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特開2023-110772カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を含む黒鉛材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110772
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を含む黒鉛材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/225 20170101AFI20230802BHJP
   B01J 21/18 20060101ALI20230802BHJP
   C01B 3/08 20060101ALI20230802BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230802BHJP
【FI】
C01B32/225
B01J21/18 A
C01B3/08 Z
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012405
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】500055935
【氏名又は名称】佐想 光廣
(71)【出願人】
【識別番号】517217232
【氏名又は名称】クロステクノロジーラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】佐想 光廣
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
4K021
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AC16B
4G146CB12
4G146CB14
4G146CB21
4G146CB37
4G169AA02
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169CA03
4G169CA08
4G169CA13
4K021AA01
4K021BA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】天然黒鉛を用いて安価で、酸化還元反応触媒機能に優れるカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛又はその金属錯体を提供することを課題とする。
【解決手段】天然黒鉛中に存在するカルビン基を有する炭化水素RC(但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。)を含む黒鉛又はその金属錯体を活物質として、高い酸化還元反応促進機能により、水から水素ガスを供給する、海水で発電する、又は排ガスの還元処理をする材料を供給する。天然黒鉛が石墨を処理して得られる膨張黒鉛(EG)、膨張黒鉛を圧縮成形してなる柔軟性黒鉛シート(FGS)又はFGS膨化処理してなる膨化黒鉛シート20である。天然黒鉛から滲出したカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛が水中で金属に結合して、水中に存在することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルビン基を有する炭化水素RC(但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。)を含む黒鉛を含むことを特徴とする天然黒鉛。
【請求項2】
天然黒鉛が石墨を処理して得られる膨張黒鉛(EG)、膨張黒鉛を圧縮成形してなる柔軟性黒鉛シート(FGS)又はFGS膨化処理してなる膨化黒鉛シートである請求項1記載の天然黒鉛。
【請求項3】
天然黒鉛から滲出したカルビン基を有する炭化水素RC(但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。)を含む黒鉛又はその金属錯体を含むことを特徴とする電解液。
【請求項4】
カルビン基を有する炭化水素RC(但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。)を含む黒鉛による酸化還元反応により水分解して水素を発生させる膨張化天然黒鉛。
RC+O→RCO++e-, 2H++e-→H2
【請求項5】
カルビン基を有する炭化水素RC(但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。)による酸化還元反応により発電反応を繰り返す膨化FGSからなる空気電池の空気極。
RC+O→RCO++e-, 2RCO++2e--→2RC+O2
【請求項6】
カルビン基を有する炭化水素RC(但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。)を含む黒鉛C2H3による酸化還元反応により廃棄ガス中のNOを還元して窒素を発生させる膨化FGSからなる排気ガス処理触媒。
RC+2NO→RC++e-+N2
【請求項7】
柔軟性黒鉛シート(FGS)を水電解してグラファイト層に水素原子を吸蔵させる工程と、この黒鉛シートを高温加熱して、グラファイト層を層間分離させて膨化させる工程と、この膨化したグラファイト層に硝酸を浸透させる工程と、硝酸処理された膨化グラファイトシートを金属シートとともに水中又は電解液中で浸漬し、膨化グラファイト層中のカルビン基を有する炭化水素RC(但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。)を含む黒鉛ラジカルと金属イオンと結合させる工程とを含むことを特徴とする遷移金属カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛錯体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛材料及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に天然黒鉛は石墨と呼ばれる。黒鉛は、地球の地殻変動などの高い圧力と温度によって、植物などの炭素成分から形成される。その構造は、横方向に結合しているカーボン層(グラフェン)が縦方向に積層して形成されている。この石墨は、カーボンを2700~3000℃程度の高温度で空気を遮断した状態で熱処理工法により、形成される。この種石墨は膨張させると、黒鉛層間化合物となり、層間にリチウムイオン等のイオンを貯蔵することができる。よって、リチウムイオン電池等の二次電池電極材料として広く利用されている。他方、フレキシブルな黒鉛シート(FGS:Flexible Graphite Sheet)は摩擦抵抗の少ないシートであり、電極以外の用途に使用されている。これは、天然石墨から精製した膨張黒鉛(EG: Exfoliated Graphite)を圧縮してシート状に形成したものである。そのため、これを再度膨張させると、層間化合物とすることができる。そこで、発明者はその層間化合物を、電解液中に浸水し、水中から水素ガスを発生させた。その理由は、定かでない。おそらく、層間化合物が水中に活物質を放出し、これが層間化合物の対極として用いる金属電極表面で作用し、水素ガスを発生させると思われる(図2A及び図2B)。そこで、この現象の確認のため、TOF-ESD(飛行時間型電子励起イオン離脱)法による精査の結果、柔軟性黒鉛シート(FGS)からカルビン基を有する炭化水素(カルビン、特にエチリジン)という活物質が放出されていることを発見するに至った。
【0003】
ところで、水分解により、水素ガスの取得又は電気エネルギーの取得が実現すれば、公害もなく、好ましい地球環境が実現する。そこで、現在のところ、この水分解エネルギー源として太陽光エネルギーを利用する水分解システムが提案されている。その一つが光半導体電極を使用する方法で、古くは本田―藤島効果として知られる酸化チタンTiOを利用する方法である。しかしながら、この方法は可視光エネルギーの利用率が低いため、近年、(1)吸収波長が450nmより長波長である半導体層と、(2)この半導体層と接するAg又はAlからなる群より選ばれる反射増加層とを利用する方法(特許文献1)が提案された。他方、3つのルテニウム中心を含有する金属錯体を光捕集分子として採用し、これを近赤外光で励起すると、水素発生に成功したとの発表がされている(非特許文献1)。この太陽光エネルギーを利用する方法は白金等の各種金属及び光触媒半導体を用いるため、高価であるだけでなく、その利用は日中に限られるという問題がある。そこで、太陽光エネルギーを用いないで水分解を行い得る方法、水分解触媒として鉄―コバルトリン化物による合金化触媒(非特許文献2)、人工マンガン触媒(非特許文献3)を用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-23940号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】:Angewandte Chemie International Edition 2017年10月16日掲載
【非特許文献2】Nature2016年12月26日掲載:東北大学 tan助手ら
【非特許文献3】Journal of the American chemical society 2017年1月17日掲載:理化学研究所 中村ら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸化チタンを除き、太陽エネルギーや外部電力を用いない方法は、いずれの触媒も量産性がないので、高価であり、実用性に程遠い。そこで、本発明は、(1)太陽光エネルギーや外部電力を使うことなく、(2)しかも安価で水分解又は水素ガス生成を行い得る安価な新規触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、日本国京阪奈プラザ・ラボ棟にあるTF技研(上田一之博士代表)で実験結果を精査した。
水分解に使用した黒鉛電極を図1に示すTOF-ESD(飛行時間型電子励起イオン離脱)法により、鋭意精査した。その結果、天然石墨から離脱する物質に、エチレンの水素化反応において、白金触媒表面に生成するカルビン基を有する炭化水素という化学種(例えばカルビン類RC:但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。)が含まれることを発見した。すなわち、本検査方法により、分子量27のカルビン基を有する炭化水素(ethylidyne or methylcarbyne)の発生又は存在を確認した。詳しくは、天然石墨から柔軟性黒鉛シート(FGS)は得られる。このシートを膨張させる。その試料からイオン又はガスが放出される。このTOF-ESD(飛行時間型電子励起イオン離脱)法により、測定すると、その質量数から、図2に示すように、水素1および2、酸素16及び32、水18、一酸化炭素28、二酸化炭素44に相当する質量数のもの他に質量数28の炭化水素エチレンとともに質量数27のカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛の存在の可能性が見出された。
【0008】
したがって、本発明は、天然黒鉛(石墨)中に、酸化還元触媒として有用な活物質のカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛の発見に基づくものである。その要旨とするところは、活物質としてカルビン基を有する炭化水素を含む天然黒鉛にある。そして、石墨を処理した膨張黒鉛から形成される柔軟性黒鉛シート(FGS)を水分解、空気電池、排ガス処理触媒として利用する用途発明を含むものである。
すなわち、第1の用途は、カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛による酸化還元反応により水分解して水素ガスを発生させる黒鉛及び柔軟性黒鉛シート(FGS)にある。
RC+O→RCO+e-, 2H++e-→H2↑
第2の用途は、カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛による酸化還元反応により発電反応を繰り返す黒鉛及び柔軟性黒鉛シート(FGS)からなる空気電池正極材料にある。
RC+O→RCO+e-(電子放出の酸化反応),
RCO+e--→RC+O(電子授受の還元反応)
そして、第3の用途は、カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛による酸化還元反応により廃棄ガス中のNOを還元して窒素を発生させる膨張黒鉛及び柔軟性黒鉛シート(FGS)の排気ガス処理のための触媒用途にある。
RC+2NO→RCO++2e-+N2↑
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、層間を膨張させたグラファイト層は、カルビンラジカルの代表であるカルビン基を有する炭化水素RC(但し、RはC2n-1であって、nは整数で、2又は3が好ましい。また、水素の一部は他の元素又は分子で置換されることもある。エチリジン又はプロピリジン)を含む。これを水中で電極とし、銅電極を対極として使用すると、最初は黒鉛シート側からの静かな水素の発生で始まる(図2A)。次いで、黒鉛シートがカルビン基を有する炭化水素を水中に放出し、対極にある銅電極と接触すると激しく水分解を開始し、水素を含む気体を生成することが見出される(図2B)。その結果、TOF-ESD(飛行時間型電子励起イオン離脱)法により精査すると、天然石墨から膨張黒鉛を介し、プレス加工により製造される柔軟性黒鉛シート(FGS)から、そしてその黒鉛シートを加熱膨張化処理した膨化黒鉛シートから、また、その黒鉛シートを浸漬した電極表面から、離脱する分子量27と28の物質の放出が確認され(図7A,B及び図8A,B,C)、分子量から分子量27のカルビン基を有する炭化水素又は分子量28のエチレンを含むことを確認した。次の現象からカルビン基を有する炭化水素の存在を確認した。
(1)カルビン基を有する炭化水素RCは水中で酸素と反応し、
RC+O→RCO+e-となり、
H2Oとの反応によりRCO+e-→カルボン酸RCOOHを形成するとともに水素ガスH2を発生する。これによりカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛の酸化還元反応が確認される。したがって、本発明の黒鉛材料を使用して水分解を行うことができる。
(2)本発明の黒鉛材料を金属空気電池の正極として使用すると、カルビン基を有する炭化水素による酸化還元反応を酸素Oの補給により、電子を放出する一方、他極から電子を受給すると、カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛に戻る可逆反応を繰り返し、長時間の発電を行うことができる。
RC+O→RCO+e-(酸素との反応)
RCO+e-→RC+O(正極での電子との反応)
(3)本発明の黒鉛材料を自動車廃棄ガス配管に設けると、カルビン基を有する炭化水素は廃棄ガス中の一酸化窒素NOと反応し、これを還元し、窒素ガスに還元する。したがって、排気ガスの浄化触媒として有用である。
2RC+2NO→2RCO+2e-+N
【0010】
本発明に係る黒鉛には天然黒鉛(石墨)だけでなく、カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を含むことを必須とする。カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛の機能はすでに各種実験により確認することができる。しかし、天然黒鉛(石墨)及び柔軟性黒鉛シート(FGS)にカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛が存在することを発見したのは本件発明者が初めてである。そして水中に石墨からカルビン基を有する炭化水素が放出されて存在し、対極の金属とカルビン基を有する炭化水素は錯体を形成しての機能を検証したのも本件発明者が初めてである。それ考慮すると石墨を精製して得られる黒鉛(Exfoliated Graphite: EG)、及びそれから形成できるところの、酸化黒鉛を含む黒鉛層間化合物は新規な電極材料であるということができる。また、石墨から放出されたカルビン基を有する炭化水素又はその金属錯体を含む電解液は、新規な電解液を構成するということができる。
黒鉛は高温下で急激に熱分解し、その分解に伴う生成物のガス化圧力で黒鉛層間を層面(六角網平面)に垂直な方向に膨化させて嵩高い膨張黒鉛となる。その製造は、(1)濃硫酸、硝酸などの無機酸、(2)濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、過酸化水素、或いは重クロム酸塩などの酸化剤とともに、黒鉛層間化合物を生成させた後、中和工程を経て、さらに水洗、乾燥工程を経て、数百℃以上の急速加熱処理工程を経て製造される。工業的には通常、図3に示すように、製造される。黒鉛粉末を、100℃の濃硫酸(95~98%)90%と濃硝酸(比重1.33)10%の混酸溶液中に、浸漬し、反応させ、硫酸―黒鉛層間化合物(H2SO4-GIC(Graphite Intercalation Compounds))を製造する。次いで、その後水洗、乾燥、急速加熱を経て製品化する。これを液相反応法という。その他、(1)加熱処理時に発生する蒸気中に含まれる重金属を少なくする過酸化水素を用いる方法、(2)ギ酸を用い、黒鉛粉末をギ酸水溶液中で電解酸化し、ギ酸黒鉛層間化合物(HCOOH-GIC)とする電気化学法が知られている。これを利用することもできる。生成した黒鉛層間化合物、もしくは酸化黒鉛を急速加熱処理することによって、黒鉛層間の広がった膨張黒鉛が生成することができる。膨張後の形状は、膨張黒鉛の高倍率の断面形状の観測では多数の細孔が観測できる。図4は、この膨張黒鉛粉末を圧縮して膨張柔軟性黒鉛シート(膨張FGS)を製造する代表的な方法を示す。膨張黒鉛粉末をホッパーから振動型ベルトで予圧ロールに供給して板状型に予備成形した後、脱気及び精製のための加熱処理工程を経て、ロール成型工程にてシート状に成形する。特に、膨張黒鉛をバインダーなしでシート状に成形された柔軟性黒鉛シートは各種市販されている。
【0011】
カルビン基を有する炭化水素を含む柔軟性黒鉛シート(FGS)は、カルビン基を有する炭化水素を含む正極(カソード)又は空気極として使用される層間化合物である。本件化合物は、(1)金属イオンが層間化合物中に侵入すると、対極となるカーボン層との間に接触電位差の違いからマイクロセルを構成する。そして、(2)それに隣接するカーボン層との間にマイクロキャパシタを形成する構造ものと思われる(図9)。この層間化合物の形成には、全ての層が均一に拡張されるのが好ましい。層間隔0.34nmの未処理のグラファイトは50~100nmのナノサイズからナノ数百nmのサブナノサイズの層間隔にまで拡張されると、およそ10倍から30倍(300m2/g)の比表面積が得られる。したがって、比表面積は層間隔の均一拡張が得られたか否かの目安とすることができる。また、各層間隔が均一に拡張されたか否かは粉末X線回折パターンでも確認できる。すなわち、未処理のグラファイトでは層間隔0.34nmであり、粉末X線回折パターンに2θ=26°付近に明確なピークが観測される。これが、数百nmのサブナノサイズの層間隔にまで拡張されると、通常2θ=26°付近のピークが観測されなくなるからである。
【0012】
均一に層間隔が拡張された膨張化柔軟性黒鉛シート(FGS)は、層間化合物のイオン挿入容量を大きくすることができ、電池容量を大きくする。
本発明の1つの用途として、膨張黒鉛シート内での水素ガスの形成があるが、ここではRC+O→RCO+e-→RCOO+H2↑のカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛による水素ガスの形成だけでなく、カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を含む膨張カーボンシート(FGS)内でのナノ空間での次の現象が関与するものと思われる。金属イオンMe-は黒鉛層間化合物のナノ空間に侵入すると、黒鉛層に付着して対極との接触電位差によりマイクロセルを構成する。その起電力はマイクロセルに隣接する黒鉛層間隔のマイクロキャパシタに蓄積されることになる。この起電力でナノ空間ではマイクロセルが水素ガスを発生させると、微小容量Vのナノ空間では圧力が急激に高まる結果、ナノ空間での温度は急激に高まり、沸騰現象が生ずることになる。発熱はこの現象も関与すると考えられる。また、マイクロキャパシタでは蓄電容量が大きくなると、金属を電界蒸発させ、隣接する黒鉛層に移動付着させ、マイクロセルが移動する結果を招来すると思われる。本発明の膨化FGSシートは電子線励起イオン脱離法による分析により、分子量27のRC・の分子式で示されるカルビン基を有する炭化水素又はそのラジカルを含むことが見出されている。また、本発明の膨化グラファイトは硝酸等の酸化剤の酸化作用により形成されるエノラート構造C=Oを含む。そのエノラート構造は、そのギ酸HCOOHを経由する酸化還元反応に関与するものと思われる。また、塩水中での電解によりグラファイト又はグラフェン層間にNaイオンが侵入し、Naイオンの酸化還元反応の寄与もうけるものと思われる(図10)。したがって、本発明のカーボン材料は、石墨から得られる柔軟性黒鉛シート(FGS)を用いるのが好ましい。かかるシートはバインダーなしでプレス圧縮されて製造される。したがって、水や電解液の電解に使用され、電解によって水素を吸蔵し、その後のバーナー火炎などの赤化加熱によって水素を離脱させ、膨化させることができる。木炭塊、ナノカーボンをバインダーで結着したカーボン材、カーボン繊維シート、これらカーボン材は焼成して膨張化してもFGSと同様の効果は見られていない。したがって、天然黒鉛の形成時、地殻変動によってカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を含むカルビンが形成されるものと思われる。
【0013】
(膨張柔軟性黒鉛シートFGS内のイオンの質量分析)
京都府京阪奈プラザ・ラボ棟2階TF技研における水素顕微鏡により、試料からの電子励起イオン脱離を応用し、質量分析を行った(飛行時間型電子励起イオン脱離法:TOF-ESD法)。ここで、水素顕微鏡はScanning type Electron-Stimulated Desorption Ion Microscope (SESDIK)といわれ、図5に示すように、100~500eVの低速の電子をパルスで試料を照射すると、固体表面に吸着している水素や酸素その他の吸着種がイオン化されて真空中に飛び出してくる。これらを検出、増幅して信号とする。電子ビームはパルスとして照射するので、イオンの検出には飛行時間法(TOF)により、飛行時間の計算式を用いて計算する。この信号をTOFスペクトルとして表示すると、質量分析ができることになり、水素、酸素その他の吸着種のイオンの2次元分布を得ることができる。単に水素や酸素が検出できるだけでなく、結合や吸着状態の違いが脱離の運動エネルギーに投影して吸着対象を選別して検出し、化学的な質量分析ができる。
【0014】
(膨化柔軟性黒鉛シート(FGS)内のイオン質量分析)
未使用炭素膜(柔軟性黒鉛シートFGS)と水電解後の炭素膜(柔軟性黒鉛シートFGS)10mm×8mmとを、水素分析のため、加熱用ヒータ付きの試料ホルダーにセットする。測定例を図6A及び図6Bに示す。
図7Aは試料温度200℃までの加熱で表面から真空中に放出された不純物の昇温脱離スペクトルを示す。図7Bは試料温度290℃までの加熱で表面から真空中に放出された不純物の昇温脱離スペクトルを示す。右側の棒グラフは各質量の最終の放出量、左側は昇温の状態を示し、図7Aでは200℃までの昇温の様子を、図7Bでは200℃で一度飽和し、更に90℃昇温してピーク時点で加熱を中止して冷却した様子を示す。図8A,B,Cでは290℃までの昇温を、時間をおいて6回繰り返し、3回目、4回目、6回目の状態を示す。
図8Aの3回目の試料からの放出ガス(4分間)では1時間前の2回目の時の測定とはさほど変化はなく、図8Bでは4回目の試料からの放出ガス中にイオンポンプをon,しばらくして再び、イオンポンプを切る。試料からのガスを導入して最終値をわかりやすく表示する。図8Cは6回目の試料からの放出ガスを示す。以上の結果より、質量27、28の不純物のスペクトルが注目され、カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛とエチレンの両者が試料から放出されていることが測定データから伺える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る膨化柔軟性黒鉛シート(膨化FGS)を示す斜視図である。
図2A】本発明に係る膨化FGSからの水中での水素発生状態を示す写真である。
図2B】柔軟性黒鉛シート(FGS)から水中に放出されたカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛が電極に付着して形成したカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛金属錯体からの水素発生状態を示す写真である。
図3】膨張黒鉛(EG)の製造ラインを示す概要図である。
図4】膨張黒鉛(EG)からの柔軟性黒鉛シート(FGS)の製造ラインを示す概念図である。
図5】本発明に係る膨化柔軟性黒鉛シート(膨化FGS)中のカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を検出する水素顕微鏡TOF-ESD装置の概要図である。
図6A】未使用炭素膜(柔軟性黒鉛シートFGS)10mm×8mmの水素分析のため、加熱用ヒータ付きの試料ホルダーにセットした状態の写真である
図6B】水電解後の炭素膜(柔軟性黒鉛シートFGS)10mm×8mmの水素分析のため、加熱用ヒータ付きの試料ホルダーにセットした状態の写真である。
図7A】試料温度200℃までの加熱で試料表面から真空中に放出された不純物の昇温脱離スペクトルを示す。
図7B】試料温度290℃までの加熱で試料表面から真空中に放出された不純物の昇温脱離スペクトルを示す。
図8A】試料温度290℃までの昇温を時間をおいて6回繰り返し、その3回目の昇温脱離スペクトルを示す。
図8B】試料温度290℃までの昇温を時間をおいて6回繰り返し、その4回目の昇温脱離スペクトルを示す。
図8C】試料温度290℃までの昇温を時間をおいて6回繰り返し、その6回目の昇温脱離スペクトルを示す。
図9】膨化FGS内でのNa+ により酸素から電子が引き抜かれる状態を示す概念図である。
図10】膨化FGS内で金属イオンが形成するマイクロセル及びマイクロキャパシタの概念図である。
図11】食塩水中で電解作成して得られた膨化カーボンシートのEDS元素成分表である。
図12】水電解処理により水素吸蔵した黒鉛シートを膨化処理し、硝酸酸化処理したときの顕微鏡写真である。
図13】食塩水中で水分解発電処理により水素吸蔵した正極黒鉛シートを膨化処理し、硝酸酸化処理したときの顕微鏡写真及び膨化処理したカーボンシートを硝酸酸化処理したときのEDS元素成分表である。
図14A】膨化処理前の黒鉛シートの顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
図14B】膨化処理後の黒鉛多孔質構造体(B)の顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
図14C】膨化処理後の黒鉛多孔質構造体を濃硝酸浸漬処理後(C)の顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を含む黒鉛電極の製造)
本発明に係る黒鉛電極は図10に示すように、(1)金属イオンの侵入により対極となる黒鉛層とでマイクロセルを構成するとともに、(2)隣接する黒鉛層との間にマイクロキャパシタを構成するものと思われる。したがって、膨化黒鉛(EG)をバインダーなしでプレス成型して形成される柔軟性黒鉛シート(FGS)を10~15倍に膨張させて用いるのが好ましい。したがって、市販のFGSを購入して膨張液に12時間以上1昼夜浸漬する。又は硝酸添加溶液中で電解する。これらをバーナー等の火炎加熱で膨張させる。FGSはバインダーを使用していないので、火炎加熱で容易に膨張させることができる。
膨張液は、1リットルの水に硝酸50ml、ブドウ糖;0.5~1.0モル、NaCl;1.0~1.5モルを溶解して調製するのがよい。硝酸は黒鉛内部の酸化剤として機能し、電極内部に酸化黒鉛からエノラート構造を形成する。NaClは黒鉛内部でNa+を浸透させ、図9の機能を発揮させる。ブドウ糖はバーナー加熱による黒鉛層の膨張を容易にする。
【0017】
以下の方法で製造した硝酸処理後、膨張処理したカーボンシートを1モルの食塩水中に浸漬して30秒ほど放置する。カーボンシートの全面から、特に側面からの細かな気泡の発生が徐々に認められる。カーボンシートから溶液中への滲出物質を液体クロマトグラフで確認する。大量の炭化水素が確認された。そこで、上記硝酸処理膨化カーボンの切片を切り出し、京阪名ラボ棟TF技研で、固体の表面にパルス電子を照射して脱離するプロトンを検出する方法(電子励起イオン脱離、TOF-ESD)を用いて分析する。水素、酸素、一酸化炭素の他、分子量27のカルビン基を有する炭化水素(CH3C・)及び分子量28のエチレン(C24)を検出した。このカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛が水中に放出されると、水分子を水素イオンと水酸化イオンに分離し、水素イオンを還元して水素ガスを発生させるものと思われる。また、金属イオンと結合するとカルビン基を有する炭化水素は金属錯体を形成し、水分解触媒として機能するものと思われる。金属としてはAl,Zn、Feのような典型金属たけでなく、Cuなどの遷移金属が錯体を形成しやすい。
【0018】
次に、銅板(1mm厚、5×15cm)と本発明の硝酸処理膨化カーボンシートを輪ゴム等で用いて貼り合わせ、又は対向配置してこれを1モルの食塩水中に浸漬する。
まず、カーボン電極から水素の発生が認められる。その後、銅板からも水素の発生が認められる(図2A)一方、カーボン電極を食塩水から離脱しても銅板からの水素ガスの発生が認められる。この溶液中にアルミ板を浸漬すると、アルミ板からも水素ガスの発生が認められる(図2B)。銅板からの水素の発生およびアルミ板からの水素の発生は銅板およびアルミ板との間に形成されるカルビン基を有する炭化水素を含む銅錯体の水分解効果であると推測される。詳しくは、水を分解すれば、図1に示すように、
水素発生反応では、4H+2e-→2H2を示すが、ここでは、この現象は、幾分複雑となるが、次のようである。
すなわち、最初に電解液中に投入した電極材料間で、化学反応により、金属極から金属イオンの放出がある一方、カーボンからは電解液中にカルビン基を有する炭化水素の放出がある。したがって、金属側ではカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛の電極への付着によりカルビン基を有する炭化水素金属錯体の構成ができる。一方、炭素材料側では局所部分で金属イオンにコーティングされた部分と対極となるカーボン材料の間に接触電位差の違いから電池が形成される。他方、カーボン層間は、キャパシターを形成し、蓄電作用がある。このカーボン電極部に着目すると、局所的にサブナノメートルの空間を形成する多層構造になっているものと考えられ、表層部のナノセルに生じた電池構造は、次々と消滅されていくものの、内部の多層構造で上記と同じような電池作用を発生させる。そのため、水素イオンは水素分子になり,外部に放出される。かかる発電メカニズムと水素発生のメカニズムが金属とカーボン間の現象として理解される。金属側に構成される金属とカーボンとの間に形成されるカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛又はその金属錯体は上記発電メカニズム及び水素発生メカニズムを促進するものと推測される。
【0019】
各種金属との反応
本発明の膨化カーボンを濃硝酸に浸漬処理し、銅板とともに1モルの食塩水中に浸漬すると、水分解作用を示し、激しく反応して、大量の水素ガスを発生させる。銅板がもろもろに分解されるまで、反応は進行した。また、銅板に代え、亜鉛板を使用しても亜鉛板全体が酸化亜鉛となり、水分解反応は緩慢となるが反応は継続した。アルミ板の場合、食塩水中では耐久性を示し、銅および亜鉛に比して長時間の水素製造能力を示すことを見出された。特に、アルミ板/1MNaCl+H/膨化FGSの電池構成では、膨化FGS周辺に半透明の結晶が形成される。この結晶の酸素含有比率は高く、導電性も高い。水酸化アルミニウム又はアルミン酸ナトリウムがカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を含むためか半固体電解質を形成する。アルミ/銅、亜鉛/銅、アルミ/膨化FGS、FGS/膨化FGS間に介在すると、電池を構成し、発電する。
【0020】
カルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛を含む膨化カーボンシートの作成
柔軟性黒鉛シート(FGS)厚さほぼ1.0mm、100×10平方センチを1昼夜濃硝酸溶液に浸漬する。このシートを一対の電極とし、1モル食塩水溶液に浸漬し、蓄電池12Vを用いて電解する。これを乾燥し、先端1~2cm幅を両側から鉄板で挟む。鉄板上に露出するFGSシートをバーナーで高温加熱する。FGSシートは表裏から気体の発生音とともに次第に層間分離して膨張する。これを濃硝酸溶液(酸化剤)に浸漬し、硝酸処理膨化FGSシートを作成する。
【0021】
本発明の膨化カーボンの作成方法においては、FGSシートのグラファイト粒子に水素原子を吸蔵させる。(1)導電性を有する電解液中で電極の一方又は双方の電極としてFGSシートを用い、電圧を印加して水電解反応させるかあるいは、(2)FGSシートを正極として用い、負極としてアルミ又は亜鉛等の金属を負極として用い、電池を構成して正極、負極間で発電反応を行わせる。または、(3)FGSシートを1~1.5モルNaCl塩水中に0.5~1.0モル砂糖の添加した水溶液に浸漬処理して火炎膨化処理して製造してもよい。黒鉛FGSシートは電解時の水素を吸蔵しやすくするため、黒鉛シート密度にもよるが事前に数時間濃硝酸に浸漬処理しておくのが好ましい。電解又は発電時の電解液は各種電解質を含有する電解液を使用するのが望ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、特にナトリウム塩等の各種電解質を添加して用いるのが好ましい。水素吸蔵とともに黒鉛層間内に採り入れられるアルカリ金属またはアルカリ土類金属がその後の酸化処理により酸化物、特に過酸化物を含み、水に対する分解能を高める機能が見出されているからである。また、電池構成の場合、ギ酸を介して下記CO/CO2の正極反応に影響を与えると思われる。
M-CO2+(H+)→ M-COOH ← M-CO+(OH-)M:金属
【0022】
グラファイト層を層間分離させて膨化させる工程は、黒鉛シートを比重0.1から0.5g/cm3まで層間分離して膨化させるのがよい。黒鉛シートが多くのグラフェン層から構成される多孔質構造を構成するからである。特に、FGSシートを使う場合、比重0.1より小さくなると、膨化後の保形性に乏しく、0.5より大きいと膨化後の層間分離が不十分である。なお、上述したように、比表面積の増大、粉末X線回折パターンのピークの形成の成否により、層間隔及び、グラフェン形成度合いを判別することができる。
【0023】
膨化した黒鉛内のグラフェン層の酸化処理は各種酸化処理を用いることができるが、酸化剤として濃硝酸を用いるのが簡易に処理できるので好ましい。したがって、濃硝酸溶液に数十分から5時間以上浸漬した後乾燥させる処理により行うのがよい。硝酸処理による黒鉛内の黒鉛原子または、グラフェン粒子の酸化状態は電極反応によりCOの一部離脱により減少するが、少量の濃硝酸の追加により酸洗い効果又は酸化作用により機能を回復させることができ、触媒機能を回復することができることが見出されている。また、本発明の黒鉛多孔質構造体を粉砕して使用する場合は各種酸化物を含むガンマー線放射能を有するラジウム鉱石粉末の混合により触媒機能を長期継続させることができることも見出されている。特に、黒鉛構造体の保形性を高めるため、有機バインダーを使用する場合は、ガンマー線放射能を有するラジウム鉱石粉末はバインダーの硬化剤として機能する。硬化後のバインダー成分の酸素含有量を高める機能がある。したがって、正極反応の下で黒鉛多孔質構造体のM-CO結合の安定化を含め、CO離脱に伴う構造安定化は触媒機能の長期持続に必要である。よって、2電子還元を含め、電子還元を受けることができる有機及び無機化合物の併用が望ましい。
【0024】
(製造例1)
熱分解黒鉛シート(柔軟性黒鉛シート「FGS」)を濃硝酸に数時間浸漬して乾燥させて一対の電極として用いる。水道水中で蓄電池(12V)を用いて10~15分間水電解し、水素発生させる。その(―)極を取り出し、バーナーで赤化するまで加熱処理すると、音を立てて水素が脱離し、それとともに黒鉛シートは膨化して、比重0.2g程度の膨化黒鉛多孔質構造体となった。これに濃硝酸を数時間浸漬させて酸化処理すると、酸素原子比率が炭素元素比率とほぼ同程度まで上昇した(図11A及び11B比較)。
【0025】
(電極の顕微鏡写真)
図12は膨化して酸化処理した膨化FGS体の1万倍SEM写真(a),(b)であり、膨化後酸化処理した黒鉛構造体は多孔質構造で、内部は三角形状に切り立ち、各層は透光性を示す。図12(c),(d)は切り立った先端の白く見える部分をいい、Naが付着していると思われ、照射範囲を小さくし、照射エネルギーを集中すると、一部分解する様相を見せた。この結果、よって、グラファイト又はグラフェンからなる薄片が集積していると思われる。各層間には図11に示す炭素―酸素原子比率から、酸素原子が各炭素原子に結合した構造(炭素―酸素原子比率がほぼ1対1)が示される。その構造はその機能から次のように推測される。正極内で、過酸化物―酸化物間での酸化還元反応に対し、触媒機能を示すことから新たな「炭素―酸素」構造を形成している可能性が示唆される。
【0026】
(製造例2)
熱分解黒鉛シートA(柔軟性黒鉛シート「FGS」)を濃硝酸に数時間浸漬して乾燥させて正極として用い、アルミ負極とともに1モル塩化ナトリウム溶液に浸漬して30分程度発電させ、正極から水素発生させた。この正極を取り出し、バーナーで加熱赤化処理して膨化させ、比重0.2g程度の膨化したFGS体Bを得る。これに濃硝酸を1夜浸漬させて酸化処理すると、図12の元素比率の硝酸処理膨化FGS体Cを得た。得られた多孔質構造体は層分離し、多くのナトリウム含有量が認められ、各層の表面及び総末端に多くの過酸化ナトリウムが蓄積しているのが観測される。
【0027】
上記黒鉛シートA、膨化したFGS体B及び膨化後のFGS体Cの顕微ラマンスペクトルを測定した。日本分光株式会社製近接場光学顕微分光装置(NFS-230HKG)を用い、励起波長:532nm、レーザ強度:約6.4mW、スリット幅:直径100μm、アパーチャ:直径4000μm、対物レンズ:×20(分析径約4μm)、露光時間×積算回数:10sec×2回の条件で、図14A,B,Cの顕微ラマンスペクトルを得た。
サンプルB及びCは固体上部をはがして測定試料とした。サンプルのDバンドがサンプルAからCへの変化によりスペクトルピークが1349.99から1356.11cm-1にラマンシフトする現象が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のカルビン基を有する炭化水素を含む黒鉛によれば、水を分解して水素発生機能を有する。また、その酸化還元作用に着目すれば水分解だけでなく、各種酸化還元反応の触媒として利用できる。金属空気電池の空気極として有効な黒鉛電極を形成する。
【符号の説明】
【0029】
10 銅板、20 膨化FGS、
30 1モル食塩電解液
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C