(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110771
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】金属材料、および、屋外使用可能部品
(51)【国際特許分類】
C22F 1/057 20060101AFI20230802BHJP
C25D 11/04 20060101ALI20230802BHJP
C25D 11/16 20060101ALI20230802BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20230802BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230802BHJP
C22F 3/00 20060101ALN20230802BHJP
【FI】
C22F1/057
C25D11/04 304
C25D11/16
C22F1/04 A
C22F1/00 681
C22F1/00 623
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 613
C22F1/00 640A
C22F1/00 673
C22F1/00 682
C22F3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012403
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊典
(72)【発明者】
【氏名】谷口 誠典
(72)【発明者】
【氏名】北村 和大
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晃
(72)【発明者】
【氏名】篠永 東吾
(57)【要約】
【課題】意匠性、および、耐食性に優れた陽極酸化層を生成できる金属材料、および、屋外使用可能部品を提供する。
【解決手段】金属材料1は、母材10と、母材10上に形成され、複数の金属介在物を含む形成層20と、を備え、複数の金属介在物の全てはそれぞれ、300ナノメートル以下の最大長さ、および、100ナノメートル以下の最小長さを有する。複数の金属介在物は晶出物であることが好ましい。屋外使用可能部品3は、金属材料1を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、
前記母材上に形成され、複数の金属介在物を含む形成層と、を備え、
前記複数の金属介在物の全てはそれぞれ、300ナノメートル以下の最大長さ、および、100ナノメートル以下の最小長さを有する、
金属材料。
【請求項2】
前記複数の金属介在物は晶出物である、
請求項1に記載の金属材料。
【請求項3】
前記複数の金属介在物の少なくとも一部は、10ナノメートル以下の前記最小長さを有する、
請求項1、または、2に記載の金属材料。
【請求項4】
前記複数の金属介在物の少なくとも一部は、1ナノメートル以下の前記最小長さを有する、
請求項1、または、2に記載の金属材料。
【請求項5】
前記形成層上に形成された陽極酸化層を備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の金属材料。
【請求項6】
前記形成層は、100ナノメートルから10マイクロメートルの範囲の最大厚さを有する、
請求項5に記載の金属材料。
【請求項7】
前記複数の金属介在物は、
鉄を含む第一金属介在物と、
マグネシウムを含む第二金属介在物と、
シリコンを含む第三金属介在物と、
銅を含む第四金属介在物と、
を含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の金属材料。
【請求項8】
前記第一金属介在物、前記第二金属介在物、および、前記第三金属介在物のそれぞれは、10ナノメートル以下の前記最大長さを有する、
請求項7に記載の金属材料。
【請求項9】
前記第四金属介在物は、300ナノメートル以下の前記最大長さを有する、
請求項7、または、8に記載の金属材料。
【請求項10】
前記母材は、アルミニウムを含む、
請求項1から9のいずれか一項に記載の金属材料。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の金属材料を備える屋外使用可能部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料、および、屋外使用可能部品の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金等の金属材料が知られている。例えば、特許文献1では、母材の表面がアルマイト処理されることによって、当該表面に、アルマイト皮膜を構成する陽極酸化層が形成されたアルミニウム合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0284528号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウム合金等の金属材料は、例えば屋外使用可能部品に使用されている。アルミニウム合金等の金属材料には、金属材料としての特性の向上のために種々の金属介在物が含まれている。金属材料においては、母材に含まれる金属介在物が、母材上に形成される陽極酸化層の意匠性、および、耐食性に影響を及ぼす。金属材料、および、当該金属材料を備える屋外使用可能部品においては、陽極酸化層の意匠性、および、耐食性の向上が望まれている。
【0005】
本開示の目的は、意匠性、および、耐食性に優れた陽極酸化層を生成できる金属材料、および、屋外使用可能部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1側面に従う金属材料は、母材と、母材上に形成され、複数の金属介在物を含む形成層と、を備え、複数の金属介在物の全てはそれぞれ、300ナノメートル以下の最大長さ、および、100ナノメートル以下の最小長さを有する。
第1側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性に優れた陽極酸化層を生成できる。
【0007】
第1側面に従う第2側面の金属材料において、複数の金属介在物は晶出物である。
第2側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性により優れた陽極酸化層を生成できる。
【0008】
第1、または、第2側面に従う第3側面の金属材料において、複数の金属介在物の少なくとも一部は、10ナノメートル以下の最小長さを有する。
第3側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性により優れた陽極酸化層を生成できる。
【0009】
第1、または、第2側面に従う第4側面の金属材料において、複数の金属介在物の少なくとも一部は、1ナノメートル以下の最小長さを有する。
第4側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性により優れた陽極酸化層を生成できる。
【0010】
第1から第4側面のいずれか一つに従う第5側面の金属材料は、形成層上に形成された陽極酸化層を備える。
第5側面の金属材料によれば、金属材料が屋外使用可能部品等の部品に用いられることにより、当該部品の意匠性、および、耐食性を向上できる。
【0011】
第5側面に従う第6側面の金属材料において、形成層は、100ナノメートルから10マイクロメートルの範囲の最大厚さを有する。
第6側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性により優れた陽極酸化層を生成できる。
【0012】
第1から第6側面のいずれか一つに従う第7側面の金属材料において、複数の金属介在物は、鉄を含む第一金属介在物と、マグネシウムを含む第二金属介在物と、シリコンを含む第三金属介在物と、銅を含む第四金属介在物と、を含む。
第7側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性により優れた陽極酸化層を生成できる。特に、透明度に優れた陽極酸化層を生成できる。
【0013】
第7側面に従う第8側面の金属材料において、第一金属介在物、第二金属介在物、および、第三金属介在物のそれぞれは、10ナノメートル以下の最大長さを有する。
第8側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性により優れた陽極酸化層を生成できる。特に、透明度に優れた陽極酸化層を生成できる。
【0014】
第7、または、第8側面に従う第9側面の金属材料において、第四金属介在物は、300ナノメートル以下の最大長さを有する。
第9側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性により優れた陽極酸化層を生成できる。特に、透明度に優れた陽極酸化層を生成できる。
【0015】
第1から第9側面のいずれか一つに従う第10側面の金属材料において、母材は、アルミニウムを含む。
第10側面の金属材料によれば、意匠性、および、耐食性により優れたアルマイト層を生成できる。
【0016】
第11側面の屋外使用可能部品は、第1から第10側面のいずれか一つに従う金属材料を備える。
第11側面の屋外使用可能部品によれば、意匠性、および、耐食性に優れた陽極酸化層を生成できる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の金属材料、および、屋外使用可能部品によれば、意匠性、および、耐食性に優れた陽極酸化層を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】第1実施形態に係る金属材料を形成する工程を示すフローチャート。
【
図3】(a)電子線照射処理が行われている状態の金属材料を示す断面図。(b)電子線照射処理が行われた後の金属材料を示す断面図。
【
図5】第2実施形態に係る金属材料を形成する工程を示すフローチャート。
【
図6】(a)陽極酸化処理が行われた後の金属材料を示す断面図。(b)染色処理、および、封孔処理が行われた後の金属材料を示す断面図。
【
図7】(a)比較例のアルミニウム合金材料の表面を示すTEM画像。(b)実施例のアルミニウム合金材料の表面を示すTEM画像。
【
図8】比較例のアルミニウム合金材料の断面を示すTEM画像。
【
図9】実施例のアルミニウム合金材料の断面を示すTEM画像。
【
図10】実施例、および、比較例のアルミニウム合金材料の透明度データ。
【
図11】実施例、および、比較例のアルミニウム合金材料の耐食性データ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る金属材料1の構成が説明される。第1実施形態に係る金属材料1の構成の説明には、
図1が用いられる。金属材料1は、例えば人力駆動車用部品、および、釣り部品等の種々の製品に使用される。金属材料1は、アルミニウム合金によって構成される。アルミニウム合金の種類は、限定されないが、2000系のAl-Cu系アルミニウム合金であることが好ましい。金属材料1は、母材10、および、母材10上に形成される形成層20を備える。母材10は、陽極酸化層を形成可能な金属を含む。陽極酸化層を形成可能な金属は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タンタル等、が挙げられる。本実施形態において、母材10は、アルミニウムを含む。母材10は、マグネシウム、チタン、または、タンタルを含んでもよい。
【0020】
母材10は、アルミニウム合金中に複数の金属介在物を含む。複数の金属介在物は、金属材料1の強度等の特性を向上させるために、母材10中に含まれる。母材10は、複数の金属介在物として、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、および、銅(Cu)を含む。母材10は、複数の金属介在物として、その他の元素を含んでいてもよい。複数の金属介在物は、母材10中に晶出物として存在している。
【0021】
母材10は、アルミニウム合金に、Fe、Mg、Si、および、Cu等の金属介在物を構成する各元素が含有された原料が溶解炉中で溶解され、溶解された原料が所定の鋳型などに流し込まれた状態において固化されることによって形成される。形成層20を除いた、母材10の厚さは特に限定されず、任意の厚さとすることができる。
【0022】
形成層20は、母材10上に形成される。形成層20は、複数の金属介在物を含む。
【0023】
具体的には、形成層20は、複数の金属介在物として、鉄(Fe)を含む第一金属介在物と、マグネシウム(Mg)を含む第二金属介在物と、シリコン(Si)を含む第三金属介在物と、銅(Cu)を含む第四金属介在物と、を含むことが好ましい。形成層20は、複数の金属介在物として、その他の元素を含んでいてもよい。複数の金属介在物は、晶出物であることが好ましい。
【0024】
形成層20中に含まれる複数の金属介在物は、従来のアルミニウム合金材料や母材10に含まれる金属介在物と比べて微細化されている。具体的には、形成層20中に含まれる複数の金属介在物の全てはそれぞれ、300ナノメートル(nm)以下の最大長さ、および、100ナノメートル(nm)以下の最小長さを有する。
【0025】
本明細書において、最大長さとは、単一の金属介在物を投影的に見た場合、その金属介在物が有する最も長い長さのことをいう。最小長さとは、単一の金属介在物を投影的に見た場合、その金属介在物が有する最も短い長さのことをいう。
【0026】
複数の金属介在物が300nm以下の最大長さ、および、100nm以下の最小長さを有することによって、形成層20上に陽極酸化層が形成された場合に、当該陽極酸化層の意匠性、および、耐食性が向上される。意匠性、および、耐食性の向上の理由については後述する。
【0027】
複数の金属介在物の少なくとも一部は、10nm以下の最小長さを有することが好ましく、1nm以下の最小長さを有することがより好ましい。複数の金属介在物の一部が10nm以下、または、1nm以下の最小長さを有することによって、形成層20上に陽極酸化層が形成された場合に、当該陽極酸化層の意匠性、および、耐食性がより向上される。
【0028】
Feを含む第一金属介在物、Mgを含む第二金属介在物、および、Siを含む第三金属介在物のそれぞれは、10nm以下の最大長さを有することが好ましい。Cuを含む第四金属介在物は、300nm以下の最大長さを有することが好ましい。第一金属介在物、第二金属介在物、および、第三金属介在物のそれぞれの最大長さが10nm以下、第四金属介在物の最大長さが300nm以下であることによって、形成層20上に陽極酸化層が形成された場合に、当該陽極酸化層の意匠性、および、耐食性がより向上される。
【0029】
形成層20は、100nmから10μmの範囲の最大厚さを有することが好ましい。形成層20の最大厚さが100nmから10μmであることによって、形成層20上に陽極酸化層が形成された場合に、当該陽極酸化層の意匠性、および、耐食性がより向上される。
【0030】
第1実施形態に係る金属材料1を形成する工程について説明される。当該工程の説明には、
図2、および、
図3が用いられる。金属材料1は、
図2に示されるステップS1からS3までの処理が行われることによって形成される。
【0031】
ステップS1において、溶体化処理が行われる。溶体化処理においては、アルミニウムにFe、Mg、Si、および、Cu等の各元素成分が所定の割合で含有された原料が準備される。当該原料は、溶解炉内で溶解される。溶解された原料であるアルミニウム合金の溶湯は、必要に応じて精製処理が施される。精製されたアルミニウム合金の溶湯は、所定の鋳型などに流し込まれ、水冷によって急冷される。アルミニウムに、Fe、Mg、Si、および、Cu等の各元素成分が互いに溶け合った固溶体状態の材料が形成される。
【0032】
ステップS2において、時効化処理が行われる。時効化処理として、人工時効化処理が行われることが好ましい。人工時効化処理においては、ステップS1の溶体化処理において急冷された材料が200℃付近で所定時間再度加熱されることによって、アルミニウム中に過飽和に溶け込まれた元素である金属介在物が晶出物として析出される。金属介在物が晶出物として析出されることによって、アルミニウム合金の強度が向上される。
【0033】
ステップS3において、電子線照射処理が行われる。電子線照射処理においては、
図3(a)に示されるように、ステップS2の時効化処理が行われた後のアルミニウム合金材料の表面に対して、電子線が照射される。照射される電子線のエネルギーは、1~20J/cm
2であることが好ましい。電子線が照射される回数は、任意の回数とすることができ、例えば1~20回とすることができる。電子線照射処理が行われることによって、アルミニウム合金材料の表層の温度が300~4000Kとされる。
【0034】
上述の如く電子線照射処理が行われることによって、
図3(b)に示されるように、母材10上に形成層20が形成される。電子線照射処理によって、形成層20中に含まれる金属介在物が微細化される。上述の如く、形成層20中に含まれる複数の金属介在物は、最大長さが300nm以下、および、最小長さが100nm以下となるように微細化される。金属介在物が微細化されることによって、形成層20の表層に、意匠性、および、耐食性に優れた陽極酸化層が形成可能となる。
【0035】
ステップS1からS3までの処理が行われることによって、
図1、および、
図3(b)に示される金属材料1が形成される。
【0036】
(第2実施形態)
第2実施形態の金属材料2の構成が説明される。第2実施形態の金属材料2の構成の説明には、
図4が用いられる。第1実施形態と共通する構成については、第1実施形態と同一の符号が付され、重複する説明が省略される。第2実施形態に係る金属材料2が第1実施形態に係る金属材料1と異なる点は、さらに陽極酸化層30、および、水和物層40を備える点である。
【0037】
陽極酸化層30は、形成層20上に形成される。陽極酸化層30は、酸化皮膜として形成される。陽極酸化層30は、形成層20がアルマイト処理されることによって形成される。陽極酸化層30の厚さは特に限定されず、任意の厚さとすることができる。
【0038】
水和物層40は、陽極酸化層30上に形成される。水和物層40は、水和物を含む。水和物層40は、陽極酸化層30が封孔処理されることによって形成される。陽極酸化層30上に水和物層40が形成されることによって、陽極酸化層30の耐食性が向上される。水和物層40によって多孔質の陽極酸化層30の微細孔が封じされることによって、陽極酸化層30が染色された場合、染料が当該微細孔に保持される。染料が微細孔に保持されることによって、陽極酸化層30の色落ちが抑制される。水和物層40の厚さは特に限定されず、任意の厚さとすることができる。
【0039】
第2実施形態に係る金属材料2を形成する工程について説明される。当該工程の説明には、
図5、および、
図6が用いられる。金属材料2は、
図5に示されるステップS1からS6までの処理が行われることによって形成される。ステップS1からS3までの処理は、第1実施形態と同様であるので、説明が省略される。
【0040】
ステップS1からS3までの処理が行われた後、ステップS4において、陽極酸化処理が行われる。陽極酸化処理においては、ステップS1からS3までの処理が施されたアルミニウム合金を陽極として溶液中で電気分解が行われることによって、
図6(a)に示されるように、形成層20上に陽極酸化層30が形成される。陽極酸化層30は、多孔質に形成される。
【0041】
ステップS5において、染色処理が行われる。染色処理においては、ステップS4の陽極酸化処理が施されたアルミニウム合金材料が、染料の中に漬けられる。染色処理が行われることによって、陽極酸化層30の孔に染料が入り込む。陽極酸化層30の孔に染料が入り込むことによって、陽極酸化層30が染色される。
【0042】
ステップS6において、封孔処理が行われる。封孔処理においては、ステップS5の染色処理が施されたアルミニウム合金材料の陽極酸化層30が沸騰水、加熱水蒸気、または、酢酸Ni等で処理されることによって、
図6(b)に示されるように、陽極酸化層30上にアルミナ水和物を含む水和物層40が形成される。水和物層40が形成されることによって、陽極酸化層30の微細孔が塞がれ、陽極酸化層30の微細孔から染料が外部に出てしまうのが抑制される。
【0043】
ステップS1からS6までの処理が行われることによって、
図4、および、
図6(b)に示される金属材料2が形成される。ステップS6の処理は、必ずしも行われる必要はない。
【0044】
形成層20中に含まれる複数の金属介在物が300nm以下の最大長さ、および、100nm以下の最小長さを有することによって、形成層20上に形成される陽極酸化層30の意匠性、および、耐食性が向上される。
【0045】
意匠性の向上の理由について説明される。形成層20上の陽極酸化層30は、多孔質である。形成層20上に陽極酸化層30が形成されると、陽極酸化層30の微細孔に金属介在物の一部が取り込まれる。陽極酸化層30に取り込まれた金属介在物は、陽極酸化層30の透明度に影響を与える。第1実施形態に係る金属材料1、および、第2実施形態に係る金属材料2においては、形成層20中に含まれる複数の金属介在物の最大長さが300nm以下、および、最小長さが100nm以下であることによって、金属介在物によって与えられる陽極酸化層30の透明度への影響が低減される。金属介在物によって与えられる陽極酸化層30の透明度への影響が低減されることによって、陽極酸化層30の透明度が向上される。透明度が向上されることによって、陽極酸化層30が染色された場合に、所望の色が出され易くなる。所望の色が出され易くなることによって、陽極酸化層30の意匠性が向上される。
【0046】
耐食性の向上の理由について説明される。陽極酸化層30の微細孔に金属介在物が取り込まれると、当該金属介在物は陽極酸化層30の欠陥となり、当該欠陥を起点として腐食が起こり易くなる。第1実施形態に係る金属材料1、および、第2実施形態に係る金属材料2においては、形成層20中に含まれる複数の金属介在物の最大長さが300nm以下、および、最小長さが100nm以下であることによって、欠陥によって与えられる陽極酸化層30の耐食性への影響が低減される。欠陥によって与えられる陽極酸化層30の耐食性への影響が低減されることによって、陽極酸化層30の耐食性が向上される。
【0047】
(屋外使用可能部品)
図1、および、
図4に示される屋外使用可能部品3は、屋外で使用可能な部品である。屋外使用可能部品3には、屋外で使用可能な任意の部品が含まれ、例えば人力駆動車用部品、および、釣り部品が含まれる。人力駆動車用部品の例としては、クランクアーム、ペダル、フロントスプロケット、リアスプロケット、フロントハブ組立体、リアハブ組立体、リムブレーキ装置、ディスクブレーキ装置、ディスクブレーキローター、ブレーキ操作装置、フロントディレーラ、リアディレーラ、変速操作装置、駆動チェーン、フロントホイール、リアホイール、フロントサスペンション、リアサスペンション、シートポスト、電動ドライブユニット、ハンドル、サドル、マッドガード等、が挙げられる。釣り部品の例としては、リール、ロッド、ルアー等、が挙げられる。屋外使用可能部品3は、第1実施形態に係る金属材料1、および/または、第2実施形態に係る金属材料2を備える。金属材料1、および/または、金属材料2は、屋外使用可能部品3の任意の箇所に用いられる。
【0048】
屋外使用可能部品3が装着される人力駆動車は、少なくとも1つの車輪を有し、少なくとも人力駆動力によって駆動できる乗り物である。人力駆動車は、例えばマウンテンバイク、ロードバイク、シティバイク、カーゴバイク、ハンドバイク、および、リカンベントなど種々の種類の自転車を含む。人力駆動車が有する車輪の数は限定されない。人力駆動車は、例えば1輪車および2輪以上の車輪を有する乗り物を含む。人力駆動車は、人力駆動力のみによって駆動できる乗り物に限定されない。人力駆動車は、人力駆動力だけではなく、電気モータの駆動力を推進に利用するE-bikeを含む。E-bikeは、電気モータによって推進が補助される電動アシスト自転車を含む。
【実施例0049】
実施例を挙げて本発明は具体的に説明されるが、本発明は当該実施例に限定されない。
【0050】
(実施例)
アルミニウムにFe、Mg、Si、および、Cuの各元素成分が所定の割合で含有された原料が、500℃に加熱された状態で90分間保持され、溶解炉内で溶解される。溶解されたアルミニウム合金の溶湯は、所定の鋳型に流し込まれ板状とされた後、水冷によって強制急冷される。急冷によって、アルミニウムにFe、Mg、Si、および、Cuの各元素成分が互いに溶け合った固溶体状態の板状材料が形成される。固溶体状態の板状材料は、175℃、8時間の人工時効化処理が施される。人工時効化処理によって、アルミニウム中にFe、Mg、Si、および、Cuの各元素成分が晶出物として析出されたアルミニウム合金板が形成される。
【0051】
当該アルミニウム合金板の表面に対して、1~20J/cm2の電子線が照射される。硫酸を15%含む20℃の電解液中で、電子線照射後のアルミニウム合金板を陽極とした電気分解が行われる。電気分解においては、1.3A/dm2の電流が15分間流される。アルミニウム合金板の表面に、陽極酸化層30に相当するアルマイト皮膜が形成される。
【0052】
アルマイト皮膜が形成されたアルミニウム合金板が、50℃の黒色染料の中に3分間漬けられる。染色後のアルミニウム合金板が、酢酸Ni溶液中で90℃にて10分間保持されることによって、アルマイト皮膜が封孔される。以上のようにして、実施例のアルミニウム合金材料が生成される。
【0053】
(比較例)
上述の電子線照射が施されなかったこと以外、実施例のアルミニウム合金材料と同様の処理が行われることによって、比較例のアルミニウム合金材料が生成される。
【0054】
(実施例と比較例との対比結果)
図7(a)、および、
図8はそれぞれ、比較例のアルミニウム合金材料のアルマイト皮膜の表面、および、断面を示す画像である。
図7(b)、および、
図9はそれぞれ、実施例のアルミニウム合金材料のアルマイト皮膜の表面、および、断面を示す画像である。
【0055】
図7から
図9に示されるように、実施例のアルミニウム合金材料のアルマイト皮膜に含まれる金属介在物は、比較例のアルミニウム合金材料のアルマイト皮膜に含まれる金属介在物よりも微細化された。具体的には、実施例のアルミニウム合金材料のアルマイト皮膜に含まれる全ての金属介在物は、最大長さが300nm以下、最小長さが100nm以下となるまで微細化された。特に、アルマイト皮膜に含まれる金属介在物のうち、Fe、Mg、および、Siは、最大長さが10nm以下となるまで微細化された。
【0056】
図10は、実施例、および、比較例のアルミニウム合金材料のアルマイト皮膜の反射率を示している。透明度の測定には、アルマイト皮膜の一部の箇所が用いられた。実施例のアルミニウム合金材料においては、比較例のアルミニウム合金材料と比べて、波長1000nm以下の可視領域におけるアルマイト皮膜の透明度が約2倍向上された。
【0057】
(アルマイト皮膜の耐食性)
図11は、実施例、および、比較例のアルミニウム合金材料の、CASS試験によるピット深さを示している。CASS試験は、JIS H8681-2の規格に従って行われた。実施例のアルミニウム合金材料においては、比較例のアルミニウム合金材料と比べて、CASS試験によるピット深さが95%減少された。
【0058】
以上の如く、本発明の第1実施形態に係る金属材料1においては、溶体化処理、および、時効化処理が施されたアルミニウム合金の表面に電子線が照射されることによって、母材10上に形成層20が形成され、形成層20に含まれる金属介在物が微細化された。
【0059】
形成層20に含まれる金属介在物の微細化によって、形成層20上に形成される陽極酸化層30の透明度が向上された。陽極酸化層30の透明度の向上によって、陽極酸化層30を所望の色にし易くなる。陽極酸化層30を所望の色にし易くなることによって、意匠性が向上される。形成層20に含まれる金属介在物の微細化によって、形成層20上に形成される陽極酸化層30の耐食性が向上された。