(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110678
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】模擬運転装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/0346 20130101AFI20230802BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
G06F3/0346 423
A61B3/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012268
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000176730
【氏名又は名称】三菱プレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100135976
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】戸井 健夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 涼太
(72)【発明者】
【氏名】栗田 弦太
【テーマコード(参考)】
4C316
5B087
【Fターム(参考)】
4C316AA21
4C316FA02
4C316FA04
4C316FA14
4C316FA19
4C316FC28
4C316FZ01
5B087AA02
5B087AB09
5B087AD02
5B087BC12
5B087BC13
5B087BC32
5B087DE02
(57)【要約】
【課題】ユーザが注視対象物を注視しており且つ模擬運転を行う姿勢において、視線の向きに対する補正値を求める模擬運転装置を提供する。
【解決手段】模擬運転装置は、ユーザによる操作を入力する操作部と、表示部と、撮影部と、撮影部により撮影されたユーザの目を含む画像に基づいて、ユーザの視線の向きを検出する検出部と、検出部により検出されたユーザの視線の向きに基づいて、表示部におけるユーザの注視位置を求める位置算出部と、移動する注視対象物を表示部に表示し、且つ、ユーザによる操作部の操作に基づいて移動するマーカを表示部に表示する表示制御部と、マーカと注視対象物とが重なった時に、位置算出部により求められたユーザの注視位置と、表示部における注視対象物の位置とに基づいて、ユーザの視線の向きに対する補正値を求める補正値算出部とを有し、補正値を用いて、ユーザの視線の向きが補正される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザによる操作に基づいて、移動物体の動作を模擬する模擬運転装置であって、
ユーザによる操作を入力する操作部と、
表示部と、
撮影部と、
前記撮影部により撮影されたユーザの目を含む画像に基づいて、ユーザの視線の向きを検出する検出部と、
前記検出部により検出されたユーザの前記視線の向きに基づいて、前記表示部におけるユーザの注視位置を求める位置算出部と、
移動する注視対象物を前記表示部に表示し、且つ、ユーザによる前記操作部の操作に基づいて移動するマーカを前記表示部に表示する表示制御部と、
前記マーカと前記注視対象物とが重なった時に、前記位置算出部により求められたユーザの前記注視位置と、前記表示部における前記注視対象物の位置とに基づいて、前記ユーザの視線の向きに対する補正値を求める補正値算出部と、
を有し、
前記補正値算出部により前記補正値が求められた場合、前記補正値を用いて、ユーザの前記視線の向きが補正される、ことを特徴とする模擬運転装置。
【請求項2】
前記表示制御部は、前記注視対象物を第1の方向に移動するように前記表示部に表示すると共に、前記注視対象物を前記第1の方向と交差する第2の方向にも動くように前記表示部に表示する、請求項1に記載の模擬運転装置。
【請求項3】
前記表示制御部は、前記注視対象物の形状が変化しながら移動するように前記表示部に表示する請求項1又は2に記載の模擬運転装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記マーカが前記注視対象物と重なった時に、前記マーカが前記注視対象物と重なったことを表す視覚的情報を、前記マーカと前記注視対象物と重なった位置に表示する、請求項1~3の何れか一項に記載の模擬運転装置。
【請求項5】
前記表示部の画面上には前記補正値を求める補正値取得位置が設定されており、
前記表示制御部は、前記注視対象物が前記補正値取得位置に向かって移動して、前記補正値取得位置において停止するように前記表示部に表示する、請求項1~4の何れか一項に記載の模擬運転装置。
【請求項6】
前記表示部の画面は、複数の補正値取得領域に分割されており、前記複数の補正値取得領域のそれぞれに対して、前記補正値取得位置が設定される、請求項5に記載の模擬運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の移動物体の運転及び移動を模擬する模擬運転装置は、移動物体の運転教習等において用いられている。
【0003】
模擬運転装置は、ユーザが着座する運転席と、ユーザが操作するハンドル(ステアリングホイール)等と、運転席から見えることになる景観を表示する表示装置とを備える。
【0004】
表示装置に表示される景観は、模擬運転シナリオに基づいて生成される。模擬運転装置のユーザは、表示装置に表示される模擬視界画像を見ながら、自動車等の移動物体の運転の教習を行う。
【0005】
模擬運転装置は、ユーザの視線の向きを検出することにより、模擬視界画像内のユーザの注視位置を求めて、ユーザの模擬運転の状態を判定する場合がある。
【0006】
ユーザの視線の向きは、ユーザの目を含む画像に基づいて検出される。ユーザの視線の向きを検出する方法として、例えば、角膜反射法及び眼球中心法がある。これらの方法では、所定のモデルを用いて、視線の向きを検出しているので、個々のユーザの視線の向きを精確に推定しているとは限らない。
【0007】
そこで、ユーザが模擬運転装置を利用する時には、最初にキャリブレーションを行って、ユーザの正しい視線の向きと、所定のモデルを用いて推定されて視線の向きとの相違を検出して、正しい視線の向きを求めるための補正値が求められる(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
視線の向きのキャリブレーションでは、例えば、表示装置の画面に表示された点又は丸(注視対象物)をユーザに注視してもらった状態で、ユーザの視線の向きに対する補正値が求められる。そして、模擬運転装置は、視線の向きを補正することにより、ユーザの視線の向きを正確に検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、キャリブレーションにおいて、視線の向きに対する正しい補正値が求められるとは限らない。表示装置の画面に表示された点又は丸は、視覚的な刺激が弱いので、画像が撮影される時にユーザは不随意に目をそらしてしまうおそれがある。
【0011】
また、ユーザは、キャリブレーションという動作に対して姿勢を整えたりするので、実際に模擬運転を行っている姿勢とは異なる状態でキャリブレーションが行われるおそれもある。
【0012】
ユーザが注視対象物を注視していないか、又は、実際に模擬運転を行うのとは異なる姿勢において補正値が求められると、この補正値を用いても、ユーザの視線の向きを正確に推定できるとは限らない。
【0013】
そこで、ユーザが注視対象物を注視しており、且つ、模擬運転を行う姿勢において、視線の向きに対する補正値を求めることのできる模擬運転装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一の実施形態によれば、模擬運転装置が提供される。この模擬運転装置は、ユーザによる操作に基づいて、移動物体の動作を模擬する模擬運転装置であって、ユーザによる操作を入力する操作部と、表示部と、撮影部と、撮影部により撮影されたユーザの目を含む画像に基づいて、ユーザの視線の向きを検出する検出部と、検出部により検出されたユーザの視線の向きに基づいて、表示部におけるユーザの注視位置を求める位置算出部と、移動する注視対象物を表示部に表示し、且つ、ユーザによる操作部の操作に基づいて移動するマーカを表示部に表示する表示制御部と、マーカと注視対象物とが重なった時に、位置算出部により求められたユーザの注視位置と、表示部における注視対象物の位置とに基づいて、ユーザの視線の向きに対する補正値を求める補正値算出部と、を有し、補正値算出部により補正値が求められた場合、補正値を用いて、ユーザの視線の向きが補正される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上述した本明細書に開示する模擬運転装置によれば、ユーザがターゲットを注視しており、且つ、模擬運転を行う姿勢において、視線の向きに対する補正値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は、本実施形態の模擬運転装置を示す図であり、(B)は、要部の拡大図である。
【
図2】(A)~(C)は、本実施形態の模擬運転装置の動作の概要を説明する図である。
【
図4】注視位置算出処理の動作フローチャートの一例である。
【
図5】(A)は、注視位置を求めることを説明する図であり、(B)は、補正値を求めることを説明する図である。
【
図6】補正処理の動作フローチャートの一例である。
【
図8】ターゲット表示処理の動作フローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1及び
図2を参照して、本実施形態の制御装置10を含む模擬運転装置1の動作の概要を説明する。
図1(A)は、本実施形態の模擬運転装置を示す図であり、
図1(B)は、要部の拡大図である。
図2(A)~
図2(C)は、本実施形態の模擬運転装置の動作の概要を説明する図である。
【0018】
模擬運転装置1は、移動物体としての普通自動車の動作を模擬する。模擬運転装置1は、ハンドル4等を操作可能に運転席2に着座したユーザに対して、表示装置3に模擬視界画像を表示することにより、普通自動車を模擬的に運転操作する環境を提供する。なお、模擬運転装置1は、普通自動2輪車、鉄道車両又は航空機等を含む移動物体の動作を模擬する装置であってもよい。
【0019】
制御装置10は、ハンドル4等から入力した操作信号に基づいて、ユーザが模擬的に運転する普通自動車の運動を計算する。また、制御装置10は、ユーザが着座する運転席2から見える景観の中を移動する人又は他の車両等の運動を計算する。そして、制御装置10は、模擬教習のシナリオに基づいて、ユーザが着座する運転席2から見えることになる景観の模擬視界画像を生成して、表示装置3に表示する。
【0020】
制御装置10は、カメラ5を用いてユーザの目を含む顔画像を撮影し、この顔画像に基づいて、ユーザの視線の向きを検出する。そして、制御装置10は、ユーザの視線の向きを検出することにより、模擬視界画像内の注視位置を求めて、ユーザの模擬運転の状態を判定する。
【0021】
制御装置10は、顔画像に基づいて、所定のモデルを用いて、ユーザの視線の向きを推定する。しかし、所定のモデルを用いて推定された視線の向きが、個々のユーザの視線の向きを正確に推定しているとは限らない。
【0022】
そこで、制御装置10は、ユーザが模擬運転装置を利用する時には、最初にキャリブレーションを行って、所定のモデルを用いて検出された視線の向き(以下、第1視線方向ともいう)に対して、ユーザに対する補正値を求める。そして、制御装置10は、この補正値を用いて第1視線方向を補正して、第2視線方向を求める。制御装置10は第2視線方向を用いて、模擬視界画像内の注視位置を求めて、ユーザの模擬運転の状態を判定する。
【0023】
次に、制御装置10がキャリブレーションを行って、視線の向きの補正値を求める動作の概略を以下に説明する。
【0024】
図1(B)に示すように、キャリブレーションを開始する時に、ユーザは、運転席2に着座し両手でハンドル4を把持して、普通自動車を模擬的に操作可能な姿勢にある。即ち、ユーザは、模擬運転を行うのと同様の姿勢をとる。
【0025】
図2(A)~
図2(C)は、表示装置3の画面300を表す。まず、
図2(A)に示すように、制御装置10は、注視対象物としてのターゲットTを表示装置3に表示すると共に、且つ、マーカMを表示装置3に表示する。自動車は、ターゲットTの一例である。マーカMは、ユーザによるハンドル4の操作に基づいて表示装置3の画面上を移動する。制御装置10は、表示装置3に「ハンドルで自動車を追ってください」という通知を含む画面300を表示する。マーカMは、ユーザによるハンドル4の操作により、画面300上を左右の方向に移動する。
【0026】
次に、
図2(B)に示すように、制御装置10は、例えばターゲットTを画面の右側から左側へ移動するように表示装置3に表示する。ユーザは、画面300上に表されたターゲットTを注視しながら、マーカMがターゲットTに追いつくように両手でハンドル4を左方向へ操作する。
【0027】
次に、
図2(C)に示すように、マーカMとターゲットTとが重なると、制御装置10は、マーカMがターゲットTと重なったこと表す視覚的情報を、マーカMがターゲットTと重なった位置に表示する。
図2(C)に示す例では、マーカMの内部が従前よりも明るい色で表されることが、視覚的情報となっている。
【0028】
マーカMとターゲットTとが重なった時、ユーザは画面300上に表されたターゲットT及びマーカMを注視していると考えられる。また、ユーザはマーカMがターゲットTに追いつくように両手でハンドル4を操作しているので、ユーザは実際に模擬運転を行う姿勢にあると考えられる。
【0029】
制御装置10は、マーカMとターゲットTとが重なった時に、ユーザの表示装置3上の注視位置と、表示装置3におけるターゲットTの位置とに基づいて、ユーザの視線の向きに対する補正値を求める。
【0030】
制御装置10は、模擬運転において、補正値を用いて補正されたユーザの視線の向きに基づいて、模擬視界画像を映す画面300上のユーザの注視位置を求める。
【0031】
上述した本実施形態の制御装置10は、ユーザが注視対象物を注視しており、且つ、実際に模擬運転を行う姿勢において、視線の向きに対する補正値を求めることができる。
【0032】
図1に示すように、模擬運転装置1は、ユーザが着座する運転席2と、表示装置3と、操作部としてのハンドル(ステアリングホイール)4、アクセルペダル及びブレーキペダル(図示せず)と、カメラ5と、制御装置10等とを有する。
【0033】
カメラ5は、撮影部の一例であり、CCDあるいはC-MOSなど、可視光または赤外光に感度を有する光電変換素子のアレイで構成された2次元検出器と、その2次元検出器上に撮影対象となる領域の像を結像する結像光学系を有する。カメラ5は、赤外LEDといったユーザを照明するための光源(図示せず)をさらに有する。そしてカメラ5は、運転席2に着座したユーザの頭部がその撮影対象領域に含まれるように、すなわち、ユーザの頭部を撮影可能なように、例えば、インストルメントパネル上にユーザへ向けて取り付けられる。そしてカメラ5は、所定の撮影周期(例えば1/30秒~1/10秒)ごとにユーザの頭部を撮影し、ユーザの頭部が写った顔画像を生成する。カメラ5により得られた顔画像は、カラー画像であってもよく、あるいは、グレー画像であってもよい。カメラ5は、顔画像を生成する度に、その生成した顔画像を、制御装置10へ出力する。
【0034】
図3は、制御装置10の概略構成図である。制御装置10は、検出処理と、位置算出処理と、制御処理と、補正値算出処理と、模擬計算処理とを実行する。そのために、制御装置10は、通信インターフェース(IF)21と、メモリ22と、プロセッサ23とを有する。通信インターフェース21と、メモリ22と、プロセッサ23とは、信号線24を介して接続されている。通信IF21は、制御装置10を、表示装置3と、ハンドル4と、カメラ5と、アクセルペダル及びブレーキペダル等とに接続するためのインターフェース回路を有する。
【0035】
メモリ22は、記憶部の一例であり、例えば、揮発性の半導体メモリ及び不揮発性の半導体メモリを有する。メモリ22は、視線の向きを検出して画面上の注視位置を求めるのに使用されるコンピュータプログラム及びデータ、並びに、補正値を算出するのに使用するコンピュータプログラム及びデータを記憶する。
【0036】
プロセッサ23は、1個又は複数個のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路を有する。プロセッサ23は、論理演算ユニット、数値演算ユニットあるいはグラフィック処理ユニットといった他の演算回路を更に有していてもよい。プロセッサ23は、検出部31と、位置算出部32と、制御部33と、補正値算出部34と、模擬計算部35とを有する。制御装置10が有する機能の全て又は一部は、例えば、プロセッサ23上で動作するコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。あるいは、プロセッサ23が有する機能モジュールは、プロセッサ23に設けられる、専用の演算回路であってもよい。模擬計算部35は、ユーザのハンドル4等の操作に基づいて、車両の運動、及び、景観の中を移動する人又は他の車両等の運動を計算するのと共に、模擬視界画像を生成する。プロセッサ23の他の動作については、図面を参照しながら後述する。
【0037】
図4は、注視位置算出処理の動作フローチャートの一例である。
図4を参照しながら、制御装置10における注視位置算出処理について、以下に説明する。制御装置10は、カメラ5から顔画像が入力される度に、注視位置算出処理を実行する。
【0038】
まず、検出部31は、カメラ5により撮影されたユーザの目を含む顔画像から眼を検出する(ステップS101)。検出部31は、例えば、顔画像を、画像から人の眼を検出するように予め学習された識別器に入力することで、その顔画像上でドライバの眼が写っている領域を検出する。検出部31は、そのような識別器として、例えば、コンボリューショナルニューラルネットワーク型(CNN)のアーキテクチャを持つディープニューラルネットワーク(DNN)又はAdaBoost識別器を利用することができる。
【0039】
次に、検出部31は、顔画像から、ドライバの視線の向きを検出する(ステップS102)。検出部31は、顔画像上に表されたドライバの左右それぞれの眼の少なくとも一方について、上瞼と下瞼とで囲まれた領域(以下、眼領域と呼ぶ)から光源の角膜反射像(プルキンエ像とも呼ばれる)及び瞳孔の重心(以下、単に瞳孔重心と呼ぶ)を検出する。その際、検出部31は、例えば、プルキンエ像のテンプレートと眼領域とのテンプレートマッチングによりプルキンエ像を検出する。同様に、検出部31は、瞳孔のテンプレートと眼領域とのテンプレートマッチングにより瞳孔を検出し、検出した瞳孔が表された領域の重心を瞳孔重心とすればよい。なお、検出部31は、眼領域からプルキンエ像及び瞳孔重心を検出する他の手法に従ってプルキンエ像及び瞳孔重心を検出してもよい。そして、検出部31は、プルキンエ像と瞳孔重心間の距離を算出し、その距離とドライバの視線の向きとの関係を表すテーブルを参照することで、ドライバの視線の向きを検出する。なお、そのようなテーブルは、メモリ22に予め記憶されていればよい。プルキンエ像と瞳孔重心間の距離とドライバの視線の向きとの関係を表すテーブルは、例えば、代表的な人の顔のモデル及び眼球モデル等に基づいて生成され得る。
【0040】
ドライバの視線の向きを表す直線Lは、例えば、模擬運転装置1の所定の位置に原点を有する装置座標系で表される(
図5(A)参照)。装置座標系は、模擬運転装置1の所定の位置を原点Osとして、運転席2に着座したユーザの正面方向にYs軸が設定され、Ys軸と直交し且つ地面に平行な方向にXs軸が設定され、鉛直方向にZs軸が設定される。
【0041】
次に、位置算出部32は、検出部31により検出されたユーザの視線の向きに基づいて、表示装置3の画面におけるユーザの注視位置を求めて(ステップS103)、一連の処理を終了する。表示装置3の画面におけるユーザの注視位置を求めることにより、画面に映された模擬視界画像内のユーザの注視位置を得ることになる。
【0042】
ここで、ユーザの視線の向きに対する補正値が求められている場合、位置算出部32は、検出部31により検出された第1視線方向を補正値で補正された第2視線方向を求めて、この第2視線方向に基づいて、表示装置3の画面におけるユーザの注視位置を求める。一方、ユーザの視線の向きに対する補正値が求められていない場合、位置算出部32は、検出部31により検出された第1視線方向に基づいて、表示装置3の画面におけるユーザの注視位置を求める。
【0043】
図5(A)は、注視位置を求めることを説明する図である。位置算出部32は、装置座標系で表された表示装置3の画面300を表す平面と、ユーザの視線の向きを表す直線Lとの交点を、表示装置3の画面300におけるユーザの注視位置301として求める。そして、位置算出部32は、このユーザの注視位置301を、画面座標系で表す。画面座標系は、表示装置3の画面300の左上の点を原点Ocとして、原点Ocから右方向にXc軸が設定され、原点Ocから下方向にYc軸が設定される。画面300上のユーザの注視位置301は、画面座標系で(xc,yc)で表される。
【0044】
図6は、補正処理の動作フローチャートの一例である。
図6を参照しながら、制御装置10におけるユーザの視線の向きに対する補正値を求める補正処理について、以下に説明する。制御装置10は、通常、模擬運転を開始する前に、
図6に示される動作フローチャートに従って補正処理を実行する。なお、制御装置10は、模擬運転を行っている途中で、補正処理を実行してもよい。
【0045】
図7は、補正処理を説明する図である。制御装置10は、
図7に示すように、表示装置3の画面300に設定された複数の補正値取得位置P11~P33ごとに、ユーザの視線の向きに対する補正値を求める。表示装置3の画面300は、複数の補正値取得領域311~333に分割されており、複数の補正値取得領域311~333のそれぞれに対して、1つの補正値取得位置が設定される。
図8に示す例では、表示装置3の画面300は、上下左右方向に9つの補正値取得領域311~333に分割される。
図7に示す例では、補正値取得領域311~333のそれぞれの中央に、補正値取得位置P11~P33が設定される。
【0046】
図6に示す補正処理の動作フローチャートでは、補正値取得位置P11~P33のそれぞれに対して、ステップS202~S207の処理が実行される。ステップS202~S207の処理が実行される順番は、例えば、Yc軸方向において中央の行(P12、P22、P32)、Yc軸方向において正の方向の行(P11、P21、P31)、Yc軸方向において原点側の行(P13、P23、P33)の順番としてもよい。最初に、表示装置3の画面300においてYc軸方向の中央の位置からキャリブレーションを開始することは、ユーザの注意を喚起しやすい観点から好ましい。
【0047】
まず、制御部33は、ターゲットTを表示装置3の画面300に表示し、且つ、マーカMを表示装置3の画面300に表示する(ステップS202)。制御部33は、表示制御部の一例である。例えば、補正値取得位置P12が補正値取得領域312の中央に設定されている場合、制御部33は、画面300のYc軸方向において、補正値取得位置P12の位置と重なり、且つ、画面300のXc軸方向において、補正値取得位置P12が含まれる補正値取得領域312とは異なる補正値取得領域(例えば、322)に、ターゲットTを表示する。また、制御部33は、画面300のYc軸方向において、ターゲットTの位置と重なり、且つ、画面300のXc軸方向において、ターゲットTが含まれる補正値取得領域(例えば、322)とは異なる補正値取得領域(例えば、332)にマーカMを表示する。具体的にはターゲットTは、補正値取得領域322の中央に表示され、マーカMは補正値取得領域332の中央に表示される。他の補正値取得位置についても、同様の考えで、ターゲットT及びマーカMが表示される。
【0048】
そして、制御部33は、「ハンドルで自動車を追ってください」という通知を表示装置3の画面300に表示する(
図2(A)参照)。ユーザはマーカMがターゲットTに追いつくように両手でハンドル4を操作するので、ユーザは実際に模擬運転を行う姿勢となる。
【0049】
次に、制御部33は、ターゲット表示処理を実行する(ステップS203)。ターゲット表示処理の詳細は、
図8を参照しながら後述する。
【0050】
次に、制御部33は、ユーザによるハンドル4の操作に基づいて移動するマーカMを表示装置3の画面300に表示する(ステップS204)。ユーザは、マーカMがターゲットTに追いつくように、ハンドル4を操作する。制御部33は、ハンドル4が左側に回転するように操作された場合、ハンドル4の操作信号に基づいて、画面300に表示するマーカMの位置を左側へ移動させる。また、制御部33は、ハンドル4が右側に回転するように操作された場合、ハンドル4の操作信号に基づいて、画面300に表示するマーカMの位置を右側へ移動する。
【0051】
次に、制御部33は、マーカMとターゲットTとが重なったか否かを判定する(ステップS205)。制御部33は、マーカMが表示される画面300上の領域と、ターゲットTが表示される画面300上の領域とが重なった場合、マーカMとターゲットTとが重なった判定する。ターゲットTが表示される画面300上の領域、及び、マーカMが表示される画面300上の領域のそれぞれは、画面座標系で表される。例えば、ターゲットTが表示される画面300上の領域の重心と、マーカMが表示される画面300上の領域とが重なった場合、制御部33は、マーカMとターゲットTとが重なったと判定する。この時、ユーザは、ターゲットTの重心付近を注視していると考えられる。
【0052】
マーカMとターゲットTとが重なったと判定された場合(ステップS205-Yes)、制御部33は、マーカMがターゲットTと重なったことを表す視覚的情報を、マーカMとターゲットTと重なった位置に表示する(ステップS206)。
図2(C)に示す例では、マーカMの内部が、マーカMとターゲットTと重なっていない時よりも明るい色で表されることが、視覚的情報となっている。これにより、視覚的な刺激が強められるので、ユーザに対してターゲットTを注視することを一層促すことができる。
【0053】
次に、補正値算出部34は、位置算出部32により求められたユーザの注視位置と、表示装置3の画面300におけるターゲットTの位置とに基づいて、ユーザの視線の向き(第1視線方向)に対する補正値を求める(ステップS207)。補正値算出部34は、画面座標系で表されたユーザの注視位置と、ターゲットTの位置(例えば、重心の位置)との差に基づいて、第1視線方向に対する補正値を求める。
【0054】
図5(B)は、補正値を求めることを説明する図である。
図5(B)に示す例では、補正値算出部34は、視線の向きを表す直線Lの始点を固定したまま、終点をユーザの注視位置301からターゲットTの重心の位置302へ移動した直線L’を求める。そして、補正値算出部34は、直線Lを、直線L’の位置へ移動するための回転量を、補正値として求める。
【0055】
補正値算出部34は、顔画像にユーザの左右の眼のそれぞれが検出されている場合、ユーザの左右の眼のそれぞれについて、視線の方向に対する補正値を求める。
【0056】
一方、マーカMとターゲットTとが重なったと判定されない場合(ステップS205-No)、制御部33は、処理は、ステップS203の前へ移動する。
【0057】
制御装置10は、補正値取得位置P11~P33のそれぞれに対して、ステップS202~S207の処理が実行した後、一連の処理を終了する。これにより、補正値取得領域ごとに求められた補正値が求められる。
【0058】
模擬運転装置1において模擬運転が実行される時には、まず、位置算出部32は、第1視線方向により求められた注視位置が含まれる補正値取得領域の補正値に基づいて、第1視線方向が補正された第2視線方向を求める。そして、位置算出部32は、この第2視線方向に基づいて、表示装置3の画面300におけるユーザの注視位置を求める。模擬計算部35は、模擬視界画像内のユーザの注視位置に基づいて、ユーザの模擬運転の状態を判定する。例えば、ユーザが、模擬視界画像内の注視すべき部位を注視しているか否かが判定される。
【0059】
次に、
図8を参照して、上述したターゲット表示処理について、以下に説明する。
図8は、ターゲット表示処理の動作フローチャートの一例である。
【0060】
まず、制御部33は、ターゲットTの位置が補正値取得位置と一致したか否かを判定する(ステップS301)。例えば、ターゲットTが表示される画面300上の領域が補正値取得位置と重なった場合、制御部33は、ターゲットTの位置が補正値取得位置と一致したと判定する(ステップS301-Yes)。
【0061】
ターゲットTの位置が補正値取得位置と一致した場合、制御部33は、ターゲットTの重心が、補正値取得位置と一致するように、ターゲットTを画面300に表示して(ステップS302)、一連の処理を終了する。以降、現在の補正値取得位置については、ターゲットTは、この補正値取得位置に表示され続ける。
【0062】
一方、ターゲットTが表示される画面300上の領域が補正値取得位置と重なっていない場合、制御部33は、ターゲットTの位置は補正値取得位置と一致していないと判定する(ステップS301-No)。
【0063】
ターゲットTの位置が補正値取得位置と一致していない場合、制御部33は、ターゲットTの位置を補正値取得位置に向かって、所定量だけ移動させて、画面300に表示して(ステップS303)、一連の処理を終了する。
【0064】
このように、制御部33は、ターゲットTが補正値取得位置に向かって移動して、補正値取得位置において停止するように表示装置3の画面300に表示する。
【0065】
制御部33は、
図2(B)に示すように、ターゲットTを表示装置3の画面300のXc軸方向に移動するように画面300に表示すると共に、ターゲットTをYc軸方向にも動くように画面300に表示してもよい。
図2(B)に示す例では、ターゲットTである自動車は、上下方向に揺れるように振動しながら走行するように表示される。これによりユーザの注意を喚起することができる。
【0066】
また、制御部33は、
図2(B)に示すように、ターゲットTの形状が変化しながら移動するように表示装置3の画面300に表示してもよい。
図2(B)に示す例では、ターゲットTである自動車は、排気ガスを後方に吐き出しながら走行するように表示される。排気ガスが自動車から吹き出されるように、ターゲットTの形状が変化する。これによりユーザの注意を一層喚起することができる。
【0067】
マーカMの移動は、ユーザによるハンドル4の操作に基づいてはいるが、ターゲットTの移動速度よりもマーカMの移動速度を遅くすることにより、マーカMがターゲットTと重なる前に、ターゲットTの位置が補正値取得位置と一致するようにすることができる。これにより、補正値取得領域ごとに、補正値を求めることができる。
【0068】
以上、詳述した本実施形態の模擬運転装置によれば、ユーザがターゲットを注視しており、且つ、模擬運転を行う姿勢において、視線の向きに対する補正値を求めることができる。
【0069】
本発明では、上述した実施形態の模擬運転装置は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。また、本発明の技術範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0070】
例えば、上述した実施形態では、表示装置の画面は9つの補正値取得領域に分割されていたが、これは一例である。表示装置の画面には、9未満又は9よりも多い補正値取得領域を設定してもよい。
【0071】
また、上述した実施形態では、9つの補正値取得位置が設定されていたが、補正値取得位置の数はこれに限定されない。また、補正値取得位置は設定されなくてもよい。この場合、マーカMとターゲットTとが重なったと判定された位置において、補正値が求められる。本発明では、少なくとも1つの補正値が求められれば、この補正値を用いてユーザの視線の向きを補正することができる。
【0072】
また、上述した実施形態では、位置算出部が、補正値を用いて第1推定方向を補正して第2推定方向を求めていたが、検出部等の他の処理部が、補正値を用いて第1推定方向を補正して第2推定方向を求めてもよい。
【0073】
また、上述した実施形態では、移動物体は普通自動車であった、移動物体はこれに限定されない。例えば、移動物体は、鉄道車両又は航空機であってもよい。移動物体が鉄道車両である場合、操作部は、車両の速度又は制動を制御する制御レバーとすることができる。移動物体が航空機である場合、操作部は、操縦桿又はスラストレバーとすることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 模擬運転装置
2 運転席
3 表示装置
4 ハンドル(操作部)
5 カメラ
10 制御装置
21 通信インターフェース
22 メモリ
23 プロセッサ
24 信号線
31 検出部
32 位置算出部
33 制御部
34 補正値算出部
35 模擬計算部