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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110612
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】バジルを栽培する方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20230802BHJP
   A01G 22/15 20180101ALI20230802BHJP
【FI】
A01G7/00 601A
A01G22/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012181
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514108263
【氏名又は名称】株式会社ファームシップ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康治
(72)【発明者】
【氏名】西 康宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一平
(72)【発明者】
【氏名】角田 結衣
(72)【発明者】
【氏名】富田 康裕
(72)【発明者】
【氏名】北島 正裕
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB11
2B022DA01
2B022DA17
(57)【要約】
【課題】本明細書は効率的にバジルを栽培する方法を開示する。
【解決手段】本発明の一以上の実施形態は、人工光源により光条件が調節された環境下でバジルを栽培する方法であって、前記環境の温度が23℃以上、37℃以下であり、前記人工光源がLEDを含むこと、並びに、前記LEDによる光を、光合成光量子束密度が200μmol/m・秒以上となるように前記バジルに照射する光照射工程を含むことを特徴とする方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工光源により光条件が調節された環境下でバジルを栽培する方法であって、
前記環境の温度が23℃以上、37℃以下であり、
前記人工光源がLEDを含むこと、並びに、
前記LEDによる光を、光合成光量子束密度が200μmol/m・秒以上となるように前記バジルに照射する光照射工程を含むこと
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記光合成光量子束密度が440μmol/m・秒以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光照射工程を行う明期と、
前記LEDによる光を照射しない暗期と
を繰り返すことを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記バジルの発芽後から収穫まで、前記明期及び前記暗期を繰り返す、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、人工光源による光条件の調節された環境下でバジルを栽培する方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
光、温度等植物に植物栽培に必要な条件を人為的にコントロールして植物を栽培する植物栽培装置が知られている。大スケールの植物栽培装置は植物工場とも呼ばれる。
【0003】
植物工場での植物の生産を効率化するために、人工光源による光条件と植物の生育性との関係が従来から検討されている。
【0004】
例えば非特許文献1では、赤系リーフレタスを、明期23℃暗期20℃の温度条件で、赤青LED下で3水準の光合成光量子束密度(PPFD)(100、200、300μmol/m・秒)と3水準のB/R比(0.33、0.23、0.18)を組み合わせた9区、白色蛍光灯下で3水準のPPFD(100、200、300μmol/m・秒)の3区の条件で栽培したところ、総葉面積などはPPFDが高まるほど高くなったことが記載されている。
【0005】
特許文献1では、400~700nmの波長域を主波長とする光放射源、及び、遠赤外線光放射源からの光を、特定の光量子束密度比となるように組み合わせて照射することで、植物の生体重増加が加速され、生産所要時間が短縮できることが記載されている。特許文献1の実施例ではヒマワリの栽培の例が記載されている。
【0006】
特許文献2では、長日植物の開花促進用であって、波長600nmないし波長700nmの光量子束の積分値より波長700nmないし波長800nmの光量子束の積分値の方が大きい光を放射することを特徴とする発光装置が記載されている。特許文献2では長日植物の具体例として、ユリ、バラ、カーネーション、トルコギキョウ、シュッコンカスミソウ、スターチア、アストロメリア、ストック及びデルフィニウムが例示されている。
【0007】
特許文献3では、太陽光が照射されない時間帯で、かつ、周囲温度が5~40℃において、発光主波長が700~800nmにあり、かつ、上記主波長域の光量子束密度が0.04μmol/m・秒以上になるように遠赤色光を連続して前記長日植物に対して照射する工程を具備していることを特徴とする長日植物の栽培方法により、草丈生育及び開花が促進されることが記載されている。特許文献3の実施例では長日植物としてシュッコンカスミソウを栽培した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4-207127号公報
【特許文献2】特開2002-199816号公報
【特許文献3】特開2005-095132号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】古山真一、「光環境制御による赤系リーフレタスの高効率生産に関する研究」、https://core.ac.uk/download/pdf/96950368.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の先行技術文献では、バジルの栽培において収量を向上させるための温度条件及び光条件は記載されていない。
そこで本明細書では、人工光源により光条件が調節された環境下でバジルを栽培する方法であって、温度条件及び光条件が、バジルの栽培効率を高めるよう調節された方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書では上記課題を解決するための手段として下記の方法を開示する。
(1)人工光源により光条件が調節された環境下でバジルを栽培する方法であって
前記環境の温度が23℃以上、37℃以下であり、
前記人工光源がLEDを含むこと、並びに、
前記LEDによる光を、光合成光量子束密度が200μmol/m・秒以上となるように前記バジルに照射する光照射工程を含むこと
を特徴とする方法。
(2)前記光合成光量子束密度が440μmol/m・秒以下である、(1)に記載の方法。
(3)前記光照射工程を行う明期と、
前記LEDによる光を照射しない暗期と
を繰り返すことを含む、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記バジルの発芽後から収穫まで、前記明期及び前記暗期を繰り返す、(3)に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一以上の実施形態によれば、バジルを効率的に栽培することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<バジル>
本明細書において「バジル」は、スイートバジルとも呼ばれるOcimum basilicum L.、ホーリーバジルとも呼ばれるOcimum tenuiflorum、並びに、Ocimum basilicum L.又はOcimum tenuiflorumと、他の近縁種との交雑種を包含する。バジルには多くの栽培品種が知られているが、どの栽培品種のバジルに対しても本明細書に開示する方法は適用できる。Ocimum basilicum L.と他の近縁種との交雑種としてはレモンバジルが例示できる。
【0014】
<バジルの栽培方法>
本発明の一以上の実施形態は、人工光源により光条件が調節された環境下でバジルを栽培する方法であって
前記環境の温度が23℃以上、37℃以下であり、
前記人工光源がLED(発光ダイオード)を含むこと、並びに、
前記LEDによる光を、光合成光量子束密度が200μmol/m・秒以上となるように前記バジルに照射する光照射工程を含むこと
を特徴とする方法に関する。
【0015】
本実施形態に係る方法は、植物栽培装置又は植物工場を用いて実施することができる。特に、太陽光(自然光)を完全に遮断した、人工光源のみによる栽培で、好適に実施することができる。また、養液栽培により、好適に実施することができる。養液栽培としては、水耕栽培、噴霧栽培、固形培地耕栽培等が例示できる。
【0016】
本実施形態に係る方法では、環境温度、すなわち、栽培空間内のバジルの周囲温度を、23℃以上、37℃以下となるように調節することで、バジルの生長を促進し収量を高めることができる。前記環境温度の下限はより好ましくは24℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、特に好ましくは26℃以上である。前記環境温度の上限はより好ましくは36℃以下、更に好ましくは35℃以下、特に好ましくは34℃以下である。
【0017】
本実施形態に係る方法において、温度制御は、前記環境温度を調節する冷房装置及び/又は暖房装置と、バジルの周囲に設置された温度センサーと、前記温度センサーで検知された温度の情報と設定温度の情報とに基づいて前記冷房装置及び/又は前記暖房装置を制御する制御部とを備えた植物栽培装置又は植物工場を用いて実施することができる。前記制御部による温度の制御幅は、前記設定する環境温度の好ましくは±2℃以内、より好ましくは±1℃以内とすることができる。
【0018】
本実施形態に係る方法における前記光照射工程は、LEDによる光を、光合成光量子束密度(以下、PPFDと略称する場合がある)が200μmol/m・秒以上となるようにバジルに照射することを特徴とする。PPFDをこの範囲に調節することで、バジルの生長を促進し収量を高めることができる。PPFDの下限はより好ましくは220μmol/m・秒以上であり、最も好ましくは230μmol/m・秒以上である。PPFDの上限は特に限定されないが、好ましくは440μmol/m・秒以下であり、より好ましくは400μmol/m・秒以下であり、特に好ましくは360μmol/m・秒以下であり、最も好ましくは350μmol/m・秒以下である。PPFDが440μmol/m・秒以下である場合、バジルの外観及び味覚面での品質が向上するため好ましい。
【0019】
PPFDとは、日本光合成学会の定義に従い、単位時間に単位面積を通過する光量子のうち、光合成に有効な400nmから700nmまでの波長域の光量子の数をいう。
【0020】
本実施形態に係る方法において、PPFDは、作物がない状態(無栽植時)の、育成床の上面等の栽培面における光の強度で規定される。すなわち、PPFDは、栽培面における光の強度を測定することにより求められる。例えば、育成床の上面のほぼ全範囲にわたり、縦横方向にそれぞれ等間隔で碁盤状に設けた測定点(例えば、2~12カ所)において測定したPPFDの平均値が、本発明で規定した範囲になればよい。この場合、PPFDを測定する栽培面とは、栽培面及びその近傍の空間を指し、例えば、栽培面及びその上方の空間(栽培面から例えば5cm程度上方までの空間)を指す。
【0021】
本実施形態に係る方法では、バジルの生長に伴い、栽培面とLEDとの距離を経時的に連続的又は段階的に変化させてもよい。例えば、バジルの葉面とLEDとの距離がほぼ一定になるように、栽培面とLEDとの距離を、経時的に連続的又は段階的に大きくすることができる。栽培面とLEDとの距離を経時的に連続的又は段階的に変化させる態様では、栽培中での前記距離の最小値と最大値の中間の距離(高さ)となるように栽培面とLEDとの距離を設定したときの、無栽植時のPPFDが前記範囲となるようにすればよい。栽培面とLEDとの距離を変化させる手段は、LEDを栽培面に対して上下移動可能に設ける、栽培棚の高さで調整する等任意である。
【0022】
人工光源としてはLED(発光ダイオード)が好ましい。LEDとしては、光合成に有効な400nmから700nmまでの波長域の範囲内の光を発するものであればよく、赤色、青色、緑色のうち少なくとも1色を発するLEDが例示でき、白色LEDが特に好ましい。
【0023】
以上の本実施形態に係る方法における、前記環境温度での光照射工程は、バジルの発芽後から収穫までの全ての期間にわたって、あるいは、一部の期間、例えば、育苗した苗を定植後から収穫までの期間に、実施すればよい。
【0024】
本実施形態に係る方法は、好ましくは、前記光照射工程を行う明期と、前記LEDによる光を照射しない暗期とを繰り返すことを含む。より好ましくは、バジルの発芽後から収穫までの全ての期間にわたって、あるいは、一部の期間、例えば、育苗した苗を定植した後に、前記明期及び前記暗期を繰り返すことを含む。
【0025】
明期は、人工光源による光を、光合成が可能な程度の光強度で照射する条件であり、明期において照射される光は、太陽光(自然光)を含まないことが好ましい。暗期は、前記人工光源による光を照射しない期間のことをいう。
【0026】
前記明期と前記暗期の時間は適宜調節することができるが、好ましくは、前記明期は1回あたり13時間より長いことが好ましく、13.5時間以上がより好ましく、14時間以上が特に好ましい。また、前記明期は1回あたり20時間以下がより好ましく、19時間以下が特に好ましい。前記暗期は1回あたり4時間以上が好ましく、4.5時間以上がより好ましく、5時間以上が特に好ましい。また、前記暗期は1回あたり10時間以下が好ましく、10時間未満がより好ましく、9.5時間以下が更に好ましく、9時間以下、8時間以下が特に好ましい。
【0027】
さらに、1回の前記明期と1回の前記暗期とからなる1周期は、18時間以上であればよく、19時間以上であることがより好ましく、19.5時間以上であることが更に好ましく、20時間以上であることが特に好ましい。また、前記周期は、24時間以下が好ましく、より好ましくは23.5時間以下であり、更に好ましくは23時間以下である。前記周期が24時間未満である場合、24時間以上の場合と比較して栽培期間を短縮することができ、時間当たりの栽培効率を高めることができるため好ましい。本実施形態では、明期と暗期とを交互に繰り返し行えばよく、明期から始めるか、暗期から始めるかは任意である。
【0028】
前記周期の回数は特に限定されないが、本発明のより好ましい実施形態では、バジルの苗を定植後、上記の条件の周期を5~10回繰り返した後、葉の1回目の収穫を行い、続いて、上記の条件の周期を5~10回繰り返した後、葉の2回目の収穫を行うことができる。
【0029】
本実施形態に係る方法においてバジルを栽培する際の湿度、CO濃度等の諸条件はバジルの栽培に適した範囲に調節することができる。本実施形態に係る方法において、相対湿度は50%以上、90%以下が好ましく、65%以上、80%以下がより好ましく、CO濃度は500ppm以上、5000ppm以下が好ましく、750ppm以上、3000ppm以下がより好ましい。
【実施例0030】
<実験1:スイートバジルの栽培>
(育苗)
植物栽培装置の栽培室内で、スイートバジル(Ocimum basilicum L.):バジリーナ(フタバ種苗社)の種子を、養液を吸水させたウレタン培地に播種し、1対の本葉の長径が、約60mm以上になる程度の大きさまで育苗した。
【0031】
(苗からのバジルの栽培)
植物栽培装置の栽培室で、育成床上に、養液上に栽培パネルを浮かべた容器を設置し、前記のスイートバジルの苗を、前記栽培パネルに定植した。前記栽培パネルは、面積約0.07m(約21.5cm×約32.5cm)の、略方形のものを、2枚配置し、各栽培パネルに、前記のスイートバジルの苗を4茎定植した。
【0032】
栽培室の環境温度を、下記の表1、表2及び表3に記載の温度に設定し、育成床の上方に設置した白色LED灯(「PGL-NE-200NWB」、菱電商事株式会社)を用いて、下記の表1、表2及び表3に記載の光合成有効量子束密度(PPFD)で光照射する明期、及び光照射を行わない暗期を、明暗周期24時間(明期16時間/暗期8時間)となるように光照射を行った。いずれの場合も、相対湿度を、飽差(ある気温における空気中の飽和水蒸気圧と実際に含まれる水蒸気圧との差)を考慮して、75%~90%とし、CO濃度を、1000、2000又は2300ppmの条件とした。
【0033】
前記栽培室では、暖房装置及び冷房装置によって、室内の各所に設置した温度センサーの検知に基づいて、栽培空間の温度、すなわち植物体の環境温度を、設定温度を中心に±2℃の範囲内に制御した。
【0034】
栽培室の栽培空間の高さは、育成床の表面より約360mmであり、天板に白色LED灯を配置させた。白色LED灯と育成床の表面との距離は、約280mmである。
【0035】
光合成有効量子束密度(PPFD)は、LI-COR社製LI-250Aライトメーターを用い、以下の手順で求めた。
すなわち、前記の各栽培パネルの上に、縦横方向にそれぞれほぼ等間隔で、碁盤状に、測定点を6カ所設け、各々で測定したPPFDの平均値を求めた。
【0036】
苗の定植後、前記の明暗周期を7回繰り返す光照射を行い、生育したバジルを、最下葉より上方約2cmの切断位置で刈り取り、1回目の収穫(収穫1)を行った。
【0037】
さらに、前記1回目の収穫後に残った茎よりバジルを再生し、前記と同様の明暗周期を6回繰り返す光照射を行い、前記切断位置の近傍から生育した腋芽を、最下葉より下方の茎長が約4cmになる位置で刈り取り、2回目の収穫(収穫2)を行った。
【0038】
育成床1区画において、前記収穫1及び前記収穫2で収穫したバジル8茎の平均重量(収量)を測定すると共に、品質を評価し、総合評価を行った。
【0039】
結果を、下記の表1、表2及び表3に示した。表1と表2に記載の、設定温度26℃での実験結果は別ロットのバジルを用いた別の実験での結果である。表2に示す実験結果は収穫1の収穫物のみを用いた結果である。
【0040】
条件及び結果を下記表に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
評価基準
収量合計
〇:20g以上
△:12g以上、20g未満
×:12g未満
【0043】
品質
〇:問題なし
△:若干問題あり(許容レベル)
×:問題あり(許容外)
【0044】
総合評価
◎:収量及び品質の両方が〇
〇:収量及び品質の一方が〇、他方が△
△:収量及び品質の両方が△
×:収量及び品質の少なくとも一方が×
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
評価基準
収量合計
〇:15g以上
△:10g以上、15g未満
×:10g未満
【0048】
品質
〇:問題なし
△:若干問題あり(許容レベル)
×:問題あり(許容外)
【0049】
総合評価
◎:収量及び品質の両方が〇
〇:収量及び品質の一方が〇、他方が△
△:収量及び品質の両方が△
×:収量及び品質の少なくとも一方が×
【0050】
表1及び表2に示す結果から、人工光源によるバジルの栽培において、環境温度が26℃以上、36℃以下であり、PPFDが300μmol/m・秒の条件で、良好な生育が認められ、前記の条件が、バジルの収量を向上させ、品質を高めるために、有効であることが確認された。環境温度が38℃の場合は、収量、品質のいずれも不良であった。
【0051】
表3に示す結果から、環境温度が30℃であり、PPFDが、237.6μmol/m・秒以上、351.7μmol/m・秒以下の条件で、良好な生育が認められ、前記の条件が、バジルの収量を向上させ、品質を高めるために、有効であることが確認された。PPFDが、113.1μmol/m・秒の場合は、収量が低く、449.4μmol/m・秒である場合は、収量が増えても、品質が低くなる傾向であった。
【0052】
特に、1回目の収穫後に残った茎からバジルの再生を促す期間において、前記条件の温度及び光強度による光照射が、効果的である。
【0053】
<実験2:他のバジルの栽培>
実験1で用いたスイートバジル、これとは別のスイートバジル2種:Aroma2(Johnsons社)及びカンピオーネ(小林種苗社)、並びに、ホーリーバジル(Ocimum tenuiflorum)の種子(藤田種子社)を、それぞれ実験1で用いたスイートバジル(Ocimum basilicum L.)の種子の代わりに用い、下記の表4に記載の、環境温度、PPFD、及びCO濃度とした以外は、実験1と同じ手順により、バジルを栽培した。評価は、実験1と同じ手順により、1回目及び2回目の収穫を行って、収量を測定した。表4に条件及び結果を示す。なおスイートバジル(バジリーナ)の実験では実験1と同一品種を用いているが、実験1とは別ロットでの実験の結果である。
【0054】
【表4】
【0055】
評価基準
収量合計
〇:12.00g以上
△:10.00g以上、12.00g未満
×:10.00g未満
【0056】
別のバジルについても、環境温度が26℃、PPFDが、300μmol/m・秒の条件で、実験1で用いたバジリーナと同じ程度の、良好な生育が認められ、前記の条件で、これらのバジルの収量を向上させることができた。
【0057】
<実験3:明期、暗期の条件>
(育苗)
植物栽培装置の栽培室内で、スイートバジル(Ocimum basilicum L.):バジリーナ(フタバ種苗社)の種子を、養液を吸水させたウレタン培地に播種し、1対の本葉の長径が、約60mm以上になる程度の大きさまで育苗した。
【0058】
(苗からのバジルの栽培)
植物栽培装置の栽培室で、育成床上に、養液上に栽培パネルを浮かべた容器を設置し、前記のスイートバジルの苗を、前記栽培パネルに定植した。前記栽培パネルは、面積約0.07m(約21.5cm×約32.5cm)の、略方形のものを、2枚配置し、各栽培パネルに、前記のスイートバジルの苗を4茎定植した。
【0059】
栽培室の環境温度を、温度26℃に設定し、育成床の上方に設置した白色LED灯(「PGL-NE-200NWB」、菱電商事株式会社)を用いて、光合成有効量子束密度(PPFD)300μmol/m・秒で光照射する明期及び光照射を行わない暗期の時間が表5に示す条件となるように光照射を行った。いずれの場合も、相対湿度75%、CO濃度1000ppmの条件とした。
【0060】
前記栽培室では、暖房装置及び冷房装置によって、室内の各所に設置した温度センサーの検知に基づいて、栽培空間の温度、すなわち植物体の環境温度を、設定温度を中心に±2℃の範囲内に制御した。
【0061】
栽培室の栽培空間の高さは、育成床の表面より約360mmであり、天板に白色LED灯を配置させた。白色LED灯と育成床の表面との距離は、約280mmである。
【0062】
光合成有効量子束密度(PPFD)は、LI-COR社製LI-250Aライトメーターを用い、以下の手順で求めた。
すなわち、前記の各栽培パネルの上に、縦横方向にそれぞれほぼ等間隔で、碁盤状に、測定点を6カ所設け、各々で測定したPPFDの平均値を求めた。
【0063】
苗の定植後、前記の明暗周期を7回繰り返す光照射を行い、生育したバジルを、最下葉より上方約2cmの切断位置で刈り取り、1回目の収穫(収穫1)を行った。
【0064】
さらに、前記1回目の収穫後に残った茎よりバジルを再生し、前記と同様の明暗周期を6回繰り返す光照射を行い、前記切断位置の近傍から生育した腋芽を、最下葉より下方の茎長が約4cmになる位置で刈り取り、2回目の収穫(収穫2)を行った。
【0065】
育成床1区画(栽培パネル2枚)において、前記収穫1及び前記収穫2で収穫したバジル8茎の平均重量(収量)を測定した。
【0066】
表5において、前記収穫1及び前記収穫2における収量を、育成床の面積約1mあたりの重量、及び育成時間及び同単位面積当たりの重量として表した。
【0067】
表5に結果を示す。枠内の中段が、単位面積当たりの重量(g/m)、下段が、育成時間及び単位面積当たりの重量(g/m/h)である。表5の枠内の上段は収量の評価を示す。収量の評価は以下の基準で判定した。
<評価基準>
◎:育成時間及び単位面積当たりの重量(g/m/h)が、3.00以上である。
〇:育成時間及び単位面積当たりの重量(g/m/h)が、2.50以上3.00未満である。
△:育成時間及び単位面積当たりの重量(g/m/h)が、2.00以上2.50未満である。
×:育成時間及び単位面積当たりの重量(g/m/h)が、2.00未満である。
【0068】
【表5】