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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110557
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】自動操舵システム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230802BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20230802BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230802BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230802BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
A01B69/00 303M
B62D101:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012083
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】林田 淳一
【テーマコード(参考)】
2B043
3D232
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB20
2B043BA02
2B043BB01
2B043DA04
2B043DA17
2B043EA03
2B043EA04
2B043EA32
2B043EB05
2B043EB08
2B043EC12
2B043EC14
2B043EC16
2B043ED02
2B043ED12
2B043EE01
2B043EE05
2B043EE06
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA23
3D232DA25
3D232DA33
3D232DA87
3D232DB20
3D232DC11
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD17
3D232EB04
3D232EC22
3D232EC34
3D232GG12
(57)【要約】
【課題】自動操舵システムにおいて、前輪の舵角を機械的に検出する前輪舵角検出機構を不要とする。
【解決手段】測位システムが計測した走行機体1の位置及び方位に基づいて操舵ユニットを制御する操舵ユニットECUを備える自動操舵システムであって、操舵ユニットECUは、測位システムが計測した走行機体の位置及び方位の変化量に基づいて走行機体の車速V及び角速度ωを算出し、且つ算出した車速V及び角速度ωに基づいて走行機体の推定舵角φを算出する推定舵角算出手段を備え、推定舵角算出手段が算出した推定舵角φを使用して操舵ユニットをフィードバック制御する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの動力で車両を操舵する操舵ユニットと、
前記車両の位置及び方位を計測する位置・方位計測手段と、
前記位置・方位計測手段が計測した前記車両の位置及び方位に基づいて前記操舵ユニットを制御する制御部と、を備える自動操舵システムであって、
前記制御部は、前記位置・方位計測手段が計測した前記車両の位置及び方位の変化量に基づいて前記車両の車速及び角速度を算出し、且つ算出した前記車速及び前記角速度に基づいて前記車両の推定舵角を算出する推定舵角算出手段を備え、前記推定舵角算出手段が算出した前記推定舵角を使用して前記操舵ユニットをフィードバック制御することを特徴とする自動操舵システム。
【請求項2】
前記車両の機体姿勢を検出する機体姿勢検出手段を更に備え、
前記推定舵角算出手段は、前記機体姿勢検出手段の検出値に基づいて前記推定舵角を補正することを特徴とする請求項1に記載の自動操舵システム。
【請求項3】
前記車両を操舵するステアリングハンドルの操作角度を検出するハンドル角度検出手段を更に備え、
前記制御部は、前記車速が所定速度よりも速いとき、前記推定舵角算出手段が算出した前記推定舵角を使用して前記操舵ユニットをフィードバック制御し、前記車速が所定速度よりも遅いとき、前記ハンドル角度検出手段が検出した前記ステアリングハンドルの前記操作角度を使用して前記操舵ユニットをフィードバック制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動操舵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両などに搭載される自動操舵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータの動力で車両を操舵する操舵ユニットと、車両の位置及び方位を計測する位置・方位計測手段と、位置・方位計測手段が計測した車両の位置及び方位に基づいて操舵ユニットを制御する制御部と、を備える自動操舵システムが知られている。例えば、特許文献1には、前輪の舵角を機械的に検出し、検出した前輪の舵角を使用して操舵ユニットをフィードバック制御する自動操舵システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-8650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にように、前輪の舵角を機械的に検出する場合、機種毎に専用の前輪舵角検出機構が必要になるため、コストが上昇するだけでなく、適応機種が制限されるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、アクチュエータの動力で車両を操舵する操舵ユニットと、前記車両の位置及び方位を計測する位置・方位計測手段と、前記位置・方位計測手段が計測した前記車両の位置及び方位に基づいて前記操舵ユニットを制御する制御部と、を備える自動操舵システムであって、前記制御部は、前記位置・方位計測手段が計測した前記車両の位置及び方位の変化量に基づいて前記車両の車速及び角速度を算出し、且つ算出した前記車速及び前記角速度に基づいて前記車両の推定舵角を算出する推定舵角算出手段を備え、前記推定舵角算出手段が算出した前記推定舵角を使用して前記操舵ユニットをフィードバック制御することを特徴とする。
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の自動操舵システムであって、前記車両の機体姿勢を検出する機体姿勢検出手段を更に備え、前記推定舵角算出手段は、前記機体姿勢検出手段の検出値に基づいて前記推定舵角を補正することを特徴とする。
また、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の自動操舵システムであって、前記車両を操舵するステアリングハンドルの操作角度を検出するハンドル角度検出手段を更に備え、前記制御部は、前記車速が所定速度よりも速いとき、前記推定舵角算出手段が算出した前記推定舵角を使用して前記操舵ユニットをフィードバック制御し、前記車速が所定速度よりも遅いとき、前記ハンドル角度検出手段が検出した前記ステアリングハンドルの前記操作角度を使用して前記操舵ユニットをフィードバック制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、前輪の舵角を機械的に検出する前輪舵角検出機構が不要になるため、部品点数や組付工数を削減して大幅なコストの削減を実現できるだけでなく、多様な機種に適応可能な汎用性の高い自動操舵システムを提供することが可能になる。
また、請求項2の発明によれば、機体姿勢検出手段の検出値に基づいて推定舵角を補正するので、推定舵角の算出精度を高め、操舵ユニットの制御精度を向上させることができる。
また、請求項3の発明によれば、車速が所定速度よりも速いとき、推定舵角算出手段が算出した推定舵角を使用して操舵ユニットをフィードバック制御し、車速が所定速度よりも遅いとき、ハンドル角度検出手段が検出したステアリングハンドルの操作角度を使用して操舵ユニットをフィードバック制御するので、推定舵角の算出精度が低下しやすい低速走行時でも操舵ユニットを適切にフィードバック制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】トラクタの側面図である。
図2】RTK-GNSS受信装置を示すトラクタの要部斜視図である。
図3】自動操舵システムの構成を示すブロック図である。
図4】推定舵角算出手段の構成を示すブロック図である。
図5】自動操舵制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はトラクタ(車両)の走行機体であって、該走行機体1は、エンジン(図示せず)が搭載されるエンジン搭載部2と、エンジン動力を変速し、走行動力及び作業動力として出力するミッションケース3と、ミッションケース3が出力する走行動力で駆動され、かつ、ステアリングハンドル4の操作に応じて操舵される前輪5と、ミッションケース3が出力する走行動力で駆動される後輪6と、作業者が乗車する操縦部7と、各種の作業機(図示せず)を昇降自在に連結可能な作業機連結部8と、を備える。
【0009】
操縦部7は、作業者が座る運転席9を備え、該運転席9の周辺には、前述したステアリングハンドル4を含む各種の操作具が配置されている。ステアリングハンドル4には、自動操舵システムS(図3参照)の構成要素である操舵ユニット10が連結されている。
【0010】
操舵ユニット10は、ステアリングハンドル4の手動操作に代えて、ステアリングハンドル4をモータ動力で回転操作する自動操作ユニットであり、図3に示すように、伝動部11を介してステアリングハンドル4に連結され、モータ動力でステアリングハンドル4を回転操作するステッピングモータ12(アクチュエータ)と、ステッピングモータ12を制御する操舵ユニットECU13(制御部)と、ステアリングハンドル4の操作角度を検出する操舵角センサ14(ハンドル角度検出手段)と、操舵ユニット10の各種操作を行う操作スイッチ15と、操舵ユニット10の各種状態を表示するLEDランプ16と、を備える。
【0011】
図1及び図2に示すように、操縦部7の屋根部20には、走行機体1の位置及び方位を計測する測位システム21(位置・方位計測手段)の構成要素であるRTK-GNSS受信装置22が取付けられている。本実施形態の測位システム21としては、数cmの誤差で高精度な測位が可能なRTK-GNSS測位システムが採用される。RTK-GNSS測位システムは、固定設置された固定局と、移動する移動局とのそれぞれで、GPSなどのGNSS測位を行い、固定局から移動局に送信される補正信号でリアルタイムに測位データを補正することで、誤差数cmの高精度な測位を実現するものである。また、移動局に所定の間隔をあけて2つのGNSSアンテナを設置すれば、移動局の絶対位置だけでなく、2つの測位結果に基づいて、移動局の進行方向(方位)も高精度に検出することが可能になる。
【0012】
具体的に説明すると、測位システム21は、図3に示すように、操舵ユニット10とともに自動操舵システムSを構成しており、本実施形態の測位システム21には、RTK-GNSS測位システムの移動局として走行機体1に設けられるRTK-GNSS受信装置22と、RTK-GNSS測位システムの固定局として適所に固定設置されるRTK固定局23と、が含まれる。
【0013】
RTK-GNSS受信装置22は、RTK-GNSS測位を実行する制御ユニットであるGNSSコントローラ24と、車幅方向に所定の間隔をあけて取付けられる位置計測用のGNSSアンテナ25及び方位計測用のGNSSアンテナ26と、GNSS衛星から位置計測用のGNSSアンテナ25を介してGNSS信号を受信する位置計測用のGNSS受信機27と、GNSS衛星から方位計測用のGNSSアンテナ26を介してGNSS信号を受信する方位計測用のGNSS受信機28と、RTK固定局23から無線アンテナ29を介して補正信号を受信する特定小電力無線機30と、加速度センサ及びジャイロセンサを用いて走行機体1の姿勢を検出する慣性計測装置31と、RTK-GNSS受信装置22の各種状態を表示する7セグメントディスプレイ32と、を備える。
【0014】
GNSSコントローラ24は、RTK-GNSS測位により取得した位置データ及び方位データと、慣性計測装置31が検出した機体姿勢データと、RTK-GNSS測位のステータス情報を所定の出力先に出力する。第1の出力先は、前述した操舵ユニット10であり、CANなどの有線通信手段を介して送信される。また、第2の出力先は、ナビゲーション表示などを行うタブレット端末32であり、近距離無線機33を介して送信される。
【0015】
RTK固定局23は、GNSSアンテナ34と、GNSS衛星からGNSSアンテナ34を介して補正用のGNSS信号を受信するGNSS受信機35と、無線アンテナ36を介してRTK-GNSS受信装置22に補正用のGNSS信号を送信する特定小電力無線機37と、RTK-GNSS受信装置22及び特定小電力無線機37に電力を供給するバッテリ38と、を備える。
【0016】
操舵ユニット10の操舵ユニットECU13は、自動操舵システムSのメイン制御部として機能する。操舵ユニットECU13は、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される機能的な構成として、自動操舵制御手段及び推定舵角算出手段を備える。
【0017】
自動操舵制御手段は、予め演算された所定方向の目標ラインに沿って走行するように走行機体1を自動的に操舵する自動制御機能である。目標ラインは、例えば、最初の作業行程である基準ラインの始点位置で第1の登録スイッチ(図示せず)を操作して始点の測位データを登録するとともに、基準ラインの終点位置で第2の登録スイッチ(図示せず)を操作して終点の測位データを登録すると自動的に演算される。具体的には、基準ラインと平行で、かつ等間隔(作業幅間隔)に並列する複数の目標ラインが演算される。
【0018】
自動操舵制御手段は、演算した目標ラインのうち最も走行機体1に近い目標ラインの座標データと、測位システム21による走行機体1の測位データに基づいて、目標ラインに対する走行機体1の誤差を演算するとともに、誤差に基づいて指示舵角を演算し、該指示舵角を目標としてステッピングモータ12を制御することにより、走行機体1を目標ラインに沿って走行させる。また、指示舵角を目標としてステッピングモータ12を制御する際には、現在の検出舵角(推定舵角)をフィードバックしつつ、現在の検出舵角と指示舵角との差分に応じてステッピングモータ12の回転方向、回転量、回転速度などを制御するフィードバック制御が実行される。
【0019】
推定舵角算出手段は、測位システム21が計測した走行機体1の位置データ及び方位データの変化量に基づいて走行機体1の車速V及び角速度ωを算出し、且つ算出した車速V及び角速度ωに基づいて走行機体1の推定舵角φを算出する。推定舵角φの算出には、例えば、下記に示す計算式(図4の推定舵角計算式52)を用いることができる。ただし、Lは走行機体1のホイールベースである。
φ=tan-1(L・2πω/V)
【0020】
このような推定舵角算出手段によれば、前輪5の舵角を機械的に検出する前輪舵角検出機構が不要になるため、部品点数や組付工数を削減して大幅なコストの削減を実現できるだけでなく、多様な機種に適応可能な汎用性の高い自動操舵システムSを提供できる。
【0021】
また、本実施形態の推定舵角算出手段は、慣性計測装置31の検出値に基づいて推定舵角φを補正する。例えば、図4に示すように、方位データの変化量と、慣性計測装置31の検出値(ジャイロセンサのヨー方向の角速度値)を相補フィルタ51に入力し、その出力値を角速度ωとして推定舵角計算式52に代入する。相補フィルタ51は、例えば、ローパスフィルタを通した方位データの変化量と、ハイパスフィルタを通したジャイロセンサ値とを所定の割合で合成して角速度ωとする。
【0022】
このような推定舵角φの補正によれば、ローパスフィルタによって中周波~高周波のノイズ成分を除去した方位データの変化量と、ハイパスフィルタによって累積ドリフト成分を除去したジャイロセンサ値とに基づいて角速度ωを高精度に特定し、推定舵角φの算出精度が高められる。
【0023】
また、本実施形態の推定舵角算出手段は、車速Vが所定の速度閾値(例えば、0.1m/sec)よりも速いとき、推定舵角計算式52で算出した推定舵角φを出力し、車速Vが所定の速度閾値よりも遅いとき、操舵角センサ14が検出したステアリングハンドル4の操作角度を推定舵角φとして出力する。例えば、図4に示すように、NG判定部53において車速Vと速度閾値との比較を行い、その結果に応じて出力選択部54が出力する推定舵角φを切り換える。
【0024】
このような推定舵角算出手段によれば、測位システム21による車速(GPS速度)の検出精度や車速変動などに起因し、推定舵角φの算出精度が低下しやすい低速走行時であっても、操舵角センサ14の検出値を推定舵角φとすることで、操舵ユニット10を適切にフィードバック制御することができる。
【0025】
なお、上記の例では、車速Vが所定の速度閾値(例えば、0.1m/sec)よりも速いとき、推定舵角計算式52で算出した推定舵角φを出力し、車速Vが所定の速度閾値よりも遅いとき、操舵角センサ14が検出したステアリングハンドル4の操作角度を推定舵角φとして出力するが、車速Vが所定の第1速度閾値(例えば、0.4m/sec)よりも速いとき、推定舵角計算式52で算出した推定舵角φを出力し、車速Vが所定の第2速度閾値(例えば、0.1m/sec)よりも遅いとき、操舵角センサ14が検出したステアリングハンドル4の操作角度を推定舵角φとして出力し、車速Vが所定の第1速度閾値よりも遅く、かつ所定の第2速度閾値よりも速いとき、推定舵角計算式52で算出した推定舵角φと操舵角センサ14が検出したハンドル操作角度φ’との混成値αを推定舵角φとして出力する変形例としてもよい。この混成値αの算出には、例えば、下記の計算式を用いることができる。ただし、Kは、速度に応じて「0~1」の範囲で段階的又は無段階に変化する係数であり、例えば、車速Vが第2速度閾値のとき「0」、車速Vが第1速度閾値のとき「1」とする。
α=Kφ+(1-K)φ’
【0026】
このような変形例によれば、操舵角センサ14が検出したハンドル操作角度φ’のみでは、正確性が足りず、頻繁に構成が必要となり、かつ、推定舵角計算式52で算出した推定舵角φのみでは、推定舵角φの算出精度が十分ではない車速域においても、操舵ユニット10を適切にフィードバック制御することができる。また、係数Kは、車速Vの増加に応じて大きくなるので、推定舵角φの算出精度の上昇に応じて推定舵角φの混成割合を増加させることができる。
【0027】
また、本実施形態の推定舵角算出手段は、RTK-GNSS測位のステータス情報に基づいてRTK-GNSS測位の動作不良を判断し、動作不良であると判断したとき、操舵角センサ14が検出したステアリングハンドル4の操作角度を推定舵角φとして出力する。例えば、図4に示すように、NG判定部53においてRTK-GNSS測位の動作不良を判断し、その結果に応じて出力選択部54が出力する推定舵角φを切り換える。
【0028】
このような推定舵角算出手段によれば、RTK-GNSS測位の動作不良時であっても、操舵角センサ14の検出値を推定舵角φとすることで、操舵ユニット10を適切にフィードバック制御することができる。なお、図4において、55は算出した推定舵角φの中周波~高周波のノイズ成分を除去するローパスフィルタである。
【0029】
つぎに、上記のような自動操舵制御手段及び推定舵角算出手段を含む操舵ユニットECU13の具体的な処理手順(自動操舵制御)について、図5を参照して説明する。
【0030】
図5に示すように、操舵ユニットECU13は、自動操舵制御において、まず、RTK-GNSS受信装置22から走行機体1の位置データ、方位データ、機体姿勢データ及び測位ステータ情報を入力した後(S1)、目標ラインに対する走行経路の誤差を算出するとともに(S2)、この誤差を解消可能な指示舵角を算出する(S3)。
【0031】
つぎに、操舵ユニットECU13は、測位ステータス情報に基づいてRTK-GNSS測位の動作状態が正常であるか否か判断するとともに(S4)、現在の車速Vが車速閾値よりも速いか否かを判断する(S5)。操舵ユニットECU13は、ステップS4、S5の判断結果がいずれもYESの場合は、前述した推定舵角計算式52で推定舵角φを算出し(S6)、この推定舵角φを使用して操舵ユニット10(ステッピングモータ12)をフィードバック制御する(S7)。また、操舵ユニットECU13は、ステップS4、S5のうち、少なくともいずれかの判断結果がNOの場合は、操舵角センサ14の検出値を取得し(S8)、この検出値を推定舵角φとして使用して操舵ユニット10をフィードバック制御する(S9)。
【0032】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、モータ動力で走行機体1を操舵する操舵ユニット10と、走行機体1の位置及び方位を計測する測位システム21と、測位システム21が計測した走行機体1の位置及び方位に基づいて操舵ユニット10を制御する操舵ユニットECU13と、を備える自動操舵システムSであって、操舵ユニットECU13は、測位システム21が計測した走行機体1の位置及び方位の変化量に基づいて走行機体1の車速V及び角速度ωを算出し、且つ算出した車速V及び角速度ωに基づいて走行機体1の推定舵角φを算出する推定舵角算出手段を備え、推定舵角算出手段が算出した推定舵角φを使用して操舵ユニット10をフィードバック制御するので、前輪5の舵角を機械的に検出する前輪舵角検出機構が不要になる。その結果、部品点数や組付工数を削減して大幅なコストの削減を実現できるだけでなく、多様な機種に適応可能な汎用性の高い自動操舵システムSを提供することが可能になる。
【0033】
また、自動操舵システムSは、走行機体1の機体姿勢を検出する慣性計測装置31を更に備え、推定舵角算出手段は、慣性計測装置31の検出値に基づいて推定舵角φを補正するので、推定舵角φの算出精度を高め、操舵ユニット10の制御精度を向上させることができる。
【0034】
また、自動操舵システムSは、走行機体1を操舵するステアリングハンドル4の操作角度を検出する操舵角センサ14を更に備え、操舵ユニットECU13は、車速Vが所定速度よりも速いとき、推定舵角算出手段が算出した推定舵角φを使用して操舵ユニット10をフィードバック制御し、車速Vが所定速度よりも遅いとき、操舵角センサ14が検出したステアリングハンドル4の操作角度を推定舵角φとして操舵ユニット10をフィードバック制御するので、推定舵角φの算出精度が低下しやすい低速走行時でも操舵ユニット10を適切にフィードバック制御することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは勿論であり、変更及び追加が可能である。例えば、上記実施形態の推定舵角算出手段は、操舵ユニットを制御する操舵ユニットECUの機能構成としているが、操舵ユニットの外部に設けられる制御装置の機能構成としてもよい。この場合、制御装置が算出した推定舵角を操舵ユニットに入力する必要があるが、入力先の操舵ユニットが、前輪舵角センサ(例えば、ポテンショメータ)の接続コネクタを備える既存の操舵ユニットである場合は、算出した推定舵角を前輪舵角センサの検出値に対応するアナログ電圧値に変換する処理を行うことで、既存の操舵ユニットを使用することも可能になる。
【0036】
また、上記実施形態では、測位システムにより検出した位置データ、方位データ及び機体姿勢データのノイズを除去するために、ローパスフィルタやハイパスフィルタを使用しているが、突発的な変動が生じやすい車両(例えば、田植機)に適用する場合は、検出値の上限及び下限を設定し、突発的な検出値の揺れを排除するようにしてもよい。
【0037】
また、測位システムを使用した自動操舵制御では、測位システムの動作状況に応じて直進性に乱れが生じる可能性があるが、このような直進性の乱れを抑制する手段を設けてもよい。例えば、通信状況に応じてRTK補正信号の有無が切り換わり、直進性が乱れる可能性がある場合は、RTK補正信号の有無による誤差に応じて目標ラインや目標方位を変更することで、直進性の乱れを抑制することができる。
【符号の説明】
【0038】
S 自動操舵システム
1 走行機体
4 ステアリングハンドル
5 前輪
10 操舵ユニット
12 ステッピングモータ
13 操舵ユニットECU
14 操舵角センサ
21 測位システム
22 GNSS受信装置
23 RTK固定局
31 慣性計測装置
51 相補フィルタ
52 推定舵角計算式
53 NG判定部
54 出力選択部
図1
図2
図3
図4
図5