(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110818
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】尿素系化合物を含む、水性フレキソインキ組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/107 20140101AFI20230802BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20230802BHJP
B41M 1/04 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C09D11/107
B41M1/30 D
B41M1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091295
(22)【出願日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2022011773
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関根 秀和
【テーマコード(参考)】
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113AA06
2H113BA01
2H113BB02
2H113BB07
2H113BB08
2H113BB22
2H113BC01
2H113CA25
2H113DA03
2H113DA04
2H113DA33
2H113DA35
2H113DA53
2H113EA10
2H113EA19
4J039AD01
4J039AD09
4J039AE07
4J039BC09
4J039BC35
4J039BC37
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA43
4J039FA02
4J039GA09
(57)【要約】
【課題】
本発明は、フレキソ印刷適性および印刷層の物性(耐折り曲げ性、再溶解性、塗膜乾燥性)が良好であり、版の洗浄性に優れる水性フレキソインキ組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
水性アクリル樹脂(A)及び尿素系化合物(B)を含む、水性フレキソインキ組成物であって、前記水性アクリル樹脂(A)が、水溶性アクリル樹脂(a1)及び水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)を含み、前記水性アクリル樹脂(A)の含有量が、水性フレキソインキ組成物の総質量中、10~45質量%であって、前記尿素系化合物(B)が、一般式(1)で表される化合物である、水性フレキソインキ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性アクリル樹脂(A)及び尿素系化合物(B)を含む、水性フレキソインキ組成物であって、
前記水性アクリル樹脂(A)が、水溶性アクリル樹脂(a1)及び水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)を含み、
前記水性アクリル樹脂(A)の含有量が、水性フレキソインキ組成物の総質量中、10~45質量%であって、
前記尿素系化合物(B)が、下記一般式(1)で表される化合物である、水性フレキソインキ組成物。
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)中、R
1は、酸素原子又は硫黄原子を表す。
R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6~9のアリール基を表す。
ただし、R
2とR
3とが、炭素数1~3のアルキレン基を介して環を形成してもよい。]
【請求項2】
水性フレキソインキ組成物全質量中の尿素系化合物(B)の含有量が、1~10質量%である、請求項1に記載の水性フレキソインキ組成物。
【請求項3】
尿素系化合物(B)と水性アクリル樹脂(A)との質量比率が、5:95~40:60である、請求項1又は2に記載の水性フレキソインキ組成物。
【請求項4】
水溶性アクリル樹脂(a1)の酸価が、150~350mgKOH/gである、請求項1又は2に記載の水性フレキソインキ組成物。
【請求項5】
基材上に、請求項1又は2に記載の水性フレキソインキ組成物により形成された印刷層を有する印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性アクリル樹脂及び尿素系化合物を含む、水性フレキソインキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パッケージ用途としての水性フレキソ印刷では、高細線のアニロックスロールを用い、低塗布量のインキでフレキソ印刷するケースが増えている(特許文献1)。インキが低塗布量であると、版上でインキ塗膜が乾きやすくなる結果、フレキソ版やアニロックスロールなど印刷機設備の汚れが落ちにくく、その洗浄性が課題となる。特に、水性アクリル樹脂を含む水性フレキソインキ組成物では、樹脂の溶解性に起因してフレキソ版の洗浄性の課題が顕著である。また一般に、水性フレキソインキ組成物においては、印刷濃度、再溶解性、耐折り曲げ性を要求される。
【0003】
特許文献2には、バインダー樹脂として、水溶性アクリル樹脂及び水性アクリル樹脂エマルジョンを使用した水性フレキソインキ組成物が開示されている。しかしながら、印刷層における諸物性が良好であり、印刷濃度が高い水性フレキソインキでは、耐水性が不十分になりやすいという問題を有していた。これは水性樹脂を中和して水溶化するためのアンモニア等の使用量が多いことに関係していると考えられる。他方、洗浄性の向上のためには、バインダー樹脂の水溶性は高い方がよい。しかし、アンモニアなどのアミン化合物等は、法令上多量に使用することができず、版の洗浄性を改善するための手段たりえない。
【0004】
特許文献3、4には、バインダー樹脂として水性アクリル樹脂エマルジョンを使用し、尿素又は尿素誘導体を含むインキが開示されている。しかしながら、特許文献3、4に記載されたインキでは、塗膜乾燥性、及び印刷物の耐折り曲げ性等の物性バランスが不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-167377号公報
【特許文献2】特開2019-108529号公報
【特許文献3】特表平6-503370号公報
【特許文献4】特表2012-506786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フレキソ印刷適性および印刷層の物性(耐折り曲げ性、再溶解性、塗膜乾燥性)が良好であり、版の洗浄性に優れる水性フレキソインキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記の水性フレキソインキ組成物を使用することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、水性アクリル樹脂(A)及び尿素系化合物(B)を含む、水性フレキソインキ組成物であって、
前記水性アクリル樹脂(A)が、水溶性アクリル樹脂(a1)及び水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)を含み、
前記水性アクリル樹脂(A)の含有量が、水性フレキソインキ組成物の総質量中、10~45質量%であって、
前記尿素系化合物(B)が、下記一般式(1)で表される化合物である、水性フレキソインキ組成物に関する。
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)中、R
1は、酸素原子又は硫黄原子を表す。
R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6~9のアリール基を表す。
ただし、R
2とR
3とが、炭素数1~3のアルキレン基を介して環を形成してもよい。]
【0009】
また、本発明は、水性フレキソインキ組成物全質量中の尿素系化合物(B)の含有量が、1~10質量%である、上記の水性フレキソインキ組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、尿素系化合物(B)と水性アクリル樹脂(A)との質量比率が、5:95~40:60である、上記の水性フレキソインキ組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、水溶性アクリル樹脂(a1)の酸価が、150~350mgKOH/gである、上記の水性フレキソインキ組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、基材上に、上記の水性フレキソインキ組成物により形成された印刷層を有する印刷物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、フレキソ印刷適性および印刷層の物性(耐折り曲げ性、再溶解性、塗膜乾燥性)が良好であり、版の洗浄性に優れる水性フレキソインキ組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の水性フレキソインキ組成物について詳細に説明する。
【0015】
(水性アクリル樹脂(A))
本発明において、水性アクリル樹脂(A)とは、水に溶解または分散可能なアクリル樹脂をいい、水溶性アクリル樹脂(a1)及び水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)を含む。
水溶性アクリル樹脂(a1)の中でも水溶性スチレン-アクリル共重合樹脂が好ましく、水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)の中でもスチレン-アクリル共重合樹脂エマルジョンが好ましい。
【0016】
水性アクリル樹脂(A)の含有量は、インキ総質量中、10~45質量%であることが好ましく、11~40質量%であることがより好ましく、12~35質量%であることが更に好ましい。
【0017】
水性アクリル樹脂(A)の重量平均分子量は1500~1500000であることが好ましく、5000~1000000であることがより好ましく、1000~50000であることが更に好ましい。
【0018】
(水溶性アクリル樹脂(a1))
本発明における水溶性アクリル樹脂は、アクリルモノマーを含むモノマーを有機溶剤中で溶液重合した後、脱溶剤をして固形樹脂をアルカリ条件下で溶解させたアクリル樹脂を指す。
【0019】
上記アクリルモノマーとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどが好適に挙げられる。例えば、アクリル酸エステルとしてはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシロピルアクリレート、グリシジルアクリレートが挙げられ、メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレートが挙げられる。
また、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのカルボン酸含有モノマー、又はそれらの無水物やハーフエステルも用いることができる。
これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記の中でも、アクリルモノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸を含むことが好ましい。
【0021】
また、水溶性アクリル樹脂(a1)は、アクリルモノマーとスチレンモノマーを共重合して得られた水溶性スチレン-アクリル共重合樹脂であることが好ましく、構成するスチレンモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンなどが例示される。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、スチレンモノマーは、α-メチルスチレンを含むことが好ましい。
【0022】
水溶性アクリル樹脂(a1)は、酸基を有していることが好ましく、酸基を有する場合の酸価は、150~350mgKOH/gであることが好ましく、200~300mgKOH/gであることがより好ましい。水溶性アクリル樹脂(a1)の酸価が上記範囲であることにより、版やアニロックスロールの洗浄性が向上する。
【0023】
(水性アクリル樹脂エマルジョン(a2))
本発明における水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)は、水系において不溶あるいは難溶であるが、界面活性剤などで分散安定化されているアクリル樹脂を指す。水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)の平均粒子径は10~500nmであることが好ましく、30~200nmであることがより好ましい。
【0024】
水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)は、酸基を有していることが好ましく、酸基を有する場合の酸価は、30~150mgKOH/gであることが好ましく、40~100mgKOH/gであることがより好ましい。
【0025】
なお、当該酸基を有する水性アクリルエマルジョン(a2)の酸基は、塩基性化合物で中和されていることが好ましい。当該塩基性化合物として、例えば、アミン化合物、アルカリ金属が好適に挙げられる。
【0026】
上記アミン化合物としては、例えば、アンモニア;ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン;モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。上記アルカリ金属としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)を構成するアクリルモノマーとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどが好適に挙げられ、例えば、アクリル酸エステルとしてはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシロピルアクリレート、グリシジルアクリレートが挙げられ、メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレートが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
また、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのカルボン酸含有モノマー、又はそれらの無水物やハーフエステルも用いることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記の中でも、アクリルモノマーは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸を含むことが好ましい。
【0030】
また、水溶性アクリル樹脂は水溶性スチレン-アクリル共重合樹脂であることが好ましく、構成するスチレンモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンなどが例示される。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、スチレンモノマーは、α-メチルスチレンを含むことが好ましい。
【0031】
上述した、水性アクリル樹脂(A)と水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)との固形分質量比は、水性アクリル樹脂(A):水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)が70:30~50:50であることが好ましく、65:35~50:50であることがより好ましく、60:40~55:45であることがさらに好ましい。フレキソ印刷適性および印刷層の物性バランス向上のためである。特に、耐折り曲げ性、再溶解性の向上において効果的である。
【0032】
(液状媒体)
本発明の水性フレキソインキ組成物は、液状媒体を含むことが好ましい。液状媒体の主成分は水であることが好ましいが、水に加えて、水溶性有機溶剤を使用できる。具体的には、印刷条件(スピード、版深、デザイン、乾燥温度)に応じて、アルコール系有機溶剤、グリコール系有機溶剤等を含有することができる。水溶性有機溶剤の含有量は、インキ全量に対して30質量%以下であることが好ましい。
ここで、本発明において、主成分が水であるとは、液状媒体中、水の含有量が最も多いことをいう。また、水溶性有機溶剤とは、25℃で液体であり、かつ、25℃の水に対する溶解度が1質量%以上であるものを指す。
【0033】
アルコール系有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、ノルマルブタノール、ターシャリブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール等が挙げられる。
グリコール系有機溶剤としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジピロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジブチルグリコール等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(顔料)
本発明の水性フレキソインキ組成物に使用される顔料としては、従来から水性フレキソ印刷インキ組成物で使用されているものを使用できる。具体的には、無機顔料として、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等の有色顔料、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム等の体質顔料を挙げることができる。また、有機顔料として、油溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記顔料の含有量は、水性フレキソインキ組成物の総質量中、1~60質量%であることが好ましい。
【0035】
(添加剤)
本発明の水性フレキソインキ組成物には、必要に応じて各種添加剤を使用することができる。例えば、分散剤、ワックス、体質顔料、レベリング剤、消泡剤、造膜助剤等である。
具体的には、耐摩擦性を向上させるために、ポリエチレンワックス等のワックス樹脂微粒子分散体、乾燥性や塗膜隠蔽性を向上させるために、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク等の体質顔料、防滑性を付与するために無機系微粒子および粘着性樹脂(アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂)、レベリング性を向上させるためにレベリング剤、消泡性を付与するために消泡剤、再溶解性を付与するために水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性化合物、造膜助剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0036】
(分散剤)
本発明の水性フレキソインキ組成物には、前記水性アクリル樹脂エマルジョン(a2)の分散に用いられることのある分散剤以外に、必要に応じて分散剤を含有させることができる。分散剤としては、ポリエーテル系化合物、アセチレングリコール系化合物などの界面活性剤を使用することが好ましい。
【0037】
例えば、ポリエーテル系化合物では共重合されたポリエーテルなどが好適であり、限定されるものではないが、ポリプロピレングリコール(プロピレンオキサイド)とポリエチレングリコール(エチレンオキサイド)が共重合された形態の化合物が好ましい。ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール共重合樹脂の重量平均分子量は、500~30000が好ましく、重量平均分子量が、500より大きければ顔料分散性が向上し、30000より小さければレベリング性が向上する。当該重量平均分子量は、より好ましくは、1000~5000の範囲である。また、エチレンオキサイド付加量は、全分子中の10~95質量%であることが好ましい。エチレンオキサイドの付加量が10%より高いと、分散安定性が向上し、95%を下回ると、耐水性と乾燥性が向上する。分散安定性と耐水性、乾燥性の両立の観点から、エチレンオキサイドの付加量は、30~90質量%とすることがより好ましい。
【0038】
また、アセチレングリコール系化合物も好ましく、エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドを有するアセチレングリコール系化合物が好適である。アセチレングリコール系化合物としては、サーフィノールシリーズ(エアプロダクツ社製)が市販されている。
【0039】
分散剤は、インキ総質量中、0.1~10質量%の範囲で使用することが好ましく、1~8質量%の範囲で使用することがより好ましい。顔料の光沢を向上させ、かつ耐ブロッキング性を保つためである。
【0040】
(尿素系化合物(B))
本発明の水性フレキソインキ組成物は、下記一般式(1)で表される尿素系化合物(B)を含有する。これにより、版およびアニロックスローラー上の乾きを抑制し、版の洗浄性を向上させることができる。この効果は、尿素系化合物(B)が、水性フレキソインキ組成物における液状媒体中の水と水和することに由来すると考えられる。
【0041】
一般式(1)
【化2】
[一般式(1)中、R
1は、酸素原子又は硫黄原子を表す。
R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6~9のアリール基を表す。
ただし、R
2とR
3とが、炭素数1~3のアルキレン基を介して環を形成してもよい。]
【0042】
上記、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基、及び置換基を有してもよい炭素数6~9のアリール基における置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、チオ基、シリル基、ニトロ基が挙げられ、中でもヒドロキシ基が好ましい。
【0043】
上記炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル記、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0044】
上記炭素数6~9のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基が挙げられ、フェニル基が好ましい。
【0045】
上記炭素数1~3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が挙げられ、エチレン基が好ましい。
【0046】
上記一般式(1)で表される尿素系化合物(B)としては例えば、尿素、2-ヒドロキシエチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル尿素、カルバミン酸アンモニウム塩にチタン触媒を作用させて合成するエチレンウレア等の尿素誘導体、N-フェニルチオ尿素等のチオ尿素誘導体が挙げられる。中でも、尿素、2-ヒドロキシエチル尿素、1,3-ジメチル尿素が好ましく、尿素、1,3-ジメチル尿素がより好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0047】
当該尿素系化合物(B)は、インキ総質量中、1~10質量%の範囲で使用することが好ましく、5~8質量%の範囲で使用することがより好ましい。また、尿素化合物(B)は、25℃の水に対する溶解度が20質量%以上であるものが好ましく、30質量%以上であるものがより好ましい。インキ皮膜の乾きを抑制するためである。また、尿素系化合物(B)と水性アクリル樹脂(A)の質量比率が、5:95~40:60であることが好ましく、10:90~30:70であることがより好ましく、15:85~25:75であることがさらに好ましい。
【0048】
(水性フレキソインキ組成物の製造方法)
本発明の水性フレキソインキ組成物の製造方法について説明する。本発明の水性フレキソインキ組成物を製造する方法としては、例えば、水、顔料、分散剤および水溶性樹脂等を撹拌混合した後に、各種練肉機、例えば、ビーズミル、パールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、ロールミル等を利用して顔料分散し、更に、樹脂エマルジョン、水溶性樹脂、ロジン系樹脂等の所定の材料および添加剤を添加、撹拌混合することで得られる。顔料分散には、ビーズミルを使用することが好ましい。
【0049】
(フレキソ印刷方式)
フレキソ印刷方式としては、2ロール方式、ドクター方式、ドクターチャンバー方式が挙げられる。ドクター方式、ドクターチャンバー方式にも表面にセルが形成されたアニロックスロールに水性フレキソインキ組成物組成物を供給し、ドクターブレードによりアニロックスロール表面の余分な水性フレキソインキを掻き落とす工程を経て、樹脂版を通して、最終的に被印刷体に印刷される。本発明の水性フレキソインキ組成物をフレキソ印刷方式で印刷すると、表面の粗い紙基材に対しても、美粧性に優れた印刷物が得られる。
【0050】
(フレキソ印刷方法;アニロックスロール)
本発明のフレキソ印刷物の製造方法に使用されるフレキソ印刷に使用されるアニロックスとしては、セル彫刻が施されたセラミックアニロックスロール、クロムメッキアニロックスロール等を使用することができる。セルの形状は、ハニカムパターン、ダイヤパターン、ヘリカルパターン等があり、いずれのパターンを使用することができる。また、アニロックスの役割は、ドクターチャンバー(またはファウンテンロール)から供給されるインキを、均質に定量受け取った後に刷版に受け渡すことである。アニロックスロールのスクリーン線数は、好ましくは50~2000線/インチであり、更に好ましくは100~1200線/インチである。
【0051】
(フレキソ印刷方法;フレキソ版)
本発明のフレキソ印刷物の製造方法に使用されるフレキソ印刷に使用される版としてはUV光源による紫外線硬化を利用する感光性樹脂版またはダイレクトレーザー彫刻方式を使用するエラストマー素材版が挙げられる。版を貼るスリーブやクッションテープについては任意のものを使用することができる。フレキソ版のスクリーン線数は、好ましくは80~200線/インチであり、更に好ましくは125~175線/インチである。
【0052】
(フレキソ印刷方法;印刷機)
フレキソ印刷機としてはCI型多色フレキソ印刷機、ユニット型多色フレキソ印刷機等があり、インキ供給方式についてはチャンバー方式、2ロール方式が挙げることが出来、適宜の印刷機を使用することができる。印刷速度は好ましくは50~500m/分であり、更に好ましくは100~300m/分である。
【0053】
(水性フレキソインキ組成物により形成された印刷層を有する印刷物)
水性フレキソインキ組成物により形成された印刷層を有する印刷物の製造方法としては、紙や樹脂の表面への印刷、特に、紙コップ、紙皿等の紙製容器等の紙器、又は表面が樹脂層で被覆された紙製容器、食品パッケージの薄紙又はそれらの材料に、上記水性フレキソインキ組成物を用いてフレキソ印刷機で印刷する方法が例示できる。
このとき、被印刷物としては、包み紙や紙袋等の食品パッケージ、表面にラミネートによるポリオレフィン等の樹脂層を有する紙製容器等の紙製品、表面にポリオレフィン等の樹脂コート層等の樹脂層を有する紙製容器等の紙製品、および表面に樹脂層を有しない未コートの紙製容器等の紙製品等の何れでもよい。
【0054】
(基材)
印刷用の基材(被印刷体)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等のプラスチックフィルム、セロハン、紙、アルミニウム箔等、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム、シート等が挙げられる。本発明においては、特に紙基材が好ましい。紙基材としては、ノンコート紙、基材の片側が処理されている片艶クラフト紙、晒しクラフト紙、未晒しクラフト紙等から選ばれる紙基材であることが好ましい。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例において、特に断らない限り「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」である。また、表中の各材料の分量の数字についても「質量部」である。水酸基価、酸価の単位はmgKOH/gである。
【0056】
(酸価および水酸基価)
JISK0070に従って求めた。
【0057】
(実施例1)[水性フレキソインキ組成物S1の作製]
水28部、PigmentBlack7 18部、尿素化合物5部、PEG-PPG(ポリエチレングリコール(PEG)とポリプロピレングリコール(PPG)の共重合樹脂 重量平均分子量2800;PEG:PPG=40:60;固形分100%)2部、アセチレングリコール(日信化学工業社製サーフィノールSE固形分80%)1部、水溶性アクリル樹脂(酸価240mgKOH/g、固形分28%)15部の混合物をビーズミルで混練分散後、水性アクリル樹脂エマルジョン(水酸価50mgKOH/g、固形分47%)を27部、ポリエチレンワックス3部、トリエタノールアミン1部となるように添加、撹拌混合して水性フレキソインキ組成物S1を得た。
【0058】
[水性フレキソインキ組成物S1の印刷]
上記で得られた水性フレキソインキ組成物S1を200線/インチのアニロックスロール、および感光性樹脂製のベタ版を備えた小型フレキシプルファー印刷機により、未晒クラフト紙:未漂白のクラフトパルプを使用したクラフト紙(日本製紙社製両更クラフトK坪量70g/m2)の基材表面に、印刷速度50m/sで印刷を行い、印刷物を得た。
【0059】
(実施例2~15)[水性フレキソインキ組成物S2~S15の作製]
表1に記載した原料および配合を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、水性フレキソインキ組成物を得た。表中、単位の標記のない数値は、部を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0060】
[水性フレキソインキ組成物S2~S15の印刷]
表1に記載された水性フレキソインキ組成物S2~S15について、実施例1と同様に印刷を行い、フレキシプルファー印刷機による印刷物をそれぞれ得た。
【0061】
(比較例1~3)[水性フレキソインキ組成物T1~T3]
表1に記載された原料および配合を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、水性フレキソインキ組成物を得た。表中、単位の表記のない数値は、部を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0062】
[水性フレキソインキ組成物T1~T3の印刷]
表1に記載された水性フレキソインキ組成物T1~T3について、実施例1と同様に印刷を行い、フレキシプルファー印刷機による印刷物を得た。
【0063】
【0064】
(評価)
上記実施例および比較例にて得られたインキおよび印刷物を用いて以下の評価を行った。なお評価結果は表1に示した。
【0065】
(耐折り曲げ性)
実施例および比較例で得られたインキをフレキシプルファー印刷機により、未晒クラフト紙:未漂白のクラフトパルプを使用したクラフト紙(日本製紙社製両更クラフトK;坪量70g/m2)に展色、塗膜を形成し、耐折り曲げ性の評価を行った。印刷面が内側になるよう基材を折り曲げ、次に印刷面が外側になるよう基材を折り曲げたのちの、印刷面のインキ塗膜の割れ具合を評価した。基準は以下の通りである。
5:印刷された面において折り目を生じないもの。
4:5と3の中間のレベルである耐折り曲げ性を持つもの。
3:印刷された面のうち、折り目部分にのみ印刷層の割れが生じるもの。
2:3と1の中間のレベルである耐折り曲げ性を持つもの。
1:印刷された面のうち、折り目部位以外の印刷層の割れ、欠けを生じるもの。
上記で産業上利用できるレベルの評価は3、4および5である。
【0066】
(再溶解性)
実施例および比較例で得られたインキをバーコーターにより片面コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製E5100;厚さ12μm)へ展色、塗膜を形成し、乾燥塗膜の同一のインキ組成物への再溶解性を評価した。
5:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が1%未満であるもの。
4:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が1%以上5%未満であるもの。
3:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が5%以上10%未満であるもの。
2:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が10%以上30%未満であるもの。
1:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が30%以上であるもの。
上記で産業上利用できるレベルの評価は3、4および5である。
【0067】
(塗膜乾燥性)
実施例および比較例で得られたインキをミヤバー(#4)によりフレキソ樹脂版へ展色、塗膜を形成し、室温にて1分間後に指触してインキの乾燥具合を目視評価した。基準は以下の通りである。
5:指触した範囲において、フレキソ樹脂版に対するインキ塗膜付着面積比率が30%以上であるもの。
4:指触した範囲において、フレキソ樹脂版に対するインキ塗膜付着面積比率が10%以上30%未満であるもの。
3:指触した範囲において、フレキソ樹脂版に対するインキ塗膜付着面積比率が5%以上10%未満であるもの。
2:指触した範囲において、フレキソ樹脂版に対するインキ塗膜付着面積比率が1%以上5%未満であるもの。
1:指触した範囲において、フレキソ樹脂版に対するインキ塗膜付着面積比率が1%未満であるもの。
上記で産業上利用できるレベルの評価は3、4および5である。
【0068】
(版洗浄性)
実施例および比較例で得られたインキをバーコーターにより片面コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製E5100;厚さ12μm)へ展色して塗膜を形成し、乾燥塗膜に水を滴下して拭き取り、乾燥塗膜の水への溶解性を評価することで、版洗浄性の評価を行った。基準は以下の通りである。
5:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が1%未満であるもの。
4:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が1%以上5%未満であるもの。
3:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が5%以上10%未満であるもの。
2:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が10%以上30%未満であるもの。
1:拭き取り後、基材に対するインキ塗膜付着面積比率が30%以上であるもの。
上記で産業上利用できるレベルの評価は3、4および5である。
【0069】
以上の結果により、本発明の水性フレキソインキ組成物が、フレキソ印刷適性および印刷層の物性(耐折り曲げ性、再溶解性、塗膜乾燥性)に優れ、版の洗浄性が良好であることを確認した。