(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110637
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】水系防汚剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20230802BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20230802BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230802BHJP
C09D 183/12 20060101ALI20230802BHJP
C09D 191/06 20060101ALI20230802BHJP
C09D 123/20 20060101ALI20230802BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/16
C09D5/02
C09D183/12
C09D191/06
C09D123/20
C09K3/00 112F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012216
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺垣 博之
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA212
4J038CB132
4J038DF012
4J038DL132
4J038HA216
4J038JA17
4J038JC38
4J038KA05
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA10
4J038MA15
4J038NA05
4J038PB07
4J038PC05
(57)【要約】
【課題】良好な貯蔵安定性を示し、更に、塗着量が少ない場合でも、良好な長期防汚性を示す水系防汚剤組成物及びその製造方法を提供すること。更に、前記防汚剤組成物から形成された防汚被膜及び該防汚被膜で被覆された防汚被膜付き基材を提供すること。
【解決手段】ポリエーテルシリコーン(A)、マイクロクリスタリンワックス(B)、
ポリブテン(C)、防汚剤(D)、及び水溶性有機溶媒(E)を含有し、前記ポリエーテルシリコーン(A)が、側鎖及び末端の少なくともいずれかが下記変性基Yで変性されてなるポリジメチルシロキサンである、水系防汚剤組成物。
(R
aは単結合又は2価の連結基を示し、R
bは水素原子又は炭素数1以上15以下の1価の有機基を示し、a及びbは1以上の整数を表し、*は、Siとの結合位置を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルシリコーン(A)、
マイクロクリスタリンワックス(B)、
ポリブテン(C)、
防汚剤(D)、及び
水溶性有機溶媒(E)を含有し、
前記ポリエーテルシリコーン(A)が、側鎖及び末端の少なくともいずれかが下記変性基Yで変性されてなるポリジメチルシロキサンである、
水系防汚剤組成物。
【化1】
(R
aは単結合又は2価の連結基を示し、R
bは水素原子又は炭素数1以上15以下の1価の有機基を示し、a及びbは1以上の整数を表し、*は、Siとの結合位置を表す。)
【請求項2】
前記ポリエーテルシリコーン(A)が、下記式(1)で表される、請求項1に記載の水系防汚剤組成物。
【化2】
(式(1)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1以上15以下のアルキル基又はYを示し、X
3はYを示し、R
aは単結合又は2価の連結基を示し、R
bは水素原子又はそれぞれ炭素数が1以上15以下の1価の有機基を示し、m、a、bは1以上の整数を表し、nは0以上の整数を表し、*は、Siとの結合位置を表す。但し、nが0のとき、X
1及び/又はX
2は上記Yである。)
【請求項3】
前記ポリエーテルシリコーン(A)の(ポリ)エチレンオキシ(EO)基と(ポリ)プロピレンオキシ(PO)基のモル比[EO/PO]が、0.1以上5.0以下である、請求項1又は2に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項4】
前記ポリエーテルシリコーン(A)に対する、前記マイクロクリスタリンワックス(B)の質量比[(B)/(A)]が、1.0以上20.0以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項5】
前記マイクロクリスタリンワックス(B)が、マイクロクリスタリンワックスエマルションとして配合されてなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項6】
水系防汚剤組成物の固形分100質量部中、前記ポリエーテルシリコーン(A)を1質量部以上20質量部以下含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項7】
水系防汚剤組成物の固形分100質量部中、マイクロクリスタリンワックス(B)を10質量部以上35質量部以下含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項8】
前記防汚剤(D)が、亜酸化銅、銅ピリチオン、及びビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートよりなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項9】
水系防汚剤組成物の固形分100質量部中、アクリル系樹脂、及び酢酸ビニル系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂の含有量が3質量部以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項10】
前記水溶性有機溶媒(E)が、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ及びブチルセロソルブよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~9のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項11】
漁網用である、請求項1~10のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物から形成された防汚被膜。
【請求項13】
請求項12に記載の防汚被膜で被覆された防汚被膜付き基材。
【請求項14】
下記工程1~工程3を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物の製造方法。
工程1:ポリエーテルシリコーン(A)及びポリブテン(C)を水溶性有機溶媒(E)に溶解して、溶液を得る工程
工程2:工程1で得られた溶液を、水系媒体に強制乳化して、乳化液を得る工程
工程3:工程2で得られた乳化液と、マイクロクリスタリンワックス(B)及び防汚剤(D)とを混合する工程
【請求項15】
下記工程1’~工程3’を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の水系防汚剤組成物の製造方法。
工程1’:ポリエーテルシリコーン(A)を水溶性有機溶媒(E)に溶解して、溶液を得る工程
工程2’:工程1’で得られた溶液を、水系媒体に強制乳化して、乳化液を得る工程
工程3’:工程2’で得られた乳化液と、マイクロクリスタリンワックス(B)、ポリブテン(C)及び防汚剤(D)とを混合する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系防汚剤組成物、これを用いた防汚塗膜及び防汚塗膜付き基材、並びに水系防汚剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、漁網用防汚剤組成物などの防汚剤組成物は、アクリル樹脂等、合成樹脂を含有する組成物が主流である。しかしながら、近年、環境への配慮から、生分解性の材料が使用された防汚剤組成物が望まれている。
特許文献1には、水中浸漬時から長期に亘り適度な薬剤放出量を維持し、優れた防汚性能を長期間継続的に発揮することができる漁網防汚塗料組成物を提供することを目的として、マイクロクリスタリンワックス(A)、シリコーンオイル(B)、及び、防汚薬剤(C)を含有する、漁網防汚塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、漁網に漁網用防汚剤組成物を付着させるためには、染網と呼ばれる、漁網用防汚剤組成物の中に、漁網を浸漬させ、漁網の表面に塗膜を形成する作業が行われている。この際、漁網用防汚剤組成物の粘度が高いと、塗着量(網へ付着する量)が多くなることで、塗膜の乾燥性も不良となるといった問題があった。一方、塗着量が不十分である場合、長期に優れた防汚性を維持することは困難であった。
特許文献1に記載の漁網防汚塗料組成物は、生分解性が期待されるマイクロクリスタリンワックスを含有する点で、環境負荷が低減されているものの、該組成物は、貯蔵安定性が不十分であった。
貯蔵安定性が不十分である場合、漁網用防汚剤組成物の製造から実際に使用するまでの間に、漁網用防汚剤組成物の粘度が上昇し、上記問題が起こりやすい。
【0005】
本発明は、初期粘度が低く、良好な貯蔵安定性を示し、更に、塗着量が少ない場合でも、良好な長期防汚性を示す水系防汚剤組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。更に本発明は、前記防汚剤組成物から形成された防汚被膜及び該防汚被膜で被覆された防汚被膜付き基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題に鑑み鋭意研究したところ、特定のポリエーテルシリコーン、マイクロクリスタリンワックス、ポリブテン、防汚剤、及び水溶性有機溶媒を含有する防汚剤組成物を採用することにより、前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の[1]~[15]に関する。
[1] ポリエーテルシリコーン(A)、マイクロクリスタリンワックス(B)、
ポリブテン(C)、防汚剤(D)、及び水溶性有機溶媒(E)を含有し、前記ポリエーテルシリコーン(A)が、側鎖及び末端の少なくともいずれかが下記変性基Yで変性されてなるポリジメチルシロキサンである、水系防汚剤組成物。
【0007】
【化1】
(R
aは単結合又は2価の連結基を示し、R
bは水素原子又は炭素数1以上15以下の1価の有機基を示し、a及びbは1以上の整数を表し、*は、Siとの結合位置を表す。)
【0008】
[2] 前記ポリエーテルシリコーン(A)が、下記式(1)で表される、[1]に記載の水系防汚剤組成物。
【0009】
【化2】
(式(1)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1以上15以下のアルキル基又はYを示し、X
3はYを示し、R
aは単結合又は2価の連結基を示し、R
bは水素原子又はそれぞれ炭素数が1以上15以下の1価の有機基を示し、m、a、bは1以上の整数を表し、nは0以上の整数を表し、*は、Siとの結合位置を表す。但し、nが0のとき、X
1及び/又はX
2は上記Yである。)
【0010】
[3] 前記ポリエーテルシリコーン(A)の(ポリ)エチレンオキシ(EO)基と(ポリ)プロピレンオキシ(PO)基のモル比[EO/PO]が、0.1以上5.0以下である、[1]又は[2]に記載の水系防汚剤組成物。
[4] 前記ポリエーテルシリコーン(A)に対する、前記マイクロクリスタリンワックス(B)の質量比[(B)/(A)]が、1.0以上20.0以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物。
[5] 前記マイクロクリスタリンワックス(B)が、マイクロクリスタリンワックスエマルションとして配合されてなる、[1]~[4]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物。
[6] 水系防汚剤組成物の固形分100質量部中、前記ポリエーテルシリコーン(A)を1質量部以上20質量部以下含有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物。
[7] 水系防汚剤組成物の固形分100質量部中、マイクロクリスタリンワックス(B)を10質量部以上35質量部以下含有する、[1]~[6]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物。
[8] 前記防汚剤(D)が、亜酸化銅、銅ピリチオン、及びビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートよりなる群から選択された少なくとも1種を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物。
[9] 水系防汚剤組成物の固形分100質量部中、アクリル系樹脂、及び酢酸ビニル系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂の含有量が3質量部以下である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物。
[10] 前記水溶性有機溶媒(E)が、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ及びブチルセロソルブよりなる群から選択される少なくとも1つである、[1]~[9]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物。
[11] 漁網用である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物。
[12] [1]~[11]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物から形成された防汚被膜。
[13] [12]記載の防汚被膜で被覆された防汚被膜付き基材。
[14] 下記工程1~工程3を含む、[1]~[11]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物の製造方法。
工程1:ポリエーテルシリコーン(A)及びポリブテン(C)を水溶性有機溶媒(E)に溶解して、溶液を得る工程
工程2:工程1で得られた溶液を、水系媒体に強制乳化して、乳化液を得る工程
工程3:工程2で得られた乳化液と、マイクロクリスタリンワックス(B)及び防汚剤(D)とを混合する工程
[15] 下記工程1’~工程3’を含む、[1]~[11]のいずれか1つに記載の水系防汚剤組成物の製造方法。
工程1’:ポリエーテルシリコーン(A)を水溶性有機溶媒(E)に溶解して、溶液を得る工程
工程2’:工程1’で得られた溶液を、水系媒体に強制乳化して、乳化液を得る工程
工程3’:工程2’で得られた乳化液と、マイクロクリスタリンワックス(B)、ポリブテン(C)及び防汚剤(D)とを混合する工程
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、初期粘度が低く、良好な貯蔵安定性を示し、更に、塗着量が少ない場合でも、良好な長期防汚性を示す水系防汚剤組成物及びその製造方法が提供される。更に本発明によれば、前記防汚剤組成物から形成された防汚被膜及び該防汚被膜で被覆された防汚被膜付き基材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の水系防汚剤組成物及びその製造方法、該水系防汚剤組成物を用いた防汚被膜、並びに防汚塗被膜付き基材について詳細に説明する。
【0013】
[水系防汚剤組成物]
本発明の水系防汚剤組成物(以下、「防汚剤組成物」又は「組成物」ともいう)は、ポリエーテルシリコーン(A)、マイクロクリスタリンワックス(B)、ポリブテン(C)、防汚剤(D)、及び水溶性有機溶媒(E)を含有し、前記ポリエーテルシリコーン(A)が、側鎖及び末端の少なくともいずれかが下記変性基Yで変性されてなるポリジメチルシロキサンである。なお、以下の説明において、「本発明の水系防汚剤組成物」を「本組成物」ともいうこととする。
【0014】
【化3】
(R
aは単結合又は2価の連結基を示し、R
bは水素原子又は炭素数1以上15以下の1価の有機基を示し、a及びbは1以上の整数を表し、*は、Siとの結合位置を表す。)
【0015】
本発明によれば、初期粘度が低く、良好な貯蔵安定性を示し、更に、塗着量が少ない場合でも、良好な長期防汚性を示す水系防汚剤組成物が提供される。
貯蔵安定性が不十分である場合、水系防汚剤組成物の製造から実際に使用するまでの間に水系防汚剤組成物の粘度が上昇し、例えば、漁網用防汚剤組成物として使用する場合、染網において、水系防汚剤組成物の漁網への塗着量が多くなることで、乾燥性が不良となるという問題がある。また、水系防汚剤組成物の塗着量を少なくすることができれば、乾燥性が向上するだけでなく、水系防汚剤組成物の使用量を低く抑えられ、コスト的にもメリットがある。よって、塗着量が少なくても、長期防汚性を発揮できる漁網用防汚剤組成物の開発が望まれている。
本組成物により、上記の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、以下のように考えられる。ポリエーテルシリコーン(A)として、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基の両方を有する変性基により変性されたポリジメチルシロキサンを使用し、更に、該ポリエーテルシリコーン(A)を、水溶性有機溶媒(E)を用いて強制乳化することにより、初期粘度が低く、かつ、良好な貯蔵安定性が得られたものと考えられる。ここで、エチレンオキシ基は、貯蔵安定性への寄与が大きく、また、プロピレンオキシ基は、初期粘度の低下への寄与が大きい。よって、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基の双方を有する変性基により変性されたポリエーテルシリコーンを使用することで、初期粘度の低下と貯蔵安定性の向上が両立できたものと考えられる。更に、マイクロクリスタリンワックス(B)、可塑剤であるポリブテン(C)及び防汚剤(D)を含有することで、塗着量が少ない場合でも、良好な長期防汚性を示すものと考えられる。
以下、水系防汚剤組成物が含有する各成分について説明する。
【0016】
〔ポリエーテルシリコーン(A)〕
本組成物は、ポリエーテルシリコーン(A)を含有し、前記ポリエーテルシリコーン(A)が、側鎖及び末端の少なくともいずれかが下記変性基Yで変性されてなる。
すなわち、ポリエーテルシリコーン(A)は、(ポリ)エチレンオキシ基と、(ポリ)プロピレンオキシ基との両方を有する。なお、プロピレンオキシ基は、直鎖状と分岐状のいずれでもよく、特に限定されない。
【0017】
【化4】
(R
aは単結合又は2価の連結基を示し、R
bは水素原子又は炭素数1以上15以下の1価の有機基を示し、a及びbは1以上の整数を表し、*は、Siとの結合位置を表す。)
【0018】
上記Raは、単結合又は2価の連結基を示し、2価の連結基としては、アルキレン基が好ましく例示される。Raがアルキレン基である場合、前記アルキレン基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは6以下である。
Rbは、水素原子又は炭素数1以上15以下の1価の有機基を示し、該有機基は、炭素原及び水素原子に加えて、酸素原子、窒素原子を有していてもよく、また、水素原子の一部又はすべてがハロゲン原子により置換されていてもよい。Rbは、好ましくは水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基又はアシル基(-C(=O)-CH3)、より好ましくは水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基又はアシル基である。
【0019】
aは1以上の整数を示し、好ましくは3以上の整数であり、そして、好ましくは50以下の整数、より好ましくは40以下の整数、更に好ましくは30以下の整数である。
bは1以上の整数を示し、好ましくは3以上の整数であり、そして、好ましくは50以下の整数、より好ましくは40以下の整数、更に好ましくは30以下の整数である。
また、aの平均値は1以上、好ましくは3以上であり、そして、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下である。
同様に、bの平均値は1以上、好ましくは3以上であり、そして、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下である。
なお、(ポリ)エチレンオキシ基と(ポリ)プロピレンオキシ基は、変性基Y中で、ランダムに存在していてもよく、(ポリ)エチレンオキシ基と(ポリ)プロピレンオキシ基が、ブロックで存在していてもよく、特に限定されない。
また、ポリエーテルシリコーン(A)1モル当たりのエチレンオキシ基の付加モル数は、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上であり、そして、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下である。
ポリエーテルシリコーン(A)1モル当たりのプロピレンオキシ基の付加モル数は、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上であり、そして、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下である。
なお、ポリエーテルシリコーン(A)1モル当たりのエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基の付加モル数とは、ポリエーテルシリコーン(A)が例えば両末端が変性基Yで変性されている場合には、両末端のエチレンオキシ基又は両末端のプロピレンオキシ基の合計である。また、ポリエーテルシリコーン(A)が複数の種類の変性基Yで変性されている場合には、合計の付加モル数を意味する。
【0020】
ポリエーテルシリコーン(A)は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0021】
【化5】
(式(1)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1以上15以下のアルキル基又はYを示し、X
3はYを示し、R
aは単結合又は2価の連結基を示し、R
bは水素原子又はそれぞれ炭素数が1以上15以下の1価の有機基を示し、m、a、bは1以上の整数を表し、nは0以上の整数を表し、*は、Siとの結合位置を表す。但し、nが0のとき、X
1及び/又はX
2は上記Yである。)
【0022】
式(1)中、Ra、Rb、a、bは、上述した変性基Y中のRa、Rb、a、bと同じであり、好ましい範囲も同様である。
式(1)中、X1及びX2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1以上15以下のアルキル基又はYを示す。アルキル基の炭素数は、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上6以下、更に好ましくは1以上3以下、より更に好ましくは1、すなわちメチル基である。X1及びX2としては、メチル基又はYであることが特に好ましい。
mは1以上の整数を表し、好ましくは3以上の整数、より好ましくは5以上の整数であり、そして、好ましくは1000以下の整数、より好ましくは500以下の整数、更に好ましくは100以下の整数である。
nは0以上の整数を表し、好ましくは100以下の整数、より好ましくは70以下の整数、更に好ましくは40以下、より更に好ましくは20以下の整数である。
【0023】
また、式(1)で表されるポリエーテルシリコーン(A)におけるmの平均値は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは100以下である。
同様に、nの平均値は、0以上であり、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは40以下、より更に好ましくは20以下である。
【0024】
式(1)中、nが0である場合、すなわち、側鎖に変性基Yを有しない場合には、X1及び/又はX2は、上記変性基Yである。X1及びX2の少なくともいずれかが変性基Yであればよい。
【0025】
ポリエーテルシリコーン(A)は、以下(1)~(4)のいずれの態様であってもよい。
(1)側鎖のみに変性基Yを有する。
この場合、X1及びX2は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~15のアルキル基であり、nは1以上の整数である。
(2)片末端のみに変性基Yを有する。
この場合、X1及びX2のいずれか一方が変性基Yであり、他方は水素原子又は炭素数1以上15以下のアルキル基である。そして、n=0である。
(3)両末端のみに変性基Yを有する。
この場合、X1及びX2が変性基Yであり、n=0である。
(4)側鎖及び末端に変性基Yを有する。
この場合、X1及びX2の少なくとも1つが変性基Yであり、nは1以上の整数である。
これらの中でも、ポリエーテルシリコーン(A)は、好ましくは(1)又は(3)の態様、より好ましくは(3)の態様である。
【0026】
ポリエーテルシリコーン(A)のエチレンオキシ(EO)基と、プロピレンオキシ(PO)基のモル比[EO/PO]、すなわち、変性基Y中のa/bは、初期粘度が低く、貯蔵安定性に優れ、かつ塗着量が少なくても長期防汚性に優れた組成物を得る観点から、好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは5.0以下、より好ましくは2.0以下、更に好ましくは1.0以下、より更に好ましくは0.8以下である。
ポリエーテルシリコーン(A)中のEO基とPO基とのモル比は、例えば、1H NMR測定により測定できる。
【0027】
ポリエーテルシリコーン(A)の25℃における動粘度は、初期粘度を低くする観点、防汚性及び組成物の塗工作業性等の観点から、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは50mm2/s以上、更に好ましくは100mm2/s以上であり、そして、好ましくは5000mm2/s以下、より好ましくは2000mm2/s以下、更に好ましくは500mm2/s以下である。
ポリエーテルシリコーン(A)の動粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0028】
ポリエーテルシリコーン(A)は、従来公知の方法、例えば、≡SiH基を含有するオルガノポリシロキサンに、分子鎖末端にビニル基、アリル基等の不飽和基、及び、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基を有するポリオキシアルキレン化合物を白金触媒の存在下で付加反応させる方法、オルガノポリシロキサンと分子鎖末端に水酸基、及び、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基を有するポリオキシアルキレン化合物による脱水素反応させる方法等により得ることができる。参考文献としては、特開平2-302438等が挙げられる。また、市販品も使用できる。
【0029】
本組成物の固形分中のポリエーテルシリコーン(A)の含有量は、初期粘度が低く、貯蔵安定性に優れ、かつ、塗着量が少なくても長期防汚性に優れた組成物を得る観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上であり、そして、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0030】
〔マイクロクリスタリンワックス(B)〕
マイクロクリスタリンワックス(B)は、石油を精製する際に減圧蒸留ボトムから分離される、室温において固形のワックスである。炭素数は約30~60、分子量は約500~1000であり、一般にパラフィンワックスより融点が高い。また、マイクロクリスタリンワックス(B)は、組成中に結晶の小さいイソパラフィンやシクロパラフィンが多いため、微結晶構造を有しており、この微結晶構造により、形成される塗膜に柔軟性が付与され、被塗物への付着性が向上する効果を持つ。
【0031】
マイクロクリスタリンワックス(B)の融点は、特に限定されないが、好ましくは60℃以上105℃以下であり、より好ましくは77℃以上88℃以下である。融点の測定方法は、JIS K 2235-5.3:1991記載の融点試験方法に基づいて融点を求める。
【0032】
マイクロクリスタリンワックス(B)としては、上市されている製品から適宜選択すればよく、例えば、日本精蝋株式会社製、Hi-Micシリーズ(Hi-Mic-1090、Hi-Mic-1080、Hi-Mic-1070等)などが例示される。
【0033】
上記マイクロクリスタリンワックス(B)は、マイクロクリスタリンワックスエマルションとして、本組成物に配合されることが好ましい。マイクロクリスタリンワックスエマルションは、上市されている製品を使用してもよい。
マイクロクリスタリンワックスエマルションは、耐水溶性有機溶媒性を有することが好ましい。ここで、耐水溶性有機溶媒性とは、水溶性有機溶媒(E)をマイクロクリスタリンワックスエマルションに添加しても、エマルション状態が維持されることを意味する。
【0034】
本組成物の固形分100質量部中、マイクロクリスタリンワックス(B)の含有量は、初期粘度が低く、貯蔵安定性に優れ、かつ、塗着量が少なくても長期防汚性に優れた組成物を得る観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部超、より更に好ましくは22質量部以上であり、そして、好ましくは35質量部以下、より好ましくは33質量部以下、更に好ましくは31質量部以下である。
【0035】
本組成物中のポリエーテルシリコーン(A)に対する、マイクロクリスタリンワックス(B)の質量比[(B)/(A)]は、好ましくは1.0以上、より好ましくは2.0以上、更に好ましくは3.0以上であり、そして、好ましくは20.0以下、より好ましくは15.0以下、更に好ましくは10.0以下である。
また、本組成物の固形分100質量部中、ポリエーテルシリコーン(A)とマイクロクリスタリンワックス(B)との合計含有量[(A)+(B)]は、好ましくは12質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは65質量%以下であり、更に好ましくは60質量%以下である。
[(B)/(A)]が1.0以上20.0以下、かつ、[(A)+(B)]が12質量%以上70質量%以下であると、ポリエーテルシリコーン(A)の組成物中での分離が抑制され、初期粘度が低く、貯蔵安定性に優れ、塗着量が少なくても長期防汚性に優れた組成物が得られるので好ましい。
【0036】
〔ポリブテン(C)〕
ポリブテン(C)としては、ポリブテン、ポリイソブテン等が挙げられる。
ポリブテン(C)としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ポリブテンLV-7、ポリブテンLV-10、ポリブテンLV-25、ポリブテンLV-50、ポリブテンLV-100、ポリブテンHV-35、ポリブテンHV-100、ポリブテンHV-300、ポリブテンHV-1900(いずれもENEOS株式会社製);ポリブテン0N、ポリブテン06N、ポリブテン10N(いずれも日油株式会社製)等が挙げられる。
また、ポリブテン(C)は、ポリブテンエマルションとして添加してもよく、ポリブテンエマルションとしては、エマウエット10E、エマウエット10H、エマウエット30E、エマウエット30H(いずれも、日油株式会社製)などが挙げられる。
【0037】
本組成物の固形分100質量部中のポリブテン(C)の含有量は、固形分換算で、初期粘度が低く、貯蔵安定性に優れ、かつ、塗着量が少なくても長期防汚性に優れた組成物を得る観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは8質量部以上であり、そして、好ましくは20質量部以下、より好ましくは16質量部以下、更に好ましくは12質量部以下である。
【0038】
〔防汚剤(D)〕
本組成物は、防汚性を高めることを目的として、防汚剤(D)を含有する。
防汚剤(D)は、水中において防汚被膜から溶出するものであり、防汚被膜表面に水生生物が付着することを抑制し、防汚性を向上させる効果があるものである。
防汚剤(D)としては、無機系、有機系のいずれの防汚剤であってもよく、水生生物に対して忌避効果を有し、水中への一定の溶出速度を有するものが好ましい。
無機系防汚剤としては、亜酸化銅、金属銅粉、チオシアン酸第1銅(ロダン銅)等の銅又は銅化合物(但し、ピリチオン系化合物を除く)が挙げられ、好ましくは亜酸化銅及びチオシアン化第1銅(ロダン銅)であり、より好ましくは亜酸化銅である。
【0039】
有機系防汚剤としては、
銅ピリチオン、ジンクピリチオン等の金属ピリチオン(ピリチオン系化合物);
テトラメチルチウラムジサルフィド等のテトラアルキルチウラムジサルフィド;
ジンクジメチルジチオカーバメート、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート等のカーバメート系化合物;
2,4,6-トリクロロフェニルマレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2',6'-ジエチルフェニル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2'-エチル-6'-メチルフェニル)マレイミド等のマレイミド系化合物;
2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチルジクロロフェニル尿素、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-S-トリアジン、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド、N',N'-ジメチル-N-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、N',N'-ジメチル-N-トリル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド;
トリフェニル[3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン、トリフェニル(n-オクタデシルアミン)ボロン、ピリジントリフェニルボラン、4-イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン等のアミン・有機ボラン錯体;
(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン);
4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(トラロピリル);
が挙げられる。
これらの中でも、有機系防汚剤としては、好ましくは銅ピリチオン、ジンクピリチオン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-S-トリアジン及び(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)であり、より好ましくは銅ピリチオン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート及び(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)であり、更に好ましくは銅ピリチオン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートである。
【0040】
防汚剤(D)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
防汚剤(D)は、亜酸化銅、銅ピリチオン、及びビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートよりなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの防汚剤を使用することにより、塗着量が少なくても長期防汚性に優れた組成物を得ることができるため好ましい。
【0041】
防汚剤(D)の含有量は、塗着量が少なくても長期防汚性に優れた組成物とする観点、組成物の粘度を適切な範囲とする観点から、本組成物の固形分100質量部中、好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは35質量部以上、より更に好ましくは45質量部以上であり、そして、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。
【0042】
〔水溶性有機溶媒(E)〕
本組成物は、水溶性有機溶媒(E)を含有する。
水溶性有機溶媒(E)とは、親水性の有機溶媒であり、かつ、20℃において、水100gに対する溶解性が10g以上の有機溶媒である。水溶性有機溶媒(E)は、水に対して相溶性であることが好ましい。
水溶性有機溶媒(E)としては、アルコール類、セロソルブ類、ケトン類、グリコール類、エーテル類、アミド類、カーボネート類、その他の極性溶媒が例示される。具体的には、
メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール等のアルコール類;
メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸セロソルブ等のセロソルブ類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;
エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール等のグリコール類;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、カルビトール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のエーテル類;
ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド類;
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート等のカーボネート類;
ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン等のその他の極性溶媒;
を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ポリエーテルシリコーン(A)の良溶媒であり、強制乳化の際の溶媒として好適である観点から、水溶性有機溶媒(E)は、セロソルブ類及びアルコール類から選択されることが好ましく、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ及びブチルセロソルブよりなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0043】
本組成物中、水溶性有機溶媒(E)の含有量は、特に限定されないが、ポリエーテルシリコーン(A)を強制乳化する際の溶媒とすることが好ましい観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは15.0質量%以下、更に好ましくは10.0質量%以下である。
また、ポリエーテルシリコーン(A)及びポリブテン(C)を、後述するように、水溶性有機溶媒(E)に溶解して強制乳化することで、ポリエーテルシリコーン(A)及びポリブテン(C)を含有するエマルションを得る場合には、水溶性有機溶媒(E)の含有量は、ポリエーテルシリコーン(A)及びポリブテン(C)の合計質量100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは300質量部以下、更に好ましくは150質量部以下である。
更に、ポリエーテルシリコーン(A)のみを、後述するように、水溶性有機溶媒(E)に溶解して強制乳化することで、ポリエーテルシリコーン(A)を含有するエマルションを得る場合には、水溶性有機溶媒(E)の含有量は、ポリエーテルシリコーン(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは300質量部以下、更に好ましくは150質量部以下である。
【0044】
〔水〕
本組成物は、溶媒の主成分として水を含有する。
水としては特に限定されず、井戸水、水道水、イオン交換水、蒸留水などを使用することができる。
上述した水溶性有機溶媒(E)を含む溶媒全体における水の含有量は、環境負荷低減の観点、及びVOC(揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound))の問題を抑制する観点、並びに、組成物の粘度を適切な範囲として、塗着量を適切な範囲とする観点から、50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上であり、そして、水溶性有機溶媒(E)の含有量を適切な範囲とする観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは96質量%以下である。
また、本組成物中の水の含有量は、組成物の粘度を適切な範囲として、塗着量を適切な範囲とする観点、及び組成物の乾燥を容易とする観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0045】
本組成物は、上述した成分(A)~成分(E)、及び水に加え、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、着色顔料(F)、タレ止め剤・沈降防止剤(G)、界面活性剤(消泡剤(H)、分散剤・乳化剤(I)等)、展着樹脂(J)などが例示される。
【0046】
〔着色顔料(F)〕
本組成物は着色顔料(F)を含有することも好ましい。
本組成物が着色顔料(F)を含むことで、被膜強度を高めることができる。
着色顔料(F)は、特に制限されるものではないが、例えば、酸化鉄、酸化チタン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ケイ酸アルミニウム、アルミナホワイト、硫酸バリウムなどの無機顔料;ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の有機顔料が挙げられ、組成物の製造作業性や塗工作業性、貯蔵安定性、防汚被膜の防汚性の観点から、無機顔料であることが好ましく、中でも、酸化鉄、酸化チタン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ケイ酸アルミニウム、アルミナホワイト、及び硫酸バリウムから選ばれる1種以上であることが好ましく、酸化鉄、酸化チタン、カーボンブラックから選ばれる1種以上であることがより好ましく、カーボンブラックであることが更に好ましい。
酸化鉄としては、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄等が挙げられる。
酸化チタンとしては、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型のいずれも用いることができ、防汚被膜及び組成物の安定性や入手容易性の観点から、ルチル型を用いることが好ましい。
【0047】
本組成物が着色顔料(F)を含有する場合、本組成物の固形分100質量部に対する着色顔料(F)の含有量は、防汚被膜の防汚性、及び組成物の製造作業性や塗工作業性、初期粘度が低く、貯蔵安定性に優れる観点等から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.15質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0048】
〔タレ止め剤・沈降防止剤(G)〕
本組成物は、該組成物の粘度を調整すること等を目的として、タレ止め剤・沈降防止剤(G)を含有していてもよい。
本組成物がタレ止め剤・沈降防止剤(G)を含有する場合、タレ止め剤・沈降防止剤(G)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
タレ止め剤・沈降防止剤(G)としては、例えば、ベントナイトクレー系、ヘクトライトクレー系等の無機系沈降防止剤、有機粘土系ワックス(例:Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩)、有機系ワックス(例:ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリアマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス)、有機粘土系ワックスと有機系ワックスとの混合物、合成微粉シリカが挙げられる。
【0050】
タレ止め剤・沈降防止剤(G)としては市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、AQ-600、AQ-630、AQ-870(以上、楠本化成株式会社製)、チクゾールW-400LP(共栄社化学株式会社)、Bentone HD(Elementis Specialtes, Inc.製)、Aerosil No.200(日本エアロジル株式会社製)が挙げられる。
【0051】
本組成物がタレ止め剤・沈降防止剤(G)を含有する場合、その含有量は、本組成物の固形分100質量部中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0052】
本組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、目的、効果によって、消泡剤(H)や分散剤・乳化剤(I)等とも呼ばれる。
〔消泡剤(H)〕
本組成物は、該組成物の製造作業性及び塗装作業性を向上させること、及び形成される防汚被膜の強度、防汚性を向上させることを目的として、消泡剤(H)を含有してもよい。
消泡剤(H)としては、フッ素系、シリコーン系、アクリル系等の消泡剤を用いることができる。また、消泡剤(H)は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
消泡剤(H)としては、市販品を用いることができ、例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK-011」、「BYK-012」等が挙げられる。
本組成物が消泡剤(H)を含有する場合、該組成物の固形分100質量部に対する消泡剤(H)の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0053】
〔分散剤・乳化剤(I)〕
本組成物は、分散剤・乳化剤(I)を含有してもよく、着色顔料(F)、ポリエーテルシリコーン(A)、マイクロクリスタリンワックス(B)等の組成物中での分散性を向上、また、乳化させるために、分散剤・乳化剤(I)を含有することが好ましい。
分散剤・乳化剤(I)としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤が例示される。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル等が挙げられ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤の硫酸エステル塩、リン酸エステル塩や、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等が挙げられ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
また、分散剤・乳化剤(I)として、高分子分散剤を使用してもよい。高分子分散剤としては、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル系樹脂及びその塩;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂及びその塩;イソシアネート基とヒドロキシ基とが反応したウレタン結合を含む高分子化合物(樹脂)であって直鎖状及び/又は分岐状であって、架橋構造の有無を問わないウレタン系樹脂及びその塩;ポリビニルアルコール類;ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体及びその塩;酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体及びその塩;並びに;酢酸ビニル-クロトン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を挙げることができる。
【0055】
分散剤・乳化剤(I)としては、公知の製品を使用してもよく、例えば、DISPER BYK-187、DISPER BYK-190、DISPER BYK-191、DISPER BYK-194N、DISPER BYK-199(ビックケミー株式会社製)、アロンA-210、A6114(東亞合成株式会社製)、DKS-NL100(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0056】
本組成物の固形分100質量部中の分散剤・乳化剤(I)の含有量は、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.15質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。
【0057】
〔展着樹脂(J)〕
本組成物は、展着樹脂(J)を含有してもよい。展着樹脂は、被膜形成を促すために使用される。なお、展着樹脂(J)には、上述したポリエーテルシリコーン(A)、マイクロクリスタリンワックス(B)、ポリブテン(C)は含まれない。
展着樹脂(J)としては、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂(例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体)、エポキシエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、塩素化ポリエチレン等の合成樹脂、ウッドロジン、ガムロジン、変性ロジンなどの天然樹脂、及び、これらの樹脂の変性物が挙げられ、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
このような展着樹脂(J)は、エマルション、ディスパージョン、又は水溶液として用いられる。
【0058】
本組成物において、展着樹脂(J)の含有量は、該組成物の初期粘度を低くする観点、及び貯蔵安定性の観点から、少ないことが好ましく、本組成物の固形分100質量部中、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、より更に好ましくは1質量部以下である。
特に、展着樹脂(J)がアクリル樹脂、及び酢酸ビニル樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種である場合、該組成物の貯蔵安定性が低下する傾向があり、該組成物の固形分100質量部に対するアクリル樹脂及び酢酸ビニル樹脂の合計含有量は、好ましくは3質量部、より好ましくは1質量部以下であり、実質的に含有しないことが更に好ましい。なお、実質的に含有しないとは、意図してアクリル樹脂及び酢酸ビニル樹脂を添加していないことを意味し、本組成物の固形分100質量部中、アクリル樹脂及び酢酸ビニル樹脂の合計含有量が0.5質量部以下、好ましくは0.1質量部以下であることを意味する。
【0059】
〔組成物の粘度〕
本組成物のASTM D1200に準拠し、フォードカップNo.4を用いて測定した23℃における粘度は、特に漁網用水系防汚剤組成物として使用する場合には、塗着量を抑制すると共に、乾燥を容易にする観点、また、水系防汚剤塗料組成物として使用する場合には、塗工容易性の観点から、好ましくは8秒以上、より好ましくは9秒以上、更に好ましくは10秒以上であり、そして、好ましくは40秒以下、より好ましくは20秒以下、更に好ましくは15秒以下である。
なお、上記の初期粘度及び下記の40℃に1ヶ月保管後の粘度が、上記の範囲を満たすことが好ましい。
【0060】
〔貯蔵安定性〕
本組成物は、貯蔵安定性に優れ、40℃に1ヶ月保管前後のASTM D1200に準拠し、フォードカップNo.4を用いて測定した23℃における粘度の差が、好ましくは+2秒以下、より好ましくは+1秒以下である。
粘度は、詳細には、実施例に記載の方法により測定される。
【0061】
[水系防汚剤組成物の調製方法]
本組成物の調製方法は特に限定されず、上述した各成分を含有する組成物を調製可能であればよいが、下記の工程1~工程3を含む方法(方法1)、又は下記の工程1’~工程3’を含む方法(方法2)であることが好ましい。
なお、方法2の場合には、ポリブテン(C)は、ポリブテンエマルションとして、工程3’において添加することが好ましい。
<方法1>
下記工程1~工程3を含む、水系防汚剤組成物の製造方法。
工程1:ポリエーテルシリコーン(A)及びポリブテン(C)を水溶性有機溶媒(E)に溶解して、溶液を得る工程
工程2:工程1で得られた溶液を、水系媒体に強制乳化して、乳化液を得る工程
工程3:工程2で得られた乳化液と、マイクロクリスタリンワックス(B)及び防汚剤(D)とを混合する工程
<方法2>
下記工程1’~工程3’を含む、水系防汚剤組成物の製造方法。
工程1’:ポリエーテルシリコーン(A)を水溶性有機溶媒(E)に溶解して、溶液を得る工程
工程2’:工程1’で得られた溶液を、水系媒体に強制乳化して、乳化液を得る工程
工程3’:工程2’で得られた乳化液と、マイクロクリスタリンワックス(B)、ポリブテン(C)及び防汚剤(D)とを混合する工程
【0062】
上記方法1及び方法2では、ポリエーテルシリコーン(A)を水溶性有機溶媒(E)に溶解して強制乳化することにより、乳化液を得ている。これにより、分散剤・乳化剤(I)を使用せずにポリエーテルシリコーン(A)の乳化液を製造することができ、より初期粘度が低く、貯蔵安定性に優れた組成物が得られるので好ましい。
【0063】
なお、工程2及び工程2’で使用する水系媒体は、水を主成分とし、これに、上述した水溶性有機溶媒(E)が含まれていてもよい。
水系媒体における水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、より更に好ましくは100質量%である。すなわち、水のみ使用することが好ましい。
【0064】
また、防汚性や塗料性状の観点から、工程2及び工程2’において、水系媒体は、分散剤・乳化剤(I)を含有しないことが好ましい。水系媒体中の分散剤・乳化剤(I)の含有量は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であり、実質的に含有しないことがより更に好ましい。
【0065】
工程1及び工程1’において、溶解する際の温度は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、更に好ましくは30℃以下である。
【0066】
工程2及び工程2’において、強制乳化する際には、高速撹拌式ホモジナイザー、ホモディスパー2.5型(プライミクス株式会社製)等を使用することができ、強制乳化する際の温度は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、更に好ましくは30℃以下である。
【0067】
工程3及び工程3’において、マイクロクリスタリンワックス(B)は、マイクロクリスタリンワックスエマルションとして配合することが好ましい。
また、上述した着色顔料(F)、タレ止め剤・沈降防止剤(G)、消泡剤(H)、分散剤・乳化剤(I)などのその他の成分は、工程3又は工程3’で添加することが好ましい。
【0068】
[水系防汚剤組成物の用途、防汚被膜、防汚被膜付き基材]
本組成物は、水中での水生生物から汚損を防止する目的で、物品の表面に該組成物から形成された被膜を設ける用途で使用されることが好ましい。
すなわち、本組成物は、漁網用水系防汚剤組成物、水系防汚剤塗料組成物として使用することが好ましく、漁網用水系防汚剤組成物として使用することがより好ましい。
【0069】
本実施形態の防汚被膜は、上述した本組成物から形成された防汚被膜である。防汚被膜は、基材上に本組成物を塗布するか、又は基材を本組成物に浸漬した後、これを乾燥させることにより形成することができる。防汚塗膜は、水中での水生生物から基材の汚損を防止する目的で使用される防汚被膜であることが好ましい。
また、本実施形態の防汚被膜付き基材は、基材と、前記基材表面に設けられた、上述した防汚被膜とを有する。前記防汚被膜付き基材の製造方法は、本組成物を基材に塗布する工程(塗布工程)、又は本組成物に基材を浸漬する工程(浸漬工程)を有することが好ましく、更に、該組成物を乾燥する工程を有することが好ましい。
【0070】
本組成物を塗布する方法としては、刷毛塗装、スプレー等、浸漬塗装等の公知の方法を挙げることができる。
本組成物から形成される被膜の厚さは、最終的に形成される防汚被膜が後述する厚さを有するように設定される。被膜は、1回の塗装で形成してもよいし、2回以上の塗装(2回以上塗り)で形成してもよい。
前述の方法により塗布した組成物は、例えば、23℃の条件下、好ましくは0.5日以上14日以下、より好ましくは1日以上10日以下程度放置することにより乾燥し、防汚被膜を得ることができる。
なお、組成物の乾燥及び硬化は、加熱下及び/又は送風しながら行ってもよい。
塗布により防汚被膜を形成する場合、防汚被膜の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、そして、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下である。防汚被膜がこのような態様であると、長期の防汚性に優れた防汚被膜となる。
【0071】
浸漬工程における浸漬時間は特に限定されないが、例えば、好ましくは1分間以上、より好ましくは5分間以上であり、そして、好ましくは1時間以下である。
例えば、基材として漁網を使用する場合、塗着量(%)は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、更に好ましくは10%以上であり、そして、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下である。
塗着量は、実施例に記載の方法により測定される。
本組成物から形成された防汚被膜を有する漁網は、塗着量が少なくても、長期に渡って良好な防汚性を示し、水生生物の付着を防止できることに起因して、網目の閉塞を防止できる。
【0072】
また、本組成物から形成された被膜を種々の基材上に設けることができる。舶、漁業、水中構造物等の広範な産業分野において、基材を長期間にわたって防汚する等のために利用することができる。
基材としては、例えば、船舶(例:コンテナ船、タンカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船、ヨット等の船体外板、これらの新造船又は修繕船のいずれも含む。)、水中構造物(例:石油パイプライン、導水配管、循環水管、工場及び火力・原子力発電所の給排水口、海底ケーブル、海水利用機器類(海水ポンプ等)、メガフロート、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等における各種水中土木工事用構造物等)、漁業資材(例:ロープ、漁具、漁網、浮き子、ブイ)、ダイバースーツ、水中メガネ、酸素ボンベ、水着、魚雷が挙げられる。
これらの中でも、基材としては、漁網であることが好ましい。
【実施例0073】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
[水系防汚剤組成物の製造]
<水系防汚剤組成物の成分>
水系防汚剤組成物に用いた成分を表1に示す。
【0075】
【0076】
なお、表中、A及びA’のa1~a3、b1~b3、m1~m3、n1、n2は、シリコーン1モル当たりの平均の付加モル数又は平均の繰り返し数を表す。
また、表中の固形分(%)は、各成分中の有効成分量に近似できる。
【0077】
(ポリエーテルシリコーンの動粘度)
動粘度は下記の計算式より求める。
動粘度(mm2/s)=粘度(cP)÷密度(g/cm3)
粘度はJIS K 7117-1:1999 に準拠し、B型粘度計を用いて23℃で測定した。密度はJIS K 5600-2-4:1999に準拠し、比重カップを用いて23℃で測定した。
【0078】
(ポリエーテルシリコーン(A)中のモル比[EO/PO]の算出)
ポリエーテルシリコーン(A)中のモル比[EO/PO]は、1H NMRにて約0.8~1.2ppmのPOのメチル基と約3~4ppmのEOとPOの非メチル基部分の積分値を基に、以下の式で算出した。
EO/PO={([約3~4ppmの積分値]-[約0.8~1.2ppmの積分値])/4}/{[約0.8~1.2ppmの積分値]/3}
1H NMR定量の測定条件は、以下の通りである。
装置:AVANCEIII400(ブルカー社製)
測定方法:フリップ角30度のシングルパルス法
観測核:1H
観測周波数:400.1MHz
ロック溶媒:重クロロホルム
データポイント数:65536
遅延時間:1s
積算回数:64回
測定温度:室温
試料回転数:20Hz
また、変性箇所は、以下のようにして特定した。
1H-29Si HMBCにて29Si NMRの約10ppmに相関がある場合は末端変性、約-20ppmに相関がある場合は側鎖変性と判断した(ジメチルシロキサン由来の1H NMRの約0ppmの相関は除く。)。
29Si NMR定量の測定条件は、以下の通りである。
装置:AVANCEIII400(ブルカー社製)
測定方法:インバースゲーテッドデカップリング法
観測核:29Si
観測周波数:79.49MHz
ロック溶媒:重クロロホルム
データポイント数:32768
遅延時間:90s
積算回数:512回
測定温度:室温
試料回転数:20Hz
【0079】
<水系防汚剤組成物の調製>
(実施例1~8、比較例1、2、4)
ポリエーテルシリコーン(A)、ポリブテン(C)、及び水溶性有機溶媒(E)を、表2に記載された配合量で仕込み、高速撹拌機(製品名:高速撹拌式ホモジナイザー ホモディスパー2.5型/プライミクス株式会社製)を用いて、回転数2000rpmで高速撹拌を5分間行った。なお、表2に示された配合量は、有姿での配合量であり、例えば、実施例1では、組成物全体を100質量部としたとき、固形分36質量%のマイクロクリスタリンワックスエマルションを21.0質量部配合している。
次に、イオン交換水を、表2に記載された配合量で添加し、上記高速撹拌機にて10分間撹拌することで、ポリエーテルシリコーン及びポリブテンを含むエマルションを得た。
得られたエマルションに、表2に記載されたその他の成分を添加し、上記高速撹拌機にて10分間撹拌することで、水系防汚剤組成物を調製した。
【0080】
(実施例9)
ポリエーテルシリコーン(A)及び水溶性有機溶媒(E)を、表2に記載された配合量で仕込み、上記高速撹拌機を用いて、回転数2000rpmで高速撹拌を5分間行った。
次に、イオン交換水を、表2に記載された配合量で添加し、上記高速撹拌機にて10分間撹拌することで、ポリエーテルシリコーンを含むエマルションを得た。
得られたエマルションに、表2に記載されたその他の成分を添加し、上記高速撹拌機にて10分間撹拌することで、水系防汚剤組成物を調製した。
【0081】
(比較例3)
特許第4795013号公報を参照して、乳化物を作製した。
ポリエーテルシリコーン2部、ポリブテン3部、分散剤・乳化剤としてDKS-NL100を0.2部仕込み、上記高速撹拌機を用いて、回転数2000rpmで高速撹拌しながら、蒸留水0.5部を10分間かけて徐々に加えた。
更に、高速撹拌しながら蒸留水を4.3部加え、ペースト状のポリエーテルシリコーンとポリブテンの乳化物を得た。
得られた乳化物に、その他の成分を添加し、上記高速撹拌機にて10分間撹拌することで、水系防汚剤組成物を調製した。
【0082】
[評価]
得られた水系防汚剤組成物について、以下の評価を行った。
<塗着量>
試験網地(ポリエチレン製無結節網(7節、400デニール/50本))の水系防汚剤組成物を塗布前の質量(g)a、塗布後12時間以上乾燥後の質量(g)bを測定し、以下の式により、塗着量を算出した。
塗着量%=(b-a)/a×100
【0083】
<粘度>
水系防汚剤組成物の粘度は、ASTM D1200準拠して、フォードカップNo.4に試料を満たし、カップ底部の穴から試料を流下させ、その流下時間(秒)を試料の粘度とした。
より具体的には、まず、カップ底部の穴を押さえ、泡が入らないように液温を23℃にした試料をカップに満たした。次に、ガラス板を横から水平にカップの上ふちを滑らせて余分の試料をかき取り、そのままカップ上にガラス板で蓋をした。その後、カップ底部の穴の押さえを外した。
続いて、ガラス板を横に滑らせながら外すと同時にストップウォッチを押し、連続して流出している試料が途切れたときストップウォッチを停め、流下にかかった時間を記録した。
【0084】
<貯蔵安定性>
40℃で1ヶ月保管後の水系防汚剤組成物の粘度を測定して、流下時間が初期粘度の+2秒未満となった場合に、貯蔵安定性が良好であると評価した。
また、流下時間が初期粘度の+2秒以上となった場合、及び測定不能であった場合には、貯蔵安定性が不良であると評価した。ここで、測定不能である場合とは、流下時間が40秒を超えた場合を意味する。
【0085】
<防汚性>
実施例及び比較例で調製した水系防汚剤組成物のそれぞれに、ポリエチレン製無結節網(7節、400デニール/50本)を23℃で5分間浸漬し、室内で48時間風乾し、防汚被膜付き漁網を得た。
この防汚被膜付き漁網を広島県広島湾の海面下約2mに、浸漬した。浸漬開始から2ヶ月毎に、漁網の防汚被膜の全面積を100%とした場合における水生生物が付着している防汚被膜面積(付着面積)の比率(%)を測定し、下記評価基準に基づいて静置防汚性を評価した。
A:付着面積が10%未満
B:付着面積が10%以上30%未満
C:付着面積が30%以上50%未満
D:付着面積50%以上
【0086】
【0087】
実施例及び比較例の結果から、本発明の水系防汚剤組成物は、初期粘度が低く、良好な貯蔵安定性を示し、更に、塗着量が少ない場合でも、良好な長期防汚性を示すことが分かる。
一方、比較例1及び2に示すように、エチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基のみしか有していないポリエーテルシリコーンを使用した水系防汚剤組成物は、貯蔵安定性に劣るものであり、また、長期防汚性にも劣るものであった。水溶性有機溶媒(E)を含有せず、分散剤・乳化剤によりポリエーテルシリコーン(A)及びポリブテン(C)の乳化液を調製した比較例3では、長期防汚性に劣るものであった。更に、ポリエーテルシリコーン(A)を含有しない比較例4でも、塗着量が多くなり、かつ、長期防汚性に劣るものであった。