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特開2023-110380吸収性物品用不織布およびその製造方法、ならびに吸収性物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110380
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】吸収性物品用不織布およびその製造方法、ならびに吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/498 20120101AFI20230802BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20230802BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
D04H1/498
A61F13/15 340
A61F13/511 300
A61F13/511 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011787
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】岩井 克仁
【テーマコード(参考)】
3B200
4L047
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA02
3B200BA05
3B200BA06
3B200BA14
3B200BB01
3B200BB04
3B200BB05
3B200DC01
3B200DC02
3B200DC07
3B200EA07
4L047AA08
4L047AA12
4L047AA21
4L047AB07
4L047CA02
4L047CA10
4L047CA12
4L047CB07
4L047CC03
4L047CC04
4L047CC05
(57)【要約】
【課題】吸液速度およびウェットバック性に優れる吸収性物品用不織布およびその製造方法、ならびに吸収性物品を提供する。
【解決手段】第1繊維層と、前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含み、前記第2繊維層は、前記第2繊維層の総質量を基準として、親水性繊維を5質量%以上含み、水が透過する前の、水と前記第1繊維層表面との接触角θ1、および、水と前記第2繊維層表面との接触角θ2は、いずれも75°以上である、吸収性物品用不織布。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1繊維層と、
前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、
前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、
前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含み、
前記第2繊維層は、前記第2繊維層の総質量を基準として、親水性繊維を5質量%以上含み、
水が透過する前の、水と前記第1繊維層表面との接触角θ1、および、水と前記第2繊維層表面との接触角θ2は、いずれも75°以上である、吸収性物品用不織布。
【請求項2】
前記接触角θ1および前記接触角θ2は、いずれも120°以下である、請求項1に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項3】
前記第1繊維層の目付W1と前記第2繊維層の目付W2とは、以下の関係式:
1≦W2/W1≦3
を満たす、請求項1または2に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項4】
前記接触角θ1と前記接触角θ2とは、以下の関係式:
-40°≦θ1-θ2≦30°
を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項5】
前記接触角θ2と、前記第1繊維層の厚さT1と、前記第2繊維層の厚さT2とは、以下の関係式:
を満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項6】
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維の含有量は、前記第1繊維層の総質量を基準として、70質量%未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項7】
前記第2繊維層に含まれる前記親水性繊維の含有量は、前記第2繊維層の総質量を基準として、90質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項8】
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維の繊度は、0.5dtex以上3dtex以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項9】
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維は、親水性セルロース繊維を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項10】
前記第2繊維層に含まれる前記親水性繊維は、親水性セルロース繊維を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項11】
前記第1繊維層の表面は、凹凸および開孔の少なくとも一方を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項12】
第1繊維層と、
前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、
前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、
前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、かつ、親水性繊維を10質量%以上70質量%未満含み、
前記第2繊維層は、疎水性繊維、および、
(a)親水性セルロース繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として5質量%以上40質量%以下含む、
(b)親水化合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として40質量%以上90質量%以下含む、あるいは、
(c)親水性合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として30質量%以上90質量%以下含む、吸収性物品用不織布。
【請求項13】
前記第1繊維層の目付W1と前記第2繊維層の目付W2とは、以下の関係式:
1≦W2/W1≦3
を満たす、請求項12に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項14】
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維の繊度は、0.5dtex以上3dtex以下である、請求項12または13に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項15】
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維は、親水性セルロース繊維を含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項16】
前記第2繊維層に含まれる疎水性繊維は、疎水性合成繊維を含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項17】
前記第1繊維層の表面は、凹凸および開孔の少なくとも一方を有する、請求項12~16のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の吸収性物品用不織布を含む、吸収性物品。
【請求項19】
前記吸収性物品用不織布は、前記第1繊維層が肌当接面になるように配置されている、請求項18に記載の吸収性物品。
【請求項20】
第1繊維ウェブの総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含む、前記第1繊維ウェブを作製すること、
疎水性繊維、および、第2繊維ウェブの総質量を基準として、
(a)親水性セルロース繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として5質量%以上40質量%以下含む、
(b)親水化合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として40質量%以上90質量%以下含む、あるいは、
(c)親水性合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として30質量%以上90質量%以下含む、前記第2繊維ウェブを作製すること、
前記第1繊維ウェブと前記第2繊維ウェブとを重ね合わせて積層繊維ウェブを作製すること、および、
前記積層繊維ウェブを、高圧流体流を用いた交絡処理に付して繊維同士を交絡させること、を含む、吸収性物品用不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸収性物品用不織布およびその製造方法、ならびに吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッドおよびパンティライナー等、様々な吸収性物品が上市されている。これら吸収性物品に使用される、着用者の肌と接触する部分を構成するシートとして、二層構造を有する不織布が提案されている。例えば、特許文献1は、第1の層と第2の層とを有し、使用者の肌に触れる第1の層が、疎水性の人造セルロース繊維またはポリエステル繊維で形成されたシートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2015-507977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の不織布は、肌側の第1の層が疎水性繊維から形成されているため、ウェットバック性(リウェット性)に優れる。一方で、吸液速度は遅い。
【0005】
本開示は、吸液速度およびウェットバック性に優れる吸収性物品用不織布およびその製造方法、ならびに吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、第1繊維層と、前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含み、前記第2繊維層は、前記第2繊維層の総質量を基準として、親水性繊維を5質量%以上含み、水が透過する前の、水と前記第1繊維層表面との接触角θ1、および、水と前記第2繊維層表面との接触角θ2は、いずれも75°以上である、吸収性物品用不織布を提供する。
【0007】
本開示はまた、第1繊維層と、前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、かつ、親水性繊維を10質量%以上70質量%未満含み、前記第2繊維層は、疎水性繊維、および、a)親水性セルロース繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として5質量%以上40質量%以下含む、b)親水化合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として40質量%以上90質量%以下含む、あるいは、(c)親水性合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として30質量%以上90質量%以下含む、吸収性物品用不織布を提供する。
【0008】
本開示はまた、上記の吸収性物品用不織布を含む、吸収性物品を提供する。
【0009】
本開示はまた、第1繊維ウェブの総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含む、前記第1繊維ウェブを作製すること、疎水性繊維、および、第2繊維ウェブの総質量を基準として、(a)親水性セルロース繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として5質量%以上40質量%以下含む、(b)親水化合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として40質量%以上90質量%以下含む、あるいは、(c)親水性合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として30質量%以上90質量%以下含む、前記第2繊維ウェブを作製すること、前記第1繊維ウェブと前記第2繊維ウェブとを重ね合わせて積層繊維ウェブを作製すること、および、前記積層繊維ウェブを、高圧流体流を用いた交絡処理に付して繊維同士を交絡させること、を含む、吸収性物品用不織布の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、吸液速度およびウェットバック性に優れる吸収性物品用不織布およびその製造方法、ならびに吸収性物品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
SDGsの観点から、工業製品には、バイオマス(植物)由来であることや、生分解性、リサイクル性が求められる。吸収性物品の表面用の不織布(以下、トップシートと称する。)も例外ではない。さらに、このトップシートは人の肌に接触するため、使用者にとっては、安心で安全な素材で形成されていることも重要である。このような要求を満たす素材として、コットン、リヨセルといった天然繊維が挙げられる。しかしながら、これら天然繊維のみを用いて、トップシートに求められる性能を満足させることは難しい。
【0012】
トップシートに求められる性能としては、典型的には、吸液速度が速いこと、および、優れたウェットバック性が挙げられる。ウェットバック性とは、一旦、吸収性物品に取り込まれた液体が、再びトップシートの表面に戻ることを抑制する性能である。ウェットバック性に優れるとは、液戻りし難いことを言う。吸液速度はトップシートの親水性に影響され易く、ウェットバック性はトップシートの撥水性に影響され易い。
【0013】
加えて、トップシートには、液漏れしないことも求められる。液漏れは、吸収性物品が液体を十分に吸収することが出来ない場合に生じる。液漏れは、第1および第2繊維層の親水性に影響され易い。第1繊維層の表面の撥水性が過度に高いと、液体が第1繊維層の内部に透過することが出来ず、第1繊維層の表面に留まってしまう。第2繊維層の表面の撥水性が過度に高いと、第1および第2繊維層の層間に液体が滞留してしまい、吸収率が低下する。これらの結果、液漏れが生じる。後者の場合、ウェットバック性の低下も招く。
【0014】
天然繊維は親水性であるため、これにより形成されるトップシートは、特許文献1とは逆に、吸液速度は比較的速いが、ウェットバック性に劣る。天然繊維のシートに撥水剤を塗布して、ウェットバック性を改善することも提案されているが、工程数の増加を招く。
【0015】
本開示は、吸収性物品の表面シート(トップシート)として好適な不織布であって、少なくとも第1繊維層および第2繊維層を有している。肌当接面は第1繊維層であり、撥水性セルロース繊維を含む。第1繊維層は、吸収すべき液体が最初に接触する層でもある。撥水性セルロース繊維によって、第1繊維層には疎水性が付与され、さらには、使用者に安心感や安全であるという印象を与える。
【0016】
第1繊維層の材料として、さらに特定量の親水性繊維を併用することにより、第1繊維層は適度な親水性および撥水性を兼備する。第1繊維層が適度な親水性を有することにより、吸液速度が速くなり、さらに、液漏れが抑制される。第1繊維層が適度な疎水性を有することにより、液体は第1繊維層内に留まることなく、速やかに第1繊維層を透過する。その結果、ウェットバック性が向上し、さらには、濡れた不快な感覚が生じ難い。
【0017】
内側の層である第2繊維層の親水性もまた、優れた吸液速度および優れたウェットバック性の両立に重要である。第1繊維層を透過した液体は、第2繊維層を経由して、その内部にある吸収分散体(ADL:Absorption Distribution Layer)で吸収および分散される。そのため、第2繊維層には、液体を速やかに透過させる撥水性が求められる。第2繊維層の親水性が高いと、第2繊維層の内部に液体が留まり易くなる。その結果、液戻りし易くなってウェットバック性が低下し易い。一方、第2繊維層の疎水性が過度に高いと、液漏れが発生し得る。
【0018】
本開示の第1実施形態では、第1および第2繊維層の接触角をともに75°以上にすることにより、各繊維層の親水性の程度を規定する。本開示の第2実施形態では、第1および第2繊維層の構成をそれぞれ特定することにより、各繊維層の親水性の程度を規定する。これにより、後加工することを要せずに、優れた吸液速度および優れたウェットバック性を両立することができる。
【0019】
すなわち、第1実施形態に係る吸収性物品用不織布は、第1繊維層と、前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含み、前記第2繊維層は、前記第2繊維層の総質量を基準として、親水性繊維を5質量%以上含み、水が透過する前の、水と前記第1繊維層表面との接触角θ1、および、水と前記第2繊維層表面との接触角θ2は、いずれも75°以上である。
【0020】
第2実施形態に係る吸収性物品用不織布は、第1繊維層と、前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、かつ、親水性繊維を10質量%以上70質量%未満含み、前記第2繊維層は、疎水性繊維、および、(a)親水性セルロース繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として5質量%以上40質量%以下含む、(b)親水化合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として40質量%以上90質量%以下含む、あるいは、(c)親水性合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として30質量%以上90質量%以下含む。
【0021】
吸収性物品の用途は、経血のような少量の高粘度液体を吸収させるものや、尿のような多量の低粘度液体を吸収させるものまで、様々である。トップシートには、このような様々な粘度や量の液体を、素早く、液戻りしないように吸収することも求められる。本開示に係る吸収性物品用不織布によれば、吸収される液体の粘度および多寡によらず、優れた吸液速度および優れたウェットバック性が両立される。
【0022】
[吸収性物品用不織布]
まず、各実施形態に共通する構成について説明する。
本開示に係る吸収性物品用不織布は、第1繊維層および第2繊維層を含む。以下、第1および第2実施形態に係る吸収性物品用不織布を、単に不織布と総称する場合がある。
【0023】
不織布は、JIS L 0222に「繊維シート、ウェブ又はバットで、繊維が一方向又はランダムに配向しており、交絡、及び/又は融着、及び/又は接着によって繊維間が結合されたもの。ただし、紙、織物、編物、タフト及び縮じゅう(絨)フェルトを除く。」と定義されている。
【0024】
不織布において、各繊維層は積層されており、少なくとも繊維同士の交絡によって、一体化されている。これにより、第1繊維層を透過した液体は、速やかに第2繊維層内に入り込むことができるため、層間に滞留することが抑制される。さらに、第1繊維層を透過した液体が、第2繊維層に入り込めずに逆流して、第1繊維層の表面に漏れ出ることも抑制され易くなる。
【0025】
積層される前の各繊維層は、不織布であってよく、不織布の前駆体であってよい。不織布の前駆体とは、繊維シート、ウェブまたはバットであって、繊維が一方向又はランダムに配向しているが、繊維間が結合されていないものである。積層される前の各繊維層の作製法は、特に限定されない。不織布の製造に使用される各繊維層(ウェブ)は、カード式法、エアレイド法または湿式法等により作製される不織布の前駆体であってよく、水流交絡(スパンレース)法、スパンボンド法または湿式法等により作製される不織布であってよい。
【0026】
(目付)
吸液速度の観点から、第1繊維層は、第2繊維層と比較して緻密でないことが望ましい。液体透過性の観点から、第2繊維層は過度に緻密でないことが望ましい。各層の厚さにも依るが、例えば、第1繊維層の目付W1と第2繊維層の目付W2とは、関係式:1≦W2/W1≦3を満たしてよい。W2/W1は、1.2以上であってよく、1.5以上であってよい。W2/W1は、2.8以下であってよく、2.5以下であってよい。目付とは、単位面積当たりの質量を言う。
【0027】
不織布の目付(W1+W2)は、例えば、25g/m以上70g/m以下である。不織布全体の目付がこの範囲であると、ウェットバック性を低下させることなく、吸液速度をより大きくすることができる。不織布の目付は、30g/m以上であってよく、32g/m以上であってよい。不織布の目付は、65g/m以下であってよく、60g/m以下であってよい。
【0028】
(接触角)
第1および第2繊維層の表面の撥水性は、大きく相違しないことが望ましい。第1繊維層の親水性が第2繊維層に比べて過度に大きい場合、親水性の高い第1繊維層は多くの液体を取り込むが、撥水性の高い第2繊維層は、この液体のすべてを透過することが困難となる。そのため、液体は、繊維層間に留まり易くなって、液戻りや液漏れし易くなる。反対に、第1繊維層の撥水性が第2繊維層に比べて過度に大きい場合、撥水性の高い第1繊維層が透過することのできた液体のほとんどは、親水性の高い第2繊維層が保持してしまう。この場合もまた、液戻りが生じ易くなる。
【0029】
例えば、水と第1繊維層表面との接触角θ1と、水と第2繊維層表面との接触角θ2とは、関係式:-40°≦θ1-θ2≦30°を満たしてよい。θ1-θ2は、-38°以上であってよく、-35°以上であってよい。θ1-θ2は、25°以下であってよく、20°以下であってよい。
【0030】
接触角θは、θ/2法により求められる。具体的には、サンプル(例えば、一体化される前の第1繊維層および第2繊維層)を、台座の上に、水を吸わないフィルムを介して両面テープ等で固定する。メチレンブルーで着色した蒸留水をサンプルに1滴滴下し、1分静置する。次いで、このサンプル上の液滴をマイクロスコープ(例えば、スリーアールシステム(株)製、3R-WM401WIFI)で横から撮影する。上記液滴が真円の一部であると仮定し、画像解析により、液滴のサンプルと接触している線分の長さ(直径2r)、および、当該線分の中心を通るとともに当該線分と垂直に交わる直線と液滴の外縁との間の長さ(高さh)を求める。これら数値から、下記式:
を用いて、接触角θが求められる。接触角θは、複数(典型的には、5以上)のサンプルにおける平均値である。
【0031】
蒸留水を滴下してから1分経過するまでの間に、蒸留水がサンプルの内部に透過してしまった場合、接触角は0°である。
【0032】
一体化された後の第1繊維層および第2繊維層の接触角θも、上記と同様にして求められる。このとき、測定したい方の繊維層が上方を向くように、不織布を台座に固定する。
【0033】
ウェットバック性低下の原因として、第1繊維層および/または第2繊維層に滞留する液体が液戻りすること以外に、ADLに吸収された液体が、再び第2繊維層を経由してトップシート表面に染み出すことが挙げられる。そのため、第2繊維層は、液体の染み出しを抑制することのできる程度に厚く、かつ、適度な疎水性を有していることが望ましい。理由は明確ではないが、これらの望ましい性能は、トップシートに占める第2繊維層の厚さの割合と、第2繊維層表面における接触角θ2との関係で表すことができる。
【0034】
吸収体からの液体の染み出しを抑制する観点から、接触角θ2と、第1繊維層の厚さT1と、第2繊維層の厚さT2とは、例えば、以下の関係式:
を満たしてよい。
【0035】
θ2×T2/(T1+T2)は、45以上であってよく、50以上であってよい。θ2×T2/(T1+T2)は、83以下であってよく、80以下であってよい。
【0036】
なかでも、吸液速度とウェットバック性とのバランスの観点から、下記2つの関係式:
-40°≦θ1-θ2≦30°
を同時に満たすことが望ましい。
【0037】
(厚さ)
吸液速度の観点から、第1繊維層は第2繊維層より薄いことが望ましい。例えば、第1繊維層の厚さT1と第2繊維層の厚さT2とは、関係式:T1/T2≦1を満たしてよい。T1/T2は、0.95以下であってよく、0.9以下であってよい。
【0038】
第2繊維層が十分に薄い(例えば、550μm以下)場合や、比較的少量(例えば、30cc未満)の液体を吸収する吸収性物品に使用される場合、上記関係式は考慮しなくてもよい。
【0039】
T1/T2の下限は特に限定されない。第1繊維層が過度に薄いと、第1繊維層の肌触りが第2繊維層の影響を受け易くなる。例えば、第2繊維層に太くて剛性のある繊維を使用すると、第1繊維層の肌触りが低下し得る。T1/T2の下限は、第1繊維層の厚さT1に応じて変化し得るが、例えば、0.2であり、0.3であってよく、0.4であってよい。
【0040】
一体化された後の第1繊維層および第2繊維層の厚さは、以下のように算出される。まず、不織布の厚さ方向に切断した断面を、SEMにより50倍~100倍程度の倍率で撮影する。倍率は、不織布の全体の厚さが観察視野で確認できるように設定する。断面は、不織布を、第2繊維層が下になるように水平な台において、その台と垂直な方向に切断することにより得られる。
【0041】
得られた画像を、画像解析ソフト(例えば、ImageJ)に取り込み、画像のタテ方向の外縁と平行に任意の5本の直線を引く。直線のうち、画像における断面の下方の面(第2繊維層の表面)と上方の面(第1繊維層の表面)との間の線分の長さを測定する。5つの線分の長さの平均値を、不織布全体の厚さTとする。任意の直線は、画像における断面の下方の面および上方の面の輪郭が明瞭である部分を選んで引く。線分の長さは、最も外方にあり明瞭に視認される繊維同士を繋いで測定する。
【0042】
同様に、上方の面と、2つの繊維層の境界との間の線分の長さを測定し、その平均値を第1繊維層の厚さT1とする。第2繊維層の厚さT2は、算出された不織布全体の厚さTから第1繊維層T1の厚さを引いて求める。2つの繊維層の境界は、上方の面側から下方の面に向かって、任意にひかれた直線上にある繊維を観察していき、形状および/または太さの異なる繊維が、初めて現れた地点とする。厚さは、複数(典型的には、5以上)のサンプルにおける平均値である。
【0043】
不織布全体の厚さT(T1+T2)は、例えば、350μm以上であってよく、380μm以上であってよく、400μm以上であってよい。厚さTがこの範囲であると、ウェットバック性がより向上し得る。厚さTは、1300μm以下であってよく、1200μm以下であってよく、1100μm以下であってよい。厚さTがこの範囲であると、吸液速度がより大きくなり易く、通気性も向上し得る。一態様において、厚さTは、350μm以上1300μm以下である。
【0044】
(凹凸および/または開孔)
第1繊維層の表面は、凹凸および/または開孔を有していてよい。
【0045】
凹凸によって表面積が増加し得るため、吸液速度が大きくなり得る。また、凹凸の形成方法に起因して、第1繊維層と第2繊維層との交絡の程度の高い部分や低い部分が生じ得る。この場合、高交絡部により両繊維層の一体性が向上し、低交絡部により液体の透過性が向上し得る。加えて、意匠性も付与される。
【0046】
凹凸は、第1繊維層の表面に付された模様であってよい。模様としては、例えば、メッシュ、杉綾、ストライプ、ドットが挙げられる。
【0047】
開孔によって、液体は第1繊維層を速やかに透過することができるため、吸液速度が速くなり得る。また、形成方法によっては、第1繊維層と第2繊維層とが一体的に開孔され得る。この場合、液体は、透過性は第1および第2繊維層の両方を速やかに透過することができるため、吸液速度はより一層速くなり得る。
【0048】
開孔は、第1繊維層の効果(特に、ウェットバック性)を阻害しない範囲であることが望ましい。開孔率は、0%より大きい限り限定されない。開孔率は、例えば、5%以上であってよい。開孔率は、例えば、20%以下であってよく、15%以下であってよい。開口率は、第1繊維層をその法線方向から見たときの、第1繊維層に占めるすべての開孔の合計面積の割合である。
【0049】
次に、使用される繊維を説明する。
「親水性」という用語は、水となじみ易い性質を示す。「撥水性」および「疎水性」という用語は、いずれも水となじみ難い性質を示す。「疎水性」は、「撥水性」を含む概念である。なかでも「撥水性」は、水をはじく性質を言う。
【0050】
繊維の水とのなじみ易さは、例えば薬食機発第0630001号の医療ガーゼ・医療脱脂綿の基準に従い、以下の方法で測定される沈降速度(6(1)カ)により評価できる。
【0051】
不織布製造前の繊維あるいは不織布から採取した繊維を、温水(約40℃)で3回×2分間もみ洗い洗浄した後、乾燥させて、付着している油分等を除去する。次いで、この繊維をカード機で解繊し、繊維集合体を準備する。この繊維集合体0.3gを直径2cm以下に丸めて、水温24~26℃の水面上12mmの高さから、深さ200mmの水の中に静かに落とす。繊維集合体を落としてから水面下に沈むまでの時間を、当該繊維の沈降速度とする。
【0052】
繊維をカード機で解繊できない場合(例えば、繊維長が短い場合等)、採取された繊維0.3gを、そのまま丸めて水中に落としてよい。あるいは、繊維が繊維集合体(例えば、湿式不織布またはエアレイド不織布)の形態を既にとっており、これをカード機で解繊することが難しい場合には、1cm×1cmの大きさに切断した不織布片0.3g分を、水中に落としてよい。
【0053】
沈降速度が1分未満である場合、当該繊維は「親水性」であると言える。沈降速度が1分以上である場合、当該繊維は「疎水性」であると言える。なかでも、1種の繊維のみで作製された不織布に水滴を1滴落とし、10秒経過後の水滴の形状にほとんど変化が見られない場合、当該繊維は「撥水性」であると評価できる。
【0054】
(撥水性セルロース繊維)
撥水性セルロース繊維は、第1繊維層に疎水性繊維として含まれる。撥水性セルロース繊維は、繊維層の疎水性を高め、ウェットバック性の向上に貢献する。撥水性セルロース繊維は、柔軟である上、植物由来であるため、肌との接触面である第1繊維層に用いるのに好適である。
【0055】
セルロース繊維は本来親水性を有するものであるが、本開示では人為的に撥水性を付与したセルロース繊維を「撥水性セルロース繊維」と称する。
【0056】
セルロース繊維の種類は特に限定されない。セルロース繊維は、以下を含む。
(1)綿(コットン)、麻、亜麻(リネン)、ラミー、ジュート、バナナ、竹、ケナフ、月桃、ヘンプおよびカポック等の植物に由来する天然繊維;
(2)ビスコース法で得られるレーヨンおよびポリノジック、銅アンモニア法で得られるキュプラ、ならびに溶剤紡糸法で得られるテンセル(登録商標)およびリヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維、ならびにその他の再生繊維;
(3)溶融紡糸法で得られるセルロース繊維;
(4)アセテート繊維等の半合成繊維;および
(5)機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプ
【0057】
撥水性セルロース繊維は、これらのセルロース繊維に撥水剤を付着させることで撥水性を付与したものであってよい。あるいは、撥水性セルロース繊維は、カルボキシル基および/またはスルホン酸基を有するセルロース繊維を、イソシアネート系化合物および非フッ素系撥水剤を含む処理液で処理する方法で得られたものであってよい。かかる方法で得られる撥水性セルロース繊維は、例えば、特開2019-65443号に開示されている。
【0058】
不織布の剛軟度が小さくなり易い点で、撥水性セルロース繊維は撥水性レーヨンを含むことが好ましい。レーヨンは、その断面形状が菊花状であるため、撥水性が効果的に発揮され易い点でも好ましい。
【0059】
撥水性レーヨンとしては、例えば、ダイワボウレーヨン(株)製のエコリペラス(商品名、撥水性ビスコースレーヨン)、Kelheim Fibres GmbH製のOlea(商品名、撥水性ビスコースレーヨン)等が上市されている。特に、エコリペラス(商品名)は高い撥水性を示し、また、耐久性の高い撥水性を有し、例えば水流交絡処理に付された場合でも撥水性が低下し難いことから好ましく用いられる。
【0060】
撥水性セルロース繊維の繊度は、0.6dtex以上であってよく、1.0dtex以上であってよく、1.4dtex以上であってよい。撥水性セルロース繊維の繊度は、6.0dtex以下であってよく、5.0dtex以下であってよく、3.0dtex以下であってよい。一態様において、撥水性セルロース繊維の繊度は、0.6dtex以上6.0dtex以下である。撥水性セルロース繊維の繊度が上記範囲であると、第1繊維層に適度な空隙が形成されて、吸液速度が速くなり易い。撥水性セルロース繊維の繊度は上記範囲に限定されない。特に天然繊維は繊度の調整が難しいため、セルロース繊維として上記範囲外の繊度のものを使用してよい。一般的に、パルプの繊度は1.0dtex以上4.0dtex以下程度であり、その繊維長は0.8mm以上4.5mm以下程度である。
【0061】
撥水性セルロース繊維の繊維長は特に限定されず、素材、その製造方法、繊維層の作製方法、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。撥水性セルロース繊維は、例えば、短繊維である。繊維層がカードウェブから作製される場合、撥水性セルロース繊維の繊維長は、100mm以下であってよく、75mm以下であってよく、65mm以下であってよい。上記の短繊維の撥水性セルロース繊維の繊維長は、10mm以上であってよく、20mm以上であってよく、30mm以上であってよい。上記の場合、一態様において、撥水性セルロース繊維の繊維長は、10mm以上100mm以下であってよい。繊維層がエアレイドウェブから作製される場合、撥水性セルロース繊維の繊維長は、2mm以上20mm以下であってよい。
【0062】
本実施形態においては、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる撥水性セルロース繊維を、複数用いてもよい。
【0063】
撥水性セルロース繊維の沈降速度は、1分以上であり、5分以上がより好ましく、10分以上が特に好ましい。なかでも、撥水性セルロース繊維を水中に落としてから10分経過した時点で、少なくとも一部の撥水性セルロース繊維が水面下に沈降してないことが好ましい。このとき、撥水性セルロース繊維は吸水していてもよい。特に、1分経過した時点で、撥水性セルロース繊維の一部ないし全部が水面に浮いていることが好ましい。
【0064】
撥水性セルロース繊維は、通常の疎水性合成繊維のように撥水性を有しているが、この撥水性は繊維表面において発揮される。撥水性セルロース繊維の内部は、依然として吸水および保水する機能を備えている。そのため、撥水性セルロース繊維(特に撥水性レーヨン)の公定水分率は撥水処理されていない同種のセルロース繊維と同等である。撥水性セルロース繊維の二次膨潤度は、撥水処理されていないセルロース繊維よりは劣るが、一般的な合成繊維のそれよりも高い傾向にある。例えば、撥水処理されていないビスコースレーヨンとして二次膨潤度(水膨潤度:JIS L1015:2010 8.26に従って測定される)が80%以上90%以下程度のものがあり、撥水性レーヨンとして二次膨潤度が45%以上55%以下程度のものがある。また、撥水性レーヨンとして公定水分率(JIS L 1015に準じて測定される)が10%以上13%以下程度のものがある。この撥水性レーヨンの公定水分率は、撥水処理されていない一般的なレーヨンの公定水分率(11%)と同等である。
【0065】
(親水性繊維)
親水性繊維は、上記の方法で測定された沈降速度が1分未満の繊維である。親水性繊維は、繊維層の親水性を高め、吸液速度の向上に貢献する。親水性繊維としては、例えば、親水性セルロース繊維、動物性の天然繊維(シルク、ウール等)、親水性合成繊維、親水化合成繊維が挙げられる。
【0066】
親水性繊維の沈降速度は、1分未満であり、50秒以内であってよく、45秒以内であってよく、30秒以内であってよい。
【0067】
<親水性セルロース繊維>
「親水性セルロース繊維」という用語は、撥水性セルロース繊維と区別するために用いられるものであり、撥水性が付与されておらず、本来の親水性を有するセルロース繊維を指す。親水性セルロース繊維の例、繊度および繊維長は、撥水性セルロース繊維に関して説明したとおりである。
【0068】
親水性セルロース繊維は、天然繊維、パルプ、再生繊維または半合成繊維であってよい。パルプは、例えば、針葉樹木材または広葉樹木材から、常套の方法で製造される。パルプとしては、例えば、機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプが挙げられる。繊維長が10mm未満の親水性セルロース繊維は、パルプあるいは、カットされた再生繊維または半合成繊維であってよい。柔軟性の観点から、親水性セルロース繊維は、再生繊維、特にレーヨンを含んでいてよい。
【0069】
<親水性合成繊維>
親水性合成繊維は、上記の方法で測定された沈降速度が1分未満の合成繊維である。親水性合成繊維は、原料由来の水酸基を有するか、あるいは本来的に親水性を有し、通常、2%以上の公定水分率を有する。親水性合成繊維としては、例えば、アラミド繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維が挙げられる。合成繊維の詳細は後述する。
【0070】
<親水化合成繊維>
親水化合成繊維もまた、上記の方法で測定された沈降速度が1分未満の合成繊維である。ただし、親水化合成繊維は、上記の親水性合成繊維およびそれ以外の合成繊維(以下、「疎水性合成繊維」と称する場合がある。)を親水化処理することにより得られる。親水化処理としては、例えば、コロナ放電処理、スルホン化処理、グラフト重合処理、繊維への親水化剤の練り込み、および耐久性油剤の塗布が挙げられる。
【0071】
《第1繊維層に含まれる親水性繊維》
第1繊維層に含まれる親水性繊維(以下、第1親水性繊維と称する。)は特に限定されない。第1親水性繊維は、親水性セルロース繊維を含んでいてよい。親水性セルロース繊維は植物由来であるため、肌との接触面である第1繊維層に用いるのに特に適している。さらに、SDGsの観点からも、親水性セルロース繊維であってよい。
【0072】
第1親水性繊維の繊度は、混合される他の繊維の繊度等に応じて、適宜選択される。第1親水性繊維の繊度は、撥水性セルロース繊維と同様であってよい。第1親水性繊維の繊度は、0.3dtex以上であってよく、0.5dtex以上であってよく、1.0dtex以上であってよく、1.4dtex以上であってよい。第1親水性繊維の繊度は、6.0dtex以下であってよく、5.0dtex以下であってよく、3.0dtex以下であってよい。一態様において、第1親水性繊維の繊度は、0.3dtex以上6dtex以下である。第1親水性繊維の繊度がこの範囲であると、吸液速度がより大きくなり易い。
【0073】
一態様において、第1親水性繊維の繊度は、0.5dtex以上3dtex以下である。第1親水性繊維の繊度がこの範囲であると、比較的多く(例えば、30cc以上)の液体が付与された場合でも、十分な吸液速度が得られ易い。第1親水性繊維の繊度は、1.0dtex以上であってよく、1.4dtex以上であってよい。第1親水性繊維の繊度は、2.5dtex以下であってよく、2.0dtex以下であってよい。
【0074】
第1親水性繊維の繊維長は特に限定されず、上記の通り、素材、その製造方法、第1繊維層の作製方法、不織布の製造方法等に応じて適宜選択される。第1親水性繊維の繊維長は、撥水性セルロース繊維と同様であってよい。
【0075】
第1繊維層は、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる、複数種の親水性繊維を含んでよい。繊維の素材の分類は、例えば消費者庁から公表されている「繊維の名称を示す用語」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/fiber/fiber_term.html)における「繊維等の種類」に従う。
【0076】
《第2繊維層に含まれる親水性繊維》
第2繊維層に含まれる親水性繊維(以下、第2親水性繊維と称する。)は特に限定されない。第2繊維層は、親水性繊維として、親水性セルロース繊維、親水性合成繊維および親水化合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。各繊維の詳細は、上記の通りである。なお、第2実施形態は、第2繊維層が、親水性繊維として、親水性セルロース繊維、親水化合成繊維あるいは親水性合成繊維を含む態様を規定している。
【0077】
第2親水性繊維の繊度は、混合される他の繊維の繊度等に応じて、適宜選択される。第2親水性繊維の繊度は、疎水性繊維と同様であってよい。第2親水性繊維の繊度は、例えば、1.0dtex以上であり、1.5dtex以上であってよく、2.0dtex以上であってよい。第2親水性繊維の繊度は、例えば、6.0dtex以下であり、5.0dtex以下であってよく、4.0dtex以下であってよい。第2親水性繊維の繊度がこの範囲であると、液体の透過性が向上し易くなり、また、強度が確保され易い。加えて、第2繊維層が均一になり易い。
【0078】
第2親水性繊維の繊維長は特に限定されず、上記の通り、素材、その製造方法、第2繊維層の作製方法、不織布の製造方法等に応じて適宜選択される。第2繊維層がカードウェブから作製される場合、第2親水性繊維の繊維長は、100mm以下であってよく、75mm以下であってよく、65mm以下であってよい。この場合、第2親水性繊維の繊維長は、10mm以上であってよく、20mm以上であってよく、30mm以上であってよい。上記の場合、一態様において、第2親水性繊維の繊維長は、10mm以上100mm以下であってよい。第2繊維層がエアレイドウェブから作製される場合、第2親水性繊維の繊維長は、2mm以上20mm以下であってよい。
【0079】
第2繊維層は、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる、複数種の親水性繊維を含んでよい。
【0080】
(疎水性繊維)
疎水性繊維は、繊維層の疎水性を高め、ウェットバック性の向上に貢献する。疎水性繊維としては、例えば、撥水性セルロース繊維および疎水性合成繊維が挙げられる。
【0081】
疎水性合成繊維の沈降速度は、1分以上であり、5分以上がより好ましく、10分以上が特に好ましい。
【0082】
撥水性セルロース繊維の詳細は、上記の通りである。
【0083】
<合成繊維>
合成繊維の親水性や公定水分率は、主にその原料に依存する。
合成繊維の原料は、一般に、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリフェニレンスルファイドおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、ならびにそれらのエラストマーよりなる群から選択される少なくとも1つであってよい。
【0084】
合成繊維は、単一成分(「単一セクション」ともいう)からなる単一繊維であってよく、および/または複数の成分(「セクション」ともいう)から構成される複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、同心または偏心の芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、または分割型複合繊維等であってよい。繊維の断面は円形であっても非円形であってもよい。非円形の形状としては、楕円形、Y形、X形、井形、多葉形、多角形、星形等が挙げられる。不織布のかさ高性が向上し易く、また、内部の空隙が大きくなり易い点で、合成繊維は、中空断面を有していてもよい。
【0085】
単一繊維および複合繊維のいずれの場合も、繊維を構成する各セクションは、一種類の樹脂からなっていてよく、あるいは二種以上の樹脂が混合されたものであってよい。
【0086】
複合繊維において、融点の最も低い熱可塑性樹脂が繊維表面の一部を構成するように、二以上の成分を配置してよい。その場合、不織布を生産する工程において、最も融点が低い熱可塑性樹脂からなる成分(以下、「低融点成分」)が溶融または軟化する条件で熱を加えると、低融点成分が接着成分となる。このような合成繊維は、接着性繊維として機能し得る。
【0087】
融点のより高い熱可塑性樹脂である第1成分と、融点のより低い熱可塑性樹脂である第2成分とからなる複合繊維を構成する樹脂の組み合わせ(第1/第2)は、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体等のポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂との組み合わせ、ならびにポリプロピレン/ポリエチレン、およびポリプロピレン/プロピレン共重合体等の二種類のポリオレフィン系の熱可塑性樹脂の組み合わせ、および融点の異なる二種類のポリエステル系樹脂の組み合わせである。
【0088】
あるいは、第1成分と第2成分の組み合わせは、生分解性を有する樹脂の組み合わせであってよく、そのような組み合わせによれば不織布における生分解性繊維の割合をより大きくすることができる。具体的には、第1成分をポリ乳酸、第2成分をポリブチレンサクシネートとすることで接着性繊維を生分解性のものとし得る。
【0089】
あるいは、第1成分と第2成分の組み合わせは、植物由来の原料(バイオマス原料)を用いた熱可塑性樹脂であってよい。この組み合わせによれば、不織布におけるバイオマス原料の割合をより大きくすることができる。具体的な樹脂の組み合わせとしては、第1成分をバイオポリエステル/バイオポリエチレン、バイオポリエステル/バイオポリプロピレン、バイオポリプロピレン/バイオポリエチレン、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。
【0090】
分割型複合繊維の分割数(即ち、複合繊維におけるセクションの数)は、例えば、4以上、32以下であってよく、特に4以上、20以下であってよく、より特には6以上、10以下であってよい。分割型複合繊維の分割後の繊度は、例えば、0.1dtex以上1.0dtexであってよい。
【0091】
《第1繊維層に含まれる疎水性繊維》
第1繊維層に含まれる疎水性繊維は、上記の通り、撥水性セルロース繊維である。第1繊維層は、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる、複数種の疎水性繊維を含んでよい。
【0092】
《第2繊維層に含まれる疎水性繊維》
第2繊維層に含まれ得る疎水性繊維(以下、第2疎水性繊維と称する。)は特に限定されない。第2疎水性繊維は、撥水性セルロース繊維および疎水性合成繊維の少なくとも一方を含んでよい。強度確保の観点から、第2疎水性繊維は、疎水性合成繊維を含んでよい。
【0093】
第2疎水性繊維の繊度は、混合される他の繊維の繊度等に応じて、適宜選択される。第2疎水性繊維の繊度は、第2親水性繊維と同様であってよい。第2疎水性繊維の繊度は、例えば、1.0dtex以上であり、1.5dtex以上であってよく、2.0dtex以上であってよい。第2親水性繊維の繊度は、例えば、6.0dtex以下であり、5.0dtex以下であってよく、4.0dtex以下であってよい。
【0094】
第2疎水性繊維の繊維長は特に限定されず、上記の通り、素材、その製造方法、第2繊維層の作製方法、不織布の製造方法等に応じて適宜選択される。第2疎水性繊維の繊維長は、第2親水性繊維と同様であってよい。
【0095】
第2繊維層は、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる、複数種の疎水性繊維を含んでよい。
【0096】
<接着性繊維>
各繊維層(典型的には、第2繊維層)は、接着性繊維を含み得る。接着性繊維は、繊維同士を接着する。これにより、積層不織布の強度が向上するとともに、過度の伸びが抑制される。
【0097】
接着性繊維は、例えば、上記の合成繊維である。接着性繊維は、接着性を発現した状態で繊維層に含まれる合成繊維であり得る。この場合、合成繊維は疎水性であっても親水性であってもよく、親水化処理されていてもよい。接着性繊維の繊度および繊維長は、合成繊維と同程度であってよい。
【0098】
(I)第1実施形態
第1実施形態に係る吸収性物品用不織布(以下、不織布Aと称す。)は、第1繊維層と、第1繊維層の一方の主表面に位置する第2繊維層と、を備える。第1繊維層および第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されている。第1繊維層は、第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含む。第2繊維層は、第2繊維層の総質量を基準として、親水性繊維を5質量%以上含む。水が透過する前の、水と第1繊維層表面との接触角θ1、および、水と第2繊維層表面との接触角θ2は、いずれも75°以上である。
【0099】
第1および第2繊維層はいずれも、一定量の親水性繊維を含む。そのため、各繊維層は適度な親水性を有しており、液体は容易に透過することができる。よって、吸液速度が大きくなる。
【0100】
第1および第2繊維層が、いずれも75°以上の接触角を有することにより、液体は、各層内に滞留することなく、ADLへと速やかに到達する。加えて、ADLに吸収された液体は、速やかに分散されて吸収体層に移行するとともに、第1および第2繊維層の高い撥水性に阻まれて、トップシートの表面に染み出し難くなる。これらの作用により、ウェットバック性が向上する。接触角θ1およびθ2が75°未満であると、親水性が過度に高いため、液体が透過せずに層内に滞留し易い。そのため、ウェットバック性が低下する。
【0101】
第1および第2繊維層の少なくとも一方の接触角θは、80°以上であってよく、85°以上であってよく、88°以上であってよく、90°以上であってよい。第1および第2繊維層の少なくとも一方の接触角θは、120°以下であってよく、119°以下であってよく、118°以下であってよい。第1繊維層の接触角θ1が120°以下であると、吸液速度がより速くなり得る。第2繊維層の接触角θ2が120°以下であると、第1および第2繊維層の間に液体が滞留することが抑制され易くなる。
【0102】
一態様において、第1および第2繊維層の接触角θはいずれも75°以上120°以下である。第1および第2繊維層の表面と、水との接触角が75°以上120°以下(以下、これを弱撥水性と称する場合がある。)であることにより、液体の透過性能と液戻り抑制能とのバランスが向上し、大きな吸液速度および優れたウェットバック性の両立がより容易になる。
【0103】
(第1繊維層A)
第1実施形態における第1繊維層(以下、第1繊維層Aと称す。)は、肌との接触面である。第1繊維層Aは、撥水性セルロース繊維を含む。撥水性セルロース繊維は、第1繊維層Aに、当該繊維層の総質量を基準として30質量%超90質量%以下含まれる。撥水性セルロース繊維の含有割合が30質量%以下であると、ウェットバック性が低下し易い。撥水性セルロース繊維の含有割合が90質量%を超えると、吸液速度が遅くなり易い。撥水性セルロース繊維の含有割合は、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよい。撥水性セルロース繊維の含有割合は、85質量%以下であってよく、80質量%以下であってよい。
【0104】
親水性繊維は、第1繊維層Aに、各繊維層の総質量を基準として10質量%以上含まれる。親水性繊維の含有割合が10質量%未満であると、第1繊維層Aの撥水性が高くなり過ぎて、吸液速度が小さくなり、さらには液漏れが生じ得る。親水性繊維の含有割合は、15質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい。親水性繊維の含有割合は、例えば70質量%未満であり、60質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。一態様において、親水性繊維の含有割合は、10質量%以上70質量%未満である。第1繊維層Aに含まれる親水性繊維の種類は特に限定されない。使用者への訴求力の観点から、親水性セルロース繊維であってよい。
【0105】
第1繊維層Aは、撥水性セルロース繊維および親水性繊維以外の他の繊維を含み得る。他の繊維としては、例えば、疎水性合成繊維および接着性繊維が挙げられる。
【0106】
他の繊維の質量割合は、当該繊維層の総質量を基準として、30質量%以下であってよく、20質量%であってよく、10質量%以下であってよく、8質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。ウェットバック性および吸液速度の観点から、第1繊維層Aは、撥水性セルロース繊維および親水性繊維のみで構成されてよい。特に、使用者への訴求力の観点から、第1繊維層Aは、撥水性セルロース繊維および親水性セルロース繊維の二種類のみで構成されてよい。
【0107】
上記の各繊維の含有割合は、他の層と一体化される前の第1繊維層Aに含まれる繊維の割合である。例えば、不織布において、第2繊維層を構成する繊維の一部が第1繊維層Aに混入しているとしても、当該混入した繊維は第1繊維層Aに含まれるものとはならない。後述する第2繊維層A、第1繊維層Bおよび第2繊維層Bについても同様である。
【0108】
第1繊維層Aの目付W1は特に限定されない。目付W1は、10g/m以上であってよく、12.5g/m以上であってよく、15g/m以上であってよい。目付W1がこの範囲であると、第1と第2繊維層との繊維同士の交絡が生じ易くなる。目付W1は、35g/m以下であってよく、32.5g/m以下であってよく、30g/m以下であってよい。目付W1がこの範囲であると、吸液速度がより大きくなり易い。一態様において、目付W1は、10g/m以上35g/m以下である。
【0109】
第1繊維層Aの厚さT1は特に限定されない。厚さT1は、120μm以上であってよく、130μm以上であってよく、150μm以上であってよい。厚さT1がこの範囲であると、ウェットバック性がより向上し得る。厚さT1は、500μm以下であってよく、450μm以下であってよく、400μm以下であってよい。厚さT1がこの範囲であると、吸液速度がより大きくなり易い。一態様において、厚さT1は、120μm以上500μm以下である。
【0110】
(第2繊維層A)
第1実施形態における第2繊維層(以下、第2繊維層Aと称する。)は、液体を速やかにADLに透過させるとともに、ADLからの液戻りを抑制する役割を有し、ウェットバック性の向上に寄与する。さらに、第2繊維層Aによって、トップシートの強度が確保される。
【0111】
第2繊維層Aは、第2繊維層Aの総質量を基準として、親水性繊維を5質量%以上含む。これにより、適度な親水性が付与されて、吸液速度が速くなる。親水性繊維が5質量%未満であると、第1繊維層Aを透過した液体が層間に滞留し易くなって、液漏れが生じ得る。ウェットバック性の観点から、親水性繊維の含有割合は、90質量%以下であってよい。第2繊維層Aにおける親水性繊維の含有割合は、その種類に応じて適宜設定される。
【0112】
第2繊維層Aのその他の構成は、接触角θ2が75°以上である限り、特に限定されない。第2繊維層Aは、親水性繊維とともに疎水性繊維を含み得る。第2繊維層Aの構成は、後述する第2実施形態における第2繊維層Bと同様であってよい。
【0113】
(II)第2実施形態
第2実施形態に係る吸収性物品用不織布(以下、不織布Bと称する。)は、第1繊維層と、第1繊維層の一方の主表面に位置する第2繊維層と、を備える。第1繊維層および第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されている。第1繊維層は、第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、かつ、親水性繊維を10質量%以上70質量%未満含む。第2繊維層は、疎水性繊維、および、(a)親水性セルロース繊維を、第2繊維層の総質量を基準として5質量%以上40質量%以下含む、(b)親水化合成繊維を、第2繊維層の総質量を基準として40質量%以上90質量%以下含む、あるいは、(c)親水性合成繊維を、第2繊維層の総質量を基準として30質量%以上90質量%以下含む。
【0114】
第2繊維層を構成する繊維を上記の(a)、(b)または(c)とすることにより、表面に適度な撥水性を持たせることができる。そのため、不織布Bのウェットバック性が向上する。
【0115】
第1および第2繊維層の少なくとも一方の接触角θは、75°以上であってよく、80°以上であってよく、85°以上であってよく、88°以上であってよく、90°以上であってよい。第1および第2繊維層の少なくとも一方の接触角θは、120°以下であってよく、119°以下であってよく、118°以下であってよい。
【0116】
一態様において、第1および第2繊維層の接触角θはいずれも75°以上120°以下である。第1および第2繊維層の表面が弱撥水性であることにより、液体の透過性能と液戻り抑制能とのバランスが向上し、優れた吸液速度および優れたウェットバック性の両立がより容易になる。
【0117】
(第1繊維層)
第2実施形態における第1繊維層(以下、第1繊維層Bと称す。)は、肌との接触面である。第1繊維層Bは、撥水性セルロース繊維および親水性繊維を特定の割合で含む。そのため、第1繊維層Bは、適度な撥水性と親水性とを兼ね備える。加えて、肌に接触する第1繊維層にセルロース繊維が含まれることは、使用者に安心感や安全であるという印象を与え、高い訴求力が発揮され得る。
【0118】
撥水性セルロース繊維は、第1繊維層Bに、当該繊維層の総質量を基準として30質量%超90質量%以下含まれる。第1繊維層Bに含まれる撥水性セルロース繊維の含有割合の例としては、第1繊維層Aに含まれる撥水性セルロース繊維と同様の範囲が挙げられる。
【0119】
第1繊維層Bは、親水性繊維を含む。親水性繊維は、第1繊維層Bに、当該繊維層の総質量を基準として10質量%以上70質量%未満含まれる。親水性繊維の含有割合が10質量%以下であると、吸液速度が小さくなり易く、さらには液漏れが生じ得る。親水性繊維の含有割合が70質量%を超えると、ウェットバック性が低下し易い。親水性繊維の含有割合は、15質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい。親水性繊維の含有割合は、60質量%以下であってよく、50質量%以上であってよい。
【0120】
第1繊維層Bは、撥水性セルロース繊維および親水性繊維以外の他の繊維を含み得る。他の繊維の種類や質量割合の例としては、第1繊維層Aに含まれる他の繊維と同様の範囲が挙げられる。ウェットバック性および吸液速度の観点から、第1繊維層Bは、撥水性セルロース繊維および親水性繊維のみで構成されてよい。
【0121】
第1繊維層Bの目付および厚さは、第1繊維層Aの目付W1および厚さT1と同様であってよい。
【0122】
(第2繊維層B)
第2実施形態における第2繊維層(以下、第2繊維層Bと称する。)の役割は、第2繊維層Aと同様である。第2繊維層Bは、疎水性繊維と親水性繊維とを含む。これにより、第2繊維層Bに適度な親水性と撥水性とが付与される。
【0123】
疎水性繊維としては、代表的には疎水性合成繊維および撥水性セルロース繊維が挙げられる。強度確保の観点から、疎水性繊維は疎水性合成繊維を含んでよい。疎水性繊維の含有割合は、親水性繊維の種類および含有割合に応じて適宜設定される。
【0124】
親水性繊維としては、親水性セルロース繊維、親水化合成繊維および親水性合成繊維が挙げられる。親水性セルロース繊維、親水化合成繊維および親水性合成繊維は、いずれも親水性繊維と総称され得るが、その性質は異なっている。上記の通り、第2繊維層には、液体をADLに素早く移行できる高い吸液性に加え、優れたウェットバック性が求められる。そのため、第2繊維層の内部では、適度に液体が滞留されることが望ましい。上記の各種の親水性繊維の含有割合は、それらの性質と、吸液性および液体の滞留性のバランスとを考慮して決定される。
【0125】
(a)親水性セルロース繊維を含む場合
親水性セルロース繊維は、高い親水性を有するため、吸液性に優れるともに、過度に保液し易い。そのため、第2繊維層Bが、親水性セルロース繊維を含む場合、その含有割合は、第2繊維層Bの総質量を基準として5質量%以上40質量%以下とする。これにより、第2繊維層Bは、適度な撥水性(例えば、75°以上の接触角)を発揮することができて、第2繊維層B内部での過度な保液が抑制される。
【0126】
親水性セルロース繊維の含有割合は、8質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、15質量%以上であってよい。親水性セルロース繊維の含有割合は、35質量%以下であってよく、30質量%以下であってよく、25質量%以下であってよい。
【0127】
(b)親水化合成繊維を含む場合
親水化合成繊維は、疎水性合成繊維を親水化処理したものであるため、保液性を有するものの、その程度は親水性セルロース繊維より高くない。そのため、親水化合成繊維は、親水性セルロース繊維よりも多く、第2繊維層Bに含有させることができる。第2繊維層Bが、親水化合成繊維を含む場合、その含有割合は、第2繊維層Bの総質量を基準として40質量%以上90質量%以下である。これにより、第2繊維層Bは、適度な撥水性(例えば、75°以上の接触角)を発揮することができて、第2繊維層Bは、適度な保液性を発揮する。
【0128】
親水化合成繊維の含有割合は、43質量%以上であってよく、45質量%以上であってよく、48質量%以上であってよい。親水化合成繊維の含有割合は、85質量%以下であってよく、80質量%以下であってよく、75質量%以下であってよい。
【0129】
(c)親水性合成繊維を含む場合
親水性合成繊維は、親水性セルロースに比べて膨潤性が小さく、吸液性および保液性も小さい。一方、親水性合成繊維の保液性は、親水化合成繊維より高くなり得る。そのため、第2繊維層Bが、親水性合成繊維を含む場合、その含有割合は、第2繊維層Bの総質量を基準として30質量%以上90質量%以下である。これにより、第2繊維層Bは、適度な撥水性(例えば、75°以上の接触角)を発揮することができて、第2繊維層Bは、適度な保液性を発揮する。
【0130】
親水性合成繊維の含有割合は、35質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよい。親水性合成繊維の含有割合は、85質量%以下であってよく、80質量%以下であってよく、75質量%以下であってよい。
【0131】
第2繊維層Bは、強度の観点から、さらに接着性繊維を含んでいてよい。接着性繊維は、その親水性の程度に応じて、親水性繊維あるいは疎水性繊維に区分される。接着性繊維の質量割合は、第2繊維層Bの総質量を基準として、50質量%以下であってよく、45質量%であってよく、40質量%以下であってよい。接着性繊維の質量割合は、第2繊維層Bの総質量を基準として、10質量%以上であってよく、15質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい。
【0132】
第2繊維層Bの目付W2は特に限定されない。目付W2は、10g/m以上であってよく、12.5g/m以上であってよく、15g/m以上であってよい。目付W2がこの範囲であると、第1と第2繊維層との繊維同士の交絡が生じ易くなる。目付W2は、35g/m以下であってよく、32.5g/m以下であってよく、30g/m以下であってよい。目付W2がこの範囲であると、吸液速度がより速くなり易い。一態様において、目付W2は、10g/m以上35g/m以下である。第1繊維層の目付W1と第2繊維層の目付W2とは、関係式:1≦W2/W1≦3を満たしてよい。
【0133】
第2繊維層Bの厚さT2は特に限定されない。厚さT2は、200μm以上であってよく、210μm以上であってよく、220μm以上であってよい。厚さT2がこの範囲であると、ウェットバック性がより向上し得る。厚さT2は、800μm以下であってよく、780μm以下であってよく、770μm以下であってよい。厚さT2がこの範囲であると、吸液速度がより大きくなり易い。一態様において、厚さT2は、200μm以上800μm以下である。第1繊維層の厚さT1と第2繊維層の厚さT2とは、関係式:1≦T2/T1≦3を満たしてよい。
【0134】
[吸収性物品]
本開示に係る吸収性物品は、本開示に係る不織布を含む。
吸収性物品において、本開示に係る不織布は、例えば、第1繊維層が肌当接面になるように配置されている。換言すれば、本開示に係る不織布は、吸収性物品のトップシートとして用いられ、第1繊維層は、使用者のより肌に近い側に配置される。
【0135】
吸収性物品は、例えば、本開示に係る不織布(トップシート)と、バックシートと、トップシートおよびバックシートの間に配置される吸収分散体(ADL)と、吸収体とを備える。バックシートは、液体不透過性である。ADLの構成は特に限定されない。ADLは、例えば、親水性繊維または疎水性合成繊維を含むエアレイド不織布、スパンレース不織布、エアスルー不織布、あるいは発泡体材料で構成される。吸収体は、トップシートおよびADLを透過した液体成分を吸収して保持する役割を有する。吸収体としては、例えば、パルプ、高分子吸収ポリマー(SAPとも言われる。)が用いられる。
【0136】
吸収性物品の用途は特に限定されない。吸収性物品は、経血のような少量の高粘度液体を吸収させるものや、尿のような多量の低粘度液体を吸収させるものであってよい。本開示の不織布によれば、吸収される液体の粘度および多寡によらず、優れた吸液速度および優れたウェットバック性が発揮される。
【0137】
吸収性物品として、具体的には、おむつ、尿漏れパッド、ナプキン、パンティライナーが挙げられる。
【0138】
[吸収性物品用不織布の製造方法]
本実施形態に係る不織布は、例えば、第1繊維層を形成する第1繊維ウェブおよび第2繊維層を形成する第2繊維ウェブを作製すること、これらを重ね合わせて、積層繊維ウェブを作製すること、および、積層繊維ウェブを、高圧流体流を用いた交絡処理に付して繊維同士を交絡させること、を含む方法によって製造することができる。
【0139】
(1)積層繊維ウェブの作製
まず、第1繊維ウェブおよび第2繊維ウェブを準備する。
各繊維ウェブは、上記の通り、カード式法、エアレイド法または湿式法等により作製される不織布の前駆体であってよく、スパンレース法、スパンボンド法または湿式法等により作製される不織布であってよい。なかでも、柔軟性の観点から、各繊維ウェブは、カード式法、エアレイド法または湿式法等により作製される不織布の前駆体または不織布であってよい。
【0140】
第1繊維ウェブおよび第2繊維ウェブに含まれる繊維の種類および割合は、先に第1繊維層および第2繊維層に関連して説明したとおりであり、第1繊維ウェブおよび第2繊維ウェブの目付は、先に第1繊維層および第2繊維層に関連して説明したとおりである。
【0141】
第1繊維ウェブと第2繊維ウェブとを重ね合わせて、積層繊維ウェブを作製する。
【0142】
(2)交絡処理
積層繊維ウェブを、高圧流体流を用いた交絡処理に付して繊維同士を交絡させる。これにより、第1繊維層と第2繊維層とが、繊維同士の交絡により一体化された不織布が得られる。
【0143】
高圧流体は、例えば、圧縮空気等の高圧気体、および高圧水等の高圧液体である。以下、高圧流体として高圧水(以下においては、単に「水流」とも呼ぶ)を用いる場合を例に挙げて、本開示に係る不織布の製造方法を説明するが、これに限定されるものではない。
【0144】
水流交絡処理は、支持体に積層繊維ウェブを載せて、柱状水流を噴射することにより実施される。支持体は、例えば、80メッシュ以上100メッシュ以下の平織である。水流は、例えば、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが、0.3mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから噴射される。水圧は、例えば、1MPa以上15MPa以下である。水圧は、10MPa以下であってよく、7MPa以下であってよい。水流は、積層繊維ウェブの表裏面に、それぞれ1~5回ずつ噴射される。
【0145】
(3)凹凸および/または開孔の形成
交絡処理の後、積層繊維ウェブの第1繊維ウェブ側に凹凸および/または開孔を形成してもよい。これにより、表面に凹凸および/または開孔を有する第1繊維層を備える不織布が得られる。
【0146】
凹凸は、例えば、凸部、凹部および開口部から選択される一つまたは複数が規則的に配置された支持体を用いて、水流交絡処理を行うことにより、形成される。あるいは、凹凸は、1)高圧流体が噴出する微細なオリフィスが、例えば数mmの間隔をあけて配置されたノズル、または、2)高圧流体が噴出する微細なオリフィスが間隔をあけて配置されたオリフィス集合部と、オリフィスが穿たれていない無オリフィス部とが交互に配置されたノズルを用いて、水流交絡処理を行うことにより、形成される。
【0147】
支持体の材質や形状、オリフィスの間隔や形状等は、所望の凹凸および/または開孔に応じて適宜設定される。水圧は、(2)交絡処理と同様であってよい。
【0148】
(4)接着処理
第1繊維ウェブおよび第2繊維ウェブ少なくともいずれか(典型的には、第2繊維ウェブ)が接着性繊維を含む場合、積層繊維ウェブに接着処理を施す。これにより、一部の繊維同士が接着して、不織布の機械的強度が向上し得る。接着処理は、熱接着処理であってよく、電子線照射による接着、または超音波溶着であってよい。熱処理によれば、接着性繊維(例えば、複合繊維の低融点成分)が熱処理の際、加熱によって溶融または軟化して、繊維同士が接着する。接着処理は、通常、交絡処理の後に行われる。
【0149】
熱処理は、例えば、熱風を吹き付ける熱風加工処理(エアスルー加工処理ともいう)、熱ロール加工(熱エンボスロール加工)、または赤外線を使用した熱処理である。熱処理温度(例えば、熱風の温度)は、接着性繊維を構成する成分であって、接着成分として機能させる成分が軟化または溶融する温度としてよい。例えば、熱処理温度は、当該成分の融点以上の温度としてよい。例えば、接着性繊維がポリエチレンを成分として含み、ポリエチレンを接着成分とする場合には、熱処理温度を130℃~150℃としてよく、ポリブチレンサクシネートを接着成分とする場合には、熱処理温度を120℃~133℃としてよい。
【実施例0150】
以下、本開示を、実施例により説明する。
本実施例で使用する繊維として以下のものを用意した。
【0151】
[親水性繊維]
(親水性セルロース繊維)
0.6Tレーヨン:繊度0.6dtex、繊維長32mm、ビスコースレーヨン、商品名:BH、ダイワボウレーヨン株式会社製、沈降速度約3.5秒、公定水分率11%
1.7Tレーヨン:繊度1.7dtex、繊維長40mm、ビスコースレーヨン、商品名:CD、ダイワボウレーヨン株式会社製、沈降速度約8秒、公定水分率11%
3.3Tレーヨン:繊度3.3dtex、繊維長40mm、ビスコースレーヨン、商品名:CD、ダイワボウレーヨン株式会社製、沈降速度約3秒、公定水分率11%
【0152】
(親水化合成繊維)
親水中空PET:繊度2.8dtex、繊維長51mm、表面が親水化処理された中空断面を有するポリエステル繊維(中空率30%)、沈降速度約6秒、公定水分率0.7%
親水PET:繊度1.6dtex、繊維長51mm、表面が親水化処理されたポリエステル繊維、商品名:Q201、東レ株式会社製、沈降速度約3.4秒、公定水分率0.6%
【0153】
[疎水性繊維]
(撥水性セルロース繊維)
撥水レーヨン:繊度1.7dtex、繊維長40mm、非フッ素系撥水剤により繊維表面が撥水処理されたビスコースレーヨン、商品名:エコリペラス、ダイワボウレーヨン(株)製、沈降速度10分以上、公定水分率12.8%
【0154】
(疎水性合成繊維)
PET:繊度1.45dtex、繊維長38mm、ポリエチレンテレフタレート繊維、商品名:T403、東レ(株)製、沈降速度1分以上、公定水分率0.7%
中空PET:繊度1.45dtex、繊維長51mm、中空断面を有するポリエステル繊維(中空率30%)、商品名:T453、東レ(株)製、沈降速度1分以上、公定水分率0.7%
PETバインダー:繊度2.2dtex、繊維長51mm、熱接着性のポリエチレンテレフタレート繊維、商品名:T9611、東レ(株)製、沈降速度1分以上、公定水分率0.7%
PP/PE:繊度1.6dtex、繊維長51mm、同心芯鞘型複合繊維(融点:約133℃)、芯:ポリプロピレン、鞘:高密度ポリエチレン、商品名:NBF(H)P、大和紡績(株)製、沈降速度1分以上、公定水分率0%
【0155】
[実施例1]
(i)第1繊維ウェブの準備
撥水レーヨンを70質量%および1.7Tレーヨンを30質量%混合して、パラレルカード機を用いて、目付が約17.5g/mになるように、第1繊維ウェブを作製した。
【0156】
(ii)第2繊維ウェブの準備
中空PETを40質量%、PETバインダーを30質量%および3.3Tレーヨンを30質量%混合して、パラレルカード機を用いて、目付が約17.5g/mになるように、第2繊維ウェブを作製した。
【0157】
(iii)不織布の作製
第1繊維ウェブと第2繊維ウェブとを積層して、積層繊維ウェブを作製した。この積層繊維ウェブを支持体(90メッシュの平織)に載置して、4m/分の速度で搬送しながら、第2繊維ウェブの表面に2.0MPaの水圧の水流を1回噴射した。続いて、第1繊維ウェブの表面に2.5MPa水圧の水流を1回噴射した。この水流交絡処理では、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを使用した。ノズルと積層繊維ウェブとの間の間隔は20mmとした。続いて、80℃で乾燥処理を行い、さらに140℃の熱風で10秒熱処理して、不織布を得た。
【0158】
[実施例2~21、比較例1~13]
第1および第2繊維ウェブを構成する繊維の種類および割合等を、表1~表3に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で不織布をそれぞれ得た。
【0159】
ただし、実施例11および12、比較例2および12では、交絡水流処理の後、不織布を大和紡績社製の平織支持体(経糸:ポリエチレンテレフタレートモノフィラメント0.47mm×0.76mm、経密度24メッシュ/インチ、緯糸:ポリエチレンテレフタレート0.75mm、緯密度17メッシュ/インチ)に載置して、4m/分の速度で搬送しながら、第1繊維ウェブの表面に2.0MPa水圧の水流を1回噴射した。続いて、80℃で乾燥処理を行った後、140℃の熱風で10秒熱処理して、凹凸(開孔率9%)を有する不織布を得た。
比較例12および13では単層の不織布を作製し、140℃×10秒での熱処理を行わなかった。
【0160】
[評価]
評価方法は、以下の通りである。評価結果を表1~表3に示す。
(接触角)
作製された不織布の各繊維層の接触角を、θ/2法を用いて、上記のようにして算出した。
【0161】
(厚さ)
不織布および各繊維層の厚さを、不織布の厚さ方向に切断した断面をSEMで撮影し、画像解析ソフトを用いて、上記のようにして算出した。
【0162】
(15cc用サンプルの吸液速度およびウェットバック性)
市販の軽失禁シート(プロクター&ギャンブル社製、ウィスパー(登録商標) 1枚2役Wガード)からトップシートをはぎ取った。残ったADLの上に、作製した不織布を載せ、周囲をガムテープで固定した。これを15cc用のサンプルとした。不織布は第2繊維層がADLと接するように配置した。
第1繊維層の上に、注入筒付き治具(高さ75mm、筒上部の内径25mm、筒下部の内径10mmの二段円筒状のもの)を設置した。治具の注入筒内に、着色剤(食用青色1号)で青く着色された生理食塩水(0.9質量%)15ccを入れて、すべての食塩水が吸収されるまでの時間を測定した。生理食塩水が、治具と第1繊維層との隙間から漏れ出たか否かも確認した。漏れ出た場合、トップシートとしては不適である。
【0163】
注入してから10分経過した後、事前に質量を測定したろ紙(東洋濾紙株式会社製、商品名:ADVANTEC(登録商標)No.2、10cm×10cm)を10枚重ねて、注入箇所に配置し、1kg/10cmの圧力を20秒間かけた。その後、10枚のろ紙の質量を再び測定した。荷重試験前後の10枚のろ紙の質量の差を、ウェットバック性(WB)とした。
【0164】
(100cc用サンプルの吸液速度およびウェットバック性)
市販の軽失禁シート(プロクター&ギャンブル社製、ウィスパー(登録商標) うすさら吸水)から得られたADLを用いたこと以外、上記と同様にして、100cc用のサンプルを得た。
生理食塩水の量を40ccとしたこと以外は、上記と同様にして、100cc用のサンプルの1回目の吸液速度およびウェットバック性(1st WB)を測定した。
【0165】
ウェットバック性(1st WB)を測定してから15分経過した後、再び、100cc用のサンプルに生理食塩水40ccを注入し、上記と同様にして、2回目の吸液速度およびウェットバック性(2nd WB)を測定した。
【0166】
各表に示す厚さ、接触角、吸液速度およびウェットバック性は、5つのサンプルにおける平均値である。
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
【表3】
【0170】
実施例1~21の不織布は、第1および第2繊維層の親水性の程度が適切であるため、吸液速度が速く、ウェットバック性にも優れている。
【0171】
比較例1の不織布は、第1繊維層が撥水性セルロース繊維のみから形成されているため、いずれのサンプルにおいても、吸液速度が遅い。さらに、100cc用のサンプルに生理食塩水を注入する際、液漏れが生じた。
【0172】
比較例2~4の不織布は、第2繊維層の接触角が80°未満であり、また、第2繊維層の親水性セルロース繊維の割合が高いため、特に100cc用サンプルにおけるウェットバック性に劣る。
【0173】
比較例5の不織布は、第2繊維層が疎水性繊維のみから形成されているため、いずれのサンプルにおいても吸液速度が遅い。さらに、100cc用のサンプルに生理食塩水を注入する際、液漏れが生じた。
【0174】
比較例6~11の不織布は、第1および第2繊維層の少なくとも一方の接触角が80°未満であり、また、第2繊維層の親水性セルロース繊維の割合が高いため、特に100cc用サンプルにおけるウェットバック性に劣る。
【0175】
比較例12および13の不織布は、第2繊維層に相当する層がない。そのため、比較例12は吸液速度が遅く、比較例13は吸液速度およびウェットバック性のいずれにも劣る。
【0176】
本開示は以下の態様を含む。
(態様1)
第1繊維層と、
前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、
前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、
前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含み、
前記第2繊維層は、前記第2繊維層の総質量を基準として、親水性繊維を5質量%以上含み、
水が透過する前の、水と前記第1繊維層表面との接触角θ1、および、水と前記第2繊維層表面との接触角θ2は、いずれも75°以上である、吸収性物品用不織布。
(態様2)
前記接触角θ1および前記接触角θ2は、いずれも120°以下である、態様1の不織布。
(態様3)
前記第1繊維層の目付W1と前記第2繊維層の目付W2とは、以下の関係式:
1≦W2/W1≦3
を満たす、態様1または2の不織布。
(態様4)
前記接触角θ1と前記接触角θ2とは、以下の関係式:
-40°≦θ1-θ2≦30°
を満たす、態様1~3のいずれかの不織布。
(態様5)
前記接触角θ2と、前記第1繊維層の厚さT1と、前記第2繊維層の厚さT2とは、以下の関係式:
を満たす、態様1~4のいずれかの不織布。
(態様6)
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維の含有量は、前記第1繊維層の総質量を基準として、70質量%未満である、態様1~5のいずれかの不織布。
(態様7)
前記第2繊維層に含まれる前記親水性繊維の含有量は、前記第2繊維層の総質量を基準として、90質量%以下である、態様1~6のいずれかの不織布。
(態様8)
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維の繊度は、0.5dtex以上3dtex以下である、態様1~7のいずれかの不織布。
(態様9)
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維は、親水性セルロース繊維を含む、態様1~8のいずれかの不織布。
(態様10)
前記第2繊維層に含まれる前記親水性繊維は、親水性セルロース繊維を含む、態様1~9のいずれかの不織布。
(態様11)
前記第1繊維層の表面は、凹凸および開孔の少なくとも一方を有する、態様1~10のいずれかの不織布。
(態様12)
第1繊維層と、
前記第1繊維層の一方の主表面に位置し、前記第1繊維層とは異なる第2繊維層と、を備え、
前記第1繊維層および前記第2繊維層は、繊維同士の交絡により一体化されており、
前記第1繊維層は、前記第1繊維層の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、かつ、親水性繊維を10質量%以上70質量%未満含み、
前記第2繊維層は、疎水性繊維、および、
(a)親水性セルロース繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として5質量%以上40質量%以下含む、
(b)親水化合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として40質量%以上90質量%以下含む、あるいは、
(c)親水性合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として30質量%以上90質量%以下含む、吸収性物品用不織布。
(態様13)
前記第1繊維層の目付W1と前記第2繊維層の目付W2とは、以下の関係式:
1≦W2/W1≦3
を満たす、態様12の不織布。
(態様14)
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維の繊度は、0.5dtex以上3dtex以下である、態様12または13の不織布。
(態様15)
前記第1繊維層に含まれる前記親水性繊維は、親水性セルロース繊維を含む、態様12~14のいずれかの不織布。
(態様16)
前記第2繊維層に含まれる疎水性繊維は、疎水性合成繊維を含む、態様12~15のいずれかの不織布。
(態様17)
前記第1繊維層の表面は、凹凸および開孔の少なくとも一方を有する、態様12~16のいずれかの不織布。
(態様18)
態様1~17のいずれかの吸収性物品用不織布を含む、吸収性物品。
(態様19)
前記吸収性物品用不織布は、前記第1繊維層が肌当接面になるように配置されている、態様18の吸収性物品。
(態様20)
第1繊維ウェブの総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を30質量%超え90質量%以下含み、親水性繊維を10質量%以上含む、前記第1繊維ウェブを作製すること、
疎水性繊維、および、第2繊維ウェブの総質量を基準として、
(a)親水性セルロース繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として5質量%以上40質量%以下含む、
(b)親水化合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として40質量%以上90質量%以下含む、あるいは、
(c)親水性合成繊維を、前記第2繊維層の総質量を基準として30質量%以上90質量%以下含む、前記第2繊維ウェブを作製すること、
前記第1繊維ウェブと前記第2繊維ウェブとを重ね合わせて積層繊維ウェブを作製すること、および、
前記積層繊維ウェブを、高圧流体流を用いた交絡処理に付して繊維同士を交絡させること、を含む、
吸収性物品用不織布の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本開示の不織布は、吸液速度およびウェットバック性に優れる。したがって、本開示の不織布は、様々な吸収性物品のトップシートとして有用である。