(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110296
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】材料の強さ分布カラー画像表示方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/56 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
G01N3/56 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011650
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】511011791
【氏名又は名称】株式会社パルメソ
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】松原 亨
(57)【要約】
【課題】 摩耗痕のプロファイルデータ群(材料断面の強さ分布)を、カラー画像で表示して、目視により、誰でも、容易に、材料断面の強さ分布を評価できるようにする。
【解決手段】 スラリーを圧縮エアーと共に高速で被験体に投射して、被験体の厚さ方向にエロージョンし、エロージョンの繰り返しにより摩耗痕を形成し、エロージョンごとの摩耗痕の形状曲線の取得を繰り返して、摩耗痕全域の形状曲線データ群を取得し、その形状曲線群から得られる摩耗痕断面の強さ分布を、強さに相関した色諧調を使ってカラー画像表示する、材料の強さ分布カラー画像表示方法である。形状曲線データ群の垂直方向中央部の指定幅のみの強さ分布を、強さに相関した色諧調を使ってカラー画像表示することもできる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーを圧縮エアーと共に高速で被験体に投射して、被験体の厚さ方向にエロージョンし、エロージョンの繰り返しにより摩耗痕を形成し、エロージョンごとの摩耗痕の形状曲線の取得を繰り返して、摩耗痕全域の形状曲線データ群を取得し、その形状曲線群から得られる摩耗痕断面の強さ分布を、強さに相関した色諧調を使ってカラー画像表示する、
ことを特徴とする材料の強さ分布カラー画像表示方法。
【請求項2】
スラリーを圧縮エアーと共に高速で被験体に投射して、被験体の厚さ方向にエロージョンし、エロージョンの繰り返しにより摩耗痕を形成し、エロージョンごとの摩耗痕の形状曲線の取得を繰り返して、摩耗痕全域の形状曲線データ群を取得し、その形状曲線群の垂直方向中央部の指定幅のみの強さ分布を、強さに相関した色諧調を使ってカラー画像表示する、
ことを特徴とする材料の強さ分布カラー画像表示方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の材料の強さ分布カラー画像表示方法において、
スラリーを圧縮エアーと共に高速で被験体に投射して、被験体の厚さ方向にエロージョンし、エロージョンの繰り返しにより摩耗痕を形成し、エロージョンごとの摩耗痕の形状曲線の取得を繰り返して、摩耗痕全域の形状曲線データ群を取得し、
得られた形状曲線データ群中の各形状曲線の傾きずれ、上下ずれ、左右ずれを補正してから、形状曲線全域についてエロージョン率計算を行って数値化し、数値化したエロージョン率を補正し、その後にカラー変換して、カラー画像として表示する、
ことを特徴とする材料の強さ分布カラー画像表示方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の材料の強さ分布カラー画像表示方法において、
計算された色諧調の数値を画像変換して、カラー画像の高速処理を可能とした、
ことを特徴とする材料の強さ分布カラー画像表示方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の材料の強さ分布カラー画像表示方法において、
カラー校正を、強さが均一分布の材料を基準として行う、
ことを特徴とする材料の強さ分布カラー画像表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス、金属、プラスチック、ゴム等の各種材料の強さ分布をカラー画像表示して、材料の強さ、強さ分布等を目視評価できるようにした方法である。
【背景技術】
【0002】
本件発明者は、先に、被験体計測評価装置を開発した(特許文献1~5)。この装置は、砥粒と液体とが混合された噴射粒子(スラリー)を、圧搾空気と共に高速で、セラミックス、金属、プラスチック、ゴム等の各種材料(被験体)に衝突させて、被験体を表面側からエロージョンさせて摩耗痕を形成(エロージョン)するスラリー投射機構と、摩耗痕の形状を計測できる計測装置を備えており、一定量の投射スラリー内に含まれる粒子量と、エロージョンにより形成された摩耗痕の深さを、前記計測装置により計測して、粒子量とエロージョン深さの関係から、被験体の摩耗強度、その他の機械的特性を自動的に評価できるものである。特許文献1~4の被験体計測評価装置は、粒子投射機と計測装置が別々であり、特許文献5の被験体計測評価装置は、粒子投射機と計測装置を一台にまとめた一体型である。特許文献1~5の被験体計測評価装置はMSE摩耗痕形成装置、MSE評価装置、MSE試験法、MSE試験(「MSE」は本件出願人の登録商標)と呼ばれて世の中に普及し始めている。
【0003】
特許文献1~5のいずれのMSE評価装置も、一定量のスラリーを圧搾空気と共に高速で、材料の一箇所の表面から内部まで噴射して材料に摩耗痕を形成し、形成された摩耗痕(試験面)の形状曲線(プロファイル)を計測できるようにしてある。エロージョンと摩耗痕の計測を一サイクルとし、このサイクルの動作を繰り返すことで、材料の厚さ方向に深い摩耗痕を形成することができる。摩耗痕を形成するたびに、摩耗痕の形状曲線の計測を繰り返して、摩耗痕の深さ方向全域の形状曲線データ(プロファイルデータ)を取得して、プロファイルデータの集合である形状曲線データ群(プロファイルデータ群)を得る。このプロファイルデータ群に基づいて、被験体の摩耗強度、その他の機械的特性を評価することができるようにしてある。
【0004】
摩耗痕の形状曲線データ群は、材料表面から深さ方向及び水平方向の強弱分布、材料の欠陥や材料に混入している異物や補強材の位置、大きさ等の多岐の情報を含んでいるため、材料断面の強さ分布の観察画像として使用することができるが、形状曲線の重ね合わせであるため(
図1~
図3)、そのままでは専門家しか分析解析することができないという難点がある。
【0005】
材料分析のカラーマップ、表面粗さや表面機能のカラーマップ表示は既に使われており、観察画像として役に立っているが、これまでは、強さの尺度(エロージョン率)で材料の断面方向の強さ分布をカラー画像で表示する方法はない。ここで、エロージョン率はスラリーの投射量と摩耗量との関係で式1のように表される。
エロージョン率(強さの尺度)=摩耗量/投射量・・・・・・・(式1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-183279号公報
【特許文献2】特開2006-184188号公報
【特許文献3】特開2010-237073号公報
【特許文献4】特開2013-050378号公報
【特許文献5】特開2020-064027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決課題は、エロージョンするたびに摩耗痕を計測して取得されたプロファイルデータ群(材料断面の強さ分布)を、カラー画像で表示して、目視により、誰でも、容易に、材料断面の強さ分布を評価できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の材料の強さ分布カラー画像表示方法は、MSE試験法により、材料の厚さ方向に一定量の噴射粒子をエロージョンして摩耗痕を形成し、形成された摩耗痕の断面形状を計測し、摩耗痕の形成、摩耗痕の計測を繰り返して、摩耗痕全域(略全域を含む)について、エロージョンごとの形状曲線データを取得し、それら形状曲線データの集合である形状曲線データ群(プロファイルデータ群)から摩耗痕全域における強さ分布を、強さに相関した色諧調を使ってカラー画像表示する方法である。カラー画像化方法は汎用の各種カラー画像化方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の材料の強さ分布カラー画像表示方法は次のような効果がある。
(1)材料の強さ分布(機械的特性)の可視化
本発明では、材料の摩耗痕の断面形状の形状曲線データ群をカラー画像表示するので、材料断面の強さ分布を人間の感性に訴えることができる。このため、材料の研究・開発・品質管理・生産技術・製造管理などの現場で、一目で、短時間で迅速に、正確に、材料の強さ分布を判定(評価)するができる。例えば、積層材料(塗装やコーティング等)の各層の強さの確認、傾斜材料(熱処理や環境劣化のように表面から強さが変化するもの)の強さの確認などに有効である。特に、材料表面部における精密な分解能(サブミクロン~ナノメートル単位)での観察画像は精密な顕微レベルの情報を可視化でき、評価や分析を経てより付加価値の高いモノつくりに有効である。
(2)材料の多層膜の強さ分布の可視化
異なる材質や成分を多層に積層した塗装や蒸着物の深さ方向の分布が高分解能なカラー画像で表示されるので、各層の強さ分布やその膜厚を観察できる。さらに、層と層の変化(「界面」という)の強さ変化をも可視化できる。材料違いの強さ比較や製造プロセス違いの強さ変化及び製造欠陥などの分布や位置確認をも一目で判別できる。
(3)環境劣化による材料の強さ変化の可視化
材料は自然環境(光、熱、湿度など)及び人工環境(ケミカル、熱、光、水等)に暴露されて劣化変化していく。劣化変化は化学的な劣化と機械的(強さ)劣化がある。機械的な劣化変化は材料全体の耐久性や寿命に直結するため、その劣化度合いや様相を正確に把握する必要がある。上記の環境暴露での材料の劣化様相は表面が弱くなり内部ほど劣化度合いが少ない分布パターンを示すものが多い。本発明では、その分布パターンも可視化することができ、一目で確認できる。この様相が解かると劣化の進行が少ない材料開発や暴露された材料の残り寿命の判定などに大きく役立つ。特に劣化進行の速い樹脂材料には短時間で特定可能になり有効になる。
(4)材料の欠陥の可視化
材料の製造やコーティング等は製造プロセス等の関係で内部の欠陥はつきものになっている。その欠陥は空洞、混入物、反応不足、混合の不均一など多様に存在するがその強度は良好部に比べて弱いことが多い。本発明では、カラー画像表示して可視化することにより、その弱さ度合いと位置情報を一目で確認(特定)することができ、製品の改善や、製造プロセス改善及び品質管理に有用な情報として活用できる。
(5)複合材の断面可視化
複合材は基本となるマトリックス材とフィラーや繊維の強化材で構成されている。樹脂の複合材(FRPなど)を例にとると、マトリックス材は樹脂で比較強度は弱く、強化材はガラス繊維やカーボン繊維など比較強度が高い。また強化材がフィラー(粒子や短繊維など)となっている構成もある。本発明によれば、樹脂と強化材の強さの違いを使って層構成や分布位置及びその強さの差を目視することができる。また、高分解能試験のデータを可視化することにより樹脂と強化材の界面強さの分布も取得できる。このような複合材は内部欠陥も比較的多く含まれている可能性がありその特定も可能になる。設計と製造物の比較判定や製造プロセスの改善及び品質管理等に役立つ。
(6)強さの立体分布(3D表示)
摩耗痕を三次元形状測定機で計測した場合は、摩耗痕の深さだけでなく、摩耗痕の表面形状や断面形状等の3D形状曲線を取得することが可能である。3D形状曲線を取得することにより強さの立体分布のカラー画像が得られる。3Dの強さ情報は二次元の強さ情報に比べて観察する人に多くの情報を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】深さ方向に均一な強さの材料(例えば、Siウエハ)の断面形状(強さ分布)を計測した形状曲線データ群の説明図であり、エロージョンごとの摩耗痕間隔が深さ方向に略均一である。
【
図2】表面部の劣化が進行した樹脂材料(樹脂表面劣化材料)の断面形状(強さ分布)を計測した形状曲線データ群の説明図であり、〇で囲った部分(表面付近)の摩耗痕間隔が広く、強さが弱い(劣化している)ことが表れている。
【
図3】内部に欠陥がある多層材料の断面図であり、強さの異なるいくつかの筋状の部分(〇で囲った部分)の位置と大きさがわかる。
【
図4】計測された形状曲線の傾きずれの模式図であり、(a)は修正前、(b)は修正後の説明図。
【
図5】計測された形状曲線の上下ずれの模式図であり、(a)は修正前、(b)は修正後の説明図。
【
図6】計測された形状曲線の左右ずれの模式図であり、(a)は修正前、(b)は修正後の説明図。
【
図7】(a)は摩耗痕のエロージョン分布のイメージ図、(b)は(a)の図を縦横にメッシュ切り(区分)して、各区域にエロ―ジョン率を代入してカラースケール化する場合の説明図。
【
図8】(a)は計測された形状曲線の左右横軸補正の説明図、(b)は深さ縦軸補正の説明図。
【
図9】(a)は強さが均一分布である材料(例えば、Siウエハ)のMSE試験で形成された摩耗痕のプロファイルデータ(元データ)、(b)は(a)の元データをカラー表示した例であり、強さが均一分布である材料は一色に表示される例。
【
図10】(a)は実サンプル材料の摩耗痕を計測して取得された断面の元データ、(b)は(a)の元データをカラー画像表示した例であり、弱い材料A、強い界面B、弱い基材Cがカラーの濃淡で表示されている説明図。
【
図11】(a)はMSE評価装置により摩耗痕を形成する場合の説明図、(b)はMSE評価装置により形成された摩耗痕の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[材料の摩耗痕の形成及び計測データの取得]
本発明は、エロージョンによって材料に摩耗痕を形成し、形成された摩耗痕を形成されるたびに計測して形状曲線データ群(強度分布)を取得し、得られた形状曲線データ群をエロージョン率(強さ尺度)変換してカラー画像表示する方法である。摩耗痕の形成、摩耗痕の形状曲線の計測は種々の装置を使用して、種々の方法で行うことができる。一例として、本件発明者のMSE評価装置を使用して行うことができる。
【0012】
[MSE評価装置による摩耗痕の形成と、摩耗痕の計測]
MSE評価装置による摩耗痕の形成と摩耗痕の計測は次のようにして行うことができる。
図11(a)のように、被験体1を粒子投射装置にセットして、被験体1の表面2と粒子投射装置の投射ノズル3の出口3aの距離を固定し、投射ノズル3から一定量のスラリーを高圧空気と共に高速で、材料1の一箇所の表面から内部まで噴射して、材料の厚さ方向に一定の深さと大きさの摩耗痕(エロージョン痕)4(
図11(b))を形成する(エロージョンする)。
【0013】
一回のエロージョンによる摩耗痕4の形成、その摩耗痕4の計測を一サイクルの作業として、数サイクルの作業を必要回数、繰り返し行い、一回のエロージョンごとに、摩耗痕4の断面形状を測定して、各回の形状曲線のデータ(形状曲線データ:プロファイルデータ)を得る。
【0014】
一回のエロージョンで形成される摩耗痕4の深さ(エロージョン深さ)は評価目的、被験体1の材質、厚さ等に応じて設定することができるが、例えば数ナノメートル~数マイクロメートルである。
【0015】
計測の手順は、一回目に摩耗前の被験体1の表面2の形状曲線データを取得し基準データとする。二回目は、一定量の投射による摩耗痕4を作成し形状曲線データを得る。三回目以降は、同じ位置に一定量の投射を行い追加の摩耗痕4を作成し形状データを取得する。この繰り返しにより、摩耗痕4の断面の必要な深さ方向略全域を計測して、エロージョンごとの形状曲線データを取得する。得られた各回の形状曲線データを一回目の摩耗前の形状データを基準として並べた集合を形状曲線データ群(プロファイルデータ群:
図1、
図2、
図3)とする。
【0016】
形状曲線データ群における各々のプロファイル(一本の曲線)には、摩耗痕4の形状、材料自体に由縁の強度分布及びばらつきが粗さとして示されている。
【0017】
被験体1の表面2と投射ノズル3の出口3aの距離を一定にして、同じ位置関係でエロージョン、摩耗痕の計測を繰り返すことで、エロージョンするたびに、摩耗痕4の形状曲線データを、スラリー投射量との関係で得ることができる。
図1は深さ方向に均一な強さの材料(例えば、Siウエハ)の摩耗痕4の断面形状データ群であり、摩耗痕4の深さ方向の各形状曲線間が等間隔(略均一)である。
【0018】
摩耗痕4の形状計測は、粒子投射装置が備えている形状計測システム、又は粒子投射装置とは別に用意した形状計測システムにより行うことができる。形状計測は、触針を摩耗痕4に接触させて行う機械的計測、レーザ光などを摩耗痕4に照射し、摩耗痕4からの反射光を演算処理して摩耗痕4の形状を計測する光学式計測、その他の任意の形状計測方法で行うことができる。
【0019】
[形状曲線データ群のカラー画像化]
本発明では、前記のように摩耗痕の形成、計測を繰り返して取得した形状曲線データ群の各曲線のエロージョン率をカラースケールで表示可能にする。例えばX線CT(断層撮影)の断面画像のように、測定物の内部構造を断面画像化して誰でも観察が可能になるように、各計測部の強さをカラー画像化して断面の強さ分布画像として表示にすることで、断面の強さ分布を解かり易くする。
【0020】
一例として、
図10(b)のように、カラースケールを青から赤まで無段階表示色として、青は強(エロージョン率が低い)、赤は弱(エロージョン率が高い)に配色し、中間の強さはそれぞれエロージョン率に合わせて配色表示とすることで取得した形状曲線データ群全体の強弱カラー表示が可能になる。
【0021】
強さのカラー表示は材料や部品の断面の強さ分布を一目でわかるようになる。また強弱位置は縦横のスケールがあり精密に特定できる。欠陥の大きさや位置、積層の各膜厚強さや膜厚自体及び中間の変化様相の確認、成膜における成長違いなどの強さの分布、表面からの劣化による強さ変化の可視化等、様々なところで役立つ画像を提供できる。
【0022】
[基本的なデータ処理フロー]
本発明において、摩耗痕の計測データ群をカラースケールで表示にする場合の一例を次に記載する。
(1)前記エロージョンにより形成された摩耗痕のプロファイルは、強さが均一分布材の試験(計測)では
図1のようになり、表面劣化による表面部強さ低下材の試験(計測)では
図2のようになり、内部の欠陥等により強さが変化している材料の試験(計測)では
図3のようになる。
【0023】
(2)
図1において、初期表面(エロージョン前の表面)の形状曲線を計測した後、第一回目の摩耗痕の形状曲線との差分(形状曲線間の差分)は所定の投射量によって摩耗した深さを示している。一回目と二回目の形状曲線の差分も同様に所定の投射量によって摩耗した深さを示している。二回目以降の差分も同様に摩耗量を示していることから、各回の形状曲線間の差分は摩耗量を示している。ここでは、摩耗量を投射量で割った量をエロージョン率(前記式1)と定義し、強さの尺度と決めている。
【0024】
(3)各形状曲線間の左右位置及び上下位置について、上記式1によりエロージョン率を計算して、それぞれの位置の数値列を作ることができる。このような数値化をすべての各形状曲線間に適合すると、全ての形状曲線のエロージョン率数値化が可能になる。
【0025】
(4)エロージョン率をカラースケール(例えば、
図10(b))に適合することで全プロファイルをカラー表示可能になる。
【0026】
[データ処理のフローの概要]
本発明におけるデータ処理のフローは次のとおりである。
【0027】
[形状曲線データ群の取得]
前記エロージョンや計測には、計測装置や計測誤差、試験片の形状誤差などがあるため、実際に取得された形状曲線には誤差がある。本発明では、形状曲線の生成プロセス内に様々な演算を組み込んで、一連の試験から取得された複数の形状曲線の誤差を修正(補正)する必要がある。修正された形状曲線にする演算プロセス、演算項目を次に示す。
【0028】
[形状曲線の位置ずれ補正]
形状曲線の位置ずれ補正は、次の(ア)(イ)(ウ)について行う。
(ア)形状曲線の傾きずれの修正(
図4(a)(b))
(イ)形状曲線の上下ずれの修正(
図5(a)(b))
(ウ)形状曲線の左右ずれの修正(
図6(a)(b))
【0029】
[前記(ア)の傾きずれの修正(
図4)]
図4(a)は取得された形状曲線データの傾きずれを示す。
図4(a)において縦軸は摩耗痕の深さ、横軸は摩耗跡の水平方向の幅を示す。摩耗痕はエロ―ジョン開始時X1と終了時X2で異なる。適宜の幅で設定されたX1とX2は中央部摩耗痕を避け、摩耗の発生していない両端に設定してある。
図4(a)はX1とX2の分散内平均を取り、傾きaを算出したものである。
図4(b)は傾きを水平に修正した後、再度範囲内(摩耗痕内)の分散内平均h1、h2に修正したものである。この修正により、計測時の傾きずれが初期表面を含めて水平になる。
【0030】
[前記(イ)の上下ずれの修正(
図5)]
図5(a)は、
図4(b)のように傾きずれを補正後の形状曲線を示す。
図5(a)において縦軸は摩耗痕の深さ、横軸は摩耗跡の水平方向の幅を示す。摩耗跡はスラリーの噴射量の多い中心部では深く、噴射量の少ない両端では浅くなる。h1、h2は摩耗痕の左右箇所(曲線形状の両端)のX1とX2の分散内の平均値を示す。
図5(b)は分散内平均h1、h2をシフトさせて(図では下方にシフト)、h1、h2の上下の位置を初期表面である鎖線位置(適正な上下位置)に補正したものである。
【0031】
[前記(ウ)の左右ずれの修正(
図6)]
図6(a)は取得された形状曲線データ間の左右のずれを示す。
図6(a)において縦軸は摩耗痕の深さ、横軸は摩耗痕の距離を示す。
図6(a)のTiは試験片の形状曲線の基準位置で初期表面の形状曲線データ位置、Iiは二回目以降の形状曲線である。
図6(a)のように左右のずれがあると、深さ位置がずれるため、本発明では、この左右のずれを
図6(b)のように合致(マッチング)させる。
【0032】
[補正後の形状曲線データ群の形状曲線間のエロージョン率の算出]
上記のように修正した隣り合う二つの形状曲線間のエロージョン率を算出する。エロージョン率は形状曲線の差分の生ずる幅全面にわたって前記式1を使って算出する。この計算を形状曲線の数だけ繰り返して行うことで、取得された形状曲線全面がエロージョン率の数値マッピングになる。一例として、最後に取得された箇所(摩耗が最大に深くなった箇所)の形状曲線(
図7(a))の内側全面に、X軸方向とZ軸方向の各ポイントにエロージョン率が記録される数値マップ(
図7(b))となる。演算する方程式や記録の方法は既存の方程式や方法から選択可能である。画像内全面を数値化できたことで、次の各段の補正を簡単に行うことができる。
【0033】
[エロージョン率の補正]
MSE試験により生成される摩耗痕は摩耗の速度変化が含まれている。摩耗の速度変化は中央部表面を基準として、中央部から左右に離れるほど弱くなる特性と、深くなるに従って弱くなる特性を持っている。このため、摩耗痕の形状曲線には二つの因子が含まれていて、形状曲線データ群全体に渡って同じ基準で評価するには、強さの尺度であるエロージョン率は全面均一にするための補正が必要である。補正をすることで形状曲線全面にわたって同じ評価基準による強弱の評価が可能になる。補正項目は下記に示す。
【0034】
(ア)左右横軸補正
摩耗痕中央部を基準として左右の距離に相関した補正(
図8(a))を行う。
図8(a)は強さの均一な校正材に試験を行って得られたデータである。
図8(a)の縦軸は摩耗痕の深さを、左右横軸は摩耗痕の横幅を示す。強さの均一な校正材では、中央部も、左右に離れた箇所も同じエロージョン率になるはずであるが、試験を行って得られたデータでは、中央部のエロージョン率が、中心軸を対象に、左右に離れるほど小さくなる。これは、左右に離れるほど噴射領域が広がることなどに起因する。本発明では、校正材の左右各位置のエロージョン率を中央部と同じになるような補正定数を求め、実試料(被験体)のエロージョン率に外挿することで補正する。
(イ)深さ補正
摩耗痕の最表面を基準として深さ距離に相関した補正(
図8(b))を行う。
図8(b)の縦軸は摩耗痕の深さを、横軸は前記式1で計算されたエロージョン率(表面から摩耗痕の深さ方向のエロージョン率)を示す。
図8(b)の曲線点群A(×印:試験データ)は強さの均一な校正材に試験を行って得られた摩耗痕中央部のデータである。直線点群B(○印:補正後データ)は強さの均一な校正材のエロージョン率を示す。本来、直線点群Bのように表面側から摩耗痕の深さ方向に直線状になるべき(摩耗痕の深さに関係なく略均一になるべき)であるが、試験を行って得られたデータでは曲線点群Aのデータになり、深さ方向のエロージョン率が低下する。これは、噴射領域が深くなるほどにスラリー同士の緩衝効果で噴射強度が弱まることに起因する。本発明では、校正材の深さ方向のエロージョン率変化を表面部と同じ数値になるような補正定数を求め、実試料の深さエロージョン率変化に外挿して補正する。
【0035】
[カラースケールへの変換]
上記にて補正されたエロージョン率をカラースケールに変換する。この変換は、一般的に普及している公知の変換方法により、色諧調とエロージョン率を相関させることである。最終的に、形状曲線内全面を色諧調の数字マップに置き換える(
図7(b))。
【0036】
[画像表示]
表示画面には、表示や印刷対応として高速処理が望まれる。上記で計算された色諧調の数値(カラー変換データ)を、画像変換(例えば、汎用のビットマップ等)して高速表示や駆動を可能にする。表示内容は、例えば全面表示や拡大縮小表示や部分拡大表示など、また試験と同じように表面から順次進む様子を動画で表示することも可能になる。
【0037】
均一の強さ分布の材料(例えば、Siウエハ、サファイアウエハ等)では、MSE試験で取得された元データ(
図9(a))を、本発明における前記処理を行った上で、カラー表示すると、元データ全体が均一な一色になる(
図9(b))。本発明では、カラー校正を、強さが均一分布の材料を基準として行うことができる。
【0038】
強さが異なる材料では、MSE試験で取得された元データ(
図10(a))を、本発明における前記処理を行った上で、カラー表示すると、元データの強弱に応じて色の濃さが異なって表示される。また、欠陥の強弱と欠陥位置がわかる(
図10(b))。
【産業上の利用可能性】
【0039】
前記実施形態はあくまでも本発明の一例である。本発明は課題を解決可能な範囲で、作業手順や補正方法等を設計変更可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 被験体
2 (被験体の)表面
3 投射ノズル
3a (投射ノズルの)出口
4 摩耗痕(エロージョン痕)