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特開2023-110670工具損傷確率推定装置、工具損傷確率推定方法、及び、プログラム
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  • 特開-工具損傷確率推定装置、工具損傷確率推定方法、及び、プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110670
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】工具損傷確率推定装置、工具損傷確率推定方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4155 20060101AFI20230802BHJP
   B23Q 15/16 20060101ALI20230802BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20230802BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20230802BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230802BHJP
【FI】
G05B19/4155 V
B23Q15/16
G05B19/18 W
B23Q17/09 Z
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012259
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 翔太
(72)【発明者】
【氏名】石川 匠
(72)【発明者】
【氏名】室田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】井出 光星
(72)【発明者】
【氏名】松本 篤始
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA03
3C001KB02
3C001KB09
3C269AB03
3C269AB31
3C269BB12
3C269MN07
3C269MN08
3C269MN09
3C269MN23
3C269MN27
3C269MN28
3C269MN44
3C269QB03
3C269QC01
3C269QC03
3C269QD02
(57)【要約】
【課題】ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定する。
【解決手段】工具損傷確率推定装置は、ワークの加工に用いられる工具の損傷確率を推定するための装置であって、第1推定部及び第2推定部を備える。第1推定部は、工具の状態量を第1学習モデルに入力することにより、工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定する。第2推定部は、第1推定部で推定された損傷評価パラメータを第2学習モデルに入力することにより、損傷確率又は損傷リスクを推定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定するための工具損傷確率推定装置であって、
前記工具の状態量を第1学習モデルに入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定するための第1推定部と、
前記第1推定部で推定された前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを第2学習モデルに入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するための第2推定部と、
を備える、工具損傷確率推定装置。
【請求項2】
前記第1推定部は、同一又は互いに異なる手法において説明変数又は係数の少なくとも1つが互いに異なるように構築された複数の第1学習モデル候補から、前記工具の固有情報に基づいて前記第1学習モデルを選択する、請求項1に記載の工具損傷確率推定装置。
【請求項3】
前記第1推定部は、同一又は互いに異なる手法において説明変数又は係数の少なくとも1つが互いに異なるように構築された複数の第1学習モデル候補から、前記工具の固有情報に基づいて複数の前記第1学習モデルを選択し、前記複数の第1学習モデルの各々を用いた推定結果を総合評価することにより、前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定する、請求項1に記載の工具損傷確率推定装置。
【請求項4】
前記第2推定部は、前記複数の第1学習モデルの各々を用いた推定結果に基づいて前記損傷確率について不確実性を評価する、請求項3に記載の工具損傷確率推定装置。
【請求項5】
前記第1学習モデル又は前記第2学習モデルの少なくとも一方は、回帰分析、ニューラルネットワーク又はランダムフォレスト又はサポートベクターマシーンの少なくとも1つを含む手法で構築される、請求項1から4のいずれか一項に記載の工具損傷確率推定装置。
【請求項6】
前記工具の状態量は、前記工具に関する情報、前記ワークに関する情報、又は、前記加工が実施される加工条件に関する情報の少なくとも1つを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の工具損傷確率推定装置。
【請求項7】
前記工具の状態量は、前記工具の固有情報を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の工具損傷確率推定装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの損傷評価パラメータは、前記工具の欠け、前記工具の切削熱により欠損への影響があるパラメータ、又は、前記工具の切削負荷の誘発及びそれに起因する損傷に関連するパラメータの少なくとも1つに対応するパラメータを含む、請求項1から7の何れか一項に記載の工具損傷確率推定装置。
【請求項9】
ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定するための工具損傷確率推定方法であって、
前記工具の状態量を第1学習モデルに入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定するステップと、
前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを第2学習モデルに入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するステップと、
を備える、工具損傷確率推定方法。
【請求項10】
コンピュータを用いて、ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定するためのプログラムであって、
前記工具の状態量を第1学習モデルに入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定するステップと、
前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを第2学習モデルに入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するステップと、
を実行可能な、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具損傷確率推定装置、工具損傷確率推定方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動制御下において工具を用いてワークを加工する際に、加工作業の進み具合に伴って工具には摩耗が生じる。このような摩耗が進行すると、工具には損傷が生じ、例えば、加工対象であるワークに傷を与えるなどの不具合を招くおそれがある。
【0003】
このように加工中に工具に生じる摩耗量を予測するための技術として、例えば特許文献1がある。この文献では、加工条件と摩耗量との相関を規定する予測モデルを機械学習によって構築することで、当該モデルを用いて、工具に生じる摩耗量を予測することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-139755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、加工時に工具に生じる摩耗量を予測しているが、工具に生じた摩耗によって実際に工具に損傷が発生するか(工具損傷確率)については推定ができない。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定可能な工具損傷確率推定装置、工具損傷確率推定方法、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る工具損傷確率推定装置は、上記課題を解決するために、
ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定するための工具損傷確率推定装置であって、
前記工具の状態量を第1学習モデルに入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定するための第1推定部と、
前記第1推定部で推定された前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを第2学習モデルに入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するための第2推定部と、
を備える。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る工具損傷確率推定方法は、上記課題を解決するために、
ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定するための工具損傷確率推定方法であって、
前記工具の状態量を第1学習モデルに入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定するステップと、
前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを第2学習モデルに入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するステップと、
を備える。
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係るプログラムは、上記課題を解決するために、
コンピュータを用いて、ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定するためのプログラムであって、
前記工具の状態量を第1学習モデルに入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定するステップと、
前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを第2学習モデルに入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するステップと、
を実行可能である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、ワークの加工に用いられる工具の損傷確率又は損傷リスクを推定可能な工具損傷確率推定装置、工具損傷確率推定方法、及び、プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る工具損傷確率推定装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係る工具損傷確率推定装置100の機能的構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態に係る工具損傷確率推定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
本開示の少なくとも一実施形態に係る工具損傷確率推定装置は、ワークの加工に用いられる工具の損傷確率を推定するための装置である。ワークの種類、加工の種類、及び、工具の種類は限定されないが、以下の実施形態では一例として、金属材料(例えばニッケル基耐熱合金)からなるワークに対してドリル工具を用いて穴あけ加工を行う場合について説明する。特にドリル工具は、例えばマシニングセンタ(MC:Machining Center)において穴あけ加工時に自動的に搭載され、操作されることによりワークに対して穴あけ加工が実施される。この際、ドリル工具は作業時に受ける負荷によって少なからず摩耗が生じ、その摩耗が進行すると加工条件やワークの仕様によっては損傷に至るおそれがある。工具損傷確率推定装置は、このような工具に生じ得る損傷の発生確率(損傷確率)を推定することが可能である。
【0014】
(ハードウェア構成)
まず工具損傷確率推定装置のハードウェア構成について説明する。工具損傷確率推定装置は、例えばコンピュータのような演算処理装置によって構成される。図1は一実施形態に係る工具損傷確率推定装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。工具損傷確率推定装置100は、ハードウェア構成として、入力部110と、記憶部120と、演算部130と、出力部140とを備える。
【0015】
入力部110は、工具損傷確率推定装置100において行われる演算処理に必要な各種情報を入力するための構成である。入力部110は、例えばオペレータが操作可能なマウス、キーボード及びタッチパネルのようなヒューマンインターフェースであってもよいし、他の機器から入力情報を取得するためのインターフェース機器であってもよい。
【0016】
記憶部120は、工具損傷確率推定装置100において行われる演算処理に必要な各種情報を記憶するための構成である。記憶部120は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)の少なくとも一方を含むコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等を含んで構成される。記憶部120に記憶される各種情報には、これらのハードウェア構成が工具損傷確率推定装置100として機能するためのプログラムが含まれてもよい。
【0017】
演算部130は、工具損傷確率推定装置100の各種演算を実施するための構成であり、例えばCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。演算部130は、記憶部120に記憶されたプログラムをRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、工具損傷確率推定装置100の各種機能が実現される。
【0018】
尚、演算部130によって実行されるプログラムは、上述のように記憶部120に記憶している形態の他に、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0019】
出力部140は、演算部130における演算結果に基づく出力を行うための構成である。本実施形態では、出力部140は、演算部130の演算結果に基づいて工具の損傷確率を出力し、オペレータは当該損傷確率に基づいて工具が損傷することにより加工作業に不具合が生じることに対して、適宜、対策や準備を行うことが可能となる。
【0020】
(機能的構成)
続いて工具損傷確率推定装置100の機能的構成について説明する。図2は一実施形態に係る工具損傷確率推定装置100の機能的構成を示すブロック図である。工具損傷確率推定装置100は、状態量取得部150と、固有情報取得部160と、第1推定部170と、第2推定部180とを備える。
【0021】
尚、図2に示すブロック図は、以下の説明に対応するように工具損傷確率推定装置100の機能的構成を示した一例であり、各ブロックは互いに統合されていてもよいし、更に細分化されていてもよい。
【0022】
状態量取得部150は、工具損傷確率推定装置100の演算に必要な工具の状態量を取得するための構成である。工具の状態量は、工具が加工に使用された場合に工具の特徴量に影響を与えうる要因に関するパラメータを広く含み、予め次元削減(正規化回帰)されたパラメータとして、前述の入力部110によって適宜入力される。このようなパラメータは限定されないが、具体例を幾つか列挙すると、加工条件(ワークの加工前に設定された条件)、加工音、加工温度、工具種類、加工環境に関する各種パラメータを含めることができる。より具体的には、ワークの材料特性(硬度、引張強度、結晶状態、加工部位の特性(寸法、残留応力、加工変質層等))、工具が搭載されるマシニングセンタの特性(種類、動作精度(軸、テーブル、点検間隔、経年劣化等))、工具の特性(材質、形状、シンニング、寸法、先端角、ねじれ角、溝長、直径バックテーパ、心厚、マージン等)、加工条件(加工深さ、加工径、送り速度、スピンドル回転数、クーラントの濃度や温度、回転当たり送り、加工時間、切削速度等)、オペレータの特性(工具セットアップスキル、部品段取りスキル、治具段取りスキル等)を状態量に含めることができる。
【0023】
固有情報取得部160は、工具損傷確率推定装置100の演算に必要な工具の固有情報を取得するための構成である。工具の固有情報は、ワークの加工に用いられる工具、又は、当該工具が搭載される工作機械(マシニングセンタや旋盤等)を特定するための情報であり、例えば、工具又は工作機械の種類、仕様等を含む。具体的には、ドリル工具に対応する固有情報には、素材供給元、荒加工実施プロセス、加工可能な穴数、ドリルのL/D(長さと直径との比率)が挙げられる。
【0024】
第1推定部170は、少なくとも1つの第1学習モデルM1を用いて、少なくとも1つの損傷評価パラメータPを推定するための構成である。損傷評価パラメータPは、工具の損傷状態を評価するためのパラメータである。一般的に工具が損傷を受ける要因は複数存在し、各要因は工具の寿命に影響を与える。第1学習モデルM1は目的変数として複数の損傷評価パラメータPを有してもよく、本実施形態では、複数の損傷評価パラメータとして、工具の欠け(チッピング)に対応する第1損傷評価パラメータP1、焼けに対応する第2損傷評価パラメータP2、及び、摩耗量に対応する第3損傷評価パラメータP3を有する。
【0025】
第1損傷評価パラメータP1が意味する工具の欠け(チッピング)は、工具材種が硬い場合、送り量が大きい場合、及び、切れ刃強度が不足している場合等に影響が大きな損傷評価パラメータである。第2損傷評価パラメータP2は、切削熱により焼き入れのような脆性化によって欠損への影響があるパラメータである。第3損傷評価パラメータP3は切削負荷の誘発、及び、それに起因する損傷に関連するパラメータである。このように第1学習モデルM1は、目的変数として複数の損傷評価パラメータPを有することで、例えば摩耗量だけを単一の損傷評価パラメータPとする場合に比べて、様々な観点から多角的に損傷評価を行うことができる。
【0026】
第1学習モデルM1は、状態量を含む説明変数と、損傷評価パラメータPである目的変数との相関を示す演算モデルであり、予め教師データを用いて構築される。本実施形態では、第1推定部170は複数の第1学習モデルM1を有する。複数の第1学習モデルM1は、固有情報取得部160で取得される固有情報に対応するように用意される。すなわち、各第1学習モデルM1と固有情報とは予め対応付けられ、固有情報取得部160で取得される固有情報に基づいて選択可能となっている。
【0027】
固有情報に対応するように用意される複数の第1学習モデルM1は、例えば、互いに異なる手法で構築される。図2では、互いに異なる手法A、B、・・・で構築された複数の第1学習モデルM1が示されている。このような第1学習モデルM1の構築手法としては、例えば、回帰分析(単回帰分析、重回帰分析など)、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト又はサポートベクターマシーン(SVM:Support-Vector Machine)等を用いることができる。
【0028】
尚、固有情報に対応するように用意される複数の第1学習モデルM1は、構築される手法が同じであっても、取り扱う説明変数(例えば第1学習モデルM1がY=a×x1+b×x2+cで規定される場合、説明変数x1、x2)や説明変数が異なってもよいし、係数が異なっていてもよい(例えば第1学習モデルM1がY=a×x1+b×x2+cで規定される場合、係数a、b、c)。図2の実施形態では、複数の第1学習モデルM1は、異なる手法A、B、・・・で構築された場合を例示しているが、構築手法が同じ場合であっても、このように説明変数や係数が異なった場合も同様の思想を適用可能である。
【0029】
このような説明変数及び目的変数を有する第1学習モデルM1は、予め教師データを用いて機械学習を実施することにより構築される。第1推定部170では、このように構築された第1学習モデルM1に対して、状態量取得部150で取得された状態量を入力することにより、損傷評価パラメータPを推定することができる。また第1学習モデルM1の入力には、状態量取得部150で取得された状態量に加えて、固有情報取得部160で取得された固有情報を含めてもよい。この場合、固有情報は何らかの数値に変換することで第1学習モデルM1の説明変数として取り扱うことが可能である。このように第1学習モデルM1の説明変数に固有情報を含めることにより、工具種や工作機械の状態等が大幅に異なる場合においても、損傷評価パラメータPを精度よく推定可能な第1学習モデルM1を構築できる。
【0030】
尚、固有情報を第1学習モデルM1の説明変数に含める場合には、ドリル工具の場合、例えば、素材供給元、荒加工実施プロセス、加工可能な穴数、ドリルのL/D(長さと直径との比率)を固有情報に含めることができる。
【0031】
第2推定部180は、第2学習モデルM2を用いて、工具の損傷確率W、又は、工具の損傷リスクを推定するための構成である。損傷確率Wは0~100%の間を連続的に取り扱い可能な指標であり、損傷リスクは例えば小、中、大のように区分された不連続的に取り扱い可能な指標である(尚、損傷リスクにおいて不連続的に取り扱い可能な区分の数は任意でよい)。第2学習モデルM2は、少なくとも1つの損傷評価パラメータPと説明変数とし、損傷確率Wを目的変数とする演算モデルとして構築される。第2学習モデルM2の構築手法は限定されないが、例えば、ナイーブベイズ、決定木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク等を用いることができる。
【0032】
このような説明変数及び目的変数を有する第2学習モデルM2は、予め教師データを用いて機械学習を実施することにより構築される。第2推定部180では、このように構築された第2学習モデルM2に対して、第1推定部170で推定された損傷評価パラメータPを入力することにより、損傷確率W、又は、工具の損傷リスクを推定することができる。本実施形態では、前述したように第1推定部170において複数の損傷評価パラメータPが推定されるため、第2推定部180では、これら複数の損傷評価パラメータPが第2学習モデルM2に入力されることで、損傷確率W、又は、工具の損傷リスクが推定される。
【0033】
続いて上記構成を有する工具損傷確率推定装置100によって実施される工具損傷確率推定方法について説明する。図3は一実施形態に係る工具損傷確率推定方法を示すフローチャートである。
【0034】
まず状態量取得部150によって状態量を取得するとともに(ステップS1)、固有情報取得部160によって固有情報を取得する(ステップS2)。ステップS1の状態量の取得、及び、ステップS2の固有情報の取得は、オペレータが入力部110を操作することによって行われてもよいし、所定のタイミングで自動的に行われてもよい。またステップS1及びS2の実施は、この順に限らず、同時に行われてもよいし、逆に行われてもよい。
【0035】
続いて第1推定部170は、ステップS2で取得した固有情報に基づいて、少なくとも1つの第1学習モデルM1を選択する(ステップS3)。前述したように、固有情報と第1学習モデルM1とは互いに対応付けられており、ステップS3では、複数の第1学習モデルM1(第1学習モデル候補)から、ステップS2で取得された固有情報に対応するものが選択される。本実施形態では、複数の第1学習モデルM1(第1学習モデル候補)から固有情報に対応付けられたいずれか1つの第1学習モデルM1が選択される。
【0036】
続いて第1推定部170は、ステップS3で選択された第1学習モデルM1に対して、ステップS1で取得された状態量を入力することにより、少なくとも1つの損傷評価パラメータPを推定する(ステップS4)。本実施形態では、複数の損傷評価パラメータP(第1損傷評価パラメータP1、第2損傷評価パラメータP2、及び、第3損傷評価パラメータP3)が推定される。
【0037】
続いて第2推定部180は、ステップS4で推定された少なくとも1つの損傷評価パラメータPを取得し、第2学習モデルMを用いて工具の損傷確率W、又は、工具の損傷リスクを推定する(ステップS5)。本実施形態では、第1推定部170において複数の複数の損傷評価パラメータP(第1損傷評価パラメータP1、第2損傷評価パラメータP2、及び、第3損傷評価パラメータP3)が推定されるため、これら複数の損傷評価パラメータPが第2学習モデルM2に入力されることで、損傷確率W、又は、工具の損傷リスクが推定される。
【0038】
ステップS5における第2学習モデルM2を用いた損傷確率W、又は、工具の損傷リスクの推定では、第2学習モデルM2の説明変数に、状態量取得部150で取得された状態量を含めてもよい。この場合、状態量には、工具がドリル工具である場合には、素材供給元、荒加工実施プロセス、加工可能な穴数、ドリルのL/D(長さと直径との比率)、設備型番、加工対象となる穴数、ドリルの突き出し長さ、送り速度、設備の精度点検からの経過日数、治具の経過日数、素材の引張応力、ドリル径、従業員のスキル(スキルチャートから入力された作業経験年数等)を含めることができる。
【0039】
尚、ステップS5で損傷リスクを推定する場合には、損傷リスクの大きさに応じて予め設定された複数の区分(例えば「1.小」、「2.中」、「3.大」等)から対応する区分が特定される。
【0040】
また他の実施形態として、ステップS3では、第1推定部170は、ステップS2で取得した固有情報に基づいて、複数の第1学習モデルM1を選択してもよい。この場合、固有情報に対して複数の第1学習モデルM1が対応付けられており、第1推定部170は、複数の第1学習モデルM1(第1学習モデル候補)から、固有情報取得部160で取得された固有情報に対応付けられた2以上の第1学習モデルM1が選択される。
【0041】
そしてステップS4では、第1推定部170は、複数の第1学習モデルM1の各々の算出結果を総合的に評価することにより、損傷評価パラメータPを推定する。例えば、複数の第1学習モデルM1の各々の算出結果を平均化のような統計的処理を行うことで、単一の第1学習モデルM1を用いた場合に比べて、信頼性の高い損傷評価パラメータPの推定が可能となる。
【0042】
この場合、第1推定部170は、複数の第1学習モデルM1の各々の算出結果について標準偏差σのようなバラツキを評価するための指標を求めてもよい。例えば、第1推定部170において複数の第1学習モデルM1の各々の算出結果から、損傷評価パラメータPについて平均値「90」に加えて、標準偏差「±5」又は「±15」が得られた場合を想定する。ここで損傷評価パラメータPについて予め閾値「100」が設定されていた場合には、標準偏差が「±5」である場合には損傷評価パラメータPは「90±5」となり、標準偏差を考慮したとしても閾値を超えないため損傷リスクは低いと判断できる。一方で標準偏差が「±15」である場合には損傷評価パラメータPは「90±15」となり、標準偏差を考慮すると閾値を超える場合が含まれるため損傷リスクは高いと判断できる。
【0043】
また第1推定部170では、複数の第1学習モデルM1の各々の算出結果について損傷評価パラメータPの最大値に関するバラツキを示す指標を求めてもよい。例えば第1学習モデルM1の選択数が例えば2,3個のように少ない場合には、前述の標準偏差σでは十分な精度の評価を行うことが難しいが、最大値に関するバラツキを示す指標を算出することで、第1学習モデルM1の選択数が少ない場合でも効果的な評価が可能となる。
【0044】
このように第1推定部170では、複数の第1学習モデルM1の算出結果を統計的に処理することにより、損傷評価パラメータPの詳細解析が可能となる。このような解析結果は、第1推定部170で推定された損傷評価パラメータPに基づいて第2推定部180で推定された損傷確率Wとともに用いることで、より信頼度の高い工具の損傷評価が可能となる。これにより、例えば、複数の第1学習モデルM1に固有パラメータに完全(1対1)に対応付けられた第1学習モデルM1が存在しない場合においても、比較的近い第1学習モデルM1を用いた評価が可能となる。そのため事前に想定されていない種類も含めた多種類の工具に本発明を適用することができる。
【0045】
以上説明したように上記実施形態によれば、第1学習モデルM1を用いて工具の状態量に対応する損傷評価パラメータPが推定される。そして、推定された損傷評価パラメータPを更に第2学習モデルM2に入力することにより、工具の損傷確率Wを好適に推定できる。また第1学習モデルM1が出力する結果はあくまで推定量であり、この推定量は仮定した範囲(母集団)のデータの統計から求められるものであるため、例えば仮定が微妙に違うことが原因となって推定結果が完全に正しいという保証がないものではある。そこで本実施形態では複数の第1学習モデルM1を用意することで実質的に仮定に幅を持たせることで、第1学習モデルM1による振れ幅(不確実性)を評価し、その結果から最終的なリスクを評価することができる(いわば“最悪のケースも想定した安全サイドでの判断・運用が可能となる)。
【0046】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0047】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0048】
(1)一態様に係る工具損傷確率推定装置は、
ワークの加工に用いられる工具の損傷確率(W)又は損傷リスクを推定するための工具損傷確率推定装置(100)であって、
前記工具の状態量を第1学習モデル(M1)に入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータ(P)を推定するための第1推定部(170)と、
前記第1推定部で推定された前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを第2学習モデル(M2)に入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するための第2推定部(180)と、
を備える。
【0049】
上記(1)の態様によれば、第1学習モデルを用いて工具の状態量に対応する損傷評価パラメータが推定される。そして、推定された損傷評価パラメータを更に第2学習モデルに入力することにより、工具の損傷確率又は損傷リスクを推定できる。
【0050】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記第1推定部は、同一又は互いに異なる手法において説明変数又は係数の少なくとも1つが互いに異なるように構築された複数の第1学習モデル候補から、前記工具の固有情報に基づいて前記第1学習モデルを選択する。
【0051】
上記(2)の態様によれば、損傷評価パラメータを推定するための第1学習モデルは、予め用意された複数の第1学習モデル候補から選択される。複数の第1学習モデル候補は同一又は互いに異なる手法において説明変数又は係数の少なくとも1つが互いに異なるように構築されており、工具の固有情報に基づいて適切なものが選択されることで、好適に損傷評価パラメータを推定できる。
【0052】
(3)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記第1推定部は、同一又は互いに異なる手法において説明変数又は係数の少なくとも1つが互いに異なるように構築された複数の第1学習モデル候補から、前記工具の固有情報に基づいて複数の前記第1学習モデルを選択し、前記複数の第1学習モデルの各々を用いた推定結果を総合評価することにより、前記少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定する。
【0053】
上記(3)の態様によれば、損傷評価パラメータを推定するための第1学習モデルは、予め用意された複数の第1学習モデル候補から複数選択される。そして、選択された複数の第1学習モデルを用いてそれぞれ推定結果を求め、それらを総合評価することにより、より信頼性の高い損傷評価パラメータの推定が可能となる。
【0054】
(4)他の態様では、上記(3)の態様において、
前記第2推定部は、前記複数の第1学習モデルの各々を用いた推定結果に基づいて前記損傷確率について不確実性を評価する。
【0055】
上記(4)の態様によれば、複数の第1学習モデルを用いた推定結果に基づいて、推定された損傷確率について不確実性を評価できる。これにより、工具の損傷確率の信頼性について定量的な評価が可能となる。
【0056】
(5)他の態様では、上記(2)から(4)のいずれか一態様において、
前記第1学習モデル又は前記第2学習モデルの少なくとも一方は、回帰分析、ニューラルネットワーク又はランダムフォレスト又はサポートベクターマシーンの少なくとも1つを含む手法で構築される。
【0057】
上記(5)の態様によれば、これらの手法を用いて第1推定部で用いられる第1学習モデル、及び、第2推定部で用いられる第2学習モデルを構築することで、好適な損傷評価パラメータ、損傷確率又は損傷リスクの推定が可能となる。
【0058】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記工具の状態量は、前記工具に関する情報、前記ワークに関する情報、又は、前記加工が実施される加工条件に関する情報の少なくとも1つを含む。
【0059】
上記(6)の態様によれば、第1学習モデルに入力される工具の状態量に、ワークに関する情報、又は、加工が実施される加工条件に関する情報を含めることで、好適な損傷評価パラメータの推定が可能となる。
【0060】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記工具の状態量は、前記工具の固有情報を含む。
【0061】
上記(7)の態様によれば、第1学習モデルに入力される工具の状態量に、工具の固有情報を含めることで、好適な損傷評価パラメータの推定が可能となる。
【0062】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記少なくとも1つの損傷評価パラメータは、前記工具の欠け、前記工具の切削熱により欠損への影響があるパラメータ、又は、前記工具の切削負荷の誘発及びそれに起因する損傷に関連するパラメータの少なくとも1つに対応するパラメータを含む。
【0063】
上記(8)の態様によれば、損傷評価パラメータとして、これらのパラメータを用いることで好適に損傷評価が可能となる。
【0064】
(9)一態様に係る工具損傷確率推定方法は、
ワークの加工に用いられる工具の損傷確率(W)又は損傷リスクを推定するための工具損傷確率推定方法であって、
前記工具の状態量を第1学習モデル(M1)に入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定するステップと、
前記少なくとも1つの損傷評価パラメータ(P)を第2学習モデル(M2)に入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するステップと、
を備える。
【0065】
上記(9)の態様によれば、第1学習モデルを用いて工具の状態量に対応する損傷評価パラメータが推定される。そして、推定された損傷評価パラメータを更に第2学習モデルに入力することにより、工具の損傷確率又は損傷リスクを推定できる。
【0066】
(10)一態様に係るプログラムは、
コンピュータを用いて、ワークの加工に用いられる工具の損傷確率(W)又は損傷リスクを推定するためのプログラムであって、
前記工具の状態量を第1学習モデル(M1)に入力することにより、前記工具に生じる損傷状態を評価するための少なくとも1つの損傷評価パラメータを推定するステップと、
前記少なくとも1つの損傷評価パラメータ(P)を第2学習モデル(M2)に入力することにより、前記損傷確率又は前記損傷リスクを推定するステップと、
を実行可能である。
【0067】
上記(10)の態様によれば、第1学習モデルを用いて工具の状態量に対応する損傷評価パラメータが推定される。そして、推定された損傷評価パラメータを更に第2学習モデルに入力することにより、工具の損傷確率又は損傷リスクを推定できる。
【符号の説明】
【0068】
100 工具損傷確率推定装置
110 入力部
120 記憶部
130 演算部
140 出力部
150 状態量取得部
160 固有情報取得部
170 第1推定部
180 第2推定部
M1 第1学習モデル
M2 第2学習モデル
P 損傷評価パラメータ
W 損傷確率

図1
図2
図3