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特開2023-110762塩化ビニル系樹脂組成物および電線被覆材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110762
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物および電線被覆材
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20230802BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012389
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】大内 洸生
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD031
4J002EH146
4J002FD026
4J002GQ01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】絶縁性、耐摩耗性、柔軟性、耐ブリード性、耐熱性、および耐寒性を高次元でバランスよく満足できる新規な塩化ビニル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂組成物は塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含み、前記可塑剤が、式(1)で表されるトリメリット酸エステル化合物を含む。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含んでなる塩化ビニル系樹脂組成物であって、
前記可塑剤が、下記式(1):
【化1】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、C9またはC10アルキル基を表す。)
で表されるトリメリット酸エステル化合物を含む、塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記式(1)のR~Rは、それぞれ独立して、メチルエチルヘキシル基、ジメチルヘプチル基、メチルオクチル基、およびn-ノニル基からなる群より選択される少なくとも1種のアルキル基を表す、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記トリメリット酸エステル化合物が、前記式(1)において、R~Rの全てがメチルエチルヘキシル基、R~Rの全てがジメチルヘプチル基、および、R~Rの全てがメチルオクチル基、である3種のトリメリット酸エステルを含む、請求項1または2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記可塑剤が、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、30~90質量部の割合で含まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
体積抵抗率が1×1011Ω・m以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
電線被覆用として使用される、請求項1~5のいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項7】
前記電線被覆が、被覆厚0.3mm以下の極薄被覆である、請求項6に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物からなる電線被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系樹脂組成物に関し、より詳細には、電線、特に自動車などに搭載されるワイヤーハーネス等の被覆電線材として好適な塩化ビニル系樹脂組成物、および塩化ビニル系樹脂組成物を用いた電線被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車は、自動車を安全かつ快適に走行させる観点から、電子制御化が進められている。また自動車に搭載される機器の多様化、および電子制御化が進められている。そのため自動車に搭載される電線の量は著しく増えている。一方、自動車は、燃費向上の観点から、軽量化が進められている。上述のように電線搭載量が増加していることから、電線の軽量化も重要な課題となっており、電線の細径化、および電線被覆厚みの薄肉化が進められている。
【0003】
電線の細径化、および電線被覆厚みの薄肉化を進めるためには、電線被覆用材料の耐摩耗性を大きく向上させる必要がある。電線の細径化、および電線被覆厚みの薄肉化に対応し、耐摩耗性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1および2)。しかし、これらの技術では、自動車に搭載される電線は寒冷地での使用に耐える耐寒性、および低温での柔軟性を必要とすることを考慮すると、耐寒性、および低温での柔軟性が不十分である。
【0004】
ところで、樹脂に可塑剤を添加することで柔軟性や耐寒性が向上することが知れている。例えば、特許文献3には、自動車の電線用途に使用される塩化ビニル系樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好で、耐移行性等の低下の懸念がなく、耐寒性や耐熱性を向上させ得る可塑剤として、特定のイソフタル酸ジエステルを配合することが提案されている。また、特許文献4には、自動車の電線等に使用される塩化ビニル系樹脂用の可塑剤として、柔軟性、耐熱性、耐寒性を向上させ得る可塑性として、鎖長の異なるアルキル鎖を有するトリメリット酸エステルを3種併用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-241462号公報
【特許文献2】特開2015-143299号公報
【特許文献3】特開2019-59888号公報
【特許文献4】特開2017-48308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年開発が進むハイブリッドカーや電気自動車では、従来の自動車に増して電線搭載量が著しく増加しており、電線被覆厚みの更なる薄肉化が求められるようになっている。例えば、ISO規格にあるAVSS(自動車用薄肉低圧電線)は1.5mmの導体径に対して絶縁材が0.3mmの被覆厚であるが、近年、AVSSよりもさらに肉薄の電線規格(CIVUS)の電線が必要になってきており、被覆厚は0.2mmである。そのため、上記した特許文献で提案されている被覆電線材であっても、耐摩耗性、柔軟性、耐ブリード性、耐熱性、および耐寒性の全てを満足させることは難しくなってきている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、絶縁性、耐摩耗性、柔軟性、耐ブリード性、耐熱性、および耐寒性を高次元でバランスよく満足できる新規な塩化ビニル系樹脂組成物を提供することである。また、本発明の別の目的は、当該塩化ビニル系樹脂組成物を用いた電線被覆材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、可塑性として特定のトリメリット酸エステルを塩化ビニル系樹脂に添加することにより、絶縁性、耐摩耗性、柔軟性、耐ブリード性、耐熱性、および耐寒性を高次元でバランスよく満足できる塩化ビニル系樹脂組成物が得られる、との知見を得た。本発明は係る知見に基づくものである。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1] 塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含んでなる塩化ビニル系樹脂組成物であって、
前記可塑剤が、下記式(1):
【化1】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、C9またはC10アルキル基を表す。)
で表されるトリメリット酸エステル化合物を含む、塩化ビニル系樹脂組成物。
[2] 前記式(1)のR~Rは、それぞれ独立して、メチルエチルヘキシル基、ジメチルヘプチル基、メチルオクチル基、およびn-ノニル基からなる群より選択される少なくとも1種のアルキル基を表す、[1]に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
[3] 前記トリメリット酸エステル化合物が、前記式(1)において、R~Rの全てがメチルエチルヘキシル基、R~Rの全てがジメチルヘプチル基、および、R~Rの全てがメチルオクチル基、である3種のトリメリット酸エステルを含む、[1]または[2]に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
[4] 前記可塑剤が、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、30~90質量部の割合で含まれる、[1]~[3]の何れか一項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
[5] 体積抵抗率が1×1011Ω・m以上である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
[6] 電線被覆用として使用される、[1]~[5]のいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
[7] 前記電線被覆が、被覆厚0.3mm以下の極薄被覆である、[7]に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定のトリメリット酸エステルを可塑剤として塩化ビニル系樹脂に配合することにより、絶縁性、耐摩耗性、柔軟性、耐ブリード性、耐熱性、および耐寒性を高次元でバランスよく満足できる塩化ビニル系樹脂組成物を実現するこができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と必須成分として含む。以下、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
<塩化ビニル系樹脂>
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物に使用される塩化ビニル系樹脂は、-CH-CHCl-で表される基を有する全ての重合体を指し、塩化ビニルの単独重合体;塩化ビニルモノマーと、該塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する他のモノマーとの共重合体;ポリ塩化ビニル系樹脂以外の重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、好ましくは塩化ビニルの単独重合体である。
【0013】
塩化ビニル系樹脂として他のモノマーとの共重合体を用いる場合は、少量(通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下)であれば、塩化ビニルと共重合可能なモノマーに由来する構成単位を含むものであってよい。
【0014】
共重合体の場合、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン等の炭素数2~30のα-オレフィン類、アクリル酸およびそのエステル類、メタクリル酸およびそのエステル類、マレイン酸およびそのエステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アルキルビニルエーテル等のビニル化合物、ジアリルフタレート等の多官能性モノマーおよびこれらの混合物と塩化ビニルモノマーとの共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等のエチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩素化ポリエチレン、ブチルゴム、架橋アクリルゴム、ポリウレタン、ブタジエンースチレンーメチルメタクリレート共重合体(MBS)、ブタジエンーアクリロニトリルー(α-メチル)スチレン共重合体(ABS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレートおよびこれらの混合物へ塩化ビニルモノマーをグラフトしたグラフト共重合体等が例示される。
【0015】
塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、通常300以上、5000以下であり、800以上、より好ましくは1000以上であってよい。一方、成形性の観点から、好ましくは3000以下、より好ましくは2600以下であってよい。平均重合度が低すぎると耐熱性等が低下し、高すぎると成形加工性が低下する。なお、平均重合度とは、JIS K6720-2:1999の附属書に準拠し、比粘度から算出した平均重合度を意味する。
【0016】
<可塑剤>
本発明において、可塑剤として下記式(1)で表されるトリメリット酸エステル化合物を含む。
【化2】
【0017】
上記式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、C9またはC10アルキル基を表す。トリメリット酸エステルは、トリメリット酸またはその酸無水物とアルコールとのエステル化反応によって得られるものであるが、トリメリット酸とアルコールとして鎖長がC9またはC10である飽和脂肪族アルコールとをエステル化反応させえて得られるトリメリット酸エステル化合物を可塑剤として使用することにより、耐摩耗性、柔軟性、耐ブリード性、耐熱性、および耐寒性を高次元でバランスよく満足できる塩化ビニル系樹脂組成物とすることができる。
【0018】
上記した式(1)で表されるトリメリット酸エステル化合物は、R~Rは、それぞれ独立して、メチルエチルヘキシル基、ジメチルヘプチル基、メチルオクチル基、およびn-ノニル基からなる群より選択される少なくとも1種のアルキル基であることが好ましい。上記のような鎖長がC9アルキル基のみからなるトリメリット酸エステルを使用することにより、耐寒性がより一層向上する。C9アルキル基の中でも、分岐を有するC9アルキル基のみからなるトリメリット酸エステルを使用することがより好ましい。
【0019】
特に、式(1)において、R~Rの全てがメチルエチルヘキシル基であるトリメリット酸エステル(TM1)、R~Rの全てがジメチルヘプチル基であるトリメリット酸エステル(TM2)、およびR~Rの全てがメチルオクチル基であるトリメリット酸エステル(TM3)の3種のトリメリット酸エステルを併用して使用することが好ましい。R~RがC10アルキル基を含まず、C9のなかでも分岐を有するアルキル基であるようなトリメリット酸エステルを複数種組合せることにより、耐摩耗性を向上させながら(換言すると、樹脂にある程度の硬さを付与しながら)も、耐寒性や耐熱性といった耐摩耗性と相反する性能を向上させることができる。
【0020】
上記した3種のトリメリット酸エステル化合物の配合割合は特に限定されるものではないが、質量基準において、TM1が5~15質量%、TM2が35~50質量%、TM3が30~45質量%であることが好ましい。
【0021】
上記したトリメリット酸エステル化合物は、トリメリット酸またはその酸無水物と、上記したアルコール(即ち、ROH~ROH)とのエステル化反応により得ることができる。エステル化反応を行うに際し、酸成分とアルコール成分との配合割合は、通常、トリメリット酸またはその酸無水物1molに対して、3~4mol程度である。
【0022】
エステル化反応の際には、触媒を併用してもよく、例えば、鉱酸、有機酸、ルイス酸類等が例示される。より具体的には、鉱酸として、硫酸、塩酸、燐酸等が例示され、有機酸としては、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が例示され、ルイス酸としては、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体、鉛誘導体、亜鉛誘導体等が例示される。これら触媒は、1種または2種以上を併用することができる。
【0023】
エステル化反応は、通常、100℃~230℃の温度で3時間~30時間行われる。エステル化反応により得られたトリメリット酸エステルは、必要に応じて塩基処理、水洗処理、液液抽出、蒸留(減圧、脱水処理)、吸着処理といった精製を行い高純度したものを用いることが好ましい。
【0024】
上記した可塑剤は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、30~90質量部の割合で含まれることが好ましく、30~50質量部の割合で含まれることがより好ましい。
【0025】
<その他の成分>
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、上記した成分以外にも他の成分が含まれていてもよい。例えば、耐寒性をより向上させるためにゴムまたはエラストマーが含まれていてもよく、例えば、未架橋ニトリルゴム、部分架橋ニトリルゴム、および水添部分架橋ニトリルゴムなどの完全架橋ニトリルゴム以外のニトリルゴム系材料;メタクリル酸エステル・スチレン/ブタジエン系ゴム共重合体、アクリロニトリル・スチレン/ブタジエン系ゴム共重合体、アクリロニトリル・スチレン/エチレン・プロピレン系ゴム共重合体、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステル系ゴム共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステル系ゴム共重合体、およびメタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステル系ゴム共重合体などのコアシェルゴム;ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、変性スチレン系熱可塑性エラストマー、変性オレフィン系熱可塑性エラストマー、部分架橋アクリル系熱可塑性エラストマー、および変性エチレン共重合体系熱可塑性エラストマーなどの親水性官能基を有する熱可塑性エラストマー;等を挙げることができる。これらの成分は、1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0026】
塩化ビニル系樹脂組成物がゴムまたはエラストマーを含む場合、耐摩耗性および成形性の観点から、ゴムまたはエラストマーの配合量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。配合量の下限は、任意成分であるから特にないが、耐寒性向上効果を確実に得る観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であってよい。
【0027】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、上記した以外の熱可塑性樹脂、顔料、無機フィラー、有機フィラー、難燃剤、難燃助剤、滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、離型剤、帯電防止剤、金属不活性剤、および界面活性剤等が配合されていてもよい。
【0028】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、任意の溶融混練機を使用して、上記した各成分、および所望に応じて用いる任意成分を、同時にまたは任意の順に上記溶融混練機に投入し、溶融混練することにより得ることができる。好ましくは加圧ニーダーを使用して、樹脂温度150~180℃の条件で溶融混練することにより得ることができる。
【0029】
溶融混練機としては、加圧ニーダーやミキサーなどのバッチ混練機、一軸押出機、同方向回転二軸押出機、および異方向回転二軸押出機等の押出混練機、カレンダーロール混練機、等を挙げることができる。これらを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0030】
上記した塩化ビニル系樹脂組成物は、自動車などに搭載されるワイヤーハーネスの電線被覆材として好適に使用することができる。特に、AVSSやCIVUSの規格を充足する電線、特に、被覆厚0.3mm以下の極薄被覆の電線用途に好適に使用することができる。このような極薄被覆電線とした場合であっても、体積抵抗率が1×1012Ω・m以上の優れた絶縁性を有し、耐摩耗性、柔軟性、耐ブリード性、耐熱性、および耐寒性を高次元でバランスよく満足できる。
【0031】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を用いて被覆電線を製造する方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用することができ、例えば、任意の押出機と任意のダイスを備える電線成形装置を使用し、塩化ビニル系樹脂組成物を、任意の導体、任意の絶縁被覆導体、あるいは数本の絶縁被覆導体を撚り合せたものの周囲に、溶融・押出して被覆する方法をあげることができる。
【実施例0032】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
<使用した原材料>
(1)塩化ビニル系樹脂:P-1300(平均重合度1300、ポリ塩化ビニル、信越化学工業株式会社製)
(2)可塑剤
2A:トリメリット酸イソノニル(式(1)において、R~Rが分岐を有するC9アルキル基のみからなるトリメリット酸エステル)
2B:トリメリット酸イソノニル(式(1)において、R~Rが分岐を有するC9アルキル基のみからなるトリメリット酸エステル)
2C:トリメリット酸イソノニル(式(1)において、R~Rが分岐を有するC9アルキル基のみからなるトリメリット酸エステル)
2D:トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)
(3)安定剤:Ba-Zn系安定剤(RUP-103、ADEKA株式会社製)
【0034】
<実施例1~6、比較例1~2>
容量20Lの加圧ニーダーを使用し、表1に示す配合比の配合物を、排出時樹脂温度180℃の条件で溶融混練し、塩化ビニル系樹脂組成物を得た。得られた塩化ビニル系樹脂組成物を用いて下記評価試験(1)~(8)を行った。評価結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0035】
<評価試験>
(1)硬さ試験
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を用い、サイズ8インチの2本ロールを使用して、分出しシートを作製した。次に分出しシートを用い、熱プレス装置を使用して、温度180℃で2分間予熱し、続いて温度180℃、圧力50kg/cmの条件で2分間加圧した後、冷却プレス装置を使用して、温度25℃、圧力20kg/cmの条件で2分間冷却プレスし、所定厚み(1mm、2mm、または6.3mm)のプレスシートを作製した。
【0036】
ASTM D2240に準拠し、デュロメータ-D硬度計で5秒値を測定した。試験片には6.3mm厚のプレスシートを用いた。
【0037】
(2)引張試験
JIS K 6723:1995に準拠し、1.0mm厚のプレスシートをダンベル2号形で打ち抜き、25mmの標線を記入して試験片とした。試験温度23℃、相対湿度50%の恒温室にて試料調整をした後、引張試験機を用いて、引張速度200mm/分で測定した。
【0038】
(3)老化試験
JIS K 6723:1995に準拠し、1.0mm厚のプレスシートをダンベル2号形で打ち抜き、25mmの標線を記入して試験片とした。JIS K 7212に規定されるギアオーブンを用いて、試験温度136℃、試験時間168hにて試験片を加熱し、老化試験の試験片とした。試験温度23℃、相対湿度50%の恒温室にて試料調整をした後、引張試験機を用いて、引張速度200mm/分で測定した。
【0039】
(4)耐油試験
JIS K 6723:1995に準拠し、1.0mm厚のプレスシートをダンベル2号形で打ち抜き、25mmの標線を記入して試験片とした。JIS K 6258に規定される試験用潤滑油No.2を用いて、試験温度70℃、試験時間4h浸漬し、耐油試験の試験片とした。試験温度23℃、相対湿度50%の恒温室にて試料調整をした後、引張試験機を用いて、引張速度200mm/分で測定した。
【0040】
(5)加熱変形試験
JIS K 6723:1995に準拠し、2.0mm厚のプレスシートを35mm×35mmのサイズで打ち抜き、試験片とした。試験温度120℃、試験荷重9.8Nにて測定し、加熱前後の試験片の厚みの変化から、変形率を算出した。
【0041】
(6)熱安定性試験
JIS K 6723:1995に準拠し、各辺が1mm以下になる試料を作製し、2gを試験管に採取した。幅7mm、長さ40mmのコンゴーレッド試験紙を規定の通り固定し、試験温度180℃にてオイルバスへ浸し、試験紙の先端が明瞭な青に変化するまでの時間を測定した。なお、7hを超えた場合はその時点で打ち切りとした。
【0042】
(7)耐寒試験
試験片が3個とも破壊しない最低温度を脆化温度としたこと以外はJIS K 6723-1995で引用するJIS K 7216-1980に準拠し、脆化温度を測定した。厚さ2mmのプレスシートから長さ38mm、幅6mmの試験片(該規格のA形)を採取して用いた。媒体として、メタノールを用い、試験温度に調節し、試験片3個をつかみ具に取り付け、3分間媒体中に浸した後、その温度を記録し、打撃ハンマーによって1回打撃を加えた。ここでいう破壊とは、試験片が2つ以上に分離することをいい、裂け目またはひびの生成は破壊としない。
【0043】
(8)絶縁試験
JIS K 6723:1995に準拠し、1.0mm厚のプレスシートを試験片とした。試験片の規定された5か所の厚みを測り、平均値を厚みとした。試験片に電極を取り付け、恒温槽内に30分以上保持し、試験を実施した。試験温度30℃、または60℃、印加電圧500V、充電時間1分間とし、体積抵抗率を測定した。
【0044】
【表1】