(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110235
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】紙筒用生分解性積層体、筒状成形体および筒状成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20230802BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20230802BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20230802BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B1/08 Z
B65D65/46
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011544
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】村島 健介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 武史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康則
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA22
3E086AB03
3E086AD30
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA24
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3E086BA29
3E086BA35
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3E086BB63
3E086BB71
3E086CA11
3E086DA08
4F100AK01A
4F100AK01D
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AK41D
4F100AL01A
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4F100YY00D
(57)【要約】 (修正有)
【課題】単層または2層の紙から成る紙層を有する紙筒用生分解性積層体であって、スパイラル巻加工した際の接着強度が高く、また長時間に亘って使用した後でも十分な強度を保てる優れた耐水性を有する紙筒用生分解性積層体、筒状成形体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】単層または2層の紙から成る紙層(A)と、その両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層を有する紙筒用生分解性積層体であって、前記紙層(A)の坪量が100g/m
2以上200g/m
2以下である、紙筒用生分解性積層体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層または2層の紙から成る紙層(A)と、その両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層を有する紙筒用生分解性積層体であって、前記紙層(A)の坪量が100g/m2以上200g/m2以下である、紙筒用生分解性積層体。
【請求項2】
前記紙層(A)の両面に積層された生分解性樹脂層を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層の目付量がそれぞれ5g/m2以上100g/m2以下であり、前記熱可塑性樹脂(B1)層と前記熱可塑性樹脂(B2)層の目付量の総和が50g/m2以上200g/m2以下である、請求項1に記載の紙筒用生分解性積層体。
【請求項3】
前記生分解性樹脂がポリヒドロキシアルカノエートである、請求項1または2に記載の紙筒用生分解性積層体。
【請求項4】
前記生分解性樹脂が3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の紙筒用生分解性積層体。
【請求項5】
前記生分解性樹脂の重量平均分子量が25万~65万、3-ヒドロキシヘキサノエートの平均含有比率が3~20mol%である、請求項4に記載の紙筒用生分解性積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の紙筒用生分解性積層体を含む、筒状成形体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の紙筒用生分解性積層体を用いた筒状成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層または2層の紙からなる紙層(A)と、その両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層が積層してなる、紙筒用生分解性積層体及び筒状成形体、またそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックによる環境問題がクローズアップされている。中でも、廃棄プラスチックによる海洋汚染は深刻であり、自然環境下で分解する生分解性樹脂の普及が期待されている。
そのような生分解性樹脂としては種々のものが知られているが、中でも3-ヒドロキシブチレート(以下、「3HB」と称することがある。)と3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、「3HH」と称することがある。)との共重合体(以下、「PHBH」と称することがある。)は、多くの微生物種の細胞内にエネルギー貯蔵物質として生産、蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、土中だけでなく海水中でも生分解が進行しうる材料であるため、上記の課題を解決する素材として注目されている。その中でも、紙等の基材と一体化させたPHBH/紙複合材は、PHBHおよび紙がともに生分解性であって環境負荷が小さいために社会的な関心が特に高く、紙ストローや紙コップなどの食品接触容器としての期待が大きい。
【0003】
従来、紙と接着剤等の複合材から成るストロー(筒状成形体)は樹脂製ストローと比較して耐水性が低く、実際に使用する際には吸水に伴って強度が低下していくことが問題となっていた。そこで特許文献1では、坪量が特定の数値範囲内にある紙を3層以上5層以下の層数で組み合わせることによって、実使用上問題ない程度の耐水性を持った紙筒が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法によれば耐水性は改善される傾向にあるものの、3層以上の紙を積層する必要があるために紙層同士の継ぎ目が多く、長時間に亘ってストローを使用することを想定した場合には耐水性が十分ではない、3~5層の紙をスパイラル巻き加工するための複雑な製造設備が必要となる等といった課題があった。
【0006】
紙を単層または2層の場合で耐水性をさらに向上させる方法もあるが、ストロー形状になった際の強度確保のため、紙1層あたりの坪量を大きくする必要があり、それに伴ってスパイラル巻加工部の接着性が不十分となるといった課題があった。
【0007】
そこで本発明は上記現状に鑑み、単層または2層の紙から成る紙層を有する紙筒用生分解性積層体であって、スパイラル巻加工した際の接着強度が高く、また長時間に亘って使用した後でも十分な強度を保てる優れた耐水性を有する紙筒用生分解性積層体、筒状成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、単層または2層の紙から成る紙層(A)と、その両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層を有する紙筒用生分解性積層体であって、前記紙層(A)の坪量が特定の範囲内に有る場合に、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、単層または2層の紙から成る紙層(A)と、その両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層を有する紙筒用生分解性積層体であって、前記紙層(A)の坪量が100g/m2以上200g/m2以下である、紙筒用生分解性積層体に関する。
【0010】
好ましくは、前記紙層(A)の両面に積層された生分解性樹脂層を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層の目付量がそれぞれ5g/m2以上100g/m2以下であり、前記熱可塑性樹脂(B1)層と前記熱可塑性樹脂(B2)層の目付量の総和が50g/m2以上200g/m2以下である。
【0011】
好ましくは、前記生分解性樹脂はポリヒドロキシアルカノエートである。
【0012】
好ましくは、前記生分解性樹脂は3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体である。
【0013】
好ましくは、前記3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体は、重量平均分子量が25万~65万、3-ヒドロキシヘキサノエートの平均含有比率が3~20mol%である。
【0014】
また、本発明は、前記紙筒用生分解性積層体を含む、筒状成形体にも関する。
【0015】
また、本発明は、前記紙筒用生分解性積層体を用いる、筒状成形体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単層または2層の紙から成る紙層を有する紙筒用生分解性積層体であって、スパイラル巻加工した際の接着強度が高く、また長時間に亘って使用したあとでも十分な強度を保てる優れた耐水性を持った紙筒用生分解性積層体、筒状成形体およびその製造方法を提供することができる。本発明の製造方法で製造された積層体を使用すると、筒状成形体の生産効率や品質を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の、紙筒用生分解性積層体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[紙層(A)]
本発明の一実施形態に係る紙層としては、セルロースを主成分とするパルプおよび各種助剤等からなる層であれば特に限定されないが、環境負荷を低減する目的から、すべて生分解性のもので構成されていることが好ましい。ここでパルプの種類は特に限定されないが、食品接触用途で異物混入のリスクを避ける観点からは、古紙パルプの割合がパルプ全量の50%以下であることが好ましく、古紙パルプを用いないことが更に好ましい。紙には、必要に応じて、耐水剤、撥水剤、無機物等を添加してもよく、酸素バリア層コーティング、水蒸気バリアコーティング等の表面処理が施されたものであってもよい。また、紙層表面に、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、フレーム処理、アンカーコート処理、酸素バリア層コーティング、水蒸気バリアコーティング等の表面処理が施されたものであってもよく、これらの表面処理は、単独で行ってもよいし、複数の表面処理を併用してもよい。
【0020】
前記紙層全体の坪量は紙筒形状への巻加工性と耐水性の観点から100g/m2以上200g/m2以下であり、120g/m2以上180g/m2以下がより好ましく、140g/m2以上160g/m2以下がさらに好ましい。紙層全体の坪量が100g/m2未満であると、巻加工性が劣る場合があるだけでなく、紙筒(以下、筒状成形体と称することもある。)を製造する際に断紙が発生する可能性がある。一方紙層全体の坪量が200g/m2より大きいと、紙のこわさが大きくなりすぎるために巻加工時の接着性が劣る場合があるだけでなく、紙筒の断面積が大きくなるために、耐水性が悪化する可能性がある。
【0021】
紙層が2層の場合、各層の秤量は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
[熱可塑性樹脂(B1)および熱可塑性樹脂(B2)]
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂としては、前述の紙層(A)と接着できる生分解性の樹脂であれば特に制限されないが、ポリヒドロキシアルカノエート(P3HA)を50wt%以上含むことが好ましく、機械物性と加工特性の観点から、ポリヒドロキシアルカノエートはポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)であることが好ましい。それ以外の副成分としては例えば、ポリ3-ヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(PHB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(PHB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(PHB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(PHB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(PHB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHB3HV3HH)の他、本発明の効果を損なわない範囲であればポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレート等の脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等、P3HA以外の生分解性樹脂を挙げることができる。
【0023】
尚、熱可塑性樹脂(B1)と熱可塑性樹脂(B2)は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、PHBHを単独で用いても良いし、前述した2種類以上の生分解性樹脂を組み合わせて使用しても良い。また、前記熱可塑性樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、樹脂材料に通常添加される他の添加剤、例えば、無機充填剤、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤、その他の副次的添加剤を1種または2種以上添加してもよい。ただしこれらは任意の成分であり、前記熱可塑性樹脂はもちろん、これらの成分を含有しないものであってもよい。任意成分としては、前記熱可塑性樹脂のラミネートの際に冷却ロールなどの圧着面からの剥離性をさらに改善することができるという観点から、滑剤、無機充填剤の使用が好ましい。
【0025】
前記滑剤としては、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の飽和または不飽和の脂肪酸アミドや、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド等の脂肪族アミド化合物やペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0026】
前記熱可塑性樹脂成分における滑剤の配合量は、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1~2重量部であることが好ましく、0.2~1重量部がさらに好ましい。配合量を0.1重量部以上とすることにより、滑剤配合による剥離性改善効果を得ることができる。逆に配合量が2重量部を超えると、圧着時に滑剤がブリードして冷却ロール等の圧着面に付着し、長時間の連続加工が困難になる問題がある。
【0027】
前記無機充填材としては、例えば、平均粒子径が0.5μm以上の、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、クレイ、カオリン、酸化チタン、アルミナ、ゼオライト等が挙げられる。
【0028】
前記熱可塑性樹脂成分における無機充填剤の配合量は、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して0.5~5重量部であることが好ましく、1~3重量部がさらに好ましい。配合量を0.5重量部以上とすることにより、無機充填剤配合による剥離性改善効果を得ることができる。逆に配合量が5重量部を超えると、前記熱可塑性樹脂層に割れが生じ易くなる場合がある。
【0029】
PHBHは繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を容易に調整することができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であることから、工業的に特に有用なプラスチックである。
【0030】
PHBHの具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2010/013483号に記載されている。また、PHBHの市販品としては、株式会社カネカ製「カネカ生分解性ポリマーGreen Planet」(登録商標)などが挙げられる。
【0031】
PHBH中の各構成モノマーの平均含有比率は、3HB/3HH=97~80/3~20(モル%/モル%)であることが好ましく、3HB/3HH=94~82/6~18(モル%/モル%)であることがより好ましい。PHBH中の3HHの平均含有比率が3モル%以上であると、後述するヒートシール試験において良好な接着性を得ることが出来る。また、3HHの平均含有比率が20モル%以下であるPHBHは、結晶化速度が遅くなりすぎず、製造が比較的容易である。なお、PHBH中の各構成の平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法やNMR測定することにより求めることができる。平均含有比率とはPHBH中に含まれる3HBと3HHのモル比を意味し、PHBHが2種のポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、あるいは少なくとも1種類のPHBHと、PHBを含む混合物である場合、混合物全体に含まれる各モノマーのモル比を意味する。
【0032】
3HHの平均含有比率が3~20モル%であるPHBHは、上述の通り、構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含むことが特に好ましく、少なくとも1種類のPHBHと、PHBを含むことも好ましい。
【0033】
本発明で使用する熱可塑性樹脂に含まれるPHBHの重量平均分子量(以下、Mwと称することがある)は、機械物性と加工性を両立させる観点から25万~65万が好ましく、35万~55万がより好ましく、40万~50万がさらに好ましい。なお、重量平均分子量が25万未満では、機械物性が劣る場合があり、65万を超えると、溶融粘度が高くなりすぎて成形加工が困難なだけでなく、紙層との接着性が低下する場合がある。
【0034】
本願において、PHBHの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(昭和電工社製「Shodex GPC-101」)によって、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K-804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。
【0035】
本発明の一実施形態において、熱可塑性樹脂には重量平均分子量の異なる複数種のPHBHを混合して用いることが出来る。
【0036】
本発明で使用する熱可塑性樹脂は前記単層または2層の紙から成る紙層(A)の両面にそれぞれ積層されるが、その目付量がそれぞれ5g/m2以上100g/m2以下であり、B1とB2の目付量の総和(樹脂層の全重量)が50g/m2以上200g/m2以下であることが好ましい。少なくとも一方の目付量が5g/m2未満である場合には紙筒にした際の接着強度に劣るだけでなく、浸水時の紙筒強度が低下しやすく成る可能性がある。
【0037】
本発明の一実施形態において、第1の熱可塑性樹脂(B1)と第2の熱可塑性樹脂(B2)の成分および目付はそれぞれ同じものであっても良いし、異なっていても良い。
【0038】
[生分解性積層体]
本発明の一実施形態に係る生分解性積層体としては、単層または2層の紙から成る紙層(A)を有し、前記紙層の両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層が積層していれば特に限定されないが、紙層が2層の紙を有する場合、各紙間は前述の生分解性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂によって接着されていることが好ましい。このとき、紙間を接着する熱可塑性樹脂の目付量は0.5g/m2以上5g/m2以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、紙層の柔軟性を保ったまま、紙間を十分な強度で接着することができる。
【0039】
[生分解性積層体の製造方法]
本実施形態の一態様に係る生分解性積層体の製造方法は、単層または2層の紙から成る紙層(A)の両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層が積層される方法であれば特に限定されない。紙層への熱可塑性樹脂の積層方法としては、例えば、吹付法、散布法、スリットコーター法、エアーナイフコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、コンマコーター法、ブレードコーター法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等の公知のコーティング法の他、押出ラミネート法または熱ラミネート法を挙げることができる。スパイラル巻加工時に十分な接着強度を得るなどの目的から、高目付の樹脂層が必要となる場合、上記熱可塑性樹脂層は押出ラミネート法または熱ラミネート法によって積層されることが好ましい。ここで、第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層は順次積層しても良いし、同時に積層しても良い。
【0040】
紙層へ熱可塑性樹脂を積層する際、上述の各方法は単独で用いても良いし、必要に応じて複数の方法を組み合わせてもよい。例えば、紙層の上にグラビア印刷法によって低目付の熱可塑性樹脂層を形成した後、更に押出ラミネート法によって熱可塑性樹脂層を高目付で積層することで、紙層と高目付の熱可塑性樹脂層の接着力を大幅に改善することができる。
【0041】
2層の紙を有する生分解性積層体を製造する場合、予め各紙を接着して2層にした後、得られた2層の紙層の両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層を積層してもよいし、単層の紙の両面にそれぞれ生分解性樹脂を主成分とする第1の熱可塑性樹脂(B1)層および第2の熱可塑性樹脂(B2)層を積層した後に、さらに2層目の紙を接着させて積層してもよい。
[筒状成形体]
上述した生分解性積層体を用いて、筒状成形体(紙筒)を製造することができる。ここで紙筒の製造方法は特に限定されず、リボン状の生分解性積層体からスパイラル状に巻いてもよいし、平板上の生分解性積層体から平巻きして円筒状に成形するなど、公知の方法で任意に製造することができるが、連続して生産できることからはスパイラル状に巻くことが好ましい。なお、紙筒の直径は強度と形状を保てる範囲であれば特に限定されないが、紙製ストローとして使用することを想定する場合は耐水性や強度、および口当たりの観点から直径が3mm以上20mm未満であることが好ましく、5mm以上10mm未満であることがさらに好ましい。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0043】
〔製造例〕
(PHBHを主成分とする樹脂パウダーの製造方法)
実施例および比較例で使用したPHBH粉体はいずれも国際公開公報W2019-142845に記載の方法に準拠して製造した。具体的な処方を以下に示す。
【0044】
PHBHパウダー1:重量平均分子量40万、PHBH中の3HBと3HHの合計に対する3HHの割合が15モル%であるPHBHパウダー
PHBHパウダー2:重量平均分子量63万、PHBH中の3HBと3HHの合計に対する3HHの割合が15モル%であるPHBHパウダー
(PHBHを主成分とする樹脂ペレットの製造方法)
PHBHペレット1:上記PHBHパウダー1(100重量部)に対し、ベヘン酸アミド(0.5重量部)、ペンタエリスリトール(1.0重量部)をドライブレンドし、2軸押出機を用いて、設定温度150℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練してストランド状に押出し、40℃の温水に通して固化させてペレット状にカットした。重量平均分子量は38万であった。
【0045】
PHBHペレット2:上記PHBHパウダー2(100重量部)に対し、ベヘン酸アミド(0.5重量部)、ペンタエリスリトール(1.0重量部)をドライブレンドし、2軸押出機を用いて、設定温度150℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練してストランド状に押出し、40℃の温水に通して固化させてペレット状にカットした。重量平均分子量は60万であった。
【0046】
<溶融押出法による熱可塑性樹脂層の製造>
熱可塑性樹脂層B-a:PHBHペレット1について、T型ダイスを装着し、樹脂の出口温度が160℃となるように温度調整された単軸押出機を用いて押出し、60℃に設定した冷却ロールで引き取り、厚み40μm(目付50g/m2)のフィルム状に成形された熱可塑性樹脂層B-aを得た。
【0047】
熱可塑性樹脂層B-b:PHBHペレット1について、T型ダイスを装着し、樹脂の出口温度が160℃となるように温度調整された単軸押出機を用いて押出し、60℃に設定した冷却ロールで引き取り、厚み4μm(目付5g/m2)のフィルム状に成形された熱可塑性樹脂層B-bを得た。
【0048】
熱可塑性樹脂層B-c:PHBHペレット2について、T型ダイスを装着し、樹脂の出口温度が160℃となるように温度調整された単軸押出機を用いて押出し、60℃に設定した冷却ロールで引き取り、厚み40μm(目付50g/m2)のフィルム状に成形された熱可塑性樹脂層B-cを得た。
【0049】
(実施例1)
坪量が150g/m2の紙層を2枚の熱可塑性樹脂(B-a)フィルムで両側から挟み込んだ後、170℃に加熱した熱ラミネート機を用いて0.2MPaの圧力で加熱圧着し、生分解性積層体を得た。さらに、得られた生分解性積層体を直径10mm、長さ100mmのシリコンロッドに巻きつけた状態で、180℃に加熱した熱風オーブンで3分間熱処理することで生分解性紙筒を得た。
【0050】
(実施例2)
坪量が150g/m2の紙層に代わって、坪量が100g/m2の紙と坪量が50g/m2の紙が2層となるように接着して積層された紙層を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にして、生分解性紙筒を得た。
【0051】
(実施例3)
坪量が150g/m2の紙層を、熱可塑性樹脂(B-a)フィルムと熱可塑性樹脂(B-b)フィルムで両側から挟み込んだ以外は実施例1に記載の方法と同様にして、生分解性紙筒を得た。このとき、紙筒の内側に熱可塑性樹脂(B-c)が、紙筒の外側に熱可塑性樹脂(B-a)が、配置されるように製造した。
【0052】
(実施例4)
熱可塑性樹脂(B-a)フィルムに代わって熱可塑性樹脂(B-c)フィルムを用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にして、生分解性紙筒を得た。
【0053】
(比較例1)
坪量が150g/m2の紙層に代わって、坪量が80g/m2の紙を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にして、生分解性紙筒を得た。
【0054】
(比較例2)
坪量が150g/m2の紙層に代わって、坪量が250g/m2の紙を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にして、生分解性紙筒を得た。
【0055】
(比較例3)
坪量が150g/m2の紙層に代わって、坪量が40g/m2の紙同士が2層となるように接着して積層された紙層を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にして、生分解性紙筒を得た。
【0056】
(比較例4)
坪量が150g/m2の紙層を1枚の熱可塑性樹脂(B-a)フィルムと重ねた後、170℃に加熱した熱ラミネート機を用いて0.2MPaの圧力で加熱圧着し、生分解性積層体を得た。さらに、得られた生分解性積層体を直径10mmのシリコンロッドに巻きつけた状態で、180℃に加熱した熱風オーブンで3分間熱処理することで生分解性紙筒を得た。このとき、紙筒の内側に熱可塑性樹脂(B-a)が配置されるように製造した。
【0057】
(比較例5)
坪量が150g/m2の紙層に代わって、坪量が50g/m2の紙が3層になるように接着して積層された紙層を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にして、生分解性紙筒を得た。
【0058】
〔評価方法〕
実施例および比較例で得られた生分解性紙筒の各種評価は、以下の方法で行った。
【0059】
(接着性の評価)
生分解性紙筒を成形した翌日以降に接着性評価を行った。具体的には、得られた紙筒の一端から10mmの部分についてカッターを用いて切り落とし、得られた円筒状の断面の様子を観察した。
【0060】
<評価>
◎:接着端部が全く剥がれていない
○:接着端部が若干剥がれているが、ほとんど問題にならない
△:接着端部が大きく剥がれており、紙筒として使用上の問題がある
×:端部が接着しておらず、紙筒として使用できない
上記評価結果が◎または○であれば、使用上十分な接着強度がある。
【0061】
(紙筒の強度評価)
生分解性紙筒を成形した翌日以降に強度評価を行った。具体的には、得られた紙筒の中央部分でカッターを用いて2本の紙筒に切り分けた後、切り分けた一方の紙筒の端部を口に加えて軽く噛み込んだ際の変形の程度について官能評価を行った。また、切り分けたもう一方の紙筒についても、27℃の水に30分間浸漬した直後に、同様の方法で評価を行った。
【0062】
<評価>
◎:噛み込んでもほとんど変形せず、紙筒として問題なく使用できる
○:噛み込むとほんの少し変形するが、紙筒として問題なく使用できる
△:噛み込むと大きく変形し、紙筒として使用できない
×:噛み込むと筒形状が壊れてしまい、紙筒として使用できない
上記評価結果が◎または○であれば、使用上十分な強度がある。
【0063】
【0064】
<結果>
表1より、実施例では巻部分が十分な強度で接着されており、また水への浸漬後も紙筒としての強度が十分であることがわかる。一方比較例では巻部の接着性と紙筒としての強度を両立することができない。
【0065】
したがって、本発明によれば、単層または2層の紙から成る紙層を有する紙筒用生分解性積層体であって、スパイラル巻加工した際の接着強度が高く、また長時間に亘って使用した後でも十分な強度を保てるだけの耐水性を持った紙筒用生分解性積層体、紙状成形体およびその製造方法を提供することが可能である。