(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110648
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】音波到来方向検出装置と水中航走体装置、音波到来方向検出方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 3/803 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
G01S3/803
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012229
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】島津 定生
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AB13
5J083AB20
5J083AC18
5J083AC28
5J083AD18
5J083AE02
5J083AF18
5J083BC05
5J083BC06
5J083BC07
5J083BC10
5J083BE14
5J083BE43
5J083BE54
5J083CA07
(57)【要約】
【課題】水中航走体の後部の推進器からの推進器音の影響を排除、抑制し、該推進器音による、船舶が放射する音波の到来方向の検出精度の悪化を回避可能とする。
【解決手段】パッシブソナーを有し後方に推進器を備えた水中航走体の音波到来方向補正装置であって、前記パッシブソナーのカージオイド(CARDIOID)指向性の無感度方向を前記水中航走体の後部方向に設定し、前記パッシブソナーでの受波信号を受け、前記推進器からの推進器音を排除した受波レベルに基づき前記推進器音の受波レベルを算出し、前記推進器音の影響を補正した、音波の到来方向を検出する手段を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッシブソナーを有し後方に推進器を備えた水中航走体の音波到来方向検出装置であって、
前記パッシブソナーのカージオイド(CARDIOID)指向性の無感度方向を前記水中航走体の後部方向に設定し、
前記パッシブソナーでの受波信号を受け、前記推進器からの推進器音を排除した受波レベルに基づき前記推進器音の受波レベルを算出し、前記推進器音の影響を補正した、音波の到来方向を検出する手段を備えた、ことを特徴とする音波到来方向検出装置。
【請求項2】
前記パッシブソナーが、
無指向性の第1の受波器と、
前記水中航走体の進行方向の前後に指向性を有する第2の受波器と、
前記水中航走体の進行方向の左右に指向性を有する第3の受波器と、
を備え、
前記第1乃至第3の受波器のそれぞれの受波信号を周波数領域に変換し、所定の周波数帯での周波数成分毎の前記第1の受波器による無指向性の受波レベルと、周波数成分毎の前記第2の受波器での受波レベルに基づき、周波数成分毎のカージオイド指向性の受波レベルを算出する手段と、
前記所定の周波数帯での周波数成分毎の前記第2の受波器と周波数成分毎の前記第3の受波器での受波レベルに基づき、周波数成分毎の受波方向を算出する手段と、
前記周波数成分毎の無指向性の受波レベルと、前記周波数成分毎のカージオイド指向性の受波レベルと、前記周波数成分毎の受波方向と、に基づき、周波数成分毎の前記推進器音の受波レベルを算出する手段と、
を備えた、ことを特徴とする請求項1に記載の音波到来方向検出装置。
【請求項3】
前記第1の受波器の受波信号の前記周波数成分毎の受波レベルの平均値を算出し、
各周波数成分の受波レベルと前記平均値との比率が、予め定められた閾値を超える周波数成分について、船舶が放射する前記音波の到来方向を検出する手段を備えた、ことを特徴とする請求項2に記載の音波到来方向検出装置。
【請求項4】
前記カージオイド指向性の周波数成分毎の受波レベルを、前記周波数成分毎の受波方向により補正した値(S3)と、前記周波数成分毎の受波方向とに基づき、前記補正した値(S3)の、前記水中航走体の進行方向の前後と左右の軸への射影である第1の値(S4)と第2の値(S6)を求め、
前記第2の値(S6)と前記推進器音の受波レベル(S2)とを加算した第3の値(S5)と、前記第2の値(S6)とに対して、逆正接関数を用いて、船舶が放射する前記音波の到来方向を算出する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の音波到来方向検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の音波到来方向検出装置を備えた水中航走体。
【請求項6】
パッシブソナーを有し後方に推進器を備えた水中航走体における音波到来方向検出方法であって、
前記パッシブソナーに、無感度方向を前記水中航走体の後部方向としたカージオイド(CARDIOID)指向性を持たせ、
前記パッシブソナーでの受波信号を受け、前記推進器からの推進器音を排除した受波レベルに基づき前記推進器音の受波レベルを算出し、
前記推進器音の影響を補正した、音波の到来方向を検出する、ことを特徴とする音波到来方向検出方法。
【請求項7】
前記パッシブソナーが、
無指向性の第1の受波器と、
前記水中航走体の進行方向の前後に指向性を有する第2の受波器と、
前記水中航走体の進行方向の左右に指向性を有する第3の受波器と、
を有し、
前記第1乃至第3の受波器のそれぞれの受波信号を周波数領域に変換し、所定の周波数帯での周波数成分毎の前記第1の受波器による無指向性の受波レベルと、周波数成分毎の前記第2の受波器での受波レベルに基づき、周波数成分毎のカージオイド指向性の受波レベルを算出し、
前記所定の周波数帯での周波数成分毎の前記第2の受波器と周波数成分毎の前記第3の受波器での受波レベルに基づき、周波数成分毎の受波方向を算出し、
前記周波数成分毎の無指向性の受波レベルと、前記周波数成分毎のカージオイド指向性の受波レベルと、前記周波数成分毎の受波方向と、に基づき、周波数成分毎の前記推進器音の受波レベルを算出する、ことを特徴とする請求項6に記載の音波到来方向検出方法。
【請求項8】
前記第1の受波器の受波信号の前記周波数成分毎の受波レベルの平均値を算出し、
各周波数成分の受波レベルと前記平均値との比率が、予め定められた閾値を超える周波数成分について、船舶が放射する前記音波の到来方向を検出する手段を備えた、ことを特徴とする請求項7に記載の音波到来方向検出方法。
【請求項9】
パッシブソナーを有し後方に推進器を備えた水中航走体に搭載されるコンピュータに、
前記パッシブソナーに、無感度方向を前記水中航走体の後部方向としたカージオイド(CARDIOID)指向性を持たせる処理と、
前記パッシブソナーでの受波信号を受け、前記推進器からの推進器音を排除した受波レベルに基づき前記推進器音の受波レベルを算出し、前記推進器音の影響を補正した、音波の到来方向を検出する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項10】
前記パッシブソナーが、
無指向性の第1の受波器と、
前記水中航走体の進行方向の前後に指向性を有する第2の受波器と、
前記水中航走体の進行方向の左右に指向性を有する第3の受波器と、
を備え、
前記第1乃至第3の受波器のそれぞれの受波信号を周波数領域に変換し、所定の周波数帯での周波数成分毎の前記第1の受波器による無指向性の受波レベルと、周波数成分毎の前記第2の受波器での受波レベルに基づき、周波数成分毎のカージオイド指向性の受波レベルを算出する処理と、
前記所定の周波数帯での周波数成分毎の前記第2の受波器と周波数成分毎の前記第3の受波器での受波レベルに基づき、周波数成分毎の受波方向を算出する処理と、
前記周波数成分毎の無指向性の受波レベルと、前記周波数成分毎のカージオイド指向性の受波レベルと、前記周波数成分毎の受波方向と、に基づき、周波数成分毎の前記推進器音の受波レベルを算出する処理と、
を前記コンピュータに実行させる請求項9に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中航走体装置と音波到来方向検出装置、音波到来方向検出方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ技術の進歩により、水中航走体が小型化する傾向にある。水中航走体を小型化することで、製造コストを低減可能としている。さらに、音波センサであるソナーや電波センサであるレーダー、光学センサ等により、当該小型の水中航走体が発見される可能性が低下するというメリットもある。
【0003】
小型化した水中航走体では、これに搭載するパッシブソナーを小型化する必要がある。このため、音響信号を電気信号に変換する音響センサ(電歪振動子)をアレイ状に配列し指向性を得て、水中航走体の後部にある推進器の航走音の影響を排除することは難しい。
【0004】
水中航走体の速力及び深度に対応した推進器音の周波数毎のレベルについて、予め水中航走体を製造する段階で計測し、推定することは可能である。しかし、波浪等により大きく変動する海中雑音と推進器音を区別する方法としては、パッシブソナーにより、推進器音の周波数毎のレベルを直接計測した方が正確である。
【0005】
なお、特許文献1には、音響センサからのアナログ受信信号をデジタル信号に変換した上で高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)により周波数成分毎の信号(振幅スペクトル)に変換し、指向性形成部にて周波数成分毎の信号に基づいてカージオイド(CARDIOID)型指向性を所定の周波数成分毎に生成し、カージオイド型指向性に基づいて、最大感度方向の信号レベルと最小感度方向の信号レベルの比率である指向性比率を所定の周波数成分毎に算出し、所定の周波数成分毎に算出された指向性比率を合成して、周波数成分毎の指向性比率の分布を表す指向性比率分布を生成する水中航走体検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、小型化した水中航走体では、これに搭載するパッシブソナーを小型化する必要があることから、音響センサをアレイ状に配列して指向性を得ることで、水中航走体の後部にある推進器の船舶の航走音への影響を排除することは難しい。
【0008】
したがって、本発明の目的は、水中航走体の後部の推進器からの推進器音の影響を排除、抑制し、該推進器音による、船舶が放射する音波の到来方向の検出精度の悪化を回避可能とする、装置、方法、プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、パッシブソナーを有し後方に推進器を備えた水中航走体の音波到来方向検出装置であって、前記パッシブソナーのカージオイド(CARDIOID)指向性の無感度方向を前記水中航走体の後部方向に設定し、前記パッシブソナーでの受波信号を受け、前記推進器からの推進器音を排除した受波レベルに基づき前記推進器音の受波レベルを算出し、前記推進器音の影響を補正した、音波の到来方向を検出する手段を備えた音波到来方向検出装置が提供される。
【0010】
本発明によれば、パッシブソナーを有し後方に推進器を備えた水中航走体における音波到来方向検出方法であって、前記パッシブソナーに、無感度方向を前記水中航走体の後部方向としたカージオイド(CARDIOID)指向性を持たせ、
前記パッシブソナーでの受波信号を受け、前記推進器からの推進器音を排除した受波レベルに基づき前記推進器音の受波レベルを算出し、
前記推進器音の影響を補正した、音波の到来方向を検出する、ことを特徴とする音波到来方向検出方法が提供される。
【0011】
本発明によれば、パッシブソナーを有し後方に推進器を備えた水中航走体に搭載されるコンピュータに、前記パッシブソナーに、無感度方向を前記水中航走体の後部方向としたカージオイド(CARDIOID)指向性を持たせる処理と、
前記パッシブソナーでの受波信号を受け、前記推進器からの推進器音を排除した受波レベルに基づき前記推進器音の受波レベルを算出し、前記推進器音の影響を補正した、音波の到来方向を検出する処理と、を実行させるプログラムが提供される。さらに、本発明によれば、上記プログラムを記憶したコンピュータ可読型記録媒体(例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、又は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM))等の半導体ストレージ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水中航走体の後部の推進器からの推進器音の影響を排除、抑制し、該推進器音による、船舶が放射する音波の到来方向の検出精度の悪化を回避可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本発明の実施形態の水中航走体の概観の概要を説明する図である。
【
図1B】本発明の実施形態におけるパッシブソナーを説明する図である。
【
図4A】パッシブソナーの無指向性受波器の指向性を模式的に説明する図である。
【
図4B】パッシブソナーの無指向性受波器の指向性(方向―感度の分布)を示す図である。
【
図5A】カージオイド指向性を模式的に説明する図である。
【
図5B】カージオイド指向性(方向―感度の分布)を示す図である。
【
図6】(A)-(C)はパッシブソナーの各受波器の指向性を模式的に説明する図、(D)は本発明の実施形態の方向補正装置の構成を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態の方向補正装置の動作を示す流れ図である。
【
図9】(A)、(B)は、無指向性受波器の受波信号のレベル(周波数分布)とカージオイド指向性の受波信号のレベル(周波数分布)を示す図である。
【
図10】(A)、(B)は、
図8の位置関係における、無指向性受波器の受波信号のレベル(周波数分布)と無指向性受波信号の方向(周波数分布)を示す図である。
【
図11】(A)、(B)は、無指向性受波器の受波信号のレベル(周波数分布)と無指向性受波信号の方向(周波数分布)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について説明する。本発明の一態様によれば、パッシブソナーを有し後方に推進器を備えた水中航走体に搭載される音波到来方向検出装置(方向補正装置)は、前記パッシブソナーに、無感度方向を前記水中航走体の後部方向に設定した指向性を持たせ、前記パッシブソナーでの受波信号を受け、前記推進器からの推進器音を排除した受波レベルに基づき、前記推進器音のレベルを算出し前記推進器音の影響を補正した音波の到来方向を検出する。
【0015】
本発明の一態様の音波到来方向検出装置では、パッシブソナーに装備された無指向性受波器で受波した水中音波について、アナログ信号からデジタル信号に変換した時間領域の信号系列を周波数領域に変換し検出周波数帯での周波数成分毎の受波レベルを算出する。
【0016】
本発明の一態様の音波到来方向検出装置では、パッシブソナーに装備された無指向性受波器及び前後指向性受波器でそれぞれ受波した水中音波についてアナログ信号からデジタル信号に変換した時間領域の信号系列を周波数領域に変換し検出周波数帯の周波数成分毎の受波レベルを算出し、無感度方向を水中航走体の後方に設定したカージオイド(CARDIOID)指向性の受波レベルを算出する。
【0017】
さらに、本発明の一態様の音波到来方向検出装置では、周波数成分毎の無指向性の受波レベルとCARDIOID指向性の受波レベルとの差から周波数成分毎の推進器音(水中航走体の後方の推進器からの作動音等)の受波レベルを算出する。
【0018】
そして、本発明の一態様の音波到来方向検出装置では、前後指向性受波器及び左右指向性受波器により受波した水中音波の到来方向(補正前)の算出結果について、推進器音の受波レベル成分を除いた音波到来方向を算出する。
【0019】
<実施形態>
図1A、
図1Bは、一実施形態を説明する図である。
図1Aは、パッシブソナーを装備した水中航走体を示す図である。
図1Bは、
図1Aのパッシブソナー2の構成を説明する図である。
図1Aを参照すると、水中航走体1は、パッシブソナー2を備えている。水中航走体1が海面付近を航行する際に、パッシブソナー2で他の船舶5からの音波を受信して他の船舶5の方位を検出し衝突を防止したり、あるいは、他の船舶5に探知されることを回避する。
【0020】
図1Aに示すように、水中航走体1は、後端(後方)に推進器3を備えている。推進器3は、水中航走体1の後部に装備され、不図示のスクリュープロペラの回転により推進力を得るものであるが、スクリュープロペラの回転は、キャビテーションノイズ(プロペラの回転速度が速くなると、羽根背面の低圧部分で気泡が発生し、これがつぶれる際に発生するノイズ)等を発生させる。推進器音4は、推進器3の内部でスクリュープロペラが回転することにより生じた音波である。
【0021】
パッシブソナー2において、推進器音4は後方から到来する音波となる。すなわち、推進器音4はパッシブソナー2に対する雑音源になる。特に制限されないが、この実施形態では、推進器3として、スクリュープロペラをシュラウド(不図示)で覆ったポンプジェット推進型の推進器を想定している。
【0022】
船舶5は、パッシブソナー2により、その航走音を検出する対象である。
【0023】
図1Bに示すように、パッシブソナー2は、無指向性受波器12、前後指向性受波器13及び左右指向性受波器14を備えている。
【0024】
本実施形態によれば、水中航走体1内に実装される音波到来方向検出装置(方向補正装置)は、パッシブソナー2において、特定の方向から到来する音波を遮断するCARDIOID指向性を利用し、推進器3が発する音(推進器音4)のレベルを計測することにより、船舶5から到来する航走音の到来方向の検出結果について、推進器音4の影響を排除するよう補正する構成とされている。
【0025】
図2A、
図2Bは、水中航走体1による船舶の航走音の到来方向の検出を説明する図である。
図2Aは、海面付近を航行する水中航走体1をZ軸方向(上方)からみた模式的平面図(XY平面図)、
図2Bは、海面付近を航行する水中航走体1を示す模式側面図である。
【0026】
図2Aに模式的に示すように、パッシブソナー2は、水平方向(XY平面)の全周を監視して、他の船舶5が放射する音波(航走音)を検出し、その音波到来方向から、他の船舶5の方向(「船舶方向」という)6を判定する。これにより、他の船舶5との衝突を防止する。船舶方向は、例えば、水中航走体1の船首方向を基準とし、パッシブソナー2から見た船舶5の方向である。
【0027】
小型の水中航走体1では、パッシブソナー2について、水平方向に複数の受波器を配列した受波アレイを装備するスペースがない。このため、
図1Bに示すように、無指向性受波器12、前後指向性受波器13及び左右指向性受波器14の3つのみを使用する場合がある。水平方向に受波アレイを配列しない場合、水中航走体1の後部に配置される推進器3(スクリュープロペラ)の回転音である推進器音の影響を排除することができない。
【0028】
図3は、水中航走体1による船舶5の航走音の到来方向の検出に影響する推進器音を説明する図である。船舶航走音受波信号レベル(S1)7は、船舶5がスクリュープロペラを回転させて航走する際に放射する音波をパッシブソナー2により検出したレベルを表している。推進器音受波信号レベル(S2)8は、水中航走体1が航走する際に推進器3が放射する音波をパッシブソナー2により検出するレベルを表している。
【0029】
図3に示すように、他の船舶5の航走音の到来方向(船舶方向6)のベクトルv1(大きさ|v1|=S1:船舶航走音受波信号レベル7)と、推進器音4の到来方向のベクトルv2(大きさ|v2|=S2:推進器音受波信号レベル8)の合成ベクトルvの方向が、パッシブソナー2による、他の船舶5の検出方向になってしまう。
【0030】
結果として、水中航走体1に装備されたパッシブソナー2により検出した他の船舶5の航走音の到来方向(パッシブソナー検出方向9)は、実際よりも水中航走体1の後ろ寄りになってしまう、という課題がある。
【0031】
図4A及び
図4Bは、水中航走体1に装備されたパッシブソナー2の無指向性受波器12の指向性を模式的に示す図である。
図4Aは、海面付近を航行する無人の水中航走体1をZ軸方向からみたXY平面図において、無指向性受波器12の指向性10を示している。
図4Bは、無指向性受波器12における方向(横軸)と感度(受波レベル)(縦軸)を示した図である。
図4A及び
図4Bに示すように、無指向性受波器12は、360度均一の指向性10を有する。
【0032】
図5A及び
図5Bは、水中航走体1に装備されたパッシブソナー2の受波信号から合成したCARDIOID指向性を示す図である。
図5Aは、海面付近を航行する水中航走体1をZ軸方向からみたXY平面図において、CARDIOID指向性11を示している。
図5Bは、CARDIOID指向性11の方向(横軸)と感度(受波レベル)(縦軸)の分布を示した図である。
図5Bにおいて、感度(受波レベル)は、方向θに対して1+cos(θ)の特性を有しており、θ=0に対して最大感度となり、θ=πでヌル(無感度)となる。
【0033】
パッシブソナー2に装備される無指向性受波器12は水平方向の指向性を持たないので、推進器音4の影響を受けるが、CARDIOID指向性11は、後方から到来する音波を遮断するので、推進器音4の影響を受けない。
【0034】
図6は、本実施形態の音波到来方向検出装置(「方向補正装置」ともいう)24を説明する図である。
図6(A)、(B)、(C)は、無指向性受波器12、前後指向性受波器13、左右指向性受波器14のXY平面での指向性のパターンを示す図である。
図6(A)の無指向性のパターンは360度均一の感度であり、
図6(A)でこれを、円(半径1)で示している。
図6(B)、(C)は、前後指向性受波器13は、
図6(B)に示すように、方向θに対して、cosθで表される指向性を有する。左右指向性受波器14は、
図6(C)に示すように、sinθで表される指向性を有する。
【0035】
図6(A)の無指向性のパターンの受波器の受波レベルと、
図6(B)の指向性パターンの受波器の受波レベルとを加算することで、1+cosθで表される指向性(カージオイド型指向性)が得られる。カージオイド型の指向性パターンは、例えばθ=0に対して最大感度となり、θ=πに対して無感度(ヌル)となる。
【0036】
図6(D)は、実施形態の水中航走体1に装備されたパッシブソナー2の方向補正装置24の構成を示す図である。
図6(D)において、プリアンプ15-1、15-2、15-3は、それぞれ、水中の音圧を電気信号(電圧)に変換して出力する無指向性受波器12、前後指向性受波器13、左右指向性受波器14からの微弱な電気信号(電圧)を増幅する。
【0037】
バンドパスフィルタ(Band Pass Filter: BPF)16-1、16-2、16-3は、それぞれプリアンプ15-1、15-2、15-3からの電気信号を入力とし、後段の処理であるFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)の対象外の周波数成分を減衰させ、FFT処理対象の周波数帯を抽出する。
【0038】
AD変換器(Analog to Digital Converter: ADC)17-1、17-2、17-3は、それぞれ、バンドパスフィルタ16-1、16-2、16-3から出力されるアナログ信号(電圧)をデジタル信号(デジタルデータ)に変換する。
【0039】
FFT18-1、18-2、18-3は、AD変換器17-1、17-2、17-3から出力されたデジタルデータ(デジタル信号波形)x(t)を周波数領域に変換する。その際、x(t)を、短時間の時間区間に分割して該時間区間の周波数分析する短時間FFT(short-time FFT)を用いてもよい。この場合、窓関数w(t) を順次mS だけシフトしてデジタル信号波形x(t)に乗じることにより、デジタル信号波形(離散時間信号)x(t)のmS ≦t ≦ (mS+N-1)の時間区間の部分を切り出し、該切り出した時間区間の先頭に時間原点を移動した有限長信号(時間フレーム)
xm(t)=[x0,x1,…,xN-1] (m=1,2,…) ・・・(1)
を抽出する。ここで、mは時間フレームのインデックス、Sはフレームシフト量、Nはフレーム長(例えばNは2の冪乗)である。この長さNの有限長信号にFFTを適用することで短時間フーリエ変換(short term FFT)行われる。窓関数としてはHamming窓等を用いてもよい。
【0040】
m番目のフレームx
m(t)のFFTの演算結果
y
m(t)=FFT(x
m(t))=[y
0,y
1,.., y
N-1] ・・・(2)
について、周波数成分の1番目(ビン番号1)y
0はDC(直流)成分である。i番目の周波数成分y
i(i=1~(N/2-1))は複素数であり、実部Re(yi)と虚部Im(yi)とすると、m番目のフレームの周波数スペクトルにおいて、
i番目の周波数成分の振幅I
i(m)(magnitude)は
・・・(3)
で与えられる。なお、i番目の周波数成分の振幅I
i(m)は、i番目の周波数成分の受波レベルともいう。また、m番目のフレームの周波数スペクトルにおいて、i番目の周波数成分の位相θi(m)は、逆正接関数tan
-1を用いて
・・・(4)
で求まる。N/2+1番目はナイキスト周波数(サンプリング周波数の半分)のデータであり、y
i(i=N/2+2~N)は、2~N/2の成分の複素共役が逆順に入っている。FFTのかわりにDFT(Discrete Fourier Transform:離散フーリエ変換)を用いてもよい。
【0041】
FFT演算結果である周波数成分毎の振幅について、例えば数秒間~数10秒間(Nサンプル)の積分(移動平均)を行い、SN比(Signal to Noise Ratio: SNR)の改善を行うようにしてもよい。各フレーム毎のFFT演算結果について、周波数成分毎(i)の振幅I
i(m)(m=1,2,…)の時系列についてある点sを中心に、時間幅Bの時間平均を求め、その平均値をある点sの値とする。
・・・(5)
なお、周波数成分毎の振幅の時系列I
i(τ)(τ=1,2,…)は、離散時間サンプリングであるため、積分演算は加算演算となる。
【0042】
ノイズ成分をσとすると、SN比(SNR)は以下で与えられる。
・・・(6)
【0043】
移動平均によりSN比が改善する。例えば4個のサンプルの平均化により、SN比は6dB(decibel)増大する。このように、移動平均は、自然現象由来の海中雑音に対しては有効であるが、推進器音4は、機械作動音であり、雑音(ランダム性雑音)でないことから、移動平均を行っても、SN比の改善が期待できない。
【0044】
CARDIOID指向性合成部19は、無指向性受波器12の受波信号に関する周波数成分毎の振幅(受波レベル)と、前後指向性受波器13の受波信号に関する周波数成分毎の振幅(受波レベル)を加算する。
【0045】
推進器音レベル算出部20は、無指向性受波器12の受波信号に関する周波数成分毎の振幅(受波レベル)に対し、CARDIOID指向性の周波数成分毎の振幅(受波レベル)に相当するデータを引き算することにより、推進器音を算出する。
【0046】
受波方向計算部21は、前後指向性受波器13の受波信号に関する周波数成分毎の振幅(受波レベル)と、左右指向性受波器14の受波信号に関する周波数成分毎の振幅(受波レベル)の比率に対して、逆正接(tan-1)関数を適用して、その主値を、方向(角度:
degree)に変換する。
【0047】
受波信号検出部22は、無指向性受波器12の受波信号に関する周波数成分毎の振幅(受波レベル)について、周波数帯域での平均値に対する比率の閾値を設定し、該閾値を超える周波数成分毎の振幅(受波レベル)を船舶5の航走音として検出する。
【0048】
受波方向補正計算部23は、無指向性受波器12の受波信号に関する周波数成分毎の振幅(受波レベル)について、推進器音レベル算出部20にて得た周波数成分毎の推進器音の振幅(受波レベル)と、受波方向計算部21で得た周波数成分毎の方向データから、
図3に示すとおり、推進器音4の影響を排除した船舶方向6を算出する。
【0049】
図7は、
図6のパッシブソナーの方向補正装置24の処理を説明するフローチャートである。
【0050】
<ステップ1-1>(無指向性受波器12により受波した音波を周波数成分毎の振幅に変換):
無指向性受波器12により受波して電気信号に変換された無指向性の受波信号について、プリアンプ15―1により増幅し、バンドパスフィルタ16―1により不要な周波数帯域の信号を減衰させて、AD変換器17―1によりデジタルデータに変換する。時間領域のデジタルデータをFFT18-1により時間領域のデータを周波数領域に変換し、周波数成分毎の振幅値を得た上で、さらに周波数成分毎の振幅値について、予め定められたサンプル数、周波数成分毎に移動平均を計算することでSN比を改善する。
【0051】
<ステップ1-2>(前後指向性受波器13により受波した音波を周波数成分毎のレベルに変換):
前後指向性受波器13により受波して電気信号に変換された前後指向性の受波信号について、プリアンプ15―2により増幅し、バンドパスフィルタ16-2により不要な周波数帯域の信号を減衰させ、AD変換器17-2によりデジタルデータに変換する。時間領域のデジタルデータをFFT18-2により時間領域のデータを周波数領域に変換し周波数成分毎の振幅値を得た上で、さらに周波数成分毎の振幅値について、予め定められたサンプル数、周波数成分毎に移動平均を計算し、S/Nを改善する。
【0052】
<ステップ1-3>(左右指向性受波器14により受波した音波を周波数成分毎のレベルに変換):
左右指向性受波器14により受波して電気信号に変換された左右指向性の受波信号について、プリアンプ15-3により増幅し、バンドパスフィルタ16-3により不要な周波数帯域の信号を減衰させて、AD変換器17-3によりデジタルデータに変換する。FFT18-3により時間領域のデータを周波数領域に変換し、さらに周波数成分毎の振幅値について、予め定められたサンプル数分、周波数成分毎に移動平均を計算してSN比を改善する。
【0053】
<ステップ2-1>(CARDIOID指向性の周波数成分毎のデジタルデータを算出):
無指向性受波器12の受波信号の周波数成分毎の振幅から、前後指向性受波器13の受波信号の周波数成分毎の振幅を減算すると、
図5A及び
図5Bに示したCARDIOID指向性の周波数成分毎の振幅を得ることができる。
【0054】
CARDIOID指向性の周波数成分毎の振幅(レベル)は、
図5A及び
図5Bに示すとおり、推進器音4の到来方向である±180degの方向の指向性(感度)が無い。
【0055】
図9(A)、(B)は、無指向性受波器12の受波信号の周波数成分毎の振幅(受波レベル)と、CARDIOID指向性の周波数成分毎の振幅(受波レベル)を示す図であり、横軸は周波数、縦軸は受波レベルである。
図9(B)に示すように、CARDIOID指向性の周波数成分毎のレベルは、
図9(A)に示した無指向性受波器12の受波信号の周波数成分毎のレベルに比べると、推進器音4の各周波数成分を排除しているので、無指向性受波器12の受波信号の周波数成分毎のレベルと比べると、推進器音4の各周波数成分に相当する分、受波レベルが小さくなる傾向がある。
【0056】
<ステップ2-2>(推進器音の周波数成分毎のデジタルデータを算出):
推進器音レベル算出部20において、無指向性受波器12の受波信号の周波数成分毎の振幅(受波レベル)から、CARDIOID指向性の音波の周波数成分毎の振幅(受波レベル)を減算することで、推進器音4の周波数成分毎の振幅(受波レベル)を得る。このとき、CARDIOID指向性は、
図5Bに参照符号11で示したように、水平方向の指向性を有し、方向によって受波感度(レベル)が異なる。
【0057】
推進器音レベル算出部20では、CARDIOID指向性の周波数成分毎のレベル(CARDIOID指向性レベル)について、次式により補正を行い、補正した結果を無指向性レベルから減算することで、推進器音レベルを求める。
【0058】
推進器音レベル=無指向性レベル-CARDIOID指向性レベル/(cosθ2+1) ・・・(7)
【0059】
上式(7)において、θ
2は
図3のパッシブソナー検出方向9のθ
2であり、後述するステップ2-3で求められる。CARDIOID指向性(CARDIOID曲線)11は、極座標で、原点からの距離 r とし角度θ(ラジアン)とすると、
r=a(1+cosθ) ・・・(8)
と表される(
図5Bでは、a=1)。上式(7)の第2項は、
a=r/(1+cosθ) ・・・(9)
において、θ=θ
2とした演算に対応している。
【0060】
図9(A)の無指向性の周波数成分毎の受波レベル(周波数分布例)と、
図9(B)のCARDIOID指向性受波信号の周波数成分毎の受波レベル(方向によるレベル補正済み)の差分が、
図1の推進器音4の受波信号であり、
図3の推進器音受波信号レベル(S2)8に相当する。
【0061】
図9(B)のCARDIOID指向性の受波信号のレベル(周波数分布例)が、
図3の船舶航走音受波信号レベル(S1)7に相当する。
【0062】
<ステップ2-3>(周波数成分毎の受波方向を算出):
受波方向計算部21において、前後指向性受波器13の受波信号の周波数成分毎の振幅と、左右指向性受波器14の受波信号の周波数成分毎の振幅の比率を逆正接関数(arctangent)により方向(角度)に変換することで、
図12に示すパッシブソナー検出方向(θ
2)9を算出する。
【0063】
図12において、前後指向性受波器13(
図6)の受波信号の周波数成分毎の振幅は、A-C間の距離であり、次式(10)で計算される。
図12において各円の直径は1としている。
AC=cos(θ
2) ・・・(10)
【0064】
図12において、左右指向性受波器14(
図6)の受波信号の周波数成分毎の振幅は、A-B間の距離に相当する。
AB=sin(θ
2) ・・・(11)
【0065】
式(10)、(11)より、
θ2=tan-1(AB/AC) ・・・(12)
なお、θ2は逆正接関数tan-1の主値(-π/2<θ2<π/2)とする。
【0066】
図8は、水中航走体1に装備されたパッシブソナー2により2隻の船舶の航走音を検出する場合の位置関係の例を示す。
図9(A)、(B)は、
図8に示す位置関係における、無指向性受波器の受波信号の周波数分布例及びCARDIOID指向性受波信号の周波数分布例を示す。
図10(A)、(B)は、
図8に示す位置関係における、無指向性受波器の受波信号の周波数分布例及び無指向性受波器の受波信号の音波到来方向の計算例を示す。
【0067】
図10(B)は、
図8に例示する船舶(1)25及び船舶(2)27の2隻の船舶が存在する場合のパッシブソナー検出方向の計算結果例を示す(横軸は周波数、縦軸は方向(deg)である。
【0068】
図10(B)において、船舶方向(1)26は45degの方向であり、船舶(1)25の航走音の周波数成分について検出方向を計算した結果は、概ね55degの方向である。
【0069】
船舶方向(2)28は90degの方向であり、船舶(2)27の航走音の周波数成分について検出方向を計算した結果は、概ね100degの方向である。
【0070】
推進器方向29は、水中航走体が
図1に示す構造であることから、推進器音4の周波数成分について検出方向を計算した結果は、概ね、
120deg~180deg、及び、
-120deg~-180deg
の方向である。
【0071】
このように、受波振動子をアレイ配列構造としない単純なパッシブソナー2であっても、
図8の船舶(1)25及び船舶(2)27の航走音に対して、周波数の特徴がある場合は、複数の船舶の航走音の到来方向を区別して算出することができる。
【0072】
なお、周波数成分毎の受波方向の計算結果は、
図3のパッシブソナー検出方向9であり、船舶方向6を算出するには、周波数成分毎の受波方向の補正計算が必要である。再び
図7を参照して説明する。
【0073】
<ステップ3>(閾値による受波信号の検出):
無指向性受波器12が受波信号の周波数成分毎の振幅レベル(受波レベル)について、周波数帯域の周波数成分毎の振幅レベルの平均値を算出する。
【0074】
各周波数成分と平均値の比率が、予め定められた閾値を超える周波数成分について、船舶5の航走音として検出する。
【0075】
値と比率とした理由は以下のとおりである、
【0076】
気象及び海象によって海中の雑音レベルが変動し、水中航走体1の速力によって推進器音4及び水中航走体1と海水の摩擦等により生じる雑音のレベルが変動するので、周波数帯域の周波数成分毎のレベルの平均値は雑音レベルに相当すると考えられる。レベルの絶対値を、SN比に変換することにより、あらゆる条件に対して、閾値を有効としている。
【0077】
図11(A)に、閾値30を周波数帯域の平均値の3倍に設定した場合の受波信号の検出例を示す。水中航走体1の速力が遅く、推進器音4が小さく、船舶5の航走音が大きい場合は、
図11(B)の例に示すように、推進器方向29の周波数成分を除去し、船舶方向(1)26と船舶方向(2)28のパッシブソナー検出方向を抽出することができる。以下、再び、
図7を参照して説明する。
【0078】
<ステップ5>(周波数成分毎の受波方向の補正値を計算):
推進器音レベル算出部20が算出した推進器音4の周波数成分毎の振幅レベルは、
図3における推進器受波信号レベル(S2)8に相当する。
【0079】
受波方向計算部21により算出した周波数成分毎の音波到来方向の計算結果が
図3におけるパッシブソナー検出方向9(θ
2)に相当する。
【0080】
無指向性の周波数成分毎の振幅レベルが、
図3における船舶航走音受波信号レベル(S1)7に相当する。
【0081】
CARDIOID指向性の周波数成分毎の振幅レベル(受波方向によるレベルの補正済み)が、
図13における受波信号レベル(S3)に相当する。
【0082】
図13に基づき、次の計算により船舶方向6(θ
1)を算出する。
図13において、S3はA-Fに相当し、S4は、A-Gに相当する。
【0083】
S4=S3×cos(θ2) ・・・(13)
【0084】
図13において、S2はA-Eに相当し、S5はA-Hに相当する。したがって、
S5=(S2+S4) ・・・(14)
【0085】
図13において、S6はH-Dに相当する。
S6=S3×sin(θ
2) ・・・(15)
【0086】
したがって、
θ1=tan-1(S6/S5) ・・・(16)
なお、式(16)において、θ1は逆正接関数tan-1の主値(-π/2<θ1<π/2)とする。
【0087】
船舶方向(θ
1)6は、周波数成分毎に算出されるが、
図5Bに示すCARDIOID指向性から、概ね、
120deg~180deg、及び、
-120deg~-180deg
の推進器方向29(
図10参照)から到来する受波信号については、推進器音4または後方に位置する船舶5(
図3の船舶5、あるいは
図8の船舶(1)25)の航走音と考えられる。
【0088】
図5BのCARDIOID指向性11により受波信号のレベルが減衰しており、
図13における船舶航走音受波信号レベル(S1)7と推進器音受波信号レベル(S2)8の差が小さくなる。このため、船舶方向6(θ
1)を正確に計算することができない。このため、周波数成分毎の補正値の計算を行わず、パッシブソナー検出方向9が
-120deg~+120deg
の範囲の周波数成分のレベルについてのみ、周波数成分毎の受波方向の補正計算(ステップ5)を行うことが考えられる。
【0089】
この場合、ステップ4において、ステップ3で求めた受波方向が-120deg~+120degの範囲内にあるか判定し、範囲内にあれば、ステップ5の周波数成分毎の受波方向の補正計算を行い、受波方向が-120deg~+120degの範囲外の場合、周波数成分毎の受波方向の補正計算を行わないようにしてもよい。この場合、周波数成分毎の受波方向の補正計算を行わない旨を出力するようにしてもよい。
【0090】
パッシブソナー検出方向9が、
+120deg~+180deg、及び、
-120deg~-180deg
の周波数成分のレベルについては、検出方向の補正計算を行わないことから、方向の精度が下がるが、船舶5(
図3)が存在する場合は、船舶5の航走音の周波数成分の振幅レベルについて、船舶方向6のおおよその値を得ることはできる。
【0091】
図14は、本発明の実施の形態を説明する図であり、コンピュータ装置(データ処理装置、プロセッサ装置)40に実装した場合の構成を説明する図である。
図14を参照すると、コンピュータ装置40は、プロセッサ41と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の半導体メモリ等(あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等であってもよい)のメモリ42と、表示装置43と、
図6のFFT18-1~18-3と接続するインタフェース44(バスインタフェース)を備えている。プロセッサ41は、メモリ42に格納されたプログラム45を実行することで、
図6のCARDIOID指向性合成部19、推進器音レベル算出部20、受波方向計算部21、受波信号検出部22、受波方向補正計算部23の処理を実行する。プロセッサ41はDSP(Digital Signal Processor)であってもよい。この場合、プロセッサ41は、FFT演算を実行するようにしてもよく、この場合、インタフェース44(バスインタフェース)は、
図6のAD変換器17-1~17-3と接続する。
【0092】
以上説明したように、実施形態においては、以下に記載するような効果を奏する。
【0093】
水中航走体1に装備される簡易型のパッシブソナー2(小型の水中航走体1に装備される非アレイ配列の小型パッシブソナー)において、検出する船舶の航走音の到来方向について、水中航走体1の後部から到来する推進器音4の影響を排除するように船舶の航走音の方向を補正計算することにより、船舶から到来した航走音の方向検出精度を向上可能としている。なお、本発明は、無人水中航走体(Unmanned Underwater Vehicle:UUV)等に適用して好適とされるが、これに限定されることなく、有人水中航走体に適用可能であることは勿論である。
【0094】
上記の特許文献1の開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施の形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0095】
1 水中航走体
2 パッシブソナー
3 推進器
4 推進器音
5 船舶
6 船舶方向
7 船舶航走音受波信号レベル(S1)
8 推進器音受波信号レベル(S2)
9 パッシブソナー検出方向
10 無指向性受波器の指向性
11 CARDIOID指向性
12 無指向性受波器
13 前後指向性受波器
14 左右指向性受波器
15-1~15-3 プリアンプ
16-1~16-3 バンドパスフィルタ
17-1~17-3 AD変換器
18-1~18-3 FFT
19 CARDIOID指向性合成部
20 推進器音レベル算出部
21 受波方向計算部
22 受波信号検出部
23 受波方向補正計算部
24 音波到来方向検出装置(方向補正装置)
25 船舶(1)(第1の船舶)
26 船舶方向(1)(第1の船舶方向)
27 船舶(2)(第2の船舶)
28 船舶方向(2)(第2の船舶方向)
29 推進器方向
30 閾値
40 コンピュータ装置
41 プロセッサ
42 メモリ
43 表示装置
44 インタフェース
45 プログラム