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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110365
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】カチオン化ベシクル及びその組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/63 20060101AFI20230802BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20230802BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20230802BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230802BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20230802BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20230802BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20230802BHJP
   A61K 8/41 20060101ALI20230802BHJP
   C09K 23/18 20220101ALI20230802BHJP
【FI】
C07C211/63 CSP
A61K8/44
A61K8/46
A61Q19/00
A61Q5/00
A61Q1/00
A61K8/14
A61K8/41
C09K23/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011763
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】593196643
【氏名又は名称】ワミレスコスメティックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505195384
【氏名又は名称】国立大学法人奈良国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】川口 春馬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 暢浩
(72)【発明者】
【氏名】平田 直之
(72)【発明者】
【氏名】吉村 倫一
(72)【発明者】
【氏名】矢田 詩歩
【テーマコード(参考)】
4C083
4H006
【Fターム(参考)】
4C083AC581
4C083AC691
4C083AC692
4C083AC902
4C083AD132
4C083AD492
4C083AD572
4C083AD611
4C083CC02
4C083CC31
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB12
(57)【要約】
【課題】皮膚および毛髪への吸着性を有し、様々な成分を内包可能な、化粧品に配合するのに適した安定なベシクル組成物およびベシクル組成物の安定化方法を提供する。
【解決手段】新規なジェミニ型界面活性剤が配合されたカチオン化ベシクル、当該ジェミニ型界面活性剤を添加することによるカチオン化ベシクルの安定化方法、並びに化粧品有効成分を内包したカチオン化ベシクルおよびその化粧品における使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式
【化1】
で表わされる、化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物が配合された、カチオン化ベシクル。
【請求項3】
多層ベシクルである、請求項2に記載のカチオン化ベシクル。
【請求項4】
Ζ電位が+20mV以上である、請求項2または3に記載のカチオン化ベシクル。
【請求項5】
粒径が20nm~200nmである、請求項2~4のいずれかに記載のカチオン化ベシクル。
【請求項6】
請求項5に記載のカチオン化ベシクルに化粧品有効成分が保持された、有効成分内包カチオン化ベシクル。
【請求項7】
前記有効成分がミネラル類、アミノ酸類、陰イオン界面活性剤、ビタミン類および美白系原料、抗糖化原料、抗酸化原料、抗シワ原料、抗シミ原料からなる群から選択される、請求項6に記載の有効成分内包カチオン化ベシクル。
【請求項8】
1種またはそれ以上の請求項7に記載の有効成分内包カチオン化ベシクルを含有する化粧品。
【請求項9】
スキンケア化粧品、メーキャップ化粧品、ボディケア化粧品、ヘアケア化粧品、またはヘアケア化粧品である、請求項8に記載の化粧品。
【請求項10】
請求項8に記載の化粧品を皮膚又は毛髪に塗布することを含む、美容施術方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規製剤化技術に関する。特に、本発明は、ジェミニ型界面活性剤を含有するカチオン化ベシクル及びその製造方法、そのようなカチオン化ベシクルの化粧品としての利用、並びにジェミニ型界面活性剤をベシクル膜に導入することによるカチオン化ベシクルの安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベシクルとは、両親媒性分子の自己会合により形成される二重膜で包まれた小胞であり、特に細胞膜と同様のリン脂質二重膜からできたものはリポソームと呼ばれる。ベシクル(リポソーム)には各種物質を封入することができる。リポソームは、内部に封入した物質の細胞内への送達に利用可能であり、医薬品のデリバリー技術(DDS:薬物送達システム)におけるキャリアとして研究開発が行われている。
【0003】
リポソームを用いたDDSに類似した技術を用いた化粧品は、ナノコスメ、ナノカプセルなどの呼称で宣伝されている。特許第5623076号(特許文献1)には、リゾリン脂質を利用したベシクル組成物および該ベシクル分散組成物からなる皮膚外用剤が記載されている。特開2012-206948(特許文献2)には、酸性領域においても安定なリポソーム組成物および該組成物を含有する化粧料及び皮膚外用剤が記載されている。特開2007-176820および特開2007-176821(特許文献3および4)には、水性媒体に分散させて安定したリポソームを得ることができる粉末状リン脂質組成物を用いて化粧料を作ることが記載されている。
【0004】
化粧品のように局所的に塗布して使用される組成物において、有効成分の細胞内への浸透を向上させるための工夫が行われている。
カチオン化とは、物質をプラスに帯電させることである。皮膚はマイナスに帯電しているので、プラスの物質が吸着しやすい。
【0005】
特許第4950419号および特許第5220546号(特許文献5および6)には、化粧品への利用を目的として、皮膚または毛髪の細胞中への、物質の細胞内浸透を促進するように成分が工夫されたリポソームが記載されている。
【0006】
特開2006-35036(特許文献7)には、水溶性固体マトリックス中に油性薬剤が油滴として分指された状態で包含され、さらに水中でカチオン性を示す乳化物質を含む、油性薬剤含有粒子が記載されている。
【0007】
特表2014-516030(またはWO2012/156109、特許文献8)には、UV保護材として皮膚又は毛髪に局所適用するための、正表面電荷を有するベシクル内にカプセル化された親油性UVフィルタ物質について記載されている。
【0008】
特開2016-108285(特許文献9)には、化粧品の有効成分としてのミネラルを内包したカチオン化ベシクルが記載されている。カチオン化させるための物質としては、皮膚および毛髪への吸着性に優れたカチオン化ヒアルロン酸が好ましいとされている。
【0009】
WO2019-111415(特許文献10)には、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとカチオンモノマーを含むカチオン化ポリマーでカチオン化させた、化粧品に添加して使用するためのカチオン化ベシクルであって、カチオン化ポリマー中のカチオンモノマーの割合が50%以上である、カチオン化ベシクルが記載されている。
【0010】
ジェミニ型界面活性剤とは、一疎水鎖一親水基の両親媒性分子が、スペーサーを介して親水基もしくはその近傍で連結されて、ジェミニ型(双子型)の構造を有する界面活性剤である(図1)。分子内に疎水基と親水基をそれぞれ2つずつ持つことで、一般的な界面活性剤よりも優れた機能を有すると考えられている。例えば、ジェミニ型界面活性剤は、高い界面活性作用を有し、その活性の高さゆえの少量使用による環境負荷の低減という利点をもたらす。化粧品原料として実用化されているジェミニ型界面活性剤として、アミノ酸をスペーサーとするペリセア(登録商標)(旭化成ファインケム株式会社製)、ホスホリルコリン類似基をスペーサーとするVinoveil(登録商標)(ヴィノベール)(日油株式会社製)等が知られている。
【0011】
特開2008-255109(特許文献11)には、(a)ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム(ペリセア(登録商標))、(b)コレステロール及び/又はフィトステロール、(c)モノステアリルグリセリンエーテル、(d)ジプロピレングリコール、および(e)水を含有した安定なベシクル組成物、及び、該ベシクル組成物を配合した皮膚外用剤が記載されている。
【0012】
非特許文献1には、毛髪吸着性能とケア効果の向上を目的として、2-(Dimethyldocosylammonio)ethyl octadecyl ethyl phosphate(DOEP、Vinoveil(登録商標)-BS-100P)をカチオン性化合物と複合化したことが記載されている。
【0013】
ジェミニ型界面活性剤は次世代型界面活性剤として様々な分野で注目されているが、カチオン化ベシクルに応用した事業例は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第5623076号「ベシクル組成物、及び皮膚外用剤」
【特許文献2】特開2012-206948「リポソーム組成物、並びにそれを用いた化粧料、皮膚外用剤及びその製造方法」
【特許文献3】特開2007-176820「粉末状リン脂質組成物」
【特許文献4】特開2007-176821「粉末状リン脂質組成物」
【特許文献5】特許第4950419号「細胞内浸透を促進するカチオン性ポリマーを含むリポソーム」
【特許文献6】特許第5220546号「細胞内浸透を促進する脂肪族モノアミン又はカチオン性ポリマーを含む、水和ラメラ相又はリポソーム、及び、これを含む化粧組成物又は医薬組成物」
【特許文献7】特開2006-35036「油性薬剤含有粒子」
【特許文献8】特表2014-516030「皮膚又は毛髪に用いられるUV保護剤のベシクル担体システムのための電荷供与体」
【特許文献9】特開2016-108285「カチオン化ベシクル及びその組成物」
【特許文献10】WO2019-111415(特許第6735426号)「カチオン化ベシクルおよびその組成物」
【特許文献11】特開2008-255109「ベシクル組成物及び該ベシクル組成物を配合した皮膚外用剤」
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】日本香粧品学会誌 Vol.38, No.1, pp.9-14 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
カチオン化ベシクルは皮膚に吸着しやすく、化粧品有効成分を内包させて使用すると、当該成分を皮膚に効率よく送達できるので、化粧品素材として優れた組成物である。高度に安定化されたカチオン化ベシクルを提供することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、安定なカチオン化ベシクルを作製するための素材について研究を重ねた。そして、新規なジェミニ型界面活性剤を用いることにより、カチオン化ベシクルの安定性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は、化粧品原料として好適なジェミニ型界面活性剤である新規化合物に関する。当該化合物を、「本発明の化合物」または「本発明のジェミニ型界面活性剤」または「2C12-3」と称する。
【0019】
本発明のジェミニ型界面活性剤の構造を以下に示す。
【0020】
【化1】
【0021】
本明細書において、上記の式で表わされる化合物を、「2C12-3」と称する。2C12-3は、疎水性部分である二つのアルキル鎖(C12H25)が、親水性部分である第4級アンモニウムで結合した化合物である。
【0022】
本発明は、また、上記のジェミニ型界面活性剤を用いたカチオン化ベシクルの製造方法に関する。また、本発明は、ジェミニ型界面活性剤を用いることによる、カチオン化ベシクルの安定化方法に関する。さらに、本発明は、化粧品に添加して使用するためのカチオン化ベシクルであって、ジェミニ型界面活性剤を含有するカチオン化ベシクルを提供する。そのようなカチオン化ベシクルを「本発明のカチオン化ベシクル」と称することがある。
【0023】
本発明は、また、前記カチオン化ベシクルに化粧品有効成分が保持された、有効成分内包カチオン化ベシクルに関する。前記有効成分は、親水性物質と親油性物質のいずれであってもよく、帯電状態も問わない。
【0024】
本発明のカチオン化ベシクルに保持させることができる有効成分は多岐にわたる。例としては、ミネラル類、アミノ酸類、ビタミン類その他の美白系原料、抗糖化原料、抗酸化原料、抗シワ原料、抗シミ原料等が挙げられる。
【0025】
本発明は、また、Ζ電位が+20mV以上である前記カチオン化ベシクルに関する。
本発明は、また、Ζ電位が+20mV以上である前記有効成分内包カチオン化ベシクルに関する。
【0026】
本発明は、また、凍結乾燥された前記カチオン化ベシクルに関する。
本発明は、また、凍結乾燥された、前記有効成分内包カチオン化ベシクルに関する。
【0027】
本発明は、また、前記カチオン化ベシクル、又は前記有効成分内包カチオン化ベシクル、又は前記凍結乾燥されたカチオン化ベシクル若しくは有効成分内包カチオン化ベシクルを含有する化粧品に関する。
【0028】
前記化粧品は、さらに天然物由来の物質を含んでいてもよい。
前記化粧品は、1種または複数種類の有効成分内包カチオン化ベシクルを含有することができる。
【0029】
本発明は、また、皮膚および毛髪への吸着性を有する、局所的に塗布される化粧品であって、前記カチオン化ベシクル、又は前記有効成分内包カチオン化ベシクル、又は前記凍結乾燥されたカチオン化ベシクル若しくは有効成分内包カチオン化ベシクルを含有することを特徴とする化粧品に関する。
【0030】
本発明は、また、前記カチオン化ベシクル、又は前記有効成分内包カチオン化ベシクル、又は前記凍結乾燥されたカチオン化ベシクル若しくは有効成分内包カチオン化ベシクルを含有する化粧品を皮膚又は毛髪に塗布することを含む、美容施術方法に関する。前記美容施術方法は、サロンで行っても、家庭で行ってもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のカチオン化ベシクルは、優れた皮膚浸透性・皮膚透過性を有し、機能性化粧品に配合するために好適である。また、本発明のカチオン化ベシクルは、従来公知のカチオン化ベシクルと比べて、凝集・沈殿やそれらにつながる粒径の増大が抑制され、表面電荷が変化しない等の経時的な安定性が向上している。また、本発明のカチオン化ベシクルは、従来公知のものと比べて内包できる物質の濃度が高くなっており、さらに内包できる物質が多様化している。さらに、本発明のカチオン化ベシクルは、配合原料との相溶性が向上しており、様々な剤型に適用することができる。
【0032】
本発明により、吸着・浸透・持続力に優れた、多種多様な化粧品の提供に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】ジェミニ型界面活性剤、リン脂質、および一般的な界面活性剤の模式図。
図2】本発明のカチオン化ベシクルの電顕画像。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.ベシクル
ベシクル(vesicle)は、両親媒性分子の水中での会合により、疎水性尾部を内側に、親水性頭部を外側に向けた二重層膜が閉じた球状の構造体として形成される。
【0035】
シングル・ラメラ・ベシクル(SLV)は、「単層ベシクル」とも呼ばれ、1つの脂質二重層膜から構成される球体状のベシクルである。
二重膜が多重に積層した構造を形成したベシクルは、マルチ・ラメラ・ベシクル(MLV)と呼ばれる。MLVは、「多層ベシクル」とも呼称され、同心円状に配置された、複数の脂質二重層膜から構成される。
【0036】
ベシクルを形成可能な両親媒性分子は多数存在するが、特にリン脂質からできたものはリポソームと呼ばれる。ベシクルはリン脂質や界面活性剤からなる小胞の総称である。リポソームは、皮膚の細胞と同じ膜を持つカプセルのようなものであり、生体適合性に優れている。
【0037】
リン脂質の膜は、卵黄やダイズ由来のリン脂質やグリセロリン脂質、あるいは環状ホスファチジン酸からなり、元来はマイナスに帯電している。また、リン脂質は、合成されたものであっても、市販のものであってもよい。
【0038】
さらに、リン脂質からなる脂質二分子膜の硬さや透過性を調製する目的でコレステロールとリン脂質とを組み合わせることもできる。
ベシクルは、リポソームの製造方法として一般に知られている従来の製造方法によって調製することができる。
【0039】
リポソームの製造方法として、公知の技術としては、Bangham(J.Mol. Biol., 13, 238 (1965))らの方法又はその変法、ボルテックス処理法、超音波処理法(Biochem. Biophys. Res. Commun., 94, 1367 (1980))、エタノール注入法(J. Cell. Biol., 66, 621 (1975))、フレンチプレス法(FEBS Lett., 99, 210 (1979))、エーテル注入法(N. Y. Acad. Sci., 308, 250 (1978))、コール酸(界面活性剤)法(Biochim. Biophys. Acta, 455, 322 (1976))、カルシウム融合法(Biochim. Biophys. Acta, 394, 483 (1978))、凍結融解法(Arch.Biochem. Biophys., 212, 186 (1981))、逆相蒸発法(Proc. N. A. S. USA, 75, 4194 (1978))、ガラスフィルターを用いた方法(ThirdUS-Japan Symposium on Drug Delivery System (1995))、高圧ホモジナイザーを用いた乳化、コートソーム(登録商標)などの市販のキットを用いた方法、その他市販の製造装置を用いた方法などが挙げられる。
【0040】
本発明のカチオン化ベシクルは、単層ベシクルまたは多層ベシクルのいずれでもよい。一態様において、本発明のカチオン化ベシクルは単層ベシクルである。一態様において、本発明のカチオン化ベシクルは多層ベシクルである。
【0041】
本明細書では、MLVおよびSLVの両方を特に区別せずに、本発明の「カチオン化ベシクル」と称する。また、カチオン化MLVを「CMLV」、カチオン化SLVを「CSLV」と略称することもある。
【0042】
2.ジェミニ型界面活性剤を含有するカチオン化ベシクル
本発明のカチオン化ベシクルは、ジェミニ型界面活性剤「2C12-3」及びカチオン化ポリマー、並びに上述したリポソーム調製のための一般的な原料を用いて、公知の製造方法を用いて調製することができる。
【0043】
ジェミニ型界面活性剤とカチオン化ポリマー以外の、本発明のカチオン化ベシクルを調整するための原料としては、リン脂質、コレステロール、および水性溶媒が例示される。さらに、本発明のカチオン化ベシクルは、化粧品において使用可能な任意の成分を含有することができる。
【0044】
水性溶媒は、一般的に化粧品に用いられるものであれば特に限定されず、例えば精製水、温泉水、深層水、または植物等の水蒸気蒸留水等が挙げられる。水性溶媒の量は特に制限されず、他の成分の含有量により適宜決められるが、概ね5~95%である。
【0045】
本発明のカチオン化ベシクルの製造方法としては、上述のリポソーム製造法を含む種々の方法を用いることができる。例えば、本発明のカチオン化ベシクルは、約80℃の温度で、成分を攪拌混合した後、徐々に室温~約35℃程度まで冷却する方法で製造することができる。
【0046】
ジェミニ型界面活性剤2C12-3は、他の成分とともに安定性に優れるベシクルを形成する。ジェミニ型界面活性剤2C12-3は、実施例に記載の手順に基づき、製造することができる。製造法は、当業者に周知の知識と慣用の技術を用いて、適宜改変可能である。
【0047】
本発明のカチオン化ベシクルは、ジェミニ型界面活性剤2C12-3を総量で、ベシクル全量に対し、0.00001~20質量%、より好ましくは0.0001~10質量%、より好ましくは0.001~1質量%含有することが好ましい。含有量が多すぎても、少なすぎても安定なベシクルが形成しない場合があるためである。
【0048】
ジェミニ型界面活性剤は、フリー体であっても、塩の形であってもよい。塩としては、化粧品で一般的に使用されるものであれば、特段の限定無く使用でき、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノエタノールアミン塩等の有機アミン塩、リジン塩、アルギン酸塩等の塩基性アミノ酸塩等が好適に例示できる。
【0049】
3.カチオン化
カチオン化とは、物質をプラスに帯電させることである。カチオン化させたベシクルはプラスに帯電しているので、カチオン化されてないベシクルと比べて皮膚に吸着・浸透しやすくなることが期待される。本発明では、このような効果を得られる程度にベシクルをカチオン化させることが望ましい。
【0050】
ベシクルの表面電荷は、Ζ(ゼータ)電位として評価される。本発明のカチオン化ベシクルは、具体的には、カチオン化されたベシクルのΖ(ゼータ)電位が+20mv以上、好ましくは+30mV以上あると良い。
【0051】
ベシクルをカチオン化させるために、カチオン化分子が用いられる。一般的には、カチオン化分子として、カチオン化ポリマーを用いる。カチオン化ベシクルは、カチオン化分子(カチオン化ポリマー)をベシクル作成時に添加し、ベシクルをカチオン化させることにより得られる。
【0052】
カチオン化ポリマーとは、カチオン性の基が導入されてカチオン化された高分子物質である。カチオン化ポリマーは、それ自体が生体適合性のあることが必要であり、加えて、皮膚や毛髪の保湿効果を有するものであることが好ましい。
【0053】
カチオン性の基の一例を以下に示す。
【化2】
【0054】
上記式中、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1~3個のアルキル基、Rは炭素数1~24のアルキル基又はアルケニル基を示し、Xは1価のアニオンを示す。Xで表される1価のアニオンとしては、フッ素イオン、臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンが挙げられる。
【0055】
本発明で使用可能なカチオン化ポリマーの例として、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(略称:MPC)と特定のカチオンモノマーとの重合体からなるものが挙げられる。MPCは、細胞膜と同じ構造並びに重合可能な構造を併せ持ち、生体への親和性が極めて高い画期的な生体適合性素材である。
【0056】
MPCと共重合体を形成するカチオンモノマーの例としては、
ブレンマー(登録商標)QA: (2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド;
MOETAC: 2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド;
DMAEA(登録商標)-BQ: N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート塩化ベンジル4級塩
などが挙げられる。
【0057】
カチオン化ポリマー中のMPCとカチオンモノマーの比率、およびカチオン化ポリマーの分子量は様々に変化させることが可能である。本発明では、参考例に従って製造される組成のカチオン化ポリマーも好適に使用される。
【0058】
一態様において、カチオン化ポリマー中のカチオンモノマーの割合は好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上である。本発明者らは、カチオンモノマーの割合を82%まで増量しても、カチオン化ベシクルが製造できることを確認している。また、カチオン化ポリマーの分子量は60万以上であることが好ましい。本発明者らは、分子量200万でもカチオン化ベシクルができることを確認している。
【0059】
一態様において、(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライドと2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとの共重合体からなるカチオン化ポリマーが好適に使用される。これは、上述のブレンマーQA(登録商標)とMPCからなる合成ポリマーであり、成分名(表示名称)は「ポリクオタニウム-64(Polyquaternium-64)」である。
【0060】
化粧品の成分(原材料)は、「化粧品原料の国際命名法(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)」のルールに基づき、INCI名という国際名が決められている。このINCI名に該当する日本語表示名称は日本化粧品工業連合会で決められる。
【0061】
ポリクオタニウム-64について、日本化粧品工業連合会のホームページ(https://www.jcia.org/user/business/ingredients/namelist)
では、次の化学式:
【化3】
で表わされる第4級アンモニウム塩の重合体であると説明されている。化粧品の成分を表わす記載として、「ポリクオタニウム-64」は、カチオンモノマーの割合にかかわらず総じて用いられる物質名である。市販の典型的なポリクオタニウム-64において、MPC/ブレンマーQA(登録商標)の比率は70/30であるから、カチオン化ポリマー中のカチオンモノマーの割合は30%である。しかしながら、本発明においては、ポリクオタニウム-64中の(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライドの割合は50%以上、または55%以上であってもよい。
【0062】
組成を変更したポリクオタニウム-64の例として、特許第6735426号(特許文献10)に記載され、本願の参考例1にも記載されるポリクオタニウム-64(Lipidure C 組成変更)が挙げられる(Lipidureは登録商標)。
【0063】
カチオン化ベシクルのΖ電位は、保存のために賦形剤を加えて凍結乾燥し、その後に水性溶媒に再溶解した場合においても安定に保たれることが望ましい。
カチオン化ベシクルのΖ電位は、長期保存中においても安定に保たれることが望ましい。具体的には、室温(例えば25℃)保存で、7日間以上、好ましくは4週間以上、さらに好ましくは4ヶ月以上、Ζ(ゼータ)電位が一定に保たれることが望ましい。
【0064】
カチオン化ベシクルのΖ電位は、有効成分を内包させた場合でも、安定に保たれることが望ましい。具体的には、有効成分内包カチオン化ベシクルのΖ(ゼータ)電位が+20mv以上、好ましくは+30mV以上あると良い。
【0065】
有効成分内包カチオン化ベシクルのΖ電位は、化粧品中に配合された場合においても長期間にわたって安定に保たれることが望ましい。具体的には、例えば、水中において、4ヶ月以上、有効成分内包カチオン化ベシクルのΖ(ゼータ)電位が+20mv以上、好ましくは+30mV以上に保たれることが望ましい。
【0066】
4.カチオン化ベシクルの粒径
本発明のカチオン化ベシクルの粒径は、1~1000nm、好適には10~200nm、または10~100nm、または20~200nmである。ベシクル粒子の凝集により、粒子径であるΖ(ゼータ)平均が増大する。カチオン化ベシクルは、なるべく粒子の凝集が防止され、粒径が増大しないように制御されることが望ましい。粒径が増大すると、沈殿等の不都合な事象が発生するおそれがあるからである。
【0067】
凝集・沈殿は表面電荷が0に近い状態で、粒子同士の反発力が弱くなると生じやすい。したがって、上述したように、カチオン化ベシクルおよび有効成分内包カチオン化ベシクルのΖ(ゼータ)電位が一定以上のプラスの電位に保たれることが望ましい。
【0068】
カチオン化ベシクルの粒径は、保存のために賦形剤を加えて凍結乾燥し、その後に水性溶媒に再溶解した場合においても安定に保たれることが望ましい。
カチオン化ベシクルの粒径は、長期保存中においても安定に保たれることが望ましい。
【0069】
カチオン化ベシクルの粒径は、有効成分を内包させた場合でも、安定に保たれることが望ましい。具体的には、例えば、有効成分内包カチオン化ベシクルの粒径は、1~1000nm、好適には10~200nm、または10~100nm、または20~200nmである。さらに、有効成分内包カチオン化ベシクルの粒径は、化粧品中に配合された場合においても長期間にわたって安定に保たれることが望ましい。
【0070】
5.有効成分内包カチオン化ベシクル
化粧品有効成分を内包させたカチオン化ベシクルを、ローション、美容液、乳液、クリーム、シャンプーなどの化粧品に添加して使用すると、当該成分を皮膚に効率よく送達できる。あるいは、化粧品有効成分を内包させたカチオン化ベシクルをそのまま化粧品とすることも可能である。
【0071】
カチオン化ベシクルが内包する物質は、化粧品の用途により適宜選択される。有効成分は、親水性物質と親油性物質のいずれであってもよく、帯電状態も問わない。本発明のカチオン化ベシクルに内包させることができる有効成分は多岐にわたる。例としては、ミネラル類、アミノ酸類、ビタミン類(例えば、ビタミンCとその誘導体)および美白系原料、抗糖化原料、抗酸化原料、抗シワ原料、抗シミ原料等が挙げられる。
【0072】
マイナスに帯電している物質は、ベシクルおよびカチオン化ベシクルに内包する事が一般的に困難である。これに対し、本発明のカチオン化ベシクルには、マイナスに帯電している物質を、化粧品成分として内包させることができる。そのような内包させる化粧品成分の例として、ミネラル類、アミノ酸類、陰イオン界面活性剤、ビタミンCとその誘導体などのマイナスイオンを帯びた成分が挙げられる。
【0073】
ミネラルとしては、例えば、特開2007-217356に記載された海洋深層水濃縮組成物、又は特開2000-290159号に記載された海洋深層水、又は特許3967357号に記載された湯の花抽出物が挙げられる。海洋深層水濃縮組成物若しくは海洋深層水又はこれらの乾燥物である海水乾燥物、又は湯の花抽出物が封入されたカチオン化ベシクルを、本明細書では、「ミネラル内包カチオン化ベシクル」と呼ぶ。
【0074】
例えば、海洋深層水濃縮物は、以下の工程(1)及び(2)を含む製造方法により得られるNF膜透過水濃縮物である:
(1) 硫酸イオンを90%以上除去し得るナノフィルター膜で海洋深層水を処理して、Brixが2.8~3.6、Mgイオン濃度が300~900mg/L、Caイオン濃度が200~600mg/L、及びSO4イオン濃度が0~300mg/LであるNF膜透過水を得る工程;及び
(2) 工程(1)で得たNF膜透過水を濃縮して、Brixが30.0~55.0、Mgイオン濃度が10,000~100,000mg/L、Caイオン濃度が4,000~40,000mg/L、及びSO4イオン濃度が0~1,000mg/L、並びにCaイオン濃度:Mgイオン濃度 = 1:0.25~1:4である、NF膜透過水濃縮物を得る工程。
【0075】
上記のNF膜透過水の濃縮において、濃縮が14~50倍であり、かつ、NF膜透過水濃縮物が析出物のない水溶液状であることが好ましい。さらに、例えば、上記のナノフィルター膜の孔径は0.1~1 nmであり、かつ膜にかかる圧力は0.3~2.0 MPaであることが好ましい。
【0076】
また、例えば、湯の花抽出物は、以下の工程(1)~(3)を含む製造方法により得られる、湯の花のオゾン酸化処理物を含む組成物である:
(1) 温泉の噴気を、青粘土上で、一定温度及び一定湿度で結晶化させて湯の花を得て、
(2) 湯の花を水性溶媒に溶解し、そして
(3) 溶解物をオゾン酸化処理して、オゾン酸化処理物を得る。
【0077】
上記の湯の花抽出物は、(1) 硫酸イオン25~40,000mg/L;(2) 3価の鉄イオン5.0~8,000mg/L;及び(3) アルミニウムイオンを含み;2価の鉄イオン:3価の鉄イオンの比が4,900:2,000以下であることが好ましい。ここで、3価の鉄イオン1に対し、2価の鉄イオンが0.5以下であることも好ましい。
【0078】
本明細書では海洋深層水濃縮組成物、海洋深層水、海水乾燥物、湯の花抽出物を、単に「ミネラル」と呼ぶ場合もある。
本発明のカチオン化ベシクルは、内包可能なミネラルの濃度が、従来のものよりも向上している。ベシクルの全重量に対する重量%で、ミネラルの濃度は約0.0001%~約5%、例えば、約0.01%~約5%、約2%~約5%、約3%~約5%を内包させることが出来る。
【0079】
また、本発明のカチオン化ベシクルは、多様な物質を内包可能である。内包させる化粧品成分の例として上記ミネラルに加えて、ビタミンC誘導体(例えばアスコルビルリン酸ナトリウム)などが挙げられる。ベシクルの全重量に対する重量%で、ビタミンC誘導体の濃度は約0.1%~約5%を内包させることが出来る。
【0080】
有効成分内包カチオン化ベシクルは、約80℃程度(例えば75~85℃)の温度で、内包させる有効成分、カチオン化ポリマー、リン脂質、コレステロール、ジェミニ型界面活性剤、及び所望によりその他の化粧品成分と、水性溶媒(精製水、温泉水、深層水、または植物等の水蒸気蒸留水等)とを攪拌混合した後、徐々に室温~約35℃程度まで冷却する方法で製造することができる。その他、前述のリポソームの製造方法として公知の技術を適宜用いて製造することができる。冷却された組成物は、さらに、高圧(例えば220MPa X 5Pass)で乳化し、フィルター濾過(例えば1.0μmフィルターで濾過)してもよい。
【0081】
前記その他の化粧品成分には、保湿成分、生薬エキス、チロシナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、リパーゼのような酵素、レチノール、アスコルビン酸、トコフェロール、ピリドキサール、リボフラビンのようなビタミンやその誘導体、β-カロチン、クロロフィルのような有機系色素、グリセリン、ソルビトール、尿素、乳酸、プロピレングリコール、ポリチレングリコールおよび共重合体、グルコース誘導体等のようなモイスチャー成分、パラフイン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、スクワラン、シリコーンオイル、ステアリス等のようなエモリエント成分、トリートメント成分、フケ抑制成分、養毛、育毛成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料、防腐剤等を挙げることができる。これらは必要に応じて2種以上を組合せて用いてもよい。
【0082】
本発明のジェミニ型界面活性剤をベシクル膜に導入することにより、相溶性の課題からこれまで配合することが困難であった原料を化粧品に含有させることができる。これにより、カチオン化ベシクルを多様な剤型の化粧品に適用可能となる。
【0083】
6.化粧品の剤型
通常のローション(化粧水)、美容液、乳液、クリーム、シャンプーなどの処方に、1種またはそれ以上の有効成分内包カチオン化ベシクルを添加することにより、化粧品を製造することができる。あるいは、化粧品を調製しながら同時に有効成分内包カチオン化ベシクルを得ることも可能である。
【0084】
化粧品としての形態は特に限定されるものではないが、皮膚又は毛髪に塗布して使用されるものが一般的であると思われる。局所的に塗布して使用することは、皮膚又は毛髪に塗布した後に洗い流すことも含む。例えばスキンケア化粧品として洗顔料、クレンジング料、化粧水、美容液、パック、マッサージクリーム、乳液、モイスチャークリーム、リップクリーム等、メーキャップ化粧品としてファンデーション、白粉、口紅、ほほ紅、アイシャドウ等、ボディケア化粧品として石鹸、液体洗浄料、入浴剤等、ヘアケア化粧品としてシャンプー、リンス、ヘアトリートメント、整髪料、ヘアトニック、育毛剤、スキャルプトリートメント等とすることができる。上記化粧品には、所望の効果を損なわない範囲で、一般に化粧品に用いられている各種化粧品成分(油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、アミノ酸類、ビタミン類、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、抗炎症剤、抗しわ剤、肌荒れ改善剤、ニキビ用薬剤、アルカリ類、キレート剤、金属封鎖剤、等)を適宜配合することができる。
【0085】
また、本発明の化粧品には、天然物由来の物質を含んでいてもよい。そのような物質の例として以下のものが挙げられる。特許第4795475号に記載されたウメ抽出物、例えば、ウメ根抽出物やウメ果実蒸留水。特許第2526362号に記載されたウメ果汁醗酵液。特開2012-116761号に記載された植物由来水蒸気蒸留水、例えば、パッションフルーツ、シマミカン、バナナ、アテモヤ、ウメ、タンカン、レモンライム、ジンジャーから選択される1種又は2種以上の植物の水蒸気蒸留水。特許第3544505号に記載されたトウキ抽出物。特開2009-029788号に記載された海水由来酵母培養物。
【0086】
有効成分内包カチオン化ベシクルの添加量は、剤型によっても変わってくるが、化粧品全量に対して、有効成分内包カチオン化ベシクルを0.1~100質量%含有することができ、例えば、1~50質量%含有することができる。
【0087】
7.美容施術方法
本発明の化粧品は、本人が行う化粧またはエステシシャン等の他人が行う美容施術方法に使用できる。本発明の化粧品は、皮膚または毛髪に塗布されることが好ましく、使用方法としては、手や指で使用する方法、不織布等に含浸させて使用する方法等が挙げられる。
【0088】
8.ジェミニ型界面活性剤によるカチオン化ベシクルの安定化
ジェミニ型界面活性剤2C12-3をベシクルの成分として配合することにより、安定性に優れるベシクルが形成される。本発明は、一態様において、ジェミニ型界面活性剤2C12-3を、ベシクル全量に対し、0.00001~20質量%、より好ましくは0.0001~10質量%、より好ましくは0.001~1質量%添加することによる、カチオン化ベシクルの安定化方法を提供する。2C12-3を添加することにより、従来公知のカチオン化ベシクルと比較して粒径が小さくなり、且つその状態で安定する。
【実施例0089】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0090】
[実施例1:ジェミニ型界面活性剤の調製]
以下の手順でジェミニ型界面活性剤(化合物2C12-3)を調製した。
N,N,N',N'-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン15.0 gをアセトニトリル100 mLに溶解し、4つ口フラスコに入れた後、80℃でブロモドデカン74.6 gを滴下し、40時間加熱還流した。反応溶液をエバポレーションした後、残渣をヘキサンと酢酸エチルで2回ずつ洗浄し、酢酸エチルとメタノールの混合溶媒で再結晶を行い、白色固体のカチオン×カチオンのジェミニ型界面活性剤2C12-3(分子量629)50.0 gを得た。
【0091】
[実施例2:CMLVの調製]
ポリクオタニウム-64、水添レシチン、水添環状リゾフォスファチジン酸Na、コレステロール、水性溶媒およびジェミニ型界面活性剤(化合物2C12-3)から、高圧乳化によってカチオン化MLV(CMLV)を作製した。
【0092】
[実施例3:ジェミニ型界面活性剤によるCMLV安定性への影響]
既存のカチオン化ベシクルへの2C12-3の配合量を変化させて、CMLVの安定性への影響を検討した。
【0093】
粒子径(Z平均)と表面電位(Z電位)について、第0日目、1日目、7日目または8日目、14日目、21日目または22日目、28日目または29日目に経時測定を行った。(表1)。CMLV II28は、特許第6735426号(特許文献10)に記載のカチオン化ベシクルである。No.1、2、3、9はCMLV II28に2C12-3を添加して作成したCMLVである。
No.1 IG20 2C12-3を0.01%配合
No.2 IG20 2C12-3を0.1%配合
No.3 IG20 2C12-3を0.001%配合
No.9 IK08 2C12-3を1%配合
【0094】
【表1】
【0095】
ジェミニ型界面活性剤を用いることにより、凝集を起こさず、かつ表面電荷が変化しないという経時的な安定性をもたらすことがわかった。すなわち、2C12-3を添加することにより、CMLVCMLV II28よりも粒径が小さくなり、且つその状態で安定する。特に、No.2は小さい状態で安定性が優れている。
【0096】
[実施例4:電子顕微鏡観察]
透過型電子顕微鏡で、実施例3のカチオン化MLV(No.2 IG20)の観察を行った。電顕画像を図2に示す。粒子径100nm前後の球状の多層構造を形成していることが分かった。
【0097】
以下の参考例は、MPCおよびブレンマー(登録商標)QAからなるカチオン化ポリマー、MPCおよびMOETACからなるカチオン化ポリマー、MPCおよびDMAEQ(登録商標)-BQからなるカチオン化ポリマーの調製例を記載する。
【0098】
[参考例1:カチオン化ポリマーの調製]
MPC;16.6g、ブレンマー(登録商標)QA;33.4gを水;200gに溶解し4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後、75℃で重合開始剤(VA-061、和光純薬工業製、0.55g)を加えて10時間重合反応させた。重合液を5リットルのジエチルエーテル中に攪拌しながら滴下し、析出した沈殿をろ過し、48時間室温で真空乾燥を行って、カチオン化ポリマー粉末30.1gを得た。これにより、分子量70万、MPC45%とブレンマー(登録商標)QA55%(MPC/カチオン=45/55)からなるカチオン化ポリマー(ポリクオタニウム-64)を得た。
【0099】
また、同様の方法で、分子量およびMPCとブレンマーQAの割合の違うカチオン化ポリマーおよび、MPCとMOETACもしくはDMAEQ-BQからなるカチオンモノマーの違うカチオン化ポリマーを得た。
【表2】
【0100】
MPC70%とブレンマー(登録商標)QA30%からなるカチオン化ポリマー(Lipidure C、MPC/カチオン=70/30 分子量60万)は、従来公知の市販のポリクオタニウム-64である。
図1
図2