IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロボフューチャー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-リフト装置 図1
  • 特開-リフト装置 図2
  • 特開-リフト装置 図3
  • 特開-リフト装置 図4
  • 特開-リフト装置 図5
  • 特開-リフト装置 図6
  • 特開-リフト装置 図7
  • 特開-リフト装置 図8
  • 特開-リフト装置 図9
  • 特開-リフト装置 図10
  • 特開-リフト装置 図11
  • 特開-リフト装置 図12
  • 特開-リフト装置 図13
  • 特開-リフト装置 図14
  • 特開-リフト装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110568
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】リフト装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 7/14 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
A61G7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012099
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】516096380
【氏名又は名称】ロボフューチャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】木原 由光
【テーマコード(参考)】
4C040
【Fターム(参考)】
4C040AA08
4C040EE05
4C040HH02
4C040JJ03
4C040JJ08
(57)【要約】
【課題】 リフト使用による移動介助にあたり、介護者が被介護者の介助作業と並行してリフトを操作する必要がなく、介助を無理なく実行可能なリフト装置を提供する。
【解決手段】 制御部14が、第一の介護器具に支持された被介護者を吊り上げ機構11の作動により上昇させ、一時停止を経つつ上昇を継続させ、リフトのみで被介護者を支持した状態に到達すると、パワーアシスト制御状態に移行し、パワーアシスト制御下で第二の介護器具上方へ被介護者を移動可能とした後、介護者の操作による被介護者の下降を許容し、さらに吊り上げ機構11で自動的に被介護者を下降させ、被介護者を第二の介護器具のみで支持された状態に到達させるようにして、被介護者の移動と並行する介護者の何らかの操作手段による操作を要しないことから、移動介助の各状況で、介護者が両手を介護者に添える介助姿勢をとれるなど介助に専念でき、被介護者の安全性を確保できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体フレームと、当該本体フレームに設けられて被介護者を乗せた吊り具を吊して上げ下げする吊り上げ機構と、当該吊り上げ機構に加わる荷重を検出する検出手段と、前記吊り上げ機構の作動制御を行う制御部とを備え、当該制御部が、前記検出手段で検出された荷重に基づいて、被介護者に加わった介護者からの介助力を求め、得られた介助力に応じて前記吊り上げ機構を作動させるパワーアシスト制御を実行可能とされ、所定の第一の介護器具から第二の介護器具へ被介護者を移動可能とする、介護用のリフト装置において、
前記制御部に対し所定の制御指示を与える自動制御スイッチが少なくとも含まれる、一又は複数のスイッチを有する操作部をさらに備えてなり、
前記制御部が、
前記自動制御スイッチへの初回操作入力を受けると、上移動制御モードとして、前記第一の介護器具上に位置する被介護者に対し、前記吊り上げ機構を作動させて、被介護者を乗せた吊り具を上昇させ、上昇の途中で一又は複数回、吊り上げ機構の作動を中断させて上昇を一時停止させつつ、被介護者の上昇を継続させ、
上昇による被介護者の前記第一の介護器具からの離隔状態への遷移に伴い、検出手段で検出される荷重が増加せず変化しない状態が所定時間継続すると、吊り上げ機構による吊り具の上昇を停止させて前記上移動制御モードを終了し、自動的に又は所定のスイッチへの操作入力を受けて、吊り上げ機構を前記パワーアシスト制御状態に移行させ、
パワーアシスト制御状態で、前記自動制御スイッチへの新たな操作入力を受けると、下移動制御モードとして、被介護者に加えられた下向きの介助力に応じたパワーアシスト制御による被介護者の下降を許容し、さらに、被介護者の下降の進行に伴い前記検出手段で検出される荷重が所定値まで減少すると、介助力に依らずに吊り上げ機構を作動させて被介護者を自動的に下降させる状態に移行し、
下降による被介護者の前記第二の介護器具に支えられる状態への遷移に伴い、検出手段で検出される荷重が減少せず変化しない状態が所定時間継続すると、吊り上げ機構の作動を停止させ、前記下移動制御モードを終了することを
特徴とするリフト装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載のリフト装置において、
前記制御部が、前記上移動制御モードにおける被介護者の上昇の一時停止を、前記検出手段での荷重検出値があらかじめ設定された所定の基準値に達した際に実行することを
特徴とするリフト装置。
【請求項3】
前記請求項2に記載のリフト装置において、
前記制御部が、前記上移動制御モードにおける被介護者の上昇を一時停止させるタイミングに係る荷重検出値の基準値を、あらかじめ検出された被介護者の体重に基づいて設定することを
特徴とするリフト装置。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれかに記載のリフト装置において、
前記制御部が、パワーアシスト制御状態で、且つ、介護者が被介護者に対する介助操作を行わず、吊り上げ機構を作動させていない状況で、自動制御スイッチへの操作入力を受けると、下移動制御モードに移行することを
特徴とするリフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被介護者を吊り上げて、ベッド等の介護器具から車椅子等の別の介護器具への被介護者の移動(移乗)の介助を行う介護用のリフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
介護の現場において、介護者が被介護者を抱え上げる作業を補助する介護用のリフト装置は、介護者の作業負担を減らすことで介護者の腰痛予防に効果がある。こうした介護用のリフト装置を活用して介護者が被介護者を抱え上げる作業をなくすなど介護環境を改善し、介護人材の確保を進めやすくする動きが近年見られるようになっている。
【0003】
このような従来の介護用のリフト装置の一例として、特許第2998843号公報に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2998843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のリフト装置は、前記特許文献に示されるように、リフト本体に設けられる操作部を操作することで、駆動機構を作動させ、被介護者を移動させる仕組みとなっている。
こうした従来のリフト装置では、一人の介護者が被介護者の近傍でその被介護者に対し、リフト装置による被介護者の移動に係る介助作業を行いながら、同時にリフト装置の操作を行えるようにするために、操作用のリモートスイッチ(リモコン)が採用される例も多かった。
【0006】
介護者は、このようなリモートスイッチによるリフト装置の操作使用にあたり、被介護者の安全に細心の注意を払いながら介助作業とリモートスイッチ操作を行わなければならない。
【0007】
リフト装置を介護現場において使用する場合、介護者は、被介護者の周囲を何度も移動しながら、安全を確かめた上でリモートスイッチへの操作を行ってリフト装置を動かすこととなる。しかし、リモートスイッチがリフト本体と有線接続される場合、リモートスイッチとリフト本体との間に接続コードが存在することから、接続コードの一部が被介護者の周囲の機器や被介護者本人に絡んだり、被介護者の体の下に敷き込まれることが起り得る。このような場合、本来の長さ分伸ばして使用できない接続コードが制約となってリモートスイッチの可動範囲が狭くなり、リモートスイッチを操作しにくくなるだけでなく、接続コードに強いストレスが加わり、接続コードの断線に繋がるおそれがあるという課題を有していた。
【0008】
また、リフト装置で被介護者をベッドや車椅子等の介護器具に対し昇降させる際、本来は介護者が被介護者を両手で支えながら、揺れ、体幹傾き、腕の巻き込み、ベルトの掛けはずれ、落下などが生じないよう注意を払うのが望ましい。しかし、リモートスイッチを使用する場合、実際には、一方の手でリモートスイッチを操作するため、他方の手のみ、すなわち片手で被介護者を支えることになる。リモートスイッチを使用する場合、介護者がより一層注意を払わなければならない状況となることで、介護者にとって難易度の高い作業となり、介護者がリフト使用を敬遠する事態を招きやすいという課題を有していた。加えて、介護者が片手で被介護者を支える状態は、被介護者に不安感を与えるおそれがあった。
【0009】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、リフト使用による被介護者の移動の介助にあたり、介護者が被介護者の介助作業を行いながら並行してリフトを操作する必要がなく、被介護者の移動の介助を無理なく実行可能な、リフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の開示に係るリフト装置は、移動可能な本体フレームと、当該本体フレームに設けられて被介護者を乗せた吊り具を吊して上げ下げする吊り上げ機構と、当該吊り上げ機構に加わる荷重を検出する検出手段と、前記吊り上げ機構の作動制御を行う制御部とを備え、当該制御部が、前記検出手段で検出された荷重に基づいて、被介護者に加わった介護者からの介助力を求め、得られた介助力に応じて前記吊り上げ機構を作動させるパワーアシスト制御を実行可能とされ、所定の第一の介護器具から第二の介護器具へ被介護者を移動可能とする、介護用のリフト装置において、前記制御部に対し所定の制御指示を与える自動制御スイッチが少なくとも含まれる、一又は複数のスイッチを有する操作部をさらに備えてなり、前記制御部が、前記自動制御スイッチへの初回操作入力を受けると、上移動制御モードとして、前記第一の介護器具上に位置する被介護者に対し、前記吊り上げ機構を作動させて、被介護者を乗せた吊り具を上昇させ、上昇の途中で一又は複数回、吊り上げ機構の作動を中断させて上昇を一時停止させつつ、被介護者の上昇を継続させ、上昇による被介護者の前記第一の介護器具からの離隔状態への遷移に伴い、検出手段で検出される荷重が増加せず変化しない状態が所定時間継続すると、吊り上げ機構による吊り具の上昇を停止させて前記上移動制御モードを終了し、自動的に又は所定のスイッチへの操作入力を受けて、吊り上げ機構を前記パワーアシスト制御状態に移行させ、パワーアシスト制御状態で、前記自動制御スイッチへの新たな操作入力を受けると、下移動制御モードとして、被介護者に加えられた下向きの介助力に応じたパワーアシスト制御による被介護者の下降を許容し、さらに、被介護者の下降の進行に伴い前記検出手段で検出される荷重が所定値まで減少すると、介助力に依らずに吊り上げ機構を作動させて被介護者を自動的に下降させる状態に移行し、下降による被介護者の前記第二の介護器具に支えられる状態への遷移に伴い、検出手段で検出される荷重が減少せず変化しない状態が所定時間継続すると、吊り上げ機構の作動を停止させ、前記下移動制御モードを終了するものである。
【0011】
このように本発明の開示によれば、第一の介護器具から離れて第二の介護器具に移る被介護者の移動に係る移動介助に際し、まず制御部が上移動制御モードとして、第一の介護器具に支持された被介護者を吊り上げ機構の作動により上昇させ、一又は複数回の一時停止を経つつ被介護者の上昇を継続させ、リフト装置のみで被介護者を適切に支持した状態に到達すると、パワーアシスト制御状態に移行し、パワーアシスト制御下で第二の介護器具上方へ移動後、制御部が下移動制御モードに移行して、パワーアシスト制御下での介護者の介助による被介護者の第二の介護器具に向う下降を許容し、さらに被介護者の一部が第二の介護器具で支持されて吊り上げ機構で支える荷重の減少状態が所定割合に達すると、自動下降状態に移行して被介護者をさらに下降させ、被介護者を第二の介護器具のみで支持された状態に到達させるようにして、被介護者の上下移動を行わせる吊り上げ機構を作動させるために、介護者等が機構に対し何らかの操作手段を用いての、被介護者の移動と並行して行う操作を要しないことにより、吊り上げ機構の補助の下で介護者がわずかな力で被介護者を直接上下に動かせるパワーアシスト制御状態に至るまでの、被介護者を第一の介護器具から上昇させる過程や、パワーアシスト制御状態から被介護者を移動先の第二の介護器具へ到達させる過程で、介護者が被介護者の移動に係る介助を行いつつ、同時に吊り上げ機構に対しこれを作動させるための操作を行わずに済むこととなり、被介護者の移動に際して介助が必要な各状況で、介護者が両手を被介護者に添える介助姿勢をとれるなど介助に専念でき、被介護者の移動における安全性を確保できる。
【0012】
また、第一の介護器具から被介護者を上昇させる途中で一時停止を行って、被介護者が移動しない状況を生じさせることにより、被介護者やその周辺に対し支障なく作業を行える機会を介護者に与えられ、この一時停止の間に、介護者が、例えば被介護者の吊り具での支持状態について、それまでの移動を経て明らかになった問題点の修正等を行うようにすれば、被介護者を不適切な支持状態に留めたまま移動を継続して被介護者に悪影響が及ぶ事態に陥ることを防止できる。
【0013】
また、本発明の開示に係るリフト装置は、前記制御部が、前記上移動制御モードにおける被介護者の上昇の一時停止を、前記検出手段での荷重検出値があらかじめ設定された所定の基準値に達した際に実行するものである。
【0014】
このように本発明の開示によれば、制御部の上移動制御モードで、吊り上げ機構による被介護者の上昇を一時停止させるタイミングを、検出手段で検出した荷重があらかじめ設定された基準値に達した時点とし、上昇に伴って荷重検出値の増大する変化に基づいて上昇を一時停止させることにより、適切な基準値、例えば、被介護者が少し上昇してリフト装置と第一の介護器具の両方に支持されている状態における荷重検出値に相当する値、を設定すれば、吊り具に被介護者の体重が加わる度合いが少なすぎて、吊り具での被介護者の支持状態の問題点がまだ明らかになっていない状況や、吊り具に被介護者の体重が加わる度合いが大きくなりすぎて、吊り具での被介護者の支持状態を既に変えられない状況ではない、適切なタイミングで、上昇を一時停止させられ、吊り具による被介護者の支持状態の修正の機会を適切に与えられる。
【0015】
また、本発明の開示に係るリフト装置は必要に応じて、前記制御部が、前記上移動制御モードにおける被介護者の上昇を一時停止させるタイミングに係る荷重検出値の基準値を、あらかじめ検出された被介護者の体重に基づいて設定するものである。
【0016】
このように本発明の開示によれば、制御部の上移動制御モードで、吊り上げ機構による被介護者の上昇を一時停止させるタイミングに係る荷重の基準値を、被介護者の体重に基づいて被介護者ごとに設定することにより、被介護者ごとの体重によって異なる、上昇の進行に伴う荷重検出値の変化度合いに対応した、被介護者ごとに適切な基準値に設定でき、被介護者が変わっても上昇の一時停止を的確な状況で実行でき、吊り具での被介護者の支持状態の修正等、一時停止状態での介護者による作業を問題なく行える。
【0017】
また、本発明の開示に係るリフト装置は必要に応じて、前記制御部が、パワーアシスト制御状態で、且つ、介護者が被介護者に対する介助操作を行わず、吊り上げ機構を作動させていない状況で、自動制御スイッチへの操作入力を受けると、下移動制御モードに移行するものである。
【0018】
このように本発明の開示によれば、制御部のパワーアシスト制御状態で、介護者が介助操作を行っていない関係で介助力が加わらず、吊り上げ機構が作動していない場合において、制御部が自動制御スイッチの操作入力を受け取ると、下移動制御モードに移行する制御を行い、既に被介護者が第二の介護器具の上方に位置していれば、被介護者を介護者の操作により第二の介護器具に向けて下降させた後、引き続いて自動的に下降させて下降を完了させられることにより、介護者が被介護者に対し移動介助の操作を行って、被介護者を第二の介護器具の上方位置に正しく位置させるまでは、制御部をパワーアシスト制御状態に維持して被介護者を適切に移動させられる一方、被介護者を第二の介護器具の上方に到達させて、介護者が被介護者を下降させる以外の操作が必要なくなった状況では、介護者の所望のタイミングで下移動制御モードに移行させて、被介護者の第二の介護器具への移動をスムーズ且つ速やかに実行できる。
【0019】
この他、本発明の開示に係るリフト装置は、必要に応じて以下の態様とすることもできる。
【0020】
本発明の開示に係るリフト装置は必要に応じて、前記制御部が、パワーアシスト制御状態で、且つ、吊り上げ機構を作動させて被介護者を動かしている状態で、自動制御スイッチへの操作入力を受けると、パワーアシスト制御を一旦停止し、パワーアシスト制御における介助力算出のための荷重の基準値として、被介護者の体重に相当する荷重をあらためて取得し設定した上で、パワーアシスト制御を再開するものである。
【0021】
このように本発明の開示によれば、制御部のパワーアシスト制御状態で、吊り上げ機構を作動させて被介護者を動かしている場合に、制御部が自動制御スイッチの操作入力を受け取ると、パワーアシスト制御を一旦停止して、被介護者の体重に相当する荷重を新たに検出取得し、これをパワーアシスト制御で要求される荷重基準値として設定した後、パワーアシスト制御を再開し、新たな基準値に基づいて算出された介助力に応じて吊り上げ機構を作動させることにより、例えば介護者の被介護者を操作する介助力が被介護者の静荷重の一部として認識されるなどして誤った基準値が設定され、介護者が移動介助操作を行わない状態において、誤った基準値と真の荷重との相違によって制御部が介助力ありと誤判定し、吊り上げ機構を作動させて被介護者の不適切な移動を生じさせている場合に、介護者が直ちにパワーアシスト制御を停止させて、制御部における誤った荷重基準値の設定の解消を図れることとなり、パワーアシスト制御下での被介護者の移動の正確性と安全性をより確保しやすくすると共に、パワーアシスト制御の停止と正常化後の制御再開を指示するためのスイッチ等の操作手段を別途設ける必要がなく、装置のコストを抑えられる。
【0022】
また、本発明の開示に係るリフト装置は必要に応じて、前記制御部が、前記上移動制御モードにおける被介護者の上昇の一時停止状態を、介護者の所定の介助補助作業の実行に伴う荷重の変動が前記検出手段で検出される間、継続させるものである。
【0023】
このように本発明の開示によれば、制御部の上移動制御モードで、吊り上げ機構による被介護者の上昇を一時停止させた場合に、検出手段で介護者の介助補助作業としての被介護者又は吊り具に対する処置の実行に伴う荷重の変動が検出される間は、一時停止状態を継続させて、介護者が介助補助作業を行っている状況では、被介護者の上昇を再開させないことにより、介護者が介助補助作業を無理なく行える状態を確保して、上昇再開以降は正しい支持状態の下での安全な上昇を実現できる。
【0024】
また、本発明の開示に係るリフト装置は必要に応じて、前記制御部が、前記上移動制御モードにおける被介護者の上昇の一時停止以降に被介護者をさらに上昇させる状態、及び、前記下移動制御モードにおける被介護者を自動的に下降させる状態の少なくとも一方で、自動制御スイッチへの操作入力を受けると、被介護者の移動を一時停止させるものである。
【0025】
このように本発明の開示によれば、制御部が上移動制御モードで一時停止以降に被介護者をさらに上昇させている状態や、下移動制御モードで被介護者を自動的に下降させている状態にある場合に、自動制御スイッチへの操作入力を受け取ると、被介護者の移動を一時停止させるように制御を行って、被介護者の移動停止の機会を付与可能とすることにより、上移動制御モードにおける上昇過程の通常の一時停止以外に、誤って被介護者を不適切な支持状態のまま上昇させたり、被介護者を第二の介護器具に対し正しく接触させられない位置関係のまま下降させている場合に、直ちに被介護者の移動を止めて介護者が不適切な状態の解消を図ることができ、被介護者の移動の安全性をより確保しやすくすると共に、自動制御スイッチを一時停止用の操作手段として利用可能とすることで、移動停止を指示するためのスイッチ等の操作手段を別途設ける必要がなく、装置のコストを抑えられる。
【0026】
また、本発明の開示に係るリフト装置は必要に応じて、前記制御部が、前記上移動制御モードにおける被介護者の上昇途中の一時停止状態、及び、前記下移動制御モードにおける被介護者を自動的に下降させる途中の一時停止状態の少なくとも一方で、自動制御スイッチへの操作入力を受けると、前記一時停止状態を解除するものである。
【0027】
このように本発明の開示によれば、制御部が上移動制御モードでの被介護者の上昇途中や下移動制御モードでの被介護者の自動下降途中における一時停止状態において、自動制御スイッチへの操作入力を受け取ると、吊り上げ機構を作動させて一時停止状態を解除する制御を行って、被介護者の移動を再開させることにより、移動の一時停止状態の間に被介護者の不適切な支持状態等が解消して、被介護者を再び移動させられる状態となったら、介護者の判断で直ちに被介護者を移動させる状態に復帰できることとなり、速やかに被介護者の移動を完了させられると共に、自動制御スイッチを停止解除用の操作手段として利用可能とすることで、一時停止状態解除を指示するためのスイッチ等の操作手段を別途設ける必要がなく、装置のコストを抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置の斜視図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置のブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置による被介護者上昇開始状態説明図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置による被介護者上昇途中状態説明図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置における上移動制御モードでの制御のフローチャートである。
図6】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置におけるパワーアシスト制御のフローチャートである。
図7】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置による被介護者下降途中状態説明図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置による被介護者下降終了状態説明図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置における下移動制御モードでの制御のフローチャート主要部である。
図10】本発明の第1の実施形態に係るリフト装置における下移動制御モードでの制御のフローチャート補充部である。
図11】本発明の第2の実施形態に係るリフト装置による被介護者上昇途中状態説明図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係るリフト装置による被介護者下降途中状態説明図である。
図13】本発明の第3の実施形態に係るリフト装置のブロック図である。
図14】本発明の第3の実施形態に係るリフト装置におけるパワーアシスト制御のフローチャートである。
図15】本発明の第4の実施形態に係るリフト装置における上移動制御モードでの制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係るリフト装置を前記図1ないし図10に基づいて説明する。
本実施形態においては、リフト装置として、被介護者の移動元の第一の介護器具近傍から移動先の第二の介護器具近傍まで移動可能な床走行タイプのリフト装置の例について説明する。
【0030】
前記各図において本実施形態に係るリフト装置1は、移動可能な本体フレーム10と、この本体フレーム10に設けられて被介護者80を乗せた吊り具50を吊して上げ下げする吊り上げ機構11と、この吊り上げ機構11に加わる荷重を検出する検出手段としてのセンサ12と、吊り上げ機構11による被介護者80の上下移動に係る介護者90の各種操作入力を受付ける操作部13と、吊り上げ機構11の作動制御を行う制御部14とを備える構成である。
【0031】
前記本体フレーム10は、地面又は床面に接してリフト装置全体を支える基台部10aと、この基台部10aから上方に突出させて設けられる柱又は塔状の起立部10bとを有する構成である。
前記基台部10aは、地面又は床面に接して転動可能な複数の車輪を有して、地面又は床面に対し移動可能とされる。この基台部10aの後部に起立部10bが立設される。
【0032】
前記起立部10bは、その上部に介護者90がリフト装置全体を移動させる際に持つハンドル10cを取り付けられる。このハンドル10cを用いての介護者90のリフト移動操作の際に、移動の向きを容易に変えられるように、基台部10aに設けられる車輪の一部を、基台部10aに対し鉛直方向の軸周りに回転可能として取り付ける構成とすることもできる。
【0033】
前記吊り上げ機構11は、本体フレーム10の起立部10b上部に傾動可能に連結される略腕状のアーム11aと、このアーム11aと起立部10bの間に介設され、伸縮駆動によってアーム11aを傾動させるアクチュエータ11bと、アーム11aの先端側に設けられ、吊り具50を掛止可能なハンガー部11cとを備える構成である。
【0034】
前記アクチュエータ11bは、起立部10b側に取り付けられた固定部分に対し、アーム11a側に取り付けられた可動部分を直線移動させる公知のリニアアクチュエータとされる構成である。アクチュエータ11bは、例えば、電動機でねじ軸を回転させ、ねじ軸に螺合する進退軸部を進退させることで作動する仕組みとすることもできる。
【0035】
アクチュエータ11bは、その固定部分に対する可動部分の進退で全体の伸縮を生じさせる作動で、本体フレーム10の起立部10bに対しアーム11aを傾動させ、アーム11a先端のハンガー部11c及びこれに吊り下げられた吊り具50を介して、被介護者80を前記第一の介護器具や第二の介護器具としてのベッド60や車椅子70に対し昇降させて、これらに接して支持される状態と、これらから離れて支持されない状態とにすることができる。
【0036】
前記ハンガー部11cは、一般的な衣服用ハンガーに類似の形状として形成され、アーム11aの先端に対し複数の軸周りに回転可能となる自由度を有するように取り付けられる構成である。
ハンガー部11cの両端には掛止部が設けられ、被介護者80を吊り上げるためのシート状の吊り具50の端部(紐部)を掛けられる仕組みである。
【0037】
前記センサ12は、吊り上げ機構11におけるハンガー部11cとアーム11aとの間に配設され、吊り上げ機構11に加わる荷重として、ハンガー部11cを介してアーム11aに加わる上下方向の荷重を検出するものである。被介護者80を吊り具50により吊り上げ機構11のハンガー部11cに吊り下げた状態では、センサ12で検出される荷重に被介護者80の体重分が含まれることとなる。
センサ12としては、例えば、ロードセル(歪ゲージ)を用いることができる。
【0038】
このセンサ12は、制御部14と電気的に接続され、検出した荷重を信号として制御部14に出力する。制御部14では、センサ12からの出力信号が入力されると、信号から取得した荷重を被介護者80の体重に基づく基準値と比較して、基準値よりも大きい場合は、被介護者80を乗せた吊り具50が下向きに押し下げられていると判定される。逆に基準値よりも小さい場合は、吊り具50が上向きに持上げられていると判定される仕組みである。
【0039】
前記操作部13は、吊り上げ機構11で吊り下げられた被介護者80の上げ下げをはじめとする、リフト装置1に対する各種作動指示に係る操作入力を受付ける複数のスイッチを有して、吊り下げ機構11のアーム11aにおける本体フレーム10との連結部の近傍位置に配設され、スイッチへの操作入力を制御部14に送信可能とされるものである。
【0040】
操作部13は、スイッチとして、制御部14に対しあらかじめ設定された所定の制御を行わせるための自動制御スイッチ13aと、アクチュエータ11bでアーム11aを上側に傾動させ、被介護者80を上昇させるための上昇用スイッチ13bと、アクチュエータ11bでアーム11aを下側に傾動させ、被介護者80を下降させるための下降用スイッチ13cとを備える構成である。
【0041】
なお、操作部13は、介護者等がスイッチを手や足で操作しやすく、且つ誤操作に繋がる意図しない接触が起こりにくい箇所であれば、吊り下げ機構11のアーム11aにおける本体フレーム10との連結部の近傍位置以外に配設する、例えば、本体フレーム10の起立部10bや基台部10aに配設する構成とすることもできる。
【0042】
また、操作部13の各スイッチは、手や足等による直接操作でONとOFFを切り替える方式のものに限らず、特定の音声や人の動作、ジェスチャーを操作として認識してスイッチとしての機能を実行するものを用いることもできる。その場合、被介護者80自身の動作等を認識してスイッチ機能を実現可能なものでもよい。
【0043】
前記制御部14は、操作部13からの操作やあらかじめ設定された手順に基づいて吊り上げ機構11を作動させる制御を行うと共に、前記検出手段としてのセンサ12で検出された荷重に基づいて、介護者90から被介護者80に対し直接介助操作として加えられた介助力を算出し、得られた介助力に応じて吊り上げ機構11を作動させるパワーアシスト制御を実行可能とされるものである。
【0044】
制御部14は、操作部13の上昇用スイッチ13bへの操作入力を受けると、スイッチがON状態の間、アクチュエータ11bを作動させてアーム11aを上側に傾動させ、吊り具50ごと被介護者80を上昇させる。また、制御部14は、下降用スイッチ13cへの操作入力を受けると、スイッチがON状態の間、アクチュエータ11bを作動させてアーム11aを下側に傾動させ、被介護者80を下降させる。
【0045】
さらに、制御部14は、操作部13の自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けると、被介護者80を第一の介護器具から第二の介護器具へ移動させる過程に対応する、上移動制御モード及び下移動制御モードとしての一連の制御をパワーアシスト制御と共に実行して吊り上げ機構11を作動させる。
【0046】
ただし、上移動制御モード及び下移動制御モードの制御により吊り上げ機構11を作動させている間に、上昇用スイッチ13b又は下降用スイッチ13cへの操作入力を受けると、前記各制御を中止し、上昇用スイッチ13b又は下降用スイッチ13cへの操作入力に基づいて、被介護者80を上昇又は下降させるように吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させる制御を、優先して実行する仕組みである。
【0047】
パワーアシスト制御は、リフト装置で支持される被支持体に対し、その被支持体の昇降等の移動に係る作業者の被支持体に対する直接的な移動補助操作により、被支持体に移動方向への操作力が加わると、リフト装置の荷重検出手段で検出された被支持体の総荷重から、被支持体の重量に基づく荷重を差し引いて、被支持体の移動のために作業者から加えられた操作力を算出し、得られた操作力に応じて被支持体の支持に係る駆動機構を作動させ、装置が被支持体を支持可能な範囲内において、あたかも作業者の被支持体を直接動かそうとする操作でそのまま被支持体が動くような状態で、作業者による荷重の支持負担をほとんど要さずに、被支持体の移動を実行させる公知の制御手法であり、詳細な説明を省略する。
【0048】
制御部14によるパワーアシスト制御は、吊り上げ機構11に吊り下げ支持された被支持体としての被介護者80に対し、その被介護者80の上下方向の移動に係る介護者90の介助操作により被介護者80に移動方向への介助力(操作力)が加わると、センサ12で検出された総荷重から、あらかじめ取得された被介護者80の体重分の荷重を差し引いて、介護者90から被介護者80に加えられた介助力を算出し、得られた介助力に応じて吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、アーム11aを上又は下に傾動させて、被介護者80を移動させる制御となる。
【0049】
詳細には、制御部14は、パワーアシスト制御として、被介護者80の体重に基づく荷重の基準値に対し、介助操作による介助力(上方向:負の荷重、下方向:正の荷重)を加えられた結果としての総荷重の検出値が、あらかじめ設定された閾値、例えば±19.6N(±2kgf)を超える差異を示す場合に、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させて被介護者80の上昇又は下降を実行させることで、こうした被介護者80の上下移動について介護者90のパワーアシストによる負担軽減を実現できることとなる。
【0050】
制御部14は、パワーアシスト制御で、センサの出力信号から得た荷重検出値と基準値との差異が閾値を超え、吊り上げ機構11を作動させる場合には、荷重検出値と基準値との差異量の大小に応じて、被介護者80の移動量(アシスト量)を算出決定し、それに従って吊り上げ機構11を作動させ、被介護者80を移動させることとなる。また、制御部14では、センサ12の出力信号の増減変化の速さを取得し、これに基づいて移動の速度を決定している。
【0051】
制御部14は、パワーアシスト制御では、センサ12で検出される荷重の出力値の変化を監視し、あらかじめ設定された所定の変化率を上回るような短時間での大きな荷重変化に関しては、過渡的な不規則変化として介護者90の介助力によるものと認定せず、適切な荷重変化についてのみ吊り上げ機構11を作動させるようにしている。
【0052】
加えて、制御部14は、センサ12で荷重の変化を検出し、荷重検出値の基準値との閾値を超えるような差異を認定して吊り上げ機構11を作動させるまでに、所定の待機時間(例えば、1秒)を設定し、荷重が変化して基準値とは閾値を超えて異なる状態が少なくとも前記待機時間にわたり継続する場合のみ、介護者90の介助力による適切な荷重変化と認定して、吊り上げ機構11を作動させる制御を実行するようにしている。これにより、動作開始時における衝撃などの瞬間的、過渡的な荷重変化を除外し、介助力による荷重変化を正しく認定して、適切に吊り上げ機構11を作動させることができる。また、荷重の変化が待機時間にわたり続く安定状態に至ってから、荷重の状態を判別することで、介助力を誤って認定する事態が生じにくく、介助力による荷重変化に基づいて吊り上げ機構11を適切に作動させることができる。
【0053】
また、制御部14は、被介護者80を第一の介護器具から第二の介護器具へ移動させるにあたり、始めに操作部13の自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けると、上移動制御モードとして、第一の介護器具上に位置する被介護者80に対し、吊り上げ機構11を作動させて、被介護者80を乗せた吊り具50を自動的に上昇させ、上昇の途中で一又は複数回、吊り上げ機構の作動を中断させて上昇を一時停止させつつ、被介護者80の上昇を継続させ、被介護者80を第一の介護器具からの離隔状態とした後、上昇を停止させるまでの、一連の制御を行う。制御部14はこの上移動制御モードの後に、パワーアシスト制御に移行することとなる。
【0054】
さらに、制御部14は、パワーアシスト制御状態で、被介護者80が第二の介護器具上方まで移動した段階において、操作部13の自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けると、下移動制御モードの制御を開始する仕組みである。この下移動制御モードでは、被介護者80に加えられた下向きの介助力に応じた一種のパワーアシスト制御による被介護者80の下降を許容し、被介護者80の下降の進行に伴いセンサ12で検出される荷重が所定値まで減少すると、介助力に依らずに吊り上げ機構11を作動させて被介護者80を自動的に下降させ、被介護者80を第二の介護器具に支えられた状態とした後、吊り上げ機構11の作動を停止させるまでの、一連の制御を行う。
【0055】
この他、制御部14は、上移動制御モードや下移動制御モードにおける被介護者80の自動上昇や自動下降を行わせている状況では、通常パワーアシスト制御を行わないが、センサ12で継続的に検出される荷重に基づいて類似の制御を行うこともできる。例えば、上移動制御モードで被介護者80が自動的に上昇している際に、介護者90が介助力を上向きに加え、その介助力があらかじめ設定された荷重値以上であれば、安全を確保できる範囲で上昇の速度を上げるようにしたり、下移動制御モードで被介護者80が自動的に下降している際に、介護者90が介助力を下向きに加え、その介助力があらかじめ設定された荷重値以上であれば、安全を確保できる範囲で下降の速度を上げるようにする制御を行うこともできる。逆に、上移動制御モードで被介護者80が自動的に上昇している際に、介護者90が介助力を下向きに加えると、上昇の速度を下げるようにしたり、下移動制御モードで被介護者80が自動的に下降している際に、介護者90が介助力を上向きに加えると、下降の速度を下げるようにする制御を行うこともできる。
【0056】
なお、こうした制御部14が自動制御スイッチ13aの操作で上移動制御モード又は下移動制御モードの制御状態に移行した場合や、パワーアシスト制御状態にある場合に、それらの制御状態を示すランプ等の表示部を、リフト装置における介護者90から見えやすい位置、例えば、アーム先端など、に設けたり、上記制御状態の開始や終了をブザー音や音声等で示す音出力部をリフト装置に設ける構成とするようにしてもよい。
【0057】
次に、本実施形態に係るリフト装置の作動状態について説明する。前提として、リフト装置1は、バッテリーを内蔵し又は商用電源に接続されており、介護者他の操作やあらかじめ設定された手順に応じて問題なく制御部14により吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、支持した被介護者80を無理なく昇降させられる状態にあるものとする。また、リフト装置1は、移動元(移動の始点)としての第一の介護器具がベッド60であり、移動先(移動の終点)としての第二の介護器具が車椅子70である、所定の介護に係る被介護者80の移動行程に適用されるものとする。
【0058】
被介護者80を第一の介護器具としてのベッド60から第二の介護器具としての車椅子70へ移動させるにあたっては、ベッド60に支持された被介護者80をリフト装置1で支持する状態に移行させ、続いて被介護者80をベッド60の近傍から移動先の車椅子70の近傍にリフト装置1ごと移動させ、さらにこのリフト装置1で被介護者80を支持する状態から車椅子70で支持する状態に移行させる手順が必要となる。
【0059】
被介護者80を第一の介護器具としてのベッド60から上昇させてリフト装置1で支持された状態とする場合には、まず、介護者90が、ベッド60に仰臥した被介護者80の下側にシート状の吊り具50を通し、吊り具50が太腿の裏側と背中を支持可能で、且つ吊り具50端部の紐部が被介護者80の身体の横に現れ、吊り上げ機構11のハンガー部11c両端に掛止可能となっている状態とする。
【0060】
そして、介護者90は、ハンドル10cを持ってリフト装置全体を移動させ、アーム11a先端側のハンガー部11cが被介護者80の直上に位置するように、必要に応じて本体フレーム10の基台部10a先端がベッド60の下側に入り込む状態となるまで動かす。また、ハンガー部11cに吊り具50を掛止可能となるように、必要に応じて操作部13の上昇用スイッチ13bや下降用スイッチ13cを操作してハンガー部11cの高さを調整する。
【0061】
被介護者80の上方のハンガー部11cに対し、吊り具50の端部の紐部をハンガー部11cの端部に掛け、吊り上げる準備が整ったら、介護者90が操作部13の自動制御スイッチ13aを操作する。
【0062】
制御部14は、この移動機会において初回となる自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、上移動制御モードの制御を開始し(図5参照)、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、アーム11aを上方に傾動させる。傾動するアーム11aは、ハンガー部11cに掛かった吊り具50端部を少しずつ上方へ移動させ、緩んでいた吊り具50を緊張状態とする。そして、緊張状態となった吊り具50で下から支えられる被介護者80を、吊り具50ごと吊り上げて少しずつ上方へ自動的に移動させる(図3参照)。
【0063】
吊り具50に支持された被介護者80が上昇し、被介護者80の体重をベッド60で支える状態から吊り具50で支える状態に少しずつ遷移する中、ハンガー部11cを介して吊り具50の荷重が加わる、アーム11a先端のセンサ12で検出される荷重が増大していく。
【0064】
なお、こうして被介護者80を上に移動させる間に、吊り具50による被介護者80の支持が適切でないなど、そのまま移動を継続させると問題がある状態を介護者90が見出した場合、介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14はこの自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動をいったん停止させ、被介護者80の移動を停止させてから、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを逆向きに作動させて、アーム11aを下方に傾動させ、被介護者80を下ろして移動前の初期状態に戻すと共に上移動制御モードの制御を終了する。
【0065】
被介護者80を上方へ移動させる中、センサ12で検出される荷重があらかじめ設定された所定の停止基準値、例えば、294N(30kgf)、に達すると、制御部14は吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を中断させ、被介護者80の上昇を一時停止状態とする。
【0066】
この一時停止状態で、介護者90は被介護者80が吊り具50に適切に支持されているか確認し、必要に応じて除圧等の作業を行って正すことができる。この時、被介護者80がベッド60に対し十分に上昇して、ハンガー部11c及び吊り具50ごと被介護者80の向きを変えられる状態にある場合には、被介護者80の向きを変えて脚をベッド60の横に出すのが望ましい。
【0067】
介護者90による被介護者80についての確認等の作業終了後に、介護者90が再度自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14は、この自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、アクチュエータ11bの作動を再開させ、移動の一時停止状態を解除して、被介護者80の上昇を再度開始させる。
【0068】
この上昇再開後、被介護者80を上方に移動させている間に、被介護者80の移動をそのまま継続させると問題がある状態を介護者90があらためて見出した場合、介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、この自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、制御部14は吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を中断させ、被介護者80の移動を一時的に停止させ、介護者90が被介護者80の支持状態の修正等が行える状態とする。被介護者80の移動に問題のない状態が得られたら、介護者90があらためて自動制御スイッチ13aを操作すれば、制御部14がこの自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、アクチュエータ11bの作動を再開させ、移動の一時停止状態を解除して、被介護者80の上昇を再開させることとなる。
【0069】
また、同じく上昇再開後の被介護者80を上方に移動させている間に、被介護者80の移動だけでなくベッド60に支持されていない状態の継続にも問題がある状況に至った場合には、介護者90が下降用スイッチ13cを操作すると、制御部14は上移動制御モードの制御を中止し、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動をいったん停止させてから、下降用スイッチ13cへの入力に基づいてアクチュエータ11bを逆向きに作動させ、アーム11aを下方に傾動させて、被介護者80を移動前のベッド60に仰臥した初期状態に復帰させる。
【0070】
一時停止期間を挟んでの被介護者80の上昇する過程において、原則として介護者90は操作部13を操作する必要がないことから、被介護者80の移動介助作業に専念でき、従来のリフト装置使用時のように操作用のリモートスイッチを手に持って操作しながら被介護者80の介助を行う状況とはならず、移動する被介護者80を両手を使って補助することができ(図4参照)、何らかの異常事態にも柔軟に対処しやすく、被介護者80にも安心感を与えられることとなる。
【0071】
吊り具50及び被介護者80の上昇継続で、センサ12で検出される荷重が所定の待機時間を経ても変化しなくなり、被介護者80がベッド60上面から完全に離れたとみなせる状態になると、制御部14では上移動完了として、上移動制御モードの制御を終了する。
【0072】
これと同時に、制御部14はパワーアシスト制御を開始し(図6参照)、その初期段階として、この時点の荷重検出値を被介護者80の体重として認定して記録する。なお、こうして得られた体重の値や、別のタイミングでセンサ12により検出された荷重から導かれた被介護者80の体重の値を、制御部14がリフト装置に設けられた所定の表示手段に表示させるようにすることもできる。
【0073】
そして、制御部14は、認定した被介護者80の体重の値を制御の基準値に設定した上で、パワーアシスト制御の下で吊り上げ機構11を作動させる状態となる。
パワーアシスト制御状態では、被介護者80に対し、その被介護者80の上下方向の移動に係る介護者90の直接的な介助操作により、被介護者80に移動方向への介助力が加わると、制御部14が、センサ12で検出された総荷重から、基準値とされた被介護者80の体重分の荷重を差し引いて、介護者90から被介護者80に加えられた介助力を算出する。そして、制御部14は、荷重検出値と基準値との差異が閾値を超える、すなわち、介助力が閾値の範囲を超える大きさである場合、得られた介助力に応じて吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、アーム11aを上下動させることで、あたかも介護者90の被介護者80を直接動かそうとする操作でそのまま被介護者80が動くような状態で、介護者90による荷重の支持負担をほとんど要さずに、被介護者80の移動を実現させることとなる。
【0074】
こうしたパワーアシスト制御状態の下で、介護者90は、ベッド60から離れた被介護者80を例えば直接押し上げたり押し下げたりする操作でその吊り下げ高さを調整した上で、リフト装置1のハンドル10cを持って操作し、吊り下げられた被介護者80ごとリフト装置全体を移動先、すなわち第二の介護器具としての車椅子70の近傍まで移動させる。
【0075】
移動後、リフト装置1で支持されている被介護者80を車椅子70に下ろす場合には、まず、介護者90が被介護者80を車椅子70の直上に位置させるようリフト装置1の位置を調整する。その後、介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14が自動制御スイッチへの操作入力を受けて、新たに下移動制御モードの制御を開始する(図9図10参照)。
【0076】
下移動制御モードの制御では、被介護者80の下方への移動当初についてはパワーアシスト制御と同様の制御となっており、介護者90が、吊り具50で支持される被介護者80に直接、又はハンガー部11cを介して押し下げる介助力を十分な大きさで加えると、これを制御部14が判別して、アクチュエータ11bを作動させてアーム11aを下向きに傾動させる。これにより、被介護者80の高さ位置が調整され、被介護者80が車椅子70の座面に近付くこととなる(図7参照)。
【0077】
下移動制御モードで、被介護者80が下に移動してその身体の一部が車椅子70の座面に接し、被介護者80の体重の一部が車椅子70で支持されるようになった状態では、介護者90が被介護者80を介助していた手を離すなどして介助力を加えるのを中断した時に、センサ12で検出される荷重は移動前より小さくなっている。しかし、この下移動制御モードの制御では、介護者90の下向きの介助力が加わらない状態となって、センサ12で検出される荷重が所定の待機時間(例えば、1秒)にわたり変化しない場合、制御部14はパワーアシスト制御における基準値をその時点の荷重に設定する。このため、荷重検出値が以前より小さくなっても制御部14が上向きの介助力を加えられたと誤判定することはなく、これ以降も被介護者80に直接又は間接的に加えられる介護者90の下向きの介助力に対応して、吊り上げ機構11を作動させ、被介護者80の下方への移動を継続できる。
【0078】
被介護者80の下方への移動に伴い、被介護者80がリフト装置より車椅子70に支持される度合いが徐々に高くなり、センサ12で検出される荷重があらかじめ設定された所定の下降基準値、例えば、49N(5kgf)まで減少すると、制御部14は、介助力に応じて吊り上げ機構11を作動させる制御を終了し、自動下降として、介護者90の介助力の有無に関わりなくアクチュエータ11bを作動させてアーム11aを下向きに傾動させ、被介護者80を少しずつ下方へ移動させる制御状態に移行する。
【0079】
こうして被介護者80を自動的に下方に移動させている間に、被介護者80の移動をそのまま継続させると問題がある状態を介護者90が見出した場合、介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14は吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を一旦停止させてから、アクチュエータ11bを逆向きに作動させ、アーム11aを上方に傾動させて、被介護者80を車椅子70の座面から離れた位置まで戻す。被介護者80の周囲の状況が改善されて移動に問題のない状態が得られたら、介護者90があらためて自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14の下移動制御モードの制御が再開され、介護者90の加える下向きの介助力に応じて制御部14が吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、被介護者80を前記同様に下方に移動させる状態となり、さらに被介護者80が車椅子70の座面に接してセンサ12で検出される荷重が前記所定量まで減少すると、前記同様に被介護者80を自動的に下方に移動させる状態に移行することとなる。
【0080】
また、被介護者80を自動的に下方に移動させる過程で、被介護者80の移動だけでなく車椅子70に接している状態の継続にも問題がある状況に至った場合、介護者90が上昇用スイッチ13bを操作すると、制御部14は下移動制御モードの制御を中止し、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動をいったん停止させてから、アクチュエータ11bを逆向きに作動させ、アーム11aを上方に傾動させて、被介護者80を下移動制御モードでの移動前の、車椅子70の上方に位置する状態まで戻す。
【0081】
被介護者80を自動下降として少しずつ下方へ移動させる状態の継続により、被介護者80が完全に車椅子70に支持されて(図8参照)、センサ12で検出される荷重がほぼ0になり、その状態が所定の待機時間の経過後も維持されると、制御部14は、被介護者80が移動を完了したと判定して、自動下降に係る制御によるアクチュエータ11bの作動を停止させ、下移動制御モードの制御終了となる。
【0082】
制御部14によるアクチュエータ11bの作動が停止した後、介護者90は車椅子70に支持された被介護者80の上方のハンガー部11cから吊り具50の紐部を外し、被介護者80をリフト装置1から解放する。その後、介護者90は、必要に応じて操作部13の上昇用スイッチ13bを操作してハンガー部11cを上げ、さらにリフト装置1全体を移動させ、車椅子70に乗せた被介護者80に対する作業等の支障にならないようにしたら、被介護者80の下側に残った吊り具50を外し、被介護者80を車椅子70で移動できる状態とする。
【0083】
なお、制御部14による上移動制御モードの制御で、被介護者80の上昇を一時停止させる場合の荷重の停止基準値を、一例として294N(30kgf)に設定しているが、この停止基準値を、あらかじめ検出された被介護者80の体重に応じて調整された値に設定する、例えば、体重の軽い被介護者80については停止基準値を294Nより小さめの値に設定し、体重の重い被介護者80については、停止基準値を294Nより大きめの値に設定して、被介護者80の上昇を停止させる際における、被介護者80のベッド等の第一の介護器具からの上昇度合いが、被介護者80によらず一様になるようにする構成とすることもできる。この場合、被介護者80の一時停止状態における介護者90の被介護者80に対する作業の負荷が、被介護者80ごとに大きく異なる状況を回避して、介護者90の移動介助の負担をさらに軽減できる。
【0084】
このように、本実施形態に係るリフト装置は、第一の介護器具としてのベッド60から離れて第二の介護器具としての車椅子70に移る被介護者80の移動に係る移動介助に際し、まず制御部14が上移動制御モードとして、ベッド60に支持された被介護者80を吊り上げ機構11の作動により上昇させ、一回の一時停止を経つつ被介護者80の上昇を継続させ、リフト装置のみで被介護者80を適切に支持した状態に到達すると、パワーアシスト制御状態に移行し、パワーアシスト制御下で被介護者80を車椅子70上方へ移動させた後、制御部14が下移動制御モードに移行して、介護者90の介助による被介護者80の車椅子70に向う下降を許容し、さらに被介護者80の一部が車椅子70で支持されて吊り上げ機構11で支える荷重の減少状態が所定割合に達すると、自動下降状態に移行して被介護者80をさらに下降させ、被介護者80を車椅子70のみで支持された状態に到達させるようにして、被介護者80の上下移動を行わせる吊り上げ機構11を作動させるために、介護者等が機構に対し何らかの操作手段を用いての、被介護者80の移動と並行して行う操作を要しないこととなる。
【0085】
これにより、吊り上げ機構11の補助の下で介護者がわずかな力で被介護者80を直接上下に動かせるパワーアシスト制御状態に至るまでの、被介護者80をベッド60から上昇させる過程や、パワーアシスト制御状態から被介護者80を移動先の車椅子70へ到達させる過程で、介護者90が被介護者80の移動に係る介助を行いつつ、同時に吊り上げ機構11に対しこれを作動させるための操作を行わずに済むこととなり、被介護者80の移動に際して介助が必要な各状況で、介護者90が両手を被介護者80に添える介助姿勢をとれるなど介助に専念でき、被介護者80の移動における安全性を確保できる。
【0086】
また、第一の介護器具としてのベッド60から被介護者80を上昇させる途中で一時停止を行って、被介護者80が移動しない状況を生じさせることで、被介護者80やその周辺に対し支障なく作業を行える機会を介護者90に与えられ、この一時停止の間に、介護者90が、被介護者80の吊り具50での支持状態について、それまでの移動を経て明らかになった問題点、例えば、着衣の巻き込みや吊り具のよじれ等、の解消作業を行ったり、体圧分散のための体位変換や圧抜きなどの作業を行うようにすれば、被介護者80を不適切な支持状態に留めたまま移動を継続して被介護者80に悪影響が及ぶ事態に陥ることを防止できる。
【0087】
(本発明の第2の実施形態)
前記第1の実施形態に係るリフト装置においては、被介護者80の第一の介護器具から第二の介護器具への移動が、第一の介護器具をベッド60とし、且つ第二の介護器具を車椅子70として行われるものに対し適用される構成としているが、これに限らず、第2の実施形態として、図11及び図12に示すように、リフト装置が、第一の介護器具を車椅子70とすると共に、第二の介護器具をベッド60とする場合の移動に対しても適用される構成とすることもできる。
【0088】
こうした本実施形態に係るリフト装置による被介護者80の車椅子70からベッド60への移動状態について説明する。前提として、リフト装置1は、前記第1の実施形態同様、バッテリーを内蔵し又は商用電源に接続されており、介護者他の操作やあらかじめ設定された手順に応じて問題なく制御部14により吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、支持した被介護者80を無理なく昇降させられる状態にあるものとする。
【0089】
被介護者80を第一の介護器具としての車椅子70から第二の介護器具としてのベッド60へ移動させるにあたっては、車椅子70に支持された被介護者80をリフト装置1で支持する状態に移行させ、続いて被介護者80を車椅子70の近傍から移動先のベッド60の近傍にリフト装置1ごと移動させ、さらにこのリフト装置1で被介護者80を支持する状態からベッド60で支持する状態に移行させる手順が必要となる。
【0090】
被介護者80を車椅子70から移動させてリフト装置1で支持された状態とする場合には、まず、介護者90が、車椅子70に着座した被介護者80の下側にシート状の吊り具50を通し、吊り具50が背中から太腿の裏側にかけての身体背面側部分を支持可能で、且つ吊り具50端部の紐部が被介護者80の身体の横に、吊り上げ機構11のハンガー部11c両端に掛止可能に現れている状態とする。
【0091】
そして、介護者90は、ハンドル10cを持ってリフト装置全体を移動させ、アーム11a先端側のハンガー部11cが被介護者80の直上に位置するようにリフト装置1の位置を調整する。また、ハンガー部11cに吊り具50を掛止可能となるように、必要に応じて操作部13の上昇用スイッチ13bや下降用スイッチ13cを操作してハンガー部11cの高さを調整する。
【0092】
被介護者80の上方のハンガー部11cに対し、吊り具50の端部の紐部をハンガー部11cの端部に掛け、吊り上げる準備が整ったら、介護者90が操作部13の自動制御スイッチ13aを操作する。
【0093】
制御部14は、この移動機会において初回となる自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、上移動制御モードの制御として、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、アーム11aを上方に傾動させる。傾動するアーム11aは、ハンガー部11cに掛かった吊り具50端部を少しずつ上方へ移動させ、緩んでいた吊り具50を緊張状態とする。そして、緊張状態となった吊り具50に下から支えられる被介護者80を吊り具50ごと吊り上げて少しずつ上方へ移動させる。
【0094】
吊り具50に支持された被介護者80が上昇し、被介護者80の体重を車椅子70で支える状態から吊り具50で支える状態に遷移する中、ハンガー部11cを介して吊り具50の荷重が加わる、アーム11a先端のセンサ12で検出される荷重が増大していく。
【0095】
なお、こうして被介護者80を上方に移動させる間に、吊り具50による被介護者80の支持が適切でないなど、そのまま移動を継続させると問題がある状態を介護者90が見出した場合、介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14は上移動制御モードの制御を中断し、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを逆向きに作動させ、被介護者80を移動前の車椅子70で支えられている初期状態に戻す。
【0096】
被介護者80を上方へ移動させる中、センサ12で検出される荷重があらかじめ設定された所定の停止基準値、例えば、294N(30kgf)、に達すると、制御部14は吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を中断させ、被介護者80の上昇を一時停止状態とする。
この一時停止状態で、介護者90は被介護者80が吊り具50に適切に支持されているか確認し、必要に応じて正すことができる。
【0097】
介護者90による被介護者80についての確認等の作業終了後に、介護者90が再度自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14は、この自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、アクチュエータ11bの作動を再開させ、被介護者80の上昇が再度開始される。
【0098】
この上昇再開後、被介護者80を上方に移動させている間に、被介護者80の移動をそのまま継続させると問題がある状態を介護者90があらためて見出した場合、介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、前記第1の実施形態同様、制御部14は、自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を中断させ、被介護者80の移動を一時的に停止させ、介護者90が被介護者80の支持状態の修正等が行える状態とする。被介護者80の移動に問題のない状態が得られたら、介護者90があらためて自動制御スイッチ13aを操作すれば、制御部14がこの自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、アクチュエータ11bの作動を再開させ、移動の一時停止状態を解除して、被介護者80の上昇を再開させることとなる。
【0099】
また、同じく上昇再開後の被介護者80を上方に移動させる過程で、被介護者80の移動だけでなく車椅子70に支持されていない状態の継続にも問題がある状況に至った場合には、介護者90が下降用スイッチ13cを操作すると、制御部14は上移動制御モードの制御を中止し、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動をいったん停止させてから、アクチュエータ11bを逆向きに作動させ、アーム11aを下方に傾動させて、被介護者80を移動前の車椅子70に座っている初期状態に復帰させる。
【0100】
前記第1の実施形態と同様に、一時停止期間を挟んでの被介護者80の上昇する過程において、原則として介護者90は操作部13を操作する必要がないことから、被介護者80の移動介助作業に専念でき、従来のリフト装置使用時のように操作用のリモートスイッチを手に持って操作しながら被介護者80の介助を行う状況とはならず、移動する被介護者80を両手を使って補助することができ(図11参照)、何らかの異常事態にも柔軟に対処しやすく、被介護者80にも安心感を与えられることとなる。
【0101】
吊り具50及び被介護者80の上昇継続で、センサ12で検出される荷重が所定の待機時間を経ても変化しなくなり、被介護者80が車椅子70の座面から完全に離れたとみなせる状態になると、制御部14では上移動完了として、上移動制御モードの制御を終了する。
【0102】
これと同時に、制御部14はパワーアシスト制御を開始し、その初期段階として、この時点の荷重検出値を被介護者80の体重として認定して記録する。そして、制御部14は、認定した被介護者80の体重の値を制御の基準値に設定した上で、パワーアシスト制御の下で吊り上げ機構11を作動させる状態となる。
【0103】
パワーアシスト制御状態では、前記第1の実施形態と同様に、被介護者80に対する介護者90の直接的な上下移動介助操作により、被介護者80に移動方向への介助力が加わると、制御部14が、センサ12で検出された総荷重から介護者90の加えた介助力を算出し、介助力が閾値の範囲を超える大きさである場合、この介助力に応じて吊り上げ機構11を作動させることで、あたかも介護者90の被介護者80を直接動かそうとする操作でそのまま被介護者80が動くような状態での、被介護者80の移動を実現させる。こうしたパワーアシスト制御状態の下で、介護者90は、車椅子70から離れた被介護者80を例えば直接押し上げたり押し下げたりする操作でその吊り下げ高さを調整した上で、リフト装置1のハンドル10cを操作して、吊り下げられた被介護者80ごとリフト装置全体を目的の場所に移動させる。
【0104】
移動後、リフト装置1で支持されている被介護者80をベッド60に下ろす場合には、まず、介護者90がリフト装置1をベッド60近傍に到達させ、さらに被介護者80の身体のうち少なくとも大腿部より上側部分をベッド60上に位置させるように、必要に応じて本体フレーム10の基台部10a先端がベッド60の下に入る状態となるまで動かすなど、リフト装置1の位置を調整する。その後、介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14が自動制御スイッチへの操作入力を受けて、新たに下移動制御モードの制御を開始する。
【0105】
下移動制御モードの制御では、被介護者80の下方への移動当初についてはパワーアシスト制御と同様の制御となっており、介護者90が、吊り具50で支持される被介護者80に直接、又はハンガー部11cを介して押し下げる介助力を十分な大きさで加えると、これを制御部14が判別して、アクチュエータ11bを作動させてアーム11aを下向きに傾動させることで、被介護者80の高さ位置が調整され、被介護者80がベッド60の上面に近付くこととなる(図12参照)。
【0106】
下移動制御モードで、被介護者80が下に移動してベッド60の上面に接し、その体重の一部がベッド60で支持されるようになった状態では、介護者90が被介護者80を介助していた手を離すなどして介助力を加えるのを中断した時に、センサ12で検出される荷重は移動前より小さくなっている。しかし、この下移動制御モードの制御では、介護者90の下向きの介助力が加わらない状態となって、センサ12で検出される荷重が所定の待機時間(例えば、1秒)にわたり変化しない場合、制御部14はパワーアシスト制御の基準値をその時点の荷重に更新設定する。これにより、荷重検出値が以前より小さくなっても上向きの介助力を加えられたと制御部14が誤判定することはなく、これ以降も被介護者80に直接又は間接的に加えられる介護者90の下向きの介助力に対応して、吊り上げ機構11を作動させ、被介護者80の下方への移動を継続できる。
【0107】
なお、被介護者80がベッド60の上面に接する程度に下方に移動した段階で、介護者90はハンガー部11c及び吊り具50ごと被介護者80の向きを変えて、被介護者80の脚を含む全身をベッド60上に位置させるのが望ましい。
【0108】
被介護者80の下方への移動に伴い、被介護者80がリフト装置1よりベッド60に支持される度合いが徐々に高くなり、センサ12で検出される荷重があらかじめ設定された所定の下降基準値、例えば、49N(5kgf)まで減少すると、制御部14は、介助力に応じて吊り上げ機構11を作動させる制御を終了し、自動下降として、介護者90の介助力の有無に関わりなくアクチュエータ11bを作動させてアーム11aを下向きに傾動させ、被介護者80を少しずつ下方へ移動させる制御状態に移行する。
【0109】
こうして被介護者80を自動的に下方に移動させている間に、被介護者80の移動をそのまま継続させると問題がある状態を介護者90が見出した場合、介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14は吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を一旦停止させてから、アクチュエータ11bを逆向きに作動させ、アーム11aを上方に傾動させて、被介護者80をベッド60の上面から離れた位置まで戻す。被介護者80の周囲の状況が改善されて移動に問題のない状態が得られたら、介護者90があらためて自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14の下移動制御モードの制御が再開され、介護者90の加える下向きの介助力に応じて制御部14が吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、被介護者80を前記同様に下方に移動させる状態となり、さらに被介護者80がベッド60の上面に接してセンサ12により検出される荷重が前記所定量まで減少すると、前記同様に被介護者80を自動的に下方に移動させる状態に移行することとなる。
【0110】
また、被介護者80を自動的に下方に移動させる過程で、被介護者80の移動だけでなくベッド60に接している状態の継続にも問題がある状況に至った場合、介護者90が上昇用スイッチ13bを操作すると、制御部14は下移動制御モードの制御を中止し、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動をいったん停止させてから、アクチュエータ11bを逆向きに作動させ、アーム11aを上方に傾動させて、被介護者80を下移動制御モードでの移動前の、ベッド60の上方に位置する状態まで戻す。
【0111】
被介護者80を自動下降として少しずつ下方へ移動させる状態の継続により、被介護者80が完全にベッド60に支持されて、センサ12で検出される荷重がほぼ0になり、その状態が所定の待機時間の経過後も維持されると、制御部14は、被介護者80の移動が完了したと判定して、自動下降に係る制御によるアクチュエータ11bの作動を停止させ、下移動制御モードの制御終了となる。
【0112】
制御部14によるアクチュエータ11bの作動が停止した後、介護者90はベッド60に着床した被介護者80の上方のハンガー部11cから吊り具50の紐部を外し、被介護者80をリフト装置1から解放する。その後、介護者90は、必要に応じて操作部13の上昇用スイッチ13bを操作してハンガー部11cを上げ、さらにリフト装置1全体を移動させ、ベッド60に乗せた被介護者80に対する作業等の支障にならないようにしたら、被介護者80の下側に残った吊り具50を外し、被介護者80がベッド60で仰臥できる状態とする。
【0113】
このように、本実施形態に係るリフト装置は、第一の介護器具としての車椅子70から離れて第二の介護器具としてのベッド60に移る被介護者80の移動の場合においても、制御部14が上移動制御モードとして、車椅子70に支持された被介護者80を吊り上げ機構11の作動により上昇させ、一回の一時停止を経つつ被介護者80の上昇を継続させ、リフト装置のみで被介護者80を適切に支持した状態に到達すると、パワーアシスト制御状態に移行し、パワーアシスト制御下で被介護者80をベッド60上方へ移動させた後、制御部14が下移動制御モードに移行して、介護者90の介助による被介護者80のベッド60に向う下降を許容し、次いで自動下降状態に移行して被介護者80をさらに下降させ、被介護者80をベッド60のみで支持された状態に到達させるようにして、介護者等による何らかの操作手段を用いた被介護者80の上下移動と並行した操作を要しない。
【0114】
これにより、吊り上げ機構11の補助の下で介護者90が被介護者80を直接上下に動かせるパワーアシスト制御状態に至るまでの、被介護者80を車椅子70から上昇させる過程や、パワーアシスト制御状態から被介護者80をベッド60へ到達させる過程で、介護者90が被介護者80の移動に係る介助を行いつつ、同時に吊り上げ機構11に対する操作を行わずに済むこととなり、被介護者80の移動に際して介助が必要な各状況で、介護者90が両手を被介護者80に添える介助姿勢をとれるなど介助に専念でき、被介護者80の移動における安全性を確保できる。
【0115】
(本発明の第3の実施形態)
前記第1の実施形態に係るリフト装置においては、上移動制御モードの制御の終了を切っ掛けとして、制御部14が体重測定及び体重の基準値設定を含むパワーアシスト制御を、上移動制御モードの制御に続けて自動的に開始する構成としているが、これに限られるものではなく、第3の実施形態として、図13及び図14に示すように、制御部14に対しパワーアシスト制御の開始を指示するためのパワーアシストスイッチ13dを設けて、上移動制御モードの終了後、任意のタイミングでの介護者等によるパワーアシストスイッチ13dの操作に基づいて、制御部14がパワーアシスト制御を開始する構成とすることもできる。
【0116】
具体的には、上移動制御モードにおける吊り具50及び被介護者80の上昇継続で、センサ12で検出される荷重が所定の待機時間を経ても変化しなくなり、被介護者80がベッド60上面から完全に離れたとみなせる状態になると、制御部14は上移動制御モードの制御を終了するが、前記第1の実施形態とは異なり、パワーアシスト制御を自動的に開始させず、吊り上げ機構11を作動可能としたまま、介護者等の操作を待つ状態となる。
【0117】
パワーアシストスイッチ13dが操作されるまでは、新たな制御状態に移行せずに被介護者80をベッド上方に位置させる状態が維持され、介護者90が被介護者80を吊り具50及びハンガー部11cごと動かしてアーム11aに対する向きを変えたり、操作部13の上昇用スイッチ13bや下降用スイッチ13cを操作して吊り上げ機構11を作動させ、被介護者80の位置を上下に動かして調整できることとなる。
【0118】
必要に応じて被介護者80の位置や向きを調整した上で、介護者90がパワーアシストスイッチ13dを操作すると、制御部14は、このパワーアシストスイッチ13dへの操作入力を受けて、パワーアシスト制御を開始し(図14参照)、この制御開始時点の荷重検出値を被介護者80の体重として認定して記録し、この体重の値を制御の基準値に設定する。
【0119】
この後は、前記第1の実施形態と同様に、パワーアシスト制御状態として、被介護者80に対する介護者90の直接的な上下移動介助操作により、被介護者80に移動方向への介助力が加わると、制御部14はセンサ12で検出された総荷重から介護者90の加えた介助力を算出し、介助力が閾値の範囲を超える大きさである場合、この介助力に応じて吊り上げ機構11を作動させ、あたかも介護者90の被介護者80を直接動かそうとする操作でそのまま被介護者80が動くような状態での、被介護者80の移動を実現させることとなる。
【0120】
制御部14が上移動制御モードの制御を終了させるにあたり、第一の介護器具の特性、具体例として、ベッドの反発力によっては、被介護者80が介護器具上面から完全に離れない段階でも、センサ12による荷重検出量が変化せず一定となって、制御部14が上移動制御モードの制御を終了させる場合がある。
【0121】
このように、被介護者80が介護器具上面から完全に離れないまま上移動制御モードの制御が終了した際、そのまま前記第1の実施形態同様に制御部14がパワーアシスト制御を開始させた場合には、例えば、被介護者80を動かして介護器具上面から完全に離した瞬間の荷重検出値の急変を制御部14で介助力付加と誤認し、吊り上げ機構11で被介護者80を意図せず移動させる状況に陥り、これを本来の介護者90の移動介助操作に従う状態に戻すための複雑な作業対応を介護者90に要求するような事態が起り得る。
【0122】
これに対し、制御部14がパワーアシストスイッチ13dの操作に基づいてパワーアシスト制御を開始するようにすることで、例えば、パワーアシストスイッチ13dを操作して制御部14をパワーアシスト制御状態に移行させる前に、介護者90の上昇用スイッチ13b等操作で被介護者80が器具上面から完全に離れた状態になるまで調整する準備作業の機会を設けることができる。こうしてパワーアシストスイッチ13dの操作前に、介護者等が必要な作業を行うようにすれば、その後のパワーアシストスイッチ13d操作でパワーアシスト制御が開始された状況で、介護者90は被介護者80の移動に係る介助操作を吊り上げ機構11の補助の下、スムーズ且つ簡易に行うことができる。
【0123】
(本発明の第4の実施形態)
前記第1の実施形態に係るリフト装置において、制御部14は、上移動制御モードの制御で、吊り上げ機構11を作動させて被介護者80を乗せた吊り具50を上昇させる途中に、一回だけ、吊り上げ機構11の作動を中断させて上昇を一時停止させ、介護者90が被介護者80の吊り具50による支持状態の修正等の作業を行える状態を確保し、被介護者80の移動に問題のない状態が得られれば、介護者90の操作を受けて制御部14が吊り上げ機構11を作動させ、被介護者80の上昇を再開させる構成としているが、これに限らず、制御部14が、上移動制御モードで被介護者80を上昇させる途中に、複数回、吊り上げ機構11の作動を中断させて上昇を一時停止させる制御を行う構成とすることもできる。
【0124】
また、制御部が被介護者80の上昇を一時停止状態から再開させるにあたっては、制御部14が自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けてから上昇を再開させる制御を行う構成に限られるものではなく、図15に示すように、一時停止状態で制御部14がセンサ12で検出される荷重の変化を監視して、介護者90の作業終了を示す状態としての荷重変化が発生しなくなった状態への移行を判別したら、自動的に吊り上げ機構11を作動させ、被介護者80の上昇を再開させる制御を行う構成とすることもできる。この制御は、言い替えると、制御部14が、上移動制御モードにおける被介護者の上昇の一時停止状態を、介護者の所定の介助補助作業の実行に伴う荷重の変動がセンサ等の検出手段で検出される間、継続させるものとなる。
【0125】
このような本実施形態における制御部の上移動制御モードの制御について説明する。上移動制御モード以外の各制御による移動は前記第1の実施形態同様のものであり、説明を省略する。
【0126】
被介護者80を吊り上げる準備が整った状態で、介護者90が操作部13の自動制御スイッチ13aを操作すると、制御部14は、前記実施形態同様、自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、上移動制御モードの制御(図15参照)として、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bを作動させ、アーム11aを上方に傾動させる。傾動するアーム11aは、ハンガー部11cに掛かった吊り具50端部を少しずつ上方へ移動させ、緩んでいた吊り具50を緊張状態とする。
【0127】
吊り具50が緊張状態になると、被介護者80の体重に基づく荷重が、吊り具50及びハンガー部11cを介してアーム11aに伝わり、アーム先端のセンサ12で検出される荷重が少しずつ大きくなっていく。
【0128】
こうした中、センサ12で検出される荷重があらかじめ設定された第一の停止基準値、例えば、49~98N(5~10kgf)に達すると、制御部14は吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を停止させ、被介護者80の上昇を一時停止状態とする。
【0129】
この一時停止状態で、介護者90は、吊り具50の端部の紐部がハンガー部11cに正しく掛止されていることや、紐部が被介護者80に絡まる等の不具合が生じていないことを確認し、必要に応じて正す作業を行うことができる。
【0130】
制御部14は、一時停止後、センサ12での荷重検出出力に基づいて、吊り具50や被介護者80に対する介護者90の作業に伴う振動等により荷重変化が生じているかを監視しており、介護者90が作業を行っており、荷重変化が生じている間は、吊り上げ機構11の一時停止状態を継続する。
【0131】
そして、制御部14は、荷重の変化があらかじめ設定された所定の待機時間にわたって生じていないこと、すなわち、介護者90が作業を行わない状態が前記待機時間にわたって継続していることを判別すると、介護者90の作業終了と判断し、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を再開させ、被介護者80の上昇をあらためて開始させる。
【0132】
この上昇再開後、アーム11aの傾動で吊り具50に支持された被介護者80が上昇し、被介護者80の体重をベッド60又は車椅子70で支える状態から吊り具50で支える状態に少しずつ移り変わり、センサ12で検出される荷重が増大していく。こうした中で、センサ12で検出される荷重があらかじめ設定された第二の停止基準値、例えば、294N(30kgf)に達すると、制御部14は再度吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を停止させ、被介護者80の上昇を一時停止状態とする。
【0133】
この2回目の一時停止状態で、介護者90は被介護者80が吊り具50に偏りなく適切に支持されているかや、吊り具50のシート部分が介護者の身体に適切に接しているか等を確認し、必要に応じて正す作業を行うことができる。
【0134】
こうした2回目の一時停止状態においても、制御部14は、センサ12での荷重検出出力に基づいて、吊り具50や被介護者80に対する介護者90の作業に伴う振動等により荷重変化が生じているかを監視しており、介護者90の何らかの作業実行に伴って荷重変化が生じている間は、吊り上げ機構11の一時停止状態を継続する。
【0135】
そして、制御部14は、介護者90の作業を行わない状態が続き、荷重の変化が前記待機時間にわたって生じていないことを判別すると、介護者90の作業終了と判断し、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を再開させ、被介護者80の上昇があらためて開始される。
【0136】
この後は、前記第1の実施形態同様、吊り具50及び被介護者80の上昇が継続され、最終的に、センサ12で検出される荷重が所定時間変化しなくなり、被介護者80がベッド60上面に対し離れた、又は車椅子70に対し離れた、とみなせる状態になると、制御部14では移動の完了と判断し、上移動制御モードの制御を終了することとなる。
【0137】
なお、各一時停止状態を経ての上昇再開後、被介護者80を上方に移動させている間に、こうした被介護者80の移動等の継続に問題があると介護者90が判断し、介護者90が自動制御スイッチ13aや下降用スイッチ13cを操作した場合については、前記実施形態同様、制御部14は操作入力を受けて、吊り上げ機構11のアクチュエータ11bの作動を中断させ、被介護者80の移動を一時的に停止させるようにしてもよい。これらのうち、自動制御スイッチ13aが操作された場合には、介護者90が再度あらためて自動制御スイッチ13aを操作するまで、制御部は一時停止状態を継続する。再度の自動制御スイッチの操作後、制御部はアクチュエータ11bの作動を再開させ、移動の一時停止状態を解除して、被介護者80の離床に係る上昇が再開される。一方、下降用スイッチ13cが操作された場合には、上移動制御モードは中止され、制御部14によりアクチュエータ11bが逆向きに作動して、被介護者80を移動前のベッド60又は車椅子70に支持された初期状態に戻すようにされる。
【0138】
(本発明の第5の実施形態)
前記第1の実施形態に係るリフト装置において、制御部14は、パワーアシスト制御中に介護者90が自動制御スイッチ13aを操作すると、この自動制御スイッチ13aへの操作入力を受けて、下移動制御モードの制御に一律に移行する構成としているが、この他、制御部がパワーアシスト制御状態にあって、介護者が被介護者に対する介助操作を行わず、吊り上げ機構を作動させていない状況で、自動制御スイッチへの操作入力を受けた場合には、制御部が下移動制御モードに移行する一方、制御部が同じパワーアシスト制御状態にある中で、吊り上げ機構を作動させて被介護者を動かしている状態で、自動制御スイッチへの操作入力を受けた場合には、制御部はパワーアシスト制御を一旦停止し、介助力算出のための荷重の基準値として、被介護者の体重に相当する荷重をあらためて取得し設定した上で、パワーアシスト制御を再開する構成とすることもできる。
【0139】
この場合、パワーアシスト制御下での移動で、例えば、既に被介護者が第二の介護器具の上方に位置して、被介護者を下降させる以外の移動が必要なくなった状況では、介護者の所望のタイミングでの自動制御スイッチ操作により、制御部を下移動制御モードに移行させて、被介護者の第二の介護器具への移動をスムーズ且つ速やかに実行できる。
【0140】
また、例えば介護者の被介護者を操作する介助力が被介護者の静荷重の一部として認識されるなどして誤った基準値が設定され、介護者が移動介助操作を行わない状態において、誤った基準値と真の荷重との相違によって制御部が介助力ありと誤判定し、吊り上げ機構を作動させて被介護者の不適切な移動を生じさせている場合には、介護者が自動制御スイッチ操作によって直ちにパワーアシスト制御を中断させ、制御部における誤った荷重基準値の設定の解消を図れることとなり、パワーアシスト制御下での被介護者の移動の正確性と安全性がより確保しやすい。加えて、パワーアシスト制御の停止と正常化後の制御再開を指示するためのスイッチ等の操作手段を別途設ける必要がなく、装置のコストを抑えられる。
【0141】
なお、前記各実施形態に係るリフト装置は、移動可能な床走行タイプとしているが、これに限られるものではなく、アーム等の吊り上げ機構で吊り下げ支持する被介護者を第一の介護器具から第二の介護器具まで移動させられるものであれば、前記床走行タイプのような本体フレームごと移動させられる装置以外に、本体フレームが可動部と固定部とからなり、吊り上げ機構を設けられた本体フレームの可動部を本体フレームの固定部に対し可動範囲内で移動又は回転させて、被介護者を水平方向に移動させられる、固定設置式のリフト装置、例えば、本体フレームの固定部をベッドサイド等に固定する据置タイプのリフト装置や、本体フレームの固定部を天井に設置し、この固定部に対し本体フレームの可動部がスライドする天井走行タイプのリフト装置としてもかまわない。
【符号の説明】
【0142】
1 リフト装置
10 本体フレーム
10a 基台部
10b 起立部
10c ハンドル
11 吊り上げ機構
11a アーム
11b アクチュエータ
11c ハンガー部
12 センサ
13 操作部
13a 自動制御スイッチ
13b 上昇用スイッチ
13c 下降用スイッチ
13d パワーアシストスイッチ
14 制御部
50 吊り具
60 ベッド
70 車椅子
80 被介護者
90 介護者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15