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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110713
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/94 20060101AFI20230802BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20230802BHJP
   B60T 8/48 20060101ALI20230802BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B60T8/94
B60T8/17 B
B60T8/48
B60T17/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012317
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
【テーマコード(参考)】
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D049BB02
3D049CC02
3D049HH20
3D049HH36
3D049QQ04
3D049RR04
3D049RR08
3D049RR11
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA01
3D246GB37
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA32A
3D246HA38A
3D246HA43A
3D246HC01
3D246JB11
3D246JB31
3D246JB53
3D246LA15Z
3D246LA33Z
3D246LA41Z
3D246LA65Z
3D246MA09
3D246MA16
3D246MA21
3D246MA23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】制動制御装置において、主電源が異常になり、補助電源で駆動される場合に、電気モータに消費される電力を低減すること。
【解決手段】制動制御装置は、ホイール圧を増加する加圧部と、加圧部を駆動する制御部と、制御部に給電する主電源と、主電源が異常である場合に制御部に給電する補助電源と、を備える。加圧部は、電気モータによって駆動される流体ポンプ、流体ポンプの吐出部と吸入部とを接続する還流路、還流路に設けられる調圧弁、及び、還流路に接続される液圧室を備える。制御部は、液圧室の制御圧を増加することでホイール圧を増加する。制御部は、主電源から給電される場合には、電気モータを駆動して還流路に制動液の循環流を発生し、これを調圧弁によって絞ることで制御圧を増加するが、補助電源から給電される場合には、調圧弁を閉弁し、電気モータを駆動して制動液を液圧室に移動することで制御圧を増加する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のホイールシリンダのホイール圧を増加する加圧部と、
前記加圧部を駆動する制御部と、
前記制御部に給電する主電源と、
前記主電源が異常である場合に、前記主電源に代わって、前記制御部に給電する補助電源と、
を備える車両の制動制御装置において、
前記加圧部は、電気モータによって駆動される流体ポンプ、前記流体ポンプの吐出部と前記流体ポンプの吸入部とを接続する還流路、前記還流路に設けられる調圧弁、及び、前記吐出部と前記調圧弁との間で前記還流路に接続される液圧室を備え、
前記制御部は、
前記液圧室の制御圧を増加することによって前記ホイール圧を増加し、
前記主電源から給電される第1状態の場合には、前記電気モータを駆動して前記還流路に制動液の循環流を発生させ、該循環流を前記調圧弁によって絞ることで前記制御圧を増加し、
前記補助電源から給電される第2状態の場合には、前記調圧弁を閉弁し、前記電気モータを駆動して制動液を前記液圧室に移動することで前記制御圧を増加する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載される車両の制動制御装置であって、
前記調圧弁から前記吐出部に向けた方向の制動液の流れを阻止する逆止弁を備え、
前記制御部は、前記第2状態の場合には、前記サーボ圧が前記車両の制動要求量に応じて演算される目標圧に達する時点で前記電気モータへの給電を停止する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、特許文献1に記載されような、電気モータを動力源にした車両の制動制御装置を開発している。具体的には、特許文献1の装置は、『電動ポンプDC、及び、電磁弁UCにて構成され、電動ポンプが吐出する制動液を、電磁弁UCによって調整液圧Pcに調節し、調整液圧Pcを後輪ホイールシリンダに導入する調圧ユニットYC』、及び、『マスタシリンダCM、及び、マスタピストンPMにて構成され、「前輪ホイールシリンダに接続されたマスタ室Rm」、及び、「調整液圧Pcが導入され、マスタ室RmによってマスタピストンPMに加えられる後退力Fbに対向する前進力FaをマスタピストンPMに付与するサーボ室Rs」を有するマスタユニットYM』を含んで構成される。
【0003】
特許文献2には、車載電源として主電源と補助電源とを備える液圧ブレーキシステムにおいて、主電源の異常時に、補助電源の電圧が当該液圧ブレーキシステムの作動最低電圧より低くなり難くするために、以下の装置が開示されている。該装置は、ポンプと該ポンプを駆動するポンプモータを含む液圧発生装置であり、主電源が正常である場合には、主電源によって、制動要求に応じてポンプモータを始動させる。しかしながら、主電源が電力を液圧発生装置に供給できない場合には、制動要求の有無に関係なく、補助電源によって、ポンプモータを連続的に作動させる。主電源が異常である場合に、突入電流が流れる機会が少なくなる。結果、補助電源の電圧が作動最低電圧より低くなり難くすることができる。
【0004】
しかしながら、特許文献2の装置では、制動要求がない場合でも、補助電源によってポンプモータ(「電気モータ」ともいう)の駆動が継続される。このため、突入電流による電圧低下は抑制されるが、電力消費は低減されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-059294号公報
【特許文献2】特開2020-147185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、制動制御装置において、主電源が異常になり、補助電源で駆動される場合に、電気モータに消費される電力が低減され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)は、車両のホイールシリンダ(CW)のホイール圧(Pw)を増加する加圧部(CA、CB)と、前記加圧部(CA、CB)を駆動する制御部(EA、EB)と、前記制御部(EA、EB)に給電する主電源(BT)と、前記主電源(BT)が異常である場合に、前記主電源(BT)に代わって、前記制御部(EA、EB)に給電する補助電源(BU)と、を備える。ここで、前記加圧部(CA、CB)は、電気モータ(MA、MB)によって駆動される流体ポンプ(QA、QB)、前記流体ポンプ(QA、QB)の吐出部(Qo、Qp)と前記流体ポンプ(QA、QB)の吸入部(Qi、Qj)とを接続する還流路(HN、HL)、前記還流路(HN、HL)に設けられる調圧弁(UA、UB)、及び、前記吐出部(Qo、Qp)と前記調圧弁(UA、UB)との間で前記還流路(HN、HL)に接続される液圧室(Ru、Rw)を備える。
【0008】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)では、前記制御部(EA、EB)は、前記液圧室(Ru、Rw)の制御圧(Pu、Pw)を増加することによって前記ホイール圧(Pw)を増加する。そして、前記制御部(EA、EB)は、前記主電源(BT)から給電される第1状態の場合には、前記電気モータ(MA、MB)を駆動して前記還流路(HK、HL)に制動液(BF)の循環流(KN、KL)を発生させ、該循環流(KN、KL)を前記調圧弁(UA、UB)によって絞ることで前記制御圧(Pu、Pw)を増加する。一方、前記制御部(EA、EB)は、前記補助電源(BU)から給電される第2状態の場合には、前記調圧弁(UA、UB)を閉弁し、前記電気モータ(MA、MB)を駆動して制動液(BF)を前記液圧室(Ru、Rw)に移動することで前記制御圧(Pu、Pw)を増加する。
【0009】
上記構成によれば、第1状態の場合には、循環流KN、KLが発生し続けられなければならないので、流体ポンプQA、QBの駆動は継続される。一方、第2状態の場合には、制動液BFの移動によって制御圧Pu、Pwの増加が行われるので、流体ポンプQA、QBは必要な場合に限って駆動されるだけでよい。このため、第2状態では、制御圧Pu、Pwの増加において、電気モータMA、MBの電力消費が低減される。
【0010】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)は、前記調圧弁(UA、UB)から前記吐出部(Qo、Qp)に向けた方向の制動液(BF)の流れを阻止する逆止弁(GC)を備える。そして、前記制御部(EA、EB)は、前記第2状態の場合には、前記サーボ圧(Pu、Pw)が前記車両の制動要求量(Bs)に応じて演算される目標圧(Pt)に達する時点で、前記電気モータ(MA、MB)への給電を停止する。
【0011】
上記構成によれば、液圧室Ru、Rwは、逆止弁GCと調圧弁UA、UBとによって封止されるので、制御圧Pu、Pwは減少されることはない。このため、制御圧Pu、Pwが目標圧Ptに到達した場合に電気モータMA、MBへの給電が完全に停止されても、制御圧Pu、Pwは維持されるので、電気モータMA、MBの省電力化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】制動制御装置SCの第1の実施形態を説明するための模式図である。
図2】調圧制御の処理例を説明するためのフロー図である。
図3】制動制御装置SCの第2の実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<構成部材等の記号、及び、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前後輪の何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。例えば、各車輪に設けられたホイールシリンダCWにおいて、「前輪ホイールシリンダCWf」、「後輪ホイールシリンダCWr」と表記される。更に、記号末尾の添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、各記号は総称を表す。例えば、「CW」は、車両の前後車輪に設けられたホイールシリンダの総称である。
【0014】
マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに至るまでの流体路において、マスタシリンダCMに近い側(ホイールシリンダCWから遠い側)が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側(マスタシリンダCMから遠い側)が「下部」と称呼される。また、制動液BFの循環流KN、KLにおいて、流体ポンプQA、QBの吐出部Qo、Qpに近い側(吸入部Qi、Qjから離れた側)が「上流側」と称呼され、流体ポンプQA、QBの吸入部Qi、Qjに近い側(吐出部Qo、Qpから離れた側)が「下流側」と称呼される。
【0015】
マスタシリンダCM、加圧部CA、CB、及び、ホイールシリンダCWは、流体路(連絡路HS)にて接続される。更に、加圧部CA、CBでは、各種構成要素(UA等)が流体路にて接続される。ここで、「流体路」は、制動液BFを移動するための経路であり、配管、アクチュエータ内の流路、ホース等が該当する。以下の説明で、連絡路HS、還流路HK、HL、戻し路HT、リザーバ路HR、サーボ路HV、減圧路HG等は流体路である。
【0016】
<制動制御装置SCの第1実施形態>
図1の模式図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第1の実施形態について説明する。第1の実施形態に係る制動制御装置SCは、ブレーキバイワイヤ型の装置である。即ち、制動制御装置SCでは、運転者の制動操作等に対して、ホイール圧Pwが独立で発生可能である。図1は、特許文献1(特開2019-059294号公報)に記載される構成(特に、上部流体ユニットYU)を模式化したものである。具体的には、該公報に記載されるマスタシリンダCMから前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの夫々の一輪分(例えば、特許文献1のホイールシリンダCWi、CWk)に至るまでが図示されている。
【0017】
車両には、制動操作部材BPが備えられる。制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。また、車両には、前輪、後輪制動装置SXf、SXr(=SX)が備えられる。制動装置SXは、ブレーキキャリパCP(=CPf、CPr)、摩擦部材MS(例えば、ブレーキパッド)、及び、回転部材KT(=KTf、KTr、例えば、ブレーキディスク)にて構成される。ブレーキキャリパCPには、ホイールシリンダCW(=CWf、CWr)が設けられる。ホイールシリンダCWには、ホイールピストンNW(=NWf、NWr)が挿入されている。ホイールシリンダCWの内部には、ホイールピストンNWによって、液圧室Rw(=Rwf、Rwr)が形成される。液圧室Rw(「ホイール室」という)に、制動制御装置SCからホイール圧Pw(=Pwf、Pwr)が供給されることで、摩擦部材MSが、車輪WHに固定された回転部材KTに押し付けられる。これにより、車輪WHには摩擦制動力Fmが発生される。「摩擦制動力Fm」は、ホイール圧Pwによって発生される制動力である。
【0018】
車両には、制動制御装置SC(特に、コントローラEA、加圧部CA等)への電力の供給源として、2つの電源BT、BUが備えられる。電源BTは、「主電源」と称呼され、通常の給電に利用される。電源BUは、「補助電源」と称呼され、主電源BTに異常である場合の代替電源として使用される。ここで、主電源BTに異常が生じた場合が「電源異常時」とも称呼される。
【0019】
制動制御装置SCでは、2系統の制動系統として、所謂、前後型(「II型」ともいう)が採用される。制動制御装置SCは、制動操作量センサBA、ストロークシミュレータSS、マスタシリンダCM、第1加圧部CA(単に、「加圧部」ともいう)、及び、第1コントローラEA(単に、「コントローラ」ともいう)にて構成される。
【0020】
制動操作量センサBAによって、制動操作部材BPの操作量Ba(制動操作量)が検出される。例えば、制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSPが採用される。また、制動操作量センサBAには、ストロークシミュレータSSの液圧Pz(「シミュレータ圧」という)を検出するシミュレータ圧センサPZが用いられる。つまり、制動操作量Baは、運転者の制動意志を表す信号の総称であり、制動操作量センサBAは、制動操作量Baを検出するセンサの総称である。制動操作量Baは、第1コントローラEAに入力される。
【0021】
ストロークシミュレータSS(単に、「シミュレータ」ともいう)によって、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。制動制御装置SCは、ブレーキバイワイヤ型であるため、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spと操作力Fpとの関係)は、シミュレータSSによって発生される。シミュレータ圧Pzを検出するよう、シミュレータ圧センサPZが設けられる。なお、シミュレータ圧Pzは、制動操作部材BPの操作力Fpを表す状態量である。
【0022】
シングル型のマスタシリンダCMによって、前輪ホイールシリンダCWf(特に、前輪ホイール室Rwf)にマスタ圧Pmが、前輪ホイール圧Pwfとして供給される。マスタシリンダCMには、マスタピストンNMが挿入される。マスタシリンダCMの内部は、マスタピストンNMによって、マスタ室Rmとサーボ室Ruとに区画される。マスタ室Rmは、前輪連絡路HSfを介して、前輪ホイールシリンダCWfの液圧室Rwf(前輪ホイール室)に接続される。サーボ室Ruは、サーボ路HV(流体路)を介して、加圧部CAに接続される。なお、マスタ室Rmの受圧面積rm(「マスタ面積」という)とサーボ室Ruの受圧面積ru(「サーボ面積」という)とは等しくされている(即ち、「rm=ru」)。
【0023】
非制動時には、マスタピストンNMは、最も後退した位置(即ち、マスタ室Rmの体積が最大になる位置)にある。該状態では、マスタ室Rmは、マスタリザーバRV(大気圧リザーバ)に連通している。制動操作部材BPが操作されると、サーボ室Ru内のサーボ圧Puが増加され、マスタピストンNMが前進方向(マスタ室Rmの体積が減少し、サーボ室Ruの体積が増加する方向)に移動される。該移動により、マスタ室RmとマスタリザーバRVとの連通は遮断される。更に、マスタピストンNMが前進方向に移動されると、マスタ室Rm内の液圧Pm(マスタ圧)が「0(大気圧)」から増加され、マスタ室Rmから制動液BFが圧送される。ここで、「rm=ru」であるため、「Pm=Pu」であ
【0024】
[第1加圧部CA]
第1加圧部CA(「加圧部」に相当)によって、サーボ圧Puが発生される。サーボ圧Pu(「制御圧」に相当)は、マスタシリンダCMのサーボ室Ru(「液圧室」に相当)、及び、後輪ホイールシリンダCWrの後輪ホイール室Rwr(「液圧室」に相当)に供給される。第1加圧部CA(単に、「加圧部」ともいう)は、第1電気モータMA、第1流体ポンプQA、第1調圧弁UA、及び、マスタ圧センサPMにて構成される。
【0025】
第1電気モータMA(単に、「電気モータ」ともいう)によって、第1流体ポンプQA(単に、「流体ポンプ」ともいう)が駆動される。電気モータMAには、回転子(ロータ)の第1回転角Ka(単に、「回転角」ともいう)を検出するよう、第1回転角センサKA(単に、「回転角センサ」ともいう)が設けられる。第1回転角Ka(実際値)は、コントローラEAに入力される。
【0026】
第1流体ポンプQAにおいて、第1吸入部Qiと第1吐出部Qoとは、第1還流路HK(流体路であり、単に、「還流路」ともいう)によって接続される。また、流体ポンプQAの第1吸入部Qi(単に、「吸入部」ともいう)は、リザーバ路HRを介して、マスタリザーバRVにも接続される。流体ポンプQAの第1吐出部Qo(単に、「吐出部」ともいう)の近傍には逆止弁GCが設けられる。詳細には、還流路HKにおいて、吐出部Qoと調圧弁UAの間に、逆止弁GCが配置される。更に、還流路HKには、常開型の第1調圧弁UAが設けられる。第1調圧弁UA(単に、「調圧弁」ともいう)は、通電状態(例えば、供給電流Ia)に基づいて開弁量が連続的に制御されるリニア型の電磁弁である。
【0027】
加圧部CAでは、電気モータMA、及び、調圧弁UAが、コントローラEAによって駆動されることで、サーボ圧Puが発生される。「サーボ圧Pu」は、流体ポンプQAの吐出部Qoと調圧弁UAとの間の液圧である。制動制御装置SCでは、サーボ圧Puによって、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrが増加される。しかし、サーボ圧Puから前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrへの圧力伝達の経路は、前輪WHfに係る制動系統と後輪WHrに係る制動系統とでは異なる。
【0028】
前輪WHfに係る制動系統では、還流路HKは、流体ポンプQAの吐出部Qoと調圧弁UAとの間の部位Bvにて、サーボ路HVを介してサーボ室Ruに接続される。従って、サーボ圧Puは、サーボ室Ruに供給される。サーボ圧Puの増加によって、マスタピストンNMが前進方向(マスタ室Rmの体積が減少する方向)に押圧され、マスタ室Rm内の液圧Pm(マスタ圧)が増加される。加圧部CAには、マスタ圧Pmを検出するよう、マスタ圧センサPMが設けられる。
【0029】
マスタ室Rmは、前輪連絡路HSfによって、液圧モジュレータMJを経由して、前輪ホイールシリンダCWfの前輪ホイール室Rwfに接続される。従って、マスタ圧Pmは、マスタシリンダCMのマスタ室Rmから前輪ホイールシリンダCWfの前輪ホイール室Rwfに対して、前輪ホイール圧Pwfとして供給される。ここで、液圧モジュレータMJは、アンチロックブレーキ制御等を実行するための汎用ユニットである。液圧モジュレータMJにて、アンチロックブレーキ制御等が実行されていない場合には、サーボ圧Pu、マスタ圧Pm、及び、前輪ホイール圧Pwfは等しい(即ち、「Pu=Pm=Pwf」)。
【0030】
後輪WHrに係る制動系統では、還流路HKは、流体ポンプQAの吐出部Qoと調圧弁UAとの間の部位Bvにて、後輪連絡路HSrに接続される。後輪連絡路HSrは、液圧モジュレータMJを経由して、後輪ホイールシリンダCWrの後輪ホイール室Rwrに接続される。従って、後輪WHrに係る制動系統では、サーボ圧Puが後輪ホイールシリンダCWrの後輪ホイール室Rwrに直接供給される。上記同様に、液圧モジュレータMJにて、アンチロックブレーキ制御等が実行されていない場合には、サーボ圧Pu、及び、後輪ホイール圧Pwrは等しい(即ち、「Pu=Pwr」)。
【0031】
コントローラEAから電力供給されることで、加圧部CA(特に、電気モータMA、調圧弁UA)が駆動され、サーボ圧Puが発生される。コントローラEAでは、主電源BT、及び、補助電源BUのうちの何れか一方から電力供給を受ける。しかし、それらのうちの何れが選択されるかで、加圧部CAでの加圧方法が異なる。主電源BTからコントローラEAに給電される状態が「第1状態」と称呼され、補助電源BUからコントローラEAに給電される状態が「第2状態」と称呼される。制動制御装置SCでは、通常は第1状態が選択されるが、電源異常時には第2状態が選択される。
【0032】
≪主電源BTから給電される場合の加圧方法≫
制動制御装置SC(特に、加圧部CA)への電力供給が主電源BTによって行われる場合(即ち、第1状態)の加圧方式について説明する。第1状態では、電気モータMAによって駆動される流体ポンプQAが吐出する制動液BFの循環流KNを、調圧弁UAによって絞ることで、サーボ圧Puが増加される。この加圧方法が、「動圧方式、又は、動的加圧」と称呼される。「動圧」は、流れがある流体(例えば、制動液BF)において、その流れが阻害された場合に発生する圧力である。以下、動的加圧(動圧による加圧)について詳しく説明する。
【0033】
電気モータMAによって流体ポンプQAが駆動される。流体ポンプQAから制動液BFが吐出されると、還流路HKには、制動液BFの循環流KN(破線矢印で示す)が発生される。調圧弁UAが全開状態にある場合(調圧弁UAは常開型であるため、非通電時)には、還流路HKにおいて、流体ポンプQAの吐出部Qoと調圧弁UAとの間の液圧Pu(サーボ圧)は「0(大気圧)」である。調圧弁UAへの通電量Ia(供給電流)が増加されると、調圧弁UAによって循環流KN(還流路HK内で循環する制動液BFの流れ)が絞られ、循環流KNの流れが阻害される。換言すれば、調圧弁UAによって、還流路HKの流路が狭められて、調圧弁UAによるオリフィス効果が発揮される。これにより、調圧弁UAの上流側の液圧Pu(サーボ圧)が「0」から増加される。つまり、循環流KNにおいて、調圧弁UAに対して、上流側の液圧Pu(サーボ圧)と下流側の液圧(大気圧)との液圧差(差圧)が発生される。調圧弁UAは、その上流側と下流側との差圧を調整するので、「差圧弁」とも称呼される。該差圧は、調圧弁UAへの通電量Ia(例えば、供給電流)によって調節される。サーボ圧Puが、所望の液圧(即ち、目標圧Pt)に達すると、通電量Iaが一定に維持される。
【0034】
還流路HKには、逆止弁GCが設けられる。逆止弁GCによって、調圧弁UAから吸入部Qiに向けた方向(破線矢印の方向)の制動液BFの流れ(即ち、循環流KNの流れ)は許容されるが、その逆の調圧弁UAから吐出部Qoに向けた方向の制動液BFの流れは阻止される。つまり、逆止弁GCによって、還流路HKでの制動液BFの逆流が防止される。
【0035】
≪補助電源BUから給電される場合の加圧方法≫
主電源BTに代えて、制動制御装置SC(特に、加圧部CA)への電力供給が主電源BTによって行われる場合(即ち、第2状態)の加圧方式について説明する。第2状態では、調圧弁UAが全閉にされて、電気モータMAによって駆動される流体ポンプQAが吐出する制動液BFの全量がサーボ室Ru、及び、後輪ホイール室Rwrに移動されることで、サーボ圧Puが増加される。詳細には、制動液BFは、マスタリザーバRVから流体ポンプQAに吸い込まれる。そして、吸い込まれた制動液BFの全量が、サーボ室Ru、及び、後輪ホイール室Rwrに吐出される。つまり、流体ポンプQAによって、制動液BFが、マスタリザーバRVからサーボ室Ru、及び、後輪ホイール室Rwrに移動される。この加圧方法が、「静圧方式、又は、静的加圧」と称呼される。「静圧」は、動圧とは逆に、流れが存在しない場合(又は、流れが僅かである場合)の圧力である。以下、静的加圧(静圧による加圧)について詳しく説明する。
【0036】
常開型の調圧弁UAに給電が行われて、調圧弁UAが完全に閉じられる。電気モータMAによって流体ポンプQAが駆動され、流体ポンプQAから制動液BFが吐出される。流体ポンプQAから吐出される制動液BFの全ては、サーボ室Ru、及び、後輪ホイール室Rwrに移動される。制動制御装置SC、及び、制動装置SXは剛性を有するので、流体ポンプQAから、液圧室Ru、Rwrに流入される制動液BFの量(体積)が増加する従って、サーボ圧Puが増加する。サーボ圧Pu(即ち、ホイール圧Pw)が、所望の液圧(即ち、目標圧Pt)に達すると、電気モータMAの回転が停止され、流体ポンプQAからの制動液BFの吐出が終了される。このとき、逆止弁GC、及び、調圧弁UAの閉弁によって、液圧室Ru、Rwrは流体的にロックされている。このため、電気モータMAへの給電が停止されても、サーボ圧Puは保持される。
【0037】
≪第1コントローラEA≫
第1コントローラEA(「制御部」に相当)によって、加圧部CAが制御される。具体的には、コントローラEAは、主電源BT、又は、補助電源BUを電力供給源として、電気モータMA、及び、調圧弁UAへの供給電力を調節する。コントローラEAは、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRにて構成される。
【0038】
コントローラEAには、制動操作量Ba、マスタ圧Pm、回転角Ka等が入力される。制動操作量Baは、制動操作部材BPの操作量を表す状態量の総称である。具体的には、制動操作量Baとして、操作変位センサSPの検出信号Sp(操作変位)、及び、シミュレータ圧センサPZの検出信号Pz(シミュレータ圧)の信号が入力される。調圧弁UA、及び、電気モータMAを制御するために、マスタ圧Pm(マスタ圧センサPMの検出値)、及び、モータ回転角Ka(回転角センサKAの検出値)が入力される。
【0039】
更に、コントローラEAには、要求減速度Gsが入力される。要求減速度Gsは、車両を減速させるための要求値である。コントローラEAは、他のコントローラとの間で信号(検出値、演算値、制御フラグ等)を共有できるよう、通信バスBSに接続される。例えば、要求減速度Gsは、運転支援装置にて演算され、通信バスBSを介して、コントローラEAに送信される。或いは、制動操作部材BPとは別のデバイス(「外部操作デバイス」ともいう)にて、制動制御装置SCに対して、要求減速度Gsが指示される。
【0040】
コントローラEA(特に、マイクロプロセッサMP)には、調圧制御のアルゴリズムがプログラムされている。「調圧制御」は、サーボ圧Pu(最終的にはホイール圧Pw)を調節するための制御である。調圧制御には、上記の動的、静的加圧が含まれる。調圧制御は、制動操作量Ba(操作変位Sp、シミュレータ圧Pz)、及び、要求減速度Gsに基づいて実行される。ここで、制動操作量Ba、及び、要求減速度Gsが、「制動要求量Bs」と総称される。制動要求量Bsは、制動制御装置SCにて発生されるべきホイール圧Pwを指示(要求)するための入力値である。
【0041】
調圧制御のアルゴリズムに基づいて、駆動回路DRによって、加圧部CAを構成する電気モータMA、及び、調圧弁UAが駆動される。駆動回路DRには、電気モータMAを駆動するよう、スイッチング素子(例えば、MOS-FET)にてHブリッジ回路が構成される。また、駆動回路DRには、調圧弁UAを駆動するよう、スイッチング素子が備えられる。加えて、駆動回路DRには、電気モータMAへの供給電流Im(実際値)を検出するモータ電流センサ(非図示)、及び、調圧弁UAへの供給電流Ia(実際値であり、「供給電流」という)を検出する電流センサ(非図示)が含まれる。
【0042】
調圧制御では、制動要求量Bsに基づいて、目標圧Ptが演算される。動的加圧における調圧弁UAの制御では、目標圧Ptに基づいて、調圧弁UAの供給電流Iaに対応する目標電流It(目標値)が演算される。そして、供給電流Iaが、目標電流Itに近付き、一致するように制御される。また、動的加圧における電気モータMAの制御では、目標圧Ptに基づいて、実際の回転数Naに対応する目標回転数Nt(目標値)が演算される。そして、実際の回転数Naが、目標回転数Ntに近付き、一致するように、モータ供給電流Imが制御される。なお、モータ回転数Naは、モータ回転角Kaに基づいて演算される。
【0043】
上記動的加圧の制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMAを制御するための駆動信号Ma、及び、調圧弁UAを制御するための駆動信号Uaが演算される。そして、駆動信号(Ma等)に応じて、駆動回路DRのスイッチング素子が駆動され、電気モータMA、及び、調圧弁UAが制御される。
【0044】
静的加圧における調圧弁UAの制御では、予め設定された所定電流iaが供給される。これにより、調圧弁UAが完全に閉弁される。「所定電流ia」は、調圧弁UAの完全閉弁状態を十分に維持できる、予め設定された所定値(定数)である。静的加圧における電気モータMAの制御では、目標圧Ptに基づいて、電気モータMAの供給電流Imに対応する目標電流In(目標値)が演算される。そして、供給電流Imが、目標電流Inに近付き、一致するように制御される。或いは、目標圧Ptに基づいて、電気モータMAの回転角Kaに対応する目標角Kn(目標値)が演算される。そして、実際の回転角Ka(回転角センサKAの検出値)が、モータ目標角Knに近付き、一致するように制御される。
【0045】
上記静的加圧の制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMAを制御するための駆動信号Ma、及び、調圧弁UAを制御するための駆動信号Uaが演算される。そして、駆動信号Maに応じて、駆動回路DRのHブリッジを構成するスイッチング素子が駆動される。なお、静的加圧では、駆動信号Uaによって、調圧弁UAは完全に閉弁されている。
【0046】
<調圧制御の処理>
図2のフロー図を参照して、調圧制御の処理について説明する。調圧制御は、制動要求量Bs(Ba、Gs等)に基づくサーボ圧Pu(結果、ホイール圧Pw)の制御である。調圧制御のアルゴリズムは、第1コントローラEAのマイクロプロセッサMPにプログラムされている。
【0047】
ステップS110にて、各種信号(Ba、Gs等)が読み込まれる。制動操作量Ba(Sp、Pz等)は、制動操作量BA(SP、PZ等)から取得される。要求減速度Gsは、通信バスBSを介して、運転支援装置等から取得される。適否フラグFBが、通信バスBSを介して、電源監視装置から取得される。適否フラグFBは、主電源BTの適否を表す制御フラグであり、「0」にて「主電源BTが正常であること」を、「1」にて「主電源BTが異常であること」が表示される。加えて、コントローラEAの供給電圧Vd(「電源電圧」ともいう)が取得される。電源電圧Vdは、駆動回路DRに設けられる電源電圧センサVD(非図示)にて検出される。
【0048】
ステップS120にて、制動操作量Ba、及び、要求減速度Gsに基づいて、制動要求量Bsが演算される。例えば、制動操作量Ba、及び、要求減速度Gsが、車両減速度の次元で比較され、それらのうちで大きい方が制動要求量Bsとして決定される。制動要求量Bsは、制動制御装置SCに要求されるサーボ圧Pu(=Pw)を指示するための値である。
【0049】
更に、ステップS120では、制動要求量Bs、及び、演算マップZptに基づいて、目標圧Ptが演算される。「目標圧Pt」は、サーボ圧Pu(実際値)に対応する目標値である。目標圧Ptは、演算マップZptに応じて、制動要求量Bsが所定量bo未満の場合には「0」に演算される。そして、制動要求量Bsが所定量bo以上の場合には、制動要求量Bsが「0」から増加するに従い、目標圧Ptが「0」から増加するように演算される。ここで、「所定量bo」は、予め設定された所定値(定数)である。
【0050】
ステップS130にて、「主電源BTが正常であるか、否か」が判定される。該判定は、「適否判定」と称呼される。例えば、適否判定は、電源監視装置(非図示)から通信バスBSを通して送信される適否フラグFBに基づいて行われる。「FB=0」であり、主電源BTが正常である場合(第1状態の場合)には、加圧部CAの電源として、主電源BTが採用される。適否判定は肯定され、処理はステップS140に進められる。一方、「FB=1」であり、主電源BTが異常である場合(第2状態の場合)には、加圧部CAの電源として、主電源BTに代えて、補助電源BUが採用される。適否判定は否定され、処理はステップS160に進められる。
【0051】
適否判定は、電源電圧Vdに基づいて行われてもよい。電源電圧Vdは、加圧部CA(UA、MA等)に供給可能な電圧であり、電源電圧センサVDによって検出される。具体的には、主電源BTの適否は、「電源電圧Vdが所定電圧vd以上であるか、否か」に基づいて、電源電圧Vdが所定電圧vd以上の場合には第1状態が判定され、電源電圧Vdが所定電圧vd未満の場合には第2状態が判定される。ここで、所定電圧vdは、適否判定用のしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。「Vd≧vd」である場合に適否判定は肯定され、処理はステップS140に進められる。一方、「Vd<vd」の場合に適否判定は否定され、処理はステップS160に進められる。
【0052】
≪主電源BTからの給電時における動的加圧≫
主電源BTが正常である第1状態の場合(加圧部CAへの電力が主電源BTによって供給される場合)には、ステップS140、150にて、上記の動圧による加圧が実行される。
【0053】
ステップS140にて、目標圧Ptに基づいて、目標回転数Nt(目標値)が演算される。具体的には、目標圧Ptが大きいほど、目標回転数Ntが大きくなるよう、予め設定された演算マップに基づいて、目標回転数Ntが決定される。或いは、目標回転数Ntは、予め設定された所定値(定数)に決定されてもよい。そして、実際の回転数Naが、目標回転数Ntに近付き、一致するように、電気モータMAが駆動される。ここで、実際のモータ回転数Naは、モータ回転角Kaが時間微分されて決定される。
【0054】
ステップS150にて、目標圧Ptに基づいて、調圧弁UAの供給電流Iaに対応する目標電流It(目標値)が演算される。具体的には、予め設定された演算マップに基づいて、目標電流Itが、目標圧Ptが大きいほど、大きくなるように決定される。そして、供給電流センサIAの検出値である供給電流Iaが、目標電流Itに近付き、一致するように、電流フィードバック制御が実行される。
【0055】
更に、マスタ圧Pm(実際値)が目標圧Pt(目標値)に近付き、一致するように、調圧弁UAが制御される。具体的には、先ず、目標圧Pt、及び、マスタ圧Pmに基づいて、目標圧Ptとマスタ圧Pmとの偏差hP(「液圧偏差」という)が演算される(即ち、「hP=Pt-Pm」)。そして、液圧偏差hPに基づいて、調圧弁UAの目標電流Itが調整される。つまり、動的加圧における調圧弁UAの制御では、電流フィードバック制御(スレーブループ)に対して、マスタ圧Pmが目標圧Ptに近付き、一致するよう、マスタ圧Pmに基づくフィードバック制御(マスタループ)が加えられる。
【0056】
≪補助電源BUからの給電時における静的加圧≫
主電源BTが異常である第2状態の場合(加圧部CAへの電力が補助電源BUによって供給される場合)には、ステップS160、S170にて、上記の静圧による加圧が実行される。
【0057】
ステップS160にて、調圧弁UAに所定電流ia(予め設定された所定値)が供給され、調圧弁UAが閉弁される。所定電流iaの給電によって、調圧弁UAの完全閉弁状態が維持され、還流路HKでは、循環流KNが発生され得なくなる。
【0058】
ステップS170にて、目標圧Ptに基づいて、電気モータMAの供給電流Imに対応する目標電流In(目標値)が演算される。具体的には、予め設定された演算マップに基づいて、モータ目標電流Inが、目標圧Ptが大きいほど、大きくなるように決定される。そして、モータ電流センサIMの検出値である供給電流Imが、目標電流Inに近付き、一致するように、電流フィードバック制御が実行される。
【0059】
更に、マスタ圧Pm(実際値)が目標圧Pt(目標値)に近付き、一致するように、電気モータMAが制御される。具体的には、動的加圧の場合と同様に、目標圧Pt、及び、マスタ圧Pmに基づいて、目標圧Ptとマスタ圧Pmとの偏差hP(液圧偏差)が演算される(即ち、「hP=Pt-Pm」)。そして、液圧偏差hPに基づいて、電気モータMAの目標電流Inが調整される。つまり、静的加圧における電気モータMAの制御では、電流フィードバック制御(スレーブループ)に対して、マスタ圧Pmが目標圧Ptに近付き、一致するよう、マスタ圧Pmに基づくフィードバック制御(マスタループ)が加えられる。
【0060】
ステップS170では、電気モータMAが、回転角Kaに基づいて制御されてもよい。該制御では、電気モータMAの回転角Kaに対応する目標角Kn(目標値)が演算される。具体的には、予め設定された演算マップに基づいて、モータ目標角Knが、目標圧Ptが大きいほど、大きくなるように決定される。そして、回転角センサKAの検出値である回転角Kaが、モータ目標角Knに近付き、一致するように、回転角フィードバック制御が実行される。更に、上記同様に、液圧偏差hPに基づいて、モータ目標角Knが調整される。即ち、静的加圧における電気モータMAの制御では、回転角フィードバック制御(スレーブループ)に対して、マスタ圧Pmに基づく液圧フィードバック制御(マスタループ)が加えられたカスケード構成が採用される。
【0061】
制動制御装置SCでは、主電源BTにて駆動される場合(第1状態)には動的加圧が実行される。動的加圧は、調圧精度に優れるが、消費電力が課題になる。これは、循環流KNを継続的に発生させるよう、電気モータMAの駆動が継続されなければならないことに因る。そこで、制動制御装置SCでは、補助電源BUにて駆動される場合(第2状態)には、動的加圧に代えて、静的加圧が実行される。静的加圧では、流体ポンプQAから液圧室Ru(サーボ室)、Rwr(後輪ホイール室)への制動液BFの全量移動で加圧が行われるため、電気モータMAの電力消費が低減され得る。加えて、還流路HKには、逆止弁GCが設けられるので、液圧室Ru、Rwrは、調圧弁UA、及び、逆止弁GCによって流体ロック(液密で封止)される。このため、電気モータMAへの給電が完全に停止される状態(「Im=0」の状態)であっても、サーボ圧Pu(=Pwf、Pwr)は保持され得る。制動制御装置SCでは、補助電源BUの消費電力が抑制されるため、補助電源BUの容量が低減される。これにより、装置全体として小型化され得る。
【0062】
<制動制御装置SCの第2実施形態>
図3の模式図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る制動制御装置SCは、運転者による制動操作部材BPの操作に応じて、マスタシリンダCMからマスタ圧Pmが圧送される装置である。第1の実施形態ではブレーキバイワイヤ型が採用されるが、第2の実施形態ではこれが採用されない。従って、第2の実施形態では、制動操作部材BPの操作力Fpは、制動制御装置SC、制動装置SX等の剛性によって発生される。
【0063】
図3(特に、第2加圧部CB)には、特許文献1(特開2019-059294号公報)の下部流体ユニットYLが模式的に図示されている。加圧部CBは、アンチロックブレーキ制御(所謂、ABS制御)、横滑り防止制御(所謂、ESC)、及び、トラクション制御を実行するための汎用の装置である。図3には、マスタシリンダCMからホイールシリンダCWの一輪分に至るまでが示されている。
【0064】
第1の実施形態では、第1加圧部CAによって発生されるサーボ圧Pu(制御圧)が、前輪ホイールシリンダCWfでは、マスタシリンダCM/マスタピストンNMを介して、前輪ホイール圧Pwfとして供給され、後輪ホイールシリンダCWrでは、後輪ホイール室Rwfに直接供給された。第2の実施形態では、第2加圧部CBによって発生されるホイール圧Pw(「制御圧」に相当)が、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWr(=CW)の前輪、後輪ホイール室Rwf、Rwr(=Rw)(「液圧室」に相当)に直接供給される。以下、第1の実施形態との相違点を主に説明する。
【0065】
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態でも、車両には、制動操作部材BP、及び、制動装置SXが備えられる。また、車両には、主電源BT、及び、補助電源BUの2つの電力供給源が備えられる。制動制御装置SC(特に、コントローラEB、加圧部CB等)は、主電源BT、又は、補助電源BUから給電される。主電源BTからの給電時(即ち、主電源BTの正常時)が第1状態であり、補助電源BUからの給電時(即ち、主電源BTの異常時)が第2状態である。
【0066】
制動制御装置SCでは、アンチロックブレーキ制御、横滑り防止制御等に加え、自動制動制御が実行される。自動制動制御は、運転支援装置からの要求減速度Gsに基づいて、障害物との衝突を回避する、或いは、衝突時の被害を軽減するように、自動的に車両を減速するものである。加えて、自動制動制御では、外部操作デバイスによって指示された要求減速度Gsに基づいて、車両が減速される。制動制御装置SCは、制動操作量センサBA、マスタシリンダCM、第2加圧部CB(単に、「加圧部」ともいう)、及び、第2コントローラEB(単に、「コントローラ」ともいう)にて構成される。
【0067】
制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSPが採用される。また、制動操作量センサBAには、マスタシリンダCMのマスタ室Rmの液圧Pm(マスタ圧)を検出するマスタ圧センサPMが用いられる。制動操作量Baは、第2コントローラEBに入力される。
【0068】
マスタシリンダCMには、マスタピストンNMが挿入され、マスタ室Rmが形成される。マスタピストンNMには、制動操作部材BPが接続され、制動操作部材BPの操作に連動して、マスタピストンNMが移動される。マスタシリンダCM(特に、マスタ室Rm)とホイールシリンダCW(特に、ホイール室Rw)とは、連絡路HSによって接続される。マスタピストンNMの移動によって、マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに、マスタ圧Pmが、ホイール圧Pwとして供給される。マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間には、第2加圧部CBが設けられる。
【0069】
[第2加圧部CB]
第2加圧部CB(「加圧部」に相当)によって、マスタ圧Pmが、各ホイールシリンダCWで個別に調整(増減)され、ホイール圧Pwとして、ホイールシリンダCWのホイール室Rwに供給される。加圧部CBは、コントローラEBから給電されるが、上記同様に、第2の実施形態でも、主電源BT、補助電源BUの何れから電力が供給されるかで、加圧部CBの加圧方法が異なる。なお、主電源BTからコントローラEBに給電される状況が第1状態であり、補助電源BUからコントローラEBに給電される状況が第2状態である。第2加圧部CBは、第2電気モータMB、第2流体ポンプQB、第2調圧弁UB、調圧リザーバRB、インレット弁VI、調整圧センサPP、及び、アウトレット弁VOにて構成される。
【0070】
第2電気モータMB(単に、「電気モータ」ともいう)によって、第2流体ポンプQB(単に、「流体ポンプ」ともいう)が駆動される。電気モータMBには、回転子(ロータ)の第2回転角Kb(単に、「回転角」ともいう)を検出するよう、第2回転角センサKB(単に、「回転角センサ」ともいう)が設けられる。実際の回転角Kbは、コントローラEBに入力される。
【0071】
連絡路HSには、常開型の第2調圧弁UBが設けられる。第2調圧弁UB(単に、「調圧弁」ともいう)は、通電状態(例えば、供給電流Ib)に基づいて開弁量が連続的に制御されるリニア型の電磁弁である。調圧弁UBに対して、連絡路HSの上部Bm(マスタシリンダCMに近い側)と、連絡路HSの下部Bw(ホイールシリンダCWに近い側)と、が戻し路HT(流体路)にて接続される。戻し路HTには、第2流体ポンプQBが設けられる。加えて、戻し路HTにおいて、流体ポンプQBの吸入部Qjの側には調圧リザーバRBが設けられる。
【0072】
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態でも、流体ポンプQBにおいて、第2吸入部Qjと第2吐出部Qpとを接続する第2還流路HL(単に、「還流路」ともいう)が、連絡路HSの一部、及び、戻し路HTによって形成される。加えて、還流路HLの吐出部Qpの近傍には、逆止弁GCが設けられる。詳細には、還流路HL(特に、戻し路HT)において、吐出部Qpと調圧弁UBとの間に、逆止弁が配置される。換言すれば、還流路HLには、流体ポンプQB、逆止弁GC、調圧弁UB、及び、調圧リザーバRBが含まれている。そして、還流路HLは、調圧弁UBと逆止弁GCとの間で、連絡路HSによって、ホイールシリンダCWのホイール室Rwに接続される。
【0073】
連絡路HSにおいて、調圧弁UBの下部には、常開型のインレット弁VIが設けられる。調圧弁UBとインレット弁VIとの間の連絡路HSには、調圧弁UB等によって調整される液圧Pp(「調整圧」という)を検出するよう、調整圧センサPPが設けられる。インレット弁VIの下部で連絡路HSは、流体ポンプQBの吸入部Qjと調圧リザーバRBとの間の部位Bgで戻し路HT(即ち、還流路HL)に、減圧路HG(流体路)を介して接続される。減圧路HGには、常閉型のアウトレット弁VOが設けられる。インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOとして、オン・オフ型の電磁弁が採用される。インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOは、各ホイール圧Pwを個別に調節できるよう、ホイールシリンダCW毎に設けられる。
【0074】
≪第1状態における動的加圧≫
第1状態では、コントローラEB、及び、加圧部CBには、主電源BTから電力が供給される。第1状態では、上記同様に、動圧による加圧が行われる。このとき、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOには給電が行われない。従って、インレット弁VIは開弁され、アウトレット弁VOは閉弁されている。
【0075】
電気モータMBが駆動されると、流体ポンプQBによって、制動液BFが、調圧弁UBの上部Bmから吸い込まれ、調圧弁UBの下部Bwに吐出される。これにより、第2還流路HL(連絡路HS、戻し路HLにて構成され、単に、「還流路」ともいう)には、調圧リザーバRBを含んだ、制動液BFの第2循環流KL(破線矢印で示し、単に、「循環流」ともいう)が発生する。調圧弁UBによって、連絡路HSの流路が狭められ、制動液BFの循環流KLが絞られると、その際のオリフィス効果によって、調圧弁UBの下部Bwの液圧Pp(調整圧)が、調圧弁UBの上部の液圧Pm(マスタ圧)から増加される。換言すれば、循環流KLにおいて、調圧弁UBに対して、下流側の液圧Pm(マスタ圧)と上流側の液圧Pp(調整圧)との液圧差(差圧)が、調圧弁UBによって調整される。なお、マスタ圧Pmと調整圧Ppとの大小関係では、調整圧PpはマスタPm以上である(即ち、「Pp≧Pm」)。第1加圧部CAと第2加圧部CBとの相違は、サーボ圧Puが「0(大気圧)」から増加されるのに対し、調整圧Ppはマスタ圧Pmから増加されることである。しかしながら、第1状態において、調整圧Ppの増加方法は、サーボ圧Puの増加方法と同じ動的加圧である。
【0076】
≪第2状態における静的加圧≫
第2状態では、コントローラEB、及び、加圧部CBには、主電源BTに代えて、補助電源BUから電力が供給される。第2状態では、上記同様に、静圧による加圧が行われる。上記同様に、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOには給電が行われず、インレット弁VIは開弁され、アウトレット弁VOは閉弁されている。
【0077】
第2状態では、常開型の調圧弁UBに給電が行われて、調圧弁UBが完全に閉じられる。電気モータMBによって流体ポンプQBが駆動され、流体ポンプQBから制動液BFが吐出される。流体ポンプQBから吐出される制動液BFの全量は、ホイール室Rwに移動される。詳細には、制動液BFは、マスタシリンダCM(特に、マスタ室Rm)から流体ポンプQBに吸い込まれる。そして、吸い込まれた制動液BFの全量がホイール室Rwに吐出される。マスタ室Rmには、カップシールを介して、マスタリザーバRVから制動液BFが流入する。つまり、流体ポンプQBによって、制動液BFが、マスタリザーバRVからマスタシリンダCMを介してホイール室Rwに移動される。
【0078】
制動制御装置SC、及び、制動装置SXは剛性を有するので、流体ポンプQBから、液圧室Rwに流入される制動液BFの量(体積)が増加するに従い調整圧Pp(「制御圧」に相当)が順次増加する。調整圧Pp(即ち、ホイール圧Pw)が、所望の液圧(即ち、目標圧Pt)に達すると、電気モータMBの回転が停止され、流体ポンプQBからの制動液BFの吐出が終了される。このとき、逆止弁GC、及び、調圧弁UBの閉弁によって、ホイール室Rwは流体的にロックされる。このため、電気モータMBへの給電が停止されても、ホイール圧Pwは保持される。
【0079】
≪第2コントローラEB≫
第2コントローラEB(「制御部」に相当)によって、制動要求量Bsに基づいて、第2加圧部CBが制御される。具体的には、第2コントローラEBは、主電源BT、又は、補助電源BUを電力供給源として、第2電気モータMB、及び、第2調圧弁UBへの供給電力を調節する。第2コントローラEBは、第1コントローラEAと同様に、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRにて構成される。
【0080】
コントローラEBには、制動操作量Ba、調整圧Pp、回転角Kb、適否フラグFB、電源電圧Vd等が入力される。制動操作量Baとして、操作変位センサSPの検出信号Sp(操作変位)、及び、マスタ圧センサPMの検出信号Pm(マスタ圧)の信号が取得される。調圧弁UB、及び、電気モータMBを制御するために、調整圧Pp(調整圧センサPPの検出値)、及び、回転角Kb(回転角センサKBの検出値)が取得される。また、コントローラEBでは、要求減速度Gsが取得される。更に、コントローラEBでは、主電源BTの異常を識別するために、適否フラグFB(主電源BTの適否を表す制御フラグ)、及び、電源電圧Vd(電源電圧センサVDの検出値)が取得される。
【0081】
コントローラEBは、他のコントローラとの間で信号(検出値、演算値、制御フラグ等)を共有できるよう、通信バスBSに接続される。例えば、要求減速度Gsは、運転支援装置にて演算され、通信バスBSを介して、コントローラEBに送信される。或いは、制動操作部材BPとは異なる外部操作デバイスにて、要求減速度Gsが指示される。適否フラグFBは、電源監視装置から、通信バスBSを通して、コントローラEBに送信される。
【0082】
コントローラEB(特に、マイクロプロセッサMP)には、調圧制御のアルゴリズムがプログラムされている。第2の実施形態に係る調圧制御も、ホイール圧Pwを調節するための制御である。具体的には、図2において、[ ]にて示される。第2の実施形態でも、第1状態の場合には、ステップS140、S150にて動的加圧が実行される。一方、第2状態の場合には、ステップS160、S170にて静的加圧が実行される。動的、静的加圧の方法は、第1の実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0083】
更に、第2の実施形態では、アンチロックブレーキ制御、横滑り防止制御等が実行される場合には、常開型のインレット弁VI、及び、常閉型のアウトレット弁VOによって、各ホイールシリンダCWのホイール圧Pwが個別に調節される。ホイール圧Pwを減少するよう、インレット弁VIが閉弁され、アウトレット弁VOが開弁される。ホイールシリンダCWへの制動液BFの流入が阻止されるとともに、ホイールシリンダCW内の制動液BFが調圧リザーバRBに流出するので、ホイール圧Pwは減少される。ホイール圧Pwを増加するよう(但し、増加の上限は調整圧Ppまで)には、インレット弁VIが開弁され、アウトレット弁VOが閉弁される。制動液BFの調圧リザーバRBへの流出が阻止され、調圧弁UBからの調整圧PpがホイールシリンダCWに供給されるので、ホイール圧Pwが増加される。ホイール圧Pwを保持するためには、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが共に閉弁される。ホイールシリンダCWの液圧室Rwは流体的に封止されるので、ホイール圧Pwが一定に維持される。
【0084】
第2の実施形態でも、上記同様に、主電源BTにて駆動される場合(第1状態)には動的加圧が実行され、補助電源BUにて駆動される場合(第2状態)には静的加圧が実行される。静的加圧では、流体ポンプQBからホイール圧Pwへの制動液BFの全量移動で、ホイール圧Pwの加圧が行われるため、電気モータMBの電力消費が低減される。加えて、還流路HL(連絡路HSの一部と戻し路HT)には、逆止弁GCが設けられるので、流体室であるホイール室Rwは、調圧弁UB、及び、逆止弁GCによって流体的にロック(封止)される。このため、電気モータMBへの給電が完全に停止される状態であっても、ホイール圧Pwは保持され得る。従って、制動制御装置SCでは、上記同様に、補助電源BUの消費電力が抑制されるため、補助電源BUの容量が低減される。結果、装置全体が小型化される。
【0085】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、上記同様の効果(補助電源BUの省電力化、小型化等)を奏する。
【0086】
上述の第1の実施形態では、シングル型マスタシリンダCMが採用され、サーボ圧Puは、マスタシリンダCM/マスタピストンNMを介して前輪ホイール室Rwfに伝達され、後輪ホイール室Rwrには直接伝達された。これに代えて、タンデム型マスタシリンダCMが採用され、サーボ圧Puが、マスタシリンダCM/マスタピストンNMを介して前輪、後輪ホイール室Rwf、Rwrに伝達されてもよい。該構成では、2系統の制動系統として、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)が採用され得る。なお、第2の実施形態では、制動系統として、前後型、及び、ダイアゴナル型の何れが採用されてもよい。
【0087】
上述の第1の実施形態では、マスタ室Rmの受圧面積rm(マスタ面積)とサーボ室Ruの受圧面積ru(サーボ面積)とが等しく設定された。マスタ面積rmとサーボ面積ruとが異なる構成であっても、サーボ面積ruとマスタ面積rmとの比率に基づいて、マスタ圧Pmとサーボ圧Puとの変換演算が可能である。このため、マスタ面積rmとサーボ面積ruとは等しくなくてもよい。
【0088】
上述の第2の実施形態では、調整圧Ppを検出するよう、第2加圧部CBには、調整圧センサPPが設けられた。しかし、調整圧センサPPは省略されてもよい。これは、調整圧Pp(即ち、マスタ圧Pmと調整圧Ppと液圧差)は、第2調圧弁UBへの供給電Ibによって定まることに因る。
【0089】
<実施形態のまとめ>
以下、制動制御装置SCの実施形態についてまとめる。制動制御装置SCには、「車両のホイールシリンダCWのホイール圧Pwを増加する加圧部CA、CB」と、「加圧部CA、CBを駆動する制御部EA、EB」と、「制御部EA、EBに給電する主電源BT」と、「主電源BTが異常である場合に、主電源BTに代わって、制御部EA、EBに給電する補助電源BU」と、が備えられる。更に、制動制御装置SCの加圧部CA、CBには、「電気モータMA、MBによって駆動される流体ポンプQA、QB」と、「流体ポンプQA、QBの吐出部Qo、Qpと流体ポンプQA、QBの吸入部Qi、Qjとを接続する還流路HN、HL」と、「還流路HN、HLに設けられる調圧弁UA、UB」と、「吐出部Qo、Qpと調圧弁UA、UBとの間で還流路HN、HLに接続される液圧室Ru、Rw」と、が備えられる。制動制御装置SCでは、制御部EA、EBによって、液圧室Ru、Rwの制御圧Pu、Pwが増加されることでホイール圧Pwが増加される。ここで、「液圧室」には、第1の実施形態におけるサーボ室Ruが該当し、第1、第2の実施形態におけるホイール室Rwが該当する。また、「制御圧」には、第1の実施形態におけるサーボ圧Puが該当し、第1、第2の実施形態におけるホイール圧Pwが該当する。
【0090】
制動制御装置SCでは、主電源BTから給電される第1状態の場合には、電気モータMA、MBが駆動されて、還流路HK、HLに制動液BFの循環流KN、KLが発生される。そして、調圧弁UA、UBによって、循環流KN、KLが絞られること(即ち、還流路HK、HLの流路が狭められること)で制御圧Pu、Pwが増加される。つまり、第1状態では、制動液BFの動圧によって、制御圧Pu、Pwが増加される。制動液BFの液量収支では、流体ポンプQA、QBが吐出する制動液BFの量の大半は調圧弁UA、UBを通過するが、その一部が液圧室Ru、Rwに移動されることで、制御圧Pu、Pwが増加される。更に、制御圧Pu、Pwが一定で維持される場合には、流体ポンプQA、QBが吐出する制動液BFの全量が、調圧弁UA、UBを通して移動されて、循環流KN、KLとして循環する。何れにしても、第1状態では、制動時には、流体ポンプQA、QB(即ち、電気モータMA、MB)は回転を継続する。
【0091】
制動制御装置SCでは、補助電源BUから給電される第2状態の場合には、調圧弁UA、UBが閉弁される。そして、電気モータMA、MBが駆動されて、流体ポンプQA、QBから制動液BFが液圧室Ru、Rwに移動されることで制御圧Pu、Pwが増加される。つまり、第2状態では、制動液BFの静圧によって、制御圧Pu、Pwが増加される。制動液BFの液量収支では、流体ポンプQA、QBが吐出する制動液BFの全量が液圧室Ru、Rwに移動されることで、制御圧Pu、Pwが増加される。従って、制御圧Pu、Pwが一定で維持される場合には、流体ポンプQA、QB(即ち、電気モータMA、MB)の回転は停止される。なお、制御圧Pu、Pwの減少が必要な場合には、調圧弁UA、UBへの供給電流が減少され、調圧弁UA、UBが僅かに開弁される。
【0092】
制動制御装置SCでは、主電源BTで駆動される場合と補助電源BUで駆動される場合とで、制御圧Pu、Pw(最終的には、ホイール圧Pw)の加圧方法が切り替えられる。具体的には、主電源BTにて駆動される場合(第1状態)には、調圧精度に優れる動的加圧が採用される。動的加圧では、流体ポンプQA、QBが吐出する制動液BFの循環流KN、KLが、調圧弁(リニア型電磁弁)UA、UBによって絞られることで、ホイール圧Pwが増加される。しかしながら、動的加圧では、流体ポンプQA、QBは駆動され続けることが必要である。制動制御装置SCでは、その消費電力が抑制されるように、補助電源BUにて駆動される場合(第2状態)には、動的加圧から静的加圧に切り替えられる。静的加圧では、流体ポンプQA、QBから液圧室Ru、Rwに制動液BFが移動されることで、ホイール圧Pwが増加される。従って、第2状態の場合には、流体ポンプQA、QB(即ち、電気モータMA、MB)は必要な場合に限って駆動される。静的加圧は、動的加圧に比較して、消費電力が少ないので、補助電源BUが小型化される。つまり、制動制御装置SCでは、電力供給源の切り替えに応じて、加圧方式が適宜選択されるので、調圧精度の確保と消費電力の低減が両立される。
【0093】
更に、制動制御装置SCでは、還流路HK、HLに、逆止弁GCが設けられる。逆止弁GCでは、調圧弁UA、UBから吸入部Qi、Qjに向けた方向の制動液BFの流れは許容されるが、調圧弁UA、UBから吐出部Qo、Qpに向けた方向の制動液BFの流れが阻止される。つまり、循環流KN、KLの発生は許容されるが、その逆流が防止される。そして、第2状態の場合には、制御部EA、EBによって、制御圧Pu、Pwが目標圧Ptに達する時点で、電気モータMA、MBの回転が停止され、電気モータMA、MBへの給電が停止される。ここで、目標圧Ptは、車両の制動要求量Bsに応じて演算される。なお、第1状態の場合には、制御圧Pu、Pwが目標圧Ptに達する場合であっても、電気モータMA、MBの回転が継続されるよう、電気モータMA、MBへの給電は継続される。
【0094】
制動制御装置SCでは、第2状態の場合には、液圧室Ru、Rwは、逆止弁GCと調圧弁UA、UBとによって封止(流体ロック)される。このため、制御圧Pu、Pwは、調圧弁UA、UBが開弁されない限り、減少されることはない。従って、電気モータMA、MBへの給電が完全に停止されても、制御圧Pu、Pwは維持される。これにより、制動制御装置SCの省電力化が図られる。なお、電気モータMA、MBへの給電は、調圧弁UA、UB等の漏れを補償するためだけに必要とされる。
【符号の説明】
【0095】
SC…制動制御装置、BT…主電源、BU…補助電源、BP…制動操作部材(ブレーキペダル)、CW…ホイールシリンダ、CA、CB…加圧部、EA、EB…制御部(コントローラ)、CM…マスタシリンダ、NM…マスタピストン、UA、UB…調圧弁、MA、MB…電気モータ、QA、QB…流体ポンプ、Qi、Qj…流体ポンプの吸入部、Qo、Qp…流体ポンプの吐出部、HN、HL…還流路、PM…圧センサ、PP…調整圧センサ、Pt…目標圧、Pu…サーボ圧(制御圧の一例)、Pm…マスタ圧、Pp…調整圧、Pw…ホイール圧(制御圧の一例)、Bs…制動要求量、Ba…制動操作量、Gs…要求減速度、Ru…サーボ室(液圧室の一例)、Rw…ホイール室(液圧室の一例)、Rm…マスタ室。


図1
図2
図3