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特開2023-110255効率的なタンパク質の抽出方法およびタンパク質抽出液の効率的な製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110255
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】効率的なタンパク質の抽出方法およびタンパク質抽出液の効率的な製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 1/00 20060101AFI20230802BHJP
   A23J 3/34 20060101ALI20230802BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20230802BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20230802BHJP
   A23L 25/00 20160101ALI20230802BHJP
【FI】
A23J1/00 B
A23J3/34
A23F3/16
A23F5/24
A23L25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011594
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】521381495
【氏名又は名称】株式会社JRS
(71)【出願人】
【識別番号】500527982
【氏名又は名称】遠州夢咲農業協同組合
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長門 貴
(72)【発明者】
【氏名】相羽 信弥
【テーマコード(参考)】
4B027
4B036
【Fターム(参考)】
4B027FB17
4B027FB28
4B027FC10
4B027FK07
4B027FP12
4B027FP72
4B027FQ06
4B036LH27
4B036LH49
4B036LP01
4B036LP07
(57)【要約】
【課題】酵素とタンパク質抽出対象物を含む反応混合液のpH、温度を適切な範囲に維持して、タンパク質抽出対象物からタンパク質を効率的に抽出する。
【解決手段】本発明のタンパク質抽出方法は、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を混合して、酵素混合液を得る第1混合工程と、前記酵素混合液と、タンパク質抽出対象物と、を混合して反応混合液を得る第2混合工程と、前記反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持して、前記タンパク質抽出対象物からタンパク質を抽出する抽出工程と、を含み、前記タンパク質抽出対象物は、茶葉、茶殻、コーヒー豆、コーヒー殻、または、種実類のいずれか1種以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を混合して、酵素混合液を得る第1混合工程と、
前記酵素混合液と、タンパク質抽出対象物と、を混合して反応混合液を得る第2混合工程と、
前記反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持して、前記タンパク質抽出対象物からタンパク質を抽出する抽出工程と、を含み、
前記タンパク質抽出対象物は、茶葉、茶殻、コーヒー豆、コーヒー殻、または、種実類のいずれか1種以上である、
タンパク質抽出方法。
【請求項2】
前記抽出工程は、高湿度熱気を継続してまたは断続して前記反応混合液に接触させて、前記反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持する工程である、
請求項1に記載のタンパク質抽出方法。
【請求項3】
温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を含む混合液を、反応中の前記混合液の温度が30℃~70℃、かつ、pHが4~5に維持されるように所望pHを有する電解水を用いて生成した高湿度熱気を与えながらタンパク質抽出対象物に作用させて、前記タンパク質抽出対象物からタンパク質を含む抽出液を抽出する、タンパク質抽出液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の抽出方法およびタンパク質抽出液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
茶葉に含まれるタンパク質は、その大半が水に難溶性または不溶性であり、茶飲料を製造する際にほとんど抽出されず、茶飲料としての通常の利用方法では摂取することが難しい。日本食品標準成分表2020年版(八訂)によると、緑茶飲料や紅茶飲料等の原料となる茶葉には、20g/100g~30g/100g程度のタンパク質が含まれている。一方、これらの茶葉を原料として抽出された緑茶飲料、紅茶飲料等の茶葉の浸出液には、タンパク質は0g/100g~1.3g/100g程度しか含まれておらず、茶飲料を抽出した後の茶葉(茶殻)に多くのタンパク質が残存している。
【0003】
茶葉と同様に、コーヒー飲料の原料となるコーヒー豆にもタンパク質が含まれているが、コーヒー豆の浸出液であるコーヒー飲料には、タンパク質がほとんど含まれておらず、コーヒー飲料を抽出した後のコーヒー殻には、多くのタンパク質が残存している。
【0004】
また、これらの茶殻やコーヒー殻は、有効活用されることなく、ほとんどそのまま廃棄されている。
【0005】
茶葉に含まれる成分の抽出効率を高める方法として、茶葉を酵素処理する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、破砕処理した生茶葉と、酵素の溶解液とを混合して、酵素による茶葉組織の破壊処理、抽出処理を行うことにより、茶葉の旨味成分を効率的に抽出可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-113090号公報
【特許文献2】特開2009-77668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、茶葉等に含まれる成分を活用するために酵素処理する方法においては、茶葉等を酵素処理中に茶葉等と酵素との反応混合液のpHが、酵素が十分に活性化しない値へと経時的に変化して酵素処理が進まない場合があることから、酵素処理中の反応混合液のpHを酵素の特性に合わせた範囲に維持するために、pH調整剤の1つである緩衝剤を含む緩衝液を反応混合液の溶媒として用いることや、反応混合液に酸、塩基、塩類等のpH調整剤を適宜添加することが行われる場合がある。このような緩衝材やpH調整剤等の薬品を添加すると、本来茶葉に含まれていない酸、塩基、塩類が反応混合液に添加されることになり、茶葉等を酵素処理後のタンパク質を経口摂取すると、これらの薬品や酸、塩基、塩類も経口摂取することとなるため好ましくない。
【0008】
また、酵素反応の効率を高めるために、酵素の特性に合わせて、酵素処理中の反応混合液の温度を酵素の活性に適切な範囲に維持し続ける必要がある。
【0009】
従って、本発明は、上記のような問題点に着目し、酵素とタンパク質抽出対象物を含む反応混合液のpH、温度を適切な範囲に維持して、タンパク質抽出対象物からタンパク質を抽出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のタンパク質抽出方法は、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を混合して、酵素混合液を得る第1混合工程と、前記酵素混合液と、タンパク質抽出対象物と、を混合して反応混合液を得る第2混合工程と、前記反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持して、前記タンパク質抽出対象物からタンパク質を抽出する抽出工程と、を含み、前記タンパク質抽出対象物は、茶葉、茶殻、コーヒー豆、コーヒー殻、または、種実類のいずれか1種以上である。
【0011】
また、本発明のタンパク質抽出方法において、前記抽出工程は、高湿度熱気を継続してまたは断続して前記反応混合液に接触させて、前記反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持する工程であってもよい。
【0012】
本発明のタンパク質抽出液の製造方法は、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を含む混合液を、反応中の前記混合液の温度が30℃~70℃、かつ、pHが4~5に維持されるように所望pHを有する電解水を用いて生成した高湿度熱気を与えながらタンパク質抽出対象物に作用させて、前記タンパク質抽出対象物からタンパク質を含む抽出液を抽出するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水を用いることから、pH調整剤等の薬品を含まない電解水を使用して、酵素とタンパク質抽出対象物を含む反応混合液のpH、温度を適切な範囲に維持して、タンパク質抽出対象物からタンパク質を抽出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態のタンパク質抽出方法は、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を混合して、酵素混合液を得る第1混合工程と、酵素混合液と、タンパク質抽出対象物と、を混合して反応混合液を得る第2混合工程と、反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持して、タンパク質抽出対象物からタンパク質を抽出する抽出工程と、を含む。
【0016】
また、抽出工程は、高湿度熱気を継続してまたは断続して前記反応混合液に接触させて、前記反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持する工程であってもよい。
【0017】
本発明のタンパク質抽出液の製造方法は、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を含む混合液を、反応中の前記混合液の温度が30℃~70℃、かつ、pHが4~5に維持されるように所望pHを有する電解水を用いて生成した高湿度熱気を与えながらタンパク質抽出対象物に作用させて、前記タンパク質抽出対象物からタンパク質を含む抽出液を抽出するものである。
【0018】
[タンパク質抽出対象物]
本実施形態のタンパク質抽出方法におけるタンパク質抽出対象物は、茶葉、茶殻、コーヒー豆、コーヒー殻、または、種実類のいずれか1種以上である。
【0019】
(茶葉および茶殻)
本実施形態における茶葉とは、茶の木から摘採直後の生葉や、生葉を加工して茶飲料の原料として用いられる前までの状態を指すものであり、摘採直後の生葉、荒茶、仕上げ茶、および、茶の各加工工程における中間製品が含まれる。また、茶の製造工程における発酵工程の有無は限定されず、すなわち、緑茶等の不発酵茶、紅茶等の発酵茶を茶葉として用いることができる。また、生葉をタンパク質抽出対象物として用いる場合には、生葉に含まれる酵素を失活させるために、生葉を加熱して殺青処理をしておくことが好ましい。
【0020】
本実施形態における茶殻とは、煎茶を原料として溶液抽出した後に残った残渣を指す。溶液抽出した後の状態は、水分が多く腐敗しやすいため、茶殻を本実施形態のタンパク質抽出対象物としてすぐに用いない場合には、乾燥させて保管しておいてもよい。茶殻の乾燥方法は特に限定されず、例えば、天日干しでもよいし、機械乾燥でもよい。
【0021】
(コーヒー豆およびコーヒー殻)
本実施形態におけるコーヒー豆とは、コーヒーの木から収穫された乾燥前の生豆から、生豆を加工してコーヒー飲料の原料として用いられる前までの状態を指すものであり、収穫直後の生豆、焙煎豆、各加工工程における中間製品が含まれる。
【0022】
本実施形態におけるコーヒー殻とは、焙煎豆を原料としてコーヒー飲料を抽出した後に残った残渣を指す。コーヒー飲料を抽出した後の状態は、水分が多く腐敗しやすいため、コーヒー殻を本実施形態のタンパク質抽出対象物としてすぐに用いない場合には、乾燥させて保管しておいてもよい。コーヒー殻の乾燥方法は特に限定されず、例えば、天日干しでもよいし、機械乾燥でもよい。
【0023】
(種実類)
本実施形態における種実類とは、食用の果実、種子を指すものであり、例えば、アーモンド、クルミ、ヘーゼルナッツ等が挙げられる。種実類の状態としては、収穫して種皮や殻を除去した状態、乾燥や加熱等の加工した状態の他、種実類に含まれる油脂やでんぷん等の一部の成分を抽出した後の搾りかす等の残渣の状態でもよい。
【0024】
本実施形態においては、以上のような植物原料をタンパク質抽出対象物として用いる。なお、それぞれの植物原料の品種は特に限定されない。
【0025】
また、タンパク質抽出対象物の形状は特に限定されず、例えば、セルラーゼとの反応効率を高めるために、本実施形態のタンパク質抽出方法に用いる前に粉砕しておいてもよい。また、酵素混合液をタンパク質抽出対象物に十分に浸透させてからタンパク質抽出対象物の粉砕処理を行ってもよく、また、抽出工程においてタンパク質抽出対象物の粉砕処理を行ってもよい。
【0026】
[電解水]
本実施形態における電解水とは、水を電気分解して得られた水溶液であり、本実施形態においてはpH4~5の酸性電解水が用いられる。本実施形態における電解水は、既存の電解水生成装置を用いて生成することができる。
【0027】
[セルラーゼ]
セルラーゼは、セルロース等のβ‐1,4‐グルカンのグリコシド結合を加水分解する酵素である。セルラーゼは、作用様式により分類され、β‐1,4‐グルカンの内部から分解するエンドグルカナーゼとβ‐1,4‐グルカンの末端から分解するエキソグルカナーゼがあり、本実施形態においてはいずれか一方に限定されず、どちらのセルラーゼも用いることができる。
【0028】
本実施形態においては、セルラーゼとして、アスペルギルス属菌(Aspergillus属菌)起源のセルラーゼと、トリコデルマ属菌(Trichoderma属菌)起源のセルラーゼが用いられる。また、セルラーゼの形態は限定されず、粉末状のものでもよいし、セルラーゼが溶媒に溶解された液体状のものを用いてもよい。これらのセルラーゼとして、例えば、セルラーゼXL-531(アスペルギルス属菌起源)(ナガセケムテックス株式会社製)、セルラーゼSS(トリコデルマ属菌起源)(ナガセケムテックス株式会社製)を用いることができる。
【0029】
セルラーゼを用いてタンパク質抽出対象物である植物原料を酵素処理することにより、細胞壁を構成するセルロースを分解することができ、タンパク質抽出対象物に含まれるタンパク質等の成分を効率よく抽出することができる。
【0030】
セルラーゼの使用量は、タンパク質抽出対象物におけるセルロースの含有量や使用するセルラーゼの力価を考慮して適宜設定することができる。例えば、第1混合工程において、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼの混合量は、電解水に対して0.01質量%~2質量%とすることができる。また、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼの混合量は、電解水に対して0.01質量%~2質量%とすることができる。例えば、セルラーゼXL-531やセルラーゼSSを使用する場合には、電解水に対してそれぞれ0.5体積%~2.0体積%混合することができる。
【0031】
[pH調整剤]
pH調整剤は、水素イオン濃度を調整するものであり、例えば、酸、塩基、塩類が挙げられる。セルラーゼ等の酵素には、それぞれ、最も活性が高くなるpHがあることから、酵素反応においては、酵素と酵素の基質を含む反応混合物のpHを特定の範囲に維持する必要がある。pHを特定の範囲に維持するために、一般的には、緩衝作用のあるpH調整剤を含む緩衝液を酵素混合物の溶媒として用いることや、酵素反応中に酸、塩基等のpH調整剤を添加することが行われる。ただし、本実施形態においては、反応混合物のpHを調整する目的でpH調整剤を用いない。
【0032】
[第1混合工程]
第1混合工程は、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を混合して、酵素混合液を得る工程である。
【0033】
具体的には、あらかじめ、pH4~5の電解水を電解水生成装置により生成し、温度を30℃~70℃に調整しておく。温度の調整は、電解水が入った容器を外部からヒーター等により加熱する方法や、pH4~5の電解水を含む高湿度熱気を容器に入った電解水に接触させることにより調整する方法が挙げられる。
【0034】
本実施形態における高湿度熱気とは、例えば特許文献2に示すように、電解水生成装置で生成された電解水をバーナー等にむけて霧状に噴射させることにより、高湿度に加湿された熱気としたものである。また、高湿度熱気は、温度および湿度が変更可能なミスト状である。この高湿度熱気には、熱伝導率の高い高密度水蒸気が含まれ、液量を大きく増加させることなく温度を調整することができる。
【0035】
以上のような、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を混合して、酵素混合液が得られる。このとき、酸、塩基、塩類等のpH調整剤は添加しない。
【0036】
[第2混合工程]
第2混合工程は、第1混合工程により得られた酵素混合液と、タンパク質抽出対象物と、を混合して反応混合液を得る工程である。酵素混合液とタンパク質抽出対象物との混合比は、セルロースの含有量やセルラーゼの力価を考慮して適宜設定することができ、例えば、タンパク質抽出対象物1kgに対して、酵素混合液10L~50L程度とすることができる。なお、第2混合工程において、タンパク質抽出対象物を混合することにより温度が下がることを抑制するために、外部から加熱したり、pH4~5の電解水を含む高湿度熱気を接触させたりしてもよい。
【0037】
[抽出工程]
抽出工程は、第2混合工程により得られた反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持して、タンパク質抽出対象物からタンパク質を抽出する工程である。なお、反応混合液の温度、pHの条件は、セルラーゼの反応効率を考慮して、セルラーゼの最適条件に合わせたものである。また、タンパク質抽出対象物とセルラーゼとの反応効率を高めるために、抽出工程においてタンパク質抽出対象物の粉砕処理を行ってもよい。
【0038】
温度やpHの維持は、例えば、適切なpHの電解水から生成された高湿度熱気を継続してまたは断続して反応混合液に接触させることにより行ってもよい。pHを維持するための適切なpHの電解水とは、例えば、反応混合液がpH4~5よりも酸性側になった場合には、よりアルカリ性の電解水を指し、反応混合液がpH4~5よりもアルカリ性になった場合には、より酸性の電解水を指す。また、高湿度熱気を反応混合液に接触させる方法としては、例えば、高湿度熱気を反応混合液の液面に向けて供給する方法や、反応混合液の液中に高湿度熱気の吹き出し口を設置して、高湿度熱気を反応混合液中に供給する方法が挙げられる。また、高湿度熱気の接触は、抽出工程を通して継続して行ってもよいし、温度やpHが維持されている間は接触を停止して断続的に行ってもよい。高湿度熱気には熱伝導率の高い高密度水蒸気が含まれることから、電解水の高湿度熱気を接触させる方法を用いて温度やpHを維持することにより、反応混合液の液量を大きく増加させることなく温度やpHの条件を維持することができる。すなわち、高湿度熱気を接触させても反応混合液の液量はほとんど増えず、0.5質量%も増えないことから、セルラーゼと基質であるタンパク質抽出対象物との比率を大きく変えずに、セルラーゼの反応効率が低下することを抑制することができる。
【0039】
なお、抽出工程における反応混合液の温度やpHの維持は、単に、適切なpHの電解水を反応混合液に添加したり、反応混合液をヒーター等により加熱したりすることにより行ってもよい。
【0040】
抽出工程における維持時間(酵素反応時間)は、タンパク質抽出対象物の量や性状等に応じて適宜設定することができ、30分~90分の間、反応混合液の温度を30℃~70℃、かつ、pHを4~5に維持することで、タンパク質を効率的に抽出することができる。例えば、タンパク質抽出対象物が茶葉の場合には、60分~70分程度とすることができ、タンパク質抽出対象物が茶殻の場合には、45分~60分程度とすることができる。
【0041】
酵素反応を行うときに一般的に用いられるpH調整剤の添加は、すなわち、タンパク質抽出対象物に本来含まれていない、酸、塩基、塩類等の化合物が添加されることである。本実施形態であれば、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水を用いることから、pH調整剤等の薬品を含まない電解水を使用して、酵素とタンパク質抽出対象物を含む反応混合液のpH、温度を適切な範囲に維持して、タンパク質抽出対象物からタンパク質を抽出することができる。これにより、従来、活用することが困難であった茶葉等のタンパク質抽出対象物に含まれるタンパク質を有効に活用することが可能となる。
【0042】
(タンパク質抽出液の製造)
タンパク質抽出液の製造は、温度30℃~70℃、かつ、pH4~5の電解水と、アスペルギルス属菌起源のセルラーゼ、および、トリコデルマ属菌起源のセルラーゼと、を含む混合液を、反応中の前記混合液の温度が30℃~70℃、かつ、pHが4~5に維持されるように所望pHを有する電解水を用いて生成した高湿度熱気を与えながらタンパク質抽出対象物に作用させて、前記タンパク質抽出対象物からタンパク質を含む抽出液を抽出するものである。
【0043】
具体的には、上記第1混合工程で説明した酵素混合液をタンパク質抽出対象物に作用させて上記第2混合工程で説明した反応混合液を得る。反応中の混合液の温度が30℃~70℃、かつ、pHが4~5に維持されるように所望pHを有する電解水を用いて生成した高湿度熱気を与えながらタンパク質抽出対象物に作用させて上記抽出工程で説明したタンパク質を抽出してタンパク質抽出液を製造する。
【0044】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質等の限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。本実施例においては、タンパク質抽出対象物として茶葉および茶殻を用いたタンパク質抽出を例示する。
【0046】
[実施例1]
(第1混合工程)
pH4の電解水20Lを容積40Lの容器に入れ、pH4の電解水より生成した高湿度熱気を容器に入った電解水の液面に向けて接触させて、温度を45℃とした。このとき、高湿度熱気を接触させても電解水の液量はほぼかわらなかった。なお、電解水生成装置は、HOX-60PA(ホシザキ株式会社製)を用い、この電解水生成装置で生成された電解水をバーナーに向けて噴霧することにより高湿度熱気を生成した。
【0047】
このようにして得られた、温度45℃、かつ、pH4の電解水にセルラーゼ XL-531(株式会社ナガセケムテックス)を200mL(電解水に対して1体積%)、セルラーゼ SS(比重1.1g~1.2g/mL、株式会社ナガセケムテックス)を200mL(電解水に対して1体積%)加えて撹拌し、混合した。このようにして酵素混合液が得られた。
【0048】
(第2混合工程)
次に、酵素混合液に1kgの茶葉を加えて混合し、反応混合液を得た。茶葉は、茶の木から摘採直後の生葉を撹拌しながら100℃の蒸気を供給して60秒間殺青したもの(JA遠州夢咲茶葉振興センターより入手)を用いた。
【0049】
(抽出工程)
次に、抽出工程を行った。すなわち、反応混合液を撹拌しながら、電解水より生成した高湿度熱気を反応混合液の液面に向けて接触させて、反応混合液の温度を40℃~50℃、かつ、pHを4~5に60分間維持した。このとき、高湿度熱気を接触させても反応混合液の液量はほぼかわらなかった。以上のようにして、茶葉からタンパク質を抽出した。
【0050】
(評価および結果)
抽出工程後の反応混合液をミキサーにかけて、試料とした。この試料中のタンパク質量、セルロース量を測定した。測定は、一般財団法人 日本食品分析センターに委託し、タンパク質の測定は燃焼法で行い、セルロースの測定はD.A.T.Southgateらの方法(J.Sci.Food.Agric.,20,331(1969))に準じて行った。結果を表1に示した。
【0051】
表1は、前述したように、茶葉1kgに、酵素混合液(電解水20L、セルラーゼXL-531を200mL、セルラーゼSSを200mL)を加えて混合した反応混合液を抽出工程に供したのち、ミキサーにかけた試料100gにおける、タンパク質およびセルロースの含有量を示すものである。表1に示したように、実施例1の試料においては、燃焼法により茶葉由来のタンパク質が0.4g/試料100g検出され、セルロースは検出されなかった。このことから、セルロースが分解され、茶葉に含まれるタンパク質が検出されたことが示された。また、セルラーゼ SSの比重を1.1g/mLとし、同様にセルラーゼ XL-531の比重を1.1g/mLとすると、抽出工程に供した反応混合液は21.44kg(電解水20kg、セルラーゼ0.44kg、茶葉1kg)である。なお、高湿度熱気を接触させても液量はほぼかわらなかったことから、増加はないものとみなした。よって、上記の結果は、茶葉100gからおよそ8.6gのタンパク質が抽出されたことに相当するものであった。
【0052】
(実施例2)
タンパク質抽出対象物を茶殻としたこと以外は実施例1と同様にして行った。茶殻は、煎茶を原料として用いて、溶液抽出したあとの残渣を天日干ししたもの(JA遠州夢咲茶葉振興センターより入手)を用いた。溶液抽出は、茶葉3gに対して200mLの容器に100℃の湯を用いて、抽出時間は180秒とした。また、抽出工程におけるpH、温度の維持時間は45分とした。また抽出工程において、反応混合液の液量はほぼかわらなかった。結果を表1に示した。
【0053】
表1に示したように、実施例2の試料においては、燃焼法により茶殻由来のタンパク質が0.8g/試料100g検出され、セルロースは検出されなかった。このことから、セルロースが分解され、茶殻に含まれるタンパク質が検出されたことが示された。上記の結果は、実施例1と同様にして算出すると、茶殻100gからおよそ17.2gのタンパク質が抽出されたことに相当するものであった。
【0054】
【表1】
【0055】
以上の評価結果より、本発明の例示的態様である実施例1,2によれば、酵素と、タンパク質抽出対象物である茶葉、茶殻と、を含む反応混合液のpH、温度を適切な範囲に維持することにより、タンパク質抽出対象物からタンパク質を効率的に抽出することができることが示された。