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特開2023-110730トリパノソーマ症の治療薬および予防薬
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  • 特開-トリパノソーマ症の治療薬および予防薬 図1
  • 特開-トリパノソーマ症の治療薬および予防薬 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110730
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】トリパノソーマ症の治療薬および予防薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4178 20060101AFI20230802BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61P33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012338
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 啓輔
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086GA02
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB38
(57)【要約】
【課題】 本発明は、トリパノソーマ症の新規治療薬候補薬剤を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明はニトロフラントインを有効成分とする抗トリパノソーマ、特に動物アフリカトリパノソーマの病原原虫であるTrypanosoma congolenseの感染によるトリパノソーマ症に対して有効な抗トリパノソーマ化合物及びその治療法(経口投与)と投薬量(30mg/kg以上)に関するものである。本発明の抗トリパノソーマ化合物は、貧血・回帰熱・神経障害などのトリパノソーマ症の予防及び/又は治療に利用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリパノソーマ関連疾患治療薬であり、ニトロフラントイン(化I)およびその異性体、薬学的に許容される塩を有効成分として含有する治療薬。
【化1】
【請求項2】
30mg/kg体重以上のニトロフラントインが投与されることを特徴とする請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
前記トリパノソーマがT.congolense、T.b.gambiense、T.evansi、T.b.rhodesiense、T.b.bruceiからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1から2に記載の治療薬。
【請求項4】
トリパノソーマ関連疾患の予防薬であり、ニトロフラントインおよびその異性体、薬学的に許容される塩を有効成分として含有する予防薬。
【請求項5】
請求項1から4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
トリパノソーマ原虫の殺虫または感染阻止方法であって、請求項5に記載の薬剤を有効量供給する工程を含むトリパノソーマ原虫の殺虫又は感染防止法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリパノソーマ症治療薬および予防薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリパノソーマ(Trypanosoma spp.)はキネトプラスト綱に属する住血寄生原虫である。トリパノソーマはヒトに感染するヒトアフリカトリパノソーマ(Human African Trypanosomes:Trypanosoma brucei rhodesiense,T.b.gambiense)と動物トリパノソーマ(Animal Trypanosomes:T.b.brucei,T.congolense,T.vivax,T.evansi,T.equiperdum)に大別される。
【0003】
トリパノソーマ症はこれらの病原トリパノソーマがベクターによる吸血もしくは交尾感染により宿主哺乳類に感染することで発症する致死性の原虫病である。
【0004】
トリパノソーマ症は病原トリパノソーマ種と宿主哺乳類によって、ヒトにTrypanosoma b.rhodesiense,T.b.gambienseが感染して発症するヒトアフリカトリパノソーマ症、家畜もしくは野生動物にT.b.brucei,T.congolense,T.vivaxが感染して発症するアフリカ動物トリパノソーマ症(ナガナ病)、T.evansiが感染して発症するスーラ病及びT.equiperdumが感染して発症する媾疫(こうえき)に区別される。
【0005】
これらの疾病のうち、ヒトと動物のアフリカトリパノソーマ症は、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国で流行している。一方、スーラ病及び媾疫は、世界各国で流行している。アフリカ動物トリパノソーマの中でも、T.congolenseは病原性が最も高い。
【0006】
多くのトリパノソーマは宿主哺乳類の血流中で増殖し、血流中に寄生している段階では貧血や回帰熱などの非特異症状を呈す。その後病態が進行すると、トリパノソーマが中枢神経系・脳脊髄液に侵入・寄生・増殖し、運動失調、麻痺、昏睡などの神経症状を呈し、最終的に致死に至る(非特許文献1、非特許文献2)。
【0007】
トリパノソーマ症に対する予防ワクチンは、トリパノソーマがその細胞表面に発現する抗原を高頻度かつランダムに変化させるため、有効な中和抗体を選択的に産生させることができないため開発が困難であり、現在までに有効なワクチンは存在しない。そのため現行のトリパノソーマ症対策は診断後の薬剤投与による治療が中心である。現在用いられているトリパノソーマ症治療薬としては、ペンタミジン、スラミン、キナピラミン、メラルソプロールなどが用いられている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0008】
しかしながら、ペンタミジンなどの既存薬剤の多くは開発から既に50年以上が経過している。不適切な投与や低品質な粗悪品の濫用によって薬剤耐性トリパノソーマ及び薬剤耐性トリパノソーマ症が複数報告されている。
【0009】
トリパノソーマ症の流行地域の多くは医療・獣医療インフラが未整備な農村地域が主体である。そのような環境で適切な投薬を行うためには、高度な入院管理が必要な注射薬ではなく経口薬が望ましい。しかし現在用いられているペンタミジンなどのトリパノソーマ症治療薬は注射薬であり、医療・獣医療インフラが未整備な地域で迅速な治療投薬が困難である。一方、2017年に初の経口治療薬であるフェキシニダゾールが認可され、ヒトトリパノソーマ症の治療適応が認められた(非特許文献3)。
【0010】
本発明者らは、尿路感染症に対する抗生物質として使われているニトロフラントインの類縁化合物を種々合成し、ヒトトリパノソーマ、動物トリパノソーマに対して培養細胞を用いたin vitroでの系で評価した。その結果、いくつかの類縁化合物にてin vitroで高い抗原虫作用を示したが、動物トリパノソーマ感染モデルマウスを用いた薬効評価で抗原虫効果を確認できなかった(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Federica Giordani et al.,The animal trypanposomiasis and the ir chemototherapy:a review,Parasitology,2016
【非特許文献2】Philippe Buscher et al.,Human African trypanosomiasis,The Luncet,2017
【非特許文献3】https://dndi.org/press-releases-translations/2018/ema-recommends-fexinidazole-first-all-oral-treatment-sleeping-sickness-jp
【非特許文献4】Linous Musimbwe et al.,In Vitro and In Vivo Trypanocidal Efficacy of Synthesized Nitrofurantoin Analogs,Molecules,2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ペンタミジンなどの既存薬剤の多くは開発から既に50年以上が経過している。不適切な投与や低品質な粗悪品の濫用によって薬剤耐性トリパノソーマ及び薬剤耐性トリパノソーマ症が複数報告されている。
【0013】
また、期待の新規経口投与剤フェキシニダゾールの治療適応は二種類のヒトトリパノソーマ病原原虫の一種類に限られ、かつ薬価も高価であり、低所得者の多いアフリカ諸国での普及に支障をきたす問題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、マウスを用いたトリパノソーマ症モデル動物に対してのニトフラントイン類縁化合物の経口投与試験においてニトロフラントインに微かなトリパノソーマ症治療効果の可能性を見出した(非特許文献4)。
【0015】
そこで、ニトロフラントインの経口投与によるトリパノソーマ症治療効果を詳細に解析したところ、30mg/kg以上の投薬によってトリパノソーマ症を完治させることができることを明らかにし、本発明を完成させた。
【0016】
本発明は以下の態様を含む。
(1)トリパノソーマ関連疾患治療薬であり、ニトロフラントイン(化I)およびその異性体、薬学的に許容される塩を有効成分として含有する治療薬。
(2)30mg/kg体重以上のニトロフラントインが投与されることを特徴とする(1)に記載の治療薬。
(3)前記トリパノソーマがT.congolense、T.b.gambiense、T.evansi、T.b.rhodesiense、T.b.bruceiからなる群から選択される少なくとも1種である(1)から(2)に記載の治療薬。
(4)トリパノソーマ関連疾患の予防薬であり、ニトロフラントインおよびその異性体、薬学的に許容される塩を有効成分として含有する予防薬。
(5)(1)から(4)に記載の医薬組成物。
(6)トリパノソーマ原虫の殺虫または感染阻止方法であって、請求項5に記載の薬剤を有効量供給する工程を含むトリパノソーマ原虫の殺虫又は感染防止法。
【化1】
【発明の効果】
【0017】
本発明は、経口投薬による治療が可能な新規のトリパノソーマ症治療薬候補化合物を提供し、また既に抗生物質として利用されている安価な経口薬であり、医療・獣医療インフラが未整備な地域で迅速な治療投薬が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】トリパノソーマの血中原虫濃度の推移を各試験群で比較した図である。縦軸は血中原虫数(cells/mL、対数表記)、横軸は感染後日数を表す。各群(Group)はニトロフラントインの経口投与量で区別され、Group IIは非治療対照群(0mg/kg)を示す。一元配置分散分析およびダネット検定によりコントロール群であるGroup IIと比較して、Group V(30mg/kg),Group VI(50mg/kg),Group VII(100mg/kg)では、感染後6日以降、増殖を抑え、血中原虫数が有意に低値を示した(p<0.05)。
図2】トリパノソーマ感染マウスの生存率の推移を各試験群で比較した図である。縦軸は生存率(%)、横軸は感染後日数を表す。各群(Group)はニトロフラントインの経口投与量で区別され、Group IIは非治療対照群(0mg/kg)を示す。ログランク検定によりコントロールであるGroup IIと比較して、治療群(Group III,IV,V,VI)では、投与用量依存的に生存率の有意な向上が認められ(p<0.05)、Group V(30mg/kg)以上では生存率100%だった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.トリパノソーマ症治療効果評価試験
マウスとして、メス、8週齢の Balb/c系統マウス、またトリパノソーマとしてT.congolense IL3000系統を使用した。マウスに1x10匹のトリパノソーマを腹腔内注射で感染させた。
【0020】
感染後4日目に、末梢血中にトリパノソーマを顕微鏡検査で確認したのち、ニトロフラントインを100mg/kg、50mg/kg、30mg/kg,20mg/kg,10mg/kgおよび0mg/kg(非治療対照群)の分量で、経口ゾンデを用いて経口投与を行った。経口投与は感染後4日目から10目までの7日間連続投与とした。
【0021】
感染後1日目から感染後28日目まで、毎日マウスの生死と血中トリパノソーマ濃度を測定した。また感染後28日目に、生存マウスについては安楽殺を行い、主要臓器を採材し病理学的検索および分子生物学的検査(PCR)によるトリパノソーマ感染の有無を評価した。
【0022】
上記実験は各群4頭のマウスを用いて行い、さらに二回くりかえし(各群計8頭)、再現性を確認するとともに結果を取りまとめた。
【0023】
2回の試験の結果、30mg/kg以上投薬した被験マウスは、投薬開始3日目(感染後6日目)以降には血中に感染したトリパノソーマが確認できず、さらに感染後28日目まで全頭(8頭)が生存した(図1、2)。また、試験終了後の病理学的検索および分子生物学的検査(PCR)でも、全頭・全検体からトリパノソーマは検出されなかった。以上の結果より、30mg/kg以上のニトロフラントインの経口投与がトリパノソーマ症を完治させることが明らかとなった。
【0024】
本発明の第一の態様は、下記式(I)で表される化合物、その異性体、薬学的に許容される塩を有効成分とする抗トリパノソーマ剤に関する。
【化1】
【0025】
「異性体」は、式(I)で表される化合物において存在し得る配座異性体などを意味する。
【0026】
式(I)で表される化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸などの鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸および酒石酸などのカルボン酸との塩;アスパラギン酸およびグルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩;並びにメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩などの無機酸および有機酸との塩などを挙げることができる。
【0027】
本発明との関連で抗トリパノソーマ剤とは、トリパノソーマの増殖抑制及び殺滅、宿主組織からのトリパノソーマの駆除など、トリパノソーマの数及び/又はその活動の抑制、低減、停止などのために用いられる剤をいう。
【0028】
式(I)で表される化合物は、そのまま抗トリパノソーマ剤として利用してもよく、さらに賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、固結・付着防止剤、滑沢剤、吸収・吸着担体、溶剤、増量剤、等張化剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤、増粘剤、被覆剤、吸収促進剤、ゲル化・凝固促進剤、光安定化剤、保存剤、防湿剤、乳化・懸濁・分散安定化剤、着色防止剤、脱酸素・酸化防止剤、矯味・矯臭剤、着色剤、起泡剤、消泡剤、無痛化剤、帯電防止剤、緩衝・pH調節剤などの各種添加物を配合して抗トリパノソーマ剤又はこれを含む医薬若しくは医薬組成物として利用してもよい。
【0029】
本発明の第二の態様は、第一の態様の抗トリパノソーマ剤を含む、トリパノソーマ症の治療及び/又は予防のための医薬に関する。
【0030】
本発明との関連でトリパノソーマ症とは、トリパノソーマの感染、又は感染により引き起こされるあらゆる症状若しくは状態をいう。本発明の医薬は、かかる感染又はこれに伴う症状若しくは状態の治癒、寛解、改善、予防のために恒温動物に投与することで使用さ
れる。
【0031】
本発明の医薬は、トリパノソーマに感染し得る全ての恒温動物を対象として適用することができる。そのような恒温動物の例としては、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、サルその他の非ヒト哺乳動物及びヒトを挙げることができる。
【0032】
本発明の医薬の剤形としては、経口剤(錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤など)、注射剤、坐剤、外用剤(軟膏剤、貼付剤など)、エアゾ-ル剤などを挙げることができる。
【0033】
錠剤、散剤、顆粒剤などの経口用固形製剤は、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロ-ス、無水第二リン酸カルシウム、部分アルファ化デンプン、コ-ンスタ-チ及びアルギン酸などの賦形剤;単シロ
ップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコ-ル、ポリビニルエ-テル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロ-ス、セラック、メチルセルロ-ス、エチルセルロ-ス、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルメチルセルロ-ス、ヒドロキシプロピルセルロ-ス、水及びエタノ-ルなどの結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸、寒天末、デンプン、架橋ポリビニルピロリドン、架橋カルボキシメチルセルロ-スナトリウム、カルボキシメチルセルロ-スカルシウム及びデンプングリコ-ル酸ナトリウムなどの崩壊剤;ステアリルアルコ-ル、ステアリン酸、カカオバタ-及び水素添加油などの崩壊抑制剤;ケイ酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、タルク、無水ケイ酸などの固結防止・付着防止剤;カルナバロウ、軽質無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、硬化油、硬化植物油誘導体、胡麻油、サラシミツロウ、酸化チタン、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ステアリン酸、ステアリン
酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、リン酸水素カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びポリエチレングリコ-ルなどの滑沢剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム、尿素及び酵素などの吸収促進剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及びコロイド状ケイ酸などの吸収・吸着担体といった固形製剤化医薬用添加物を用い、常法に従い調製すればよい。
【0034】
さらに錠剤は、必要に応じ、通常の剤皮を施した錠剤、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、胃溶性被覆錠、腸溶性被覆錠及び水溶性フィルムコ-ティング錠とすることができる。
【0035】
カプセル剤は、上記で例示した各種の医薬を、硬質ゼラチンカプセル及び軟質カプセルなどに充填して調製される。
【0036】
また、溶剤、増量剤、等張化剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤、増粘剤などの上記した各種の液体製剤化用添加物を用い、常法に従い調製して、水性又は油性の懸濁液、溶液、シロップ及びエリキシル剤とすることもできる。
【0037】
注射剤は、例えば、水、エチルアルコ-ル、マクロゴ-ル、プロピレングリコ-ル、クエン酸、酢酸、リン酸、乳酸、乳酸ナトリウム、硫酸及び水酸化ナトリウムなどの希釈剤;クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びリン酸ナトリウムなどのpH調整剤及び緩衝剤;ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコ-ル酸及びチオ乳酸などの安定化剤;食塩、ブドウ糖、マンニト-ル又はグリセリンなどの等張化剤;カルボキシメチルセルロ-スナトリウム、プロピレングリコ-ル、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、ウレタン、エタノ-ルアミン、グリセリンなどの溶解補助剤;グルコン酸カルシウム、クロロブタノ-ル、ブドウ糖、ベンジルアルコ-ルなどの無痛化剤;及び局所麻酔剤などの液体製剤化用の医薬品添加物を用い、常法に従い調製すればよい。
【0038】
本発明の医薬の投与方法は特に限定されないが、製剤の形態に応じて適宜決定される。例えば、非経口製剤である場合は、血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、皮下投与などを挙げることができる。好ましい実施形態の一つにおいて、本発明の抗トリパノソーマ剤は、経口投与、静脈内投与により生体に投与される。
【0039】
本発明の医薬の投与量は、投与された対象において治療及び/又は予防効果を奏する量、すなわち有効量であればよい。有効量は対象となる動物の種類、症状の程度、ヒトにあっては患者の年齢、性別、疾患の形態その他の条件などに応じて適宜選択されるが、通常成人に対して体重1kgあたり10mg~200mg好ましくは20mg~150mg、より好ましくは30mg~100mgであり、これを1日に1回若しくは複数回に分けて、又は間歇的に投与することができる。
【0040】
本発明の第三の態様は、第二の態様の医薬の有効量を対象に投与することを含む、トリパノソーマ症を治療及び/又は予防する方法に関する。
【実施例0041】
以下、非限定的な実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実験材料>
1.トリパノソーマ及び動物細胞
T.congolense IL3000系統を用いて、Hirumiら(Parasitology,1991,2:224-236)に記載の方法に準じて培養維持した。
【0043】
2.ニトロフラントイン
ニトロフラントインは富士フィルム和光純薬株式会社より購入した。ニトロフラントインを適宜DMSO(富士フィルム和光純薬株式会社)に溶解し、その後10倍量のコーンオイル(Sigma-Aldrich)で希釈することで、10%DMSO-90%コーンオイル溶液を溶媒として各試験群のマウスに、10mg/kg~100mg/kg量のニトロフラントインを投薬した。
【0044】
<実施例1>
3.経口投与によるトリパノソーマ症治療効果評価試験
マウスとして、メス、8週齢のBalb/c系統マウス(日本クレア)、またトリパノソーマとしてT.congolense IL3000系統を使用した。マウスに1x10匹のトリパノソーマを腹腔内注射で感染させた。
【0045】
感染後4日目に、末梢血中にトリパノソーマを顕微鏡検査で確認したのち、ニトロフラントインを100mg/kg、50mg/kg、30mg/kg、20mg/kg、10mg/kgおよび0mg/kg(非治療対照群)の用量で、経口ゾンデを用いて経口投与を行った。経口投与は感染後4日目から10目までの7日間連続投与とした。
【0046】
感染後1日目から感染後28日目まで、毎日マウスの生死と血中トリパノソーマ濃度を測定した。また感染後28日目に、生存マウスについては安楽殺を行い、主要臓器を採材し病理学的検索および分子生物学的検査(PCR)によるトリパノソーマ感染の有無を評価した。上記実験は各群4頭のマウスを用いて行い、さらに二回くりかえし(各群計8頭)、再現性を確認するとともに結果を取りまとめた。
【0047】
2回の試験の結果、30mg/kg以上投薬した被験マウスは、投薬開始3日目(感染後6日目)以降には血中に感染したトリパノソーマが確認できず、さらに感染後28日目まで全頭(8頭)が生存した(図1、2)。また、試験終了後の病理学的検索および分子生物学的検査(PCR)でも、全頭・全検体からトリパノソーマは検出されなかった。以上の結果より、30mg/kg以上のニトロフラントインの経口投与がトリパノソーマ症を完治させることが明らかとなった。
図1
図2