(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110462
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害活性を有するペプチド及びその利用
(51)【国際特許分類】
C07K 5/103 20060101AFI20230802BHJP
C07K 5/083 20060101ALI20230802BHJP
C12N 9/48 20060101ALI20230802BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20230802BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230802BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230802BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20230802BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20230802BHJP
A61K 36/736 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C07K5/103 ZNA
C07K5/083
C12N9/48
A23L33/17
A61P43/00 111
A61P3/10
A61K38/06
A61K38/07
A61K36/736
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011934
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】木村 雅和
(72)【発明者】
【氏名】木村 素子
(72)【発明者】
【氏名】中村 大地
(72)【発明者】
【氏名】若村 香菜子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B050
4C084
4C088
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME03
4B050DD11
4B050LL01
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA15
4C084BA16
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZC20
4C084ZC35
4C088AB51
4C088AC04
4C088BA16
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZC20
4C088ZC35
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA12
4H045BA13
4H045DA56
4H045EA27
4H045FA16
4H045GA25
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害活性を有する新規な成分を見出し、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、及び抗糖尿病剤を提供することである。
【解決手段】アーモンド由来タンパク質の加水分解物に含まれるテトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及びトリペプチドVal-Ala-Tyrは、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害活性があり、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、及び抗糖尿病剤として使用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ile-Pro-Ala-Glyのアミノ酸配列を有するテトラペプチド。
【請求項2】
Val-Ala-Tyrのアミノ酸配列を有するトリペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載のテトラペプチド及び/又は請求項2に記載のトリペプチドを含む、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤。
【請求項4】
請求項1に記載のテトラペプチド及び/又は請求項2に記載のトリペプチドとして、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを含むアーモンドタンパク質加水分解物を含む、請求項3に記載のジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤を含む、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害用の飲食品。
【請求項6】
請求項3又は4に記載のジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤を含む、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害用の医薬品。
【請求項7】
請求項1に記載のテトラペプチド及び/又は請求項2に記載のトリペプチドを含む、血糖値上昇抑制剤。
【請求項8】
請求項1に記載のテトラペプチド及び/又は請求項2に記載のトリペプチドとして、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを含むアーモンドタンパク質加水分解物を含む、請求項7に記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の血糖値上昇抑制剤を含む、血糖値上昇抑制用の飲食品。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の血糖値上昇抑制剤を含む、血糖値上昇抑制用の医薬品。
【請求項11】
請求項1に記載のテトラペプチド及び/又は請求項2に記載のトリペプチドを含む、抗糖尿病剤。
【請求項12】
請求項1に記載のテトラペプチド及び/又は請求項2に記載のトリペプチドとして、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを含むアーモンドタンパク質加水分解物を含む、請求項11に記載の抗糖尿病剤。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の抗糖尿病剤を含む、抗糖尿病用の飲食品。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の抗糖尿病剤を含む、抗糖尿病用の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害活性を有するペプチドに関する。また、本発明は、当該ペプチドを利用したジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、及び抗糖尿病剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2型糖尿病の治療においては、インクレチンと呼ばれる消化管ホルモンが脚光を浴びている。インクレチンは食事の摂取に伴い消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンであり、血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌抑制作用や、膵β細胞の保護及び増殖作用等も有している。このようにインクレチンは血糖値降下に重要な役割を担っているが、血中でジペプチジルペプチダーゼ-IV(dipeptidyl peptidase-IV;以下、「DPP-IV」と表記することもある)により速やかに分解されて不活化するという問題があるため、2型糖尿病の治療戦略の1つとして、DPP-IV阻害剤の利用が期待されている。そこで、従来、DPP-IV阻害活性を有する成分について種々見出されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定構造のフルオロピロリドン誘導体が、DPP-IV等のセリンプロテアーゼをDPP-IV阻害剤として使用し得ることが記載されている。また、特許文献2には、特定構造のプロリン誘導体をDPP-IV阻害剤として使用し得ることが記載されている。しかしながら、特許文献1及び2で報告されているDPP-IV阻害剤は、食経験がない化学合成品であり、食品等として日常的に利用することができないという欠点がある。
【0004】
一方、天然由来成分を利用したDPP-IV阻害剤についても、従来、幾つか報告されている。例えば、特許文献3には、カゼイン加水分解物に含まれるトリペプチドMet-Lys-ProがDPP-IV阻害活性を有していることが記載されている。特許文献4には、チーズの水溶性画分に含まれる特定のペプチドがDPP-IV阻害活性を有していることが記載されている。特許文献5には、グルテンをショウガ根茎由来酵素で分解することにより得られるトリペプチドX-Pro-GlnがDPP-IV阻害活性を有していることが記載されている。特許文献6には、茶葉タンパク質分解物がDPP-IV阻害活性を有していることが記載されている。このように、天然由来成分を利用したDPP-IV阻害剤についても幾つか報告されているが、DPP-IV阻害剤として利用される成分のバリエーション増加等の観点から、天然由来成分を利用した新たなDPP-IV阻害剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-63286号公報
【特許文献2】特表2007-537231号公報
【特許文献3】特開2016-136966号公報
【特許文献4】特開2014-1223号公報
【特許文献5】特開2017-214334号公報
【特許文献6】特開2017-43618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、DPP-IV阻害活性を有する新規な成分を見出し、DPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、及び抗糖尿病剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、アーモンド由来タンパク質の加水分解物に含まれるテトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及びトリペプチドVal-Ala-Tyrは、DPP-IV阻害活性があることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. Ile-Pro-Ala-Glyのアミノ酸配列を有するテトラペプチド。
項2. Val-Ala-Tyrのアミノ酸配列を有するトリペプチド。
項3. 項1に記載のテトラペプチド及び/又は項2に記載のトリペプチドを含む、DPP-IV阻害剤。
項4. 項1に記載のテトラペプチド及び/又は項2に記載のトリペプチドとして、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを含むアーモンドタンパク質加水分解物を含む、項3に記載のDPP-IV阻害剤。
項5. 項3又は4に記載のDPP-IV阻害剤を含む、DPP-IV阻害用の飲食品。
項6. 項3又は4に記載のDPP-IV阻害剤を含む、DPP-IV阻害用の医薬品。
項7. 項1に記載のテトラペプチド及び/又は項2に記載のトリペプチドを含む、血糖値上昇抑制剤。
項8. 項1に記載のテトラペプチド及び/又は項2に記載のトリペプチドとして、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを含むアーモンドタンパク質加水分解物を含む、項7に記載の血糖値上昇抑制剤。
項9. 項7又は8に記載の血糖値上昇抑制剤を含む、血糖値上昇抑制用の飲食品。
項10. 項7又は8に記載の血糖値上昇抑制剤を含む、血糖値上昇抑制用の医薬品。
項11. 項1に記載のテトラペプチド及び/又は項2に記載のトリペプチドを含む、抗糖尿病剤。
項12. 項1に記載のテトラペプチド及び/又は項2に記載のトリペプチドとして、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを含むアーモンドタンパク質加水分解物を含む、項11に記載の抗糖尿病剤。
項13. 項11又は12に記載の抗糖尿病剤を含む、抗糖尿病用の飲食品。
項14. 項11又は12に記載の抗糖尿病剤を含む、抗糖尿病用の医薬品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、天然物であるアーモンド由来のペプチドを利用してDPP-IVを阻害するので、安全性が高く、飲食品等として日常的に摂取可能なDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、及び抗糖尿病剤の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】アーモンド由来タンパク質の加水分解物を精製処理して得られた画分について、HPLC分析によってIle-Pro-Ala-Gly及びVal-Ala-Tyrの存在を確認した結果を示す図である。上に示すクロマトグラフは精製処理して得られた画分、下に示すクロマトグラフ標準品である。
【
図2】Ile-Pro-Ala-Gly及びVal-Ala-Tyrを含むアーモンド由来タンパク質の加水分解物を摂取させた後に、糖負荷(ブドウ糖水溶液の摂取)を行い、経時的に血糖値を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.ペプチド
本発明のペプチドは、DPP-IV阻害活性を有するペプチドであり、具体的には、Ile-Pro-Ala-Glyのアミノ酸配列(配列番号1)を有するテトラペプチド、及びVal-Ala-Tyrのアミノ酸配列を有するトリペプチドである。
【0012】
本発明において、アミノ酸は三文字表記を使用して表記しており、Ileはイソロイシン、Proはプロリン、Alaはアラニン、Glyはグリシン、Valはバリン、Tyrはチロシンを示している。また、本発明において、テトラペプチド及びトリペプチドの表記は、左端がN末端、右端がC末端に位置していることを示している。具体的には、Ile-Pro-Ala-Glyであれば、N末端からC末端に向けて、Ile、Pro、Ala、及びGlyがこの順に配されており、Val-Ala-Tyrであれば、N末端からC末端に向けて、Val、Ala、及びTyrがこの順に配されていることを示している。
【0013】
本発明のペプチドの製造方法については、前記アミノ酸配列のテトラペプチド及び/又はトリペプチドが得られることを限度として、特に制限されないが、例えば、アーモンド由来タンパク質を加水分解する方法、生物工学的法、化学合成法等が挙げられる。これらの中でも、安全性等の観点から、好ましくは、アーモンド由来タンパク質を加水分解する方法が挙げられる。
【0014】
以下、アーモンド由来タンパク質を加水分解することにより本発明のペプチドを製造する方法について説明する。
【0015】
アーモンドとは、バラ科(Rosaceae)のアーモンド(Prunus amygdalus Batsch)の種子(甘扁桃)である。アーモンド由来タンパク質は、アーモンドから抽出処理することにより得ることができる。アーモンド由来タンパク質の原料として使用されるアーモンドは、生のもの、焙煎したもの、アーモンドオイルの製造工程で生じる脱脂アーモンド(例えば、焙煎したアーモンドの脱脂物)等のいずれであってもよいが、製造コストの抑制、未利用資源の有効活用等の観点から、好ましくは脱脂アーモンドが挙げられる。
【0016】
アーモンドからタンパク質を抽出するには、常法に従って行うことができるが、例えば、アーモンドを必要に応じて粉砕又は粉末化した後に、アルカリ性水溶液に浸漬させればよい。アルカリ性水溶液のpHとしては、例えば、7~14、好ましくは7.5~12、より好ましくは8~10が挙げられる。アルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ剤を添加して調製される。抽出温度としては、例えば、40~100℃、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃が挙げられる。また、抽出時間としては、例えば、0.5時間以上、好ましくは1~24時間、より好ましくは2~12時間が挙げられる。
【0017】
斯くして得られたアーモンド由来タンパク質を含む抽出液は、必要に応じて固液分離、濃縮等を行った後に加水分解処理に供してもよいが、そのまま加水分解処理に供してもよい。
【0018】
アーモンド由来タンパク質を加水分解する方法については、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はVal-Ala-Tyrが生成することを限度として特に制限されず、プロテアーゼ処理、酸処理、アルカリ処理等のいずれの方法であってもよいが、好ましくはプロテアーゼ処理が挙げられる。
【0019】
プロテアーゼ処理に使用されるプロテアーゼの種類については、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はVal-Ala-Tyrを生成可能であることを限度として特に制限されないが、具体的には、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、これらの組み合わせが挙げられる。また、プロテアーゼの由来についても、特に制限されず、例えば、パパイン、ブロメリン、フィシン等の植物由来プロテアーゼ;各種微生物由来のプロテアーゼ;ペプシン、(キモ)トリプシン、カテプシン等の動物由来プロテアーゼ等が挙げられる。プロテアーゼは市販品を使用することができる。プロテアーゼの市販品としては、例えば、パパインW-40、サモアーゼPC10F、ニューラーゼF3G、パンクレアチンF、プロチンSD-AY10、プロチンSD-NY10、プロテアーゼA「アマノ」SD、プロテアーゼM「アマノ」SD、プロテアーゼP「アマノ」3SD、ブロメラインF、プロテアックス(以上、天野エンザイム社製);オリエンターゼAY、オリエンターゼ10NL、オリエンターゼ90N、オリエンターゼOP、ヌクレイシン、オリエンターゼ22BF、ビオプラーゼSP-20FG、ビオプラーゼOP(以上、エイチビィアイ社製);スミチームLP-G、スミチームFL-G、スミチームCP、スミチームFP-G、スミチームMP、スミチームBR、スミチームBNP(以上、新日本化学工業社製);アロアーゼAP-10、アロアーゼXA-10、アロアーゼNP-10(以上、ヤクルト薬品工業社製);デナチームCPO PEPRICH(ナガセケムテックス社製);マキシプロPSP(DSM社製);精製パパイン(三菱化学フーズ社製);FormeaTL、FormeaCTL(以上、Novozymes社製)等が挙げられる。
【0020】
プロテアーゼの中でも、アーモンド由来タンパク質からIle-Pro-Ala-Gly及びVal-Ala-Tyrを効率的に生成させるという観点から、好ましくはパパイン、Geobacillus stearothermophilus由来のプロテアーゼ、及びキモトリプシン、より好ましくはパパインW-40(パパイン、天野エンザイム社製)、サモアーゼPC10F(Geobacillus stearothermophilus由来のプロテアーゼ、天野エンザイム社製)、及びFormeaCTL(キモトリプシン、Novozymes社製)が挙げられる。
【0021】
これらのプロテアーゼは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。とりわけ、パパインとGeobacillus stearothermophilus由来のプロテアーゼとを併用、或はパパインとキモトリプシンとを併用することによって、アーモンド由来タンパク質からテトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及びトリペプチドVal-Ala-Tyrを効率的に生成させることが可能になる。
【0022】
プロテアーゼ処理は、プロテアーゼとアーモンド由来タンパク質とを、プロテアーゼ反応が可能な溶媒中で共存させればよく、例えば、プロテアーゼとアーモンド由来タンパク質とを任意の順で溶媒に添加してもよいが、製造コストの抑制の観点から、前述するアーモンド由来タンパク質を含む抽出液、その濃縮液、又はその希釈液に、プロテアーゼを添加することが好ましい。
【0023】
プロテアーゼ処理において、基質となるアーモンド由来タンパク質の添加量については、特に制限されないが、10~300g/L、好ましくは25~200g/L、より好ましくは50~100g/Lが挙げられる。プロテアーゼの添加量については、使用する酵素の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、アーモンド由来タンパク質100質量部当たり、プロテアーゼが総量で0.01~20質量部、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~5質量部が挙げられる。
【0024】
プロテアーゼ処理時のpHについては、使用するプロテアーゼが作用できる範囲であればよい。例えば、パパイン及び/又はGeobacillus stearothermophilus由来のプロテアーゼを使用する場合であれば、pHとして7~14、好ましくは7.5~12、より好ましくは8~10が挙げられる。また、例えば、パパイン及び/又はキモトリプシンを使用する場合であれば、pHとして、7~14、好ましくは7.5~12、より好ましくは8~10が挙げられる。
【0025】
プロテアーゼ処理時の温度条件については、使用するプロテアーゼが作用できる範囲であればよい。例えば、パパイン及び/又はGeobacillus stearothermophilus由来のプロテアーゼを使用する場合であれば、30~70℃、好ましくは40~60℃、より好ましくは45~55℃が挙げられる。また、例えば、パパイン及び/又はキモトリプシンを使用する場合であれば、30~70℃、好ましくは40~60℃、より好ましくは45~55℃が挙げられる。
【0026】
プロテアーゼ処理における処理時間については、使用するアーモンド由来タンパク質の量、酵素の種類や量、プロテアーゼ処理時のpHや温度等を勘案した上で、Ile-Pro-Ala-Gly及びVal-Ala-Tyrの生成に必要な時間を適宜設定すればよいが、例えば、5~24時間、好ましくは10~22時間、より好ましくは15~20時間が挙げられる。
【0027】
プロテアーゼ処理後には、必要に応じてプロテアーゼの失活、固液分離による残渣の除去、濃縮、乾燥等を行ってもよい。
【0028】
斯くして得られたアーモンドタンパク質の加水分解物は、Ile-Pro-Ala-Gly及び/又はVal-Ala-Tyrが含まれており、本発明のペプチド含有物としてそのまま使用してもよい。また、得られたアーモンドタンパク質加水分解物を、必要に応じて、限外濾過、吸着樹脂処理、クロマトグラフィー等の精製処理に供して、テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrの純度を高めたり、テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrの精製品にしたりして、本発明のペプチド含有物として使用してもよい。
【0029】
本発明のペプチドの用途については、特に制限されないが、本発明のペプチドは、DPP-IV阻害活性を有しているので、DPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、抗糖尿病剤等として好適に使用することができる。これらの用途については、「2.DPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、及び抗糖尿病剤」の欄にて詳述する。
【0030】
2.DPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、及び抗糖尿病剤
テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrは、DPP-IV阻害活性を有しているので、DPP-IV阻害剤の有効成分として使用することができる。
【0031】
また、インクレチンは、インスリンの分泌促進作用や血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌抑制作用を有しており、DPP-IV阻害によってインクレチンの分解を抑制できるので、テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrは、血糖値上昇抑制剤又は抗糖尿病剤の有効成分として使用することもできる。ここで、抗糖尿病剤は、2型糖尿病の予防又は治療の目的で使用されるものである。
【0032】
本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤では、有効成分として、テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及びトリペプチドVal-Ala-Tyrの内、いずれか少なくとも一方が含まれていればよいが、これらの双方が含まれている場合には、より一層優れたDPP-IV阻害活性を発揮できるので、好適である。
【0033】
本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤において、有効成分として使用されるテトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrは、精製又は未精製のいずれの状態であってもよい。例えば、テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを含むアーモンドタンパク質加水分解物を、未精製の状態又はこれらのペプチドの純度を高めた状態で使用することもできる。
【0034】
本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤は、経口摂取又は経口投与によって使用される。本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤の摂取又は投与量については、生体内でDPP-IVを阻害するのに有効量であれば得、使用される製品形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、成人1日当たりの摂取又は投与量が、前記テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又は前記トリペプチドVal-Ala-Tyrの総量で、1mg~500mg、好ましくは5~250mg、より好ましくは10~100mgが挙げられる。
【0035】
本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤は、DPP-IV阻害作用、血糖値上昇抑制作用、又は抗糖尿病作用の付与が求められる製品に配合して使用される。本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤を配合可能な製品については、経口摂取又は経口投与されるものであることを限度として特に制限されないが、例えば、飲食品、医薬品等が挙げられる。
【0036】
本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤が配合される製品の剤型は、固形状、半固形状、液状等のいずれであってもよく、当該製品の種類や用途に応じて適宜設定される。本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤が配合される製品には、その種類や剤型等に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、食品素材、食品添加物、栄養成分、薬学的に許容される基材、薬学的に許容される添加剤、薬理成分等が含まれていてもよい。
【0037】
本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤を飲食品分野で使用する場合、テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製して、DPP-IV阻害用飲食品、血糖値上昇抑制用飲食品、又は抗糖尿病用飲食品として提供すればよい。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、サプリメント等を含む)、病者用食品等の食品等が挙げられる。病者用食品は、DPP-IV阻害、血糖値上昇抑制、或は糖尿病の予防又は治療が必要とされる患者用として提供することができる。これらの飲食品の形態として、特に制限されないが、具体的には、チョコレート、クッキー、ビスケット、スナック、クラッカー、チューイングガム、キャンディー、キャラメル類、口中清涼菓子、米菓子等の菓子類;饅頭、どら焼き等の和菓子類;ドライフルーツ、ナッツ、食物繊維等が練り込まれたエネルギーバー又はバランス栄養食品;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓等の冷菓類;ヨーグルト、プリン、ゼリー等のデザート類;パン、クッキー、ビスケット、ピザ生地、パイ生地、アイスクリームのコーンカップ、モナカの皮、シュークリームの皮等のベーカリー類;スポンジケーキ、シフォンケーキ、カステラ、マドレーヌ、フィナンシェ、パウンドケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ等の洋菓子;パスタ、うどん、ソバ、冷麦、そうめん、中華そば、マカロニ、ビーフン、はるさめ等の麺類;イチゴジャム、リンゴジャム、ブルーベリージャム、マーマレード等のジャム類;カレー、ハヤシ、シチュー、ミートソース、ホワイトソース等のソースの素;中華丼、牛丼、親子丼等のどんぶりの素;チャーハンの素、マーボー豆腐の素、釜飯の素等の調味料材料;味噌汁、スープ等のフリーズドライ食品;フルーツソース、中華あん、蒲焼きのたれ、みたらし団子のたれ、ホワイトソース、ドレッシング、ウスターソース、ミートソース、サウザンアイランドドレッシング等のたれ・ソース類;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ソーセージ、魚肉ハム、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ等の水産練り製品;シリアル(穀物加工品);カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、リポソーム製剤等のサプリメント;清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、粉末飲料、ゼリー飲料、コーヒー飲料、カカオ飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、粉末飲料、エナジードリンク、ノンアルコール飲料、アルコール飲料等の飲料類等が挙げられる。
【0038】
また、本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤を飲食品分野で使用する場合、本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤を単独で又は他の成分と組み合わせて、DPP-IV阻害用の食品添加物、血糖値上昇抑制用の食品添加物、又は抗糖尿病用の食品添加物として提供することもできる。
【0039】
本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤を飲食品に使用する場合、飲食品における当該DPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤の配合量については、飲食品の種類や形態等に応じて、前述する摂取量を充足できる範囲で適宜設定すればよいが、飲食品中でテトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrが総量で、0.0001~90質量%、好ましくは0.0005~75質量%、更に好ましくは0.001~50質量%となる範囲が挙げられる。
【0040】
また、本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤を医薬品分野で使用する場合、テトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrを単独で、又は他の薬理成分、薬学的に許容される基剤や添加剤等と組み合わせて所望の剤型に調製して、DPP-IV阻害用医薬品、血糖値上昇抑制用医薬品、又は抗糖尿病用医薬品として提供すればよい。このような医薬品の形態としては、特に制限されないが、具体的には、ドリンク剤、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤(ハードカプセル及びソフトカプセルを含む)、トローチ剤、チュアブル剤、エキス剤(軟エキス剤、乾燥エキス剤等を含む)、ゼリー剤、シロップ剤、酒精剤等の内服用医薬品が挙げられる。
【0041】
本発明のDPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤を医薬品に使用する場合、医薬品における当該DPP-IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、又は抗糖尿病剤の配合量については、医薬品の種類や剤型等に応じて、前述する投与量を充足できる範囲で適宜設定すればよいが、例えば、医薬品中でテトラペプチドIle-Pro-Ala-Gly及び/又はトリペプチドVal-Ala-Tyrが総量で、0.0001~90質量%、好ましくは0.0005~75質量%、更に好ましくは0.001~50質量%となる範囲が挙げられる。
【実施例0042】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1:アーモンドタンパク質の加水分解物の調製
脱脂したローストアーモンドの乾燥粉末400gに水3600gを加え、よく分散させ、濃度10質量%のアーモンド含有液を調製した。このアーモンド含有液に、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを9.0に調整し、70℃で9時間加熱撹拌することにより、アーモンドタンパク質の抽出液を得た。
【0044】
次いで、前記で得られたアーモンドタンパク質の抽出液を50℃に冷却し、水酸化ナトリウムを添加してpH9.0に再調整した後、パパインW-40(天野エンザイム社製)及びサモアーゼPC10F(天野エンザイム社製)を、各々4g(アーモンド含有液に対して0.1質量%)添加して、50℃で18時間加熱撹拌することにより加水分解反応を行った。その後、80℃で30分間加熱することにより酵素を失活させ加水分解反応を停止し、室温になるまで冷却した。この加水分解液を遠心分離(15000×g、4℃、10分間)して、上清を回収し、次いで、回収した上清を吸引濾過し残渣を除去した。濾過後の水溶液を凍結乾燥し、加水分解物(凍結乾燥品)約200gを得た。
【0045】
実施例2:DPP-IV阻害活性を有するペプチドの同定
1.DPP-IV阻害活性を有するペプチドの分離
前記実施例1で得られた加水分解物(凍結乾燥品)を5質量%となるように超純水に溶解させ、加水分解物含有水溶液を調製した。この加水分解物含有水溶液500μLを固相抽出カートリッジ(Sep-Pak Plus Short C18 Cartridge、Waters社製)に注入した後、シリンジを用いて超純水3mLを注入し、押し出した溶液は回収せず廃棄した。次いで、10容量%メタノール水溶液1mLを固相抽出カートリッジに注入し、同じく押し出した溶液は回収せず廃棄した。最後に、10容量%メタノール水溶液2mLを固相抽出カートリッジに注入し、押し出した溶液を回収した。
【0046】
回収した溶液を濃縮して乾燥した後、超純水200μLに溶解し、0.45μm遠心フィルター(5,000rpm/min)を通過後の溶液をサンプルとして、逆相HPLCを用いて下記分離条件1及び2にてペプチドの分離を行った。
【0047】
<分離条件1>
カラム:InertsiL ODS-3(ジーエルサイエンス社製)
検出:UV 210nm
流速:3mL/min
溶離液A:超純水
溶離液B:50%アセトニトリル水溶液
グラジェント:溶離液Aの割合100%から、133分後に溶離液Bの割合が50%になるような直線グラジエント条件に設定した。
【0048】
<分離条件2>
カラム:LiChrospher 100 RP-18(MERCK社製)
検出:UV 210nm
流速:0.8mL/min
溶離液A:超純水
溶離液B:50%アセトニトリル水溶液
グラジェント:溶離液Aの割合100%から、20分後に溶離液Bの割合が100%になるような直線グラジエント条件に設定した。
【0049】
分離条件1で得られた溶出画分について、DPPIV drug discovery kit(BML-AK499,Enzo Life Sciences社製)を用いてDPP-IV阻害活性を測定したところ、リテンションタイム80分の溶出画分にDPP-IV阻害活性を持つペプチドが存在していた。この条件により分離したペプチドを「ペプチドA」とした。
【0050】
また、分離条件2で得られた溶出画分について、DPPIV drug discovery kit(BML-AK499,Enzo Life Sciences社製)を用いてDPP-IV阻害活性を測定したところ、リテンションタイム12分の溶出画分にDPP-IV阻害活性を持つペプチドが存在していた。この条件により分離したペプチドを「ペプチドB」とした。
【0051】
2.ペプチドA及びBのアミノ酸配列の同定
DPP-IV阻害活性が認められたペプチドA及びBのアミノ酸配列を、プロテインシーケンサ(PPSQ-53A、島津製作所社)により同定した。その結果、ペプチドAはVal-Ala-Tyrからなるトリペプチドであり、ペプチドBはIle-Pro-Ala-Glyからなるテトラペプチドであることが分かった。
【0052】
3.トリペプチドVal-Ala-Tyr及びテトラペプチドIle-Pro-Ala-GlyのDPP-IV阻害活性の確認
3-1.試験方法
トリペプチドVal-Ala-Tyr及びテトラペプチドIle-Pro-Ala-Glyを合成して、これらのDPP-IV阻害活性を測定した。DPP-IV阻害活性は、DPPIV drug discovery kit(BML-AK499,Enzo Life Sciences社製)を使用して行った。具体的な測定条件は、以下の通りである。
【0053】
<材料>
緩衝液:50mM Tris緩衝液(pH7.5)
基質液:H-Gly-Pro-pNA(10mM in DMSO) キット付属の基質液を、前記緩衝液を用いて50倍に希釈したものを用いた。
酵素液:Recombinant Human DPPIV/CD26 キット付属の酵素液40μLを、前記緩衝液を用いて全量1011.5μLとなるよう希釈した。この希釈溶液を、前記緩衝液を用いて更に2倍に希釈したものを用いた。
試料液:合成したVal-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-Glyを超純水で適宜段階希釈したものを用いた。
【0054】
<手法>
緩衝液、基質液、及び試料液のそれぞれを、表1に従い1ウェル中に全量100μLとなるよう96ウェルプレートに添加した。次いで、この96ウェルプレートをマイクロプレートリーダー(Infinite 200PRO,TECAN社製)へ挿入し、37℃で10分間、プレインキュベートした。プレインキュベート後、表1に従い酵素液を、マイクロプレートリーダーに添加した。その後、37℃で60分間反応させながら、DPP-IVによる基質からのp-ニトロアニリン(pNA)の切断により増加する吸光度を405nmにて5分間隔で測定した。
【0055】
【0056】
以下の式に従って、Val-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-Glyの各濃度におけるDPP-IV阻害率を算出し、IC
50(DPP-IV活性を50%阻害する濃度)を求めた。
【数1】
【0057】
3-2.試験結果
結果を表2に示す。この結果、Val-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-GlyにはDPP-IV阻害活性があり、Ile-Pro-Ala-GlyはDPP-IV阻害活性が格段に高いことが確認された。
【0058】
【0059】
実施例3:トリペプチドVal-Ala-Tyr及びテトラペプチドIle-Pro-Ala-Glyの精製物の調製
前記実施例1で得られた加水分解物を、樹脂を用いた精製処理に供し、Val-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-Glyの純度を高めた精製物を調製した。具体的には、前記実施例1で得られた加水分解物を超純水に添加して混合し、水溶液を調製した。この水溶液mLを、樹脂(PrepC18,日本ウォーターズ社製)を充填したカラム(内径50mm×長さ200mm,BIORAD社製)にロードした。次いで、濃度が異なる2種のエタノール水溶液をカラムに滴下することによりペプチドの溶出を行い、溶出液を分画した。得られた各画分について、合成したVal-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-Glyを標準品として用いて、以下の条件でHPLC分析を行った。
【0060】
<HPLCの条件>
HPLCシステム:LC-2010 CHT(SHIMADZU)
カラム:Waters Xterra C18(4.6×150mm、5μm)
検出:UV 210nm
流速:800μL/min
溶離液A:0.1%酢酸水溶液
溶離液B:0.1%酢酸含有50%エタノール水溶液
グラジェント:
時間(min) A液(%) B液(%)
0~4 96 4
4~20 60 40
カラム温度:40℃
注入量:5μL
【0061】
その結果、Val-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-Glyの双方が含まれている画分が検出された。当該画分をHPLC分析した結果を
図1に示す。また、当該画分を濃縮して凍結乾燥し、Val-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-Glyを含む精製物を調製し、後述する実施例4で使用した。
【0062】
実施例4:DPP-IV阻害活性の確認
実施例1で得られた加水分解物(Val-Ala-Tyrを1.60mg/g及びIle-Pro-Ala-Glyを1.33mg/g含有)、及び実施例4で得られた精製物(Val-Ala-Tyrを5.10mg/g及びIle-Pro-Ala-Glyを4.30mg/g含有)について、DPP-IV阻害活性を測定した。DPP-IV阻害活性は、DPPIV-GloTM Protease Assay(G8350,Promega社製)を使用して行った。具体的な測定条件は、以下の通りである。
【0063】
<材料>
緩衝液:1M Tris-HCl(pH8.0、ニッポンジーン社製)を、超純水を用いて100倍希釈した10mM Tris-HCl(pH8.0)を使用した。
基質液:キット付属のDPPIV-GloTM Substrate粉末に超純水25μLを加えた10mMの基質液を使用した。
ルシフェリン検出試薬:キット付属のLuciferin Detection Reagent粉末にDPPIV-GloTM Buffer 10mLを全量加え、混合したものを使用した。
測定試薬:前記ルシフェリン検出試薬10mLに前記基質液20μLを加え十分混合し、基質濃度を20μMに調整したものを使用した。
酵素液:0.5mg/mLのDipeptidylpeptidase IV, human recombinant(BioVision社製)溶液を、前記緩衝液を用いて16000倍希釈したものを使用した。
試料液(サンプル):実施例1で得られた加水分解物又は実施例4で得られた精製物を、超純水を用いて濃度150mg/mLに調製した。次に、この水溶液と、超純水を用いて10vol%に調製したジメチルスルホキシド(DMSO、富士フィルム和光純薬製)水溶液を、3対1の割合で(DMSO濃度が2.5vol%となるように)混合したものを使用した。
試料液(陰性コントロール):超純水にDMSO(富士フィルム和光純薬製)を2.5vol%となるように添加したものを使用した。
試料液(陽性コントロール):P32/98(BML-PI142-0010、Enzo Life Sciences社製)を、2.5vol%DMSOを用いて濃度19.2μMとなるように添加したものを使用した。
【0064】
<手法>
測定試薬5μL、試料液1μL、及び酵素液4μLを、384ウェルプレートの各ウェル中に添加し、室温で30分間インキュベートした。次いで384ウェルプレートをマイクロプレートリーダー(EnVision 2105、パーキンエルマー社製)へ挿入し、発光強度の測定を行った。医学統計解析ソフトGraphPadPrism9(エムデーエフ社製)を用いて、試料液(陰性コントロール)の場合の発光強度を100%、試料液(陽性コントロール)の場合の発光強度を0%に設定し、実施例1で得られた加水分解物及び実施例4で得られた精製物のIC50(DPP-IV活性を50%阻害する濃度)を求めた。
【0065】
結果を表3に示す。実施例4で得られた精製物のIC50が、実施例1で得られた加水分解物に比べて0.6倍であった。即ち、樹脂を用いた精製により、DPP-IV阻害活性を持つVal-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-Glyが濃縮され、より高いDPP-IV阻害活性を示すことが確認された。
【0066】
【0067】
実施例5:食後血糖上昇抑制効果の確認試験
前記の通り、トリペプチドVal-Ala-Tyr及びテトラペプチドIle-Pro-Ala-Glyには、in vitroでのDPP-IV阻害活性が認められた。そこで、Val-Ala-Tyr及びIle-Pro-Ala-Glyを含む組成物(実施例1で得られた加水分解物;Val-Ala-Tyrを1.60mg/g及びIle-Pro-Ala-Glyを1.33mg/g含有)が、ヒト体内で食後血糖上昇抑制効果を奏するか否かを確認するために、ヒトでの試験を行った。
【0068】
ヘルシンキ宣言に則り、本試験の目的、方法、得られる結果等についての十分な説明を行なった後、同意が得られた健常成人(男性3名、女性3名;平均年齢35歳)を被験者とした。試験は2日間に分けて行った。また、本試験の実施に際し空腹時の血糖値を測定する必要性から、試験前日22時から試験当日開始までは絶食、試験開始1時間半前までは飲水のみを可能とし、その後試験開始までは絶水とした。なお、試験前日の食事内容は指定しなかった。試験中は、血糖値に影響を及ぼす運動や活動を制限し、安静な状態を保つようにした。
【0069】
実施例1で得られた加水分解物(凍結乾燥物)を摂取量が5gとなるように水100mLに懸濁した飲料を試験食とした。また、実施例1で得られた加水分解物の原料として使用した脱脂ローストアーモンドの乾燥粉末を、タンパク質としての摂取量が5gとなるように水100mLに懸濁した飲料をプラセボ食とした。また、糖質負荷のための基準食として、グルコース(D(+)-グルコース,富士フイルム和光純薬社製)を、糖質としての摂取量が50gとなるように水300mLに溶解した飲料を使用した。
【0070】
本試験では、被験者に試験食又はプラセボ食を摂食させ、その30分後に基準食を摂取させた。試験食又はプラセボ食の摂取直前(-30分)、基準食の摂取直前(0分)、基準食摂取後30分、60分、90分、及び120分の時点で採血を行った。採血は留置針を用い、医師または看護師により行った。採血した血液サンプルについて血糖値を測定した。測定には、ラボアッセイTMグルコース(富士フイルム和光純薬社製)を使用した。
【0071】
図2に、試験食又はプラセボ食の摂取直前から基準食摂取後120分までの被験者6名の血糖値の平均値の経時変化を示す。この結果、実施例1で得られた加水分解物を摂取することにより、糖負荷直後から血糖値の上昇抑制効果が認められた。即ち、トリペプチドVal-Ala-Tyr及びテトラペプチドIle-Pro-Ala-Glyは、ヒト体内で食後血糖上昇抑制効果を奏することが明らかとなった。