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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110517
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】極低温タンクとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/16 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
F17C1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012016
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】重成 有
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】角 達也
(72)【発明者】
【氏名】下村 洋介
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB12
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC01
3E172BC04
3E172BD10
3E172CA20
3E172CA22
3E172DA36
(57)【要約】
【課題】常温から極低温までの温度範囲及び所定の圧力範囲において、極低温流体を内部に貯留することができ、かつ一部が剥離することなく、全体の厚さ(肉厚)を小さくできる極低温タンクとその製造方法を提供する。
【解決手段】極低温タンク100は、中空の外殻10、口金20、及びライナ30を備える。中空の外殻10は、常温から極低温流体の極低温までの温度範囲においてライナ30に作用する圧力により生じる面内応力を超える引張強度を有する繊維強化プラスチックからなる。口金20は、外殻10に一体化され極低温流体Lを充填又は排出する流路22を有する。ライナ30は、上記温度範囲において、外殻10との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、極低温流体Lに対する耐食性及び液密性と、水に対する不溶性とを有する。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の外殻と、
前記外殻に一体化され極低温流体を充填又は排出する流路を有する口金と、
前記外殻及び前記口金の内面に一体的に形成されたライナと、を備え、
前記外殻は、常温から極低温流体の極低温までの温度範囲において前記ライナに作用する圧力により生じる面内応力を超える引張強度を有する繊維強化プラスチックからなり、
前記ライナは、前記温度範囲において、前記外殻との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、前記極低温流体に対する耐食性及び液密性と、水に対する不溶性とを有する、極低温タンク。
【請求項2】
前記ライナは、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)とジルコニウム化合物を含み不溶化処理されたBVOH硬化膜である、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項3】
前記BVOH硬化膜の内面に形成された保護層を有し、該保護層は、水に対し不溶性を有するエラストマーからなる、請求項2に記載の極低温タンク。
【請求項4】
前記ライナは、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)からなるBVOH層と、前記BVOH層の内面に形成された保護層とを有し、該保護層は、水に対し不溶性を有するエラストマーからなる、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項5】
前記外殻の内面に形成された金属メッキ層を有し、該金属メッキ層は、前記温度範囲において、前記極低温流体に対する液密性を有する、請求項2又は4に記載の極低温タンク。
【請求項6】
前記ライナは、フィラーを含み、該フィラーは、前記ライナの破断強度を高めかつ線膨張係数を下げる比率で分散している、請求項2又は4に記載の極低温タンク。
【請求項7】
前記ライナは、金属メッキ層である、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項8】
前記口金は、前記極低温流体に対する耐食性および前記外殻の成形時の熱負荷に耐える樹脂、繊維強化プラスチック、又は金属からなる、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項9】
前記外殻に固定され、外部に前記外殻を固定するための支持構造体と、
前記口金と外部配管とを繋ぐ伸縮可能な伸縮配管と、を有する、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項10】
前記外殻は、軸心を中心とする中空回転体であり、
前記口金は、前記軸心を中心とする中空円板であり、
前記中空円板は、前記外殻の内面に密着する接合部を有する、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項11】
請求項1に記載の極低温タンクの製造方法であって、
(A)外面が前記外殻の内面に位置する金属製のマンドレルを準備し、前記マンドレルに前記口金を固定し、前記マンドレル及び前記口金の外周面に、前記外殻を一体的に成形する外殻成形ステップと、
(B)成形された前記外殻の内側から前記マンドレルを分割して取り出すマンドレル取出しステップと、
(C)前記外殻及び前記口金の内面に前記ライナを一体的に形成するライナ形成ステップと、を備える、ことを特徴とする極低温タンクの製造方法。
【請求項12】
前記ライナ形成ステップにおいて、
ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)とジルコニウム化合物を含むBVOH水溶液を前記外殻及び前記口金の内面に塗布し、
次いで、塗布した前記BVOH水溶液を不溶化処理して、前記極低温流体に対する耐食性及び液密性と、水に対し不溶性を有するBVOH硬化膜を一体的に形成する、請求項11に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項13】
前記ライナ形成ステップの後、前記ライナの内面に、水に対し不溶性を有するエラストマーからなる保護層を形成する、請求項12に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項14】
前記ライナ形成ステップにおいて、
ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)を含むBVOH水溶液を前記外殻及び前記口金の内面に塗布し乾燥させてBVOH層を形成し、
次いで、前記BVOH層の内面に、水に対し不溶性を有するエラストマーからなる保護層を形成する、請求項11に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項15】
前記BVOH水溶液に、フィラーを、前記ライナの破断強度を高めかつ線膨張係数を下げる比率で分散配合する、請求項12又は14に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項16】
前記マンドレル取出しステップの後、前記外殻及び前記口金の内面に、前記温度範囲において前記極低温流体に対する液密性を有する金属メッキ層を形成する、請求項11に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項17】
前記外殻は、軸心を中心とする中空回転体であり、
前記口金は、前記軸心を中心とする中空円板であり、
前記外殻成形ステップにおいて、前記軸心を中心に前記マンドレルを回転させながら前記マンドレルと前記口金の外面に繊維強化プラスチックからなる前記外殻を成形する、請求項11に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項18】
前記外殻成形ステップにおいて、前記マンドレルを前記繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂の成形温度まで加熱する、請求項17に記載の極低温タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温の極低温流体を貯留するための極低温タンクとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空宇宙分野において液体酸素等の極低温流体を貯留するタンク(極低温タンク)には、金属製タンクが使用されている。
しかし、かかる金属製タンクは、重量が大きいため、その軽量化が求められている。
【0003】
この要望を満たすために、例えば特許文献1,2が提案されている。
【0004】
特許文献1の極低温複合材圧力容器は、内殻及び外殻を有する耐圧層と、内殻の内面に形成された気密樹脂層と、を備える。内殻を気密樹脂層の融点以上の加熱に耐え得る繊維強化樹脂複合材で成形し、気密樹脂層を内殻の内面に熱可塑型気密性樹脂フィルムを融着することにより形成し、外殻を気密樹脂層の融点未満の温度で成形される繊維強化樹脂複合材で成形する。
【0005】
特許文献2の高圧容器は、ライナー層とその外側の炭素繊維強化樹脂層とからなる。ライナー層は、外側から順に炭素繊維強化樹脂層が巻き付けられた外層と、接着層と、側鎖1,2-ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂を含むバリアー層と、ポリアミド樹脂を主成分とする内層とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-62320号公報
【特許文献2】特開2017-180560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1の圧力容器では、気密樹脂層を特定形状フィルムを重ね合わせて繋ぎ合わせることにより、内殻の内面に形成している。
そのため、気密樹脂層は常温で繋ぎ合わされた樹脂フィルムが融着した状態であり、極低温流体(例えば液体水素)を充填すると、内殻と樹脂フィルムがそれぞれ極低温流体の温度(例えば液体水素の場合、約-253℃)まで冷却される。
この際、内殻と樹脂フィルムの線膨張係数の差が大きく、温度変化により樹脂フィルムに引張応力が作用した際に、繋ぎ合わせ部において内殻から特定形状フィルムの一部が剥離する可能性がある。
【0008】
上述した特許文献2の高圧容器では、ライナー層を構成する外層の外側に、外殻(炭素繊維強化樹脂層)が巻き付けられている。そのため、高圧を支持する外殻の他に炭素繊維強化樹脂層の巻付圧を受ける外層が不可欠であり、外層が厚くなり、高圧容器全体の厚さ(肉厚)が大きくなる。
【0009】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、常温から極低温までの温度範囲及び所定の圧力範囲において、極低温流体を内部に貯留することができ、かつ一部が剥離することなく、全体の厚さ(肉厚)を小さくできる極低温タンクとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、中空の外殻と、
前記外殻に一体化され極低温流体を充填又は排出する流路を有する口金と、
前記外殻及び前記口金の内面に一体的に形成されたライナと、を備え、
前記外殻は、常温から極低温流体の極低温までの温度範囲において前記ライナに作用する圧力により生じる面内応力を超える引張強度を有する繊維強化プラスチックからなり、
前記ライナは、前記温度範囲において、前記外殻との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、前記極低温流体に対する耐食性及び液密性と、水に対する不溶性とを有する、極低温タンクが提供される。
【0011】
また本発明によれば、上述した極低温タンクの製造方法であって、
(A)外面が前記外殻の内面に位置する金属製のマンドレルを準備し、前記マンドレルに前記口金を固定し、前記マンドレル及び前記口金の外周面に、前記外殻を一体的に成形する外殻成形ステップと、
(B)成形された前記外殻の内側から前記マンドレルを分割して取り出すマンドレル取出しステップと、
(C)前記外殻及び前記口金の内面に前記ライナを一体的に形成するライナ形成ステップと、を備える、ことを特徴とする極低温タンクの製造方法が提供される
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外殻及び口金の内面に一体的に形成されたライナが、常温から極低温流体の極低温までの温度範囲において、外殻との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、極低温流体に対する耐食性及び液密性と、水に対する不溶性とを有する。
従って、ライナが極低温流体に接触した状態で、常温から極低温までの温度変化により外殻との間に熱収縮差が生じても、熱収縮差に追従して伸縮し、耐食性及び液密性(ガスバリア性)を維持することができる。
【0013】
また、ライナが、水に対する不溶性を有するので、ライナが接触する極低温流体に水分が含まれていても、水分の浸食による剥離を防止することができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、外殻は、常温から極低温流体の極低温までの温度範囲においてライナに作用する圧力により生じる面内応力を超える引張強度を有する繊維強化プラスチックからなる。
従って、外殻の面内応力がその引張強度を超えることなく、極低温流体の圧力によるライナ及び外殻の膨張を所定の範囲に抑えることができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、外殻とライナの間に、他の補強層(例えば、繊維強化樹脂層を巻き付ける外層)を必要としないので、全体の厚さ(肉厚)を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による極低温タンクの全体断面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3】第1実施形態(A)、第2実施形態(B)、第3実施形態(C)の図2と同様のA部拡大図である。
図4】本発明による極低温タンクの製造方法の全体フロー図である。
図5】極低温タンクの製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本発明による極低温タンク100の第1実施形態の全体断面図である。
この図において、極低温タンク100は、中空の外殻10、口金20、及びライナ30を備える。
【0019】
外殻10は、常温から極低温流体の極低温までの温度範囲(以下、「所定温度範囲」)においてライナ30に作用する圧力により生じる面内応力を超える引張強度を有する繊維強化プラスチック(FRP)からなる。
極低温流体Lは、液体酸素(LOX)、液体水素(LH2)又は液体天然ガス(LNG)である。液体酸素の温度は約-180℃の極低温であり、液体水素の温度は約-253℃の極低温である。
繊維強化プラスチック(FRP)は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であることが好ましい。また、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、常温硬化型であることが好ましいが、熱硬化型でも熱可塑型でもよい。
なお、繊維強化プラスチックは、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、等であってもよい。
この例で外殻10は、軸心Z-Zを中心とする中空回転体である。
【0020】
上述した構成により、外殻10の面内応力がその引張強度を超えることなく、極低温流体Lの圧力によるライナ30及び外殻10の膨張を所定の範囲に抑えることができる。
【0021】
図1において、口金20は、外殻10に一体化され極低温流体Lを充填又は排出する流路22を有する。
口金20は、極低温流体Lに対する耐食性およびライナ成形時の熱負荷に耐える樹脂、繊維強化プラスチック、又は金属からなる。
樹脂は、外殻10のマトリックス樹脂であるのがよい。繊維強化プラスチックは外殻10と同じであるのがよい。また、金属は、好ましくはチタン、チタン合金、又はステンレスである。
なお、口金20が外殻10と同じ繊維強化プラスチックの場合は、一体成形することが好ましい。
【0022】
図1において、極低温タンク100は、さらに支持構造体50、伸縮配管52、及び固定配管54を有する。
支持構造体50は、外殻10に固定され、外部(例えば、航空機機体、ロケットや衛星内の固定フレーム)に外殻10を固定する。
伸縮配管52は、一方(図で上部)の口金20と外部配管(例えば、航空機機体、ロケットや衛星の推進装置)とを繋ぐ。伸縮配管52は、この例では軸方向に伸縮可能なベローズ配管である。
固定配管54は、他方(図で下部)の口金20と外部配管(例えば、航空機機体、ロケットや衛星の推進装置)との間に固定され軸方向に伸縮しない配管である。
なお、図1において、下側もベローズ配管(伸縮配管52)を配置しても良い。また、固定配管54を省略して図で下部の口金20を全閉してもよい。
【0023】
図2は、図1の伸縮配管52を省略したA部拡大図である。
この図において、口金20は、軸心Z-Zを中心とする中空円板であり、外面20a、内面20b、内周面20c、及び外周面20dを有する。
【0024】
外面20aは、外殻10の軸方向外側(図で左側)に位置し、内面20bは、外殻10の軸方向内側(図で右側)に位置する。
この例において、外面20aと内面20bは、軸心Z-Zに直交する平面であるが、これに限定されず、軸心Z-Zに斜めに傾斜しても、曲面であってもよい。
【0025】
内周面20cは、流路22を囲み、この例では円筒面である。
外周面20dは、内周面20cより半径方向外側に位置し、軸方向に外面20aから内面20bに向けて広がる。
【0026】
口金20は、外殻10の内面に密着する接合部21を有する。
この例で、接合部21は、口金20の外周面20dであり、外殻10の軸方向端部内面が外周面20dに結合して一体化されている。
【0027】
ライナ30は、外殻10及び口金20の内面に一体的に形成されている。
図2において、口金20は金属製であり、ライナ30は口金20の内面20bと外殻10の内面に一体的に形成されている。
【0028】
ライナ30は、所定温度範囲において、外殻10との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、極低温流体Lに対する耐食性及び液密性と、水に対する不溶性とを有する。
この例において、ライナ30は、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)とジルコニウム化合物を含み不溶化処理されたBVOH硬化膜である。
【0029】
ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)は、ビニルアルコール系樹脂であり、例えば、ニチゴーGポリマー(登録商標)として三菱ケミカル株式会社から市販されている。
BVOHは、ポリビニルアルコール(PVOH)、又は、エチレン・ビニルアルコール樹脂(EVOH:汎用熱可塑性樹脂)と比較して以下の特徴を有する。
(1)酸素ガス、水素ガスに対するガスバリア性に優れる。
(2)PVOHに比べ融点が低く、また熱分解しにくい特性を有しており、溶融成形性に優れる。
(3)延伸性に優れる。
(4)BVOHは、それ自体は水溶性であるが、ジルコニウム化合物を併用して不溶化処理することで、BVOHの特性を損なうことなく、水に対する不溶性(耐水性)を付与することができる。
【0030】
従ってBVOH硬化膜からなるライナ30は、所定温度範囲において、外殻10との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、極低温流体Lに対する耐食性及び液密性(ガスバリア性)と、水に対する不溶性とを有する。
【0031】
ライナ30は、最適な比率で分散した炭素繊維のショートファイバーを含むことが好ましい。なお、ガラス繊維のショートファイバー、シリカ粉末などの無機フィラー、アラミド繊維などの有機繊維をフィラーとして充填しても良い。
この構成により、ライナ30の破断強度を高めかつ線膨張係数を下げて外殻10との熱収縮差を低減することができる。
後述する製造方法において、外殻10を一体的に成形した後に、BVOH水溶液を外殻10及び口金20の内面に塗布し、不溶化処理してBVOH硬化膜を一体的に形成する。
この際、ライナ30を複数の層(例えば、外層、中間層、及び内層)で構成し、フィラーの配合比率を外層、中間層、内層の順で多く設定することが好ましい。
この構成により、外殻10と外層、及び外層、中間層、内層の界面での熱収縮差を低減することができる。
【0032】
図1図2において、ライナ30は、さらに保護層32を有する。保護層32は、BVOH硬化膜の内面に形成され、水に対し不溶性を有するエラストマーからなる。
図2において、保護層32は口金20の内周面20cとライナ30の内面に一体的に形成され、BVOH硬化膜の端部と口金20の内面20bの境界面からの極低温流体Lの侵入を防止している。
この構成により、極低温流体Lに水分が含まれていても、保護層32により水分とBVOH硬化膜の接触を防止することができ、BVOH硬化膜の水に対する不溶性(耐水性)をさらに高めることができる。
【0033】
図1図2において、極低温タンク100は、さらに外殻10とBVOH硬化膜の境界面に位置し、外殻10の内面に形成された金属メッキ層34を有する。金属メッキ層34は、例えば、金、チタン、等のメッキ層であり、所定温度範囲において、極低温流体Lに対する液密性を有する。
図2において、金属メッキ層34は口金20の内面20bと外殻10の内面に一体的に形成され、口金付き外殻15(後述する)の極低温流体Lに対する液密性を高めている。
この構成により、金属メッキ層34が極低温流体Lに対する液密性を有するので、BVOH硬化膜の液密性と協働して極低温流体Lに対する液密性をさらに高めることができる。
【0034】
図3は、第1実施形態(A)、第2実施形態(B)、第3実施形態(C)の図2と同様のA部拡大図である。
図3(A)の第1実施形態において、ライナ30は、上述したBVOH硬化膜であり、金属メッキ層34と保護層32は不可欠でなく、省略してもよい。
【0035】
図3(B)の第2実施形態において、ライナ30は、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)からなるBVOH層31と、BVOH層31の内面に形成された保護層32とを有する。保護層32は、水に対し不溶性を有するエラストマーからなる。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。また上述した金属メッキ層34を設けてもよい。
この構成により、ライナ30は、所定温度範囲において、外殻10との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、極低温流体Lに対する耐食性及び液密性と、水に対する不溶性とを有する。
【0036】
図3(C)の第3実施形態において、ライナ30は、金属メッキ層34である。
金属メッキ層34は、例えば、金、チタン、等のメッキ層であり、所定温度範囲において、外殻10の熱収縮に追従可能な伸縮性と、極低温流体Lに対する耐食性及び液密性と、水に対する不溶性とを有する。
【0037】
表1に、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、BVOH層、BVOH硬化膜、及び金属メッキ層の水素ガス透過係数を示す。
この表から、金属メッキ層は、エポキシ樹脂及びナイロン樹脂と比較して水素ガス透過係数が約50分の1以下であり、BVOH層及びBVOH硬化膜はさらに小さく、それぞれ水素ガスを透し難いことがわかる。
【0038】
【表1】
【0039】
図4は、本発明による極低温タンクの製造方法の全体フロー図であり、図5は、極低温タンクの製造方法の説明図である。
以下、ライナ30が第1実施形態である場合について説明する。
図4において、極低温タンクの製造方法は、S1~S4の各ステップを有する。
【0040】
外殻成形ステップ(S1)では、図5(A)に示すように、外面が外殻10の内面に位置する金属製のマンドレル1を準備し(S1-1)、マンドレル1に口金20を固定し、マンドレル1及び口金20の外周面に、外殻10を一体的に成形する。
この例で、外殻10は、軸心Z-Zを中心とする中空回転体であり、口金20は、軸心Z-Zを中心とする中空円板である。
また、マンドレル1は、口金20の内周面20cの内側から分割して取り出せるように構成されている。
【0041】
外殻成形ステップ(S1)において、マンドレル1を繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂の成形温度まで加熱する(S1-2)。
また、外殻成形ステップ(S1)において、軸心Z-Zを中心にマンドレル1を回転させながら成形することが好ましい。これによりマンドレル1と口金20の外面に繊維強化プラスチックからなる外殻10を成形する。
【0042】
外殻10の成形は、フィラメントワインディングによることが好ましい。フィラメントワインディングでは、マンドレル1の外面に圧力をかけながら、炭素繊維に樹脂を付着、含浸させたプリプレグ繊維を巻き付けて成形する。
なお、本発明は、フィラメントワインディングに限定されない。例えば、マトリックスに熱可塑性樹脂が適用される場合は、AFP(Automated Fiber Placement法:自動積層法)による成形であってもよい。
【0043】
次に、マンドレル1を常温まで冷却する。
この冷却により、マンドレル1の外側に口金付き外殻15が一体成形される。
口金付き外殻15の寸法、厚さ、耐圧性能を試験して、口金付き外殻15が完成する。
【0044】
マンドレル取出しステップ(S2)では、図5(B)に示すように、成形された外殻10(口金付き外殻15)の内側からマンドレル1を分割して取り出す。
次いで、マンドレル取出しステップ(S2)の後、口金付き外殻15(外殻10及び口金20)の内面に、所定温度範囲において極低温流体Lに対する液密性を有する金属メッキ層34を形成する。
金属メッキ層34の形成は、第1実施形態及び第2実施形態では省略してもよい。
【0045】
ライナ形成ステップ(S3)では、図5(C)に示すように、口金付き外殻15(外殻10及び口金20)の内面にライナ30を一体的に形成する。
ライナ形成ステップ(S3)において、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)とジルコニウム化合物を含むBVOH水溶液に、フィラーを、ライナ30の破断強度を高めかつ線膨張係数を下げる比率で分散配合する(S3-1)。
なお、フィラーは炭素繊維のショートファイバーであることが好ましいが、ガラス繊維のショートファイバー、シリカ粉末などの無機フィラー、アラミド繊維などの有機繊維をフィラーとして充填しても良い。
ジルコニウム化合物として、第一稀元素化学工業(株)から市販されているジルコゾールAC-7,ZC-20,ZNをBVOHに対し1:0.4~1の範囲で配合する。またこれを水に溶かしてBVOH水溶液とする。
第2実施形態ではジルコニウム化合物を含まないBVOH水溶液を用いてもよい。
【0046】
次いで、BVOH水溶液を外殻10及び口金20の内面に塗布する(S3-2)。
次いで、塗布したBVOH水溶液を不溶化処理して、極低温流体Lに対する耐食性及び液密性と、水に対し不溶性を有するBVOH硬化膜を一体的に形成する(S3-3)。
「不溶化処理」は、例えば塗布したBVOH水溶液を60℃で12時間乾燥させた後、120℃で10分間加熱する。この不溶化処理により、BVOHのガスバリア性を損なうことなく、水に対し不溶性を有するBVOH硬化膜とすることができる。
第2実施形態ではジルコニウム化合物を含まないBVOH水溶液を外殻10及び口金20の内面に塗布し乾燥させてBVOH層31を形成する。
【0047】
S3-1~S3-3のステップは、繰り返して実施し、その際、フィラーの配合比率を外層部は多く、内層部は少なくすることが好ましい。
【0048】
保護層の形成ステップ(S4)では、図5(D)に示すように、ライナ30の内面に、水に対し不溶性を有するエラストマーからなる保護層32を形成する。
保護層32の形成は、第1実施形態では省略してもよい。
【0049】
図5(D)において、ライナ30及び保護層32が常温で硬化した後、硬化後の極低温タンク100の寸法、厚さ、耐圧性能、気密性能、低温耐圧性能を試験して、極低温タンク100が完成する。
【0050】
上述した本発明の実施形態によれば、外殻10及び口金20の内面に一体的に形成されたライナ30が、常温から極低温流体の極低温までの温度範囲において、外殻との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、極低温流体に対する耐食性及び液密性と、水に対する不溶性とを有する。例えば第1実施形態では、ライナ30は、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)とジルコニウム化合物を含み不溶化処理されたBVOH硬化膜である。
BVOHは、常温から極低温流体Lの極低温までの温度範囲において、外殻10との熱収縮差に追従可能な伸縮性と、極低温流体Lに対する耐食性及び液密性(ガスバリア性)と、を有する。
従って、ライナ30が極低温流体Lに接触した状態で、常温から極低温までの温度変化により外殻10との間に熱収縮差が生じても、熱収縮差に追従して伸縮し、耐食性及び液密性(ガスバリア性)を維持することができる。
【0051】
また、例えば第1実施形態では、ジルコニウム化合物を含むBVOHは、不溶化処理によりBVOHの特性を損なうことなく、水に対する不溶性を付加することができ、ライナ30は、水に対する不溶性を有する。
従って、ライナ30が接触する極低温流体Lに水分が含まれていても、水分の浸食による剥離を防止することができる。
また、ライナ30が一体的に形成されており、特許文献1の気密樹脂層のように繋ぎ合わせ部がないので、剥離する可能性を大幅に低減することができる。
【0052】
さらに、本発明によれば、外殻10は、常温から極低温流体Lの極低温までの温度範囲においてライナ30に作用する圧力により生じる面内応力を超える引張強度を有する繊維強化プラスチック(例えばCFRP)からなる。
従って、外殻10の面内応力がその引張強度を超えることなく、極低温流体Lの圧力によるライナ30及び外殻10の膨張を所定の範囲に抑えることができる。
【0053】
さらに、本発明によれば、外殻10とライナ30の間に、他の補強層(例えば、繊維強化樹脂層を巻き付ける外層)を必要としないので、全体の厚さ(肉厚)を小さくできる。
本発明では外殻10の内面にライナ30を一体的に形成するので、特許文献2の巻付圧を受ける外層が不要であり、その分、全体の厚さ(肉厚)を小さくできる。
【0054】
なお本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
L 極低温流体、Z-Z 軸心、1 マンドレル、10 外殻、
15 口金付き外殻、20 口金、20a 外面、20b 内面、
20c 内周面、20d 外周面、21 接合部、22 流路、
30 ライナ、31 BVOH層、32 保護層、34 金属メッキ層、
50 支持構造体、52 伸縮配管、54 固定配管、100 極低温タンク
図1
図2
図3
図4
図5