(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110815
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】電解銅箔及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20230802BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C25D1/04 311
C25D1/00 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072277
(22)【出願日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】501 353
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(71)【出願人】
【識別番号】520068685
【氏名又は名称】サーキット フォイル ルクセンブルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】トーマス デバヒフ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ストリール
(57)【要約】
【課題】本発明は、ハンドリング性が求められる活物質の塗布工程などでは比較的高い引張強度を有し、加熱処理後においては、あるい程度低い値の引張強度で、高い伸び率を示す、リチウムイオン二次電池に好適な電解銅箔を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、常態の引張強度が50kgf/mm2以上であり、190℃、24時間の連続加熱処理後の引張強度が35~30kgf/mm2であることを特徴とする電解銅箔に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常態の引張強度が50kgf/mm2以上であり、190℃、24時間の連続加熱処理後の引張強度が30kgf/mm2以上であることを特徴とする電解銅箔。
【請求項2】
硫黄含有量が10質量ppm以上、30質量ppm未満である請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池用銅箔の製造方法であって、
平均分子量80,000~120,000g/molのゼラチンを、1~2ppm含有する硫酸銅系電解液により電解処理をすることを特徴とする電解銅箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅箔に関し、特に二次電池に好適な電解銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子通信機器などの各電子機器に用いられるプリント配線板や、リチウムイオン二次電池の負極集電体などの導電部分には電解銅箔が広く用いられる。製品の軽薄短小化が進行する中、薄箔化が容易で、圧延銅箔に比べ低コストで製造できる電解銅箔は特に有効なものとされている。
【0003】
この電解銅箔は、各種用途に合わせた物性値を有するものが使用されるが、例えば、リチウムイオン二次電池の場合、電池製造の際の応力負荷に耐えうる物性値を備えた電解銅箔が必要とされる。具体的には、引張強度や伸びの物性値が所定値以上の電解銅箔が要求される(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-221592号公報
【特許文献2】特開2012-212529号公報
【特許文献3】特開2006-152420号公報
【0005】
二次電池用の電解銅箔では、製造時の応力負荷やハンドリング性の観点から、比較的高強度、即ち引張強度が大きな物性値を備えるものが好適とされている。リチウムイオン二次電池を製造する場合、銅箔の表面に活物質というカーボン主体の材料を塗布するが、引張強度の高い銅箔であれば銅箔の皺などを発生しずらく、安定した生産を維持できる。また、活物質の塗布後に加熱処理されるが、この加熱処理により、比較的高い伸び率を有する銅箔が求められる。その理由は、円筒形のリチウムイオン二次電池では、充放電時に電池内の活物質の膨張収縮が繰り返されるため、高い伸び率を有する銅箔であれば、膨張収縮による応力変化に追随することができ、皺などの変形や破断などを起こしにくいためである。つまり、リチウムイオン二次電池の製造においては、ハンドリング性が求められる活物質の塗布工程などでは、比較的高い引張強度を有し、後工程で行われる加熱処理後においては、あるい程度低い値の引張強度で、高い伸び率を示す電解銅箔が求められている。具体的には、常態での引張強度が50kgf/mm2以上で、所定の連続加熱処理後の引張強度が、30kgf/mm2以上になるような物性を示す電解銅箔が求められているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、常態での引張強度が50kgf/mm2以上で、所定の加熱処理後の引張強度が、30kgf/mm2以上になるような物性を備え、リチウムイオン二次電池に好適な電解銅箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、常態の引張強度が50kgf/mm2以上であり、190℃、24時間の連続加熱処理後の引張強度が35~30kgf/mm2である電解銅箔に関する。本発明において、「常態」とは、常温で管理されている状態、あるいは、加熱処理される前の状態をいう。
【0008】
常態で、50kgf/mm2以上の引張強度がある電解銅箔であれば、活物質の塗布のようなハンドリング性が要求される工程において、皺などのトラブルを回避できる。また、190℃、24時間の連続加熱処理後の引張強度が35~30kgf/mm2である電解銅箔であれば、リチウムイオン二次電池における充放電時に生じる電池内の活物質の膨張収縮に追随することができ、破断などを起こしにくく、長時間、安定的に使用可能なリチウムイオン二次電池を実現することが可能となる。そして、電解銅箔の厚みとしては、4~12μmであることが好ましい。
【0009】
本発明に係る電解銅箔は、硫黄含有量が10質量ppm以上、30ppm未満であることが好ましい。10質量ppm未満であると、結晶粒の粗大化を引き起こすような結晶組織になる傾向がある。また30質量ppm以上になると、銅箔を伸ばした際に破断しやすくなるなど、銅箔の物性が不安定になる傾向がある。
【0010】
本発明の電池用銅箔は、平均分子量80,000~120,000g/molのゼラチンを、1~2ppm含有する硫酸銅系電解液により電解処理をすることで製造することができる。平均分子量が80,000~120,000g/molのゼラチンが1~2ppm含有された硫酸銅系電解液により電解処理を行うと、電解銅箔の硫黄含有量が10質量ppm以上となる。そして、この製造方法によれば、常態の引張強度が50kgf/mm2以上で、190℃、24時間の連続加熱処理後の引張強度が35~30kgf/mm2である電解銅箔を実現することができる。ゼラチンの添加量が1ppm未満であると、190℃、24時間の連続加熱処理で30kgf/mm2未満になる傾向があり、ゼラチンの添加量が2ppmを超えると、電解銅箔の硫黄含有量が30質量ppm以上になり、電解銅箔の物性が不安定になる傾向があるからである。尚、本発明において、「平均分子量」とは重量平均分子量をいう。
【0011】
本発明の電解銅箔の製造方法においては、電解液として硫酸銅溶液を用いる。基本的な液組成としては、硫酸銅溶液の銅濃度が70~100g/l、フリー硫酸50~200g/l、液温30~70℃、電流密度40~70A/dm2の条件であることが好ましい。また、硫酸銅溶液に含まれる塩素濃度としては、2ppm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電解銅箔によれば、カーボン主体の活物質の塗布工程において、皺などを発生しずらく、安定した生産を維持でき、充放電時における電池内の活物質の膨張収縮の繰り返しによる応力変化に追随することができ、皺などの変形や破断などを起こしにくいため、長時間、安定的に使用可能なリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について以下に説明する。
【0015】
実施例
実施例として、次の条件で電解銅箔を製造した。
・硫酸銅溶液
銅濃度 80±5g/L
フリ-硫酸 90±10g/L
塩素 2.5ppm
ゼラチン 1.5ppm
(平均分子量100,000)
・液温 50±5℃
・電流密度 45±5A/dm2
・銅箔厚み 8μm
【0016】
比較例
比較のために、ゼラチンを添加しない硫酸銅溶液で電解銅箔を製造した。ゼラチンを添加しないこと以外の条件は実施例と同様とした。
【0017】
製造した電解銅箔について、引張強度、伸び率を測定した。測定方法は、IPC-TM-650に準拠した。常態(20℃)と、190℃、所定時間の加熱処理を行った電解銅箔について測定した。測定結果を表1に示す。
【0018】
【0019】
表1に示すように、実施例の電解銅箔であると、常態で53.0kgf/mm2であったのが、190℃、24時間の連続加熱処理後の引張強度が32.8kgf/mm2となっていた。このことにより、実施例の電解銅箔であれば、190℃、24時間の連続加熱処理後の引張強度が常態の引張強度より、38.1%低下していることが判明した。また、実施例の場合190℃、1時間の加熱処理では、引張強度があまり低下しておらず、熱処理時間の経過に合わせて徐々に引張強度が低下していくことが分かった。一方、比較例の電解銅箔では、常態から伸び率が10%を超えており、190℃、1時間の加熱処理で引張強度が低下し、24時間の加熱処理後の引張強度は30kgf/mm未満の22.1kgf/mm2となっており、常態の引張強度より26.3%も低下していることが判明した。
【0020】
次の各電解銅箔の断面組織観察した結果について説明する。
図1Aには実施例の常態断面観察写真、
図1Bには190℃、24時間連続加熱処理後の断面観察写真を示す。
図2A、
図2Bには、同様に比較例の場合を示す。
【0021】
図1Bに示すように、実施例の電解銅箔では、190℃、24時間の連続加熱処理を行うと、若干の結晶粒成長が認められるものの、粗大な結晶粒になるような粒成長は認められなかった。一方、
図2Bに示すように、比較例の電解銅箔では、190℃、24時間の連続加熱処理を行うと、粗大な結晶粒に成長していた。
【0022】
最後に、実施例の電解銅箔について、2次イオン質量分析(SIMS)により、電解銅箔中の硫黄含有量を測定したところ、ゼラチンの入っていない銅箔電解液では、硫黄含有率は0.1質量ppm以下であったが、平均分子量100,000のゼラチンを使用した銅箔電解液では、14質量ppmであった。この硫黄含有量は、平均分子量100,000のゼラチンを使用したことが影響したものと考えられる。また、断面組織観察の結果、平均分子量100,000のゼラチンを使用することで、銅箔中の硫黄含有量が上昇し、190℃、24時間の連続加熱処理に対して、結晶粒の粗大化を引き起こすような結晶組織にならないように、電解銅箔組織を制御しているものと推測される。