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特開2023-110805孔拡散用多孔性セルロース複合膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110805
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】孔拡散用多孔性セルロース複合膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/10 20060101AFI20230802BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230802BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B01D71/10
B01D69/02
B01D69/06
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022022482
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】715005077
【氏名又は名称】日本特殊膜開発株式会社
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 征一
(72)【発明者】
【氏名】中川 弘美
(72)【発明者】
【氏名】中川 保武
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA13
4D006GA44
4D006HA41
4D006MA03
4D006MA22
4D006MA24
4D006MA25
4D006MA31
4D006MB20
4D006MC11X
4D006MC12X
4D006NA50
4D006NA54
4D006NA62
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB12
4D006PB17
4D006PB52
4D006PB55
4D006PB59
4D006PB65
4D006PC41
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】 流体中に分散する粒子および溶解する分子のそれぞれを平面状の複合膜表面での粘性流動おおび平膜内部での拡散流れを利用して分離する孔拡散法に適する平膜の微細構造を設計し、該膜の製法を提供する。
【解決方法】 天然セルロースの短繊維で作製されるろ紙状膜の内部に厚さ5μm~50μmの再生セルロース微粒子を分散させた層状帯を有し、該微粒子の大きさは0.05~0.5μmで平膜の表面近傍に局在化する。該構造体はろ紙表面にミクロ相分離を生起するセルロース誘導体溶液を流延することで製造する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース短繊維と再生セルロースの微粒子とで構成される平膜状の多孔性複合膜で、復合膜として平均孔径10nm以上10μm未満、空孔率50%以上、膜厚500μm未満の多孔性複合膜で下記の微細構造上の特徴を持つ孔拡散用複合膜および下記特徴を持つ該複合膜の製造方法。
微細構造の特徴;(1)複合膜は平膜状の形状を持ち、該平膜は天然セルロース由来の短繊維と再生セルロースの球状の微粒子とで形成される。(2)短繊維の外形状がろ紙状の平膜であり、該ろ紙状平膜はセルロースの短繊維で構成される。短繊維は結晶化度が20%以上でその直径が1μm以上で20μm以下でアスペクト比が20以上の天然セルロースである。該繊維の分子鎖軸の大部分が膜平面方向に配向する。該繊維は膜面に平行に層状に分散する。該微粒子の直径は0.05μm~0.5μmで結晶化度は20%未満であり、(3)該微粒子は再生セルロースでありその含量としては、ろ紙状の繊維状物に対する重量比率で2%以上40%未満である、(4)複合膜の膜表面での平滑度は膜裏面より高く、該表面の平均孔径の5倍未満である。
複合膜の製法の特徴;アスペクト比20以上の天然セルロース短繊維を集合体としての膜厚50μm以上で500μm未満のろ紙状の平膜の表面上に該平膜の膜厚の0.5倍以上で10倍未満の厚さでミクロ相分離を起こすセルロースエステル溶液を該平膜の膜厚に沿って層状に流延し、流延液中の良溶媒を蒸発させることでミクロ相分離を起こさせる。しかる後に水洗し、pHが10以上で13.5未満のアルカリ水溶液で鹸化処理後、水洗し乾燥する。流延液の組成はセルロースエステル濃度2重量%~10重量%、沸点100℃以下の良溶媒濃度50重量%~80重量%、沸点100℃以下の貧溶媒濃度10重量%~30重量%、沸点120℃以上の貧溶媒濃度20重量%~50重量%、水溶性金属塩15重量%以下である。
【請求項2】
請求項1において複合膜の製造の際にセルロースエステルとして酢酸セルロースでありその濃度を変化させることによりミクロ相分離によって生じる微粒子の大きさを変化させることで複合膜の平均孔径を変化させることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項1あるいは2における複合膜の製造において該膜中の微粒子の重量比が5%以上30%未満になるように流延液の組成と流延液の流延厚さをろ紙状の平膜の厚さの1/2倍~3倍になるように設定することを特徴とする複合膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体中に分散する粒子の除去と溶解する分子の分画回収とを目的とする孔拡散膜分離技術で使用される複合膜とその製造方法に関する。さらに詳しくは該孔拡散膜分離技術は水溶液に適用され、複合膜の素材は天然セルロースと再生セルロースとの混合物で構成されている。
【0002】
孔拡散膜分離技術の特徴は、膜間差圧が小さく物質移動が濃度勾配を駆動力とする拡散機構で行われる点にある。該技術では濾過の駆動力となる膜間差圧が0.1気圧以下で極小化されている。この差圧で通常運転されるので膜の力学的な支持体を必ずしも必要ない。また処理対象流体は膜表面で層流である特徴のため膜表面での粒子と孔壁との衝突による粒子の反発による透過阻止の効果が無視できる。すなわち膜表面での処理対象体の吸着等に原因した濾過除去分離を必要としない。また膜表面の平滑度を高め膜表面での層流を実現するので,膜表面の流れによる粒子の揚力の作用で粒子成分のみが膜表面より遠ざかることにより孔の目詰まりが防止される。孔拡散膜分離により粒子のみを除去することを目的にする場合には、粒子以外の溶解成分については膜を介して拡散機構で膜内部を通過させる。粒子成分は膜表面に沿った粘性流れによる移動を実現させる。本発明では膜間差圧が0.1気圧以下でかつ非処理対象の流体の膜表面での流れ速度が膜表面でのひずみ速度2/秒以上で層流である特徴を有する。本発明ではこれらの特徴を有する孔拡散膜分離技術用の高分子多孔膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
分離用の膜として、濾過分離を想定し、膜に静水圧を付加し膜間差圧として0.5気圧以上50気圧に耐える膜(例として中空糸膜)の微細構造やその製法が提案されてきた。例えば濾過速度を高めるために膜の表面のみを微細な孔構造を有する組織とし膜内部は裏面に向かう指状のミクロンレベルの大孔を形成させた非対称膜が濾過用の限外濾過膜あるいは逆浸透膜とが採用されている。膜表面での微細構造を制御して膜としての孔構造を変化させ結果的に膜内部の孔の大きさに応じて濾過用の膜の種類が逆浸透膜、透析膜、限外濾過膜、ミクロフィルターと呼称される。膜間差圧もこの順に小さくなる。濾過による物質分離機構が物資の幾何的の大きさに基づくいわゆる篩機構である限り分離対象の大きさと膜間差圧との負の相関性をのがれることは不可能である。分離用の膜として篩効果以外の機構を想定し、それに適合する新しい機構の提案とその機構に適する分離方法と分離膜の出現が期待されている.膜内部の孔を介して分離対象の分子が拡散する際の速度さで分子が分離される。膜表面での粘性流で大きな分子や粒子が分離されることが予測できる。
【0004】
濾過用の分離膜への改良の試みが従来より多数検討されてきた。例えば、複合膜である。すなわち、2種以上の多孔膜を張り合わせて得られる一体化された膜を複合膜と定義される。通常は張り合わせる方向は膜厚方向である。この2種以上の多孔膜としては化学的には異種成分の組み合わせも含まれる。複合膜の濾過における物質透過速度は膜の直列結合の仮定で算出される値に近似される。非特許文献1に紹介されているように高分子多孔膜内部にモノマーを浸透させこの状態でグラフト重合させれば膜厚方向に組成分布を持つ多孔膜が作製できる。ただし、膜厚方向に組成分布を与えることが可能になる方法では膜厚方向での孔特性を設計することがむつかしい。複合膜は孔拡散用の膜としてその微細構造を設計するのに適する。
【0005】
本発明では化学組成的には同一素材の高分子(例えばセルロース)に分類されるがその製法が異なる(例えば、天然セルロースと再生セルロース)素材高分子を用い、多種類の孔構造などの微細構造を異にする膜構造で構成される新規な複合膜を提案し、その複合膜の新たな製造方法を提案する。非対称膜では膜表面での分離機能を与えるために孔径を小さく、膜内部では膜の力学的刺激(例えば膜間差圧)に耐える強度に耐えるために厚い支持層と濾過速度への支持層の抵抗を小さくするために媒体の透過速度の大な部分すなわち孔径の大きな通路を有するバルキ―な部分で構成される。この大きな通路は濾過速度を大きくする効果はあるが物質の分離機能を低める。分離機能を高めるには多段分離の可能性を持つ層状の構造を付与することが望ましいことはウイルス除去膜の開発時に明らかとなった。
【0006】
膜分離での除去対象が流体中の固体状の粒子の場合には、その形状が大きさを含めて粒子ごとに固定されている。そのため、主として形状によって除去能が定まる膜分離法が粒子の除去技術として利用される。形状によって除去能が定まる機構として篩効果がその典型である。粒子の除去用膜として不織布状の平膜を利用する膜濾過法が気相系では採用されている。気相系でのふるい効果による除去機構を主たる機構とする方法は明確化されていない。液相系では中空糸を利用した膜濾過法が篩効果を利用した典型例である。孔拡散法では粒子の形状ではなく質量の大きさで分離する。すなわち、粒子径が孔径の1/5未満の粒子では膜内部の孔内では拡散速度の差で分離する。これ以上の粒子径の粒子の場合には、流体中の粒子の運動の特徴として粘性流れに支配されるのでこの流れの特徴を生かした膜除去法が採用される。この方法は流動分別効果を利用した除去法である。
【0007】
大気中に浮遊する粒子の大きさが0.4μm以上であれば該粒子の大部分は膜濾過法で除去できる。但し膜濾過法での処理対象が流体として気体であるために質量としての処理速度が液体の場合に比べて小さい。処理速度を高めるために実際に採用される濾過膜としての平均孔径は粒子径に比べてはるかに大きく例えば濾過膜の平均孔径表示では10μm以上である。そのため除去性能への信頼度が低いという問題点がある。そのため流体として気体系では粒子除去機構は荷電粒子の吸着機構を利用している。
【0008】
膜を利用した空気中の微粒子の除去は篩効果によって原理上では達成可能である。しかし実用的には処理時間内での多量の空気体積量と処理速度および処理性能(粒子除去性能)との組み合せで利用される膜としては濾過用の膜に限られている。空気中での微粒子の除去では濾過用の膜としてデプス型の膜が利用される。この型の膜として平均孔径が厳密には特定できずそのため濾過による粒子の除去性能の定量化が篩効果のみでは困難である。かつ性能は処理圧力や処理速度に依存して変化する。粒子の除去性能が濾過運転される状況(例として湿度や温度、圧力)によって変動する。デプス型の濾過膜では気相系と液体系とのいずれの場合も除去性能の再現性と予測性に問題がある。利用されるデプス型の膜の特性で粒子の除去性能が一義的に定まることはほとんどなくそのために粒子の除去性能より特定した膜の構造設計は不可能である。これを解消するには膜の孔特性を定めることが可能なスクリーン型の膜を装填することが必要である。粒子による孔の目詰まりの影響をなくするには膜面積を広くすれば良い。非特許文献2に示されるように、孔拡散時の膜内の孔での分子の拡散挙動は水中拡散での拡散係数の約1/10である。拡散係数の分子量依存性は水中でのそれに近い。デプス型の膜濾過による空気の輸送と静電気による吸着機構での現状の粒子除去では粒子径が小さい親水性物資(例、ウイルスなど)の除去性能は低くその性能の予測も不可能である。イオン化した成分で構成される微粒子の除去では電気的な相互作用での粒子除去は可能であるが気相中では水分子が共存する場合が多いのでその場合には除去機能は大幅に低下する。すなわち除去能力の再現性と予測性が該相互作用を利用する限り期待できない。孔拡散用の膜ではその性能を予測し再現性を高めるために、基本的には除去機構の中に電気的な相互作用の効果はいわば予想外の除去としてこの効果はなしとして設計すべきである。
【0009】
液体中に分散した粒子が存在する場合に膜の濾過機構によって液体の濾過除去が実施されている。この場合に非特許文献3による理論計算によると粒子径の5倍程度の孔径を持つ多孔膜でも一次液体の流れ速度(膜表面での歪速度で表示)が100/秒以上であれは粒子の除去は液体中では理論的には可能である。液体系からの粒子除去性能につては一部の膜濾過法で性能の再現性と予測性の付与が可能となっているが膜濾過法では膜の孔の目詰まりが激しく、多量処理には適しない。この膜による粒子除去が気体中に分散した粒子においても可能なのかについての実証例はまだない。流体中の微粒子を除去する際に、孔拡散では膜中の孔を直接的に利用されずに流れに寄与するのみであるために孔内での粒子の目詰まりがない。この粒子の目詰まりがないことと孔内での拡散挙動を考慮すると孔拡散用の多孔膜の微細構造の理想像が推察できる。すなわち膜中の最大孔径は除去すべき粒子の径の5倍以内であり、平均孔径は出来るだけ大きく膜厚は出来るだき薄く耐圧は湿潤状態で0.5気圧程度で空孔率は70%以上などである。
【0010】
気相中に粒子が分散している場合には、膜による粒子除去機構を考えると、流動分別型の孔拡散が粒子除去には最適と考えられる。ただし、気体系においても液体系で実証された流動分別が起るかどうかについても明瞭でない。しかし第1図に示した1次流体および二次流体中の該粒子の除去はいずれも達成されると予測する。該粒子自体は膜中一次流体に接する膜表面に捕捉されている。粒子の膜中の捕捉は膜の孔の目詰まりをもたらす。この場合の粒子の捕捉に関しては、(1)膜素材と粒子成分との間に働く静電力と化学的親和力、(2)粒子成分に働く慣性力に原因した膜素材高分子との力学的な衝突に原因した力学的因子、(3)粒子と膜との間に働く篩効果が挙げられる。これらの因子の中で、水分子が共存することにより(1)の因子の寄与が特に大きく働くため湿度の高い場合での粒子の除去性能は低下する。膜の孔への目詰まりは粒子の除去性能の低下をもたらす。
【0011】
膜の孔に目詰まりさせない技術として孔拡散膜分離技術が提案されている(特許文献1)。該技術では多孔膜の内部の孔が物質の拡散現象を支配し、この現象を介して膜による物質分離を行う技術である。この技術は液体中の微粒子除去技術として提案されている。液体流路の一次側流路の入口側あるいは出口側にポンプあるいは流速調整機構を有し、一次側流路内の液体の膜表面でのひずみ速度が2/秒以上であること、また一次側流路を形成する膜の表面の平滑度を高くすることが重要である。また膜間差圧を特に低くする点に特徴がある。膜間差圧を理想的には0.6cm水頭差以下、実際の運転には30cm水頭差以下に、除去すべき粒子の径が1μm以下であれば100cm水頭差以下に設定する。液体の流動における孔拡散技術の特徴は近年明らかにされつつある(特許文献1~6)。しかし孔拡散技術に利用される多孔膜として好適な微細構造の上述の検討の結果を実現する製膜方法については提案すら見当たらない。
【0012】
流体が液体である場合の孔拡散膜モジュールの構成は、引用文献2~5を整理すると、(イ)多孔膜とそれを力学的に支える支持体、(ロ)被処理流体を層流で供給するための一次流路と送液機構と、(ハ)膜間差圧を与える機構と、(ニ)膜を主として拡散機構で透過した成分を回収する回路(二次流路)で構成される。特に流動分別型孔拡散膜分離モジュールでは一次流体の流れが層流で、この流れの中にある微粒子には流れを構成する分子による揚力の発生が不可欠である。処理対象が流体として気体系でもこの技術が適用きるかどうか不明であった。また揚力の発生も液体系と同様に考えられるかどうかの確認も取れていない。流体として気体の場合においても非特許文献3が適用できるかどうかを精査する必要がある。
【0013】
孔拡散用の多孔膜の設計思想は近年明確化されつつあり、本発明でも定性的に明らかにしている。多孔膜の設計(複合膜化)が可能になればそれを実現する製膜方法も定性的には予測できる。膜の製造方法は膜の微細構造の複雑さから従来の製造方法の複数の組み合わせが考えられる。
【0014】
膜構造の複合化を濾過膜を例にして考えてみる。液体中に分散した粒子が存在する場合に膜の濾過機構によって溶液の濾過が実施される場合に非特許文献3による理論計算によると粒子径の5倍程度の孔径を持つ多孔膜でも一次液体の流れ速度(膜表面での歪速度で表示)が100/秒以上であれは粒子の除去は理論的には可能である。この理論計算には該膜内部の孔に液体媒体が粘性流れで流動し膜内部の孔の壁部での弾性体としての衝突が必要である。この膜による粒子除去が液体の粒子が気体に分散した系でも可能なのかについての実証例はまだない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許公告6329826
【特許文献2】特許公告6343589
【特許文献3】特許公告6422032
【特許文献4】特許公告6452049
【特許文献5】特許公告6534068
【非特許文献1】
【非特許文献2】真鍋征一、尾池哲郎 著、“濾過スケールアップの正しい進め方と成功事例集”、(株)技術情報協会、2011年8月、485頁
【非特許文献3】K.Kamide, S.Manabe, Polymer J.,13(No.5),pp459-479(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
孔拡散膜分離技術の特徴である膜間差圧が0.1気圧以下で膜表面での一次側流れが層流であり該表面でのひずみ速度が2/秒以上である操作条件の特徴を実施し、その効果(膜の孔の目詰まり防止と膜分離性能の上昇)が発揮できるのに適する平膜の孔構造を明確にする必要がある。理想とする孔構造が明らかになれば理想に近くかつ実現性の高い平膜の孔構造の設計が可能となる。本発明では如何なる孔構造を設計すればそれが親水性高分子でかつ安全性の高いセルロース素材で実現できるかをまず明らかにする。次にそれを実現する製膜方法を示す。
【0017】
孔拡散膜分離技術が利用される可能性が高い生体由来物質を溶解または分散している水溶液に適用できる分離膜としてセルロース多孔性膜がある。生体由来物質の大部分が親水性である。本発明では孔拡散用のセルロース多孔膜の微細構造を設計し、それを実現する実現するために複合膜の製造方法を開発する。セルロースの持つ高度な親水性は、一方では膜の乾湿の力学的性質の変化が不可避である。力学的性質の変化は不可避であるが、膜としての外形状の変化の程度は膜の微細構造の影響が大である。平膜では乾湿による膜面積の変化を防止しなくてはならない。これを避けるために複合膜のセルロース多孔膜を設計する。
【0018】
膜の素材高分子としてセルロースの単一の化学組成を選定する。膜として単一の素材で構成することにより、膜の化学的性質が決定され素材間の相互作用によって生じる予測不能な作用等の不安材料が軽減する。セルロースとしての永い使用実績からも安全性への確実性が高まる。さらに素材高分子の特定は膜の孔特性を決定する最大の特性化である。この特性化によって分離膜の適用分野の大枠が定まる。膜を複合膜化する最大の問題点であった微細構造の複雑化を素材高分子の単一化によって防止した。本発明では生体由来物質の精製方法に孔拡散膜分離技術を適用させることを目的の一つとしている。この目的に沿った物質としてセルロースを特定した。次の課題は、非特許文献1の表3に例示する高分子鎖のコンフォーメション、微細構造、凝集構造の組み合わせで孔拡散用の複合膜を設計する点にある。設計に際してその微細構造を実現できる技術の存在の他に、具体的な
微細構造とパフォーマンスとを結びつける基礎データの集積が必要である。
【0019】
本発明では該基礎データの集積を行いその成果を孔特性の微細構造設計に反映させる。すなわち、本発明に到達出来たのは下記に示す四種の実験事実を確認したからである。まずその一つは非特許文献3で予測されていた液体系の流れによる分散粒子の膜面での衝突効果が気体系でも粒子に働く揚力となることである。気体系での粒子と膜との衝突効果は空気中の粒子である落下ごみの重量測定で確認された。実験的にはセルロース不織布の空間的な配置と空気中のごみの落下位置との相関性より気味粒子と不織布との衝突効果を確認した。該揚力は粒子径が大きいほど、膜面でのひずみ速度が大きいほど大きい。気体系の流れでは流れの大きさがその断面形状で1μm平方以上になれば一次流体である気体の流れは粘性流れとなる。粒子成分はこの流れ(すなわち粘性流れ)に乗ってのみ移動する。一次流体の形成する流れの大きさを大きくするとこの流れに粒子の大部分が乗ることを発見した。
【0020】
固体粒子のような形態的な独立な分散系(すなわち粒子形状)とならず流体の分散相を示す成分の流れは拡散流れを示す。これが第二の実験事実である。拡散流れが2次流体の流れを構成し流れの方向は無秩序で3次元的である。気体の構成成分である分子の流れは自由分子流れが平均孔径0.02μm以上で1μm未満の空隙部(膜の内部の孔)で起き、その際の気体分子の流れは拡散流れであるが壁との相互作用が強く起る拡散流れの特徴を持つ。この流れは表面拡散流れに分類される流れで、有機溶媒の気体分子の選択的な拡散が可能なことが予想される。また拡散流れの特徴は膜内部の孔への微粒子の目詰まりが起らない点にある。多孔性の平膜を用いて平膜の膜面に沿って流体を流すと流れ方向には粘性流れが起り粒子成分のみがこの流れに乗ることが予測された。
【0021】
対流の流れに乗った流体内の粒子成分は重力や表面張力の働きの影響を受けて、対流の挙動を表現するベナール・レイリーによって示された(対流渦)を反映した膜内部に不均一な構造(細胞状でセルと呼ばれる)を通常生じる。この細胞状のセルの存在により平膜内部の不均一な孔径分布が生じ平膜の欠点となる。しかしこの欠点がろ紙上での高分子溶液の流延では消失する現象を本発明者らは発見した。これが第三の実験事実である。この現象を利用すると平膜の微細構造上の欠点発生を大幅に減少させることが可能となる。
【0022】
ろ紙上に良溶媒の蒸発に伴いミクロ相分離を起こす溶液を流延させて場合、流延用液量の値が、高分子の成分の重量で換算して、ろ紙重量の1/3以下であれば作製した複合膜の乾湿の寸法変化が5%以下となることがあるという発見が第四の実験事実である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は孔拡散分離用の複合膜とその製造法を提案する。孔拡散膜分離技術とは膜内部の孔は物質の拡散が中心とした動きを与える場であり、膜内部の流れ(これを二次側流れあるいは単に二次流れと呼称)に加え、膜表面では粘性流の特性を持つ一次側流れ(すなわち膜表面に沿った流れ)を起こし、粒子成分をこの流れを利用して分離及び回収する技術である。すなわち孔拡散膜分離技術の基本は膜内部の孔を物質が拡散機構のみで移動することを前提とする。
【0024】
孔拡散膜分離技術の特徴として膜に負荷される膜間差圧が非常に小さい点が本発明膜の利用例の特色である。この特色が湿潤状態での膜に負荷される外力が小さいことがわかる、そのため膜の素材として親水性を選定する根拠となる。また膜表面の流れが層流であり該表面でのひずみ速度が2/秒以上であることを実現しやすい膜表面の微細構造上の特徴を持つことが本発明の膜の特徴となる。ます第一の特徴は膜素材として天然セルロースと再生セルロースとの組み合わせを採用する。セルロース膜を採用する理由は本分離技術の処理対象が水溶液であることとその素材が人工腎臓やバイオ医薬品の精製工程での使用実績に基づく。ただし、セルロースに対する良溶媒の種類は少なく特に有機溶媒のなかでは汎用性のある良溶媒は知られていない。そのため後加工によって設計した微細構造を実現することは不可能に近い。本発明物の最大の特徴は、天然セルロースの短繊維のろ紙状の平面状の膜と該膜内に埋め込まれた再生セルロースの微粒子とで膜素材が構成されている点にある。すなわち平均孔径が1μm以上で空孔率50%以上、膜厚50μm以上で500μm未満で天然セルロース短繊維で構成される平面状の膜とその内部に埋め込まれた再生セルロースの0.05μm以上で0.5μm未満の微粒子とで構成されている複合膜である。
【0025】
天然セルロースの短繊維で構成されるろ紙状の平膜が分離膜としての外見上での寸法安定性(乾湿での寸法変化をなくする性質を意味する)を与える。特に乾湿状態での膜としての寸法安定性は該繊維の存在比が60%以上で発揮される。粒子成分の量と粒子のサイズとに依存して複合膜としての濾過速度法による平均孔径と空孔率が定まる。粒子の配列が無秩序であれば粒子間起こりやすくの流れとして粘性流れよりも拡散流れが起きやすくするために粒子が存在する層の厚さが5μm以上必要である。
【0026】
複合膜の内部で分散している粒子の微細構造の特徴(粒子の大きさと粒子としての分散性、粒子の熱運動性と非晶性)は孔内拡散用の分離膜の特徴である孔内拡散の寄与すなわち、分子の拡散を支配するブラウン運動を高め粘性流の寄与を極小化するのに不可欠である。すなわち、該粒子は再生セルロースで構成される。再生セルロースである理由は、セルロースの微粒子を作製するのにセルロースの誘導体をへて再生処理によりセルロース粒子に変化させる方法しかセルロース微粒子が作製できないためである。この再生処理ではセルロースとしての結晶化度は20%未満である。該微粒子は天然セルロースの平面状の膜内部で層状に分散しその一部は相互に連結している。該層の厚さは5μm以上で50μm以下である。層の平面はほぼ複合膜の膜面方向にある。粒子の結晶化度を低くすることで平膜との接着性を高めわずかな水分の存在での分子間の水素結合の存続を維持する。そのため複合膜からの粒子成分の離脱を防止する。
【0027】
微粒子層の複合膜の全体に占める重量比は2%~40%未満である。微粒子の存在により複合膜の透過特性が変化するにはこの重量比が2%を超えることが必要であり、セルロース短繊維の特徴である寸法安定性の特徴が発揮されるのはこの重量比が40%未満の場合である。本発明複合膜による異物粒子の除去の実現には内部に分散する粒子成分としての界面相の存在は不可欠である。本発明では、粒子径が0.02μm以下の異物微小粒子は膜の孔を介して拡散流れで輸送され、0.02μm~0.2μm径の粒子の一部は膜中へ拡散流れ(全体としては孔拡散流れと定義される流れ)を構成する。この範囲の粒子の径の大きな粒子の残部は一次側の流れに乗る。一方、0.2μm以上の粒子は粘性流れに乗って孔拡散膜モジュールでは一次側流れによって一次側回路を通る。本発明の膜モジュールの部分のみを注目して見ると、小粒子は拡散流れが中心である二次流れを、大粒子は粘性流れである一次側流れに乗る特徴を持つ。すなわち二種の流れに乗った膜分離であることを特徴としている。本発明の技術上の特徴は、膜モジュールを用い上記の孔拡散流れと粘性流れとを起こし、流体を二種の流れを起こしている点にある。
【0028】
本発明物である複合膜の形状を維持する成分であるろ紙状の平面を構成する膜の微細構造は天然セルロースの短繊維の平面状の集合体である。該集合体は複合体膜の表裏面を含めて複合体膜の大部分を占めアスベクト比20以上の天然セルロースの短繊維で構成されかつ該繊維の分子鎖軸の大部分が膜平面方向に配向する。該ろ紙状の膜の表面の平滑度は膜裏面の平滑度に近いが複合膜としては粒子層の存在のために膜表面の平滑度は任意に設定できる。例えば粒子層を複合膜の表面に局在化させることで複合膜の表面の平滑度を高めることが可能である。ただし、平滑度とは膜面の凹凸の程度を示す尺度で、複合膜の膜断面の顕微鏡写真の解析で評価できる。すなわち該写真にテストラインを引きステレオロジーの手法で凸部の高さの平均値で平滑度を定量的に測定できる。本発明の複合膜での膜表面での平滑度は平均孔径の5倍未満である。
【0029】
本発明の複合膜の製造方法には従来より提案された製造法2種以上の方法を組み合わせる必要がある点に製造方法として最大の特徴がある。すなわち、その一種の方法として複合膜を構成するろ紙状の膜の製法として短繊維の近似的な二次元集合体としての紙や不織布の製法に採用される抄紙法を利用する。アスペクトル比20以上の天然セルロースの短繊維の布状の集合体で空孔率50%以上80%未満で膜厚50μm以上で500μm未満の平膜を抄造法で作製する。天然セルロースの短繊維を用いることにより平膜の形体保持が容易となり、かつ有機溶媒への耐溶解性が優れるため後加工処理するセルロース誘導体の微粒子の該膜内の孔内への埋め込みが可能となる。
【0030】
本発明複合膜を製造するのに、天然セルロースの短繊維で構成された不織布あるいはろ紙の平面状の膜の内部に再生セルロース微粒子を内蔵させる方法を採用することが必須である。この方法が上記の製造方法の2種以上の内の残りの1種である。例えば、上出・真鍋・松井・坂本・梶田によって提案されたミクロ相分離法(高分子論文集、34巻、205頁(1977年))を利用した微粒子の発生法を採用する。そこではセルロース誘導体溶液をろ紙状の平膜上に流延し、該溶液を平膜内に浸透させる。該溶液中の良溶媒を蒸発させることにより、該ミクロ相分離をろ紙状の膜の表面上および内部で発生させる。天然セルロース膜の内部に生成したセルロース誘導体粒子で構成される複合膜を水洗し、pHが10以上で13.5未満のアルカリ水溶液で鹸化処理後に水洗乾燥することにより再生セルロースの粒子層を作製する。
【0031】
該相分離によって生じたセルロース誘導体の微粒子をアルカリを用いた鹸化法で再生セルロース微粒子にする。作製された微粒子の大きさや量はミクロ相分離を起こさせるセルロース誘導体溶液の組成で決定できる。ミクロ相分離を起こす溶液の組成については既に上記の文献に示されている。その中で本発明方法では、溶液の組成としてセルロースエステル濃度2重量%~10重量%、良溶媒濃度50重量%~80重量%、低沸点(100℃以下)の貧溶媒濃度10重量%~30%,高沸点(150℃以上)の貧溶媒20重量%~50重量%、水溶性金属塩(塩化カルシウムなど)を15重量%の組成の溶液を選定する。粒子径の設定にはセルロースエステル濃度を設定することで実現する。
【0032】
本発明複合膜での膜構造上の特徴を生かし、孔拡散の特徴である膜表面と膜内部の孔内との2種の流れを生かして利用する点に本発明の特徴がある。すなわち、複合膜を装填したモジュールは流体として粘性流を利用して、粒子に働く揚力の作用に注目して粒子成分を膜表面を流れる一次流体として回収する。一方、膜中の孔を介して分子等は拡散流れとして二次流体として別途回収される。一次流れにより粒子にこの揚力が液体系で発生することが実証されているが気体系でもこの揚力が観察される。たとえば実験事実として大気を膜面に平行に流すと二次流体として複合膜の目詰まりなく膜面を通過した気体のみが回収できることが確認できる。
【0033】
本発明の複合膜の製法において、発生した微粒子の複合膜に対する重量比率が5%以上30%未満となるようにまた流延液の組成と流延液の流延厚さを以下のように設定する。すなわち、複合膜中の粒子層の厚さが該平膜の厚さの1/3の厚さになるように定める。例えば、複合膜中の粒子層の厚さは、流延液の厚さx流延液中のセルロースエステル濃度x2 で近似できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の複合膜は孔拡散用分離膜として最適な微細構造を持つ。すなわち、膜間差圧を駆動力とした濾過速度法での平均孔径が同一の膜での比較において本発明の膜では溶液中の溶解分子の拡散係数が大きい。粒子としての粘性流動は防止されているが膜中の迷路様の孔を通過する拡散流れは確保されている。さらに本発明の複合膜の製法では、膜中でのピンホールの発生が防止されている。おそらくはベナール・レイリーの対流渦の発生が天然セルロース短繊維によって防止されているのであろう。本膜の製法では広い孔径範囲の多孔膜が製造できる。複合膜では膜面方向に平行した多層構造が実現し、膜濾過の際には高い粒子除去率が達成できる。想定外の効果として、乾湿状態での複合膜の平面方向での寸法変化がほとんどないことが明らかとなった。流動分別型孔拡散分離モジュール用の膜としてこの性質は重要である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の複合膜で外形を形作るろ紙状の平面膜の微細構造の模式図。(a)図はろ紙状の平膜での平面内での短繊維の凝集状態を示す模式図、(b)図はろ紙面の断面における短繊維の配向状態を示す模式図、スケールバーは10μmを表す。
図2】本発明複合膜を構成するろ紙状の平面膜を構成する天然セルロース短繊維平膜の内部に埋め込まれた再生セルロースの微粒子層の模式図。(a)図は図1の(a)図に対応する模式図にある短繊維内に埋め込まれた再生セルロース微粒子の分散状態を示す模式図、(B)図は図1(b)図に対応する模式図。
図3】本発明の複合膜の断面の微細構造の典型的な4種を示す模式図。図(a)から図(d)に変化するのに従って分散粒子のろ紙内での浸透度が深まる。粒子が浸透している箇所を破線で示している。図(a)では領域Iのみに分散粒子は存在するが(d)では領域IIIまで分散粒子は存在する。細い実直線で天然セルロースの短繊維を示している。
図4】本発明の複合膜を装填した液相用孔拡散膜分離モジュールでの液相の流れを模式的に示す。一次流れの方向をS1で表現し、S1中の液相の流れ速度をVfで示す。Vf中の液速度を細い実直線の矢印の長さで表現している。
図5】本発明の複合膜を装填した気相用孔拡散膜分離モジュールでの気相の流れを模式的に示す。
【0036】
本発明で設計し製造される複合膜の微細構造上の特徴は、図3に示すように除去対象とする粒子(ウイルスや細菌など)よりも大きいセルロース微粒子が多数連結して複合膜平面に平行して層状構造を形成している点にある。図2に示すように微粒子の一部は粒子間の接触点において相互に溶融し、微粒子層を形成する。この粒子層の存在のため、除去対象の粒子の流線に沿った直線的な運動すなわち粘性流動が阻害される。一方、分子はこの微粒子間の隙間をブラウン運動で無秩序の方向に移動する。この運動は拡散流れとして平膜内部の孔内での流れ(孔内での拡散流れ)となる。
【0037】
粘性流れと拡散流れとの両流れを複合膜の膜表面と膜内部との二種の流れで実現する孔拡散モジュールの典型例を図4図5とに示す。表面の凹凸の少ない膜表面(すなわち表面)側に一次側流体を流す。一次側流体の流れ厚さを3mmに設定し一次側流路を一対の膜表面で作製する。一対の膜表面で作られた流路では流路幅を数ミリメートルに設定するとこの流路を流れる流体は層流状態になる。例えば水および空気の動粘度はそれぞれ0.89(mm/s)および16.0(mm/s)であり気体相の方が液体相より層流になりやすい。
【0038】
図1に示す本発明のセルロース製の複合膜の外形を形成するろ紙状の膜ではその親水性のため短繊維自体は水分の存在により膨潤する。短繊維の水分子による膨潤に伴う変形は繊維の太さ方向の拡大にのみ反映することを発見した。この発見は、本発明の複合膜にも認められた。すなわち、複合膜内部の再生セルロース微粒子の存在比率が40%未満であれば複合膜としての乾湿変化に伴う膜平面内での形態変形が防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明では孔拡散用分離膜の微細構造を設計し、その構造を実現する製造法を提案する。その孔拡散用分離膜のモジュール化の基本となる考えでは膜を介した拡散では膜中の孔を介した拡散(従来技術では膜の実体部での溶解・拡散)を利用することで粒子による目詰まりが防止できしかも拡散速度の差を利用した分子の分画回収が可能となる。膜濾過でない孔拡散用の分離膜の微細構造設計の本発明の実施の技術思想において基本となるのは粒子の膜濾過が起こりにくいようなかつ分子の拡散が起こりやすい膜構造の設計と孔拡散の効率的な実施を実現する点である。膜内部の孔を物質の拡散のみの運動の空間として利用できるには孔径としては粒子径の5倍を超える孔の存在を極小化し、空港率を高く、かつ孔の連続的で直線的に連結を防ぐのに微粒子を無秩序に連結した層を膜内部に形成するのが最適である。
【実施例0040】
市販の天然セルロース製のろ紙を複合膜を構成する平面状の膜として採用するのが実用的である。ろ紙の表面を蒸気を発生するスチームアイロンを用いてろ紙表面の平滑度を高め、平滑度のより高い膜面上に一定の厚さですなわちセルロース誘導体の溶液を流延する。すなわち、アスペクト比 20以上の天然セルロースの短繊維の集合体としてのろ紙(膜厚180μm、目付90g/平方メートル)で僅かに膜面の平滑度のみに微細構造上の差が存在する平膜が本発明の複合膜を作製するのに適する。市販されているろ紙の例としてアドバンテック社製の定性ろ紙あるいは定量紙が利用できる。またWhatman社製のろ紙はその濾過速度の選択の幅を広げることが容易なため複合膜中の平面状の膜として好適である。同社のGrade 3あるいはGrade 1が利用しやすい。市販のろ紙に水蒸気を発生させるスチームアイロンを用いて平滑度のより優れた膜表面を作製する。この膜表面よりセルロース誘導体溶液を流延する。
【0041】
セルロース誘導体溶液よりセルロース誘導体の微粒子を発生させるには、流延液中の良溶媒を蒸発させることでミクロ相分離を起こさせることで可能である。非特許文献1に紹介されている製膜法でミクロ相分離を起こさせる条件をそのまま利用できる。すなわち、ミクロ相分離を起こさせるセルロース誘導体の溶液組成は既存の多孔膜の製法の際の流延溶液と一致する。例えば、置換度2.4の酢酸セルロースのアセトン溶液(酢酸セルロース濃度9.0%重量濃度となるように良溶媒中の高分子濃度を設定)にメタノール、シクロヘキサノール、塩化カルシウム二水塩をそれぞれを重量%で15/15 /6 で混合し、溶解する。得られた溶液は透明で均一な溶液で流延前には粒子は存在しない。該溶液をガラス板上に流延して作製した酢酸セルロース多孔膜では空孔率80%、平均孔径20nmであった。
【0042】
上記の溶液をアプリケーターを用い、ろ紙(Whatman社製のGrade1を採用、同社のカタログ上には膜厚180μm)上に厚さ171μmでろ紙平面に沿って25℃で60Rh%下で流延する。ここでろ紙平面は重力加速度の方向と直交している。4時間良溶媒である主としてアセトンを空気中に蒸発させることで流延溶液中にミクロ相分離を起こさせる。蒸発後に固体化した膜状物を水浴中で流水下で10時間洗滌後、0.1規定の水酸化カリウムの水溶液で12時間鹸化処理する。処理後流水を用いて洗滌し、その後陰干しをして乾燥した複合膜を作製する。
【0043】
本実施例で作製された複合膜の膜厚は厚み計の測定値で186μm、膜重量の増加量からの粒子層の厚さの計算値(外層の密度を1.0g/mlと仮定)からの粒子層の厚さ14μmであった。この実験結果より粒子層の厚さは厚み計の測定値による膜厚の増加量に近いと結論される。本発明による複合膜の効果は厚み計で測定される膜厚の増加量との関連で定量的に評価できる。
【0044】
該複合膜の表面には明確に粒子層が生じないような程度の流延厚さに設定すべきである。そのためには流延液の組成とろ紙の透過性能と流延時の温度の組み合わせを選定することが重要である。複合膜の膜表面側の平滑度はろ紙に比べると確実に増加していた。該複合化によって膜の濾過速度法での平均孔径は複合化前にくらべて大幅に低下していた。上述の例では、複合化前のろ紙では平均孔径は6μmであったが複合化によって30nmに低下していた。この膜を流動分別型孔拡散モジュールに装幀して一次流れの流体の流れの方向を膜平面の方向と重力加速度の方向と一致させ、かつ該複合膜を介する二次流れの方向が膜厚方向と一致させる。下記二種の水溶液の孔拡散膜分離を行った。その結果、平均粒径20nmの水酸化第二鉄コロイド粒子を分散した水溶液(鉄濃度1000ppm)では分離後の水溶液中の鉄イオン濃度は1ppm以下であった。ろ過による除去(膜間差圧0.04気圧)でも1ppmが達成されていた。
【0045】
直接染料であるダイレクトブルー6の水溶液(染料濃度5.7ppm)を膜間差圧を0.005気圧、で膜表面での歪速度5/秒で孔拡散膜分離を行った。この分離で得られる溶液中の染料濃度は複合膜を介して拡散する染料分子の濃度と膜を介して拡散する水分子の濃度を反映している。すなわち、膜表面側と裏面側の染料濃度の比を測定することにより膜を介して染料分子の拡散速度を水分子の拡散速度の比として評価できる。実測された比は0.3であり、染料分子の拡散が膜によって阻止されている。本複合膜によって染料を溶解している水溶液を濃度を異にする2種の水溶液に分画することが可能である。
【実施例0046】
市販のろ紙(アドバンテック社製、No.3ろ紙)を複合膜の平膜の材料として採用した。すなわち、市販のろ紙の大きさ(約50cmx60cm)を均等な二枚に切断し、大きさ(約25cmx30cm)のろ紙を調製した。その一枚の片面にスチームアイロンを施し片面の平滑度を高めた。残りの未処(厚さ250μm)理のろ紙と比較することでミクロ相分離を起こす溶液を流延する処理の効果を確認した。その結果、平膜表面の平滑度をあげることで流延する溶液の裏面への浸透を防止できさらに該溶液を膜表面に浸透させることで膜表面の平滑度も増大する。
【0047】
ミクロ相分離を起こす流延用溶液の組成としてアセテート(酢酸置換度54%)/アセトン/メタノール/シクロヘキサノール/塩化カルシウム2水塩のそれぞれの重量濃度で4.5%/62%/15%/12.2%/6.3%の混合溶液を調整した。該溶液を流延して作製した多孔膜の濾過速度法で評価した平均孔径は400nmであった。該溶液を厚さ160μmのアプリケーターを用いて平滑度を高めた上記のろ紙上に流延した(温度30度、60%RH)。流延後乾燥し、水洗、鹸化処理し、水洗後乾燥し平膜状の複合膜を作製した。
【0048】
作製された複合膜の物質透過性は、ミクロ相分離法の製膜法で得られた多孔性の再生セルロースの単独の平膜とは大幅に異なっていた。すなわち、水濾過法で得られた平均孔径では1.5μm、粒子の除去性能では0.4μmの粒子を0.1wt%以下に、粒子の拡散特性では1μmの粒子の透過性能を10%以上保持する性能であった。粒子の除去性能のみが該平膜の性能に近い。このような差が生じた原因として複合膜の特異な微細構造にあるのであろう。すなわち、複合膜の膜厚は280μmであり、流延処理によりろ紙の膜厚は約30μm増大している。この増加分はミクロ相分離によって生じた粒子層の増加によると考えられる。なぜならば粒子を発生することのない溶媒処理ではこの増加は観察されなかった。ミクロ相分離により発生した粒子により複合膜としての重量増は膜面積17.34cm当たり0.01248gであった。実測される多孔膜としての平均孔径はこれらの結果より算出される粒子層のみの平均孔径と一致している。
【実施例0049】
実施例2と同様にアドバンテック社製のろ紙No.3を用い、その膜表面のみにスチームアイロン処理を施し膜表面の平滑度を増加させる。該膜表面にミクロ相分離を起こす溶液を流延する。この際の流延厚さを流延厚さを160μm、550μm、750μmに変化させた3種のアプリケーターを用いて設定した。流延液が平膜の裏面に染み出さない程度の粘度を予め設計している。また流延表面に流延液が残留しない程度の流延液の粘度と平膜表面の平滑度になるように設定される。
【0050】
ミクロ相分離を起こす流延用の溶液として下記組成の混合溶液を調製した。すなわち、アセトン/酢酸セルロース(酢酸置換度2.4)/メタノール/シクロヘキサノール/塩化カルシウム2水塩の重量比率が62.0/3.5/15.0/12.2/4.22の混合溶液を作製した。この溶液を、前述のアプリケーターを用いて平膜上に流延した。流延時の温度は30℃、60%RHであった。
【0051】
流延液中の良溶媒であるアセトンの蒸発によってミクロ相分離が生起する。蒸発時間4時間後に製膜された複合膜(セルロース誘導体の膜)を水洗浴に浸漬し、流水下で水洗後0.1規定の苛性カリ水溶液で6時間鹸化処理した。処理後約12時間流水で洗浄後複合膜を自由端で風乾した。風乾後の複合膜の特性をアプリケータの厚さとの関連で以下に示す。
アプリケーター厚が160μmの場合の複合膜の厚さの増加量は31μm、550μmの場合の厚さの増加量は32μm、750μmの場合の膜厚の増加量は68μmであった。流延液の平膜内部への浸透に伴う膜厚の増加量は、ミクロ相分離で生じた微粒子層の厚さを反映している。この厚さはアプリケーターの厚みと正の関係にあるが該層内の粒子密度はアプリケータの厚さが大ほど大きい。
【0052】
作製した複合膜中での再生セルロース微粒子の膜面積当たりの存在濃度は4.9・10-4g/cm(アプリケータの厚さが160μmの場合),1.35・10-3g/cm(550μmの場合),1.9・10-3g/cm(750μmの場合)であった。該複合膜としての水濾過速度(膜間差圧が17cm水柱頭差)はそれぞれ2.21・10-2、8.61・10-3,6.59・10-3cm/sであった。微粒子層の厚さと微粒子の大きさ(流延液中の酢酸セルロース濃度が低下すると粒子の大きさは増大する)によって複合膜の粒子の輸送特性を制御することが可能となった。すなわち、流延液中の高分子濃度を高めると微粒子層内の粒子の大きさは小さくなる。一方、微粒子濃度は高まり微粒子層内の孔径は小さくなる。そのため複合膜としての濾過速度法での平均孔径は小さくなり粘性流れの寄与は拡散流れの寄与に比較して相対的に減少する。
【0053】
濾過速度法での平均孔径が10nm以下となると粘性流の寄与は事実上消失し、拡散流れでの物質移動が支配的となる。拡散流れは膜の素材であるセルロース分子鎖の運動性で支配される。粒子層が無定形の再生セルロースであることにより、拡散流れの活発性が確保されている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明物の複合膜を液相系の流体の精製に利用する(液中の微粒子除去、タンパク質分子の回収など)場合には該膜の表面は垂直方向に設置されるモジュールに組み立てる。重力加速度による沈降現象に原因する膜の目詰まりの影響がこの組み立てで防止できる。気相系の流体内の分散微粒子(ウイルスや感染性粒子など)の除去や水分制御に利用するモジュールでは重力加速度の影響が無視できるので膜面の方向はいずれの方向でも構わない。流体の清浄化のために病院や実験施設で利用される。
【符号の説明】
【0055】
1;ろ紙の主成分である天然セルロース繊維の存在状態を示すろ紙の平面と断面との模式図における短繊維の存在状態の典型例。
繊維のアスペクト比は20以上で結晶化度は50%以上、繊維長は20mm以下の短繊維である。
2;天然セルロース短繊維間の隙間の空間に埋め込まれた再生セルロース微粒子の模式図
微粒子の大きさは除去すべき微生物の大きさ(例えば除去対象がウイルスであれば20nmn~100nm)に近い。微粒子相互は連結し該空間内で層状構造をとる。層は複合膜表面にほぼ平行。微粒子の結晶化度は20%未満である。
CM;図中で細い直線と小丸で示す粒子とで構成される複合膜、
Df;図中の膜内部での破線で示される拡散液の流れで2次流体を構成する。
Gd;複合膜中の流体に働く重力加速度の方向を実線の矢印で示す。図4の液相系での膜分離モジュールではGdの方向は膜平面の方向に沿っている。図5のモデルではGdの方向は膜面に垂直方向である。
S1;一次流体の流れ方向。
S2;2次流体の流れ方向。
I;領域I、複合膜内部の微粒子成分が短繊維成分より量的に多い領域。粘性流れで輸送される物質が微粒子成分との衝突で捕捉される領域。微粒子成分が少なくなると衝突による粒子の阻止能が低下する。
II;領域II、複合膜内部の微粒子成分が短繊維成分より量的に少ない領域。
III;領域III、複合膜内部の微粒子成分がほとんど存在しない領域。領域IIIの平滑度は領域Iより劣る。粒子成分との衝突による粒子阻止能は低い。
図1
図2
図3
図4
図5