(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110729
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】シフトレバー
(51)【国際特許分類】
B60K 20/02 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
B60K20/02 A
B60K20/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012336
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 陽
(72)【発明者】
【氏名】武永 洋介
(72)【発明者】
【氏名】道永 旦
(72)【発明者】
【氏名】西茂 圭太
(72)【発明者】
【氏名】小幡 哲也
【テーマコード(参考)】
3D040
【Fターム(参考)】
3D040AA03
3D040AA14
3D040AA22
3D040AA33
3D040AB01
3D040AC02
3D040AC03
3D040AC13
3D040AC59
(57)【要約】
【課題】ボタンの押込み操作の操作力の設計自由度を高める。
【解決手段】シフトレバー1は、レバー本体2とシフトノブ4とを備える。レバー本体2は、レバーシャフト10とその内部に配置されるプッシュロッド12とを備え、シフトノブ4は、後方に押込み操作を受けるロック解除ボタン20と、このボタン20を保持するホルダ部材30と、ボタン20の押込み操作方向の運動をプッシュロッド12の運動に変換するスライダ40(変換部材)とを備える。スライダ40は、ボタン20により押圧されることにより当該スライダ40を移動させる被押圧面42を備え、この被押圧面42は、ボタン20の押込み操作量に対してプッシュロッド12の移動量を非線形的に変化させる曲面からなる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レバー本体と、その先端部に備えられたシフトノブとを備え、車両の自動変速機のレンジを切換えるための操作を受けるシフトレバーであって、
前記レバー本体は、レバーシャフトと、当該レバーシャフトの内部に配置されて前記先端部に向かって付勢されるプッシュロッドと、を備え、
前記シフトノブは、前記プッシュロッドと交差する方向に押込み操作を受ける、ロック解除用のボタンと、前記レバーシャフトに固定されて前記ボタンを保持するホルダ部材と、前記プッシュロッドの先端部に当接して当該プッシュロッドの軸方向にスライド可能となるように前記ホルダ部材に保持され、前記ボタンの押込み操作方向の運動を前記軸方向の運動に変換して前記プッシュロッドを移動させる変換部材と、を備え、
前記変換部材は、前記押込み操作を受けた前記ボタンにより押圧されることにより当該変換部材を前記軸方向に移動させる被押圧面を備え、
前記被押圧面は、前記ボタンの押込み操作量に対して前記プッシュロッドの移動量を非線形的に変化させる曲面からなる、ことを特徴とするシフトレバー。
【請求項2】
請求項1に記載のシフトレバーにおいて、
前記被押圧面は、断面形状が湾曲した湾曲面からなる、ことを特徴とするシフトレバー
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシフトレバーにおいて、
前記ボタンの押込み操作初期は、終期に比べて、一定のボタン操作量に対するプッシュロッドの移動量が大きくなるように前記被押圧面が形成されている、ことを特徴とするシフトレバー
【請求項4】
請求項3に記載のシフトレバーにおいて、
前記被押圧面は、断面形状が円弧の円弧面からなる、ことを特徴とするシフトレバー。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のシフトレバーにおいて、
前記変換部材は、前記プッシュロッドの先端部が当接する当接面を備え、
前記当接面は、前記プッシュロッドが前記押込み操作方向に沿った一定方向に向かって押圧されるように、前記プッシュロッドと直交する面に対して傾斜した傾斜面からなる、ことを特徴とするシフトレバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の自動変速機の切換え操作を行うためのシフトレバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機を備える自動車には、P(パーキング)レンジとその他のレンジとの切換えを行うためのシフトレバーが設けられる。シフトレバーは、シフト装置から上方に延びるレバー本体と、その上端部に備えられたシフトノブとを有する。運転者はシフトノブを把持してシフトレバーを操作する。
【0003】
シフトノブには、ロック解除ボタン(以下、単にボタンと称す)が備えられている。このボタンの押込み操作により、シフトレバーのロックが解除されて、レンジの切換えが可能となる。概略的には、レバー本体は、レバーシャフトと、その内部に配置されるプッシュロッド(ディテントロッドとも呼ばれる)とを備え、シフトノブのボタンの押込み操作に連動してプッシュロッドが下降する。これによりシフトレバーのロックが解除される。一方、ボタンから手を離すと、ばね部材の付勢力によりプッシュロッドが元の位置に上昇し、選択されたレンジのポジションにシフトレバーがロックされる。
【0004】
例えば、シフトノブの前側にボタンが配置されたシフトレバーでは、後方へのボタンの押込み操作をプッシュロッドの下向きの移動に変換する機構がシフトノブに組み込まれている。特許文献1には、そのような機構を備えたシフレバーが開示されている。
【0005】
特許文献1のシフトレバーは、プッシュロッドの上部に後上がりの傾斜面(傾いた平面)が設けられており、当該傾斜面にボタンが当接するように構成されている。つまり、ボタンが押込み操作を受けて後方に移動すると、前記傾斜面を介してプッシュロッドが下向きに押圧され、その結果、プッシュロッドが下降する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される従来のシフトレバーでは、ボタンの操作量に応じてプッシュロッドの移動量が線形的に変化し、ボタンの操作力(操作荷重)も一定の割合で増加する。
【0008】
ボタンの操作ストロークはシフトノブの構造上自ずと制限があり、決まった操作ストローク内でプッシュロッドに求められる規定の移動量を確保する場合、傾斜面の勾配はある程度制限される。そのため、従来のシフトレバーでは、ボタンの操作力の設計にも自ずと限界があり、所望の操作力を達成できない場合がある。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ボタンの押込み操作の操作力の設計自由度を高めることが可能なシフトレバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一局面に係るシフトレバーは、レバー本体と、その先端部に備えられたシフトノブとを備え、車両の自動変速機のレンジを切換えるための操作を受けるシフトレバーであって、前記レバー本体は、レバーシャフトと、当該レバーシャフトの内部に配置されて前記先端部に向かって付勢されるプッシュロッドと、を備え、前記シフトノブは、前記プッシュロッドと交差する方向に押込み操作を受ける、ロック解除用のボタンと、前記レバーシャフトに固定されて前記ボタンを保持するホルダ部材と、前記プッシュロッドの先端部に当接して当該プッシュロッドの軸方向にスライド可能となるように前記ホルダ部材に保持され、前記ボタンの押込み操作方向の運動を前記軸方向の運動に変換して前記プッシュロッドを移動させる変換部材と、を備え、前記変換部材は、前記押込み操作を受けた前記ボタンにより押圧されることにより当該変換部材を前記軸方向に移動させる被押圧面を備え、前記被押圧面は、前記ボタンの押込み操作量に対して前記プッシュロッドの移動量を非線形的に変化させる曲面からなる、ことを特徴とする。
【0011】
このシフトレバーの構成によれば、ボタンの押込み操作量に対するプッシュロッドの移動量を被押圧面の曲面形状に応じて変化させることが可能となる。換言すると、目標とするボタンの操作力に応じて曲面形状を選定することにより、所望の操作力を達成することが可能となる。従って、ボタンの押込み操作の操作力の設計自由度が向上する。
【0012】
この場合、前記被押圧面は、断面形状が湾曲した湾曲面とすることができる。この構成によれば、運転者に違和感を与えることなく、プッシュロッドの移動量をボタンの押込み操作に応じて非線形的に変化させるが可能となる。
【0013】
なお、上記シフトレバーにおいて、前記ボタンの押込み操作初期は、終期に比べて、一定のボタン操作量に対するプッシュロッドの移動量が大きくなるように前記被押圧面が形成されているのが好適である。
【0014】
この構成によれば、プッシュロッドの付勢力が比較的小さい、ボタンの押込み操作初期のプッシュロッドの移動量が大きくなるため、プッシュロッドの規定の移動量を確保しながら、ボタンの押込み操作力(最大操作力)を低く抑えることが可能となる。
【0015】
このようなボタンの押込み操作量とプッシュロッドの移動量との関係は、例えば被押圧面を、断面形状が円弧の円弧面とすることにより、具現化することが可能となる。
【0016】
上記シフトレバーにおいて、前記変換部材は、前記プッシュロッドの先端部が当接する当接面を備え、前記当接面は、前記プッシュロッドが前記押込み操作方向に沿った一定方向に向かって押圧されるように、前記プッシュロッドと直交する面に対して傾斜した傾斜面からなるのが好適である。
【0017】
この構成によれると、レバーシャフト内においてプッシュロッドが常時前記一定方向の壁面に押付けられる。そのため、プッシュロッドの挙動が安定し、レバーシャフトの内壁面にプッシュロッドが衝突して異音が発生することが抑制乃至防止される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のシフトレバーによれば、ボタンの押込み操作の操作力の設計自由度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るシフトレバーの側面図(左側面図)である。
【
図4】カバーが取り外された状態のシフトノブを上方から視た斜視図である。
【
図6】シフトノブの要部断面図(プッシュロッドを含む断面図)である。
【
図7】シフトノブの要部断面図(プッシュロッドが省略された断面図)である。
【
図8】ボタン操作によるプッシュロッドの動作を説明するシフトレバーの断面図である。
【
図9】ボタンの操作力(操作荷重)と操作ストロークとの関係を示すグラフである。
【
図10】プッシュロッド先端部形状の変形例を示す斜視図である。
【
図11】従来のシフトレバーの構成を示す要部模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0021】
[シフトレバー1の全体構成]
図1~
図3は、本発明に係るシフトレバー1を示しており、
図1は側面図(左側面図)で、
図2は断面図で、
図3は分解斜視図で各々シフトレバー1を示している。
【0022】
シフトレバー1は、自動変速機を備える自動車において、運転席と助手席との間のセンターコンソールに配置されている。なお、以下の説明で用いる、前後、左右、上下の各方向は、このようにシフトレバー1が自動車のセンターコンソールに配置された状態を基準とする。
【0023】
シフトレバー1は、上下方向に延びるレバー本体2と、その上端部(先端部)に組付けられたシフトノブ4とを備える。シフトレバー1の下端部は、図外のシフト装置に揺動可能に接続されている。運転者がシフトレバー1を揺動操作することにより、前記シフト装置により、例えばP(パーキング)レンジ、R(後退)レンジ、N(ニュートラル)レンジ及びD(ドライブ)の間でレンジの切換えが行われる。なお、レンジの種類は、これらには限定されない。
【0024】
レバー本体2は、前記シフト装置に揺動可能に接続された、金属又は樹脂製のレバーシャフト10と、その内部に配置された、金属又は樹脂製のプッシュロッド12と、当該プッシュロッド12を付勢する図外の圧縮コイルばねとを備える。なお、プッシュロッド12は、ディテントロッドと称されることもある。
【0025】
レバーシャフト10は、その中心に、軸方向に延びる断面円形のシャフト孔10aを備えた筒状の軸体である。プッシュロッド12は、断面円形の軸体であり、レバーシャフト10のシャフト孔10a内に移動可能に保持され、前記圧縮コイルばねによって上向きに付勢されている。
【0026】
プッシュロッド12は、前記シフト装置内に備えられた図外のディテント機構部に係脱可能に構成されている。具体的には、プッシュロッド12は、圧縮コイルばねの付勢力に抗して押し下げられることによりディテント機構部に係合し、圧縮コイルばねの付勢力により押し上げられることによりディテント機構部との係合が解除されるように構成されている。ディテント機構は、プッシュロッド12が係合した状態では、レバー本体2の揺動を阻止し、当該係合状態が解除された状態では、レバー本体2の揺動を許容するように構成されている。つまり、プッシュロッド12がディテント機構部に係合した状態では、選択されたレンジのポジションにシフトレバー1がロックされ、当該係合状態が解除されることにより、シフトレバー1によるレンジの切換え操作が可能となる。
【0027】
シフトノブ4は、レンジの切換え操作の際に運転者が把持する部分であり、既述の通り、レバー本体2の上端部に組付けられている。シフトノブ4は、そのベースとなるホルダ部材30と、シフトレバー1の前記ロックを解除するためのロック解除ボタン20と、このロック解除ボタン20(以下、ボタン20と略す)の操作に連動して前記プッシュロッド12を移動させるためのスライダ40と、カバー類とを備える。
【0028】
ホルダ部材30は、上下方向にやや細長い概略四角柱の樹脂製のブロック状部材である。ホルダ部材30の下部中央には、当該ホルダ部材30の下面に開口する、上下方向に延びた嵌合孔31が形成されている。この嵌合孔31にレバー本体2の上端部が嵌入されている。ホルダ部材30とレバーシャフト10とは図外の固定ばねで固定されている。これによりホルダ部材30がレバー本体2の上端部に組付けられている。
【0029】
ボタン20は、レンジの切換え操作の際に運転者により押込み操作を受ける部分であり、シフトノブ4の前側に配置されている。
【0030】
ボタン20は、
図2に示すように、前方に向かってやや尖った左右方向に延びる三角柱状の形状を有する。ボタン20は、ホルダ部材30の前面部分に揺動可能に支持されている。具体的には、ボタン20の後側下部に、後方に向かって突出するプレート状の凸部21が設けられ、この凸部21がホルダ部材30の前面に突設された左右一対の取付部36の間に配置されている。そして、これら一対の取付部36に対して凸部21が軸22により連結されている。
【0031】
この構成により、ボタン20は、その後側下部(軸22)を支点として前後方向に揺動可能な状態、つまり後方に押込み可能な状態でホルダ部材30に支持されている。
【0032】
ボタン20の後側上部(凸部21の上方)には、後方に向かって突出する押圧部24がさらに設けられている。押圧部24は、ボタン20が押込み操作を受けたときにスライダ40を押圧する部分である。
【0033】
押圧部24の先端部は、ホルダ部材30の前面に形成された開口部37を通じて、ホルダ部材30の後記ガイド凹部32内に挿入されている。押圧部24の先端部には押圧ローラ25が設けられており、押圧部24は、この押圧ローラ25を介してスライダ40を押圧する。
【0034】
前記軸22には、ねじりコイルばね23が装着されており、ボタン20は、このねじりコイルばね23の弾発力により、ホルダ部材30に対して前方に向かって付勢されている。正確には、軸22を中心として反時計回り(
図2において反時計回り)に付勢されている。
【0035】
なお、押圧部24の先端部分には、開口部37の上側縁部にガイド凹部32の内側から係合するストッパ部24aが設けられている。ボタン20は、
図2に示すように、このストッパ部24aが開口部37の上縁部に係合する位置がホームポジションである。押込み操作を受けないときには、ボタン20は、ねじりコイルばね23の付勢力により、このホームポジションに保持される。
【0036】
スライダ40は、ボタン20の押込み操作方向の運動を前記プッシュロッド12の軸方向の運動に変換するための変換部材であり、当例では、ボタン20の後方への運動をプッシュロッド12の下向きの運動に変換する。
【0037】
図4は、シフトノブ4(カバー類が取り外された状態)を上方から視た斜視図であり、
図5は、スライダ40の斜視図である。また、
図6(a)及び
図7は、シフトノブ4の要部断面図であり、何れもボタン20が押圧操作を受ける前の状態を示している。なお、
図7ではプッシュロッド12が省略されている。
【0038】
スライダ40は、
図2、
図4及び
図6~
図7に示すように、ホルダ部材30に形成されたガイド凹部32内にスライド可能に配置されている。ガイド凹部32は、ホルダ部材30の上面に形成された下向きに凹むガイド穴である。ガイド凹部32の内底面には前記嵌合孔31が開口しており、この開口から前記プッシュロッド12の上端部12aからガイド凹部32内に突出している。
【0039】
スライダ40は、
図5に示すように、前側から順番に、被押圧部41、前側ガイド部44及び後側ガイド部46を備えている。前側ガイド部44は、被押圧部41及び後側ガイド部46よりも左右両側に突出している。その結果、スライダ40は、平面視において概略十字状の形状を有している。
【0040】
被押圧部41は、ボタン20が押圧操作を受けることにより、当該ボタン20により押圧される部分である。被押圧部41には、被押圧面42が設けられており、
図2、
図6(a)及び
図7に示すように、この被押圧面42に対してボタン20の押圧部24(押圧ローラ25)が上側から当接している。なお、押圧部24は、既述の通り、開口部37を介してホルダ部材30の前方からガイド凹部32内に挿入されている。
【0041】
被押圧面42は、前側から後側に向かって先上がりに形成されている。従って、ボタン20が押込み操作を受けて後方に移動すると、スライダ40がガイド凹部32に沿って押し下げられる。
【0042】
被押圧面42は、ボタン20の押込み操作量に対してスライダ40の移動量が非線形的に変化するように、すなわちプッシュロッド12の移動量が非線形的に変化するように湾曲面(断面形状が湾曲した面)で形成されている。当例では、ボタン20の押込み操作の主に前半は、主に後半に比べて、一定のボタン操作量に対するプッシュロッド12の移動量が大きくなるように、被押圧面42が、後方に向かって先上がりに湾曲する湾曲面で形成されている。具体的には、被押圧面42は、円弧面(断面が円弧形状の面)により形成されており、当例では、例えば、プッシュロッド12の中心軸Ax1上に中心を有する半径Rの円弧面により被押圧面42が形成されている。被押圧面42を形成する円弧面の半径は、ボタン20の操作ストロークと当該ボタン20の操作力(操作荷重)との関係に基づき設定される。
【0043】
なお、被押圧面42とは、押圧部24(押圧ローラ25)が実際に当接してスライダ40を押圧する面であり、
図6(b)の矢印で示す両領域が被押圧面42である。
図6(b)は、被押圧面42の部分を示す、
図6(a)の要部拡大図である。
【0044】
当例では、被押圧面42は、スライダ40のうち、プッシュロッド12の中心軸Ax1の位置よりも前側(ボタン20の反押込み方向側)の領域に設けられている。従って、ボタン20は、スライダ40のうち、プッシュロッド12の中心軸Ax1よりも前側の領域のみを押圧する。
【0045】
被押圧部41には、当該被押圧面42を挟むように左右一対の側壁部43がさらに設けられている。これらの側壁部43は、押圧部24の位置を規制する部分である。これら側壁部43により、ボタン20とスライダ40とが相互に左右方向に位置決めされている。
【0046】
前側ガイド部44は、被押圧部41の後側に位置し、既述の通り、被押圧部41よりも左右両側に突出している。これらの突出部分には、各々ガイドローラ45が備えられている。また、後側ガイド部46は、前側ガイド部44を挟んで、被押圧部41の反対側(後側)に設けられており、後側ガイド部46にも前側ガイド部44と同様のガイドローラ47が備えられている。各ガイドローラ45、47は、共に、左右方向に延びる軸回りに回転自在に設けられている。
【0047】
図5、
図6(a)及び
図7に示すように、前側ガイド部44のガイドローラ45と、後側ガイド部46のガイドローラ47とは、互いに上下方向にオフセットされている。具体的には、後側ガイド部46のガイドローラ47は、前側ガイド部44のガイドローラ45に対して下方(レバーシャフト10側)に位置するように配置されている。
【0048】
つまり、前側ガイド部44のガイドローラ45と後側ガイド部46のガイドローラ47とは、前後方向、上下方向、及び左右方向に互いにオフセットされている。なお、以下の説明では、前側ガイド部44のガイドローラ45を「前側ガイドローラ45」と称し、後側ガイド部46のガイドローラ47を「後側ガイドローラ47」と称する場合がある。
【0049】
スライダ40は、ガイドローラ45、47及びそれらの支持軸を除く全体が樹脂製の本体パーツ40Pにより一体に成形されており、この樹脂製の本体パーツ40Pに対して金属製の前記ガイドローラ45、47等が組込まれることにより構成されている。この場合、
図5に示すように、前側ガイドローラ45は、その一部が本体パーツ40Pから前側に露出し、後側ガイドローラ47は、その一部が本体パーツ40Pから後側に露出するように設けられている。
【0050】
スライダ40(本体パーツ40P)の下面には、上向きに凹む凹部48が設けられている。凹部48の奥端面(天井面)は、プッシュロッド12の当接面48aである。
図6(a)に示すように、圧縮コイルばねの弾発力により上向きに付勢されたプッシュロッド12の上端部12aがこの当接面48aに当接している。従って、ボタン20の押込み操作を受けてスライダ40が押し下げられると、圧縮コイルばねの弾発力に抗してプッシュロッド12が下向きに移動する。すなわち、スライダ40は、ボタン20の後方への運動をプッシュロッド12の下向きの運動に変換する。
【0051】
図2及び
図6(a)に示すように、当例では、プッシュロッド12の上端部12aは球状であり、従って、プッシュロッド12は当接面48aに対して点接触している。また、当接面48aは、前側から後側に向かって先上がりに傾斜している。具体的には、
図6(a)に示すように、当接面48aと、プッシュロッド12の中心軸Ax1と直交する仮想平面との成す角度θが、0°<θ<11°となるように、当接面48aが形成されている。当例では、θ=5.5°となるように、当接面48aが形成されている。この構成により、プッシュロッド12は、
図6(a)中の白抜き矢印で示すように、常時、スライダ40から後向きに押圧されるようになっている。つまり、前記当接面48aは、プッシュロッド12が後向き(ボタン20の押込み操作方向に沿った一定方向)に押圧されるように、プッシュロッド12と直交する仮想平面に対して傾斜した傾斜面で形成されている。
【0052】
ホルダ部材30の前記ガイド凹部32は、
図4に示すように、スライダ40の平面輪郭に対応した、断面略十字形状に形成されている。具体的には、ガイド凹部32は、前後方向に細長い断面長方形の主凹部33と、この主凹部33の左右の内壁面に形成された溝部34とを有する。
【0053】
スライダ40は、溝部34内に前側ガイド部44が位置し、それ以外の部分が主凹部33内に位置する状態でガイド凹部32内に配置されている。そして、
図4及び
図6(a)に示すように、前側ガイドローラ45が溝部34の前側面34a(前側ガイド面34aという)に、後側ガイドローラ47が主凹部33の後側面33a(後側ガイド面33aという)に各々当接している。この構成により、スライダ40が上下方向にスライド可能な状態でホルダ部材30に保持されている。
【0054】
シフトノブ4のカバー類は、ホルダ部材30に組付けられてその表面(外郭)を形成する部材である。
図3に示すように、カバー類は、例えば右カバー50R、左カバー50L、中央カバー50C及び下カバー50Dを含む。右カバー50Rは、シフトノブ4の主に右側領域の表面を形成し、左カバー50Lは、シフトノブ4の主に左側領域の表面を形成する。また、中央カバー50Cは、右カバー50Rと左カバー50Lとの間に配置されて、シフトノブ4の上部中央から後部中央に亘る部分の表面を形成する。また、下カバー50Dは、シフトノブ4におけるレバー本体2との連結部分の表面を形成する。
【0055】
[シフトレバー1の作用効果]
図8は、ボタン20の押込み操作によるプッシュロッド12の動作を説明するシフトレバー1の断面図である。
図8(a)は、ボタンの押込み操作途中の状態、
図8(b)は、ボタンの押込み操作終了時点の状態を各々示している。
【0056】
自動変速機のレンジを変更する場合、運転者は、レバー本体2を把持し、ボタン20を後方に押込み操作する。これにより、シフトレバー1のロックを解除する。ホームポジション(
図6(a)に示す位置)からボタン20を後方へ押込むと、
図8(a)に示すように、押圧部24(押圧ローラ25)がボタン20の被押圧面42に沿って後方に移動しながら当該スライダ40を下方に押し下げる。このスライダ40の移動と共にプッシュロッド12が下方に移動する。
【0057】
ボタン20が完全に押込まれると、すなわち、ボタン20がホームポジションから操作ストローク端まで移動すると、
図8(b)に示すように、プッシュロッド12が下降端まで移動し、シフトレバー1のロックが解除される。従って、運転者は、シフトレバー1を揺動操作することにより、自動変速機のレンジの切換えを行うことが可能となる。
【0058】
運転者がボタン20から手を離すと、圧縮コイルばねによる付勢力によりプッシュロッド12が上昇し、このプッシュロッド12の上昇と共にスライダ40及びボタン20が元の位置にリセットされる。これにより、選択されたレンジのポジションにシフトレバー1がロックされる。
【0059】
以上のような一連のシフトレバー1の操作において、上記シフトレバー1によると次のような効果がある。
【0060】
まず、上記シフトレバー1では、スライダ40の被押圧面42が、プッシュロッド12の中心軸Ax1の位置よりも前側に設けられており、プッシュロッド12の上端部12aを支点としてスライダ40に働く回転モーメントMの方向が、ボタン20の押込み開始から押込み終了まで常に同じ方向に保たれる。具体的には、
図6(a)及び
図8に示すように、シフトレバー1の左方からの側面視において、回転モーメントMの方向は常に反時計回りとなる。そのため、スライダ40を安定した姿勢で移動させることができる。以下、この点について
図11を参照しながら説明する。
【0061】
図11は、従来のシフトレバーの構成を示す要部模式図である。従来のシフトレバーでは、スライダ400の被押圧面420は、プッシュロッド120の中心軸Ax1を前後方向に跨ぐように延びる傾斜面であり、被押圧面420に対するボタンの当接位置200が、当該ボタンの押込み操作に伴い、中心軸Ax1の位置の前側から後側へと移動する。この場合、ボタンの当接位置200が中心軸Ax1の位置よりも前側にあるとき(主にボタン操作の前半)には、スライダ400に反時計周りの回転モーメントM1が働く。そして、ボタンの当接位置200が中心軸Ax1の位置よりも後側にあるとき(主にボタン操作の後半)には、スライダ400に時計周りの回転モーメントM2が働く。回転モーメントM1、M2が働くことによりスライダ400には、摺動隙間の範囲内で前後方向に傾きが生じ、さらに回転モーメントの方向が反転することで、その傾き方向が変化する。つまり、中心軸Ax1の位置が思案点となる。その結果、スライダ400と図外のホルダ部材とが衝突して異音(衝突音)が発生する場合がある。
【0062】
しかし、上記シフトレバー1によれば、既述の通り、スライダ40に働く回転モーメントMの方向は、ボタン20の押込み開始から終了まで同じであり、回転モーメントMの方向が反転しない。
【0063】
しかも、上記シフトレバー1によれば、スライダ40が傾くこと自体が高度に抑制乃至防止される。すなわち、スライダ40には、ガイド凹部32の前側ガイド面34aに当接する前側ガイドローラ45が設けられるとともに、後側ガイド面33aに当接する後側ガイドローラ47が設けられている。そして、前側ガイドローラ45は、後側ガイドローラ47に対して上方にオフセットされている。そのため、ボタン操作によって
図6(a)に示すような回転モーメントMが働くと、スライダ40は、前側ガイド面34aと後側ガイド面33aとの間でその姿勢が拘束され、前後方向に傾く余地が無い。加えて、前側ガイドローラ45と後側ガイドローラ47が左右にオフセットされていることで、プッシュロッド12の中心軸Ax1回りにスライダ40が傾くことも抑制乃至防止される。
【0064】
従って、上記シフトレバー1によれば、ボタン20の押込み操作時に、スライダ40をより安定した姿勢で移動させることが可能であり、これにより、スライダ40とホルダ部材30(ガイド凹部32の内側面)とが衝突して異音(衝突音)が発生することが未然に防止される。
【0065】
また、スライダ40は、既述の通り、ガイド凹部32の内側面(後側ガイド面33a、前側ガイド面34a)にガイドローラ45、47を接触させながら移動する構成のため、スライダ40をより円滑に移動させることができ、ボタン20の押込み操作時の操作フィーリングが向上する。
【0066】
また、上記シフトレバー1では、スライダ40によりプッシュロッド12が常時後向きに押圧されるため(
図6(a)の白抜き矢印)、ボタン20の操作時、プッシュロッド12は、
図6(a)及び
図8に示すように、シャフト孔10aの常に後側の内壁面に押付けられた状態で移動する。
【0067】
そのため、ボタン操作時にプッシュロッド12の挙動が安定し易く、プッシュロッド12がシャフト孔10a内で径方向に不安定に移動し、当該シャフト孔10aの内壁面に衝突して異音(衝突音)が発生することが防止される。
【0068】
この場合、上記シフトレバー1では、当接面48aとプッシュロッド12とが点接触するように、プッシュロッド12の上端部12aが球状に形成されているので、プッシュロッド12が受ける操作荷重の方向が、スライダ40の製造誤差等(製造公差のばらつき等)の影響を受難い。従って、プッシュロッド12を確実に後方に向かって押圧することができ、その結果、プッシュロッド12の挙動がより高度に安定する。
【0069】
また、上記シフトレバー1では、スライダ40の被押圧面42が後方に向かって先上がりに湾曲する湾曲面で形成されている。そのため、スライダの被押圧面が傾斜面で形成されている従来のシフトレバー(
図11参照)に比べて、ボタン20の操作力の設計自由度が高く、ボタン20の操作力を、従来のシフトレバーに比して低く設定することができるという利点もある。以下、この点について
図9を用いて説明する。
【0070】
図9は、ボタンの操作力と操作ストロークとの関係を示すグラフである。破線は従来構造のシフトレバーを、実線は上記シフトレバー1を示している。ボタンの操作ストローク及びプッシュロッドの規定移動量(ロック解除に必要な移動)は何れも同じである。
【0071】
スライダの被押圧面が傾斜面からなる従来のシフトレバーでは、ボタンの操作量に応じてプッシュロッドの移動量が線形的に変化し、
図9に示す通り、ボタンの操作力(操作荷重)も一定の割合で増加する。ボタンの操作ストロークはシフトノブの構造上自ずと制限があり、決まった操作ストローク内でプッシュロッドの規定移動量を確保する場合、傾斜面の勾配はある程度制限される。そのため、従来構造のシフトレバーでは、操作力を低くするにも自ずと限界があり、操作力の設定自由度が低い。
【0072】
これに対して、上記シフトレバー1のように、スライダ40の被押圧面42を湾曲面とした場合には、ボタンの操作量に対してプッシュロッド12の移動量を非線形的に変化させることができる。そのため、目標とする操作力に応じて湾曲面の形状を選定することにより、所望の操作力を達成することが可能となる。
【0073】
上記シフトレバー1では、既述のような円弧面により被押圧面42が形成されている。この構成によれば、ボタン20の押込み操作の過程において、圧縮コイルばねによる付勢力が相対的に小さい操作初期のプッシュロッド12の移動量が、前記付勢力が相対的に大きくなる操作終期のプッシュロッド12の移動量に比して大きくなる。その結果、
図9に示すように、ボタン20の最大操作力、すなわち、押込み操作終了時点の操作力を、従来構造のシフトレバーに比して低く抑えることが可能となる。
【0074】
図9では、上記シフトレバー1におけるボタン20の操作初期の操作力が、従来構造のシフトレバーに比して大きくなっている。これは、被押圧面42(円弧面)のうち、操作初期に対応する部分の勾配が、従来構造(傾斜面)に比して大きいためである。なお、上記シフトレバー1では、このように、操作初期の操作力が高く、操作終期の操作力が低くなる結果、
図9に示すように、操作開始時と操作終了時の操作力の差FD1が、従来構造のシフトレバーの同操作力の差FD2に比べて小さくなる。つまり、上記シフトレバー1によれば、操作開始から操作終了まで、運転者は、より一定に近い操作力でボタン20を操作することが可能となる。従って、この点で、ボタン20の操作性が向上するという利点もある。
【0075】
[変形例等]
以上説明したシフトレバー1は、本発明に係るシフトレバーの好ましい実施形態の例示であって、その具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。例えば、以下のような構成も本発明の範疇と言える。
【0076】
(1)上記シフトレバー1のスライダ40は、被押圧面42がプッシュロッド12の中心軸Ax1よりも前側にのみ設けられた構成である。しかし、従来のシフトレバーのように、プッシュロッド12の中心軸Ax1を跨いで前後方向に被押圧面42が延在する構成であってもよい。但し、ガイド凹部32に沿ってスライダ40をより安定的に移動させるには、実施形態のように、被押圧面42は、プッシュロッド12の中心軸Ax1よりも前側にのみ設けられているのが望ましい。
【0077】
(2)上記シフトレバー1では、ボタン20の押込み操作の過程において、主に前半は主に後半に比べて、一定のボタン操作量に対するプッシュロッド12の移動量が大きくなるように被押圧面42が湾曲面(具体的には円弧面)で形成されている。しかし、被押圧面42の具体的な形状はこれに限定されない。被押圧面42の具体的な形状、すなわち曲面の形状は、ボタン20の押込み操作において、目標とする操作力などの条件が充足されるように適宜選定すればよい。
【0078】
(3)上記シフトレバー1では、スライダ40におけるプッシュロッド12の当接面48aは、前側から後側に向かって先上がりに傾斜する傾斜面からなるが、逆の構成であってもよい。つまり、プッシュロッド12が前向きに押圧されるように、当接面48aが前側から後側に向かって先下がりに傾斜する傾斜面で形成されていてもよい。この場合、プッシュロッド12は常にシャフト孔10aの前側の内壁面に押付けられた状態で移動するため、上記実施形態と同様に、プッシュロッド12の挙動を安定させることが可能である。
【0079】
(4)上記シフトレバー1では、プッシュロッド12の上端部12aは球状に形成されている。しかし、上端部12aの形状は、スライダ40の当接面48aに対して上端部12aが回転支点となるような形状、つまり、当接面48aに対して上端部12aが点接触、又は線接触となる形状であればよい。具体的には、
図10(a)に示すような円錐形状や、
図10(b)、(c)に示すような、左右方向に延在する、断面三角形又は断面半円形の山型形状であってもよい。なお、当接面48aの傾斜角度により、常時、プッシュロッド12を後向きに押圧することが可能であれば、プッシュロッド12の上端部12aは平面であってもよい。
【0080】
(5)上記シフトレバー1では、シフトノブ4の前側にボタン20が備えられており、ボタン20が後向きに押込み操作を受けるように構成されている。しかし、ボタン20は、シフトノブ4の左右何れかの側に備えられ、左右方向に押込み操作を受けるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 シフトレバー
2 レバー本体
4 シフトノブ
10 レバーシャフト
12 プッシュロッド
12a 上端部
20 ロック解除ボタン
24 押圧部
25 押圧ローラ
30 ホルダ部材
32 ガイド凹部
40 スライダ(変換部材)
41 被押圧部
42 被押圧面
48 凹部
48a 当接面