(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110684
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230802BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20230802BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230802BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20230802BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230802BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0585
H01M4/13
H01M50/451
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012275
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】山福 太郎
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE04
5H021EE21
5H021HH03
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM01
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM06
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ12
5H029DJ04
5H029HJ04
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA19
5H050EA01
5H050FA02
5H050FA04
5H050FA18
5H050HA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供する。
【解決手段】正極活物質層を有する正極、上記正極活物質層に対向する負極活物質層を有する負極、及び上記正極と上記負極との間に配設され、樹脂製の基材層を有するセパレータを備え、上記正極活物質層と上記負極活物質層との間に1又は複数の無機層が存在し、上記正極又は上記負極が上記1又は複数の無機層のうちの1つを有し、上記基材層の厚さが9μm以下であり、上記基材層の厚さに対する上記1又は複数の無機層の厚さの合計の比が0.7以上である非水電解質蓄電素子である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層を有する正極、
上記正極活物質層に対向する負極活物質層を有する負極、及び
上記正極と上記負極との間に配設され、樹脂製の基材層を有するセパレータ
を備え、
上記正極活物質層と上記負極活物質層との間に1又は複数の無機層が存在し、
上記正極又は上記負極が上記1又は複数の無機層のうちの1つを有し、
上記基材層の厚さが9μm以下であり、
上記基材層の厚さに対する上記1又は複数の無機層の厚さの合計の比が0.7以上である非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
上記正極活物質層と上記基材層との間、及び上記負極活物質層と上記基材層との間の双方に上記無機層がそれぞれ存在する請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記1又は複数の無機層の中で上記正極又は上記負極が有する1つの厚さが最も大きい請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
上記基材層及び上記1又は複数の無機層の厚さの合計が21μm以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、電気自動車等の様々な機器に、充放電可能な非水電解質蓄電素子(非水電解質二次電池、非水電解質キャパシタ等)が使用されている。非水電解質蓄電素子としては、正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とが電気絶縁性のセパレータを介して重ね合わされている電極体を備えるものが広く用いられている。このような電極体が非水電解質と共に容器に収納され、非水電解質蓄電素子を構成している。
【0003】
非水電解質蓄電素子のセパレータとしては、耐熱性等の観点から、電気絶縁性を有する多孔質基層と、上記多孔質基層上に積層された、無機粒子とバインダとを含む無機質層とを備えるセパレータが知られている(特許文献1参照)。また、正極活物質層の表面に無機絶縁層が設けられた正極を有する非水電解質二次電池も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-190547号公報
【特許文献2】国際公開第2009/081594号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質蓄電素子には、充放電が繰り返し行われても容量維持率が高いなどといった、耐久性に優れることが望まれる。しかし、従来の非水電解質蓄電素子においては、特に大電流で充放電を繰り返す場合に容量低下が進行しやすく、このような場合においても容量維持率が高いことが求められている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、正極活物質層を有する正極、上記正極活物質層に対向する負極活物質層を有する負極、及び上記正極と上記負極との間に配設され、樹脂製の基材層を有するセパレータを備え、上記正極活物質層と上記負極活物質層との間に1又は複数の無機層が存在し、上記正極又は上記負極が上記1又は複数の無機層のうちの1つを有し、上記基材層の厚さが9μm以下であり、上記基材層の厚さに対する上記1又は複数の無機層の厚さの合計の比が0.7以上である非水電解質蓄電素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の非水電解質蓄電素子の電極体の模式的部分断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る非水電解質蓄電素子の電極体の模式的部分断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る非水電解質蓄電素子の電極体の模式的部分断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第4の実施形態に係る非水電解質蓄電素子の電極体の模式的部分断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子の概要について説明する。
【0011】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、正極活物質層を有する正極、上記正極活物質層に対向する負極活物質層を有する負極、及び上記正極と上記負極との間に配設され、樹脂製の基材層を有するセパレータを備え、上記正極活物質層と上記負極活物質層との間に1又は複数の無機層が存在し、上記正極又は上記負極が上記1又は複数の無機層のうちの1つを有し、上記基材層の厚さが9μm以下であり、上記基材層の厚さに対する上記1又は複数の無機層の厚さの合計の比が0.7以上である非水電解質蓄電素子である。
【0012】
当該非水電解質蓄電素子は、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高い。このような効果が生じる理由としては定かではないが、以下の理由が推測される。セパレータに備わる樹脂製の基材層は、通常、複雑に入り組んだ細孔を有する多孔質構造体である。このため、セパレータの基材層が厚いと、大電流が流れた際に、電流密度の不均一化が生じ易くなり、電流が集中した部分において正極又は負極の部分的な劣化が促進されると考えられる。このような観点からは、セパレータの基材層は薄い方が好ましい。一方、正極活物質層と負極活物質層との間にセパレータの基材層よりも形状が単純な細孔を有する多孔質構造体である無機層をさらに設けた場合、セパレータの基材層の細孔の形状によって生じる電流密度の不均一化が解消される方向に働き、また、セパレータの基材層の厚さに対して無機層の相対的な厚さが厚くなるほどこの効果は高まると考えられる。このようなことから、当該非水電解質蓄電素子においては、セパレータの基材層の厚さを9μm以下と小さくし、基材層の厚さに対する正極活物質層と負極活物質層との間に存在する全ての無機層の厚さの合計の比を0.7以上と比較的大きくしていることにより、大電流が流れた場合も電流密度の不均一化が生じ難くなる結果、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高いと推測される。さらに、正極又は負極に設けられた無機層は、正極活物質層又は負極活物質層の表面に密接しており、セパレータに設けられた無機層より電流密度を均一化させる作用が大きいと考えられる。このため、当該非水電解質蓄電素子においては、正極又は負極が無機層を有することで、電流密度がより均一化され、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高いと推測される。
【0013】
ここで、基材層及び無機層の各「厚さ」は、5ヶ所における測定値の平均値とする。
また、「無機層」とは、正極活物質及び負極活物質以外の無機物(無機粒子等)の含有量が50質量%以上である層をいう。
なお、正極、負極及びセパレータのうち、無機層を有していないものがあってよいが、正極及び負極の少なくとも一方は、無機層を有している。正極及び負極の双方がそれぞれ無機層を有していてもよく、正極、負極及びセパレータの全てが無機層を有していてもよい。セパレータは、例えば、基材層の両面にそれぞれ設けられた2つの無機層を有していてもよく、いずれかの片面に設けられた1つの無機層を有していてもよく、両面とも無機層を有していなくてもよい。正極活物質層と負極活物質層との間に存在する無機層の数は、通常1、2、3又は4であり、1又は2が好ましく、2がより好ましい。
【0014】
上記正極活物質層と上記基材層との間、及び上記負極活物質層と上記基材層との間の双方に上記無機層がそれぞれ存在することが好ましい。このような基材層の両面にそれぞれ無機層が設けられる構造であることで、正極側及び負極側双方での電流密度の不均一化が生じ難く、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより高まる。
【0015】
上記1又は複数の無機層の中で上記正極又は上記負極が有する1つの厚さが最も大きいことが好ましい。具体的には、セパレータが無機層を有していないか、セパレータが無機層を有している場合、このセパレータの無機層は、正極又は負極が有する無機層よりも薄いことが好ましい。すなわち、上記1又は複数の無機層の中で最も厚い無機層は、正極又は負極に設けられていることが好ましい。このような場合、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより高まる。この理由は定かではないが、上述のように、正極又は負極に設けられた無機層は、セパレータに設けられた無機層より電流密度を均一化させる作用が大きいと考えられ、正極又は負極に設けられた無機層を相対的に最も厚くすることで、電流密度がより均一化されるためと推測される。
【0016】
上記基材層及び上記1又は複数の無機層の厚さの合計が21μm以下であることが好ましい。基材層及び1又は複数の無機層の厚さの合計が21μm以下であることで、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより高まる。また、基材層及び1又は複数の無機層の厚さの合計が21μm以下であることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」と称する場合がある。)について詳説する。
【0018】
<非水電解質蓄電素子:第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る
図1の非水電解質蓄電素子100は、電極体1と、図示しない非水電解質と、この電極体1及び非水電解質を収容する容器2とを備える。非水電解質蓄電素子100は、正極接続部材3、正極外部端子4、負極接続部材5及び負極外部端子6をさらに有する。電極体1は、正極と負極とセパレータとを備える。電極体1の具体的構造は後述する。電極体1の正極は、正極接続部材3を介して正極外部端子4と電気的に接続されている。電極体1の負極は、負極接続部材5を介して負極外部端子6と電気的に接続されている。
【0019】
(電極体)
図2に模式的に示すように、電極体1は、正極10、負極20及びセパレータ30を有する。正極10と負極20とは、セパレータ30を介して重ね合わされている。なお、正極10とセパレータ30、及び負極20とセパレータ30とは、接触した状態で積層されているが、
図2においては模式的に正極10とセパレータ30との間、及び負極20とセパレータ30との間を離間して図示している。
図1の実施形態の電極体1は、帯状の正極10と帯状の負極20とが帯状のセパレータ30を介して重ね合わされた状態で巻かれてなる、巻回型の電極体である。他の実施形態において、電極体は、複数の正極及び複数の負極が交互に且つセパレータを介して積層されてなる、積層型の電極体であってもよい。
【0020】
本実施形態において、正極10は、正極基材11、この正極基材11の両面にそれぞれ積層される2つの正極活物質層12、及び2つの正極活物質層12の各外面に積層される2つの無機層13を有する。すなわち、本発明の一実施形態において、正極10は、無機層13、正極活物質層12、正極基材11、正極活物質層12及び無機層13の順に積層された5層構造を有する。無機層13は、通常、多孔質状の層である。
【0021】
負極20は、負極基材21、及びこの負極基材21の両面にそれぞれ積層される2つの負極活物質層22を有する。負極活物質層22は、他の層を介して、正極活物質層12と対向するように設けられる。
【0022】
セパレータ30は、正極10と負極20との間に配設される。セパレータ30は、正極10と負極20とを隔離しつつ、非水電解質を保持して正極10と負極20との間のイオン伝導性を確保する。このため、セパレータ30は、多孔質状のシート又は板である。セパレータ30は、樹脂製の基材層31、及びこの基材層31の負極20側の面に積層される無機層32を有する。基材層31は、多孔質状の層である。無機層32は、無機層13と同様、通常、多孔質状の層である。
【0023】
本実施形態においては、正極活物質層12と負極活物質層22との間に2つの無機層(無機層13、32)が存在する。以下、正極活物質層12と負極活物質層22との間に存在する層(基材層31及び無機層13、32)の厚さ等について詳説する。
【0024】
(セパレータの基材層及び無機層の厚さ等)
セパレータ30の基材層31の厚さTSは9μm以下であり、3μm以上8μm以下が好ましく、5μm以上7μm以下がより好ましい。いくつかの態様において、セパレータ30の基材層31の厚さTSは5.5μm以上9μm以下であってもよく、例えば7μm以上9μm以下であってもよい。基材層31の厚さTSを上記上限以下とすることで、電流密度の不均一化が解消される方向に寄与し、大電流で充放電が繰り返される場合でも、当該蓄電素子100の容量維持率が高まる。一方、基材層31の厚さTSを上記下限以上とすることで、十分な強度、絶縁性等を確保することができる。
【0025】
正極10の無機層13の厚さTI1としては、1μm以上20μm以下が好ましく、2μm以上15μm以下がより好ましく、4μm以上12μm以下がさらに好ましい。いくつかの態様において、正極10の無機層13の厚さTI1は6μm以上20μm以下であってもよく、例えば10μm以上15μm以下であってもよい。無機層13の厚さTI1を上記下限以上とすることで、電流密度の不均一化が十分に解消され、大電流で充放電が繰り返される場合でも、当該蓄電素子100の容量維持率がより高まる。一方、無機層13の厚さTI1を上記上限以下とすることで、当該蓄電素子100のエネルギー密度を高めることができる。
【0026】
セパレータ30の無機層32の厚さTI2としては、1μm以上10μm以下が好ましく、1.5μm以上7μm以下がより好ましく、2μm以上5μm以下がさらに好ましい。いくつかの態様において、セパレータ30の無機層32の厚さTI2は3μm以上10μm以下であってもよく、例えば4μm以上10μm以下であってもよい。無機層32の厚さTI2を上記下限以上とすることで、電流密度の不均一化が十分に解消され、大電流で充放電が繰り返される場合でも、当該蓄電素子100の容量維持率がより高まる。一方、無機層32の厚さTI2を上記上限以下とすることで、当該蓄電素子100のエネルギー密度を高めることができる。
【0027】
セパレータ30の基材層31の厚さTSに対する、複数の無機層(無機層13、32)の厚さの合計(TI1+TI2)の比((TI1+TI2)/TS)は、0.7以上であり、0.8以上4以下が好ましく、0.9以上3以下がより好ましく、1.0以上2.5以下がさらに好ましく、1.2以上2.0以下がよりさらに好ましい。比((TI1+TI2)/TS)を上記下限以上とすることで、電流密度の不均一化が十分に解消され、大電流で充放電が繰り返される場合でも、当該蓄電素子100の容量維持率が高まる。一方、比((TI1+TI2)/TS)を上記上限以下とすることで、当該蓄電素子100のエネルギー密度を高めることができ、また、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率も高まる傾向にある。
【0028】
正極活物質層12と負極活物質層22との間に存在する全ての無機層(無機層13、32)の中で、正極10が有する無機層13の厚さが最も大きいことが好ましい。例えば本実施形態において、セパレータ30が有する無機層32の厚さTI2に対する正極10が有する無機層13の厚さTI1の比(TI1/TI2)としては、1.5以上5以下が好ましく、2以上4以下がより好ましい。いくつかの態様において、比(TI1/TI2)は、2.5以上5以下であってもよく、3以上5以下であってもよい。このように無機層13の厚さTI1を相対的に大きくすることにより、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより高まる。
【0029】
セパレータ30の基材層31の厚さTS及び複数の無機層(無機層13、32)の厚さTI1、TI2の合計(TS+TI1+TI2)は、例えば5μm以上25μm以下であってよいが、8μm以上21μm以下が好ましく、14μm以上20μm以下がより好ましい。いくつかの態様において、上記厚さの合計(TS+TI1+TI2)は、15μm以上20μm以下であってもよく、17μm以上20μm以下であってもよい。上記厚さの合計(TS+TI1+TI2)、すなわち正極活物質層12と負極活物質層22との間に存在する全ての層の厚さの合計を上記上限以下とすることで、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより高まり、また、蓄電素子100のエネルギー密度を高めることもできる。一方、上記厚さの合計を上記下限以上とすることで、十分な絶縁性、強度、耐久性等を確保することができる。
【0030】
当該蓄電素子100においては、正極活物質層12とセパレータ30の基材層31との間、及び負極活物質層22とセパレータ30の基材層31との間の双方に、それぞれ無機層13、32が存在する。基材層31の両面にそれぞれ無機層13、32が存在する構造であることで、電流密度の不均一化がより生じ難く、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより高まる。
【0031】
また、当該蓄電素子100においては、正極10及び負極20のうち、正極10が無機層13を有している。このように、正極10及び負極20のうち、少なくとも正極10に無機層13が設けられる構造であることで、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより高まる。
【0032】
以下、各構成部材等について詳説する。
【0033】
(正極)
正極10は、上述のように、正極基材11及び2つの正極活物質層12を有する。本実施形態においては、正極10は、さらに2つの無機層13を有する。なお、正極基材11と正極活物質層12との間には、図示しない中間層が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。
【0034】
正極基材11は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材11の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストの観点からアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材11の形成形態としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。つまり、正極基材11としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0035】
正極基材11は、実質的に均一な厚さのもの(板、シート)であってよい。正極基材11の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材11の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材11の強度を高めつつ、蓄電素子100の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。正極基材11及び後述する負極基材21の「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。
【0036】
図示しない中間層は、正極基材11と正極活物質層12との間に配される層であり、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材11と正極活物質層12との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えばバインダ及び導電剤を含有する。
【0037】
正極活物質層12は、正極活物質を含む層である。正極活物質層12は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0038】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo1-x-γ]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn1-x-γ]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn2-γO4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層12においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒子径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒子径を上記上限以下とすることで、正極活物質層12の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒子径を正極活物質の平均粒子径とする。「平均粒子径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0040】
粉体を所定の粒子径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0041】
正極活物質層12における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層12の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0042】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0043】
正極活物質層12における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子100のエネルギー密度を高めることができる。
【0044】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0045】
正極活物質層12におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上9質量%以下がより好ましく、3質量%以上6質量%以下がさらに好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0046】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。増粘剤を使用する場合、正極活物質層12における増粘剤の含有量は、0.1質量%以上8質量%以下とすることができ、通常、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。ここで開示される技術は、正極活物質層12が上記増粘剤を含まない態様で好ましく実施され得る。
【0047】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。フィラーを使用する場合、正極活物質層12におけるフィラーの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下とすることができ、通常、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。ここで開示される技術は、正極活物質層12が上記フィラーを含まない態様で好ましく実施され得る。
【0048】
正極活物質層12は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0049】
無機層13は、正極基材11に積層された正極活物質層12の外面(正極基材11と接触していない面)を被覆する層である。無機層13は、通常、無機粒子とバインダを含む多孔質状の層である。
【0050】
無機粒子は、正極活物質以外の無機物を含む。無機粒子を構成する無機物としては、例えば酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機粒子を構成する無機物としては、無機酸化物が好ましく、酸化アルミニウムがより好ましい。無機粒子は、これら無機物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。無機粒子は、無機物以外の成分を含んでいてもよい。無機粒子は、市販品を用いることができる。
【0051】
無機粒子の平均粒子径としては、例えば0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.5μm以上10μm以下がより好ましく、1μm以上6μm以下がより好ましく、2μm以上4μm以下がさらに好ましい場合もある。また、無機粒子の粒径分布の半値幅は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。無機粒子の平均粒子径及び半値幅が上記範囲内であることにより、電流密度の不均一化がより十分に解消され、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより改善される。無機粒子の半値幅は、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒子径の頻度分布曲線に基づいて、最も大きい極大値を示すピークにおいて求められる値とする。
【0052】
無機層13における無機粒子の含有量としては、50質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上90質量%以下がより好ましく、70質量%以上85質量%以下がさらに好ましい。無機層13における無機粒子の含有量を上記範囲とすることで、電流密度の不均一化がより十分に解消され、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより改善される。
【0053】
無機層13に含まれるバインダとしては、正極活物質層12に含まれるバインダとして例示したものなどを挙げることができる。無機層13に含まれるバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR);アクリル樹脂(分子中にエステル結合を有する);ポリオレフィン樹脂;ポリビニルアルコール;ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの窒素含有樹脂;セルロースとアクリルアミドの架橋重合体とセルロースとキトサンピロリドンカルボン酸塩の架橋重合体;及び、多糖類高分子ポリマーであるキトサン、キチン等を架橋剤で架橋したもの等を挙げることができ、フッ素含有樹脂が好ましく、PVDFがより好ましい。バインダは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
無機層13におけるバインダの含有量としては、例えば5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましく、15質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
【0055】
無機層13は、無機粒子及びバインダ以外の他の成分を有していてもよい。但し、無機層13における無機粒子及びバインダの合計含有量としては、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい場合がある。
【0056】
(負極)
負極20は、上述のように、負極基材21及び2つの負極活物質層22を有する。なお、負極基材21と負極活物質層22との間には、図示しない中間層が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。負極20に設けられていてもよい中間層の構成は特に限定されず、例えば正極10で例示した構成から選択することができる。
【0057】
負極基材21は、正極基材11と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材21としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0058】
負極基材21は、実質的に均一な厚さのもの(板、シート)であってよい。負極基材21の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材21の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材21の強度を高めつつ、蓄電素子100の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0059】
負極活物質層22は、負極活物質を含む層である。負極活物質層22は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層12と同様のものを用いることができる。
【0060】
負極活物質層22は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0061】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。例えばリチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。負極活物質層22においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0063】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0064】
ここで、炭素材料の「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0065】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0066】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0067】
負極活物質の形態が粒子(粉体)の場合、負極活物質の平均粒子径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が例えば炭素材料である場合、その平均粒子径は1μm以上100μm以下が好ましい場合がある。負極活物質が、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、チタン含有酸化物、ポリリン酸化合物等である場合、その平均粒子径は、1nm以上1μm以下が好ましい場合がある。負極活物質の平均粒子径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の導電性が向上する。粉体を所定の粒子径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。また、負極活物質が金属Liの場合、その形態は箔状又は板状であってもよい。
【0068】
負極活物質層22における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層22の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。なお、負極活物質が金属Liである場合、負極活物質層22における負極活物質の含有量は99質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0069】
(セパレータ)
本実施形態においては、セパレータ30は、上述のように、基材層31及び無機層32を有する。
【0070】
基材層31は、多孔質状の樹脂製の層である。基材層31の形態としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられ、多孔質樹脂フィルムが好ましい。基材層31を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリイミド、アラミド等を挙げることができ、ポリオレフィンが好ましい。基材層31として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。好ましい一態様では、セパレータの基材層はポリエチレン系樹脂によって構成されている。ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体やエチレンの共重合体が好ましく用いられる。エチレンの共重合体としては、エチレンから誘導される繰り返し単位を50質量%以上含有する樹脂であって、エチレンと共重合可能なオレフィンを共重合した共重合体や、エチレンと共重合可能な少なくとも一種の他のモノマーを共重合した共重合体を用いることができる。エチレンと共重合可能なオレフィンとして、プロピレン等が例示される。他のモノマーとして共役ジエン(例えばブタジエン)、アクリル酸等が例示される。基材層の構造は、単層構造であってもよく、混合構造であってもよく(例えばPPとPEの混合構造)、多層構造(例えばPP/PE/PPの三層構造やPP/PEの二層構造)であってもよい。なかでも、PEの単層構造が好ましい。基材層31は、樹脂以外の成分を含んでいてもよい。樹脂以外の成分としては、無機粒子等が挙げられる。基材層31における樹脂の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい場合もある。基材層31における樹脂の含有量は、100質量%であってもよい。
【0071】
基材層31は、一軸延伸された基材層(多孔質樹脂フィルム)であってもよく、二軸延伸された基材層(多孔質樹脂フィルム)であってもよい。ここで「一軸延伸」とは、熱可塑性フィルムをガラス転移温度以上で引き延ばし分子を配向させるプロセスにおいて、一方向(例えば、長手方向)にのみ延伸することをいい、「二軸延伸」とは、直交する二方向(例えば、長手方向および幅方向)に延伸することをいう。ここで、長手方向とはフィルムの搬送方向に平行であり、幅方向とは長手方向と直交する方向をいう。一軸延伸された樹脂製の基材層は、例えば、乾式法により製造される。一方、二軸延伸された樹脂製の基材層は、例えば、湿式法により製造される。本発明の一実施形態においては、二軸延伸された基材層を好適に適用することができる。通常、二軸延伸された基材層は、細孔の構造が特に複雑化しており、大電流が流れた際の電流密度の不均一化が生じ易い。従って、本発明の一実施形態において二軸延伸された基材層を採用した場合、電流密度の不均一化が解消されるという作用が顕著に生じ、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率の改善効果が大きい。
【0072】
基材層31の透気抵抗度としては、40秒/100cm3以上300秒/100cm3以下が好ましく、80秒/100cm3以上200秒/100cm3以下(例えば90秒/100cm3以上150秒/100cm3以下)がより好ましい。基材層31の透気抵抗度が上記範囲であることで、強度と透過性との良好なバランスがとれ、容量維持率をより高めることができる。なお、「透気抵抗度」とは、JIS-P8117(2009)に準拠して測定される値である。
【0073】
無機層32は、無機層13と同様、通常、無機粒子とバインダを含む多孔質状の層である。無機層32に含まれる無機粒子及びバインダの種類に関する具体例は、無機層13の無機粒子及びバインダと同様とすることができる。セパレータ30が有する無機層32に含まれる無機粒子は、正極10が有する無機層13の無機粒子と同じであってもよく、異なっていてもよい。セパレータ30が有する無機層32に含まれるバインダは、正極10が有する無機層13のバインダと同じであってもよく、異なっていてもよい。セパレータ30が有する無機層32における無機粒子の含有量としては、80質量%以上99.5質量%以下が好ましく、90質量%以上99質量%以下がより好ましく、95質量%以上98質量%以下がさらに好ましい。無機層32おける無機粒子の含有量が上記範囲であることで、電流密度の不均一化がより十分に解消され、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率がより改善される。
【0074】
(非水電解質)
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。通常、非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0075】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0076】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0077】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもDMC及びEMCが好ましい。
【0078】
非水溶媒として、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの少なくとも一方を用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0079】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0080】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0081】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0082】
非水電解液は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えばビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0083】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下が特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又は充放電サイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0084】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0085】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0086】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えばLi2S-P2S5系等が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えばLi2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12等が挙げられる。
【0087】
(容器)
容器2は、電極体1を収容し、内部に非水電解質が封入される密閉容器である。容器2の材質としては、非水電解質を封入できるシール性と、電極体1を保護できる強度とを備えるものであれば、例えば樹脂であってもよく、金属であってもよい。また、容器2としては、可撓性を有する袋体等であってもよい。
【0088】
(製造方法)
非水電解質蓄電素子100は、例えば、正極10を準備すること、負極20を準備すること、セパレータ30を準備すること、非水電解質を調製すること、セパレータ30を介して正極10及び負極20を積層し、巻回することにより電極体1を形成すること、電極体1を容器2に収容すること、並びに容器2に非水電解質を注入することを備える製造方法により製造することができる。
【0089】
正極10を準備することは、例えば、正極基材11に直接又は中間層を介して、正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより正極活物質層12を形成すること、及び正極活物質層12に無機層形成材料を塗布し、乾燥させることにより無機層13を形成することを備える。正極合剤ペーストには、正極活物質等、正極活物質層(正極合剤)を構成する各成分、及び分散媒が含まれる。無機層形成材料には、無機粒子等、無機層を構成する各成分、及び分散媒が含まれる。
【0090】
負極20を準備することは、例えば、負極基材21に直接又は中間層を介して、負極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより負極活物質層22を形成することを備える。上記負極合剤ペーストには、負極活物質等、負極活物質層(負極合剤)を構成する各成分、及び分散媒が含まれる。
【0091】
セパレータ30を準備することは、例えば、基材層31に無機層形成材料を塗布し、乾燥させることにより無機層32を形成することを備える。セパレータ30は、市販品を用いてもよい。
【0092】
<非水電解質蓄電素子:第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、電極体が
図3に示す構造の電極体41であること以外は、第1の実施形態に係る非水電解質蓄電素子100の形態を適用することができる。
【0093】
図3の実施形態の電極体41は、正極10、負極20及びセパレータ30Aを有する。
図3の実施形態の電極体41は、無機層32が正極10側に位置するようにセパレータ30Aが配置されていること以外は、
図2の電極体1と同様である。従って、電極体41の正極10、負極20並びにセパレータ30Aの基材層31及び無機層32は、
図2と同一番号を付して詳細な説明を省略する。すなわち、各層の厚さ等については、
図2の実施形態の電極体1と同様である。
【0094】
<非水電解質蓄電素子:第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、電極体が
図4に示す構造の電極体51であること以外は、第1の実施形態に係る非水電解質蓄電素子100の形態を適用することができる。
【0095】
図4の実施形態の電極体51は、正極10、負極20及びセパレータ30Bを有する。
図4の実施形態の電極体51は、セパレータ30Bが基材層31のみからなる単層構造であること以外は、
図2の実施形態の電極体1と同様である。従って、電極体51の正極10、負極20及びセパレータ30Bの基材層31は、
図2と同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0096】
本実施形態においては、正極活物質層12と負極活物質層22との間に1つの無機層(無機層13)が存在する。セパレータ30Bの基材層31の厚さTSに対する、無機層13の厚さTI1の比(TI1/TS)は、0.7以上であり、0.8以上4以下が好ましく、0.9以上3以下がより好ましく、1.0以上2.5以下がさらに好ましく、2.0以下がよりさらに好ましい。セパレータ30Bの基材層31の厚さTS及び無機層13の厚さTI1の合計(TS+TI1)は、例えば5μm以上25μm以下であってよいが、8μm以上21μm以下が好ましく、14μm以上20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい場合もある。
【0097】
<非水電解質蓄電素子:第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、電極体が
図5に示す構造の電極体61であること以外は、第1の実施形態に係る非水電解質蓄電素子100の形態を適用することができる。
【0098】
図5の実施形態の電極体61は、正極10A、負極20A及びセパレータ30Cを有する。
図5の実施形態の正極10Aは正極活物質層12の外面に積層された無機層を有さないこと以外は、
図2の実施形態の正極10と同様である。
図5の実施形態の負極20Aは、負極活物質層22の外面に積層された無機層23をさらに有すること以外は、
図2の実施形態の負極20と同様である。
図5の実施形態のセパレータ30Cは、基材層31の両面にそれぞれ積層された2つの無機層32a、32bを有すること以外は、
図2の実施形態のセパレータ30と同様である。
図5において、
図2の電極体と同様の部材については同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0099】
本実施形態においては、正極活物質層12と負極活物質層22との間に3つの無機層(無機層23、32a、32b)が存在する。セパレータ30Cの基材層31の厚さT
Sに対する、複数の無機層(無機層23、32a、32b)の厚さの合計(T
I3+T
I4+T
I5)の比((T
I3+T
I4+T
I5)/T
S)は、0.7以上であり、0.8以上4以下が好ましく、0.9以上3以下がより好ましく、1.0以上2.5以下がさらに好ましく、1.2以上2.0以下がよりさらに好ましい。負極20Aが有する無機層23は、
図2の実施形態の正極10が有する無機層13と同様の構成のものであってよい。セパレータ30Cが有する無機層32a、32bは、それぞれ
図2の実施形態のセパレータ30が有する無機層32と同様の構成のものであってよい。なお、セパレータ30Cが有する無機層32aの厚さT
I4及び無機層32bの厚さT
I5は、それぞれ
図2の実施形態のセパレータ30が有する無機層32の厚さT
I2と同様であってよい。
【0100】
このような電極体41、51、61を備える非水電解質蓄電素子においても、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高いものとなる。その他、本発明の実施形態に係る非水電解質蓄電素子においては、正極及び負極の双方が無機層をそれぞれ有するもの、負極のみが無機層を有するもの、
図5の実施形態の電極体61においてセパレータ30Cにおける2つの無機層32a、32bのうちの一方が無い構成のもの、
図5の実施形態の電極体61においてさらに正極10Aも無機層を有する構成のものなどであってよい。
【0101】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高いため、大電流での充放電が繰り返され得る用途に特に好適に用いることができる。このような用途としては、例えばEV、HEV、PHEV等の自動車用電源等が挙げられる。
【0102】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、EV、HEV、PHEV等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の一実施形態に係る技術が適用されていればよい。
【0103】
図6に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子100が集合した蓄電ユニット200をさらに集合した蓄電装置300の一例を示す。蓄電装置300は、二以上の非水電解質蓄電素子100を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット200を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット200又は蓄電装置300は、一以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0104】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0105】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解液二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明の非水電解質蓄電素子は、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【実施例0106】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質であるLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び非水系分散媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極合剤ペーストを調製した。なお、正極活物質、AB及びPVDFの質量比率は90:5:5(固形分換算)とした。正極基材であるタブを有するアルミニウム箔のタブ以外の両面に正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させて、正極活物質層を形成した。
無機粒子である酸化アルミニウム粒子(住友化学社製「AA-3」:平均粒子径3.4μm)、バインダであるPVDF及び分散媒を用いて、正極の無機層形成材料を調製した。なお、無機粒子及びバインダの質量比率は、70:30(固形分換算)とした。正極活物質層を被覆するように上記無機層形成材料を塗布し、乾燥させて、無機層を形成した。その後、ロールプレスを行い、正極を得た。
得られた正極における無機層の厚さは、6.0μmであった。
【0108】
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛、バインダであるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)、並びに分散媒である水を混合して負極合剤ペーストを調製した。なお、負極活物質、SBR及びCMCの質量比率は96:2:2(固形分換算)とした。負極基材であるタブを有する銅箔のタブ以外の両面に負極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、負極を得た。
【0109】
(セパレータの作製)
無機粒子である酸化アルミニウム粒子、バインダ及び分散媒を用いて、セパレータの無機層形成材料を調製した。この無機層形成材料を、ポリオレフィン製の多孔質樹脂フィルムである基材層(厚さ7.0μm;湿式法で製造された二軸延伸フィルム)の片面に塗布し、乾燥させて、無機層を形成し、セパレータを得た。
得られたセパレータにおける無機層の厚さは、3.0μmであった。
【0110】
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを30:40:30の体積比率で混合した溶媒に、1.2mol/dm3の塩濃度でLiPF6を溶解させ、非水電解液を得た。
【0111】
(非水電解質蓄電素子の組み立て)
上記正極と負極とセパレータとを積層して電極体を得た。このとき、セパレータの無機層が正極側に位置するように、セパレータを配置した(
図3の形態)。その後、正極のタブ及び負極のタブを正極リード及び負極リードにそれぞれ溶接して容器に封入し、非水電解液を注入して封口し、実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0112】
[実施例2から7、比較例1から4]
正極における無機層の有無及びその厚さ、セパレータにおける基材層の厚さ、セパレータにおける無機層の有無及びその厚さ、並びにセパレータにおける無機層の配置位置を表1に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2から7、及び比較例1から4の各非水電解質蓄電素子を得た。
【0113】
[評価]
(充放電サイクル試験)
実施例及び比較例の各非水電解質蓄電素子に対し、以下の充放電サイクル試験を行った。25℃において、充電電流2.0C、充電終止電圧4.25Vとして定電流定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.01C以下になるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流2.0C、放電終止電圧2.0Vとして定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。いずれの実施例及び比較例も、この充放電を200サイクル実施した。1サイクル目の放電電気量に対する200サイクル目の放電電気量の比を容量維持率として求めた。評価結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
表1に示されるように、基材層の厚さに対する無機層の厚さの合計の比が0.7未満である比較例1から3の非水電解質蓄電素子、及び上記比が0.7以上であるものの基材層の厚さが9μmを超える比較例4の非水電解質蓄電素子は、いずれも容量維持率が低かった。特に比較例1と比較例4とを対比すると、基材層の厚さが9μmを超える場合、無機層の厚さの合計を大きくしても容量維持率の改善効果はほとんど見られなかった。
【0116】
これに対し、基材層の厚さが9μm以下であり、且つ基材層の厚さに対する無機層の厚さの合計の比が0.7以上である実施例1から7の各非水電解質蓄電素子は、いずれも容量維持率が比較例1から4に比べて高い値を示した。基材層を薄くし、且つ無機層を相対的に厚くすることで、大電流で充放電が繰り返される場合でも容量維持率が高まることがわかる。