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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110638
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】溶接方法およびレーザ装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20230802BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20230802BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/21 N
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012217
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100211513
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100167438
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100166800
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 裕治
(72)【発明者】
【氏名】林 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 克俊
(72)【発明者】
【氏名】山村 健
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA21
4E168BA73
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA28
4E168DA33
4E168DA40
4E168EA02
4E168EA15
4E168EA17
4E168EA24
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】レーザ溶接により金属溶接を行う溶接方法において、良好な溶接品質を保ちながらも処理時間を短縮することが可能な溶接方法を提供する。
【解決手段】レーザ装置1に対向して配置される第1部材52および第2部材52の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、前記レーザ光は、第1レーザ光L1と前記第1レーザ光L1に比して集光径が小さい第2レーザ光L2とから成り、前記第1レーザ光L1を、前記第1部材52および前記第2部材52を突き合わせた端面(ワークW)に対し、前記第1部材および前記第2部材を跨いで照射し、前記第2レーザ光L2を、前記第1レーザ光L1が照射される領域の外周縁近傍を旋回照射することを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置に対向して配置される第1部材および第2部材の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、第1レーザ光と前記第1レーザ光に比して集光径が小さい第2レーザ光とから成り、
前記第1レーザ光を、前記第1部材および前記第2部材を突き合わせた端面に対し、前記第1部材および前記第2部材を跨いで照射し、
前記第2レーザ光を、前記第1レーザ光が照射される領域の外周縁近傍を旋回照射する
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記第1レーザ光の照射領域は略円形状であって、前記略円形状の照射領域の面積は前記端面の総面積の1パーセント~30パーセントである
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記第1レーザ光の波長は、前記第2レーザ光の波長より短い
ことを特徴とする請求項2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記第1レーザ光の波長は300nm~600nmである
ことを特徴とする請求項3に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記第1レーザ光の照射領域の中心は前記端面の略中心にあり、前記第1レーザ光は溶接中に移動しない
ことを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記第1レーザ光は前記略円形状の照射領域にほぼ均一のレーザエネルギーを照射するものであって、その出力パワーは、500w~2kWである
ことを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記第2レーザ光の波長は、780nm~1100nmである
ことを特徴とする請求項3に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記第2レーザ光の集光径は、10μm~100μmである
ことを特徴とする請求項7に記載の溶接方法。
【請求項9】
前記第2レーザ光を、旋回速度100~1000mm/sで旋回させながら、前記第1レーザ光が照射される領域の外周縁近傍を走査する
ことを特徴とする請求項7に記載の溶接方法。
【請求項10】
前記第2レーザ光の出力パワーは500w~2kWである
ことを特徴とする請求項7に記載の溶接方法。
【請求項11】
前記第2レーザ光の旋回径rは、前記第1レーザ光の集光径をd1とすると、
d1-0.4mm≦r≦d1+0.1mmである
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項12】
前記第2レーザ光の旋回径rは、前記第1レーザ光の照射径をd1とすると、
0.9×d1≦r≦1.1×d1である
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項13】
前記第1レーザ光および前記第2レーザ光の照射時間は、50msec以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項14】
前記第1部材と前記第2部材とは、ステータ用のコイルを構成する断面矩形の平角導体であって、
前記レーザ装置に対向して配置される2つの平角導体の端部を突き合わせて前記レーザ光により溶接することにより前記端面に溶融玉を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項15】
前記第1レーザ光の照射と同時若しくは照射前から、照射が終了するまで若しくはそれ以上、前記端面に対して、流量が5L/min~100L/min、前記端面に対する傾き角度が0~90°で窒素を吹き付ける
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項16】
第1部材および第2部材の端部を突き合わせて溶接するレーザ装置であって、
前記第1部材および前記第2部材を突き合わせた端面に対し、前記第1部材および前記第2部材を跨いで略円形状に第1レーザ光を照射する第1レーザ照射部と、
前記第1レーザ光に比して集光径が小さい第2レーザ光を前記第1レーザ光による前記略円形状の照射領域の外周縁に沿って旋回照射する第2レーザ照射部とを備える
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項17】
前記第1レーザ照射部は、
前記第1レーザ光を発振する第1発振器と、
前記第1発振器から発振された前記第1レーザ光を前記端面に対向させる第1の光学系とを含み、
前記第2レーザ照射部は、
前記第2レーザ光を発振する第2発振器と、
前記第2発振器から発振された前記第2レーザ光を所定の旋回速度で走査させるレーザ走査光学系と、
前記レーザ走査光学系から出射する前記第2レーザ光を、前記端面に対向させる第2の光学系とを含み、
前記レーザ装置は、更に、
前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記端面上に合焦する集光レンズを備える
ことを特徴とする請求項16に記載のレーザ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて金属溶接を行う溶接方法およびレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属溶接を行う技術の一つとして、レーザ光を用いたレーザ溶接が利用されている。レーザ溶接は他の溶接技術と比較すると、集光レンズにより高密度化されたエネルギーで被加工物を溶接可能であり、溶接品質が高く微細な溶接に適している。
近年、ハイブリッド車や電気自動車に組み込むモータ用のステータ(固定子)の製造においてこのレーザ溶接が利用されている。ステータは、ステータコアと、ステータコアのスロットに装着された複数のセグメントコイルとから構成され、対応するセグメントコイルの端部同士をレーザ溶接により接合する。通常、個々のセグメントコイルは丸線ではなく平角導線を用いる。これにより、丸線が作る隙間を無くし接合部の密度を上げることが可能となり、低燃費且つ小型化を実現する。溶接面は数ミリ平方メートルと微細なためレーザ溶接が適している。
特許文献1には、ステータ用コイルのレーザ溶接技術が開示されている。ここでは、対応する平角導体を隙間を置いて並べ両端面をレーザ溶融する。このとき、溶融した平角導体が固化した溶融固化部分が、両端面を窪ませるように端面下に侵入していることを特徴としている。すなわち、この技術は、従来の溶接方法において、溶融池が凸レンズ上に膨らみ溶融池が深くなることがスパッタの一つの要因であると捉え、これを抑制するために、溶接中の溶融平角導体が隙間に順次流入することにより、レーザ光が照射される被照射点における溶融池を浅く形成するというものである(段落0045参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-93832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術によれば溶接中に生じるスパッタを抑制して溶接品質を一定に保つことが可能となる。ところで、ステータの製造工程における生産性向上が望まれているが、上記の文献には処理時間の短縮等、生産性向上に関する知見が無い。
そこで本発明は、レーザ溶接により金属溶接を行う溶接方法において、良好な溶接品質を保ちながらも処理時間を短縮することが可能な溶接方法およびレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであって、レーザ装置に対向して配置される第1部材および第2部材の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、前記レーザ光は、第1レーザ光と前記第1レーザ光に比して集光径が小さい第2レーザ光とから成り、前記第1レーザ光を、前記第1部材および前記第2部材を突き合わせた端面に対し、前記第1部材および前記第2部材を跨いで照射し、前記第2レーザ光を、前記第1レーザ光が照射される領域の外周縁近傍を旋回照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、第1レーザ光の照射により溶融池を形成しながらその周囲に集光径の小さい第2レーザ光を照射することにより、溶融池の形成が促進され、従来と比較して溶接対象のワークを早く溶融することが可能となる。
また、第2レーザ光を旋回照射することにより、溶融池内部に旋回方向の流れを生み出し、これによりポロシティを排除することが可能となる。また、第2レーザ光を旋回照射することにより、溶融池内部における局所的な熱集中を防止し、溶融池の状態を安定化さる。それにより、スパッタの発生を抑制し、高い溶接品質を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ装置1の全体構成を示す概略図である。
図2】レーザ走査光学系4について説明するための図である。
図3】(a)ステータの概略構成を示す斜視図である。(b)セグメントコイル52について説明するための図である。(c)ワークWについて説明するための図である。
図4】各レーザ光の照射方法について説明するための図である。
図5】各レーザ光の集光径について説明するための図である。
図6】加工後のワークWの写真である。
図7】レーザ光の照射方法の変形例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<概要>
本実施態様の一態様に係る溶接方法は、レーザ装置に対向して配置される第1部材および第2部材の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、前記レーザ光は、第1レーザ光と前記第1レーザ光に比して集光径が小さい第2レーザ光とから成り、前記第1レーザ光を、前記第1部材および前記第2部材を突き合わせた端面に対し、前記第1部材および前記第2部材を跨いで照射し、前記第2レーザ光を、前記第1レーザ光が照射される領域の外周縁近傍を旋回照射することを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第1レーザ光の照射領域は略円形状であって、前記略円形状の照射領域の面積は前記端面の総面積の1パーセント~30パーセントであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第1レーザ光の波長は、前記第2レーザ光の波長より短いことを特徴とする。
【0009】
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第1レーザ光の波長は300nm~600nmであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第1レーザ光の照射領域の中心は前記端面の略中心にあり、前記第1レーザ光は溶接中に移動しないことを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第1レーザ光は前記略円形状の照射領域にほぼ均一のレーザエネルギーを照射するものであって、その出力パワーは、500w~2kWであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2レーザ光の波長は、780nm~1100nmであることを特徴とする。
【0010】
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2レーザ光の集光径は、10μm~100μmであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2レーザ光を、旋回速度100~1000mm/sで旋回させながら、前記第1レーザ光が照射される領域の外周縁近傍を走査することを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2レーザ光の出力パワーは500w~2kWであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2レーザ光の旋回径rは、前記第1レーザ光の集光径をd1とすると、d1-0.4mm≦r≦d1+0.1mmであることを特徴とする。
【0011】
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2レーザ光の旋回径rは、前記第1レーザ光の照射径をd1とすると、0.9×d1≦r≦1.1×d1であることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において 前記第1レーザ光および前記第2レーザ光の照射時間は、50msec以上であることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第1部材と前記第2部材とは、ステータ用のコイルを構成する断面矩形の平角導体であって、前記レーザ装置に対向して配置される2つの平角導体の端部を突き合わせて前記レーザ光により溶接することにより前記端面に溶融玉を形成することを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第1レーザ光の照射と同時若しくは照射前から、照射が終了するまで若しくはそれ以上、前記端面に対して、流量が5L/min~100L/min、前記端面に対する傾き角度が0~90°で窒素を吹き付けることを特徴とする。
【0012】
本実施形態の一態様に係るレーザ装置において、第1部材および第2部材の端部を突き合わせて溶接するレーザ装置であって、前記第1部材および前記第2部材を突き合わせた端面に対し、前記第1部材および前記第2部材を跨いで略円形状に第1レーザ光を照射する第1レーザ照射部と、前記第1レーザ光に比して集光径が小さい第2レーザ光を前記第1レーザ光による前記略円形状の照射領域の外周縁に沿って旋回照射する第2レーザ照射部とを備えることを特徴とする。
【0013】
本実施形態の別態様に係るレーザ装置において、前記第1レーザ照射部は、前記第1レーザ光を発振する第1発振器と、前記第1発振器から発振された前記第1レーザ光を前記端面に対向させる第1の光学系とを含み、前記第2レーザ照射部は、前記第2レーザ光を発振する第2発振器と、前記第2発振器から発振された前記第2レーザ光を所定の旋回速度で走査させレーザ走査光学系と、前記レーザ走査光学系から出射する前記第2レーザ光を、前記端面に対向させる第2の光学系とを含み、前記レーザ装置は、更に、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記端面上に合焦する集光レンズを備えることを特徴とする。
【0014】
<実施形態>
以下では、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ装置1の概略構成を示す図である。レーザ装置1は、ワーク(被処理物)Wに対しレーザ光を照射して、レーザ光のエネルギーを熱変換することによりワークWの溶接を行う溶接装置である。
図1に示すように、レーザ装置1は、第1レーザ光L1を発振する第1発振器2と、第2レーザ光L2を発振する第2発振器3と、第1レーザ光L1を伝送する光ファイバである伝送ファイバ21と、第2レーザ光L2を伝送する光ファイバである伝送ファイバ31と、第1レーザ光L1を平行光に変換するコリメートレンズ22と、第2レーザ光L2を平行光に変換するコリメートレンズ32と、第2レーザ光L2を所定の周波数で旋回させるレーザ走査光学系4と、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の光軸を一致させ、ワークWに対向させるための複数のミラー5、6、7と、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の集光径を縮小する集光レンズ8と、ワークWに対しシールドガスを供給するための保護ガラス9を備えたシールドノズル10と、ワークWに対する第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の照射位置を確認するために用いられる同軸カメラ11とから構成される。
なお、ミラー7は、第1レーザ光L1の波長は反射し、第2レーザ光L2の波長は透過するダイクロイックミラーである。
【0015】
レーザ装置1は、これらの構成要素に加えて、更に他の光学系、光ファイバ等を備えていても良い。
第1発振器2から発振された第1レーザ光L1は、コリメートレンズ22により所定の径に拡張された後、ミラー6およびミラー7の反射により、ワークWに対向する向きに光軸を偏向された後、集光レンズ8により所定の径に縮小される。そして、対向するワークWに鉛直下向きに照射される。
第2発振器3から発振された第2レーザ光L2は、コリメートレンズ32により所定の径に拡張された後、レーザ走査光学系4により旋回される。その後、ミラー5の反射により、ワークWに対向する向きに光軸を偏向された後、集光レンズ8により所定の径に縮小される。そして、対向するワークWに鉛直下向きに照射される。
このように、レーザ装置1は、ワークWに対し2つのレーザ光L1およびL2を照射して溶接を行う。
【0016】
第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の出力パワーは500w~2kWが好ましく、本実施形態では、一例として800wとする。また、第1レーザ光L1の波長は、300nm~600nmであり、第2レーザ光L2の波長は、780nm~1100nmである。すなわち、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2は互いに波長が異なり、第1レーザ光L1の波長が第2レーザ光L2の波長よりも短い。ビームモードはマルチモード、シングルモードいずれを使用することも可能であるが、本実施形態では、第1レーザ光L1はマルチモード、第2レーザ光L2はシングルモードを用いている。後述するが、第2レーザ光L2は第1レーザ光L1と比較すると集光径が小さいスポット光である。そのため、第2発振器3としてシングルモードファイバレーザを用いることにより、ビーム径が小さくエネルギー強度が高尖頭値の第2レーザ光L2を効果的に生成することができる。
【0017】
続いて、レーザ走査光学系4について説明する。図2は、レーザ走査光学系4の構成を模式的に示す図である。同図に示すように、レーザ走査光学系4は、X軸ガルバノミラー41、X軸ガルバノミラー41を回動させるX軸ガルバノモータ42、Y軸ガルバノミラー43、Y軸ガルバノミラー43を回動させるY軸ガルバノモータ44から構成される。すなわち、レーザ走査光学系4は、第2発振器3から供給される第2レーザ光L2を二次元の任意の方向に偏向する機能を有する。X軸ガルバノモータ42およびY軸ガルバノモータ44として、ステッピングモータやサーボモータ等を用いることができる。
【0018】
レーザ走査光学系4は、制御部(不図示)と接続されており、制御部から送信される制御指令に基づいて各モータ42、44を駆動することにより、第2レーザ光L2がミラー5の二次元平面上を旋回するように制御する。ミラー5で反射された第2レーザ光L2はワークWへと導かれる。したがって、第2レーザ光L2は、ワークWの二次元平面上を旋回しながら照射される。
次に、図3を用いて溶接対象のワークWについて説明する。図3(a)は、電気自動車等のモータの固定子であるステータ50の概略構成を示す斜視図である。同図に示すように、ステータ50は、略円筒形状のステータコア51と複数のセグメントコイル52とを有する。セグメントコイル52は、断面が矩形状の電線すなわち平角導体である。通常、セグメントコイル52は純銅製のものが用いられるが、銅を主成分とする合金、銅およびアルミニウムから成る合金等、高導電率を有する金属材料で構成してもよい。各セグメントコイル52の端部はステータコア51の上端部から突出しており、レーザ装置1は、ステータコア51の径方向に隣接する2つのセグメントコイル(平角導体)52の端部同士をレーザ溶接する。
【0019】
まず、図3(b)のように、絶縁被膜が剥離されたセグメントコイル(平角導体)52の突き合せ面52b同士を突き合わせる。このときジグ(不図示)を用いてセグメントコイル52同士を突き合わせてもよい。図3(c)に示すように、突き合わされた2つのセグメントコイル52の端面52aが、溶接面すなわち本実施形態のワークWとなる。ここで、溶接面のギャップは溶接不良の原因となり得る。溶接不良を抑制するために、2つのセグメントコイル52の端面52a同士が面一となるように突き合わせることが好ましい。レーザ装置1は、隣接する2つのセグメントコイル52が付き合わせた端面52aに対して鉛直下向きに第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を照射して、隣接する2つのセグメントコイル52を溶接する。
【0020】
レーザ装置1による溶接方法の詳細について、図4を用いて説明する。図4は、ワークWにおける第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の照射領域を模式的に示す図である。ワークWは上述したように2つのセグメントコイル52の端部を突き合わせた矩形状をしており、その大きさは任意である。短辺の長さをa、長辺の長さをbとすると、通常のステータのセグメントコイルの場合、2.5mm≦a≦4.0mm、3.0mm≦b≦5.0mm程度である。そうすると、ワークWの総面積(a×b)は、7.5mm≦(a×b)≦20.0mm程度となる。本実施形態では、一例として、a=2.8mm、b=3.2mmとする。
【0021】
第1レーザ光L1は、集光径がd1の円形ビームであり、ビーム中心がワークWの中心Oと一致するように照射位置を合わせる。そのため、第1レーザ光L1は、2つのセグメントコイル52を跨いで照射される。
第2レーザ光L2は、集光径がd2の円形ビームであり、第2レーザ光L2の集光径d2は、第1レーザ光L1の集光径d1と比して小さい。第2レーザ光L2は、ワークW上における第1レーザ光L1の照射領域の外周縁上を旋回照射される。
第1レーザ光L1の光軸は溶接中に移動せず、略円形状の照射領域にほぼ均一のレーザエネルギーを照射する。第1レーザ光L1の照射領域が小さければ、高出力の青色レーザ光源を必要としないが、溶融に時間がかかり処理速度が低下する。そのため、第1レーザ光L1の照射面積は、ワークWの総面積の少なくとも1パーセント以上とすることが好ましい。ワークWの中心付近を加熱すると、中心Oが最も早く溶融し、熱の伝導によってワークWの端の方も徐々に溶融していく。
【0022】
一方、処理時間を短縮するためにはワークWの比較的広い領域に第1レーザ光L1を照射し、その外周縁近傍に第2レーザ光L2を旋回照射することが望ましいが、広い領域に第1レーザ光L1を照射するためには、高出力のレーザ光源が必要となる。特に高出力の青色レーザ光源はいまだ手に入りにくく高価である。また、あまり広い領域に第1レーザ光L1を照射し、その周縁部に第2レーザ光L2を旋回照射すると、周縁部の溶融が進み過ぎて綺麗な溶融玉が形成できず、溶接品質上の問題が生じることがある。さらには、第2レーザ光L2によって主に周縁部が加熱され、熱の伝導によって中心に向かって徐々に溶融していくことになるが、セグメントコイルの突合せ溶接において最も溶融が必要な中心部の溶融が遅れ、結果的に溶接時間が長引く可能性がある。
【0023】
さらに、ワークWの面積に対する照射領域が大きすぎると、照射領域の周縁部より外側には熱の逃げ道がないため、周縁部に熱が蓄積して過剰な入熱となり得る。また、第2レーザ光L2の旋回照射により生じる遠心力で溶融玉の揺れが激しくなる。この過剰な入熱および溶融玉の揺れにより、スパッタが発生しやすくなる可能性がある。
以上のことを考慮し、本実施形態においては、第1レーザ光L1の照射領域をワークWの総面積の30パーセント以下とする。さらに好ましくは、第1レーザ光L1の照射領域をワークWの総面積の10パーセント以下とする。10パーセント以下とすることにより、低出力の青色レーザ光源を使用しながらも、大型モータを含め多くのステータコイルの溶接加工に対応することが可能となる。
【0024】
本実施形態では、第1レーザ光の集光径d1を800μmとし、第2レーザ光L2は、集光径がd2を40μmとする。また、第2レーザ光L2の旋回速度は500mm/sとする。第2レーザ光L2の旋回径rは第1レーザ光L1の集光径d1と同じく800μmである。
このように、レーザ装置1は、第1レーザ光L1の照射領域の周縁部付近に第2レーザ光L2を旋回照射することにより、高出力の青色レーザ光源を用いなくとも、ワークWに対して比較的狭い領域に第1レーザ光L1を照射するだけで、高品質、高速の溶接加工が可能となる。
次に、図5を用いて各レーザ光L1、L2の集光径d1、d2の計算方法について説明する。レーザ光の集光径は、伝送ファイバのコア径、コリメートレンズの焦点距離、集光レンズの焦点距離に依存し、集光径=伝送ファイバのコア径×(集光レンズの焦点距離/コリメートレンズの焦点距離)で計算することができる。
【0025】
本実施形態において、第1伝送ファイバ2のコア径D1=0.4mm、第2伝送ファイバ3のコア径D2=0.02mm、コリメートレンズ22の焦点距離f=50mm、コリメートレンズ32の焦点距離f=50mm、集光レンズ8の焦点距離f=100mmとすると、第1レーザ光L1の集光径d1は、図5(a)に示すように、d1=0.8mm(=800μm)であり、第2レーザ光L2の集光径d2は、図5(b)に示すように、d2=0.04mm(=40μm)である。
レーザ装置1は、ワークWに対して第1レーザ光L1の照射を開始し、第1レーザ光L1の照射開始と同時若しくは1msec以上遅れて第2レーザ光L2の照射を開始する。なお、第2レーザ光L2を照射する際には、低出力で照射を開始し、指定の出力に達するまで徐々にパワーを上げるように制御してもよい。レーザ装置1は、ワークWに対して第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を50msec以上照射して溶接を行う。
【0026】
第1レーザ光L1と第2レーザ光L2とを同時に照射した場合、第2レーザ光L2の高いパワー密度により、被照射部で急激な温度上昇が起こり、スパッタが発生することがある。そこで、ワークWに対して吸収率の高い第1レーザ光L1のみを先に照射することで、被照射部の急激な温度上昇を抑制し、スパッタの発生を抑制することができる。さらに、第1レーザ光L1によって温度が高まった被照射部は、第2レーザ光L2の波長の吸収率が高まることにより、効率的に第2レーザ光L2のエネルギーをワークWに吸収させることができ、処理時間の短縮に繋がる。第2レーザ光L2は、第1レーザ光L1の照射後、1msec以上遅れて照射することが望ましい。
上記のように、第2レーザ光L2の出力を照射開始から指定の出力にまで徐々に上げる制御を行う場合も、同様にスパッタの発生を抑制する効果が得られる。この制御を行う場合、第2レーザ光L2の照射開始は第1レーザ光L1の照射開始と同時でも良い。第2レーザ光L2の照射開始から、指定の出力に至るまでの時間は0.5msec以上が好ましい。
【0027】
さらに、レーザ装置1は、第1レーザ光L1の照射と同時もしくは照射前から、照射が終了するまで若しくはそれ以上、溶接面に対してシールドガスである窒素を5L/min&#12316;100L/minで吹き付ける。より好ましくは、10L/min&#12316;40L/minで吹き付ける。シールドノズル10の先端開口の径(ノズルチップ径)は、10~20mm程度であり、15mm程度が好ましい。また、シールドノズル10の先端開口からワークWまでの距離であるワーキングディスタンスは、5~10mm程度が好ましい。
図1に示したように、シールドノズル10は同軸型であって、ワークWの上方から窒素を供給することにより、レーザ装置1は、窒素雰囲気中でワークWの溶接を行う。シールドガスにより溶接面の酸化を防止し、これにより、溶接面の酸化により生じる溶接強度の低下およびブローホールの発生を抑制することが可能となる。更には、シールドガスの流量、ノズルチップ径、ワーキングディスタンス等の条件を好適に選択することにより、溶融玉のゆれを抑制し綺麗な溶融玉を形成することが可能となる。これにより溶接品質が向上する。
【0028】
<実施形態の効果>
レーザ装置1は、波長が300nm~600nmであり銅に対する熱吸収率が高い第1レーザ光L1を照射することによりワークWに溶融池を形成する。そして、形成される溶融池の周囲に集光径が小さくエネルギー密度が高い第2レーザ光L2を高速で旋回させながら照射することにより、溶融池の外周縁において局所的に深い溶け込み深さを実現し、溶融池の形成を促進させる。ここれにより、大出力のレーザ光源を必要とすることなく、すなわち第1レーザ光L1の集光径(照射領域)をワークWの比較的小さい領域としても、処理時間が短く品質のよい溶接が可能となる。
【0029】
更に、レーザ装置1は、第2レーザ光L2を定点照射ではなく旋回照射させることにより、溶融池に流れを生み出す。これが高温に達した溶融池から発生する気泡を外部に排出する。これによりポロシティを抑制することができる。さらに、溶融池において局所的に熱が集中するのを防止し、溶融池を安定化させ、スパッタを軽減することが可能となる。ポロシティやスパッタは接合不良などの溶接欠陥の要因となるため、本実施形態のレーザ装置1および溶接方法を用いれば、溶接欠陥の発生を抑制することが可能となる。
図6は、本実施形態のレーザ装置1を用いてステータ50のセグメントコイル52を溶接した結果を示す。同図に示すように、光沢があり左右対称の綺麗な溶融玉が形成されていることが分かる。
【0030】
<変形例>
以上、本発明の一実施態様として、レーザ装置1について説明したが、本発明は上記に説明したレーザ装置1およびレーザ装置1による溶接方法に限定されないのは勿論であり、上記実施形態を以下のように変更することも可能である。ここでは、上記実施形態の変形例を説明する。上記実施形態と以下に説明する変形例とを如何様にも組み合わせることができる。
(1)上記の実施形態では、第2レーザ光L2の旋回径rは第1レーザ光L1の集光径d1と一致し、第2レーザ光L2は、第1レーザ光L1の照射領域の外周縁上を旋回すると説明した。しかし、本発明において、第2レーザ光L2の旋回径rは必ずしも第1レーザ光L1の集光径d1と一致させる必要はない。第2レーザ光L2は、第1レーザ光L1の照射領域の外周縁近傍を旋回すれば足りる。
【0031】
第2レーザ光L2は、図7(a)に示すように、第1レーザ光L1の照射領域の外周縁外側を旋回してもよいし、図7(b)に示すように、第1レーザ光L1の照射領域の外周縁内側を旋回してもよい。発明者らは、第1レーザ光L1の集光径d1が800μmの場合、第2レーザ光L2の旋回径rを様々に変化させながら溶接テストを行ったが、400μm≦r≦900μmrの範囲において、スパッタが軽減されることを確認した。したがって、上記の実施形態において、第2レーザ光L2の旋回径rを400μm≦r≦900μmとすることができる。
また、第1レーザ光L1の集光径をd1とした場合に、第2レーザ光L2の旋回径rは、d1-0.4mm≦r≦d1+0.1mmとしてもよい。また、0.9×d1≦r≦1.1×d1としてもよい。
【0032】
また、上記実施形態で述べたように、ワークWの面積に対する第1レーザ光L1の照射領域が大きい場合に、その外周縁上に第2レーザ光L2を旋回照射すると、照射領域の周縁部に熱が蓄積して過剰な入熱となり得る。そこで、周縁部における過剰な入熱を抑制するために、ワークWに対する第1レーザ光L1の照射径が大きい場合には、第2レーザ光L2を外周縁上に旋回照射させるのではなく、照射領域の内側を旋回照射するようにしてもよい。第1レーザ光L1の照射領域の大きさに応じて、第2レーザ光L2の適切な旋回径rを選択するとしてもよい。これにより、周縁部における過剰な入熱を抑制し、スパッタの発生を抑制するこが可能となる。
【0033】
(2)第1レーザ光L1の集光径d1は、800μmに限定されない。上記で説明したように、第1レーザ光L1の照射領域がワークWの総面積の1パーセント~30パーセントとなるように集光径d1を選択することが可能である。図7(c)に示すように、第1レーザ光L1の集光径d1を400μmとしてもよい。発明者らは、d1=400μmで溶接した場合とd1=800μmで溶接した場合とを比較し、加熱面積の大きい800μmの方がスパッタが抑制されることを確認している。
また、第2レーザ光L2の集光径d2は40μmに限定されない。第2レーザ光L2の集光径d2は、10~100μm程度とすることが可能である。発明者らは、d2=15μmで溶接した場合とd2=40μmで溶接した場合とを比較し、40μmで溶接した方が照射パワー密度が低いにも拘らず、溶接時間が短縮されることを確認している。
図5で説明したように、各レーザ光の集光径は、伝送ファイバのコア径、コリメートレンズの焦点距離、集光レンズの焦点距離を調整することにより変更することが可能である。
【0034】
(3)上記の実施形態では、第2レーザ光L2の旋回速度を500mm/sとして説明したが、第2レーザ光L2の旋回速度はこれに限定されず、100~1000mm/sの範囲でよい。
(4)上記の実施形態では、第1レーザ光L1はマルチモードであり、第2レーザ光L2はシングルモードであると説明したが、これは一例であり、各レーザ光のビームモードは限定されない。
(5)上記の実施形態では、同軸ノズル型のシールドノズル10を用いたが、シールドノズルは同軸ノズル型に限定されないのは勿論である。サイドノズル型やチャンバー型を用いてもよい。また、複数のノズルからシールドガスを吹き付ける構成であってもよい。何れの場合も溶接面に対して傾き角度0~90°で窒素を吹き付け、窒素雰囲気中で溶接することが可能であればよい。
【0035】
(6)上記の実施形態では、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2は、ワークW(溶接面)上に焦点を合わせているが、本発明においては、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2はともに、溶接面から鉛直方向に±2mmの範囲の位置に焦点を合わせてもよい。
(7)上記の実施形態において第1レーザ光L1は円形ビームであったが、第1レーザ光L1のビーム形状はこれに限定されない。例えば、楕円形状のビームや矩形形状のビームを用いてもよい。この場合、矩形の溶接面において長手方向を長径とすることが好ましい。
(8)上記の実施形態では被処理物としてステータ用コイルを例に説明した。しかしながら、上記の溶接方法およびレーザ装置1は、ステータ用コイルの溶接に使用する場合に限定されないのはもちろんである。
【符号の説明】
【0036】
1 レーザ装置
2 第1発振器
3 第2発振器
4 レーザ走査光学系
5、6、7 ミラー(ダイクロイックミラー)
8 集光レンズ
9 保護ガラス
10 シールドノズル
11 同軸カメラ
21、31 伝送ファイバ
21、32 コリメートレンズ
52 セグメントコイル(第1部材、第2部材)
52a 端面

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7