数導出部と、前記加振点と前記計測点の観測信号間で生じる時刻同期誤差に基づいて、複数の前記周波数応答関数の位相基準化を行う位相基準化部と、前記位相基準化がされた後の複数の前記周波数応答関数に基づき、前記構造物の振動モード形を同定する振動モード形同定部と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、現地での試験によって構造物の振動モードを適切に同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態にかかる同定対象の鋼鉄道橋の構成の概略を示す側面図である。
図2】本実施形態にかかる同定対象の鋼鉄道橋の構成の概略を示す断面図である。
図3】鋼鉄道橋における加振点の配置例を示す説明図である。
図4A】鋼鉄道橋における計測点の配置例を示す説明図である。
図4B】鋼鉄道橋における計測点の他の配置例を示す説明図である。
図5】本実施形態にかかる振動モード同定システムの構成の概略を示す説明図である。
図6】本実施形態にかかるデバイスの演算部の構成の概略を示す説明図である。
図7】本実施形態にかかる振動モードの同定方法の主な工程を示すフロー図である。
図8】位相基準化により補正する時刻同期誤差を示す説明図である。
図9A】上フランジ加振時の周波数応答関数と包絡線の一例を示す説明図である。
図9B】ウェブ加振時の周波数応答関数と包絡線の一例を示す説明図である。
図10A】本実施形態にかかる同定方法により同定された固有振動数及び振動モード形の一例を示す説明図である。
図10B】本実施形態にかかる同定方法により同定された固有振動数及び振動モード形の一例を示す説明図である。
図10C】本実施形態にかかる同定方法により同定された固有振動数及び振動モード形の一例を示す説明図である。
図10D】本実施形態にかかる同定方法により同定された固有振動数及び振動モード形の一例を示す説明図である。
図10E】本実施形態にかかる同定方法により同定された固有振動数及び振動モード形の一例を示す説明図である。
図10F】本実施形態にかかる同定方法により同定された固有振動数及び振動モード形の一例を示す説明図である。
図10G】本実施形態にかかる同定方法により同定された固有振動数及び振動モード形の一例を示す説明図である。
図10H】本実施形態にかかる同定方法により同定された固有振動数及び振動モード形の一例を示す説明図である。
図11A】既往の同定方法により同定されたウェブのモード形を示す説明図である。
図11B】既往の同定方法により同定されたウェブのモード形を示す説明図である。
図11C】既往の同定方法により同定されたウェブのモード形を示す説明図である。
図12A】本実施形態にかかる同定方法により同定された下フランジのモード形を示す説明図である。
図12B】本実施形態にかかる同定方法により同定された下フランジのモード形を示す説明図である。
図12C】本実施形態にかかる同定方法により同定された下フランジのモード形を示す説明図である。
図12D】本実施形態にかかる同定方法により同定された下フランジのモード形を示す説明図である。
図13A】既往の同定方法により同定された下フランジのモード形を示す説明図である。
図13B】既往の同定方法により同定された下フランジのモード形を示す説明図である。
図13C】既往の同定方法により同定された下フランジのモード形を示す説明図である。
図13D】既往の同定方法により同定された下フランジのモード形を示す説明図である。
図14A】位相基準化を行った場合における振動モード形の同定結果を示す説明図である。
図14B】位相基準化を行わなかった場合における振動モード形の同定結果を示す説明図である。
図15A】位相基準化を行った場合における振動モード形の位相分布を示す説明図である。
図15B】位相基準化を行わなかった場合における振動モード形の位相分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
<対象構造物>
本実施形態では、構造物としての鋼鉄道橋(橋梁)の振動モードを同定する。図1は、同定対象の鋼鉄道橋1の構成の概略を示す側面図である。図2は、同定対象の鋼鉄道橋1の構成の概略を示す断面図である。
【0021】
鋼鉄道橋1は、直線区間に位置した直結軌道を有する鋼I桁であり、上フランジ11、ウェブ12及び下フランジ13を備える。鋼鉄道橋1のウェブ12は、桁内側に設置された補剛材14により橋軸方向に分割されている。なお、以下の説明においては、補剛材14で区切られた領域の各々を「パネルP」と呼ぶ。
鋼鉄道橋1の上フランジ11の上面には、締結装置2(例えば、バネ式締結装置)を介してレール3が直接敷設されている。レール3は、鉄道車両が走行する、実路線に設けられたレールである。
【0022】
本実施形態では、図1に示した鋼鉄道橋1から一のパネルPを選定し、上フランジ11、ウェブ12、下フランジ13及び補剛材14の各部材の高次部材振動モードを同定対象とする。
【0023】
そして本実施形態では、以上の一のパネルPに対して、多点加振を利用して振動モード形を同定する。すなわち、鋼鉄道橋1における複数の加振点Mを加振し、鋼鉄道橋1において少なくとも加振点Mよりも少ない数で設定される計測点Lで、加振点Mの加振により発生する振動の加速度を計測する。
鋼鉄道橋1における複数の加振点Mは図3に示すように設定される。すなわち、複数の加振点Mを、上フランジ11、ウェブ12、下フランジ13及び補剛材14に対してアレイ配置する。具体的には、一のパネルPを橋軸方向および鉛直方向に8分割し、その格点を加振点Mとした。
鋼鉄道橋1における計測点Lは図4Aに示すように設定される。すなわち、計測点Lを、レール3に1点(L1)、上フランジ11に3点(L2~L4)、ウェブ12に3点(L5~L7)、下フランジ13に7点(L8~L13)の計13点に設定した。
【0024】
なお、後述する相反定理を用いたモード同定手法により、高次部材振動モードは、例えば図4Bに示すようにレール3に設定された1点の計測点L1のみでも同定可能である。換言すれば、鋼鉄道橋1における計測点Lは、図4Aに示したように複数点に設定される必要はなく、図4Bに示すように1点のみに設定されてもよい。ただし、以下の実施形態においては、本発明の精度検証の目的から図4Aに示したように複数(13点)の計測点Lを設定する。
【0025】
<振動モード同定システム>
図5は、本実施形態にかかる振動モード同定システム20の構成の概略を示す説明図である。振動モード同定システム20は、加振点Mの加振により鋼鉄道橋1の振動モードを同定する。
【0026】
振動モード同定システム20は、ハンマ30、アンプ31、加速度計40、チャージアンプ41、プリアンプ42、AD変換器50、通信装置60、及びデバイス70を有している。
【0027】
ハンマ30は、例えばセンサを内蔵したインパルスハンマであり、本発明における「加振力計測装置」に相当する。ハンマ30は、鋼鉄道橋1に設定した複数の加振点M(図3を参照)を加振するのに用いられる。具体的にハンマ30による加振は、鋼鉄道橋1の各加振点Mに対して、列車通過時以外の間合い時間を利用して断続的に実施される。また加振点Mの加振は、上フランジ11及び下フランジ13に設定された加振点Mに対しては鉛直方向に、ウェブ12に設定された加振点Mに対しては橋軸直角方向に、補剛材14に設定された加振点Mに対しては橋軸方向に、それぞれ行う。
【0028】
ハンマ30は、加振点Mの加振時の加振力を計測して、加振力信号を出力する。加振力信号はアンプ31で増幅され、AD変換器50においてデジタル信号に変換される。なお、本実施形態では、ハンマ30はセンサを備え加振力を計測したが、ハンマ30の外部のセンサによって加振力を計測してもよい。すなわち、加振手段と加振力計測手段は別体に設けられていてもよい。また、本実施形態では加振手段としてハンマ30を用いたが、加振点Mを加振できればこれに限定されない。
【0029】
アンプ31は、前記したようにハンマ30に接続される。アンプ31は、例えばチャージアンプである。ただし、アンプ31の種類はこれに限定されない。
【0030】
加速度計40は、例えば圧電型の加速度計であり、本発明における「加速度計測装置」に相当する。加速度計40は、鋼鉄道橋1に設定した各計測点Lに設けられる。なお、上述したようにレール3は実路線のレールであり列車が通過するため、レール3に対応する計測点L1に対しては、レールヘッドではなくレール底部に加速度計40を設置した。そして加速度計40は、各計測点Lにおいて、ハンマ30による加振点Mの加振によって鋼鉄道橋1に生ずる振動の加速度を計測し、加速度信号を出力する。加速度信号はチャージアンプ41で増幅され、AD変換器50においてデジタル信号に変換される。なお、本実施形態では、加速度計40として圧電型の加速度計を用いたが、これに限定されない。
【0031】
チャージアンプ41及びプリアンプ42は、前記したように、それぞれ加速度計40に接続される。各々の加速度計40に接続されるアンプの種類は、チャージアンプ41又はプリアンプ42のいずれかより任意に選択できる。すなわち、各計測点Lのそれぞれで加速度計40の種類が異なっていてもよい。なお、加速度計40に接続されるアンプの種類はこれに限定されない。
【0032】
AD変換器50は、ハンマ30のアンプ31と、加速度計40のチャージアンプ41及びプリアンプ42に接続され、更に通信装置60を介してデバイス70と接続される。AD変換器50では、ハンマ30から入力された加振力信号と加速度計40から入力された加速度信号をそれぞれデジタル信号に変換し、これら加振力信号(加振力データ)と加速度信号(加速度データ)をデバイス70に出力する。
【0033】
通信装置60は、AD変換器50から出力された加振力データと加速度データをデバイス70に出力する。通信装置60は、通信を行うことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば無線LAN、有線LAN、インターネット等が用いられる。
【0034】
デバイス70は、例えばノート型パーソナルコンピュータ(PC)であり、デバイス70の演算部は、本発明における振動モード同定装置に相当する。デバイス70は、通信装置60から入力された加振力データと加速度データに基づいて、鋼鉄道橋1の振動モードを同定する。なお、本実施形態では、デバイス70としてノート型PCを用いたが、これに限定されない。例えばデバイス70は、デスクトップ型PCであってもよいし、タブレットやスマートフォンであってもよい。
【0035】
図6に示すように、デバイス70は、制御部100、記憶部101、周波数応答関数導出部102、位相基準化部103、振動モード形同定部104、通信部105、及び表示部106を有している。
【0036】
制御部100は、回路(ハードウェア)又はCPUなどの中央演算処理部である。制御部100は、記憶部101に格納されたプログラム(ソフトウェア)に従って、デバイス70の制御を行う。記憶部101は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、HDD、SDD等からなり、各種プログラムやデータを記憶する。
【0037】
周波数応答関数導出部102は、AD変換器50から出力された加振力データと加速度データに基づいて、各加振点Mに対応する複数の周波数応答関数を導出する。位相基準化部103は、周波数応答関数導出部102で導出された周波数応答関数の時刻同期誤差を、位相基準化を行うことで補正する。振動モード形同定部104は、各加振点Mに対応する複数の周波数応答関数に基づき、鋼鉄道橋1の振動モード形を同定する。
【0038】
通信部105は、通信装置60との間の通信を媒介する通信インタフェースである。具体的に通信部105は、AD変換器50から出力された加振力データと加速度データを受信する。表示部106は、例えばディスプレイ等であり、デバイス70に関する種々の情報を表示する。
【0039】
<振動モード同定方法>
一実施形態に係る振動モード同定システム20は以上のように構成されている。次に、振動モード同定システム20を用いて行われる鋼鉄道橋1の振動モード同定方法について説明する。図7は、本実施形態にかかる振動モード同定方法の主な工程を示すフロー図である。
【0040】
先ず、鋼鉄道橋1の複数の加振点Mをハンマ30で加振する(図7のステップSt1)。この際、各加振点Mにおける加振力をハンマ30で計測する(図7のステップSt2)。計測された加振力データは、アンプ31で増幅され、AD変換器50においてデジタル信号に変換された後、通信装置60を介して、デバイス70の通信部105に出力され、記憶部101に記憶される。
【0041】
また、計測点Lにおいて、ハンマ30による加振点Mの加振によって生じた振動の加速度を、加速度計40で計測する(図7のステップSt3)。計測された加速度データは、チャージアンプ41又はプリアンプ42で増幅され、AD変換器50においてデジタル信号に変換された後、通信装置60を介して、デバイス70の通信部105に出力され、記憶部101に記憶される。
【0042】
次に、周波数応答関数導出部102において、記憶部101に記憶された加振力と加速度に基づいて、各加振点Mに対応する、計測点Lにおける加速度の周波数応答関数(FRF)を導出する(図7のステップSt4)。導出された周波数応答関数は、記憶部101に出力されて記憶される。ステップSt4では、加振力と加速度に基づいて、周波数応答関数の1つであるアクセレランスGlm(ω)が下記式(1)で表される。
【数1】
但し、
(ω):計測点Lの加速度(加速度応答)のフーリエ変換、
(ω):加振点Mの加振力のフーリエ変換、
ω:円振動数(ω=2πf、fは振動数)
ω:r次の固有振動数、
ζ:r次の振動モード減衰比、
Φlr:r次の箇所(計測点L)での振動モード形(振動モード変位)、
Φmr:r次の箇所(加振点M)での振動モード形(振動モード変位)、
i:虚数単位。
【0043】
ここで、上記式(1)を多点入力多点出力システムの加速度の周波数応答に拡張すれば、下記式(2)のように表現される。
【数2】
【0044】
またここで、マクスウェルの相反定理により、周波数応答関数に下記式(3)の関係が成立する。
【数3】
【0045】
上記式(3)は周波数応答関数が対称行列になる。すなわち、加振点Mと計測点Lを入れ替えてもアクセレランスGlm(ω)は等しいことを意味する。また、上記式(3)はl=1、2、・・・、Nとしてベクトルで表記すると次のように書き換えられる。
【数4】
【0046】
このように相反定理を用いることで、加振点Mと計測点Lを入れ換えることが可能であり、多点加振によって、模擬的に多点計測と等価な情報が得られる。すなわち、上記式(4)は左辺が単点加振・多点計測、右辺が多点加振・単点計測に対応し、両ケースの周波数応答関数は等価となる。
【0047】
次に、振動モードの固有振動数ωを同定する(図7のステップSt5)。すなわち、上記式(1)から固有振動数ωで周波数応答関数はピークを示すことがわかるため、ピークピッキングにより振動モードの固有振動数ωが同定される。
【0048】
より具体的には、固有振動数ωは計測波形のスペクトルピーク振動数を読み取ることで同定される。本実施形態においては、計測情報として上記したように加振点Mにおける加振力が得られる。また、加振力の周波数特性は比較的フラットであるため、上記式(4)に示す周波数応答関数のピーク振動数を読み取ることで、固有振動数ωを同定できる。
【0049】
なお、ステップSt5における振動モードの固有振動数ωの同定手法は、上記した周波数応答関数のピーク振動数を読み取る方法には限定されない。具体的には、例えばリッツ法や後述するERA法に代表される既往の手法により固有振動数ωを同定してもよいし、又は、例えばLeissaの理論分析結果を引用して算出してもよい。
【0050】
ここで、本実施形態においては、複数の加振点Mを加振する多点加振により、加振点Mの数分の周波数応答関数が得られる。この複数の周波数応答関数の中にはモード形の節でありモード変位がほぼゼロとなる点も含まれる。そして、高次部材振動モードを漏れなく同定するうえでは、モード変位が最大となる場合を全点に渡って抽出する必要がある。
このため、固有振動数ωを同定するにあたり前記したピーク振動数を抽出する際には、ある特定の加振点Mを加振した際の周波数応答関数ではなく、全加振点Mの加振時の周波数応答関数の包絡線(後述の図9を参照)を算出したうえで、この周波数応答関数包絡線からピークを抽出することが望ましい。
【0051】
次に、振動モード形同定部104において、記憶部101に記憶された周波数応答関数に基づいて、鋼鉄道橋1の振動モード形を同定する(図7のステップSt6)。同定された振動モード形は、記憶部101に出力されて記憶される。
【0052】
周波数応答関数のr次モードの固有振動数(ω=ω)近傍において隣接モードの連成が無視できると仮定すると、固有振動数(ω=ω)では周波数応答関数Glm(ω)とモードベクトルφrに下記式(5)の関係が得られる。
【数5】
【0053】
したがって、対象構造物としての鋼鉄道橋1の振動モード形は、多点計測の場合と同様に、多点加振した際の単点で計測した周波数応答関数の虚数項の空間分布となるため、下記式(6)により同定される。換言すれば、ステップSt4で測定された周波数応答関数から振動モード形を同定できる。
【数6】
【0054】
ここで、ステップSt6において同定された振動モード形の振幅と位相の算出には、上記式(4)の絶対値及び偏角を下記式(7)、(8)により計算する必要がある。
【数7】
【数8】
【0055】
上記式(7)、(8)において、Im(・)は虚部を表し、Re(・)は実部を表す。また、ハット付きのΦlrは上記式(7)で算出されるモードベクトルの最大値を1に基準化したものである。
【0056】
また、振動モード形の正負は、上記式(8)で算出される位相を用いて、下記式(9)により判定する。
【数9】
【0057】
ここで、上記したように加速度計40の各々に異なる種類のアンプ、すなわち振動モード同定システム20においてチャージアンプ41とプリアンプ42の両方が用いられる場合、測定信号の経路として、アンプの種類の違いにより、AD変換器50よりも上流側で測定波形に時間的なラグ(時刻同期誤差)が生じる。すなわち、ハンマ30と加速度計40の観測信号間には、図8に示すように信号処理時間の差に起因した時刻同期誤差が存在する。
【0058】
この時刻同期誤差は一例として0.003秒程度のごくわずかなものであり、低次のモード同定には大きな影響を与えないが、鋼鉄道橋1の構造物音のような200Hz以上の高次部材振動モードでは振動周期が0.005秒以下となるため、振動モード形の同定結果において位相の評価に反映され得る。
特に、本実施形態のように高次部材振動モードを同定対象とする場合、高次部材振動モードは振動の節の数だけ位相のπ/2に対する大小関係が変化するため、位相分布が複雑となり誤判定が生じやすい。
【0059】
そこで本実施形態においては、位相計算の際に一般的に用いられる入力(ハンマ30)と出力(加速度計40)の位相関係ではなく、任意の一の加速度計40の出力(任意の一の加振点Mでの出力)を位相ゼロの基準点Mと仮定して位相を計算する(位相基準化:図7のステップSt7)。すなわち、1つの加振点Mを基準点Mとして設定し、基準点Mの加振時の周波数応答関数の位相を他の全ての加振点Mの周波数応答関数の位相から差し引くことで、時刻同期誤差の影響を相殺する。
【0060】
任意自由度pを基準点Mとして設定した場合、加振点Mの周波数応答関数の位相基準化は下記式(10)で表される。なお、基準点Mとしては、一例として、モードベクトルの振幅が1(最大振幅)となる点を選定できる。
【数10】
【0061】
本実施形態においては、以上のようにしてステップSt6で同定される周波数応答関数の時刻同期誤差を補正する。
【0062】
なお、上記した周波数応答関数の算出に際して、図8に示したように加振点Mの加振前に計測波形が応答として現れることは物理的にあり得ず、計測波形の切り出し方法によっては周波数応答関数を適切に算出できないおそれがある。
そこで、本実施形態に係る振動モード同定方法においては、事前処理として、図8に示したように加速度波形の時刻(加速度計40による計測時刻)を、ハンマ30による加振点Mの加振時刻以降となるように補正してもよい。
【0063】
<実施例に係る振動モード同定結果>
本実施形態に係る振動モードの同定は、以上のようにして行われる。以下に、上記方法による振動モードの同定結果を一例として示す。
【0064】
先ず、図9A及び図9Bに、計測波形を1秒間切り出して算出した周波数応答関数(ステップSt4)の例として、上フランジ11及びウェブ12を加振した際の各加振力、及びレール3における計測点L1で計測した各加速度から算出したモビリティ(単位加振力当たりの速度応答)と、それらの包絡線を示す。すなわち、本実施例においてはレール3における計測点L1が、上記した基準点Mに相当する。なお、上記した相反定理により、これらはレール3における計測点L1を加振した際の上フランジ11及びウェブ12の各加振点Mにおける周波数応答関数と等価である。
【0065】
図9A及び図9Bに示されるように、100Hzを超えた高い振動数帯では、同じ部材内であっても加振位置により周波数応答関数の振幅が大きくことなることがわかる。また、包絡線により加振点M毎に異なるピークを網羅的に評価できることがわかる。換言すれば、上記方法により周波数応答関数を適切に測定できることがわかる。
【0066】
続いて、図9に示した周波数応答関数の包絡線から固有振動数を同定(ステップSt5)したうえで、全ての周波数応答関数から振動モード形の同定(ステップSt6)を行った。なお、上記した周波数応答関数の測定と同様、基準点Mはレール3における計測点L1である。また、位相基準化(ステップSt7)はモード振幅最大の箇所の位相がゼロとなるように設定した。
【0067】
図10A図10Hに、同定した複数の固有振動数及び振動モード形のうち、代表8モードの固有振動数及び振動モード形を示す。図中の上フランジ11及び下フランジ13の振動モード形は、ウェブ12と両フランジの接合部において振幅がゼロとなるように補間をしている。
【0068】
図10A図10Hの各々が示す振動モード、及び当該モードの固有振動数は以下の通りである。
すなわち、図10Aは固有振動数が64Hzであり、ウェブの1×1次の振動モードを示す。図10Bは固有振動数が125Hzであり、ウェブの2×1次の振動モードを示す。図10C固有振動数が160Hzであり、は上下フランジ1次+ウェブの1×2次の振動モードを示す。図10Dは固有振動数が312Hzであり、ウェブの2×3次+下フランジ1次の振動モードを示す。図10Eは固有振動数が404Hzであり、ウェブの3×3次+上下フランジ2次の振動モードを示す。図10Fは固有振動数が456Hzであり、ウェブの3×3次+上下フランジ2次の振動モードを示す。図10Gは固有振動数が470Hzであり、ウェブの2×4次+上フランジ締結間1次+補鋼材2次の振動モードを示す。図10Hは固有振動数が1145Hzであり、ウェブの7×2次の振動モードを示す。
【0069】
本実施形態に係る振動モード同定方法により、図10A及び図10Cのようなウェブ12の1×1次や1×2次といったよく知られる振動モードに加え、例えば、図10Gに示すようなウェブ12の2×4次、図10Hのようなウェブ12の7×2次など高次の部材振動モードが同定できていることがわかる。また、この他に、図10E及び図10Fは平板振動理論において存在が指摘されてきたリング形およびX形の結合モードが同定できたものと考えられる。
【0070】
本実施形態に係る振動モード同定方法によれば、加速度計40の数(加振点Mの数)に対する制約が少ないため、ウェブ12などの一部材だけでなく、上フランジ11、ウェブ12、下フランジ13及び補剛材14といった複数部材で構成されるパネルP全体の振動モード、及び各部材間の連成性状を把握することができる。具体的には、例えば振動数が変化するにつれ、鋼鉄道橋1において主に振動する部材が変化することが確認できる。
【0071】
本実施形態によれば、図10に示したように、詳細なモード同定により他部材との連成性状が明らかであり、上フランジ11の卓越性状及び振動数から計測点Lが節となる場合のウェブ12の卓越性状についてもある程度推定可能であり、少なくともウェブ12の影響の過小評価は回避できる。
【0072】
<本実施形態に係る振動モード同定方法の効果>
以下に、本実施形態に係る振動モードの同定結果と、既往の同定方法や理論・解析との比較結果を示す。なお、以下では、理論との比較が容易となるよう、ウェブ12および下フランジ13の2部材に着目した比較結果を示す。なお、比較対象の既往の同定方法としては、従来から広く用いられている多点計測に基づく同定手法であるERA(Eigensystem Realization Algorithm)法を選択した。
【0073】
図11A図11Cは、それぞれERA法によるウェブ12の同定結果を示すものであり、それぞれ図10B図10D及び図10Fに示した本実施形態に係る同定結果と対応するものである。なお、比較対象として用いる本実施形態に係るウェブ12のモード同定結果については、既存手法および理論との比較のため、ウェブ12のパネルPにおいて橋軸方向の中心が節とならない振動モード(図10B図10D及び図10F)を抽出した。
また図12A図12D及び図13A図13Dは、それぞれ本実施形態に係る同定手法、及びERA法による下フランジ13の同定結果を示すものである。
【0074】
ERA法により同定された固有振動数は,誤差5%以内で本実施形態に係る多点加振による同定結果と一致することを確認できた。また、ERA法により同定された振動モード形は、同位置における図10の多点加振(本実施形態に係る同定手法)による同定結果と概ね一致した。図13に示すERA法による下フランジ13の同定結果もウェブ12と同様の傾向を示しており、図12の多点加振(本実施形態に係る同定手法)により同定された固有振動数および振動モード形と精度よく一致することを確認できた。
【0075】
以上より、本発明の実施形態に係る振動モード同定方法は、既往の同定手法と同程度の精度で固有振動数を同定可能であるうえに、振動モード形状が非常に複雑な高次部材振動モードを少ないセンサ(加速度計40)の数で同定可能であることがわかった。
【0076】
また、定性的ではあるものの、特に計測点Lが多い場合、多点加振を用いる本実施形態に係る同定手法は、既往の多点計測と比較して作業量および作業時間が非常に少ない。例えば既往の多点計測の場合、加速度計40の設置やケーブル配線、又はセンサテストなどにより、図4Aに示した13点での計測点配置であっても準備に2時間程度を要するところ、同じ点数の多点加振であれば、準備・試験を合わせて1時間以内で実施できる。
一方で、図3に示す膨大量の加振点Mを、加振ではなく加速度計40により多点計測する場合、加速度計40の設置だけでも2日以上を要するうえ、現場での大量のケーブル配線などは現実的には不可能であると考えられる。このことから、構造物としての鋼鉄道橋1の現地計測により高次部材振動モードを同定するうえで、実施の形態に係る同定手法の有効性が高いことがわかる。
【0077】
このように、本発明に係る振動モードの同定手法によれば、従来、現実的に困難であった現地での多点計測による構造物の局所的な振動モードの同定が可能となった。これらの振動モードは、特に構造物音の音源特定において重要な情報である。
また本発明に係る振動モードの同定手法によれば、計測点Lの数(加速度計40の設置数)が最低1点でよいため、計測のための準備作用を大幅に縮減することができる。
【0078】
続いて、上記した位相基準化処理(ステップSt7)を行う場合と行わない場合のそれぞれモード同定結果の比較結果を示す。なお、複雑な振動モード形の場合には位相基準化の効果を把握しづらいため、ここでは振動モード形が比較的単純でよく知られる振動数125Hzのウェブ(鉛直2次×水平1次)モードの例を示す。また、同様の理由からウェブ12のみに着目した同定結果を対象とする。
【0079】
図14は、位相基準化の有無によるウェブ12の振動モード形の同定結果に及ぼす影響を示す比較結果を示す。図14Aは位相基準化有の場合、図14Bは位相基準化無の場合をそれぞれ示す。図中の「●」は加振箇所である。
【0080】
上述したようにウェブ12は鉛直2次水平1次の振動モードであるが、位相基準化を行わない場合の図14Bの振動モード形は、ウェブ12下部の一部で正負が反転しており、水平方向にも2次の振動モード形を有するように見える。したがって、位相基準化により振動モード形の正負が反転することで、モード次数を正確に評価できないことがわかる。
そして、ここでは比較的振動モードを判定しやすい鉛直2次水平1次の振動モードの例を示したが、より複雑なモード形を有する高次部材振動モードでは振動モード形の正負反転の影響はさらに大きい。
【0081】
図15は、位相基準化の有無による当該モードの位相の分布の違いを示す。図15Aは位相基準化有の場合、図15Bは位相基準化無の場合をそれぞれ示す。なお、位相は0~πまでをコンターにより表示している。図中の「●」は加振箇所である。
【0082】
位相基準化をしない図15Bでは、上記式10の正負判定の境界であるπ/2に近い位相を示す計測点Lが特にウェブ12下部に広く分布しており、わずかな位相の違いにより振動モード形の正負が見かけ上反転することがわかる。一方で図15Aに示すように位相基準化を行うことで、π/2付近の位相を持つ計測点Lはほとんど消失し、より明確に正負判定が行われていることがわかる。
そして、ここでは典型的な例を示したが、この影響は高次モードほど顕著であった。
【0083】
以上より、本実施形態に係る同定手法によれば、これまで未解明であった直結軌道を有する鋼鉄道橋1の1000Hz程度までの高次部材振動モードを新たに提案した多点加振と相反定理に基づく手法により実証的に明らかにした。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0085】
また例えば、上記実施形態では、同定対象の構造物は鋼鉄道橋1であったが、同定対象はこれに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、例えば構造物の性能評価等に際して、当該構造物の振動モードの同定する際に有用である。
【符号の説明】
【0087】
1 鋼鉄道橋
2 締結装置
3 レール
11 上フランジ
12 ウェブ
13 下フランジ
14 補剛材
20 振動モード同定システム
30 ハンマ
31 アンプ
40 加速度計
41 チャージアンプ
42 プリアンプ
50 AD変換器
60 通信装置
70 デバイス
100 制御部
101 記憶部
102 周波数応答関数導出部
103 位相基準化部
104 振動モード形同定部
105 通信部
106 表示部
L 計測点
M 加振点
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図10H
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図15A
図15B