(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110741
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】接合体、締結用部品、碍子および電流導入端子
(51)【国際特許分類】
C04B 41/88 20060101AFI20230802BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C04B41/88 A
B23K1/19 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012352
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 伊織
(57)【要約】
【課題】加熱と冷却を繰り返しても、クラックが発生しにくく、かつ、ろう材のフィレットが外部に形成されることがない接合体、これを含む締結用部品、碍子および電流導入端子を提供する。
【解決手段】本開示の接合体は、表面に段差部を有するセラミックスからなる基体と、段差部に立設された金属からなる柱状体と、を備え、柱状体は、軸部と、該軸部の一端に該軸部と一体的に形成され、前記段差部の深さよりも厚みが小さい鍔部とを備え、該鍔部の外周面と段差部の内周面との間には間隙を有すると共に、柱状体は、段差部の内底面にろう付け部を介して接合されており、ろう付け部は、鍔部の外周面と段差部の内底面とに接する第1フィレットおよび段差部の内周面と内底面とに接する第2フィレットを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に段差部を有するセラミックスからなる基体と、
前記段差部に立設された金属からなる柱状体と、を備え、
前記柱状体は、軸部と、該軸部の一端に該軸部と一体的に形成され、前記段差部の深さよりも厚みが小さい鍔部とを備え、該鍔部の外周面と前記段差部の内周面との間には間隙を有すると共に、
前記柱状体は、前記段差部の内底面にろう付け部を介して接合されており、前記ろう付け部は、前記外周面と前記内底面とに接する第1フィレットおよび前記内周面と前記内底面とに接する第2フィレットを有する、接合体。
【請求項2】
前記軸部が円柱状であり、前記鍔部の半径と前記軸部の半径との差が0.8mm以上である、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記間隙が0.8mm以上である、請求項1または2に記載の接合体。
【請求項4】
第1メタライズ層が前記内底面に、第2メタライズ層が前記内周面にそれぞれ設けられてなる、請求項1~3のいずれかに記載の接合体。
【請求項5】
第1メッキ層が前記第1メタライズ層上、第2メッキ層が前記第2メタライズ層上にそれぞれ設けられてなる、請求項4に記載の接合体。
【請求項6】
前記第2メタライズ層は、前記内周面の前記深さ方向の長さよりも短い、請求項4または5に記載の接合体。
【請求項7】
前記ろう付け部の表面は、前記柱状体の側に露出している、請求項1~6のいずれかに記載の接合体。
【請求項8】
前記基体は前記内底面に凹設された収容部を備え、前記柱状体は前記内底面に対向する対向面に、前記収容部に挿入されるピンを備えてなる、請求項1~7のいずれかに記載の接合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の接合体を含み、前記軸部はねじ部を有する、締結用部品。
【請求項10】
請求項9に記載の締結用部品を含む、碍子。
【請求項11】
請求項9に記載の締結用部品を含む、電流導入端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックスからなる基体と金属からなる柱状体との接合体、ねじ等の締結用部品、該締結用部品を含む碍子および電流導入端子に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ等の締結用部品の材料としては、金属、プラスチック、セラミックス等があり、締め付け強度が要求される用途では、金属製のねじが多用されている。一方、絶縁が要求されたり、高温で使用されたりする場合には、セラミックス製のねじが用いられている。しかしながら、強い締め付けが要求される用途にセラミックス製のネジを用いると、靱性が低いため、締め付けると、ネジ山が破損し、使えないことがあった。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1では、ネジの頭部分がセラミックス、ネジ部が金属からなり、かつ頭部分のセラミックスに設けた凹部にネジ部の金属を填め込み、両者を活性金属法によりろう接した複合ネジが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例では、複合ねじの頭部分は、窒化珪素質セラミックスで、ネジ部はステンレス鋼(SUS304)でそれぞれ形成されていることが記載されているが、これらの平均線膨張率の差は大きい。このように平均線膨張率の差が大きい状態で、セラミックスの凹部の内底面とネジ部の端面との間、また、セラミックスの凹部の内周面とネジ部の外周面との間にろう材が隙間なく充填されているので、加熱と冷却を繰り返すと、ねじの頭部分やねじ部のクラックが発生しやすいという問題があった。
【0006】
また、ねじの頭部分とねじ部との境界部で、ろう材の一部が凹部から外に噴出して、ねじの頭部分端面とねじ部外周面との間でフィレットが形成されやすい。そのため、複合ネジを雌ねじに締結しようとすると、フィレットが障害になって、雌ねじに最後まで締め付けることができず。締結が不十分になることがあった。
【0007】
よって、本開示の課題は、加熱と冷却を繰り返しても、クラックが発生しにくく、かつ、ろう材のフィレットが外部に形成されることがない接合体、これを含む締結用部品、碍子および電流導入端子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本開示の接合体は、表面に段差部を有するセラミックスからなる基体と、段差部に立設された金属からなる柱状体と、を備え、柱状体は、軸部と、該軸部の一端に該軸部と一体的に形成され、段差部の深さよりも厚みが小さい鍔部とを備え、鍔部の外周面と段差部の内周面との間には間隙を有すると共に、柱状体は、段差部の内底面にろう付け部を介して接合されており、ろう付け部は、鍔部の外周面と段差部の内底面とに接する第1フィレットおよび段差部の内周面と内底面とに接する第2フィレットを有する。
【0009】
本開示の締結用部品は、上記接合体を含み、上記軸部はねじ部を有する。本開示の碍子は、上記締結用部品を含む。本開示の電流導入端子は、上記締結用部品を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示の接合体によれば、ろう付け部は第1フィレットおよび第2フィレットを有することによって、軸部に接触しにくい状態になっているので、加熱および冷却を繰り返しても、内部応力が基体や柱状体に蓄積しにくく、両者にクラックが発生しにくい。
また、ろう材のフィレットが段差部から外に形成されることがないので、軸部にねじ部を設けて雌ねじに締結したり、被結合体に結合したりする場合、軸方向の長さを略全長に亘って使うことができ(すなわち、軸部の全長のうち、基体から突出している部分を全部使うことができ)、高い結合力を得ることができる。さらに、雌ねじや被結合体を段差部の外周側端面に当接させることができるので、より高い結合力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る接合体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態を説明する。
図1は本開示の一実施形態に係る接合体の断面を示しており、
図2はそのA部分の拡大図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る接合体1は、表面に段差部2を有する基体3と、段差部2に立設された金属からなる柱状体4とを備える。本実施形態における段差部2は凹部を形成している。
基体3は、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si
3N
4)、炭化珪素(SiC)等のセラミックスからなる。柱状体4は、例えば、Fe-Co系合金、Fe-Co-C系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Ni-Co系合金等の金属からなる。
【0014】
柱状体4は、軸部41と、該軸部41の一端に該軸部41と一体的に形成された鍔部42とを備える。鍔部42は、軸部41の周囲に環状で形成されており、段差部2の深さよりも厚みが小さい。鍔部42の外周面と段差部2の内周面との間には間隙5を有する。
【0015】
段差部2は、基体3の表面または段差部2の内周面に垂直な断面が円状であるのがよい。また、軸部41は、例えば、半径が2mm以上4mm以下の円柱状であり、鍔部42の半径と軸部41の半径との差が0.8mm以上であるのがよく、1.4mm以下であるのが好ましい。これにより、柱状体4と基体3との接合強度を高めることができる。軸部41の外周面には、ねじ部6が形成されている。なお、鍔部42の半径は、2.8mm以上5.4mm以下であるのがよい。
【0016】
図2に示すように、柱状体4は、段差部2の内底面にろう付け部7を介して接合されている。ろう付け部7は、鍔部42の外周面と段差部2の内底面とに接する第1フィレット71および段差部2の内周面と内底面とに接する第2フィレット72を有する。
【0017】
このように、ろう付け部7が第1フィレット71および第2フィレット72を有することによって、ろう材が軸部41に直接接触しにくい状態になっている。従って、加熱、冷却を繰り返しても、内部応力が基体3や柱状体4に蓄積しにくく、両者にクラックが発生しにくくなる。
【0018】
鍔部42の外周面側および段差部2の内周面側に沿ってそれぞれ第1フィレット71および第2フィレット72を形成するうえで、鍔部42の外周面と段差部2の内周面との間に所定長さの間隙5を有することが必要である。鍔部42の外周面と段差部2の内周面との間の間隙5は、0.8mm以上であるのがよく、2mm以下であるのが好ましい。これにより、基体3と柱状体4との間の応力が第1フィレット71および第2フィレット72によって分散されるので、耐久性が向上し、長期間に亘って用いることができる。
【0019】
間隙5の長さを一定にするうえで、柱状体4が段差部2内の所定位置に立設するように位置決め手段を有するのが好ましい。本実施形態では、基体3は段差部2に凹設された収容部8を備え、柱状体4は段差部2の内底面に対向する対向面に、収容部8に挿入されるピン9を備える(
図1参照)。これにより、柱状体4を段差部2内に位置決めできると共に、基体3と柱状体4との同軸度を容易に向上させることができる。後者は、接合体1をねじ等の締結用部品として利用する場合に必要な特性である。
【0020】
また、ろう付け部7の表面は、柱状体4の側に露出しているのがよい。言い換えれば、ロウ付け部7の表面のうち、段差部2の内底面とは反対側の表面が露出しているのがよい。すなわち、ろう付け部7がガラス等により被覆されていない状態を意味している。例えば、被覆に伴って発生しやすいガラスの柱状体4へ固着がなくなり、軸部41を雌ねじ(図示せず)に締結したり、被結合体(図示せず)に結合したりすることが容易になる。
【0021】
次に、セラミックスからなる基体3と、金属からなる柱状体4との接合方法を説明する。本実施形態では、基体3の段差部2に、あらかじめ、内底面(例えば内底面の全面)に第1メタライズ層10aが、内周面に第2メタライズ層10bがそれぞれ設けられている。第1および第2メタライズ層10a、10bを設けることにより、比較的安価なろう材、例えば銀ろう材(Bag-8、Bag-9)等の使用が可能となる。
【0022】
第1メタライズ層10a上には第1メッキ層(図示せず)が、第2メタライズ層10b上には第2メッキ層(図示せず)がそれぞれ設けられているのがよい。これにより、第1メタライズ層および第2メタライズ層の酸化が抑制され、長期間に亘って用いることができる。第1および第2メッキ層は、例えば、公知のNiメッキ層からなる。
第1および第2メッキ層は、例えば、メッキ液中でメタライズ層の露出表面にメッキ被着用の電流を供給し、電気メッキを施すことにより形成することができる。
【0023】
ろう付けでは、第1メタライズ層10aおよび第2メタライズ層10b、および第1および第2メッキ層にろう材を介して柱状体4を接合する。これにより、セラミックスからなる基体3と金属からなる柱状体4とが、ろう付け部7を介して接合される。
【0024】
第1および第2メタライズ層10a、10bは、例えば、W,Mo,Mn等の高融点金属を主成分とするものや、あるいはAg-Cu-Tiの層からなるものであり、例えば、メタライズ層となる金属ペーストをスクリーン印刷法等によってセラミックの基体3に印刷塗布し、1300℃~1600℃の高温雰囲気で焼成することで基体3の表面に被着形成される。第1および第2メタライズ層10a、10bは、同一または異なる成分で形成してもよく、それらの層厚についても同一または異なっていてもよい。同様に、第1および第2メッキ層も同一または異なる成分で形成してもよく、それらの層厚についても同一または異なっていてもよい。
【0025】
第2メタライズ層10bの段差部2の深さ方向の長さは、段差部2の内周面の深さ方向の長さよりも短いのがよい。具体的には、段差部2の内周面の深さ方向の長さに対して60%以下80%以上であるのがよい。
これにより、ろう材が段差部2の外周側端面(または上縁部側の内周面)でフィレットを形成するおそれが低減し、フィレットに邪魔されることなく、軸部41に雌ねじや被結合体をより深く挿入することができ、高い結合力を得ることができる。
【0026】
ろう付け部7を形成するためのろう材としては、例えばAuろう,Agろう,Cuろう,Au-Cuろう,Ag-Cuろう,Au-Niろう等を用いることができる。好ましくは、固相線温度が900℃以上のろう材、例えば、Auろう,Cuろう,Au-Cuろう,Au-Niろうを用いるのがよい。この構成により、400℃以上の高温でも溶融することなく長時間の使用に耐えることができ、信頼性の高い接合を実現することができる。
【0027】
ろう材は、例えばシート状、ブロック状、粒状等の形状を有する固体状であるか、あるいはペースト状に調製されたものであってもよい。
基体3と柱状体4とを接合するには、例えば、表面に第1および第2メタライズ層10a、10bを形成した基体3の段差部2内に柱状体4を立設した後、柱状体4の周囲にろう材を配置し溶融させて、基体3と柱状体4との間に毛細管現象によって浸透拡散させ、冷却して凝固させ、ろう付け部7を形成すればよい。
【0028】
第1フィレット71および第2フィレット72は、例えば、鍔部42の外周面と段差部2の内底面との境界部、および段差部2の内周面と内底面との境界部に、線状、粒状等のろう材を配置するか、それらの境界部にペースト状のろう材を塗布することにより形成することができる。第1フィレット71および第2フィレット72は、ろう付け部7の形成と同時に形成するか、またはろう付け部7の形成後に形成してもよい。
【0029】
なお、以上の実施形態は、第1および第2メタライズ層10a、10bを介して柱状体4をろう付けするものであるが、第1および第2メタライズ層10a、10bを介することなく、活性金属法を用いて直接ろう付けをおこなってもよい。活性金属法では、活性金属ろうとして,例えば、Cu-Ag系、Cu-Au系、Cu-Ni系、Au-Ni系等にTi、Zr等の活性金属を添加したものが使用される。
【0030】
本開示の接合体1は、ねじ部6を軸部41に有する締結用部品に利用することができる。締結用部品は、JIS B 0101:2013に定義されているように、ねじ部品を含む。本開示の締結用部品は、セラミックスと金属との複合材から構成されているので、例えば、電線とその支持物との間を絶縁するために用いる碍子として好適に使用可能である。
【0031】
さらに、本開示の締結用部品は、電流導入端子としても好適に使用可能である。電流導入端子は、一般に、真空容器や圧力容器の内部に、電源用、加熱用などの大電流を外部(大気側)から供給するための端子である。片側が大気圧、反対側が真空・高圧になるため、リークのない気密封止構造が不可欠であり、絶縁部分にセラミックスを用いて封止することが行われる。
【0032】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の接合体、締結用部品、碍子および電流導入端子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内で種々の変更や改善が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 接合体
2 段差部
3 基体
4 柱状体
41 軸部
42 鍔部
5 間隙
6 ねじ部
7 ろう付け部
71 第1フィレット
72 第2フィレット
8 収容部
9 ピン
10a 第1メタライズ層
10b 第2メタライズ層