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特開2023-110424細胞外マトリクス由来の成形体及びその成型体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110424
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】細胞外マトリクス由来の成形体及びその成型体
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
A61L27/36 130
A61L27/36 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011860
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】522040252
【氏名又は名称】創生ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 淳
(72)【発明者】
【氏名】張 永巍
(72)【発明者】
【氏名】舩本 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田中 暖
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB00
4C081BA13
4C081BA17
4C081BC01
4C081DC12
(57)【要約】
【課題】任意の形状の、細胞外マトリクス由来の成形体を製造することができる方法を提供すること
【解決手段】細胞外マトリクス粉末を含む複数の成型体部分が接合してなる、細胞外マトリクス由来の成形体であって、複数の成型体部分のうち2個以上が、互いに異なる種類の組織に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する、成型体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外マトリクス粉末を含む複数の成型体部分が接合してなる、細胞外マトリクス由来の成形体であって、複数の成型体部分のうち2個以上が、互いに異なる種類の組織に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する、成型体。
【請求項2】
細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を型に充填する工程
当該材料粉末を充填した型を液体中に配置する工程
当該型を配置した液体を加圧する工程
を含む、細胞外マトリクス由来成形体の製造方法。
【請求項3】
細胞外マトリクス粉末が生体由来粉末である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記型がシリコン樹脂、ゴム、パルプ、ポリエチレンテレフタラート、アルミ及びステンレスからなる群より選択される少なくとも一種からなる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の方法により得られる、細胞外マトリクス由来材料。
【請求項6】
細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を2つの型で押してできた成形体であって、当該2つの型に対し水平面以外の面に凹凸を有する、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外マトリクス由来の成形体及びその成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞と細胞外マトリクス(ECM)で構成される、生体組織から細胞を除去した脱細胞化組織は、生体と同等のECM 組成や構造を有し、移植後に周辺組織と同化して組織再生を誘導することが示唆されている。また、脱細胞化組織粉末や脱細胞化組織ゲルが研究され、組織再生や細胞培養基材として応用されている。しかし、脱細胞化組織は原料である生体組織に存在する形状や組成、力学的強度以外の材料を作製することが困難であり、脱細胞化組織粉末は創傷治癒誘導以外の応用が難しく、ゲルは力学的強度の低さや可溶化によるECM 変性が問題点である。また、脱細胞化組織粉末を型を用いて円盤状にしたものを足場として用いることも試みられているが(非特許文献1)、粉末を固めるための従来のプレス機(図2)を用いた場合、任意の形状の成型体を得るのが難しいこと、得られる成型体の表面における材料の密度が均一にならないこと(加圧方向(上下方向)表面の材料の密度と比較して、加圧方向以外の面(側面)の材料の密度が低くなる)等の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Annals of Biomedical Engineering, Vol. 43, No. 4, April 2015 pp. 1003-1013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、任意の形状の、細胞外マトリクス由来の成形体を製造することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況の下、本発明者らは、様々な手法を試行錯誤した結果、本発明が属する生物化学分野とは技術分野が全く異なるセラミックス成型に用いられていた技術を転用することにより上記課題を解決し得ることを見出した。本発明者らは、かかる新たな知見に基づき、材料として用いる細胞外マトリクス粉末、成型の条件等をさらに検討し、本発明を完成させた。従って、本発明は以下の項を提供する:
【0006】
項1.細胞外マトリクス粉末を含む複数の成型体部分が接合してなる、細胞外マトリクス由来の成形体であって、複数の成型体部分のうち2個以上が、互いに異なる種類の組織に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する、成型体。
【0007】
項2.細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を型に充填する工程
当該材料粉末を充填した型を液体中に配置する工程
当該型を配置した液体を加圧する工程
を含む、細胞外マトリクス由来成形体の製造方法。
【0008】
項3.細胞外マトリクス粉末が生体由来粉末である、項2に記載の方法。
【0009】
項4.前記型がシリコン樹脂、ゴム、パルプ、ポリエチレンテレフタラート、アルミ及びステンレスからなる群より選択される少なくとも一種からなる、項2又は3に記載の方法。
【0010】
項5.項2~4のいずれか一項に記載の方法により得られる、細胞外マトリクス由来材料。
【0011】
項6.細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を2つの型で押してできた成形体であって、当該2つの型に対し水平面以外の面に凹凸を有する、成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、任意の形状の、細胞外マトリクス由来の成形体を製造することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本願発明における、細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を型に充填する工程の概略図を示す。
図2】粉末を固めるための従来のプレス機の説明図を示す。
図3】本発明の方法の種々の実施形態の概略図を示す。
図4】実施例1において用いたモールド及び得られた成型体の写真を示す。
図5】実施例2において得られた成型体の写真を示す。
図6】実施例3-1において用いたモールド及び得られた成型体の写真を示す。
図7】実施例3-2において用いたモールド及び得られた成型体の写真を示す。
図8】実施例4において得られた成型体の写真を示す。
図9】実施例5における試験の概略及び結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
細胞外マトリクス由来成形体の製造方法
本発明は、細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を型に充填する工程
当該細胞外マトリクス粉末を充填した型を液体中に配置する工程
当該型を配置した液体を加圧する工程
を含む、細胞外マトリクス由来成形体の製造方法を提供する。
【0015】
本発明において細胞外マトリクスとしては、種々の組織に由来するものが挙げられ、例えば、脳、眼、甲状腺、気管、食道、胃、肝臓、腎臓、胆嚢、膵臓、腸(小腸、大腸(結腸、直腸)等)、肺、膀胱、尿道、前立腺、脊髄、軟骨、骨髄、腱、関節、靱帯、血管、筋肉、皮膚、子宮、卵巣、精巣、胎盤、歯、歯肉、舌等が挙げられる。細胞外マトリクス粉末は、これらの組織を用いて、自体公知の方法に準じて細胞を除去することにより作製することができる。また、細胞外マトリクス粉末には、上記組織から細胞を除去することにより得られる脱細胞化組織粉末だけでなく、脱細胞化組織粉末以外の生態由来粉末(コラーゲン粉末等)も包含される。細胞外マトリクス粉末としては、これらの組織のうちの1種類に由来するものを使用しても、これらの組織のうち2種類以上に由来するものを組み合わせて使用してもよい。また、細胞外マトリクスとしては、例えば、哺乳動物、鳥類等に由来するものが挙げられる。哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ハムスター、ブタ等が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0016】
細胞外マトリクス粉末の形状は特に限定されず、略球形(球形を含む)、板状、繊維状等が挙げられる。細胞外マトリクス粉末の平均粒子径も特に限定されないが、例えば、500~0.01μm、好ましくは250~1μmのものが挙げられる。細胞外マトリクス粉末の平均粒子径は、顕微鏡(走査型電子顕微鏡、実態顕微鏡など)による形態観察、光子相関法(DLS)、レーザ回折/散乱法(SLS)により測定することができる。
【0017】
細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末としては、細胞外マトリクス粉末自体を当該材料粉末として用いてもよいし、細胞外マトリクス粉末と他の材料とを混合したものを当該材料粉末として用いてもよい。細胞外マトリクス粉末と他の材料とを混合する場合、例えば、NaCl、多糖、タンパク質、酵素、炭酸水素ナトリウム等を用いることができる。これらの他の材料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、NaClを細胞外マトリクス粉末と混ぜて用いて成型体を作製し、その後、NaClを除去することにより多孔質の成型体を得ることができる。細胞外マトリクス粉末と他の材料とを混合する場合、材料粉末中の細胞外マトリクス粉末の割合は限定されないが、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上等の範囲で適宜調整できる。
【0018】
本発明において、細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を中空の型に充填する工程を行う。図1に示す概略図を例示して説明すると、細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末1を型2につめ、細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末1’を型2’につめる。本発明においては、型としては、後述する加圧工程において、圧力をかけることにより型がたわんだり、縮んだりすることで中に充填された材料に圧力が伝えられるようなものであれば特に限定されない。可撓性の型の素材についても、後述する加圧工程で型の中に充填された材料に圧力が伝えられ、成型体を形成できる限り、特に限定されないが、例えば、シリコン樹脂、ゴム、パルプ、ポリエチレンテレフタラート、アルミ、ステンレス等、またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。型の容積(例えば、型2及び2’を用いる場合は、型2の容積及び型2’の容積の合計)は特に限定されないが、例えば、0.01~1000mL、好ましくは0.1~200mL、より好ましくは0.2~100mLの範囲で設定することができる。材料粉末1をつめた型2と材料粉末1’をつめた型2’とを組み合わることにより型の中に粉末材料を充填することができる。当該工程において型の中に後述する工程で当該型を配置する液体が入ってこないよう、型は密閉されていることが好ましい。また、粉末材料を充填した型全体を別の容器(袋等)に入れて減圧する(いわゆる真空パック等)すること等により、粉末材料と、液体とを接触させないようにすることもできる。
【0019】
本発明の方法においては、次に、当該細胞外マトリクス粉末を含む粉末材料を充填した型を液体中に配置する工程を行う。粉末材料を充填した型を配置する液体としては、特に限定されないが、水、油、アルコール等、またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0020】
本発明の方法においては、当該型を配置した液体を加圧する工程を行う。当該加圧操作における圧力としては特に限定されないが、例えば、1100~100000000mbar、好ましくは1500~50000000mbar、より好ましくは2000~10000000mbarの範囲で適宜設定できる。加圧操作における温度は特に限定されず、例えば、0~50℃、好ましくは4~30℃、より好ましくは10~25℃の範囲で適宜設定できる。加圧操作の時間も特に限定されないが、例えば、1~100分間、好ましくは2~50分間、より好ましくは3~30分間の間で適宜設定できる。本発明において、上記材料を充填した型を液体中で加圧して成型体を得る方法としては、Cold Isostatic Pressing(冷間等方圧加工法。CIP。)等が挙げられる。またCIPのうち特に高い圧力を用いて加工する高静水圧法(HHP)等を用いることもできる。当該加圧工程により、加圧容器中の液体、液体中に配置した型、及び当該型の中に充填された材料粉末が加圧され、型の形状に対応した成型体が形成される。また、本発明の方法は、加圧工程の後、減圧する工程を含んでもよい。また、本発明の方法はさらに、型の中から材料粉末の加圧成型体を取り出す工程を含んでもよい。
【0021】
本発明の方法の種々の実施形態の概略図を図3に示す。まず、材料粉体として1種類の組織に由来する細胞外マトリクス粉末を含有するものを用い、上記加圧工程を1度行い成型体を得る方法の概略図を示す。尚、図3(1)に示す方法において材料粉体は型に充填された状態で加圧されるが、充填された材料粉体の組成がわかりやすくなるよう、図3(1)においては、型の記載を省略し、充填された材料粉体を表示している。図3(2)~(4)についても同様に、型の記載を省略し、充填された材料粉体を表示しているが、これらの図に記載の方法においても、材料粉体は型に充填された状態で加圧される。材料粉体は図3(1)に示すように1種類の組織に由来する細胞外マトリクス粉末を含有してもよいが、図3(2)に示すように2種類以上の組織に由来する細胞外マトリクス粉末を含有してもよい。また、本発明の方法においては、例えば、上記加圧工程を1度行い成型体を得ることだけでなく、上記加圧工程を1度行い成型体を得た後、当該成型体と別の材料粉体とを型に充填し、再度加圧工程を行い、核となる第1層と第1層を包む第2層との2層の成型体部分からなる成型体を得ることもできる。かかる2層の成型体部分からなる成型体の製造方法を図3(3)に示す。これらの充填工程及び加圧工程を繰り返すことにより3層以上(例えば、3層、4層、5層等)の成型体を得ることもできる。また、別の実施形態において、細胞外マトリクス粉末とそれ以外の粉末(例えば、NaCl)とを含む材料粉体を加圧成型し、その後、細胞外マトリクス粉末でない粉末(例えば、NaCl)を除去することにより多孔質の成型体を得ることもできる。かかる実施形態において細胞外マトリクス粉末でない粉末は、例えば、細胞外マトリクス粉末とそれ以外の粉末(例えば、NaCl)とを含む材料粉体の成型体を、緩衝液(リン酸緩衝液等)に、浸漬し、さらに凍結乾燥を行うことにより、除去できる。かかる実施形態の概要を、細胞外マトリクス粉末でない粉末として、NaClを用いた場合を例に図3(4)に示す。
【0022】
上記に説明した、本発明の方法を用いることにより、充填した材料の表面に均等に圧力をかけることができ、そのため、得られる成型体の表面における材料の密度を均一とすることができる。また、本発明の方法を用いることにより、主導のプレス機を用いる場合等と比較して、高い力学的強度を有する成型体を得ることができる。さらに上記型として、3Dプリンター等により任意の形状のものを作ることができる。そのため、本発明の方法によれば、様々な形状の、細胞外マトリクス由来の成形体を、そのかたちが崩れてしまうことを抑制しつつ精密に製造することができる。
【0023】
成形体
本発明は、種々の細胞外マトリクス由来の成形体を提供する。一つの実施形態において、本発明は、細胞外マトリクス粉末を含む複数の成型体部分が接合してなる、細胞外マトリクス由来の成形体であって、複数の成型体部分のうち2個以上が、互いに異なる種類に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する、成型体を提供する。当該実施形態においては本発明の成型体は、複数(例えば、2~5個、2~4個、2~3個、2個等)の成型体部分の接合体である。そして、実施形態においては本発明の成型体を構成する複数の成型体部分は、それぞれ、細胞外マトリクス粉末を含む。そして、当該実施形態においては、複数の成型体部分のうち2個以上(例えば、2~4個、好ましくは2~3個、より好ましくは2個)が互いに異なる種類に由来する細胞外マトリクス粉末を含有することを特徴とする。当該実施形態において「互いに異なる種類に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する2個以上の成型体部分」は、典型的には、共通する種類の細胞外マトリクス粉末を有していないことが好ましいが(例えば、ある成型体部分が肝臓由来の細胞外マトリクス粉末を有し、他の成型体部分が心臓由来の細胞外マトリクス粉末を有する成型体)、かかる態様に限定されず、共通する種類の細胞外マトリクス粉末を有していてもよい(例えば、ある成型体部分が脳由来の細胞外マトリクス粉末及び肝臓由来の細胞外マトリクス粉末の混合物を有し、他の成型体部分が脳由来の細胞外マトリクス粉末及び心臓由来の細胞外マトリクス粉末の混合物を有する成型体)。また、当該実施形態において、上記のように2個以上の成型体部分が、共通する種類の細胞外マトリクス粉末を有する場合としては、例えば、ある成型体部分が脳由来の細胞外マトリクス粉末を有し、他の成型体部分が脳由来の細胞外マトリクス粉末及び心臓由来の細胞外マトリクス粉末の混合物を有する成型体等のように、一方の成型体部分が有する細胞外マトリクス粉末と同じ種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を他方の成型体部分も有し、他方の成型体部分がさらに別の種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を有しているような場合も挙げられる。
【0024】
これらの実施形態において、本発明の成型体に含まれる、「互いに異なる種類に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する2個以上の成型体部分」について、例えば、互いに異なる種類に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する成型体部分が2個の場合、その質量比は、一方の成形体部分の質量1gに対する他方の成型体部分の質量として、0.01~1gが好ましく、0.1~1がより好ましい。また、これらの実施形態において、本発明の成型体に含まれる成型体部分のうち、「互いに異なる種類に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する2個以上の成型体部分」の割合は、成型体全体の体積に対し、例えば、90%以上、好ましくは95%以上とすることができ、100%でもよい。
【0025】
これらの実施形態において、互いに異なる種類に由来する細胞外マトリクス粉末を含有する2個以上の成型体部分を有する成型体は、例えば、前述した細胞外マトリクス由来成形体の製造方法において、2個の型枠からなる型を用い、一方の型枠にある種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有する材料粉末を充填し、他方の型枠に別の種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有する材料粉末を充填することにより得ることができる。例えば、図1の場合、材料1として種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有する材料粉末を用い、材料1’にこれと異なる種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有する材料粉末を用いることにより、成型体の上下で異なる種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有するものが得られる。また、一方の型枠にある種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有する材料粉末を充填し、さらに別の種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有する材料粉末も充填し、そして、他方の型枠にも同様にある種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有する材料粉末と別の種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末とを充填することにより、成型体の横方向に異なる種類の組織由来の細胞外マトリクス粉末を含有するものが得られる。
【0026】
当該実施形態において、成型体部分のうち少なくとも2個が互いに異なる種類に由来する細胞外マトリクス粉末を含有することにより、硬組織と軟組織を含む組織の再現、層構造を有する組織の再現、生体組織には存在しない組み合わせの細胞外マトリクス材料の作製等の利点を有する。
【0027】
前述のように、細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を従来の圧縮成型機を用いて成型すると、材料粉末を上下方向から圧縮するため、得られる成型体の上部及び下部の密度が高くなり、側面部分の密度が相対的に低くなる。そのため、表面の密度の変化率が大きい成型体となる。これに対し、前述した本発明の細胞外マトリクス由来成形体の製造方法によれば、材料粉末を充填した型に対し全方向から圧力をかけるため表面の密度が均一な成型体をえることができる。
【0028】
また、前述したように細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を従来の圧縮成型機を用いて成型すると、成型体の上下方向に圧力がかかるため、成型体の上面及び下面に凹凸を形成することはできる。しかし、従来の圧縮成型機を用いて成型すると、成型体の側面方向にかかる圧力が弱いため、成型体の側面方向に凹凸を形成することは難しく、側面方向に凹凸を形成しても凹凸に十分な圧力がかかっていないため脆くなってしまう。これに対し、前述した本発明の細胞外マトリクス由来成形体の製造方法によれば、材料粉末を充填した型に対し全方向から圧力をかけるため、成型体の側面方向に凹凸を形成することができる。従って、本発明は、細胞外マトリクス粉末を2つの型で押してできた成形体であって、当該2つの型に対し水平面以外の面に凹凸を有する、成形体を提供する。本実施形態において、2つの型に対する水平面とは、成型体が有する面のうち、2つの型同士が接する点をつなげてできる線を含む平面(2つの型同士が接する点をつなげてできる線が平面上に乗らない場合には2つの型同士が接する点をつなげてできる線をはさむ平行な2つの平面であって、当該2つの平面の間の距離が最も短くなるような平面)と平行又は略平行な面を意味し、例えば、図1の場合、星形の上面及び下面を示す。
【0029】
また、細胞外マトリクス粉末を含む材料粉末を従来の圧縮成型機を用いて成型すると、材料粉末を上下方向から圧縮するため、得られる成型体は、上下方向に加圧した場合の力学的強度(弾性率)と比較して、側面部分に加圧した場合の力学的強度が相対的に低くなる。これに対し、前述した本発明の細胞外マトリクス由来成形体の製造方法によれば、材料粉末を充填した型に対し全方向から圧力をかけるため、上下方向に加圧した場合の力学的強度(弾性率)だけでなく側面部分に加圧した場合の力学的強度も高い値を得ることができる。従って、一実施形態において、本発明は、2つの型に対する水平面に含まれる直線方向に加圧した場合の弾性率が、従来の上下2方向の圧縮成型機を用いて得られた同じ形状を有する成型体と比較して高い成型体、例えば、5%以上、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上高い成型体を提供する。「従来の上下2方向の圧縮成型機を用いて得られた」とは、対象となる本発明の成型体を形成するのと同一の大きさの圧力を、従来の上下2方向の圧縮成型機を用いてかけることにより得られた成型体であることを意図する。2つの型に対する水平面に含まれる直線の方向の取り方により上記弾性率の比率が異なる場合、従来の圧縮成型機を用いる方法と本発明の方法とで最も弾性率の差が小さくなるような方向で圧力をかけて測定した弾性率を採用することができる。上記弾性率の差の上限は限定されないが、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、100%以下等から選択することができる。弾性率は、本発明が属する技術分野において使用される方法、例えば、JIS K 7171:2016に規定する曲げ弾性率の測定方法に基づき測定することができる。また、別の実施形態において、本発明は、2つの型に対する水平面に含まれる直線方向に加圧した場合の硬さが、従来の上下2方向の圧縮成型機を用いて得られた同じ形状を有する成型体と比較して硬い成型体、例えば、5%以上、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上硬い成型体を提供する。2つの型に対する水平面に含まれる直線の方向の取り方により上記硬さの比率が異なる場合、従来の圧縮成型機を用いる方法と本発明の方法とで最も硬さの差が小さくなるような方向で圧力をかけて測定した硬さを採用することができる。上記硬さの差の上限は限定されないが、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、100%以下等から選択することができる。当該実施形態において、硬さは、本発明が属する技術分野において使用される方法、例えば、JIS K7215、JIS 6253-.3等に規定する押し込み試験に基づき測定することができる。
【0030】
以下に実施例を用いて本発明の特定の実施形態を例示的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例0031】
実施例1
1. 脱細胞化組織粉末の作製
研究用ブタの脳、脊髄、肝臓、軟骨、及び骨髄を採取し、それぞれ、生理食塩水にて洗浄した。洗浄後、脳組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr. Chef(神戸製鋼社製)を用いて、10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の脳組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(クリスト)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化脳組織を、ミル、フードプロセッサー、チューブ式乾式粉砕機(IKA)、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉砕し、脱細胞化脳粉末として使用した。洗浄した脳組織に代えて、洗浄した脊髄、肝臓、軟骨又は骨髄を用いる以外上記と同様にして、脊髄、肝臓、軟骨又は骨髄の脱細胞化組織粉末を得た。
【0032】
2. CIP成型による脱細胞化脳粉末ブロックの作製
脱細胞化脳粉末を図4に写真を示すシリコン樹脂モールド(容積約1.6cm)に充填し、シリコン樹脂モールドをナイロンポリ袋に入れて真空パックした。Dr. Chef(神戸製鋼社製)を用いて、2,000atmにて水中でCIP処理を行った。CIP処理後、シリコン樹脂モールドから円柱のかたちの脱細胞化組織粉末ブロックを取り出した。得られた成型体の写真を図4に示す。
【0033】
実施例2
1. 脱細胞化脳粉末とヒアルロン酸の混合ブロックの作製
脱細胞化組織粉末とヒアルロン酸(富士フィルム和光)とを質量比9:1で混合し、実施例1と同じシリコン樹脂モールドに充填してナイロンポリ袋に入れて密閉した。Dr. Chef(神戸製鋼社製)を用いて、2,000atmにてCIP処理を行った。CIP処理後、シリコンモールドから脱細胞化組織粉末ブロックを取り出し、脱細胞化脳粉末とヒアルロン酸の混合成型体を作製した。得られた成型体の写真を図5に示す。
【0034】
実施例3
1. 脱細胞化脳粉末と脱細胞肝臓粉末の複合ブロックの作製
図6に写真を示す花の型のシリコン樹脂モールド(容積約0.2cm)の花びら部分に脱細胞化脳粉末と脱細胞化肝臓粉末を交互に充填し、ナイロンポリ袋に入れて密閉した。Dr. Chef(神戸製鋼社製)を用いて、2,000atmにてCIP処理を行い、複合ブロックを作製した。得られた成型体の写真を図6に示す。
【0035】
2. 脱細胞化脊髄粉末と脱細胞化肝臓粉末の複合ブロックの作製
図7に写真を示すブタ型のシリコン樹脂モールドの下部分(容積(下部分)約2.0cm)に脱細胞化脊髄粉末を充填し、シリコン樹脂モールドの上部分(容積(上部分)約1.6cm)に脱細胞化肝臓粉末を充填してナイロンポリ袋に入れて密閉した。Dr. Chef(神戸製鋼社製)を用いて、2,000atmにてCIP処理を行い、複合ブロックを作製した。得られた成型体の写真を図7に示す。
【0036】
実施例4
1. 脱細胞化骨髄粉末と脱細胞化軟骨粉末の2層ブロックの作製
直径6mm、高さ3mmの円柱状シリコンモールドに脱細胞化骨髄粉末を充填し、ナイロンポリ袋に入れて密閉した。Dr. Chef(神戸製鋼社製)を用いて、2,000atmにてCIP処理を行い、脱細胞化骨髄ブロックを作製した。直径8mm、高さ5mmのシリコンモールドに脱細胞化軟骨粉末を入れ、その粉末の上に脱細胞化骨髄ブロックを静置した。さらに、脱細胞化軟骨粉末を脱細胞化骨髄ブロックとシリコンモールドの間に充填し、2,000~10,000atmにてCIP処理を行い、2層ブロックを作製した。得られた成型体の写真を図8に示す。
【0037】
実施例5
1. 多孔質脱細胞化骨髄ブロックの作製
直径10mm、高さ5mmの円柱状のシリコンモールドに0~90%のNaClを混合した脱細胞化骨髄粉末を充填し、Dr. Chef(神戸製鋼社製)を用いて、2,000atmにてCIP処理を行い、NaCl含有脱細胞化骨髄ブロックを作製した。NaCl含有脱細胞化骨髄粉末ブロックをリン酸緩衝液に浸漬してNaClを除去し、その後、凍結乾燥して多孔質脱細胞化骨髄ブロックを作製した。
【0038】
試験の概略及び結果を図9に示す。作製した脱細胞化骨髄ブロックと多孔質脱細胞化骨髄ブロックをSEM(信州大学機器分析支援部門上田分室施設) で観察することにより、多孔性の確認を行った。NaClを混合しなかった脱細胞化骨髄ブロックには孔が認められなかったが、60%NaClを混合した多孔質脱細胞化骨髄ブロックの表面および断面では孔が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の方法によれば、細胞外マトリクス由来成形体として任意の形状のものを製造することができる。従って、例えば、歯の根元が抜けたとき、レントゲンデータからシリコンモールを起こして細胞外マトリクス由来成形体を製造し、当該成型体を足場として細胞移植することにより、抜けた部分の形状に合わせて組織の再生を行うことができる。また、顎の骨、頭の骨がわれたときの骨再生の誘導剤としても有用なものとなり得る。また、肝臓のような組織の再生能の高い組織の細胞外マトリクスを用いて別の組織(皮膚等)の再生用の成型体を作製することも可能となる。また、本発明の成型体は細胞移植等の治療用の器具として用いる以外に、細胞培養の機材としても有用である。細胞外マトリクス由来成型体により、細胞外マトリクスの原料物の組織には存在しない形状の損傷部位の治療が可能となる。足場材料を用いた3次元組織の再生において、材料内部への血管新生が重要であり、血管誘導能を持つ粉末を含有した細胞外マトリクス成型体により、既存材料よりも血管誘導能に優れた材料の提供が可能となる。本発明の手法を用いた細胞外マトリクス由来成型体は、軟骨と骨、腱と骨のような軟組織と硬組織からなる組織を模倣した材料が作製可能となる。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9