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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110841
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】歯ブラシ及び歯ブラシ用の柄体
(51)【国際特許分類】
   A46B 5/00 20060101AFI20230802BHJP
   A46B 9/06 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
A46B5/00 Z
A46B9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163236
(22)【出願日】2022-10-11
(62)【分割の表示】P 2022011619の分割
【原出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 和也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 崇
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202BA02
3B202BB01
3B202DB01
3B202EA01
(57)【要約】
【課題】プラスチックを用いない歯ブラシ用の柄体を提供する。
【解決手段】
毛束が植毛される複数の植毛孔を有するヘッド部と、ヘッド部に延設されたネック部と、ネック部に延設されたハンドル部とを有する歯ブラシ用の柄体であって、ヘッド部位置に複数の貫通孔が形成されている一又は複数の植毛孔形成層と、ヘッド部位置に孔が形成されていない一又は複数の植毛孔非形成層とが、積層されて、ヘッド部に非貫通の植毛穴を有し、かつ、その植毛孔非形成層及び植毛孔非形成層が、多層紙又は多層紙由来の層である、ことを特徴とする歯ブラシ用の柄体。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛束が植毛される複数の植毛孔を有するヘッド部と、ヘッド部に延設されたネック部と、ネック部に延設されたハンドル部とを有する歯ブラシ用の柄体であって、
ヘッド部位置に複数の貫通孔が形成されている一又は複数の植毛孔形成層と、ヘッド部位置に孔が形成されていない一又は複数の植毛孔非形成層とが、積層されて、ヘッド部に非貫通の植毛穴を有し、かつ、その植毛孔形成層及び植毛孔非形成層が、多層紙又は多層紙由来の層である、ことを特徴とする歯ブラシ用の柄体。
【請求項2】
植毛孔形成層及び植毛孔非形成層を構成する多層紙又は多層紙由来の層が、柄体の表裏面の一部に形成された切起片の先端部分を少なくとも隣接する層に挿通させることで層同士を相互に係合する係止構造及び接着剤の少なくとも一方によって接合されている、請求項1記載の歯ブラシ用の柄体。
【請求項3】
シロキサン化合物が含有されている請求項1又は2記載の歯ブラシ用の柄体。
【請求項4】
毛束が植毛される複数の植毛孔を有するヘッド部と、ヘッド部に延設されたネック部と、ネック部に延設されたハンドル部とを有する歯ブラシ用の柄体を備え、
前記植毛孔に対して毛束が平線打ち込みによって植毛されている歯ブラシであって、
前記歯ブラシ用の柄体が、
ヘッド部位置に複数の貫通孔が形成されている一又は複数の植毛孔形成層と、ヘッド部位置に孔が形成されていない一又は複数の植毛孔非形成層とが、積層されて、ヘッド部に非貫通の植毛穴を有し、かつ、その植毛孔形成層及び植毛孔非形成層が、多層紙又は多層紙由来の層である、
ことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項5】
植毛孔形成層及び植毛孔非形成層を構成する多層紙又は多層紙由来の層が、柄体の表裏面の一部に形成された切起片の先端部分を少なくとも隣接する層に挿通させることで層同士を相互に係合する係止構造及び接着剤の少なくとも一方によって接合されている、請求項4記載の歯ブラシ。
【請求項6】
柄体に、シロキサン化合物が含有されている請求項4又は5記載の歯ブラシ。
【請求項7】
毛束が、バイオマスフィラメント、天然毛及び紙糸の群から選択される少なくとも一つを束ねたものである、請求項4~6の何れか1項に記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシ及び歯ブラシ用の柄体に関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシは、柄体の先端部分に複数の用毛を束ねた毛束が植毛されたものが知られている。一般家庭用、携帯用、ホテルや旅館の宿泊業等が宿泊者に提供されるアメニティ品用のような一般普及品の歯ブラシは、柄体が、毛束が植毛されるヘッド部と、ネック部を介してヘッド部に延設されたハンドル部とを有し、全体として長尺形状のものが一般的である。また、そのヘッド部は、口腔内での操作性が考慮され、薄く成形されることが多く、ネック部は、口腔内での操作性が考慮され、ヘッド部より縮径された形状とされていることが多い。さらに、歯ブラシの柄体は、成形性、使用時や平線打ち込みよる植毛に必要な強度等の点から、一般的には、ポリプロピレンポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、リアリレート等の硬質プラスチックで形成されている(下記特許文献1、特許文献2)。
【0003】
他方で、近年、マイクロプラスチックによる海洋汚染等の問題が注目され、環境保護の点等から脱プラスチック化が世界的に進んでいる。日本においても、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が成立し、例えば、特定の事業者に対して、使い捨てプラスチック製品の削減が義務化されることとなった。そして、この「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」では、「特定プラスチック使用製品」として、ホテルや旅館の宿泊業等が宿泊者に提供している歯ブラシが指定されており、歯ブラシにおける脱プラスチック化の要望が高まっている。
【0004】
歯ブラシの柄体等をプラスチックに代えて紙、木、竹等のプラスチック以外の天然素材等のものとする技術は、下記特許文献3、特許文献4、特許文献5に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-16496号公報
【特許文献2】特開2013-458号公報
【特許文献3】特開2005-110727号公報
【特許文献4】実用新案登録第3175154号公報
【特許文献5】特開2003-325231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3や特許文献4に記載の技術は、使い捨てを前提としたもので、ブラシ部を柄部に対して接着剤で貼付した簡易な構造であり、強度について十分に考慮されたものではなく、硬質プラスチック製の一般普及品とは使用感が大きく異なるもので、硬質プラスチック製の一般普及品の代替となるようなものではなかった。
【0007】
特許文献5に記載の技術は、ブラシ本体を天然の植物繊維及び天然の植物繊維からなる紙素材を金型により加圧して成形したり、シート状の紙素材を複数枚重合するようにして、ブラシ本体の強度を高め、硬質プラスチック製の一般普及品の形状のものとなっているが、単に紙素材を金型により加圧して成形したり、シート状の紙素材を複数枚重合しただけでは、硬質プラスチック製の一般普及品と同様に仕様できる十分な強度とすることは難しい。また、従来の硬質プラスチック製の一般普及品のように、平線打ち込みによる植毛行うことも難しい。
【0008】
そこで、本発明の主たる課題は、従来の硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を有し、さらに簡易にかつ硬質プラスチック製の一般普及品と同様に平線打ち込みによる製造が可能である、プラスチックを用いない歯ブラシ用の柄体及び、その柄体を有する歯ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決した第一の手段は、
毛束が植毛される複数の植毛穴を有するヘッド部と、ヘッド部に延設されたネック部と、ネック部に延設されたハンドル部とを有する歯ブラシ用の柄体であって、
ヘッド部位置に複数の貫通孔が形成されている一又は複数の植毛孔形成層と、ヘッド部位置に孔が形成されていない一又は複数の植毛孔非形成層とが、積層されて、ヘッド部に非貫通の植毛穴を有し、かつ、その植毛孔形成層及び植毛孔非形成層が、多層紙又は多層紙由来の層である、ことを特徴とする歯ブラシ用の柄体である。
【0010】
第二の手段は、
植毛孔形成層及び植毛孔非形成層を構成する多層紙又は多層紙由来の層が、柄体の表裏面の一部に形成された切起片の先端部分を少なくとも隣接する層に挿通させることで層同士を相互に係合する係止構造及び接着剤の少なくとも一方によって接合されている、上記第一の手段に係る歯ブラシ用の柄体である。
【0011】
第三の手段は、
シロキサン化合物が含有されている上記第一又は第二の手段に係る歯ブラシ用の柄体である。
【0012】
第四の手段は、
毛束が植毛される複数の植毛孔を有するヘッド部と、ヘッド部に延設されたネック部と、ネック部に延設されたハンドル部とを有する歯ブラシ用の柄体を備え、
前記植毛孔に対して毛束が平線打ち込みによって植毛されている歯ブラシであって、
前記歯ブラシ用の柄体が、
ヘッド部位置に複数の貫通孔が形成されている一又は複数の植毛孔形成層と、ヘッド部位置に孔が形成されていない一又は複数の植毛孔非形成層とが、積層されて、ヘッド部に非貫通の植毛穴を有し、かつ、その植毛孔形成層及び植毛孔非形成層が、多層紙又は多層紙由来の層で形成されている、
ことを特徴とする歯ブラシ用である。
【0013】
第五の手段は、
植毛孔形成層及び植毛孔非形成層を構成する多層紙又は多層紙由来の層が、柄体の表裏面の一部に形成された切起片の先端部分を少なくとも隣接する層に挿通させることで層同士を相互に係合する係止構造及び接着剤の少なくとも一方によって接合されている、上記第四の手段に係る歯ブラシである。
【0014】
第六の手段は、
柄体に、シロキサン化合物が含有されている上記第四又は第五の手段に係る歯ブラシである。
【0015】
第七の手段は、
毛束が、バイオマスフィラメント、天然毛及び紙糸の群から選択される少なくとも一つを束ねたものである、上記第四又は第五の手段に係る歯ブラシである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を有し、さらに簡易にかつ硬質プラスチック製の一般普及品と同様に平線打ち込みによる製造が可能である、プラスチックを用いない歯ブラシ用の柄体及び、その柄体を有する歯ブラシが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る歯ブラシ用の柄体の正面図である。
図2】本実施形態に係る歯ブラシ用の柄体の長手方向の沿う方向の断面の模式図である。
図3】本実施形態に係る歯ブラシ用の柄体の構造を説明するための断面模式図である。
図4】本実施形態に係る係止構造を説明するための図である。
図5】本実施形態に係る多層紙の断面模式図である。
図6】本実施形態に係る歯ブラシ用の柄体のヘッド部の拡大図である。
図7】本実施形態に係る歯ブラシの断面の模式図である。
図8】本実施形態に係る歯ブラシを示す図である。
図9】本実施形態に係る歯ブラシ用の柄体の製造方法例を説明するための第一の図である。
図10】本実施形態に係る歯ブラシ用の柄体の製造方法例を説明するための第二の図である。
図11】本実施形態に係る歯ブラシ用の柄体の曲げ強度測定方法を説明するための図である。
図12】本実施形態に係る歯ブラシ用の柄体の曲げ強度測定の結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次いで、本発明の実施形態を図1図12を参照しながら以下に詳述する。但し、本発明は、これらの実施形態に限定されるわけではない。
【0019】
本実施形態の歯ブラシ用の柄体10は、特に図1図2に示すように、毛束2が植毛される複数の植毛穴11Hを有するヘッド部11と、ヘッド部11に延設されヘッド部11より幅狭のネック部12と、ネック部12に延設されたネック部12より幅広のハンドル部13とで構成され、全体として薄い長尺形状をなしている。
【0020】
この歯ブラシ用の柄体10の植毛穴11Hに対し、毛束2を植毛することで、図7及び図8に示す本実施形態に係る歯ブラシ1が形成される。なお、この本実施形態に係る歯ブラシ1についても、本実施形態の歯ブラシ用の柄体10と対応する部位に同符号を付して、歯ブラシ用の柄体10の実施形態ともに説明する。
【0021】
本実施形態の歯ブラシ用の柄体10は、特に図1図3に示すように、平面視外縁形状を同一とする植毛孔形成層20と植毛孔非形成層30とが厚み方向に積層されて形成されており、特徴的に、これらの層20,30が多層紙10M又は多層紙由来の層となっており、植毛孔形成層20と植毛孔非形成層30との積層方向と、多層紙10M又は多層紙由来の層における紙層の積層方向とが一致するようになっている。多層紙由来の層は、多層紙10Mを前駆体とする層であり、例えば、多層紙10Mの強度をより高めるための適宜の処理が行なわれた層である。より具体的には、多層紙10Mをプレス加工してなる層、多層紙10Mが厚み方向に圧縮されてなる層、多層紙10Mを熱処理してなる層、多層紙10Mに強度を高めるコーティング剤を塗工してなる層、多層紙10Mの強度を向上させる添加剤が含有された層が挙げられる。さらに、添加剤を含侵させたうえで圧縮処理や熱処理をしてなる層等、多層紙10Mに対して複数の処理が行われた層であってもよい。なお、以下、植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30を構成する多層紙10Mと、多層紙由来の層の前駆体となる多層紙10Mに共通する事項について説明する場合には、区別せず単に多層紙10Mということがある。多層紙10Mは、市販されているものであってよく、例えば、大日製紙株式会社製のエリプラペーパー等が例示できる。なお、多層紙10Mを厚み方向に圧縮する際のプレス加工圧や、熱処理する際の加熱温度等は、必ずしも限定されるものではない。
【0022】
本実施形態の歯ブラシ用の柄体10は、プラスチックではなく、上記のように紙である多層紙10M及び多層紙由来の層の少なくとも一方で構成されているため、脱プラスチックを達成することができる。そして、単層の紙素材では、プラスチック素材と同様の強度に高め難いが、多層紙10Mは複数の紙層60,51が積層されているため十分な強度とすることができる。本実施形態の歯ブラシ用の柄体10は、多層紙10M又は多層紙由来の層で構成されるため、硬質プラスチック製の一般普及品と同様の、幅狭のネック部12を介してヘッド部11とハンドル部13とが連接された全体として薄い長尺形状を達成しながら、十分な強度とすることができ、硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を有するものとすることができる。また、多層紙は、パルプ繊維の集合体であるため使用時に歯で噛むなどしても口腔内で破砕することがなく使用時の安全性も十分である。
【0023】
ここで、本実施形態の歯ブラシ用の柄体10及び歯ブラシ1としては、強度としては、必ずしも限定されないが、JIS K 7171に準拠した割線法による3点曲げ荷重試験における曲げ強度として、曲げ撓み1mm時における曲げ荷重が15N以上、2mm時に30N以上であるのが望ましい。なお、この3点曲げ試験では、図11に示すように、支持台80A,80Bの位置は、ネック部12を挟む二点とし、二点間の距離L15は70mmとする。また、一方の支持台80Aは、ヘッド部11の位置(好ましくは先端からの距離L16が15mmとなる位置)とし、他方の支持台80Bは好ましくはハンドル部13の位置とする。ロードセル容量は1kNとし、押し込み速度は10mm/min、圧子81の半径R1=5mm、各支持台先端の半径はR2=2mmとして測定する。測定試料は、植毛部分を上向きとしてセットし、押し込み位置は、先端からの距離L17が75mmの位置とし支持台間の中央よりもハンドル部に近い位置とする。上記の曲げ強度であれば、硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を得られやすい。
【0024】
他方で、本実施形態の歯ブラシ用の柄体10及び歯ブラシ1としては、必ずしも限定されないが、耐水性能が3分以上、より好ましくは5分以上あるのが望ましい。ここで、耐水性は、水に完全浸漬しても各層が分離せず、また、水解しなければよい。但し、より好ましくは、5分浸漬時においても、上記JIS K 7171に準拠した3点曲げ荷重試験における曲げ強度が維持されているのが特に望ましい。
【0025】
他方で、この本実施形態の歯ブラシ用の柄体10は、特徴的に、ヘッド部位置21に複数の貫通孔21Hが形成されている植毛孔形成層20と、ヘッド部位置に孔が形成されていない植毛孔非形成層30とが積層されることで、ヘッド部11に非貫通の植毛穴11Hが形成されている。つまり、ヘッド部11に形成された植毛穴11Hが底部を有しており、その底部は、強度の高い多層紙10M又は多層紙由来の層である植毛孔非形成層30で構成されている。このため本実施形態の歯ブラシ用の柄体10では、従来の硬質プラスチック製の一般普及品で行われている、平線打ち込み技術による植毛を行うことができる。つまり、多層紙10M及び多層紙由来の層は、繊維の集合体である紙の一種であるためミクロ的な変形性に優れるとともに、複数の紙層が積層された層構造を有しているためZ軸強度に優れる。したがって、ヘッド部11が、多層紙又は多層紙由来の層が積層された構造であると、平線を打ち込んだ際に、平線が繊維にしっかり食い込むとともに、ヘッド部が割れるおそれが小さく、さらに、植毛穴11Hの底部を貫通するおそれも小さいため、平線による植毛を行いやすい。
【0026】
さらに、特に、上記の平線打ち込みによる植毛のしやすさの点と、柄体全体の剛度及び強度を高めるため、本実施形態の歯ブラシ用の柄体10の植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30には、シロキサン化合物を含有させるのが望ましい。シロキサン化合物が含有されているとシロキサン結合によって多層紙の強度と耐水性が高まった多層紙由来の層となる。特に、植毛孔非形成層30における、植毛孔形成層20の貫通孔21Hに積層される部分(ヘッド部位置)を含む範囲にシロキサン化合物が含有されていると、歯を磨いた際に、植毛穴11Hに溜まる水による強度低下を好適に防止できる。ここで、シロキサン化合物は、単に歯ブラシ用の柄体10の外表面に表面塗膜としてコーティングされているようにしてもよい。より好ましくは、柄体10の外表面から一定深度、シロキサン化合物が入り込み、多層紙及び多層紙由来の層を構成するパルプ繊維、セルロース繊維自体に結合したり、パルプ繊維、セルロース繊維をコーティングしたりする態様で含有されているのが望ましい。このようにすると、より柄体全体の剛度及び強度が高まる。
【0027】
シロキサン化合物は、シロキサン結合を有するものであれば、必ずしも限定されないが、歯ブラシが口腔内に挿入されるものであるため、生体に対して毒性が無いか、低いものが望ましい。また、柄体10に、シロキサン化合物を含有させるには、歯ブラシ1又は柄体10に対してシロキサン化合物を塗布、塗工、含侵、どぶ付けする態様のほか、多層紙10Mに対して、適宜のアルコキシシラン溶液やアルコキシシラン溶液加工品を塗布、塗工、特に含侵させた後、加温や加熱さらに圧縮するようにしてもよい。このようにすると、シロキサン化合物が、多層紙由来の層を構成するパルプ繊維、セルロース繊維自体に結合したり、パルプ繊維、セルロース繊維をコーティングしたりする態様で含有されるようになる。
【0028】
他方で、本実施形態に係る歯ブラシ1及び柄体10においては、抗菌剤及び抗ウイルス剤の少なくとも一方を含有させてもよい。その他、本発明の効果を妨げない範囲で、公知の機能性助剤を添加してもよい。抗菌剤や抗ウイルス剤は、限定されず、歯ブラシ用途に使用可能な公知のものを使用できる。特に、本実施形態の歯ブラシ1及び柄体10は、パルプ繊維を抄紙した紙である多層紙10M又は多層紙由来の層で構成されるため、プラスチック製品のように樹脂素材に抗菌剤等を練り込む必要がなく、塗布、塗工、含侵、どぶ付け等によって抗菌剤や抗ウイルス剤を簡易に紙層内に浸透させるように付与できる点で利点がある。なお、抗菌剤や抗ウイルス剤は、上記のシロキサン化合物ともに付与することができる。さらに、シロキサン化合物とともに付与することもできる。さらには、シロキサン化合物自体が抗ウイルス性、抗菌性を有するものであってもよい。
【0029】
ここで、植毛孔形成層20と植毛孔非形成層30は、必ずしも一層である必要はなく、複数層とすることができる。図示の形態は、二層の植毛孔形成層20と一層の植毛孔非形成層30の形態を示している。但し、この積層構造に限定されない。また、本実施形態に係る柄体10では、本発明の効果を妨げない範囲で他の層があってもよい。例えば、層間を接着する接着剤層があってもよい。なお、この接着剤は、脱プラスチックを達成できるものである必要があり、例えば、天然素材又は天然素材由来の接着剤を用いるのが望ましい。また、手で握りやすいように、ハンドル部13の厚みがより厚くなるように、プラスチック以外の素材の層を積層するようにしてもよい。もちろん、この層は、植毛孔形成層20と植毛孔非形成層30を構成するための多層紙10Mと同様の素材で構成してもよい。
【0030】
植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30を構成する多層紙10M及び多層紙由来の層は、必ずしも限定されないが、ヘッド部11側からハンドル部13側に至る長尺方向が、紙の縦方向(MD方向)と一致するように配されているのは望ましい。紙の縦方向(MD方向)と長尺方向とを一致させることで、折れ難く撓りやすい歯ブラシとなる。
【0031】
植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30を構成する層同士の接合方法は、必ずしも限定されない。本発明の効果を妨げない範囲で、接着剤、圧着手段、カシメ手段、ハトメ手段、楔手段、ステープル手段、芯なしステープルなどとも称される係止構造による接合などの接合手段によって接合することができる。また、接合手段は、複数種類の接合手段を併用してもよい。接合のための接着剤としては、澱粉、各種変性澱粉、カルボキシメチルセルロース等の変性セルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子接着剤、アクリル酸エステル、酢酸ビニル等の水系エマルジョン樹脂等を使用してもよい。澱粉、セルロース系の自然素材由来のものが、環境負荷の点で望ましい。接合のためのカシメ、ハトメを構成するリベット類やステープルの針は、プラスチック以外の木製、金属製のものとしプラスチック以外の素材のものがよい。好ましい、接合手段の一つそして、例えば、図4(A)及びその断面B-B断面を示す図4(B)に柄体10の一部を示すように、表裏面の一部に打ち抜き等によって切起片70,70を形成し、その先端部分70t,70tを少なくとも隣接する層に押し込ませることで各層を相互に機械的に接合する係止構造によるものが挙げられる。この係止構造においては、前記先端部分70tが挿通されやすいように、少なくとも隣接する層における切起片70の縁70eと平面視の同位置にハーフカット線を入れるなどしてもよい。本実施形態の歯ブラシ用の柄体10及び歯ブラシ1は、柄体が多層紙10M又は多層紙由来の層であり、コシを有する紙素材であるためこのような係止構造による接合によっても各層同士の接合が可能である。そして、この係止構造は、植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30そのもの一部の係合によって接合されるため他の部品を使用することがない点で望ましい。但し、上記のとおり、この係止構造を含む、機械的な係止構造と接着剤とを併用してもよい。この場合においても接着剤の使用量を少なくできる利点がある。また、他の係止構造として、図示はしないが、柄体の表裏面から一部を厚み方向に加圧して、少なくとも隣接する層に加圧部分を食い込ませることで当該加圧部分を係止させるようにして圧着接合するようにしてもよい。
【0032】
ここで、植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30を構成する多層紙10M、及び多層紙由来の層の前駆体となる多層紙10Mは、坪量が700g/m2以上、より好ましくは850g/m2以上、特に好ましくは950g/m2以上である。この範囲の多層紙10Mであれば十分な剛度を得られやすい。また、この坪量の多層紙であれば、十分な剛性及び強度としやすく、より硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を有するものとしやすい。多層紙10Mの坪量の上限値は限定されないが、抄造時にカレンダーロール等で折れジワが発生しやすくなるおそれがあり、この点からは上限値については、1470g/m2が好ましく、1240g/m2がより好ましい。紙厚は、900μm以上1,500μm以下が好ましく、より好ましくは1000μm以上1,350μm以下である。なお、坪量は、JIS P 8124(2011)に記載の「紙及び板紙-坪量測定方法」に準拠して測定した値であり、紙厚は、JIS-P8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した値である。
【0033】
なお、植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30を構成する多層紙10M、及び多層紙由来の層の前駆体となる多層紙10Mは、プラスチックを含む合成繊維を含まない天然素材由来の繊維のみから構成される紙であるのが望ましい。好適には、パルプ繊維のみからなる紙が望ましい。
【0034】
好ましい構成パルプ繊維は、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の針葉樹クラフトパルプ及び、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等広葉樹クラフトパルプである。加工後の製品の外観及び強度を両立しやすいことから、針葉樹晒クラフトパルプ及び広葉樹晒クラフトパルプを用いることが特に好ましい。その他のパルプとして、古紙パルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを適宜組合せて使用されていてもよい。
【0035】
植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30を構成する多層紙10M、及び多層紙由来の層の前駆体となる多層紙10Mは、そのJIS P 8113(2006)に準拠して測定された縦方向及び横方向の引張強度が、ともに50kN/m以上であるのが望ましい。この引張強度を有していれば、歯ブラシとして強度を確保しやすい。
【0036】
また、植毛孔形成層20及び植毛孔非形成層30を構成する多層紙10M、及び多層紙由来の層の前駆体となる多層紙10Mには、製紙用添加剤としてサイズ剤及び紙力増強剤の少なくとも一方を添加するのが望ましい。所望の強度に調整しやすい。
【0037】
サイズ剤としては、スチレン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水琥珀酸(ASA)、中性ロジンサイズ剤、ロジンサイズ剤、変性ロジンエマルジョンサイズ剤などが挙げられる。これらの中でもロジンサイズ剤及び変性ロジンエマルジョンサイズ剤が好ましい。ロジンサイズ剤は、特に限定されない。ロジン系の物質は、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマル酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを挙げることができる。また、ロジンサイズ剤には、これらの単独またはその混合物をエマルジョン化したもの、単独でエマルジョン化した後に混合したものも含まれる。さらに、エマルジョン化したものに、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも含まれる。
【0038】
紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミン系樹脂、アクリル樹脂系、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂など公知の種々のものを使用できる。これらの中でも、両性紙力増強剤を使用することが好ましい。両性ポリアクリルアミドとしては、アクリルアミドとアニオン性モノマー及びカチオン性モノマーの共重合物、アクリルアミドとアニオン性モノマーとの共重合物のマンニッヒ変性物、ホフマン分解物等が挙げられる。特に両性ポリアクリルアミドは、自己定着機能を有しているため、紙間強度を向上させるべく増添したとしても、カチオン過多になることがなく、変性ロジンエマルジョンサイズ剤とともに含むことでこれを安定的に定着させることができる。
【0039】
サイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。なお、「kg/t」はパルプ1tあたりの質量(kg)を示す。サイズ剤の添加量をこの範囲とすることで、耐水性を向上でき、歯ブラシ用途に適するようになる。
【0040】
なお、多層紙10Mには、本発明の目的とする効果を損ねない範囲でその他の各種添加剤を含有させることができる。例えば、ポリビニルアルコールやワックス等を塗布することができる。
【0041】
多層紙10Mは、特に、図5に断面の模式図を示すように、表層51,51及び中層60を有する多層紙10Mとするのが望ましい。単層の紙素材は、プラスチック素材と比較すると強度を高め難いが多層紙10Mは、同等の強度としやすい。また、多層紙10Mは、各層の特性を変えることができ、高密度ながら弾性を確保しやすく、耐水性も付与しやすい。例えば、耐水性に優れるものの硬いが折れ易い傾向の一対の表層51に柔軟な中層60を組み合わせることで、耐水性、強靭性や耐久性に優れるようになる。したがって、歯ブラシ全体の耐水性を高め、さらに、柄体、特にネック部の撓りを発現しやすく、硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を有するものとしやすい。なお、多層紙は、多層抄きによって製造することができる。多層紙10Mにおけるこのような特徴は、例えば、プレス加工等によって厚み方向に圧縮して多層紙由来の層としても失われない。
【0042】
多層紙10Mの層数は、限定されないが、五~九層とし、中層60の層数を三層以上、特に五層とするのがよい。特に図5に示す形態では、三層の中層60を有するものとなっている。中層60の総数が三層以上であることで、多層紙の強靭性や耐久性をより向上できる。中層60の総数の上限としては、層間強度を維持する観点から、七層以下であることが好ましい。また、三層~七層は、円網多筒式抄き合わせ抄紙機を使用する場合における層間強度を維持しながら操業を行いやすい。
【0043】
多層紙10Mにおける表層51及び中層60の坪量は、特に限定されないが、表層51の坪量としては、1層あたり50.0g/m2以上200.0g/m2以下が好ましい。また、中層全体の坪量としては、400g/m2以上950g/m2以下が好ましい。さらに、多層紙全体の坪量に対する一対の表層51,51の合計の坪量の割合としては、20.0%以上35.0%以下であることが好ましい。一対の表層の剛直性が高く、中層の柔軟性が優れるようになる。また、多層紙において、一対の表層の合計の坪量の割合を上記の範囲とすることで、折れ曲がり難い特性を付与することができる。密度は、0.65~1.00g/cm3、特に0.73~0.85g/cm3が好ましい。多層紙の密度がこの範囲であることで、高坪量で剛性が優れつつ、折れ難いものとなる。
【0044】
また、多層紙10Mは、表層51,51及び中層60の各層に製紙用添加剤として上記のサイズ剤及び紙力増強剤の少なくとも一方を添加することが好ましい。この場合、表層51のサイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、中層60のサイズ剤の添加量としては、固形分で2.0kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、各層の紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。この範囲とすることで、多層紙の層間強度などの各種紙力を付与しやすい。
【0045】
また、多層紙10Mの各層を構成するパルプ繊維は、表層51及び中層60のパルプが、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを混合して配合することが望ましい。紙厚が厚くなり、十分な強度を確保できる。また、表層における前記針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)を5/95以上20/80以下にすることで、剛直で高密度化しやすい広葉樹クラフトパルプが多く含有され、表層が高密度で剛直な特性となり、強度に優れるものとなりやすい。係る表層ととともに、中層については、針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)を20/80以上40/60以下にするのが望ましい。特に表層よりも柔軟性に富む針葉樹クラフトパルプを5%以上多く含有させると、より良好な柔軟性を備えるようになる。
【0046】
また、多層紙10Mは、JIS P 8125(2000)に準拠して測定されたテーバー剛直度が縦方向で125mN・m以上、好ましくは150mN・m以上であり、横方向で40mN・m以上であり、好ましくは60mN・m以上であるのが望ましい。この多層紙10Mであれば、十分な剛性及び強度とでき、硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を有するものとしやすい。
【0047】
さらに、多層紙10Mは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.18-1:2000に準拠して測定されるZ軸強度が400kN/m2以上、好ましくは450kN/m2以上であるのが望ましい。植毛孔形成層、植毛孔形成層の植毛孔及び植毛孔非形成層をトムソン加工等の打ち抜き、カッティングプロッター等のカッティングによって製造しやすい。
【0048】
本実施形態の歯ブラシ用の柄体10及び歯ブラシ1の大きさや具体的な大きさは限定されないが、特に図1及び図2に示すように、全体の長さL1としては150~190mm、ヘッド部11の幅L3は9.5~15.0mm、ヘッド部の柄体の厚みL4は3.0~6.0mm、ヘッド部11の長さL5は20.0~30.0mm、ハンドル部13の幅L6は10.5~14.5mm、ネック部12の長さL7は30~40mm、ネック部12の幅L8は4~8mmとすることができる。この形状であれば、硬質プラスチック製の一般普及品と同様の、幅狭のネック部12を介してヘッド部11とハンドル部13とが連接された全体として薄い長尺形状となり、硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を有するものとすることができる。また、上述の多層紙又は多層紙由来の層によっても十分な強度や耐水性を確保しやすい。
【0049】
また、本実施形態の歯ブラシ用の柄体10は、各植毛穴11Hに、それぞれ複数本のフィラメントを束ねて二つ折りにした毛束を、平線を用いる公知の植設法により、歯ブラシ1とすることができる。平線の厚さ及び植毛穴に対する平線の掛かり代は、適宜に設計すればよい。図6に示すように、植毛孔形成層20における貫通孔21H、それにより形成されるヘッド部11における植毛穴11Hの口径L9は、限定されないが、1.2~2 .4mm程度、好ましくは、1.3~1.9mmである。ヘッド部11における植毛穴11Hの個数や配列は必ずしも限定されない。但し、ヘッド部11の外縁から植毛穴11Hまでの距離L10は、限定されないが、0.7~1.9mmとするのが望ましい。植毛穴間の間隔L11も、限定されないが、0.7~1.9mmとするのが望ましい。この距離及び感覚であれば、平線打ち込みによる割れが発生し難く、また、一般普及品に近い使用感を得ることができる。
【0050】
植毛穴11Hに植毛され、歯ブラシの一部を構成する毛束2のフィラメントは、限定されない。ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィンなどの樹脂材料からなる人工毛でもよいが、脱プラスチックの観点から、トウゴマから採取したひまし油由来のバイオマスフィラメント、豚毛、馬毛等の天然毛、マニラ麻等を原料とする天然繊維で構成される紙糸などの、天然物由来のフィラメントであるのが望ましい。なお人工毛を植毛した場合、歯ブラシとしての強度を低下させない範囲で、ネック部の適宜の位置に、罫線、ミシン目、ハーフスリット等を設け、ヘッド部を他の部分と分離しやすくするようにし、ヘッド部のみ分別廃棄できるようにしてもよい。
【0051】
本実施形態の歯ブラシの製造方法は限定されないが、例えば、好適には、次のようにして製造することができる。まず、図9に示すように植毛孔形成層20となる多層紙10m,10mを植毛穴11Hの深さが確保できるように複数枚、積層して合紙し、その後に植毛穴11Hとなる部分のみを打ち抜き貫通孔21Hを形成する。この合紙は、プレス加工や接着加工によって行うことができる。次に、図10に示すように、この合紙した植毛孔形成層20となる積層多層紙10m,10mの一方面に、植毛孔非形成層30となる他の多層紙10sを積層して、両者をさらに合紙する。この合紙は、プレス加工や接着加工によって行うことができる。次に、歯ブラシの柄体10の外縁を打ち抜いて、個々の柄体10とする。なお、この打ち抜きに先立って、又は、打ち抜き後に、例えばシロキサン化合物を含有させるための処理を行うことができる。さらに、打ち抜きと同時にプレス加工してもよい。次に、個々の柄体が得られたならば、公知の平線打ち込み法によって、植毛孔に毛束を植毛して個々の歯ブラシとする。この製造方法では、枚葉の多層紙10m,10m,10sから複数の柄体10を製造することができ、工業的かつ安定的な製造が可能である。
【実施例0052】
次いで、本発明に係る歯ブラシ(実施例1及び実施例2)の曲げ強度を測定し、従来のプラスチック製の歯ブラシ(比較例1及び比較例2)と比較した。
【0053】
試験方法は、JIS K 7171に準拠した割線法による3点曲げ荷重試験とし、図11に示すように、支持台80A,80Bの位置をネック部12を挟む二点とし、その二点間の距離L15を70mmとした。また、一方の支持台80Aは、ヘッド部11の位置とし、先端からの距離L16が15mmとなる位置とした。ロードセル容量は1kNとし、押し込み速度は10mm/min、圧子81の半径R1=5mm、各支持台先端の半径はR2=2mmとして測定した。測定試料は、植毛部分を上向きとしてセットし、押し込み位置は、先端からの距離L17が75mmの位置とした。
【0054】
実施例1に係る柄体は、植毛孔形成層を一層、植毛孔非形成層を二層の三層構造とし、各層はポリビニルアルコール接着剤により接着した。また、毛束を、平線打ち込みによって植毛した。各層は、坪量1000g/m2の多層紙にシロキサン化合物を含有させたもので構成した。多層紙は、坪量140g/m2の表層と、合計坪量720g/m2の中層(計3層)のものを用いた。実施例2は、実施例1に係る歯ブラシを5分間、水に浸漬したものを用いた。比較例1は、市販されている一般家庭向けのプラスチック製歯ブラシであり、比較例2は、宿泊施設にて配布されている業務用のプラスチック製歯ブラシである。
【0055】
曲げ強度試験の結果は、図12に示す。図12に示されるように、本発明に係る歯ブラシは、多層紙という紙製でありながら、5分間水に浸漬しても、プラスチック製歯ブラシと同様の曲げ強度を維持できることが確認できる。また、平線打ち込みによって毛束を植毛しているが強度が低下していることも確認できない。
【0056】
よって、本発明によれば、硬質プラスチック製の一般普及品と同様の使用感を有し、さらに簡易にかつ硬質プラスチック製の一般普及品と同様に平線打ち込みによる製造が可能である、プラスチックを用いない歯ブラシ用の柄体及び、その柄体を有する歯ブラシが提供される。
【符号の説明】
【0057】
1…歯ブラシ、2…毛束、10…柄体、10M,10m,10s…多層紙、11…ヘッド部、11H…植毛穴、12…ネック部、13…ハンドル部、20…植毛孔形成層、21…ヘッド部位置、21H…貫通孔、30…植毛孔非形成層、51…表層、60…中層、80A,80B…支持台、81…圧子、L1…歯ブラシ及び歯ブラシ用の柄体の全長、L2…歯ブラシ用の柄体の厚み、L3…ヘッド部の幅、L4…ヘッド部の厚み、L5…ヘッド部の長さ、L6…ハンドル部の幅、L7…ネック部の長さ、L8…ネック部の幅、L9…植毛穴(貫通孔)の口径、L10…ヘッド部の外縁から植毛穴までの距離、L11…植毛穴間(貫通孔間)の間隔、L15…支持台間の距離、L16…先端から支持台までの距離、L17…先端から押し込み位置までの距離。
図1
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