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特開2023-110421生体情報処理方法、生体情報処理装置、プログラム及び記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110421
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】生体情報処理方法、生体情報処理装置、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/296 20210101AFI20230802BHJP
   A61B 5/28 20210101ALI20230802BHJP
【FI】
A61B5/296
A61B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011855
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒米 啓順
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127AA04
4C127GG01
4C127GG11
4C127GG13
(57)【要約】
【課題】被検者の呼吸筋活動量をより高い精度で評価することが可能な生体情報処理方法及び生体情報処理装置を提供する。
【解決手段】生体情報処理方法は、被検者の体表面に取り付けられた複数の電極から、前記被検者の心電図波形を示す複数の心電図信号を取得するステップと、独立成分分析を通じて、前記複数の心電図信号の各々を、前記心電図波形を示す一以上の第1波形成分と、前記心電図波形以外の波形を示す一以上の第2波形成分とに分離するステップと、前記被検者の体表面に取り付けられた複数の電極のうちの所定の電極から取得され、前記一以上の第1波形成分が除去された心電図信号に基づいて、前記被検者の呼吸筋の活動量を示す活動評価指標を取得するステップと、前記活動評価指標に関連する情報を出力するステップと、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の体表面に取り付けられた複数の電極から、前記被検者の心電図波形を示す複数の心電図信号を取得するステップと、
独立成分分析を通じて、前記複数の心電図信号の各々を、前記心電図波形を示す一以上の第1波形成分と、前記心電図波形以外の波形を示す一以上の第2波形成分とに分離するステップと、
前記被検者の体表面に取り付けられた複数の電極のうちの所定の電極から取得され、前記一以上の第1波形成分が除去された心電図信号に基づいて、前記被検者の呼吸筋の活動量を示す活動評価指標を取得するステップと、
前記活動評価指標に関連する情報を出力するステップと、
を含む、コンピュータによって実行される生体情報処理方法。
【請求項2】
前記活動評価指標を取得するステップでは、
前記一以上の第1波形成分が除去された心電図信号に対して定量化処理を実行することで、前記活動評価指標が取得される、
請求項1に記載の生体情報処理方法。
【請求項3】
前記活動評価指標を取得するステップは、
所定の時間間隔毎に前記一以上の第1波形成分が除去された心電図信号に対して平均値処理を実行するステップと、
前記平均値処理が実行された心電図信号の最大振幅、平均振幅または積分値を前記活動評価指標として決定するステップと、
を含む、請求項2に記載の生体情報処理方法。
【請求項4】
前記活動評価指標に関連する情報は、
前記活動評価指標の時間変化を示すトレンドグラフと、
所定の基準値に対する前記活動評価指標の増減量または増減率と、
のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1から3のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法。
【請求項5】
前記活動評価指標を取得するステップは、
前記複数の電極のうちの第1電極から取得され、前記一以上の第1波形成分が除去された第1心電図信号に基づいて、第1呼吸筋の活動量を示す第1活動評価指標を取得するステップと、
前記複数の電極のうちの第2電極から取得され、前記一以上の第1波形成分が除去された第2心電図信号に基づいて、前記第1呼吸筋とは異なる第2呼吸筋の活動量を示す第2活動評価指標を取得するステップと、
を含み、
前記活動評価指標に関連する情報を出力するステップは、
前記第1活動評価指標に関連する情報と前記第2活動評価指標に関連する情報とを出力するステップを含む、
請求項1に記載の生体情報処理方法。
【請求項6】
前記第1活動評価指標を取得するステップでは、
前記一以上の第1波形成分が除去された前記第1心電図信号に対して定量化処理を実行することで、前記第1活動評価指標が取得され、
前記第2活動評価指標を取得するステップでは、
前記一以上の第1波形成分が除去された前記第2心電図信号に対して定量化処理を実行することで、前記第2活動評価指標が取得される、
請求項5に記載の生体情報処理方法。
【請求項7】
前記第1活動評価指標に関連する情報は、前記第1活動評価指標の時間変化を示すトレンドグラフを含み、
前記第2活動評価指標に関連する情報は、前記第2活動評価指標の時間変化を示すトレンドグラフを含む、
請求項5又は6に記載の生体情報処理方法。
【請求項8】
前記第1呼吸筋は、横隔膜であり、
前記第2呼吸筋は、肋間筋である、
請求項5から7のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法。
【請求項9】
前記第1電極は、前記被検者の肋間に取り付けられ、
前記第2電極は、前記被検者の四股または胸部に取り付けられる、
請求項8に記載の生体情報処理方法。
【請求項10】
前記複数の電極は、12誘導心電図検査において使用される電極である、
請求項1から9のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法。
【請求項11】
前記第1電極は、V4誘導に関連する誘導電極と、V5誘導に関連する誘導電極とを含み、
前記第1活動評価指標は、前記V4誘電に関連する誘導電極から取得され、前記一以上の第1波形成分が除去された心電図信号と、前記V5誘導に関連する電極から取得され、前記一以上の第1波形成分が除去された心電図信号とに基づいて、取得される、
請求項5から9のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法。
【請求項12】
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備えた生体情報処理装置であって、
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサによって実行されると、前記生体情報処理装置は、請求項1から11のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法を実行する、
生体情報処理装置。
【請求項13】
請求項1から11のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載されたプログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検者の呼吸筋の活動量を評価するための生体情報処理方法及び生体情報処理装置に関する。さらに、本開示は、当該情報処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム及び当該プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、ローカットフィルタとして機能するバンドパスフィルタを用いることで心電図信号から呼吸筋の活動量を示す筋電図信号を取得する生体情報処理方法が開示されている。一般的に、心電図センサから得られた心電図信号の低周波成分では、心電図波形を示す信号が得られる一方で、心電図信号の高周波成分ではノイズ信号として筋電図信号が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-30908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筋電図信号の周波数帯は、実際には低周波数帯から高周波数帯に及ぶため、筋電図信号の周波数帯と心電図信号の周波数帯は一部重複する。このため、バンドパスフィルタを用いて心電図信号から筋電図信号が取得される場合では、筋電図信号の低周波成分が除去されてしまう。この結果、筋電図信号の高周波成分のみに基づいて被検者の呼吸筋活動量が評価されるため、呼吸筋活動量の評価の精度には限界がある。上記観点より、被検者の呼吸筋活動量をより高い精度で評価可能な方法について検討の余地がある。
【0005】
本開示は、被検者の呼吸筋活動量をより高い精度で評価することが可能な生体情報処理方法及び生体情報処理装置を提供することを目的とする。また、本開示は、当該情報処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム及び当該プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る生体情報処理方法は、コンピュータによって実行され、
被検者の体表面に取り付けられた複数の電極から、前記被検者の心電図波形を示す複数の心電図信号を取得するステップと、
独立成分分析を通じて、前記複数の心電図信号の各々を、前記心電図波形を示す一以上の第1波形成分と、前記心電図波形以外の波形を示す一以上の第2波形成分とに分離するステップと、
前記被検者の体表面に取り付けられた複数の電極のうちの所定の電極から取得され、前記一以上の第1波形成分が除去された心電図信号に基づいて、前記被検者の呼吸筋の活動量を示す活動評価指標を取得するステップと、
前記活動評価指標に関連する情報を出力するステップと、
を含む。
【0007】
上記方法によれば、独立成分分析を通じて、心電図信号が心電図波形を示す一以上の第1波形成分と、心電図波形以外の波形を示す一以上の第2波形成分とに分離された上で、第1波形成分が除去された心電図信号に基づいて呼吸筋の活動量を示す呼吸筋活動評価指標が取得される。このように、上記方法では、バンドパスフィルタを用いて呼吸筋活動量を評価する従来の手法とは異なり、筋電図信号(即ち、第1波形成分が除去された心電図信号)の低周波成分と高周波成分の両方に基づいて被検者の呼吸筋活動量が評価される。即ち、低周波成分が除去された筋電図信号に基づいて呼吸筋活動量が評価される従来の手法と比べて、高い精度で被検者の呼吸筋活動量を評価することが可能となる。
【0008】
本発明の一態様に係る生体情報処理装置は、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備え、前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサによって実行されると、前記生体情報処理装置は、前記生体情報処理方法を実行する。
【0009】
上記構成によれば、低周波成分が除去された筋電図信号に基づいて呼吸筋活動量が評価される従来の手法と比べて、高い精度で被検者の呼吸筋活動量を評価することが可能な生体情報処理装置を提供することができる。
【0010】
前記生体情報処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。また、当該プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能媒体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、被検者の呼吸筋活動量をより高い精度で評価することが可能な生体情報処理方法及び生体情報処理装置を提供することができる。また、当該情報処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム及び当該プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態(以下、本実施形態)に係る生体情報処理装置の構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係る生体情報処理方法を説明するためのフローチャートである。
図3】12誘導心電図検査における各心電図信号の波形の一例を示す図である。
図4】四肢誘導に関連する電極を説明するための図である。
図5】胸部誘導に関連する電極を説明するための図である。
図6】独立成分分析を通じて分離された心電図波形を示す波形成分(心電図波形成分)と心電図波形以外の波形を示す波形成分(ノイズ波形成分)の一例を示す図である。
図7】心電図波形成分が除去された12種類の心電図信号の波形の一例を示す図である。
図8】平均化処理が実行されたV4誘導に関連する筋電図信号とV5誘導に関連する筋電図信号との間の差分の波形を示す図である。
図9】平均化処理が実行されたaVR誘導に関連する筋電図信号の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る生体情報処理装置1の構成を示すブロック図である。図1に示すように、生体情報処理装置1(以下、単に処理装置1という。)は、制御部2と、記憶装置3と、表示部4と、通信部5と、入力操作部6と、音声出力部7と、センサインターフェース8とを備える。処理装置1に設けられたこれらの構成要素は、バス14を介して互いに通信可能に接続されている。
【0014】
処理装置1は、被検者Pの生体情報を表示するための医療機器(例えば、生体情報モニタ)であってもよいし、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、スマートフォン、タブレット、医療従事者の身体(例えば、腕や頭等)に装着されるウェアラブルデバイス(例えば、ARグラス等)であってもよい。処理装置1は、被検者Pの呼吸筋の活動量を示す活動評価指標に関連する情報を出力するように構成されている。
【0015】
制御部2は、メモリとプロセッサを備えている。メモリは、コンピュータ可読命令(プログラム)を記憶するように構成されている。例えば、メモリは、各種プログラム等が格納されたROM(Read Only Memory)やプロセッサにより実行される各種プログラム等が格納される複数のワークエリアを有するRAM(Random Access Memory)等から構成される。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)のうちの少なくとも一つにより構成される。CPUは、複数のCPUコアによって構成されてもよい。GPUは、複数のGPUコアによって構成されてもよい。プロセッサは、記憶装置3又はROMに組み込まれた各種プログラムから指定されたプログラムをRAM上に展開し、RAMとの協働で各種処理を実行するように構成されてもよい。特に、プロセッサは、図2に示す一連の処理を実行する生体情報処理プログラムをRAM上に展開し、RAMとの協働で当該プログラムを実行する。生体情報処理プログラムの詳細については後述する。
【0016】
記憶装置3は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の記憶装置(ストレージ)であって、プログラムや各種データを格納するように構成されている。記憶装置3には、生体情報処理プログラムが組み込まれてもよい。また、記憶装置3には、被検者Pの生体情報を示す生体情報データ(心電図データ等)が保存されてもよい。例えば、心電図センサ10から取得された心電図データは、センサインターフェース8を介して記憶装置3に保存されてもよい。
【0017】
通信部5は、処理装置1を院内ネットワークに接続するように構成されている。具体的には、通信部5は、院内ネットワークに配置されたセントラルモニタやサーバと通信するための各種有線接続端子を含んでもよい。また、通信部5は、セントラルモニタやサーバと無線通信するための無線通信モジュールを含んでもよい。通信部5は、例えば、医用テレメータシステムに対応した無線通信モジュールを含んでもよい。また、通信部5は、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の無線通信規格に対応した無線通信モジュールおよび/又はSIMを用いた移動体通信システムに対応する無線通信モジュールを含んでもよい。院内ネットワークは、例えば、LAN(Local Area Network)又はWAN(Wide Area Network)により構成されてもよい。処理装置1は、院内ネットワークを介してインターネットに接続されてもよい。
【0018】
表示部4は、被検者Pの生体情報(例えば、活動評価指標に関連する情報)を表示するように構成されており、例えば、液晶パネル又は有機ELパネルによって構成されている。入力操作部6は、例えば、表示部4上に重ねて配置されたタッチパネル、マウス、及び/又はキーボード等である。入力操作部6は、医療従事者の入力操作を受け付けると共に、医療従事者の入力操作に対応した操作信号を生成するように構成されている。入力操作部6によって生成された操作信号がバス14を介して制御部2に送信された後、制御部2は、当該操作信号に応じて所定の動作を実行する。音声出力部7は、一以上のスピーカにより構成されている。
【0019】
センサインターフェース8は、心電図センサ10を処理装置1に接続するためのインターフェースである。センサインターフェース8は、心電図センサ10から出力される心電図信号が入力される入力端子を含んでもよい。心電図センサ10は、被検者Pの心臓の電気的活動(心電図波形)を示す心電図信号を取得するように構成されており、被検者Pの体表面に取り付けられる複数の電極を有する。本例では、心電図センサ10は、12誘導心電図検査に適用可能となっている。このため、心電図センサ10は、四肢誘導に関連する4つの電極(第2電極の一例)と、胸部誘導に関連する6つの電極(第1電極の一例)を有する。
【0020】
図4に示すように、心電図センサ10は、四肢誘導に関連する4つの電極として、aVR誘導に関連する誘導電極aVRと、aVL誘導に関連する誘導電極aVLと、aVF誘導に関連する誘導電極aVFと、図示しないグランド電極とを有する。誘導電極aVRは、被検者Pの右手に取り付けられる。誘導電極aVLは、被検者Pの左手に取り付けられる。誘導電極aVFは、被検者Pの左足に取り付けられる。グランド電極は、被検者Pの右足に取り付けられる。また、誘導電極aVL,aVRに基づいてI誘導に関連する心電図信号が取得される。誘導電極aVL,aVFに基づいてIII誘導に関連する心電図信号が取得される。誘導電極aVR,aVFに基づいてII誘導に関連する心電図信号が取得される。
【0021】
また、図5に示すように、心電図センサ10は、胸部誘導に関連する6つの電極として、被検者Pの肋間に装着される誘導電極V1~V6を有する。誘導電極V1では、V1誘導に関連する心電図信号が取得される。誘導電極V2では、V2誘導に関連する心電図信号が取得される。誘導電極V3では、V3誘導に関連する心電図信号が取得される。誘導電極V4では、V4誘導に関連する心電図信号が取得される。誘導電極V5では、V5誘導に関連する心電図信号が取得される。誘導電極V6では、V6誘導に関連する心電図信号が取得される。誘導電極V1は、被検者Pの第4肋間胸骨の右縁に取り付けられる。誘導電極V2は、被検者Pの第4肋間胸骨の左縁に取り付けられる。誘導電極V3は、誘電電極V2と誘導電極V4とを結ぶ線上の中点の位置に取り付けられる。誘導電極V4は、被検者Pの第5肋間と左鎖骨中線の交点の位置に取り付けられる。誘導電極V5は、左前腋窩線上の誘導電極V4と同じ高さの位置に取り付けられる。誘導電極V6は、左中腋窩線上の誘導電極V4と同じ高さの位置に取り付けられる。
【0022】
センサインターフェース8は、複数の差動増幅回路と、AD変換器とを少なくとも有する。複数の差動増幅回路の各々は、対応する誘電電極から出力された心電図信号を増幅するように構成されている。AD変換器は、心電図信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するように構成されている。デジタル信号に変換された心電図信号は、センサインターフェース8から制御部2に送信される。
【0023】
本実施形態では、処理装置1は、12誘導心電図検査を通じて12種類の心電図信号を取得することができる。特に、処理装置1は、標準肢誘導に係る3つの心電図信号と、単極肢誘導に係る3つの心電図信号と、胸部誘導に係る6つの心電図信号とを取得することができる。図3に示すように、標準肢誘導に係る3つの心電図信号は、I誘導、II誘導、III誘導に関連する心電図信号を含む。単極肢誘導に係る3つの心電図信号は、aVR誘導、aVL誘導、aVF誘導に関連する心電図信号を含む。胸部誘導に係る6つの心電図信号は、V1誘導、V2誘導、V3誘導、V4誘導、V5誘導、V6誘導に関連する心電図信号を含む。
【0024】
次に、図2を参照して本実施形態に係る生体情報処理方法について以下に説明する。図2は、本実施形態に係る生体情報処理方法を説明するためのフローチャートである。
【0025】
図2に示すように、ステップS1において、制御部2は、心電図センサ10からセンサインターフェース8を介して被検者Pの心電図波形を示す複数の心電図信号を取得する。特に、制御部2は、図3に示すように、12誘導心電図検査において取得される12種類の心電図信号をデジタル信号として取得する。上記したように、12種類の心電図信号は、標準肢誘導に係る心電図信号と、単極肢誘導に係る心電図信号と、胸部誘導に係る心電図信号を含む。
【0026】
ステップS2において、制御部2は、独立成分分析(ICA)によって各心電図信号の波形成分を心電図波形を示す波形成分と心電図波形以外の波形を示す波形成分とに分離する。独立成分分析は、多変量の信号を複数の加法的な成分に分離するための計算手法である。本実施形態では、12誘導心電図検査によって12種類の心電図信号が同時に取得されるため、独立成分分析によって12種類の心電図信号の各々を12種類の波形成分に分離することが可能となる。図6は、所定の心電図信号において、独立成分分析を通じて分離された心電図波形を示す波形成分(以下、心電図波形成分)と心電図波形以外の波形を示す波形成分(以下、ノイズ波形成分)を示している。図6に示すように、心電図信号は、複数の心電図波形成分(第1波形成分の一例)と、呼吸筋活動を示す複数のノイズ波形成分(第2波形成分の一例)とによって構成されている。
【0027】
12種類の心電図信号からなる心電図信号ベクトルx(t)をx(t)=(x(t),...s12(t))とし、12種類の波形成分からなる波形成分ベクトルs(t)を(s(t),...s12(t))とした場合に、独立成分分析においてx(t)とs(t)との間の関係は、x(t)=As(t)として表現される。ここで、Aは12行×12列からなる係数行列となる。
【0028】
次に、制御部2は、各心電図信号において、12種類の波形成分を心電図波形成分とノイズ波形成分とに分類する。この点において、制御部2は、基準となる心電図波形(以下、基準心電図波形)と各波形成分とを比較することで12種類の波形成分を心電図波形成分とノイズ波形成分とに分類することができる。例えば、所定の波形成分と基準心電図波形との間の相関係数が大きい場合に、当該所定の波形成分が心電図波形成分として分類されてもよい。一方で、所定の波形成分と基準心電図波形との間の相関係数が小さい場合に、当該所定の波形成分がノイズ波形成分として分類されてもよい。
【0029】
次に、ステップS3において、制御部2は、心電図波形以外の波形を示すノイズ波形成分のみに基づいて、心電図波形成分が除去された12種類の心電図信号を生成する。上記したように、12種類の心電図信号の各々は、複数の心電図波形成分と複数のノイズ波形成分とによって構成されている。このため、制御部2は、各心電図信号において心電図波形成分が除去されるように、各々が複数のノイズ波形成分のみから構成される12種類の心電図信号を生成する。図7は、心電図波形成分が除去された12種類の心電図信号の波形の一例を示している。
【0030】
例えば、V1誘導に関連する心電図信号xがx=a11+a12+・・・a11212で表現され、s,s,sが心電図波形成分である場合には、心電図波形成分が除去された心電図信号x’は、x’=a14+a15+・・・a11212として表現される。このように、独立成分分析を通じて各心電図信号から心電図波形成分を除去することが可能となる。心電図波形成分が除去された心電図信号は、被検者Pの呼吸筋の活動量を示す筋電図信号として扱われる。この点において、従来の筋電図信号は低周波成分が除去されている一方で、本実施形態において取得される筋電図信号は、低周波成分及び高周波成分の両方を含んでいる。
【0031】
次に、ステップS4において、制御部2は、心電図波形成分が除去された心電図信号に対して定量化処理を実行することで、被検者Pの呼吸筋の活動量を示す活動評価指標を取得する。以降では説明の便宜上、心電図波形成分が除去された心電図信号を筋電図信号という。この点において、制御部2は、12種類の全ての筋電図信号に対して定量化処理を実行してもよいし、12種類の筋電図信号のうちの幾つかの筋電図信号に対して定量化処理を実行してもよい。定量化処理では、制御部2は、筋電図信号に対して平均値処理を実行した上で、平均値処理が実行された筋電図信号の最大振幅、平均振幅または積分値を活動評価指標として決定する。
【0032】
平均化処理としては、二乗平均平方根(RMS)処理、絶対値処理を前処理とした区間平均処理、積分処理などが使用されてもよい。RMS処理で設定される区間は、例えば、100msから300msの範囲内であってもよい。図7は平均化処理が実行される前の12種類の筋電図信号の波形を示す一方、図8,9は平均化処理が実行された筋電図信号の波形の一例を示している。制御部2は、平均化処理が実行された筋電図信号の波形の最大振幅、平均振幅または積分値を活動評価指標として決定することができる。
【0033】
さらに、制御部2は、呼吸筋の活動量を示す活動評価指標として、被検者Pの横隔膜(第1呼吸筋の一例)の活動量を示す第1活動評価指標と、被検者Pの肋間筋(第2呼吸筋の一例)の活動量を示す第2活動評価指標を取得してもよい。
【0034】
(第1活動評価指標)
制御部2は、胸部誘導に係る6種類の筋電図信号のうちの少なくとも一つに対して定量化処理を実行することで、横隔膜の活動量を示す第1活動評価指標を取得してもよい。例えば、制御部2は、V4誘導に関連する筋電図信号とV5誘導に関連する筋電図信号との間の差分を演算した上で、当該演算された差分の波形に対して平均化処理を実行する。図8は、平均化処理が実行されたV4誘導に関連する筋電図信号とV5誘導に関連する筋電図信号との間の差分の波形S1を示している。その後、制御部2は、平均化処理が実行された差分の波形S1の最大振幅、平均振幅または積分値を第1活動評価指標として決定してもよい。本例では、第1活動評価指標を決定する際に、V4誘導に関連する筋電図信号とV5誘導に関連する筋電図信号との間の差分の波形が利用されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、第1活動評価指標を決定する際に、V3~V6誘導に関連する筋電図信号のいずれかの波形、V5誘導に関連する筋電図信号とV6誘導に関連する筋電図信号との間の差分の波形またはV3誘導に関連する筋電図信号とV4誘導に関連する筋電図信号との間の差分の波形が利用されてもよい。
【0035】
(第2活動評価指標)
制御部2は、aVR誘導に関連する筋電図信号に対して定量化処理を実行することで、肋間筋の活動量を示す第2活動評価指標を取得してもよい。例えば、制御部2は、aVR誘導に関連する筋電図信号に対して平均化処理を実行する。図9は、平均化処理が実行されたaVR誘導に関連する筋電図信号の波形S2を示している。その後、制御部2は、平均化処理が実行された筋電図信号の波形S2の最大振幅、平均振幅または積分値を第2活動評価指標として決定してもよい。本例では、第2活動評価指標を決定する際に、aVR誘導に関連する筋電図信号の波形S2が利用されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、第2活動評価指標を決定する際に、aVL誘導に関連する筋電図信号の波形が利用されてもよい。また、aVR誘導に関連する筋電図信号とV1誘導に関連する筋電図信号との間の差分の波形が利用されてもよいし、aVL誘導に関連する筋電図信号とV2誘導に関連する筋電図信号との間の差分の波形が利用されてもよい。
【0036】
尚、本願発明の発明者は、多変量解析の一種である因子分析を通じて12種類の筋電図信号を4つの因子に分類した。因子分析の結果、V4誘導、V5誘導、V6誘導に関連する筋電図信号が横隔膜の活動量を特に強く示すことを発見した。また、aVR誘導、aVL誘導に関連する筋電図信号が肋間筋の活動量を特に強く示すことを発見した。このように、横隔膜の活動量を示す第1活動評価指標では、V4誘導、V5誘導、V6誘導に関連する筋電図信号が利用される一方、肋間筋の活動量を示す第2活動評価指標では、aVR誘導、aVL誘導に関連する筋電図信号が利用されている。
【0037】
次に、ステップS5において、制御部2は、活動評価指標に関する情報を出力する。この点において、制御部2は、活動評価指標に関する情報を表示部4の表示画面上に表示してもよい。活動評価指標に関する情報としては、例えば、活動評価指標の現在の数値、活動評価指標の時間変化を示すトレンドグラフ、所定の基準値に対する活動評価指標の増減量又は増減率等が挙げられる。ここで、所定の基準値は、複数の取得された活動評価指標に基づいて決定されてもよい。活動評価指標の現在の数値、当該指標のトレンドグラフ、及び当該指標の増減量が同時に表示部4の表示画面上に表示されてもよい。特に、制御部2は、横隔膜の活動量を示す第1活動評価指標に関連する情報と肋間筋の活動量を示す第2活動評価指標に関連する情報を表示部4の表示画面上に同時に表示してもよい。より具体的には、第1活動評価指標のトレンドグラフと第2活動評価指標のトレンドグラフが表示画面上に同時に表示されてもよい。このように、医療従事者は、表示画面上に表示された2つのトレンドグラフを見ることで、被検者Pの横隔膜の活動状態と肋間筋の活動状態を把握することができる。
【0038】
また、制御部2は、活動評価指標に関する情報を記憶装置3内に保存してもよいし、院内ネットワークに配置されたセントラルモニタやサーバに送信してもよい。
【0039】
本実施形態によれば、独立成分分析を通じて、心電図信号が心電図波形成分と心電図波形成分以外のノイズ波形成分とに分離される。その後、心電図波形成分が除去された心電図信号(筋電図信号)に基づいて、横隔膜の活動量を示す第1活動評価指標と肋間筋の活動量を示す第2活動評価指標が取得される。その後、第1活動評価指標及び第2活動評価指標に関する情報が出力される。このように、本実施形態では、バンドパスフィルタを用いて呼吸筋活動量を評価する従来の手法とは異なり、筋電図信号の低周波成分と高周波成分との両方に基づいて被検者Pの呼吸筋活動量が評価される。つまり、本実施形態では、特定の周波数成分を除去せずに筋電図信号を取得することが可能となる。したがって、低周波成分が除去された筋電図信号に基づいて被検者の呼吸筋活動量が評価される従来の手法と比較して、高い精度で被検者の呼吸筋活動量を評価することが可能となる。
【0040】
また、医療従事者は、処理装置1から出力された被検者Pの活動評価指標のトレンドグラフ等を見ることで、被検者Pの呼吸筋活動量の時間変化を把握することができる。医療従事者は、被検者Pの呼吸筋活動量の時間変化より被検者の呼吸筋の状態(例えば、安静保持に伴う横隔膜等の呼吸筋の疲弊や弱化、横隔膜の活動量低下による加重側肺障害、呼吸筋トレーニングの効果、胸鎖乳突筋や呼吸補助筋の活動)を把握することができる。
【0041】
また、本実施形態では、12誘導心電図検査で用いられる電極を用いて被検者Pの呼吸筋の活動量を示す活動評価指標を取得することができる。このように、被検者Pの心電図を測定しつつ、被検者Pの呼吸筋活動量を高い精度で評価することが可能となる。
【0042】
尚、本実施形態では、定量化処理された筋電図信号に基づいて、横隔膜と肋間筋の2つの呼吸筋の活動量が評価されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。この点において、制御部2は、横隔膜と肋間筋の2つの活動量に追加して呼吸補助筋の活動量を評価してもよい。即ち、制御部2は、定量化処理された筋電図信号に基づいて、呼吸補助筋の活動量を示す第3活動評価指標を取得した上で、第1活動評価指標及び第2活動評価指標に関する情報に追加して第3活動評価指標に関する情報を出力してもよい。
【0043】
また、本実施形態に係る処理装置1をソフトウェアによって実現するためには、生体情報処理プログラムが記憶装置3又はROMに予め組み込まれていてもよい。または、生体情報処理プログラムは、磁気ディスク(例えば、HDD、フロッピーディスク)、光ディスク(例えば、CD-ROM,DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)ディスク)、光磁気ディスク(例えば、MO)、フラッシュメモリ(例えば、SDカード、USBメモリ、SSD)等のコンピュータ読取可能な記憶媒体に格納されていてもよい。この場合、記憶媒体に格納された生体情報処理プログラムが記憶装置3に組み込まれてもよい。さらに、記憶装置3に組み込まれた当該プログラムがRAM上にロードされた上で、プロセッサがRAM上にロードされた当該プログラムを実行してもよい。このように、本実施形態に係る生体情報処理方法が処理装置1によって実行される。
【0044】
また、生体情報処理プログラムは、通信ネットワーク上のコンピュータから通信部5を介してダウンロードされてもよい。この場合も同様に、ダウンロードされた当該プログラムが記憶装置3に組み込まれてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではない。本実施形態は一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0046】
1:生体情報処理装置(処理装置)
2:制御部
3:記憶装置
4:表示部
5:通信部
6:入力操作部
7:音声出力部
8:センサインターフェース
10:心電図センサ
14:バス
P:被検者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9