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特開2023-110321梁用長尺鋼材の製造方法及び梁用長尺鋼材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110321
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】梁用長尺鋼材の製造方法及び梁用長尺鋼材
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/14 20060101AFI20230802BHJP
   B66F 9/24 20060101ALI20230802BHJP
   E04C 3/04 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
E04G21/14
B66F9/24 A
E04C3/04
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011690
(22)【出願日】2022-01-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】521111836
【氏名又は名称】株式会社ソエジマ
(74)【代理人】
【識別番号】230116447
【弁護士】
【氏名又は名称】野中 啓孝
(72)【発明者】
【氏名】副島 良廣
【テーマコード(参考)】
2E163
2E174
3F333
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FB02
2E174AA01
2E174BA03
2E174CA06
2E174CA23
2E174DA08
2E174DA13
3F333AA02
3F333AA20
3F333AE02
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、取付部材が多種多様のパターンで多数取り付けられた梁用長尺鋼材の全てを一律に受け台へ載置してフォークリフトで搬送する工程を採用して梁用長尺鋼材を製造する方法を提供することである。
【解決手段】
本発明にかかる梁用長尺鋼材の製造方法は、フォークリフトによる搬送を可能とするために、フォークリフト搬送のために障害となり得る平面領域以外の領域について取付部材を固定し、平面領域を利用してフォークリフト搬送をした後に、平面領域に追加取付部材を追加で固定するというものである。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形鋼又はI形鋼である長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域である平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のすべてに取付部材を固定する工程(I)と、
前記平面領域を下向きにして受け台上に載置して前記長尺鋼材を一時保管する工程(II)と、
フォークリフトのフォークが、前記平面領域と接触することによって、前記長尺鋼材を持ち上げて次の作業場に搬送する工程(III)と、
搬送後の前記長尺鋼材の前記平面領域に、追加取付部材を固定する工程(IV)と、
を備える梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(I)において、前記取付部材が固定された後の前記長尺鋼材の重量が1トン以上、かつ、長さが6メートル以上であることを特徴とする請求項1に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(I)において、前記平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のそれぞれに5個以上、合計20個以上の前記取付部材を固定することを特徴とする請求項1又は2に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の前記平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上の前記取付部材を固定することを特徴とする請求項3に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(III)において、前記フォークリフトが無人自動運転されているものであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記工程(IV)において、前記追加取付部材が網掛け用フック部材であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項7】
H形鋼又はI形鋼である長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域である平面領域以外の、上下フランジ部、左右ウェブ部のそれぞれに5個以上、合計20個以上の前記取付部材が固定されたことを特徴とする梁用長尺鋼材。
【請求項8】
前記長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の前記平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上の前記取付部材が固定されたことを特徴とする請求項7記載の梁用長尺鋼材。
【請求項9】
前記長尺鋼材の重量が1トン以上、かつ、長さが6メートル以上であることを特徴とする請求項7記載の梁用長尺鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁用長尺鋼材の製造方法、及び梁用長尺鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
H形鋼やI形鋼といった長尺鋼材の一つの用途として、建築物の梁がある。柱が鉛直方向に建つ構造部材であるのに対して、梁は、柱によって支えられ、水平方向に固定された構造部材である。建築材料に用いられるH形鋼やI形鋼などの梁用長尺鋼材は、軽いものでも1トン以上、重いものでは10トン以上も重量がある。
【0003】
このような梁用長尺鋼材には、通常、柱や他の梁と連結するための部材や、建設作業時に必要となる部材などの取付部材が数多く表面に取り付けられている。特に、高層ビルなどの大きな建築物になれば、取付部材の種類・数も相当な数になる。
【0004】
この取付部材の種類・位置・数は、梁用長尺鋼材の種類毎に異なり、多種多様のパターンが存在することになる。このため、取付部材がフォークリフト搬送の障害となるため、取付部材が多種多様のパターンで多数取り付けられた梁用長尺鋼材の全てを一律に受け台へ載置してフォークリフトで搬送する工程を採用して梁用長尺鋼材を製造することは実現していなかった。
【0005】
このような事情から、従来は、製造現場において長尺鋼材を搬送する際は、常時、天井クレーンやクレーン車を利用した搬送が行われてきた。
【0006】
しかしながら、天井クレーン等による搬送の場合は、長尺鋼材をワイヤロープで固定して釣り上げ、次の工程へと運ぶことになるが、その都度作業者が補助をしながら天井クレーン等を操作する必要があり、著しく作業効率が悪く、作業者にとっても危険度の高い作業であった。製造現場によっては、このようなクレーン作業による搬送が、1日に数十回~百回程度もあり、負担となっていた。また、昨今の人材不足により、そのようなスキルを有する作業者を育成し、確保しておくことが益々難しい状況になってきている。
【0007】
更に、天井クレーンを用いる場合は、工場の天井がクレーン及び吊り上げる長尺鋼材の荷重に耐えることのできる構造を有している必要があるため、通常より多くの柱を設けて構造を補強する必要があるなど、設備コストが高くなる(工場建設自体にも費用が掛かる)という問題があった。
【0008】
図1は、従来技術の一例である梁用長尺鋼材100の斜視図である。梁用長尺鋼材100の全面に多種多様の取付部材20~29が多数溶接されていることが分かる。これらの取付部材はすべて、製造工場内において、H形鋼に固定されるものである。
【0009】
図2は、図1の梁用長尺鋼材100をフォークリフトで搬送しようとする様子を図1のX方向(H形鋼の背面側)から見た図である。図2では、取付部材20aが、受け台31、32、フォーク41に接触する様子を説明している。
【0010】
梁用長尺鋼材を載置するための受け台は、重量があって安易には動かすことができないものであることから、梁用長尺鋼材が受け台に接触する位置に取付部材が存在すれば、そもそも梁用長尺鋼材を受け台に載置することができないことになる。このように、図2では、取付部材20aがそれぞれ受け台31、32に接触するため、梁用長尺鋼材100を受け台31、32に載置することができない。
【0011】
仮に取付部材20aの位置が異なっており、梁用長尺鋼材100を受け台31、32に載置することができる場合であっても、取付部材がフォークリフトに接触してしまう場合もある。図2では、取付部材20bがフォーク41に接触するため、梁用長尺鋼材100をフォークリフトで搬送することができない。なお、フォークリフトは市販車を用いるため、長尺鋼材の長さに対してフォークの幅(約1.8m)が狭いことになり、安定してフォークリフト搬送するための中央位置合わせ(センタリング)を正確に行う必要があり、フォークが接触する領域に取付部材が存在すれば、この中央位置合わせができないか、或いは著しく困難な場合も発生する。このように、フォークが入るスペースがあるからといって、必ずしもフォークリフトで梁用長尺鋼材100を搬送できるわけではない。
【0012】
上述の通り、梁用長尺鋼材の取付部材の種類・位置・数は、多種多様であり、フォークリフト搬送のことを考慮して一つ一つ設計変更することは、事実上不可能であった。このような理由から、フォークリフトによる搬送は実現できず、現在に至るまで作業者による天井クレーンやクレーン車を利用した搬送に頼らざるを得ない状況であった。
【0013】
特許文献1には、長尺材の加工作業が開示されている。また、特許文献2、3には、梁用長尺鋼材が開示されている。しかしながら、いずれについても、本発明の工程(I)~(IV)については記載がなく、また、合計20個以上の取付部材が固定されているものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平10-045241号公報
【特許文献2】特開2003-176570号公報
【特許文献3】特開2016-216905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、取付部材が多種多様のパターンで多数取り付けられた梁用長尺鋼材の全てを一律に受け台へ載置してフォークリフトで搬送する工程を採用して梁用長尺鋼材を製造する方法である。また、本発明の別の課題は、更にフォークリフトを自動化することにより、人材不足を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかる梁用長尺鋼材の製造方法は、フォークリフトによる搬送を可能とするために、フォークリフト搬送のために障害となり得る平面領域以外の領域について取付部材を固定し、平面領域を利用してフォークリフト搬送をした後に、平面領域に追加取付部材を追加で固定するというものである。
【0017】
すなわち、本発明にかかる梁用長尺鋼材の製造方法は、H形鋼又はI形鋼である長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域である平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のすべてに取付部材を固定する工程(I)と、平面領域を下向きにして受け台上に載置して長尺鋼材を一時保管する工程(II)と、フォークリフトのフォークが、平面領域と接触することによって、長尺鋼材を持ち上げて次の作業場に搬送する工程(III)と、搬送後の長尺鋼材の平面領域に、追加取付部材を固定する工程(IV)とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる別の梁用長尺鋼材の製造方法は、工程(I)において、取付部材が固定された後の長尺鋼材の重量が1トン以上、かつ、長さが6メートル以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる別の梁用長尺鋼材の製造方法は、工程(I)において、平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のそれぞれに5個以上、合計20個以上の取付部材を固定することを特徴とする。
【0020】
本発明にかかる別の梁用長尺鋼材の製造方法は、長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上の取付部材を固定することを特徴とする。
【0021】
本発明にかかる別の梁用長尺鋼材の製造方法は、工程(III)において、フォークリフトが無人自動運転されているものであることを特徴とする。
【0022】
本発明にかかる別の梁用長尺鋼材の製造方法は、工程(IV)において、追加取付部材が網掛け用フック部材であることを特徴とする。
【0023】
本発明にかかる梁用長尺鋼材は、H形鋼又はI形鋼である長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域である平面領域以外の、上下フランジ部、左右ウェブ部のそれぞれに5個以上、合計20個以上の取付部材が固定されたことを特徴とする。
【0024】
本発明にかかる梁用長尺鋼材は、長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上の取付部材が固定されたことを特徴とする。
【0025】
本発明にかかる梁用長尺鋼材は、長尺鋼材の重量が1トン以上、かつ、長さが6メートル以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、取付部材が多種多様のパターンで多数取り付けられた梁用長尺鋼材の全てを一律に受け台へ載置してフォークリフトで搬送する工程を採用して梁用長尺鋼材を製造する方法が提供されるため、作業効率が高くなる、作業員の怪我を回避できる、設備コストを節約できる、などの効果が期待できる。また、無人自動フォークリフト搬送を可能とすることにより、人材不足を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】従来技術としての梁用長尺鋼材100を説明する図である。
図2】従来技術としての梁用長尺鋼材100がフォークリフト搬送できないことを説明する図である。
図3】長尺鋼材(H形鋼)10を説明する図である。
図4】長尺鋼材(H形鋼)10における平面領域50を説明する図である。
図5】本発明の梁用長尺鋼材200の一例の斜視図及び底面図である。
図6】本発明の梁用長尺鋼材200がフォークリフト搬送できることを説明する図である。
図7】本発明の梁用長尺鋼材200をフォークリフト搬送する様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(本発明の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明は、本発明の実施形態であって、特許請求の範囲に記載の内容を限定するものではない。また、図面は発明の内容を説明するためのものであり、その寸法は必ずしも正確でない場合がある。
【0029】
(長尺鋼材)
本発明の長尺鋼材は、H形鋼又はI形鋼である。
【0030】
H形鋼としては、BH(Build H)と呼ばれる鋼板を溶接してH形にしたものと、RH(Roll H)と呼ばれるロール成型の圧延で製造されたものがある他、JIS-H形鋼と呼ばれるJIS規格品(内法が一定)や、外法一定H形鋼も存在する。本発明においては、いずれのH形鋼も含むものとする。
【0031】
図3は、H形鋼10の概略を説明する図である。図3(a)は、H形鋼10を真横(「工」文字に見える方向)から見た図であり、図3(b)は、H形鋼10の斜視図である(厚みは省略している。)。H形鋼は、上フランジ11、下フランジ12、ウェブ13で構成される。フランジの上下は、そのH形鋼を梁用として使用した場合にいずれが上下になるかということに対応している。
【0032】
本発明において、「上下フランジ部」「左右ウェブ部」とは、それぞれ、図3(a)のようにH形鋼を見たときの、上フランジ11、下フランジ12の外側面、ウェブ13の左右側面のことをいう。
【0033】
I形鋼は、H形鋼と構造が似ているが、フランジ部分の厚みが一定でない点がH形鋼と異なる。I形鋼も、H形鋼同様、建築材料として用いるために取付部材を溶接する必要がある。本発明においては、H形鋼だけでなく、I形鋼も長尺鋼材に含まれる。
【0034】
本発明で用いられる長尺鋼材の重量と長さは、特に限定はされないが、取付部材が固定された後の長尺鋼材の重量が1トン以上、かつ、長さが6メートル以上である。本発明で用いられる長尺鋼材は、大きいものだと3トン以上、かつ、長さが10メートル以上にもなる。
【0035】
通常は、鉄鋼業者が長尺鋼材を製造し、それを加工業者が加工する。本発明においては、加工業者が長尺鋼材を鉄鋼業者から購入することで準備することができる。もちろん、加工業者自身が長尺鋼材を自社で製造するということであってもよい。
【0036】
以下では、長尺鋼材の典型例であるH形鋼を用いて説明する。
【0037】
(平面領域)
本発明の平面領域は、長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域である。平面領域は、長尺鋼材の下フランジ部の中央に5.6メートルの領域として存在する。図4は、平面領域50を概略的に示したものである。工程(I)では、この平面領域50には、取付部材が一切固定されない。その後、フォークリフト搬送工程(III)を終えた後に、工程(IV)において、追加取付部材が取り付けられることになる。
【0038】
上フランジ部、左右ウェブ部の平面領域に対応する中央領域は、上フランジ部、左右ウェブ部のうち、下フランジ部の平面領域と同じ幅の中央の領域をいう。当該中央領域には、工程(I)において、取付部材が取り付けられることが通常である。
【0039】
(取付部材)
本発明の取付部材は、長尺鋼材を梁として使用するために必要な部材をいう。図5の取付部材20~29がその例である。例えば、取付部材21、22、23、25、26は、他の部材と連結するための部材であり、孔を利用してボルトナットで固定するためのものである。取付部材27は、長尺鋼材を建設作業中にクレーンで吊る際に引っ掛ける部材である。取付部材28、29は、長尺鋼材を固定した後、壁を設置する場合に壁の位置合わせの目印及び壁止めとなる部材である。取付部材20は、建設作業中に転落防止ネットを引っ掛ける部材である。このように、梁用長尺鋼材には、多様多種の取付部材が多数固定されている。
【0040】
上下フランジ部に固定された取付部材は、当然ながら上下フランジ部から出っ張っている構造になるため、フランジ部を水平にしてフォークリフト搬送する際の障害となり得る。左右ウェブ部に固定された取付部材は、小さいものであれば、左右ウェブ部からは出っ張っているものの、上下フランジ部の幅内に収まる(図3の符号Pを超えない)ことになり、ウェブ部を水平にしてフォークリフト搬送する際であっても障害とならないことになる。本発明において、左右ウェブ部に固定された取付部材は、そのような小さいものではなく、上下フランジ部の幅内に収まらない(図3の符号Pを超える)ものをいい、ウェブ部を水平にしてフォークリフト搬送する際に障害となり得るものをいう。
【0041】
(追加取付部材)
本発明の追加取付部材は、長尺鋼材をフォークリフトで搬送した後に、平面領域に固定される部材である。このように、フォークリフトで搬送した後に平面領域に固定することにより、フォークリフト搬送時には搬送の障害にならないことになる。平面領域は下フランジ部に設けられることから、この追加取付部材は、多くの場合、取付部材20のように、建設作業中に転落防止ネットを引っ掛ける網掛け用フック部材である。追加取付部材が網掛け用フック部材であれば、他の取付部材と異なり取付位置にそこまで精度が求められず、かつ小さい部材であるためフォークリフト搬送後に比較的簡単に取付できるので便利である。
【0042】
(固定)
本発明の固定とは、長尺鋼材に、取付部材または追加取付部材を仮溶接または本溶接することをいう。仮溶接とは、接合部分の一部を溶接して仮止めするものであるのに対して、本溶接とは、接合部分の全体を溶接するものである。仮溶接は本溶接と比較して短時間で取付部材を固定させることができる。固定強度を考慮すれば、最終的にはすべての取付部材について本溶接して梁として使用する必要がある。ただ、多数の取付部材が取付けられている梁用長尺鋼材の場合、最初は仮溶接して作業を進めておき、その後出荷までのどこかの工程で本溶接する方が、作業効率が良い場合もあるため、仮溶接という方法が一時的に取られることが多い。本発明においては、固定とは、仮溶接または本溶接の両方を意味する。最初に仮溶接しておき、その後の工程で本溶接する場合は、最初の仮溶接が固定に該当する。
【0043】
以下では、本発明の梁用長尺鋼材の製造方法の一実施形態である工程(I)~(IV)を詳細に説明する。
【0044】
(工程(I))
工程(I)は、H形鋼又はI形鋼である長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域である平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のすべてに取付部材を固定する工程である。
【0045】
図5(a)は、工程(I)を終えた後の取付部材が取付された長尺鋼材200の斜視図である。また、図5(b)は、図5(a)のY方向から、下フランジ部を見た底面図である。平面領域50(網掛け部)が長尺鋼材の下フランジ部に設けられている。
【0046】
図5(b)に図示した通り、工程(I)において、長尺鋼材の下フランジ部に設けられた平面領域50には、取付部材が一切固定されない。この平面領域50を設けることによって、工程(II)や工程(III)においてこの平面領域50を利用することができ、取付部材が障害とならないようにすることができる。
【0047】
他方で、長尺鋼材の下フランジ部に設けられた平面領域50以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のすべてには取付部材が固定される。これらの領域は、工程(II)や工程(III)において、障害となることがないために、自由に取付部材の種類・位置・数を設計することが可能である。
【0048】
取付部材を固定するのは、手作業で行ってもよいが、特許文献1にあるように機械作業で行ってもよい。機械作業で行う場合には、数多くの取付部材を効率的に固定(通常は仮溶接)することが可能となる。
【0049】
本発明の梁用長尺鋼材は、高層ビル建築に用いられることもあり、数多くの取付部材が固定されることも多い。取付部材の数は、例えば、工程(I)において、平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のそれぞれに5個以上、合計20個以上である。図5は、その一例である。
【0050】
本発明の梁用長尺鋼材は、更に、長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上の取付部材を固定される場合もある。図5は、その一例である。
【0051】
(工程(II))
工程(II)は、平面領域を下向きにして受け台上に載置して長尺鋼材を一時保管する工程である。受け台は、重量物である長尺鋼材を安定的に保管できるものであれば何でもよい。受け台としては、H形鋼やI形鋼を工場の床に設置したものが利用されることもある。
【0052】
図6は、平面領域50を下向きにして受け台31、32上に載置した工程(II)の様子を説明する図である。工程(I)では平面領域50に取付部材が一切固定されないため、工程(II)において、平面領域50を下向きにして受け台上に載置する際に取付部材が障害となることはない。そのため、載置する際に精密な位置決めをする必要はない。
【0053】
本発明の梁用長尺鋼材は、取付部材が、長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上固定されている場合もある。図5は、その一例である。このような場合は、取付部材が障害となるため、平面領域以外の面を下向きにして受け台上に載置することが困難となる。
【0054】
(工程(III))
工程(III)は、フォークリフトのフォークが、平面領域と接触することによって、長尺鋼材を持ち上げて次の作業場に搬送する工程である。工程(II)を終えた長尺鋼材をそのまま受け台に保管しておくと、保管場所がいっぱいになって、工程(I)が稼働できなくなるためである。搬送先では、工程(II)を終えた長尺鋼材に対して、工程(IV)を行ったり、出荷作業を行ったりする。
【0055】
フォークリフトとしては、重量物である長尺鋼材を安定的に搬送することができるものであれば何でもよい。通常のフォークリフトであれば、4トン程度までの重量物を搬送することができる。フォークリフトとして、作業者が運転する市販フォークリフト車を利用してもよいし、自動運転をする特注のフォークリフト車であってもよい。
【0056】
特に、無人自動運転をするフォークリフト車であれば、人材不足も解消でき、夜間も作業が可能となるため、製造効率をより高めることができる。フォークリフトの無人自動運転については、特開2020-138819、特開2019-105995など適宜周知技術を利用することが可能である。
【0057】
フォークリフトを無人自動運転する場合は、長尺鋼材の載置場所、重心位置を含む情報を予めフォークリフトに入力することで、自動で長尺鋼材をピックアップして次の作業場へ搬送することができる。フォークリフトの無人自動運転の際に、長尺鋼材をピックアップするポイントが多少ずれることがあっても、取付部材が一切存在しない平面領域が存在するため、搬送に大きな影響は生じない。また、長尺鋼材の種類ごとに取付部材の位置の詳細情報を入力しておく必要もなく、簡便に自動操作できる。
【0058】
平面領域は、長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域である。この幅は、フォークリフトを無人自動運転する際に必要となる自動運搬装置(幅約5メートル)であっても障害とならないように余裕をもって設計する値である。
【0059】
図7は、フォークリフトのフォークが、平面領域と接触することによって、長尺鋼材を持ち上げて次の作業場に搬送する工程(III)の様子を説明する図である。工程(I)では平面領域に取付部材が一切固定されないため、工程(III)において、フォークリフトで搬送する際に取付部材が障害となることはない。平面領域以外の領域に取付部材が数多く固定されていたとしても、フォークと接触することはないため、フォークリフト搬送には障害とはならない。
【0060】
工程(III)において、次の作業場には受け台が置いてあり、平面領域を下向きにして受け台と接触させて保管することが可能である。
【0061】
本発明の梁用長尺鋼材において、平面領域を設けることの意義は、多様多種のパターンの梁用長尺鋼材に関して、一律にフォークリフト搬送を可能とした点にある。個別の梁用長尺鋼材を見れば、固定された取付部材の隙間に受け台とフォークを差し込んでフォークリフト搬送ができる場合がないわけではないが、それは個別の梁用長尺鋼材についてフォークリフト搬送しているに過ぎず、多様多種のパターンの梁用長尺鋼材を一律にフォークリフト搬送する製造工程を提供するものではない。
【0062】
重量物である長尺鋼材を安定的にフォークリフトで搬送するためには、安定してフォークリフト搬送するための中央位置合わせ(センタリング)を正確に行う必要があり、フォークが接触する領域に取付部材が存在すれば、この中央位置合わせができないことになる。受け台やフォークが接触する領域を計算してそこに取付部材が存在しないように梁用長尺鋼材を設計するということも考えられるが、多様多種のパターンの梁用長尺鋼材の全てについてそのような設計をすることが、機能面から受け台やフォークが接触する位置に取付部材を固定せざるを得ず不可能な場合もあるし、受け台やフォークが接触する位置に取付部材を固定しなくてもよい場合であっても、逐一そのような設計をすることが作業効率面から現実的でない場合もある。
【0063】
従って、本発明の梁用長尺鋼材の製造方法において、一律に平面領域を設けることは、フォークリフト搬送を一律に可能とするだけでなく、作業効率を高める効果も有する。
【0064】
(工程(IV))
工程(IV)は、フォークリフト搬送後の長尺鋼材の平面領域に、追加取付部材を固定する工程である。フォークリフト搬送後に平面領域に追加取付部材を固定することにより、フォークリフト搬送には影響を与えることなく、かつ、平面領域に固定すべき取付部材を後付けすることができる。追加取付部材の例としては、網掛け用フック部材が挙げられる。
【0065】
追加取付部材を固定する際には、取付部材の数が少ないため、手作業で行うことが通常である。この際、受け台上に置かれた梁用長尺鋼材をクレーン車によって手作業で回転させて平面領域を作業しやすい向きに置き換えて作業することができる。この段階でクレーン車や天井クレーンを使用することがあっても、製造工程全体としては、クレーン車や天井クレーンを使用する頻度が大幅に少なくなる。
【0066】
なお、工程(I)において、機械作業で取付部材を仮溶接で固定した場合は、工程(IV)の追加取付部材を固定する作業に加えて、本溶接をする作業を行ってもよい。
【0067】
工程(IV)を終えた後の長尺鋼材は、外部に出荷されることになる。この出荷は、例えば、クレーン車を用いて行われる。
【0068】
以下では、本発明の梁用長尺鋼材材の一実施形態を詳細に説明する。
【0069】
本発明の梁用長尺鋼材は、H形鋼又はI形鋼である長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域である平面領域以外の、上下フランジ部、左右ウェブ部のそれぞれに5個以上、合計20個以上の取付部材が固定されたことを特徴とする梁用長尺鋼材である。本発明の梁用長尺鋼材の製造方法の工程(I)で製造された後の長尺鋼材である。本発明の梁用長尺鋼材は、更に、長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上の前記取付部材が固定されたことを特徴としている。この長尺鋼材は、重量が1トン以上、かつ、長さが6メートル以上になることが通常である。
【0070】
本発明の梁用長尺鋼材は、全体に取付部材が数多く固定されているにも関わらず、平面領域には取付部材が一切固定されていないため、フォークリフト搬送が容易である。
【符号の説明】
【0071】
10 H形鋼
11 上フランジ
12 下フランジ
13 ウェブ
20~29 取付部材
31、32 受け台
41 フォーク
42 フォークリフト
50 平面領域
100 従来技術としての梁用長尺鋼材
200 本発明の梁用長尺鋼材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形鋼又はI形鋼である長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域であり、取付部材が一切固定されていない平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のすべてに取付部材を固定する工程(I)と、
前記平面領域を下向きにして受け台上に載置して前記長尺鋼材を一時保管する工程(II)と、
フォークリフトのフォークが、前記平面領域と接触することによって、前記長尺鋼材を持ち上げて次の作業場に搬送する工程(III)と、
搬送後の前記長尺鋼材の前記平面領域に、追加取付部材を固定する工程(IV)と、
を備える梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(I)において、前記取付部材が固定された後の前記長尺鋼材の重量が1トン以上、かつ、長さが6メートル以上であることを特徴とする請求項1に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(I)において、前記平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のそれぞれに5個以上、合計20個以上の前記取付部材を固定することを特徴とする請求項1又は2に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の前記平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上の前記取付部材を固定することを特徴とする請求項3に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(III)において、前記フォークリフトが無人自動運転されているものであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記工程(IV)において、前記追加取付部材が網掛け用フック部材であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の梁用長尺鋼材の製造方法。
【請求項7】
H形鋼又はI形鋼である長尺鋼材の下フランジ部の中央から長手方向両端に向かって2.8メートル以内の領域であり、取付部材が一切固定されていない平面領域以外の上下フランジ部、左右ウェブ部のそれぞれに5個以上、合計20個以上の取付部材が固定されたことを特徴とする梁用長尺鋼材。
【請求項8】
前記長尺鋼材の上フランジ部、左右ウェブ部の前記平面領域に対応する中央領域に、それぞれ3個以上、合計9個以上の前記取付部材が固定されたことを特徴とする請求項7記載の梁用長尺鋼材。
【請求項9】
前記長尺鋼材の重量が1トン以上、かつ、長さが6メートル以上であることを特徴とする請求項7記載の梁用長尺鋼材。