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  • 特開-転がり軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110703
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/62 20060101AFI20230802BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20230802BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230802BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230802BHJP
   F04D 29/046 20060101ALI20230802BHJP
   F04D 29/02 20060101ALI20230802BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
F16C33/62
F16C19/06
C22C38/00 302Z
C22C38/58
F04D29/046 Z
F04D29/02
F16C33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012304
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸室 貴光
(72)【発明者】
【氏名】小林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 努
【テーマコード(参考)】
3H130
3J701
【Fターム(参考)】
3H130AA06
3H130AB13
3H130AB22
3H130AB42
3H130AB62
3H130AB65
3H130AB69
3H130AC01
3H130BA24E
3H130DB08Z
3H130EC04E
3H130EC13E
3H130EC14E
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701EA03
3J701EA06
3J701EA10
3J701EA78
3J701FA08
3J701FA31
3J701GA29
3J701XE12
3J701XE30
(57)【要約】
【課題】液化ガス用ポンプ装置に組み込まれる転がり軸受のように、低温液体と接する用途に好適であり、防錆性能とともに、耐摩耗性を更に向上させて耐久性を高めた転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受1は、外輪10、内輪20及び転動体30の材料が、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、軸受鋼、炭素量が0.3~0.4質量%の炭素鋼、及び炭素量がそれより大きい高炭素鋼から選ばれ、かつ、外輪10の軌道面11、内輪20の軌道面21及び転動体30の転動面31の少なくとも一つに、DLC被膜が形成されており、液化ガス用ポンプ装置の用途に好適である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪との間に、転動体を転動自在に保持してなる転がり軸受において、
前記外輪、前記内輪及び前記転動体の材料は、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、軸受鋼、炭素量が0.3~0.4質量%の炭素鋼、及び炭素量がそれより大きい高炭素鋼から選ばれ、かつ、
前記外輪の軌道面、前記内輪の軌道面及び前記転動体の転動面の少なくとも一つに、DLC被膜が形成されている、
転がり軸受。
【請求項2】
前記材料が、オーステナイト系ステンレス鋼である、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、下記のオーステナイト系ステンレス鋼A又はオーステナイト系ステンレス鋼Bである、請求項2に記載の転がり軸受。
・オーステナイト系ステンレス鋼A:
それぞれ質量%で、C≦0.08、Si≦1.00、Mn≦2.00、P≦0.045、S≦0.030、Ni:8.00~10.50、Cr:18.00~20.00を含む。
・オーステナイト系ステンレス鋼B:
それぞれ質量%で、C≦0.08、Si≦1.00、Mn≦2.00、P≦0.045、S≦0.030、Ni:10.00~14.00、Cr:16.00~18.00、Mo:2.00~3.00を含む。
【請求項4】
液化ガス用ポンプ装置に使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、より詳細には低温用、特に液化ガスのような低温の液体を循環させるポンプや、モータなどの回転軸の支持用として好適な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液化天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)、液体水素、液体アンモニア、液体窒素、液化プロパン等の液化ガスを圧送する液化ガス用ポンプ装置では、液化ガスを圧送するインペラーが取り付けられた主軸を回転自在に支持するために、転がり軸受が用いられている(特許文献1、2参照)。
【0003】
また、液化ガス用ポンプ装置に組み込まれる転がり軸受では、低温から常温に戻り結露した際でも錆が発生しないように防錆性能が要求されており、軸受材料としてステンレス鋼が使用されることが多い。また、無電解Ni-Pメッキを施して耐食性を高めることも行われている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4300088号公報
【特許文献2】特開2010-1984号公報
【特許文献3】特表2007-524045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、液化ガス用ポンプ装置に組み込まれる転がり軸受は、液化ガスと接触するため、極低温環境下で使用される。しかも、液化ガスには油分が混入していないため、油で潤滑することができず、軸受にとってはさらに過酷な環境であり、転動体と外輪軌道面又は内輪軌道面との間で摩耗が起きやすい状態になっている。
【0006】
このように、液化ガス用ポンプ装置に組み込まれる転がり軸受では、防錆性能とともに耐摩耗性とが強く要求されており、更なる向上が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、液化ガス用ポンプ装置に組み込まれる転がり軸受のように、低温液体と接する用途に好適であり、防錆性能とともに、耐摩耗性を更に向上させて耐久性を高めた転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、転がり軸受に係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] 外輪と、内輪との間に、転動体を転動自在に保持してなる転がり軸受において、
前記外輪、前記内輪及び前記転動体の材料は、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、軸受鋼、炭素量が0.3~0.4質量%の炭素鋼、及び炭素量がそれより大きい高炭素鋼から選ばれ、かつ、
前記外輪の軌道面、前記内輪の軌道面及び前記転動体の転動面の少なくとも一つに、DLC被膜が形成されている、
転がり軸受。
【0010】
また、転がり軸受に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[4]に関する。
【0011】
[2] 前記材料が、オーステナイト系ステンレス鋼である、[1]に記載の転がり軸受。
[3] 前記オーステナイト系ステンレス鋼は、下記のオーステナイト系ステンレス鋼A又はオーステナイト系ステンレス鋼Bである、[2]に記載の転がり軸受。
・オーステナイト系ステンレス鋼A:
それぞれ質量%で、C≦0.08、Si≦1.00、Mn≦2.00、P≦0.045、S≦0.030、Ni:8.00~10.50、Cr:18.00~20.00を含む。
・オーステナイト系ステンレス鋼B:
それぞれ質量%で、C≦0.08、Si≦1.00、Mn≦2.00、P≦0.045、S≦0.030、Ni:10.00~14.00、Cr:16.00~18.00、Mo:2.00~3.00を含む。
[4] 液化ガス用ポンプ装置に使用される、[1]~[3]のいずれか1つに記載の転がり軸受。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転がり軸受は、液化ガス用ポンプ装置に組み込まれる転がり軸受のように、低温液体と接する用途に好適であり、錆防止とともに、耐摩耗性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。
図2図2は、本発明の転がり軸受の用途の一例である液化ガス用ポンプ装置を示す断面図である。
図3図3は、実施例と比較例の試験時間とラジアル隙間増加量の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、液化ガス用ポンプ装置のように液化ガスと接触するような極低温環境下では、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)被膜が耐摩耗性に効果的であることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下に図面を参照して詳細に説明するが、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0015】
図1は、本発明の転がり軸受の一実施形態である玉軸受を示す断面図である。図示されるように、玉軸受(転がり軸受)1は、外輪10と内輪20との間に、複数の玉(転動体)30を保持器40により転動自在に保持して構成されている。
本実施形態では、外輪10、内輪20及び転動体30の材料がマルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、軸受鋼、炭素量が0.3~0.4質量%の炭素鋼、及び炭素量がそれより大きい高炭素鋼から選ばれる。
【0016】
中でも、マルテンサイト系ステンレス鋼及びオーステナイト系ステンレス鋼は、防錆性能にも優れるため好ましい。特に、オーステナイト系ステンレス鋼は、極低温下で使用される転がり軸受の耐摩耗性を向上させることができる。マルテンサイト系ステンレス鋼は、常温での靱性や脆性に優れることから耐摩耗性が要求される用途に広く使用されているが、極低温下では、常温での耐摩耗性が維持されるのではなく、常温での靱性や脆性の劣るとされているオーステナイト系ステンレス鋼の方が耐摩耗性に優れる。
【0017】
オーステナイト系ステンレス鋼の鋼種には制限はないが、下記の組成をもつオーステナイト系ステンレス鋼A、又はオーステナイト系ステンレス鋼Bが好ましい。なお、何れも構成元素の含有量は質量%であり、また、下記に示す元素以外の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
・オーステナイト系ステンレス鋼A:
C≦0.08、Si≦1.00、Mn≦2.00、P≦0.045、S≦0.030、Ni:8.00~10.50、Cr:18.00~20.00を含む。
・オーステナイト系ステンレス鋼B:
C≦0.08、Si≦1.00、Mn≦2.00、P≦0.045、S≦0.030、Ni:10.00~14.00、Cr:16.00~18.00、Mo:2.00~3.00を含む。
【0018】
なお、オーステナイト系ステンレス鋼AはJIS-SUS304として、また、オーステナイト系ステンレス鋼BはJIS-SUS316として、市場からも入手することができる。
【0019】
更には、外輪10の外輪軌道面11、内輪20の内輪軌道面21及び転動体30の転動面31の少なくとも一つに、DLC被膜(図示せず)が形成されている。DLC被膜が形成されることにより、極低温環境下での耐摩耗性が向上する。DLC被膜は、CVD法やPVD法など、公知の方法で成膜することができる。なお、DLC被膜の膜厚には制限はないが、0.4~2.0μmが適当である。膜厚が0.4μm未満では、均等に成膜されていないおそれがある他、耐久性が十分ではない。一方、膜厚が2.0μmを超えると、剥離などが起こりやすく、耐久性が十分ではない。
【0020】
本実施形態の玉軸受1は、錆の発生を抑えつつ、極低温での耐摩耗性に優れるため、液化ガス用ポンプ装置に好適である。図2は、液化ガス用ポンプ装置の一例を示すが、図示されるように、液化ガス用ポンプ装置100は、ハウジング101と、ハウジング101の内部に挿通された主軸102と、ハウジング101と主軸102との間に介在され軸方向に間隔を空けて配置された上記の玉軸受1,1とを備えている。
【0021】
玉軸受1,1の外輪がハウジング101の内側に装着され、内輪が主軸102に嵌合されていて、玉軸受1,1により主軸102がハウジング101に対して回転自在に支持されている。そして、主軸102の一端部近傍には、液化ガスを圧送するインペラー103が備えられており、他端部近傍には、主軸102を回転駆動するモータ104(ステータとロータを有する)が備えられている。上記したように、極低温環境下で使用されても回転不具合が生じにくい玉軸受1で主軸102を支持しているので、この液化ガス用ポンプ装置100は、主軸102の回転不具合が生じにくい。
【実施例0022】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に説明する。
【0023】
<試験1>
内輪、外輪及び玉からなる、呼び番号6206の深溝玉軸受(内径30mm、外径62mm、幅16mm、玉数8個、玉径3/8インチ)を用意した。内輪、外輪及び玉はいずれもSUS440C製とし、保持器はエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)製とした。玉には非晶質炭素膜(DLC被膜)を被覆した。DLC被膜は、スパッタリング法により成膜した。また、基材であるSUS440Cから順に、Cr被膜層、WとCとの複合層とを成膜した。なお、DLC被膜の膜厚は、0.4μmと、0.7μmとの2種類とした。
【0024】
上記の試験軸受を用いて、潤滑が乏しい環境を模擬して、下記の試験条件にて評価を行った。すなわち、試験前後に内輪、外輪及び玉の重量測定と、ラジアル隙間測定とを行い、重量減少量及びラジアル隙間増加量として試験結果を示した。
【0025】
また、玉にDLC被膜を被覆していない軸受を比較例とした。
【0026】
(試験条件)
・試験軸受: 深溝玉軸受6206
・軸受材質:SUS440C
・保持器材質:ETFE
・玉径:3/8inch
・玉数:8
・回転速度:1000min-1
・アキシアル荷重:53kg
・試験雰囲気:イオン交換水
・試験温度:25℃
【0027】
試験結果を表1及び図3に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1及び図3に示すとおり、玉にDLC被膜を成膜した実施例では、内輪、外輪及び玉の全ての摩耗量が少なかった。その結果、ラジアル隙間の増加も低減されている。さらに、DLC被膜の膜厚が0.7μmの場合には、長時間試験した場合でもその効果が持続している。DLC被膜の膜厚が0.4μmの場合では、10時間時点でDLC被膜がなくなっているものがあった。
【0030】
<試験2>
内輪、外輪及び玉からなる、呼び番号7305Aのアンギュラ玉軸受(内径25mm、外径62mm、幅17mm、玉数10個、玉径3/8インチ)を用意した。内輪、外輪及び玉はいずれもSUS440C製とした。また、保持器は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を母材とし、保持器全体の5質量%の二硫化モリブデン(MoS)、及び15質量%のグラスファイバーを含有したものを用いた。
【0031】
また、玉には非晶質炭素膜(DLC)を被覆した。DLC被膜は、スパッタリング法により成膜し、基材であるSUS440Cから順に、Cr被膜層、WとCとの複合層とを成膜した。なお、DLC被膜の膜厚は、0.4μmとした。
【0032】
また、玉にDLC被膜を成膜していない軸受を比較例とした。
【0033】
上記の試験軸受を用いて、極低温環境を模擬するために液体窒素中で回転試験を行った。試験条件は下記のとおりである。試験は、同じ名番の軸受を2個1組で行い、試験後の内輪軌道面の形状測定から摩耗深さを測定した。
【0034】
(試験条件)
・試験軸受: アンギュラ玉軸受7305A
・軸受材質:SUS440C
・保持器材質:充填材入りPTFE
・玉径:3/8inch
・玉数:10
・回転速度:6000min-1
・アキシアル荷重:240kg
・試験雰囲気:液体窒素中
・試験温度:-196℃
・試験時間:144時間
【0035】
試験結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示すように、玉にDLC被膜を成膜した軸受では、ほとんど摩耗が生じておらず、極低温かつ潤滑性に乏しい環境においても母材の直接接触を防止した結果といえる。
【符号の説明】
【0038】
1 玉軸受(転がり軸受)
10 外輪
11 外輪軌道面
20 内輪
21 内輪軌道面
30 玉(転動体)
31 転動面
40 保持器
100 液化ガス用ポンプ装置
101 ハウジング
102 主軸
103 インペラー
104 モータ
図1
図2
図3