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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110537
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】転舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230802BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230802BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230802BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012044
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一鑑
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC34
3D232CC39
3D232CC45
3D232DA03
3D232DA05
3D232DA62
3D232DA63
3D232DA64
3D232DA90
3D232DC10
3D232DD01
3D232DE05
3D232DE14
3D232EA01
3D232EC23
3D232EC29
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC06
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD10
3D333CD14
3D333CE39
3D333CE41
(57)【要約】
【課題】転舵装置の円滑な動作を損なう異常の予兆を、より適切に報知することができる転舵制御装置を提供する。
【解決手段】転舵制御装置50は、車両の転舵輪を転舵させるための転舵装置を制御対象とする。転舵制御装置50は、予兆検出回路73を有している。予兆検出回路73は、転舵装置の円滑な動作を損なう異常の予兆を検出するように構成される。予兆検出回路73は、予兆が検出されることを契機として、車両の総走行時間を計測し、計測される総走行時間に基づき、予兆を報知するための処理を実行する。予兆検出回路73は、予兆が一度でも検出された状態で、車両電源がオフされた後に再びオンされたとき、予兆が再び検出されるかどうかに関わらず、総走行時間の計測を行うように構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させるための転舵装置を制御対象とする転舵制御装置であって、
前記転舵装置の円滑な動作を損なう異常の予兆を検出するように構成される予兆検出回路を有し、
前記予兆検出回路は、前記予兆が検出されることを契機として、前記車両の総走行時間を計測し、計測される前記総走行時間に基づき、前記予兆を報知するための処理を実行するとともに、
前記予兆が一度でも検出された状態で、車両電源がオフされた後に再びオンされたとき、前記予兆が再び検出されるかどうかに関わらず、前記総走行時間の計測を行うように構成される転舵制御装置。
【請求項2】
前記予兆は、累積的あるいは不可逆的な事象に起因して発生するものである請求項1に記載の転舵制御装置。
【請求項3】
前記予兆検出回路は、前記車両電源がオフされるとき、前記総走行時間を記憶する一方、
前記車両電源が再びオンされたとき、前記車両電源がオフされるタイミングで記憶した前記総走行時間を読み出し、読み出した前記総走行時間を初期値として、前記総走行時間の計測を再開するように構成される請求項1または請求項2に記載の転舵制御装置。
【請求項4】
前記予兆検出回路は、前記車両電源がオフされていた期間に応じて、前記初期値を増加させるように構成される請求項3に記載の転舵制御装置。
【請求項5】
前記転舵装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵シャフトと、前記転舵輪を転舵させるための動力を発生する転舵モータと、前記転舵モータの動力を前記転舵シャフトに伝達する伝動機構と、を有し、
前記異常は、前記伝動機構の錆を含み、
前記予兆検出回路は、前記車両電源がオフされていた期間が、前記伝動機構の錆が進行するおそれがあるとされる期間を基準として設定される時間判定しきい値よりも長い期間であるとき、前記初期値を増加させるように構成される請求項4に記載の転舵制御装置。
【請求項6】
前記予兆検出回路は、前記予兆を最初に検出した時点からの前記総走行時間に応じて、前記予兆の報知レベルを上げるように構成される請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の転舵装置は、モータの回転を転舵シャフトに伝達するための伝動機構を有している。伝動機構は、駆動プーリ、従動プーリおよびベルトを有している。駆動プーリは、モータの出力軸に設けられる。従動プーリは、転舵シャフトに螺合されたボールナットに設けられる。ベルトは、駆動プーリと従動プーリとに巻き掛けられる。
【0003】
特許文献1の転舵装置は、制御装置を有している。制御装置は、モータの回転速度およびステアリングホイールの操舵速度からベルトのスリップ率を求める。制御装置は、スリップ率がしきい値を超えるとき、ベルトに滑りが発生している旨判定する。制御装置は、車載の異常報知部を介して、ベルトに滑りが発生していることを車両の運転者に報知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-105604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベルトの滑りが検出された以降、車両が継続して使用されるとき、転舵装置は、時間の経過とともに円滑に動作しにくくなるおそれがある。しかし、ベルトの滑りが検出された時点において、車両は走行可能である。このため、ベルトの滑りを運転者に報知した後も、運転者は、車両を継続して使用するおそれがある。したがって、転舵装置の円滑な動作が損なわれる異常の予兆を、車両の運転者に対して、より適切に報知することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得る転舵制御装置は、車両の転舵輪を転舵させるための転舵装置を制御対象とする。前記転舵装置の円滑な動作を損なう異常の予兆を検出するように構成される予兆検出回路を有している。前記予兆検出回路は、前記予兆が検出されることを契機として、前記車両の総走行時間を計測し、計測される前記総走行時間に基づき、前記予兆を報知するための処理を実行するとともに、前記予兆が一度でも検出された状態で、車両電源がオフされた後に再びオンされたとき、前記予兆が再び検出されるかどうかに関わらず、前記総走行時間の計測を行うように構成される。
【0007】
この構成によれば、予兆検出回路は、転舵装置の円滑な動作が損なわれる異常の予兆が一度でも検出された状態で、車両電源がオフされた後に再びオンされたとき、予兆が再び検出されないときであれ、車両の総走行時間の計測を行う。このため、車両の総走行時間に応じて、適切に予兆を報知することができる。
【0008】
上記の転舵制御装置において、前記予兆は、累積的あるいは不可逆的な事象に起因して発生するものであってもよい。
この構成によるように、累積的あるいは不可逆的な事象に起因して発生する予兆だからこそ、車両の総走行時間に基づき予兆を適切に検出することができる。
【0009】
上記の転舵制御装置において、前記予兆検出回路は、前記車両電源がオフされるとき、前記総走行時間を記憶するように構成されてもよい。また、前記予兆検出回路は、前記車両電源が再びオンされたとき、前記車両電源がオフされるタイミングで記憶した前記総走行時間を読み出し、読み出した前記総走行時間を初期値として、前記総走行時間の計測を再開するように構成されてもよい。
【0010】
この構成によれば、予兆検出回路は、予兆を最初に検出した時点からの車両の総走行時間に応じて、運転者に予兆を適切に報知することができる。
上記の転舵制御装置において、前記予兆検出回路は、前記車両電源がオフされていた期間に応じて、前記初期値を増加させるように構成されてもよい。
【0011】
この構成によれば、車両電源がオフされている期間の転舵装置の状態悪化を考慮して、より迅速に予兆を報知することができる。
上記の転舵制御装置において、前記転舵装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵シャフトと、前記転舵輪を転舵させるための動力を発生する転舵モータと、前記転舵モータの動力を前記転舵シャフトに伝達する伝動機構と、を有していてもよい。この場合、前記異常は、前記伝動機構の錆の発生を含んでいてもよい。前記予兆検出回路は、前記車両電源がオフされていた期間が、前記伝動機構の錆が進行するおそれがある期間を基準として設定される時間判定しきい値よりも長い期間であるとき、前記初期値を増加させるように構成されてもよい。
【0012】
この構成によれば、車両電源がオフされている期間の伝動機構の錆の進行を考慮して、より迅速に予兆を報知することができる。
上記の転舵制御装置において、前記予兆検出回路は、前記予兆を最初に検出した時点からの前記総走行時間に応じて、前記予兆の報知レベルを上げるように構成されてもよい。
【0013】
この構成によれば、運転者に対して、転舵装置の円滑な動作を損なう異常の予兆を、より適切に報知することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の転舵制御装置によれば、転舵装置の円滑な動作を損なう異常の予兆を、より適切に報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】操舵装置の第1の実施の形態の構成図である。
図2】第1の実施の形態の制御装置のブロック図である。
図3】予兆報知パターンの第1の比較例を示すグラフである。
図4】予兆報知パターンの第2の比較例を示すグラフである。
図5】第1の実施の形態の予兆報知パターンを示すグラフである。
図6】第2の実施の形態の予兆報知パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施の形態>
以下、転舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。
【0017】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、反力ユニット20、転舵ユニット30、反力制御装置40、および転舵制御装置50を有している。反力ユニット20は、車両のステアリングホイール11に操舵反力を付与するための構成である。操舵反力は、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクである。転舵ユニット30は、車両の転舵輪12を転舵させるための構成である。転舵ユニット30は、車両の転舵装置を構成する。反力制御装置40は、反力ユニット20の動作を制御する。転舵制御装置50は、転舵ユニット30の動作を制御する。
【0018】
<反力ユニット>
反力ユニット20は、ステアリングホイール11が連結されるステアリングシャフト21、反力モータ22、減速機構23、および回転角センサ24を有している。
【0019】
反力モータ22は、操舵反力の発生源である。反力モータ22は、たとえば三相のブラシレスモータである。反力モータ22は、減速機構23を介して、ステアリングシャフト21に連結されている。反力モータ22が発生するトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト21に付与される。
【0020】
回転角センサ24は、反力モータ22に設けられている。回転角センサ24は、反力モータ22の回転角θを検出する。
反力制御装置40は、反力制御を実行する。反力制御は、反力モータ22の駆動制御を通じて操舵角θに応じた操舵反力を発生させるための制御である。反力制御装置40は、回転角センサ24により検出される回転角θに基づき、操舵角θを演算する。操舵角θは、ステアリングシャフト21の回転角である。反力制御装置40は、操舵角θに基づき、目標操舵反力を演算する。反力制御装置40は、目標操舵反力に応じて、反力モータ22に対する給電を制御する。
【0021】
<転舵ユニット>
転舵ユニット30は、ハウジング31、転舵シャフト32、転舵モータ33、および回転角センサ34、および伝動機構35を有している。
【0022】
ハウジング31は図示しない車体に固定される。ハウジング31の内部には、転舵シャフト32が収容されている。転舵シャフト32は、車体の左右方向(図1中の左右方向)に延びている。転舵シャフト32の両端には、それぞれタイロッド36を介して転舵輪12が連結される。転舵シャフト32が、その軸線方向に移動することにより、転舵輪12の転舵角θが変更される。
【0023】
転舵モータ33は、たとえば三相のブラシレスモータである。転舵モータ33は、転舵力の発生源である。転舵力は、転舵輪12を転舵させるための動力である。転舵モータ33は、ハウジング31の外部に固定されている。転舵モータ33の出力軸33aは、転舵シャフト32に対して平行に延びている。出力軸33aは、伝動機構35を介して、転舵シャフト32に連結されている。転舵モータ33が発生するトルクは、転舵力として転舵シャフト32に付与される。
【0024】
回転角センサ34は、転舵モータ33に設けられている。回転角センサ34は、転舵モータ33の回転角θを検出する。転舵モータ33の回転角θは、転舵シャフト32軸線方向における位置、および転舵輪12の転舵角θを反映する値である。
【0025】
伝動機構35は、ボールナット51、歯付きの駆動プーリ52、歯付きの従動プーリ53、および歯付きの無端状のベルト54を有している。
ボールナット51は、転舵シャフト32のボールねじ部32aに対して、図示しない複数のボールを介して螺合されている。ボールねじ部32aは、転舵シャフト32の第1の端部(図1中の左端部)に寄った位置の所定範囲にわたって設けられている。駆動プーリ52は、転舵モータ33の出力軸33aに固定されている。従動プーリ53は、ボールナット51の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト54は、駆動プーリ52と従動プーリ53との間に掛け渡されている。転舵モータ33の回転は、駆動プーリ52、ベルト54および従動プーリ53を介して、ボールナット51に伝達される。ボールナット51の回転に伴い、転舵シャフト32はその軸線方向に沿って移動する。
【0026】
転舵制御装置50は、転舵制御を実行する。転舵制御は、転舵モータ33の駆動制御を通じて転舵輪12をステアリングホイール11の操舵状態に応じて転舵させるための制御である。転舵制御装置50は、反力制御装置40により演算される操舵角θに応じて、転舵モータ33に対する給電を制御する。
【0027】
なお、転舵ユニット30は、ピニオンシャフト61を有している。ピニオンシャフト61は、転舵シャフト32に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト61のピニオン歯61aは、転舵シャフト32のラック歯32bに噛み合わされている。ラック歯32bは、転舵シャフト32の第2の端部(図1中の右端部)に寄った位置の所定範囲にわたって設けられている。
【0028】
ピニオンシャフト61は、伝動機構35と協同して、転舵シャフト32をハウジング31の内部に支持するために設けられている。すなわち、転舵シャフト32は、転舵ユニット30に設けられる図示しない支持機構によって、軸線方向に移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト61へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト32は、ハウジング31の内部に支持される。また、転舵シャフト32の回転が規制される。
【0029】
ただし、ピニオンシャフト61を使用せずに転舵シャフト32をハウジング31に支持する他の支持機構を設けてもよい。この場合、転舵ユニット30としてピニオンシャフト61を割愛した構成を採用することが可能となる。
【0030】
<転舵制御装置>
つぎに、転舵制御装置50について詳細に説明する。
転舵制御装置50は、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
【0031】
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(central processing unit)およびメモリを含む。
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0032】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータ(ここではCPU)で読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。メモリは、RAM(random access memory)およびROM(read only memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【0033】
図2に示すように、転舵制御装置50は、回転角制御回路71、電流制御回路72、および予兆検出回路73を有している。
回転角制御回路71は、回転角センサ34により検出される転舵モータ33の回転角θを取り込む。また、回転角制御回路71は、反力制御装置40により演算される操舵角θに基づき、モータ15の目標回転角を演算する。回転角制御回路71は、転舵モータ33の目標回転角と、転舵モータ33の回転角θにより検出される転舵モータ33の回転角θとの差を求め、この差を無くすように転舵モータ33に対する電流指令値Iを演算する。
【0034】
電流制御回路72は、回転角制御回路71により演算される電流指令値Iに応じた電力を転舵モータ33へ供給する。これにより、転舵モータ33は、電流指令値Iに応じたトルクを発生する。
【0035】
予兆検出回路73は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常が発生する前に、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆を検出する。予兆検出回路73は、予兆が検出されるとき、車室内に設けられる報知装置80を介して、運転者に報知する。予兆検出回路73は、報知装置80に対する指令信号S1を生成する。指令信号S1は、報知装置80に対して、定められた報知動作を実行させるための命令である。報知装置80は、指令信号S1に基づき報知動作を行う。報知装置80は、たとえば車室内に設けられる表示灯、ディスプレイ、ブザー、およびスピーカを含む。報知動作は、たとえば表示灯の点灯、ディスプレイによる警告表示、およびブザーの吹鳴を含む。
【0036】
<異常の予兆である事象>
予兆検出回路73は、一例として、つぎの3つの事象B1~B3のうち、少なくとも1つの事象を伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆として検出する。
【0037】
B1.転舵モータ33の単位回転角あたりの転舵シャフト32の移動量が予兆判定しきい値よりも小さくなること。
B2.伝動機構35に蓄積されるダメージ量が予兆判定しきい値に達していること。
【0038】
B3.転舵モータ33のトルク勾配が予兆判定しきい値に達していること。
<事象B1>
事象B1は、たとえばベルト54の伸びあるいは摩耗に起因して発生する。ベルト54の伸びあるいは摩耗は、累積的あるいは不可逆的な事象である。ベルト54の伸びあるいは摩耗は、基本的には状態が悪化するだけであり、改善することがない。車両の使用が継続されると、ベルト54に亀裂が発生し、やがてベルト54の破断に至るおそれがある。このため、事象B1は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆であるといえる。
【0039】
予兆検出回路73は、たとえば転舵モータ33の回転角θに基づき、転舵シャフト32の移動量を演算する。予兆検出回路73は、転舵モータ33の単位回転角あたりの転舵シャフト32の移動量と予兆判定しきい値とを比較することにより、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆を検出することが可能である。また、予兆検出回路73は、転舵モータ33の単位回転角あたりの転舵シャフト32の移動量と異常判定しきい値とを比較することにより、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常を検出することが可能である。
【0040】
<事象B2>
事象B2は、たとえば転舵シャフト32のエンド当てに起因して発生する。エンド当ては、転舵シャフト32の端部がハウジング31に突き当たることである。伝動機構35は、エンド当てが発生する毎にダメージを蓄積する。伝動機構35は、転舵シャフト32の移動速度が速いときほど、より大きなダメージを受ける。ダメージの蓄積は、累積的あるいは不可逆的な事象である。ダメージの蓄積は、基本的には状態が悪化するだけであり、改善することがない。伝動機構35がダメージを蓄積することは、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常が発生する一因となる。このため、事象B2は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆であるといえる。
【0041】
伝動機構35のダメージは、ベルト54の歯の摩耗あるいは歯の欠落を含む。エンド当ての際、転舵シャフト32の移動が制限されることにより、ボールナット51およびベルト54の回転が制限される。これに対し、転舵モータ33および駆動プーリ52は、その慣性力によって回転し続けようとする。このため、ベルト54に歯飛びが発生するおそれがある。歯飛びは、ベルト54の歯が駆動プーリ52の歯あるいは従動プーリ53の歯を乗り越える現象である。歯飛びが繰り返し発生すると、ベルト54の歯の摩耗が進行し、やがてベルト54の歯の欠落が発生するおそれがある。
【0042】
予兆検出回路73は、たとえば転舵モータ33の回転角速度の変化率の低下の程度に基づき、エンド当てが発生したかどうかを判定する。転舵モータ33の回転角速度は、転舵シャフト32の移動速度を反映する値であって、転舵モータ33の回転角θを微分することにより得られる。予兆検出回路73は、伝動機構35のダメージ量を演算する。ダメージ量は、エンド当ての発生状況を数値化して得られる値である。予兆検出回路73は、エンド当てが発生したと判定する毎にカウント値を演算し、カウント値をダメージ量の前回値に加算することによりダメージ量の現在値を演算する。予兆検出回路73は、転舵モータ33の回転角加速度の絶対値が大きくなるにつれて、より大きな値のカウント値を演算する。予兆検出回路73は、伝動機構35のダメージ量と予兆判定しきい値とを比較することにより、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆を検出することが可能である。また、予兆検出回路73は、伝動機構35のダメージ量と異常判定しきい値とを比較することにより、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常を検出することが可能である。
【0043】
<事象B3>
事象B3は、たとえばボールねじの動作が阻害されることに起因して発生する。ボールねじは、転舵シャフト32のボールねじ部32aおよびボールナット51を含む。ボールねじ部32aおよびボールナット51は、長期の使用に伴い摩耗あるいは錆が発生することがある。摩耗あるいは錆は、累積的あるいは不可逆的な事象である。摩耗あるいは錆は、基本的には状態が悪化するだけであり、改善することがない。摩耗あるいは錆の進行の程度によっては、ボールナット51が転舵シャフト32に対して相対回転するときの摩擦が異常に増加することにより、ボールねじの円滑な動作が阻害されるおそれがある。転舵モータ33の負荷が異常に増加するため、転舵モータ33のトルクの立ち上がり勾配が急激に増大する。したがって、事象B3は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆であるといえる。
【0044】
予兆検出回路73は、電流センサ74を介して、転舵モータ33の電流値Iを検出する。電流センサ74は、転舵モータ33に対する給電経路に設けられる(図2を参照)。電流値Iは、転舵モータ33のトルクを反映する値である。予兆検出回路73は、転舵モータ33のトルク勾配を演算する。トルク勾配は、転舵角θの変化量に対する転舵モータ33の電流値Iの変化量の割合としてみることができる。予兆検出回路73は、転舵モータ33の電流値Iの前回値と今回値との差を演算周期で除算することにより、トルク勾配を演算する。予兆検出回路73は、転舵モータ33のトルク勾配と予兆判定しきい値とを比較することにより、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆を検出することが可能である。また、予兆検出回路73は、転舵モータ33のトルク勾配と異常判定しきい値とを比較することにより、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常を検出することが可能である。
【0045】
<予兆報知パターンの第1の比較例>
つぎに、予兆報知パターンの第1の比較例を説明する。
図3のグラフに示すように、予兆検出回路73は、車両電源がオンしている状態で、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆が検出されるとき(時刻T1)、予兆検出フラグをオンする。予兆検出フラグは、予兆を検出した状態であるか否かを示す。予兆検出回路73は、予兆が検出されるとき、報知装置80を介して、運転者に報知する。報知装置80は、定められた報知動作として、たとえば車室内の表示灯を黄色に点灯させる。予兆が検出された時点において、車両は走行することができる状態である。
【0046】
この後、車両電源がオフされたとき(時刻T2)、予兆検出回路73は、予兆検出フラグをオフする。また、予兆検出回路73は、報知装置80による報知動作を停止する。
車両電源が再びオンされたとき(時刻T3)、しばらくして予兆が再び検出されることがある。たとえば、予兆の原因が解消されていないことが想定される。
【0047】
予兆検出回路73は、予兆が再び検出されるとき(時刻T4)、予兆検出フラグを再びオンする。また、予兆検出回路73は、報知装置80を介して、運転者に再び報知する。予兆が再び検出された時点において、車両は走行することができる状態である。
【0048】
この後、予兆が検出されている状態で車両が継続して使用されることにより、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常が発生するおそれがある(時刻T5)。予兆検出回路73は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常が検出されるとき、予兆検出フラグをオンした状態に維持する。また、予兆検出回路73は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常が検出されるとき、報知装置80の報知レベルを上げるための指令信号S1を生成する。報知装置80は、たとえば表示灯の表示色を黄色から赤色へ変更する。伝動機構35の円滑な動作を損なう異常が発生した以降、車両は円滑に走行することができなくなるおそれがある。
【0049】
このように、予兆が検出されたことを報知したとしても、すべての運転者が車両の点検を即時に行うとは限らない。たとえば、つぎの理由が考えられる。
予兆が報知された後の走行期間あるいは走行距離を認識することは困難である。また、予兆が報知された後の走行可能期間あるいは走行可能距離は不明である。さらに、ステアバイワイヤ方式の操舵装置10では、ステアリングホイール11と転舵シャフト32とが機械的に分離されている。このため、予兆である事象B1~B3の発生に伴う伝動機構35または転舵輪12の運動特性の変化が運転者に伝わりにくい。運転者が危機感を持ちにくいため、運転者は、予兆が報知された後も、車両を継続して使用することが考えられる。
【0050】
<予兆報知パターンの第2の比較例>
つぎに、予兆報知パターンの第2の比較例を説明する。
図4のグラフに示すように、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆が一度検出されたとしても(時刻T1)、車両電源がオフされた後(時刻T2)、再び車両電源がオンされたとき(時刻T3)、予兆が再び検出されるとは限らない。予兆が検出されない場合、報知装置80は報知動作を行わない。このため、予兆が検出されないまま車両が継続して使用されることにより、車両の走行中、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常が発生するおそれがある(時刻T5)。
【0051】
<予兆検出回路の構成>
本実施の形態の予兆検出回路73は、伝動機構35の円滑な動作が損なわれる異常の予兆を運転者に対してより適切に報知するために、つぎの構成を有している。
【0052】
図2に示すように、予兆検出回路73は、カウンタ73Aおよび記憶回路73Bを有している。
カウンタ73Aは、予兆が最初に検出された時からの車両の総走行時間を計測する。カウンタ73Aが計測する車両の総走行時間は、たとえば、2つの時間(C1),(C2)のうちいずれか一方の総計である。
【0053】
C1.車両が実際に走行した時間。たとえば、車速に基づき車両が走行しているのかどうかを判定することが可能である。
C2.車両電源がオンしている時間。たとえば、車両の始動スイッチのオンオフ状態に基づき、車両電源がオンしているのかどうかを判定することが可能である。
【0054】
記憶回路73Bは、不揮発性を有する。記憶回路73Bは、車両電源がオフされるとき、カウンタ73Aにより計測された車両の総走行時間を記憶する。また、記憶回路73Bは、車両電源がオフされるとき、予兆検出の履歴を記憶する。
【0055】
予兆検出回路73は、車両電源がオフされるとき、カウンタ73Aにより計測された車両の総走行時間を記憶回路73Bに格納する。予兆検出回路73は、車両電源がオフされるとき、予兆検出の履歴を記憶回路73Bに格納する。
【0056】
予兆検出回路73は、報知装置80の報知レベルを変更することが可能である。報知レベルは、たとえば、3つの報知レベル(D1),(D2),(D3)を含む。
D1.第1の報知レベル。第1の報知レベルは、3段階の中で最も低いレベルである。
【0057】
D2.第2の報知レベル。第2の報知レベルは、3段階の中で中程度のレベルである。
D3.第3の報知レベル。第3の報知レベルは、3段階の中で最も高いレベルである。
報知装置80の報知動作は、たとえば、5つの報知動作(E1)~(E5)を含む。
【0058】
E1.表示灯の点灯。
E2.運転者に対して、遅滞なく車両の点検を行うことを促すための表示。
E3.運転者に対して、速やかに車両の点検を行うことを促すための表示。
【0059】
E4.運転者に対して、直ちに車両の点検を行うことを促すための表示。
E5.定期的なブザー吹鳴。
報知動作E2,E3,E4の表示は、ディスプレイまたはメータパネルを利用して行われる。表示は、文字によるメッセージ、および音声によるメッセージを含む。時間的即時性は、報知動作E2、報知動作E3、報知動作E4の順に強い。
【0060】
報知装置80は、第1の報知レベルD1で動作するとき、報知動作E1,E2を行う。報知装置80は、第2の報知レベルD2で動作するとき、報知動作E1,E3,E5を行う。報知装置80は、第3の報知レベルD3で動作するとき、報知動作E1,E4,E5を行う。
【0061】
予兆検出回路73は、報知装置80の報知レベルを第3の報知レベルに変更する場合、車両制御装置81に対する要求信号S2を生成する。車両制御装置81は、車両の走行用駆動源を制御する。要求信号S2は、車両制御装置81に対して、車速を定められた制限速度に制限することを要求するための電気信号である。車両制御装置81は、要求信号S2に基づき、車速を制限速度に制限する。
【0062】
<本実施の形態の予兆報知パターン>
本実施の形態の予兆報知パターンは、つぎの通りである。
図5のグラフに示すように、予兆検出回路73は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆が検出されることを契機として(時刻T11)、車両の総走行時間RTの計測を開始する。すなわち、予兆検出回路73は、カウンタ73Aを始動させる。予兆検出回路73は、予兆が初めて検出されるとき、報知装置80の報知レベルを第1の報知レベルD1に設定する。
【0063】
予兆検出回路73は、カウンタ73Aにより計測される予兆検出後の総走行時間RTが第1の時間判定しきい値RT1を超えるとき(時刻T12)、報知装置80の報知レベルを第1の報知レベルD1から第2の報知レベルD2へ変更する。
【0064】
この後、車両電源がオフされるとき(時刻T13)、予兆検出回路73は、カウンタ73Aにより計測された予兆検出後の総走行時間RTを記憶回路73Bに格納する。予兆検出回路73は、カウンタ73Aの動作を停止する。
【0065】
この後、車両電源が再びオンされた場合(時刻T14)、予兆検出回路73は、カウント再開条件が成立するとき、カウンタ73Aによる総走行時間RTの計測を再開する。
カウント再開条件は、たとえば、つぎの2つの条件(F1),(F2)を含む。
【0066】
F1.予兆検出後の総走行時間RT>0
F2.前回、車両電源がオフされる前に予兆が検知されていること。
予兆検出回路73は、条件(F1)または条件(F2)を満たすとき、カウント再開条件が成立している旨判定する。予兆検出回路73は、カウント再開条件が成立するとき、記憶回路73Bに格納されている総走行時間RTを読み出す。この総走行時間RTは、前回、車両電源がオフされるタイミングで記憶回路73Bに格納されたものである。予兆検出回路73は、記憶回路73Bから読み出した総走行時間RTをカウンタ73Aの初期値として設定する。この後、予兆検出回路73は、予兆検出の有無に関わらず、カウンタ73Aによる総走行時間RTの計測を再開する。
【0067】
予兆検出回路73は、カウンタ73Aにより計測される予兆検出後の総走行時間RTが第2の時間判定しきい値RT2を超えるとき(時刻T15)、報知装置80の報知レベルを第2の報知レベルD2から第3の報知レベルD3へ変更する。
【0068】
<第1の実施の形態の効果>
第1の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1-1)予兆検出回路73は、転舵ユニット30の円滑な動作を損なう異常の予兆を検出する。予兆検出回路73は、予兆が検出されることを契機として、車両の総走行時間RTを計測し、計測される総走行時間RTに基づき、予兆を報知するための処理を実行する。予兆検出回路73は、一度でも予兆を検出した状態で、車両電源がオフされた後に再びオンされたとき、予兆が再び検出されるかどうかにかかわらず、車両の総走行時間RTの計測を行う。すなわち、予兆検出回路73は、予兆が一度でも検出された状態で、車両電源がオフされた後に再びオンされたとき、予兆が再び検出されないときであれ、車両の総走行時間RTの計測を行う。このため、車両の総走行時間に応じて、適切に予兆を報知することができる。また、何らかの理由で、予兆が検出されないまま車両が継続して使用されること、ひいては車両の走行中に伝動機構35の円滑な動作を損なう異常が発生することを抑制することができる。
【0069】
(1-2)異常の予兆である事象B1~B3は、累積的あるいは不可逆的な事象に起因して発生するものである。累積的あるいは不可逆的な事象は、ベルト54の伸びあるいは摩耗、エンド当てに伴う伝動機構35のダメージの蓄積、ならびに、ボールねじ部32aおよびボールナット51の摩耗あるいは錆を含む。累積的あるいは不可逆的な事象に起因して発生する予兆だからこそ、車両の総走行時間RTに基づき予兆を適切に検出することができる。
【0070】
(1-3)予兆検出回路73は、車両電源がオフされるとき、車両の総走行時間RTを記憶する。この後、車両電源が再びオンされたとき、予兆検出回路73は、車両電源がオフされるタイミングで記憶した総走行時間RTを初期値として、総走行時間RTの計測を再開する。このため、予兆検出回路73は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆を最初に検出した時点からの車両の総走行時間RTに応じて、運転者に対して予兆を適切に報知することができる。
【0071】
(1-4)予兆検出回路73は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆を最初に検出した時点からの車両の総走行時間RTに応じて、報知装置80の報知レベルを変更する。たとえば、予兆検出回路73は、車両の総走行時間RTが増加するにつれて、報知装置80の報知レベルを上げる。このため、運転者に対して、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆を、より適切に報知することができる。たとえば、車両の総走行時間RTに応じて運転者に危機感を与えることができる。また、車両の総走行時間RTに応じて、運転者に車両の点検を行うよう促すことができる。
【0072】
<第2の実施の形態>
つぎに、転舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。このため、第1の実施の形態と同様の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0073】
図2に示すように、予兆検出回路73は、時計54Cを有している。時計54Cは、日時を計測する。
本実施の形態の予兆報知パターンは、つぎの通りである。
【0074】
図6のグラフに示すように、予兆検出回路73は、伝動機構35の円滑な動作を損なう異常の予兆が検出されることを契機として(時刻T11)、車両の総走行時間RTの計測を開始する。予兆検出回路73は、予兆が初めて検出されるとき、報知装置80の報知レベルを第1の報知レベルD1に設定する。
【0075】
予兆検出回路73は、カウンタ73Aにより計測される予兆検出後の総走行時間RTが第1の時間判定しきい値RT1を超えるとき(時刻T12)、報知装置80の報知レベルを第1の報知レベルD1から第2の報知レベルD2へ変更する。
【0076】
この後、車両電源がオフされるとき(時刻T13)、予兆検出回路73は、カウンタ73Aにより計測された予兆検出後の総走行時間RTを記憶回路73Bに格納する。予兆検出回路73は、カウンタ73Aの動作を停止する。また、予兆検出回路73は、タイムスタンプを記憶回路73Bに格納する。タイムスタンプは、車両電源がオフされるときの日時を示す。
【0077】
この後、車両電源が再びオンされた場合(時刻T14)、予兆検出回路73は、カウント再開条件が成立するとき、カウンタ73Aによる総走行時間RTの計測を再開する。カウント再開条件は、先の2つの条件(F1),(F2)を含む。
【0078】
予兆検出回路73は、カウント再開条件が成立するとき、記憶回路73Bから読み出した総走行時間RTをカウンタ73Aの初期値として設定する。この総走行時間RTは、前回、車両電源がオフされるタイミングで記憶回路73Bに格納されたものである。
【0079】
また、予兆検出回路73は、記憶回路73Bに格納されているタイムスタンプを読み出す。このタイムスタンプは、前回、車両電源がオフされるタイミングで記憶回路73Bに格納されたものである。予兆検出回路73は、記憶回路73Bから読み出したタイムスタンプと、現在のタイムスタンプとを比較する。
【0080】
予兆検出回路73は、次式(G1)に示すように、記憶回路73Bから読み出したタイムスタンプが示す日時DT1と、現在のタイムスタンプが示す日時DT2との差ΔDTの値を演算する。
【0081】
ΔDT=DT2-DT1 …(G1)
予兆検出回路73は、次式(G2)に示すように、差ΔDTの値が第3の時間判定しきい値DT3以上であるとき、カウンタ73Aの初期値を補正する。第3の時間判定しきい値DT3は、たとえば、伝動機構35の錆が進行するおそれがある程度の期間を基準として設定される。
【0082】
ΔDT≧DT3 …(G2)
予兆検出回路73は、差ΔDTの値が第3の時間判定しきい値DT3以上であるとき、定められた加算値をカウンタ73Aの初期値に加算する。このとき、最終的なカウンタ73Aの初期値RTは、次式(G3)で表される。
【0083】
RT=RTmem+RTadd …(G3)
「RTmem」は、記憶回路73Bから読み出した総走行時間RTであって、補正前のカウンタ73Aの初期値である。「RTadd」は、定められた加算値である。加算値RTmemは、定数であってもよいし、差ΔDTに比例して増加する変数であってもよい。また、加算値RTmemは、差ΔDTの値であってもよい。
【0084】
予兆検出回路73は、次式(G4)に示すように、記憶回路73Bから読み出したタイムスタンプが示す日時DT1と、現在のタイムスタンプが示す日時DT2との差ΔDTが、第3の時間判定しきい値DT3未満の時間であるとき、カウンタ73Aの初期値を補正しない。
【0085】
ΔDT<DT3 …(G4)
このとき、最終的なカウンタ73Aの初期値RTは、次式(G5)で表される。車両電源が再びオンされたときに記憶回路73Bから読み出された総走行時間RTが、そのまま最終的なカウンタ73Aの初期値RTとなる。
【0086】
RT=RTmem …(G5)
予兆検出回路73は、最終的なカウンタ73Aの初期値RTが決定した後、予兆検出の有無に関わらず、カウンタ73Aによる総走行時間RTの計測を再開する。
【0087】
予兆検出回路73は、カウンタ73Aにより計測される予兆検出後の総走行時間RTが第2の時間判定しきい値RT2を超えるとき(時刻T15)、報知装置80の報知レベルを第2の報知レベルD2から第3の報知レベルD3へ変更する。
【0088】
なお、カウンタ73Aの初期値が補正される場合、最終的なカウンタ73Aの初期値RTが、すでに第2の時間判定しきい値RT2を超えていることも考えられる。この場合、総走行時間RTの計測再開後、即時に報知装置80の報知レベルが第2の報知レベルD2から第3の報知レベルD3へ変更される。
【0089】
<第2の実施の形態の効果>
第2の実施の形態は、先の第1の実施の形態の(1-1)欄~(1-4)欄の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0090】
(2-1)車両電源が長期にわたってオフされる場合、車両電源がオフされている期間中に伝動機構35の状態が悪化するおそれがある。たとえば、車両電源がオフされる前に、伝動機構35の錆に起因して先の事象B3が検出されていた場合、車両電源がオフされている期間であれ錆が進行することが考えられる。このことを考慮して、予兆検出回路73は、車両電源がオフされていた期間に応じて、カウンタ73Aの初期値RTを増加させる。このため、車両電源がオフされている期間の伝動機構35の状態悪化を考慮して、より迅速に予兆を報知することができる。
【0091】
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・製品仕様によっては、転舵制御装置50は、車両に搭載される上位の制御装置が演算する目標転舵角に基づき、転舵モータ33の目標回転角を演算することがあってもよい。
【0092】
・報知装置80の報知レベルは、3段階に限らない。報知レベルは、2段階であってもよいし、4段階以上であってもよい。報知レベルごとの報知動作は、製品仕様などに応じて、適宜変更してもよい。また、報知装置80の報知レベルは、1段階であってもよい。このようにしても、先の(1-1)欄、(1-2)欄、(1-3)欄、および(2-1)欄に記載の効果を得ることができる。
【0093】
・伝動機構35は、ベルト伝動機構およびボールねじ機構に代えて、たとえばウォーム減速機およびラックアンドピニオン機構を有するものであってもよい。
・転舵制御装置50は、伝動機構35などの機械的な異常の予兆に限らず、転舵モータ33を動作させるための電気回路などの電気的な異常の予兆を報知するようにしてもよい。たとえば、転舵モータ33は、2系統の巻線を有していてもよい。転舵制御装置50は、第1系統回路および第2系統回路を有する。各系統回路は、転舵モータ33を動作させるための電気回路であって、制御回路およびモータ駆動回路を含む。転舵制御装置50は、転舵モータ33の駆動モードとして、協調駆動モードおよび片系統駆動モードを有する。協調駆動モードは、各系統回路が正常に動作している通常時の駆動モードである。片系統駆動モードは、第1系統回路または第2系統回路の異常が確定し、正常動作へ復帰する可能性がない場合の駆動モードである。たとえば、第1系統回路の異常が確定したとき、第2系統回路のみで転舵モータ33にトルクを発生させる。この構成を前提として、転舵制御装置50は、転舵モータ33の駆動モードが協調駆動モードから片系統駆動モードへ遷移することを契機として、車両の総走行時間RTの計測を開始する。転舵制御装置50は、車両の総走行時間RTに応じて、片系統駆動モードを転舵モータ33の動作を損なう異常の予兆として報知する。
【0094】
・操舵装置10は、クラッチを有していてもよい。この場合、ステアリングシャフト21は、クラッチを介して、ピニオンシャフト61に連結される。クラッチは、たとえば励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチである。
【0095】
・操舵装置10は、電動パワーステアリング装置であってもよい。電動パワーステアリング装置は、たとえば転舵シャフト32にアシスト力を付与する。アシスト力は、ステアリングホイール11の操舵を補助するための力である。ステアリングシャフト21は、ピニオンシャフト61に対して一体回転可能に連結される。
【符号の説明】
【0096】
12…転舵輪
30…転舵ユニット(転舵装置)
32…転舵シャフト
33…転舵モータ
35…伝動機構
50…転舵制御装置
73…予兆検出回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6