(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110473
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】可搬式熱放射測定装置及び熱診断方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/53 20220101AFI20230802BHJP
F16L 55/00 20060101ALI20230802BHJP
F16L 53/30 20180101ALI20230802BHJP
F17D 5/06 20060101ALI20230802BHJP
G01J 5/10 20060101ALI20230802BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20230802BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20230802BHJP
【FI】
G01J5/02 L
F16L55/00 D
F16L53/30
F17D5/06
G01J5/10 C
G01J5/48 F
G01J5/00 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011947
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 顕
(72)【発明者】
【氏名】針尾 直志
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 賢一
【テーマコード(参考)】
2G066
3H025
3J071
【Fターム(参考)】
2G066AA13
2G066AC11
2G066AC16
2G066AC20
2G066CA02
3H025AA11
3H025AB01
3J071EE08
3J071EE27
3J071EE37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】正確性が向上した可搬式熱放射測定装置及び熱診断方法を提供する。
【解決手段】回転軸10の周りを回転可能に設けられた筒状のローラー面部20と、ローラー面部の内面からの熱放射を測定する熱放射センサー50と、を含む可搬式熱放射測定装置を用い、ローラー面部の第一の部分21の外面41を対象面の第一の部分に接触させ、ローラー面部の第一の部分と対象面の第一の部分との熱伝導を行う第一熱伝導工程と、ローラー面部の第一の部分の内面からの熱放射を熱放射センサーで測定する第一測定工程と、ローラー面部を回転軸の周りに回転させ、ローラー面部の第一の部分に隣接する第二の部分22の外面42を、対象面の第一の部分に隣接する第二の部分に接触させ、ローラー面部の前記第二の部分と対象面の第二の部分との熱伝導を行う第二熱伝導工程、及び、ローラー面部の第二の部分の内面からの熱放射を熱放射センサーで測定する第二測定工程、を含む。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の周りを回転可能に設けられた筒状のローラー面部と、
前記ローラー面部の内面からの熱放射を測定する熱放射センサーと、
を含む可搬式熱放射測定装置を用いた対象面の熱診断方法であって、
前記ローラー面部の第一の部分の外面を、前記対象面の第一の部分に接触させて、前記ローラー面部の前記第一の部分と、前記対象面の前記第一の部分との熱伝導を行う第一熱伝導工程と、
前記対象面の前記第一の部分に接触している前記ローラー面部の前記第一の部分の内面からの熱放射を前記熱放射センサーで測定する第一測定工程と、
前記ローラー面部を前記回転軸の周りに回転させることで、前記ローラー面部の前記第一の部分に隣接する第二の部分の外面を、前記対象面の前記第一の部分に隣接する第二の部分に接触させて、前記ローラー面部の前記第二の部分と、前記対象面の前記第二の部分との熱伝導を行う第二熱伝導工程と、
前記対象面の前記第二の部分に接触している前記ローラー面部の前記第二の部分の内面からの熱放射を前記熱放射センサーで測定する第二測定工程と、
を含む熱診断方法。
【請求項2】
前記装置の前記ローラー面部は、柔軟性シートから構成される、
請求項1に記載の熱診断方法。
【請求項3】
前記対象面は、金属を含む、
請求項1又は2に記載の熱診断方法。
【請求項4】
前記対象面は、内部に流体を収容する容器の外表面である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の熱診断方法。
【請求項5】
回転軸と、
前記回転軸の周りを回転可能に設けられた筒状のローラー面部と、
前記ローラー面部の内面からの熱放射を測定する熱放射センサーと、
を含む可搬式熱放射測定装置。
【請求項6】
前記ローラー面部は、柔軟性シートから構成される、
請求項5に記載の可搬式熱放射測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬式熱放射測定装置及び熱診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、配管を流れる流体に周期的な温度変化を与える工程と、前記温度変化を与えられた流体が通過する部位の配管表面の温度をサーモグラフィ等で測定する工程と、前記配管表面の温度変化より前記配管の異常箇所の位置を推定する工程とを備える配管診断方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、熱診断の対象となる配管表面の反射率が大きい場合(すなわち、配管表面の放射率が小さい場合)、当該配管表面からの熱放射には、当該配管表面自体の温度に由来する熱放射のみならず、当該配管の周囲の大気や他の設備からの熱放射が当該配管表面で反射されて生じた熱放射も含まれるため、従来の方法では正確な熱診断を行うことができなかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、正確性が向上した可搬式熱放射測定装置及び熱診断方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る熱診断方法は、回転軸と、前記回転軸の周りを回転可能に設けられた筒状のローラー面部と、前記ローラー面部の内面からの熱放射を測定する熱放射センサーと、を含む可搬式熱放射測定装置を用いた対象面の熱診断方法であって、前記ローラー面部の第一の部分の外面を、前記対象面の第一の部分に接触させて、前記ローラー面部の前記第一の部分と、前記対象面の前記第一の部分との熱伝導を行う第一熱伝導工程と、前記対象面の前記第一の部分に接触している前記ローラー面部の前記第一の部分の内面からの熱放射を前記熱放射センサーで測定する第一測定工程と、前記ローラー面部を前記回転軸の周りに回転させることで、前記ローラー面部の前記第一の部分に隣接する第二の部分の外面を、前記対象面の前記第一の部分に隣接する第二の部分に接触させて、前記ローラー面部の前記第二の部分と、前記対象面の前記第二の部分との熱伝導を行う第二熱伝導工程と、前記対象面の前記第二の部分に接触している前記ローラー面部の前記第二の部分の内面からの熱放射を前記熱放射センサーで測定する第二測定工程と、を含む。本発明によれば、正確性が向上した熱診断方法が提供される。
【0007】
前記熱診断方法において、前記装置の前記ローラー面部は、柔軟性シートから構成されることとしてもよい。また、前記熱診断方法において、前記対象面は、金属を含むこととしてもよい。また、前記熱診断方法において、前記対象面は、内部に流体を収容する容器の外表面であることとしてもよい。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る可搬式熱放射測定装置は、回転軸と、前記回転軸の周りを回転可能に設けられた筒状のローラー面部と、前記ローラー面部の内面からの熱放射を測定する熱放射センサーと、を含む。本発明によれば、正確性が向上した可搬式熱放射測定装置が提供される。
【0009】
前記可搬式熱放射測定装置において、前記ローラー面部は、柔軟性シートから構成されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正確性が向上した可搬式熱放射測定装置及び熱診断方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る可搬式熱放射測定装置の一例について、その外観を側面視で概略的に示す説明図である。
【
図2】
図1に示すII-II線で切断した可搬式熱放射測定装置の断面を概略的に示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る可搬式熱放射測定装置を用いて診断対象面の熱診断を実施する様子の一例を断面視で概略的に示す説明図である。
【
図4A】本発明の一実施形態に係る可搬式熱放射測定装置を用いた熱診断方法に含まれる工程の一部を概略的に示す説明図である。
【
図4B】本発明の一実施形態に係る可搬式熱放射測定装置を用いた熱診断方法に含まれる工程の他の一部を概略的に示す説明図である。
【
図4C】本発明の一実施形態に係る可搬式熱放射測定装置を用いた熱診断方法に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る可搬式熱放射測定装置の他の例について、その外観を側面視で概略的に示す説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る実施例1において可搬式熱放射測定装置を用いて湾曲した対象面の熱診断を実施した結果の一例を示す説明図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る実施例1において可搬式熱放射測定装置を用いて湾曲した対象面の熱診断を実施した結果の他の例を示す説明図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る実施例2において可搬式熱放射測定装置を用いて平坦な対象面の熱診断を実施した結果の一例を示す説明図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る実施例2において可搬式熱放射測定装置を用いて平坦な対象面の熱診断を実施した結果の他の例を示す説明図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る実施例3において可搬式熱放射測定装置を用いて湾曲した対象面の熱診断を実施した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係る可搬式熱放射測定装置(以下、「本装置」という。)及び熱診断方法(以下、「本方法」という。)について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0013】
図1には、本装置の一例について、その外観を側面視で概略的に示す。
図2には、
図1に示すII-II線で切断した本装置の断面を概略的に示す。
図3には、本装置を用いて対象面の熱診断を実施する様子の一例を断面視で概略的に示す。
図4A~
図4Cには、本装置を用いた熱診断方法に含まれる工程の一部を概略的に示す。
図5には、本装置の他の例について、その外観を側面視で概略的に示す。なお、
図5に示す本装置の断面の概略も
図2及び
図3と同様である。
【0014】
本装置1は、回転軸10と、当該回転軸10の周りを回転可能に設けられた筒状のローラー面部20と、当該ローラー面部20の内面30からの熱放射を測定する熱放射センサー50と、を含む可搬式熱放射測定装置である。
【0015】
本方法は、回転軸10と、当該回転軸10の周りを回転可能に設けられた筒状のローラー面部20と、当該ローラー面部20の内面30からの熱放射を測定する熱放射センサー50と、を含む可搬式熱放射測定装置を用いた対象面120の熱診断方法であって、当該ローラー面部20の第一の部分21の外面41を、当該対象面120の第一の部分121に接触させて、当該ローラー面部20の当該第一の部分21と、当該対象面120の当該第一の部分121との熱伝導を行う第一熱伝導工程と、当該対象面120の当該第一の部分121に接触している当該ローラー面部20の当該第一の部分21の内面31からの熱放射を当該熱放射センサー50で測定する第一測定工程と、当該ローラー面部20を当該回転軸10の周りに回転させることで、当該ローラー面部20の前記第一の部分21に隣接する第二の部分22の外面42を、当該対象面120の当該第一の部分121に隣接する第二の部分122に接触させて、当該ローラー面部20の当該第二の部分22と、当該対象面120の当該第二の部分122との熱伝導を行う第二熱伝導工程と、当該対象面120の当該第二の部分122に接触している当該ローラー面部20の当該第二の部分22の内面32からの熱放射を当該熱放射センサー50で測定する第二測定工程とを含む。
【0016】
本装置1は、上述のとおり、回転軸10と、ローラー面部20と、熱放射センサー50とを含む。ローラー面部20は、回転軸10の周りを回転可能に設けられた筒状体である。ローラー面部20を回転軸10の周りに回転可能に設ける方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、本実施形態において、ローラー面部20は、回転軸10に回転可能に設けられた一対のホイール部60によって支持されている。すなわち、ローラー面部20は、ホイール部60を介して、回転軸10の周りを回転可能に設けられている。
【0017】
具体的に、ローラー面部20は、ホイール部60の外周面61に支持されている。より具体的に、一対のホイール部60の一方及び他方は、回転軸10の長手方向において互いに離間して設けられ、ローラー面部20は、当該回転軸10の長手方向において、一対のホイール部60の一方の外周面61から他方の外周面61にわたって設けられる(
図2)。
【0018】
一対のホイール部60は、当該一対のホイール部60の一方と他方との相対位置を固定する固定部(不図示)を含むこととしてもよい。この固定部は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、一対のホイール部60の一方から他方に延びる1以上の柱状体であってもよい。具体的に、この場合、各柱状体の一方の端部及び他方の端部は、それぞれ一対のホイール部60の一方及び他方に固定される。この結果、一対のホイール60の一方と他方との相対的な位置が固定される。
【0019】
ホイール部60の形状は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、板状体又は枠状体であることが好ましい。
図1~
図5に示す例において、ホイール部60は、板状体である。
【0020】
ホイール部60の側面視における形状は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、円形又は多角形であることが好ましい。多角形は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形、九角形、十角形、十一角形、又は十二角形であることが好ましく、正三角形、正四角形、正五角形、正六角形、正七角形、正八角形、正九角形、正十角形、正十一角形、又は正十二角形であることが特に好ましい。
図1~
図4に示す例において、ホイール部60の側面視における形状は正六角形である。また、
図5に示す例において、ホイール部60の側面視における形状は円形である。
【0021】
ホイール部60を構成する材料は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、金属、樹脂、セラミックス及び木材からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0022】
回転軸10は、ローラー面部20を回転可能に支持する。具体的に、本実施形態において、回転軸10は、上述のとおり、一対のホイール部60を回転可能に支持することにより、当該ホイール部60を介して、ローラー面部20を回転可能に支持している。
【0023】
回転軸10の一方の端部11及び/又は他方の端部12は、一対のホイール部60の一方及び/又は他方を貫通し、当該ホイール部60の外方へ突出する自由端であってもよい。
図2及び
図3に示す例において、回転軸10の一方の端部11及び他方の端部12は、一対のホイール部60の外方へ突出する自由端となっている。ホイール部10の外方に突出している回転軸10の一方の端部11及び/又は他方の端部12は、本装置1の使用者が把持するための取手部として利用されてもよい。
【0024】
一方、回転軸10の長手方向における中央部13は、ローラー面部20に囲まれた本装置1の内部空間70に配置される(
図2)。この内部空間70は、より具体的には、一対のホイール部60とローラー面部20とに囲まれた空間である。
【0025】
回転軸10を構成する材料は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、金属、樹脂及びセラミックスからなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0026】
ローラー面部20は、本装置1の周方向(例えば、ホイール部60の周方向)において、その全周の全部又は一部を覆うように設けられる。具体的に、ローラー面部20は、本装置1の全周の50%以上(50%以上、100%以下)を覆うこととしてもよく、60%以上を覆うことが好ましく、70%以上を覆うことがより好ましく、80%以上を覆うことがより一層好ましく、90%以上を覆うことが特に好ましい。
図1~
図5に示す例において、ローラー面部20は、本装置1の全周を覆うように設けられている。
【0027】
ローラー面部20の側面視における形状は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、円形又は多角形であることが好ましい。多角形は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形、九角形、十角形、十一角形、又は十二角形であることが好ましく、正三角形、正四角形、正五角形、正六角形、正七角形、正八角形、正九角形、正十角形、正十一角形、又は正十二角形であることが特に好ましい。
図1~
図4に示す例において、ローラー面部20の側面視における形状は正六角形である。また、
図5に示す例において、ローラー面部20の側面視における形状は円形である。
【0028】
ローラー面部20が一対のホイール部60によって支持される場合、当該ローラー面部20の側面視における形状は、当該一対のホイール部60の側面視における形状と一致することとしてもよい。
図1~
図5に示す例において、ローラー面部20の側面視における形状は、一対のホイール部60の側面視における形状と一致している。
【0029】
ローラー面部20の側面視における形状が多角形である場合、当該ローラー面部20は、当該多角形の辺の全部又は一部に対応する部分を含む。具体的に、
図1~
図4に示す例において、側面視における形状が六角形であるローラー面部20は、当該六角形の辺の全部に対応して、第一の部分21、第二の部分22、第三の部分23、第四の部分24、第五の部分25及び第六の部分26を含んでいる。
【0030】
また、側面視における形状が多角形であるローラー面部20は、当該多角形の辺の全部又は一部に対応する内面30及び外面40を含む。具体的に、
図1~
図4に示す例において、ローラー面部20の内面30は、六角形の辺の全部に対応して、第一の部分21の内面31、第二の部分22の内面32、第三の部分23の内面33、第四の部分24の内面34、第五の部分25の内面35及び第六の部分26の内面36を含む。同様に、ローラー面部20の外面40は、第一の部分21の外面41、第二の部分22の外面42、第三の部分23の外面43、第四の部分24の外面44、第五の部分25の外面45及び第六の部分26の外面46を含む。
【0031】
ローラー面部20を構成する材料は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、当該ローラー面部20は、柔軟性シートで構成されることが好ましい。柔軟性シートで構成されたローラー面部20は、対象面120の形状に応じて変形する柔軟性を有する。すなわち、柔軟性シートで構成されたローラー面部20は、対象面120に対して追従性を有する。
【0032】
柔軟性シートを構成する材料は、対象面120に追従する柔軟性が得られるものであれば特に限られず、有機材料や金属材料等、任意の1種又は2種以上の材料が用いられる。柔軟性シートは、非多孔性シートであってもよいし、多孔性シートであってもよい。非多孔性シートは、例えば、樹脂シートであってもよいし、金属製シート(例えば、金属フィルム又は金属箔)であってもよい。多孔性シートは、例えば、樹脂シートであってもよいし、繊維シートであってもよい。繊維シートは、有機繊維、無機繊維又は金属繊維を含み柔軟性を有するものであれば特に限られない。
【0033】
柔軟性シートは、伸縮性シートであることが好ましい。伸縮性シートで構成されたローラー面部20は、対象面120に追従して変形した後、当該対象面120から離脱することで、もとの形状に復元することができる。
【0034】
伸縮性シートは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、エラストマーシートであることが好ましい。すなわち、この場合、伸縮性シートは、エラストマーにより構成される。伸縮性シートを構成するエラストマーは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、エチレンプロピレンゴム系エラストマー、スチレンブタジエンゴム系エラストマー、ニトリルゴム系エラストマー、ブチルゴム系エラストマー、クロロプレンゴム系エラストマー、シリコーンゴム系エラストマー、ウレタンゴム系エラストマー、フッ素ゴム系エラストマー、及び天然ゴム系エラストマーからなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0035】
伸縮性シートは、非多孔性(例えば、非多孔性エラストマーシート)であってもよいし、多孔性(例えば、多孔性エラストマーシート)であってもよい。多孔性の伸縮性シートは、例えば、エラストマーの発泡体シート、又は、エラストマー繊維の織布又は不織布であってもよい。
【0036】
柔軟性シートの柔軟性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、当該柔軟性シートのヤング率(縦弾性係数)は、例えば、1000MPa以下であってもよく、500MPa以下であることが好ましく、200MPa以下であることがより好ましく、100MPa以下であることが特に好ましい。
【0037】
柔軟性シートが伸縮性シートである場合、当該伸縮性シートのヤング率は、例えば、100MPa以下であってもよく、50MPa以下であることが好ましく、20MPa以下であることがより好ましく、10MPa以下であることがより一層好ましく、5MPa以下であることがさらにより一層好ましく、1MPa以下であることが特に好ましい。
【0038】
また、柔軟性シートのヤング率は、例えば、0.001MPa以上であってもよく、0.01MPa以上であることが好ましく、0.1MPa以上であることが特に好ましい。ヤング率が上述した下限値以上である柔軟性シートは適度な強度を有する。柔軟性シートのヤング率は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。ヤング率は、柔軟性シートを構成する材料に応じた方法で測定され、例えば、JISK7161プラスチック-引張特性の求め方、JISK6250ゴム-物理試験方法通則、又はJISK6251加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方に準拠した方法により測定される。
【0039】
ローラー面部20の厚さ(具体的に、例えば、ローラー面部20を構成する柔軟性シートの厚さ)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、3.0mm以下であってもよく、2.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることがより一層好ましく、0.3mm以下であることがさらにより一層好ましく、0.1mm以下であることが特に好ましい。ローラー面部20の厚さが上記の上限値以下であることにより、当該ローラー面部20の熱容量が効果的に低減されて、当該ローラー面部20への熱伝導が効率化される。。
【0040】
また、ローラー面部20の厚さは、例えば、0.01mm以上であることが好ましく、0.03mm以上であることがより好ましく、0.05mm以上であることが特に好ましい。ローラー面部20の厚さが上記の下限値以上であることにより、当該ローラー面部20の強度が効果的に確保される。ローラー面部20の厚さは、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0041】
ローラー面部20の内面30の放射率は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、0.8以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。放射率が上述した上限値以下であるローラー面部20の内面30は、効果的に熱放射を行う。放射率は、JISA1423赤外線放射温度計による放射率の簡易測定方法に準拠した方法により測定される。
【0042】
ローラー面部20の内面30の放射率を高める方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、放射率を高める塗料(例えば、黒体塗料等の黒色の塗料)の使用(例えば、ローラー面部20の内面30への塗料の塗布又は塗料を含むフィルムの貼付、及び/又は、ローラー面部20を構成する材料中への塗料の添加)が好ましく用いられる。
【0043】
ローラー面部20の熱伝導率は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該ローラー面部20の20℃における熱伝導率は、0.1W/(m・K)以上であることが好ましく、1.0W/(m・K)以上であることがより好ましく、10.0W/(m・K)以上であることが特に好ましい。熱伝導率は、「JIS A 1412-1:2016 熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法-第1部:保護熱板法(GHP法)」に準拠した方法により測定される。
【0044】
本装置1は、ローラー面部20の内面30からの熱放射を測定する熱放射センサー50を含む。熱放射センサー50は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、赤外線センサーであることが好ましい。赤外線センサーは、赤外線カメラを含むことが好ましい。また、熱放射センサー50は、サーモグラフィカメラ(例えば、赤外線サーモグラフィカメラ)含むことが好ましい。
【0045】
本装置1における熱放射センサー50の配置は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、ローラー面部20に囲まれた内部空間70に配置されることが好ましい。また、熱放射センサー50は、後述のとおりローラー面部20が回転軸10の周りに回転しながら対象面120上を移動する間、当該ローラー面部20を介して当該対象面120と対向する位置に保持されることが好ましい。
【0046】
具体的に熱放射センサー50は、例えば、回転軸10に固定されてもよい。熱放射センサー50の回転軸10への固定は、直接的な固定であってもよいし、他の部材を介した間接的な固定であってもよい。
【0047】
図1~
図5に示す例において、熱放射センサー50は、本装置1の内部空間70において、回転軸10(具体的には、回転軸10の中央部13)に固定されている。この結果、熱放射センサー50は、
図4A~
図4Cに示すように、ローラー面部20が回転軸10の周りに回転しながら対象面120上を移動する間、当該ローラー面部20を介して当該対象面120と対向する位置に保持される。ただし、上述のとおり、熱放射センサー50の配置は、本発明の効果が得られれば、
図1~
図5に示す例に限られない。
【0048】
本装置1は、可搬式である。すなわち、本装置1は、互いに離間して設けられた複数の対象面120の間を移動可能に構成される。具体的に、本装置1は、第一の対象面120(例えば、第一の配管の外表面)の熱放射測定に使用した後、当該第一の対象面120から離間して設けられた第二の対象面120(例えば、当該第一の配管から離間して設けられた第二の配管の外表面)の熱放射測定に使用するために、当該第一の対象面120を離れて、当該第二の対象面120に移動可能に構成される。本装置1は、使用者が持ち運び可能なポータブルな装置であることとしてもよい。
【0049】
本方法においては、本装置1を用いて、対象面120の熱診断を実施する。対象面120は、熱診断の対象となる表面であれば特に限られないが、例えば、内部に流体(例えば、加熱され又は冷却された流体)を収容する容器(例えば、内部を流体が流通し、及び/又は内部に流体を保存する容器)の外表面が好ましく例示される。内部に流体を収容する容器は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、配管又はタンクであってもよい。また、内部に流体を収容する容器の外表面は、例えば、当該容器自体の外表面であってもよいし、当該容器自体の外表面を覆う断熱材(保温材又は保冷材)の外表面であってもよいし、当該容器自体の外表面又は当該断熱材の外表面を覆う外装材(例えば、外装板)の外表面であってもよい。
【0050】
図3及び
図4(
図4A~
図4C)に示す例において、対象面120は、その内部空間130に流体(液体又は気体)が流通する筒状体110から構成される配管100の外表面(当該筒状体110の外表面)である。
【0051】
対象面120の形状は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、湾曲した表面(例えば、配管100の外表面のような円筒状の外表面)であってもよいし、平坦な表面であってもよい。
図3及び
図4に示す例において、対象面120は、配管100の湾曲した外表面である。
【0052】
対象面120の長さは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、本装置1のローラー面部20の全周の長さ(ローラー面部20の外面40の周方向における全長)より長いこととしてもよく、当該ローラー面部20の全周の長さの2倍以上、3倍以上、4倍以上、又は5倍以上であることとしてもよい。
【0053】
対象面120の温度は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、当該対象面120が保持されている空間(例えば、大気)の温度(例えば、室温)より高いこととしてもよいし、当該温度より低いこととしてもよい。
【0054】
図3及び
図4に示す例において、配管100の外表面である対象面120の温度は、当該配管100の内部空間130を流通する流体の温度に対応した温度であることとしてもよいし、加熱又は冷却により予め調節された温度であることとしてもよい。
【0055】
対象面120の放射率は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、0.60以下であってもよく、0.50以下であってもよく、0.40以下であってもよく、0.30以下であってもよく、0.20以下であってもよく、0.10以下であってもよい。対象面120の放射率が小さいほど、本発明の意義が大きくなる。放射率は、JISA1423赤外線放射温度計による放射率の簡易測定方法に準拠した方法により測定される。
【0056】
対象面120を構成する材料は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該対象面120は、金属を含むことが好ましい。具体的に、対象面120は、例えば、金属の表面(例えば、金属製容器自体の金属表面、又は、樹脂等の非金属製表面を覆う金属フィルム(例えば、金属箔)の表面)であってもよく、金属粉を含む塗料の表面(例えば、金属表面又は非金属表面に塗布された金属含有塗料の表面)であってもよく、金属粉を含むフィルムの表面(例えば、金属表面又は非金属表面を覆う金属含有フィルムの表面)であってもよい。
図3及び
図4に示す例において、対象面120は、配管100の金属製の外表面である。一般に金属は放射率が小さいため、対象面120が金属製である場合(特に、塗装等が施されていない金属光沢を有する対象面120)、本発明の意義が大きくなる。
【0057】
本方法では、まず、第一熱伝導工程において、本装置1のローラー面部20の第一の部分21の外面41を、対象面120の第一の部分121に接触させて、当該ローラー面部20の当該第一の部分21と、当該対象面120の当該第一の部分121との熱伝導を行う(
図4A)。すなわち、ローラー面部20の第一の部分21の外面41を、対象面120の第一の部分121に押し当てて保持することにより熱伝導を行う。
【0058】
具体的に、ローラー面部20の側面視における形状が多角形の場合、当該ローラー面部20の当該多角形の1つの辺に対応する第一の部分21の外面41を、対象面120の第一の部分121に接触させる。
【0059】
また、
図5に示すように、ローラー面部20の側面視における形状が円形の場合、当該ローラー面部20の円周の一部に対応する第一の部分21の外面41を、対象面120の第一の部分121に接触させる。
【0060】
一方、ローラー面部20の第一の部分21と接触させる対象面120の第一の部分121は、当該対象面120の一部であれば特に限られない。
図3及び
図4に示す例では、配管100の外表面である対象面120の長手方向における一部である第一の部分121を、ローラー面部20の第一の部分21と接触させている(
図4A)。
【0061】
ローラー面部20が柔軟性シートで構成される場合、当該ローラー面部20と対象面120との熱伝導を効果的に行うことができる。すなわち、例えば、対象面120が湾曲した表面である場合や、対象面120に起伏がある場合、柔軟性シートから構成されるローラー面部20を、当該対象面120に押し当てることにより、当該ローラー面部20は当該対象面120の湾曲形状や起伏に沿って変形する(すなわち、当該ローラー面部20が当該対象面120の形状に追従する)ため、当該ローラー面部20と当該対象面120との効果的な接触が達成される。さらに、柔軟性シートで構成されるローラー面部20を対象面120に押し当てることによって、当該ローラー面部20の全部又は一部の厚みが低減され、当該ローラー面部20の熱容量が低減される。これらの結果、柔軟性シートで構成されるローラー面部20と対象面と120との熱伝導が効率よく行われる。
【0062】
ローラー面部20の第一の部分21の外面41と、対象面120の第一の部分121との接触による熱伝導は、当該ローラー面部20の第一の部分21の内面31の温度が、当該対象面120の第一の部分121の温度に対応する温度に収束するまで行う。
【0063】
ここで、対象面120の一部と接触しているローラー面部20の一部の内面30の収束温度は、当該対象面120の一部の温度と同一であることが好ましいが、熱伝導によって収束した温度であれば、当該対象面120の一部の温度と異なる温度であってもよい。なお、熱放射センサー50によって測定されるローラー面部20の内面30の温度の所定時間内の変化量が所定値以下である場合(例えば、5秒間での温度変化が0.1℃以下である温度)、当該内面30の温度が収束したと判断される。また、ローラー面部20の内面30の収束温度と、対象面120の温度との差は、例えば、予めの測定により確認することができる。
【0064】
次いで、第一測定工程においては、対象面120の第一の部分121に接触しているローラー面部20の第一の部分21の内面31からの熱放射を熱放射センサー50で測定する(
図4A)。
【0065】
すなわち、上述した熱伝導によって、その温度が対象面120の第一の部分121の温度に対応する収束温度に達したローラー面部20の第一の部分21の内面31からの熱放射を熱放射センサー50で測定する。
【0066】
また、第一測定工程における熱放射測定は、第一熱伝導工程と並行して行ってもよい。すなわち、例えば、ローラー面部20の第一の部分21の温度が収束する前から(例えば、当該ローラー面部20の第一の部分21と対象面120の第一の部分121との接触(熱伝導)を開始した後)、当該ローラー面部20の第一の部分21の内面31からの熱放射を熱放射センサー50で経時的に測定することとしてもよい。
【0067】
なお、熱放射センサー50が、サーモグラフィカメラ(例えば、赤外線サーモグラフィカメラ)を含む場合、ローラー面部20の内面30のサーモグラフィ画像を取得することができる。この場合、熱放射センサー50は、有線又は無線により、本装置1外に設置された表示装置(例えば、液晶ディスプレイ装置)にサーモグラフィ画像を表示させてもよい。
【0068】
また、本装置1において、熱放射センサー50は、ローラー面部20の内面30からの熱放射を測定するうえで適切な位置に配置される。具体的に、例えば、熱放射センサー50は、対象面120の一部と接触しているローラー面部20の一部の内面30に対向するよう配置される。換言すれば、熱放射センサー50は、ローラー面部20を介して対象面120と対向するよう配置される。
【0069】
具体的に、熱放射センサー50は、ローラー面部20が回転軸10の周りに回転しながら対象面120上を移動する間、当該ローラー面部20の当該対象面120と接触している部分の内面30からの熱放射を継続的に測定できるよう、当該ローラー面部20を介して当該対象面120と対向するよう保持される。
【0070】
さらに、第二熱伝導工程においては、ローラー面部20を回転軸10の周りに回転させることで、当該ローラー面部20の第一の部分21の外面41に代えて、当該ローラー面部20の当該第一の部分21に隣接する第二の部分22の外面42を、対象面120の第一の部分121に隣接する第二の部分122に接触させて、当該ローラー面部20の当該第二の部分22と、当該対象面120の当該第二の部分122との熱伝導を行う(
図4B)。
【0071】
すなわち、本装置1のローラー面部20の第一の部分21の外面41と、対象面120の第一の部分121とを接触させた状態(
図4A)から、当該ローラー面部20を回転軸10の周りに回転させる(すなわち、対象面120上でローラー面部20を転がす)ことにより、当該ローラー面部20の第一の部分21の外面41を当該対象面120の第一の部分121から離脱させるとともに、当該ローラー面部20の第二の部分22の外面42を、当該対象面120の第二の部分122に新たに接触させる。そして、ローラー面部20の第二の部分22の外面42を、対象面120の第二の部分122に押し当てて保持することにより熱伝導を行う。
【0072】
具体的に、ローラー面部20の側面視における形状が多角形の場合、対象面120上で当該ローラー面部20を回転軸10の周りに回転させることで、当該ローラー面部20の当該多角形の1つの辺に対応する第一の部分21の外面41に代えて、当該ローラー面部20の当該多角形の当該1つの辺に隣接する他の辺に対応する、当該ローラー面部20の第二の部分22の外面42を、対象面120の第二の部分122に接触させる。
【0073】
また、
図5に示すように、ローラー面部20の側面視における形状が円形の場合、対象面120上で当該ローラー面部20を回転軸10の周りに回転させることで、当該ローラー面部20の円周の一部に対応する第一の部分21の外面41に代えて、当該ローラー面部20の当該円周の当該一部に隣接する他の一部に対応する、当該ローラー面部20の第二の部分22の外面42を、対象面120の第二の部分122に接触させる。
【0074】
なお、円形のローラー面部20の第二の部分22は、第一の部分21と重複しないこととしてもよいが、当該第一の部分21に含まれない部分を含んでいれば特に限られず、当該第二の部分22の一部と当該第一の部分21の一部とが重複していてもよい。
【0075】
一方、ローラー面部20の第二の部分22と接触させる対象面120の第二の部分122は、当該対象面120の第一の部分121に隣接する部分である。
図4Bに示す例では、配管100の外表面である対象面120の長手方向において第一の部分121に隣接する第二の部分122を、ローラー面部20の第二の部分22と接触させる。
【0076】
なお、対象面120の第二の部分122は、第一の部分121と重複しないこととしてもよいが、当該第一の部分121に含まれない部分を含んでいれば特に限られず、当該第二の部分122の一部と当該第一の部分121の一部とが重複していてもよい。
【0077】
ローラー面部20の第二の部分22の外面42と、対象面120の第二の部分122との接触による熱伝導は、当該ローラー面部20の第二の部分22の内面32の温度が、当該対象面120の第二の部分122の温度に対応する温度に収束するまで行う。
【0078】
次いで、第二測定工程においては、対象面120の第二の部分122に接触しているローラー面部20の第二の部分22の内面31からの熱放射を熱放射センサー50で測定する(
図4B)。
【0079】
すなわち、上述した熱伝導によって、その温度が対象面120の第二の部分122の温度に対応する収束温度に達したローラー面部20の第二の部分22の内面32からの熱放射を熱放射センサー50で測定する。
【0080】
また、第二測定工程における熱放射測定は、第二熱伝導工程と並行して行ってもよい。すなわち、例えば、ローラー面部20の第二の部分22の温度が収束する前から(例えば、当該ローラー面部20の第二の部分22と対象面120の第二の部分122との接触(熱伝導)を開始した後)、当該ローラー面部20の第二の部分22の内面32からの熱放射を熱放射センサー50で経時的に測定することとしてもよい。
【0081】
本方法においては、ローラー面部20のさらに1以上の他の部分、及び対象面120のさらに1以上の他の部分について、上記第二熱伝導工程及び上記第二測定工程と同様の熱伝導工程及び測定工程を1回以上実施することとしてもよい。
【0082】
すなわち、例えば、ローラー面部20の第三の部分23、及び対象面120の第三の部分123について、熱伝導工程及び測定工程を実施する場合、上記第二測定工程後、ローラー面部20を回転軸10の周りにさらに回転させることで、当該ローラー面部20の第二の部分22の外面42に代えて、当該ローラー面部20の当該第二の部分22に隣接する第三の部分23の外面43を、対象面120の第二の部分122に隣接する第三の部分123に接触させて、当該ローラー面部20の当該第三の部分23と、当該対象面120の当該第三の部分123との熱伝導を行う第三熱伝導工程と、当該対象面120の当該第三の部分123に接触している当該ローラー面部20の当該第三の部分23の内面33からの熱放射を熱放射センサー50で測定する第三熱伝導工程とを実施する(
図4C)。
【0083】
本方法において熱伝導工程及び測定工程を繰り返す回数は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、対象面120の長さが、ローラー面部20の全周の長さより長い場合、当該ローラー面部20が1回以上回転するまで熱伝導工程及び測定工程を実施することとしてもよい。
【0084】
具体的に、例えば、ローラー面部20の側面視における形状が多角形である場合、当該多角形の辺に対応する部分の全て(例えば、
図1及び
図4に示すように、ローラー面部20の側面視における形状が六角形である場合、当該六角形の辺に対応する第一の部分21、第二の部分22、第三の部分23、第四の部分24、第五の部分25及び第六の部分26の全て)について1回以上、熱伝導工程及び測定工程を実施することとしてもよい。
【0085】
また、さらに、対象面120の長さがローラー面部20の全周の長さの2倍以上、3倍以上、4倍以上、又は5倍以上である場合には、それぞれ、当該ローラー面部20が2回以上、3回以上、4回以上、又は5回以上回転するまで熱伝導工程及び測定工程を実施することとしてもよい。
【0086】
本方法においては、上述のようにして得られたローラー面部20の内面30の熱放射測定結果に基づき、対象面120の熱診断を実施する。すなわち、例えば、ローラー面部20の内面30の熱放射測定結果と、予め定められた基準とを対比して、対象面120に問題があるかどうかを判断する。
【0087】
具体的に、例えば、ローラー面部20の複数の部分(例えば、第一の部分21及び第二の部分22を含む複数の部分)の内面30の温度と、予め定められた温度範囲とを対比して、当該ローラー面部20の当該複数の部分の全部又は一部の内面30の温度が、当該予め定められた温度範囲内かどうかを判断し、当該判断結果に基づき、対象面120に問題があるかどうかを判断する。
【0088】
より具体的に、例えば、対象面120の温度が予め定められた温度範囲内に維持されるべきである場合、ローラー面部20の複数の部分の内面30の温度と、当該予め定められた温度範囲とを対比して、当該複数の部分の全部の内面30の温度が、当該予め定められた温度範囲内である場合には問題がないと判断し、当該複数の部分の全部又は一部の内面30の温度が、当該予め定められた温度範囲外である場合には問題があると判断する。
【0089】
本方法によれば、従来に比べて正確性が向上した熱診断を実現することができる。すなわち、本方法においては、本装置1のローラー面部20の外面40と対象面120との接触による熱伝導によって、当該対象面120の温度に対応する温度に達した当該ローラー面部20の内面30の熱放射を測定することから、当該対象面120の反射率が大きい場合(放射率が小さい場合)であっても、当該対象面120の温度に対応する熱放射のみを選択的に測定でき、当該対象面120の熱診断を正確に実施することができる。
【0090】
また、本方法においては、対象面120上で回転しながら移動するローラー面部20を用いることによって、当該対象面120が配管100の外表面のように長く延びる場合であっても、当該対象面120の所望の範囲について効果的な熱診断を実施することができる。
【0091】
さらに、本方法においては、可搬式の本装置1を用いることによって、互いに離間して設置された複数の対象面120(例えば、同一施設内の異なる場所に設置された複数の配管の外表面や、異なる施設内の複数の配管の外表面)についても、効果的な熱診断を実施することができる。
【0092】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0093】
図1に示すような側面視の形状が六角形のローラー面部20を有する本装置1を作製した。一対のホイール部60としては、木製の板状体を用いた。一対のホイール部60の一方と他方とは、六角形の各頂点に対応する位置でこれらを連結する6本の金属製棒材にて相対的な位置を固定した(各棒材の一方端及び他方端がそれぞれ当該一対のホイール部60の一方及び他方に連結させた。)。
【0094】
ローラー面部20としては、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)製エラストマーシート(厚さ0.2mm)を用いた。また、ローラー面部20の放射率を高めるため、エラストマーシートの表面に黒色の塗料を塗布した。
【0095】
回転軸10としては、金属製の棒材を用いた。回転軸10の自由端である一方端11及び他方端12は、それぞれ一対のホイール部60の一方及び他方の外方まで突出させた。このホイール部60の外方に突出した回転軸10の一方端11及び他方端12は、本装置1の使用者が把持する取手部として利用した。
【0096】
熱放射センサー50としては、赤外線サーモグラフィカメラを含む赤外線センサーを用いた。赤外線サーモグラフィカメラは、ローラー面部20が対象面120上を移動する間、当該ローラー面部20を介して当該対象面120と対向するよう回転軸10に固定した。
【0097】
そして、本装置1を用いて、予め加熱された金属製の配管100の外表面である対象面120の熱診断を実施した。すなわち、まず本装置1のローラー面部20の六角形の1つの辺に対応する第一の部分21の外面41を、対象面120の第一の部分121に接触させて、当該ローラー面部20の第一の部分21と、当該対象面120の第一の部分121との熱伝導を行った。
【0098】
具体的に、ローラー面部20の第一の部分21の外面41を、対象面120の第一の部分121に押し当てることで、当該ローラー面部20の第一の部分21を配管100の湾曲した対象面120に沿って伸長させ密着させた(
図3、
図4A)。
【0099】
さらに、ローラー面部20の第一の部分21の外面41を、対象面120の第一の部分121に押し当てた状態で保持することで、当該対象面120の第一の部分121から当該ローラー面部20の第一の部分21への熱伝導を行った。そして、対象面120の第一の部分121に接触しているローラー面部20の第一の部分21の内面31からの熱放射を熱放射センサー50で測定した。
【0100】
図6には、熱放射の測定結果を示す。
図6において、横軸は、ローラー面部20の第一の部分21の外面41と、対象面120の第一の部分121との接触を開始してから経過した時間(秒)を示し、縦軸は、当該ローラー面部20の第一の部分21の内面31の測定温度(℃)を示し、n1(実線)、n2(破線)及びn3(点線)は3回の測定のそれぞれにおける結果を示す。
図6に示すように、約180秒間の接触(熱伝導)によって、ローラー面部20の第一の部分21の内面31の測定温度は、ほぼ一定値に収束した。
【0101】
図7には、ローラー面部20の第一の部分21の外面41と、対象面120の第一の部分121との接触を開始してから3秒後、15秒後、及び180秒後に取得された、当該ローラー面部20の第一の部分21の内面31のサーモグラフィ画像を示す。
図7に示すように、接触(熱伝導)時間の経過に伴って、ローラー面部20の第一の部分21の内面31の温度が上昇する様子を示すサーモグラフィ画像が取得できた。
上述の実施例1で用いた本装置1を用いて、予め加熱された金属製の平板の表面である対象面120の熱診断を実施した。すなわち、まず本装置1のローラー面部20の六角形の1つの辺に対応する第一の部分21の外面41を、対象面120の第一の部分121に接触させて、当該ローラー面部20の第一の部分21と、当該対象面120の第一の部分121との熱伝導を行った。
具体的に、ローラー面部20の第一の部分21の外面41を、当該第一の部分21の厚みが低減されるよう、対象面120の第一の部分121に押し当てることで、当該ローラー面部20の第一の部分21を当該対象面120に密着させた。そして、対象面120の第一の部分121に接触しているローラー面部20の第一の部分21の内面31からの熱放射を熱放射センサー50で測定した。