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特開2023-110975原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置、運用プラン作成支援方法、及び、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110975
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置、運用プラン作成支援方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G21D 3/00 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
G21D3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012540
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宇津見 晋
(72)【発明者】
【氏名】日室 佑介
(72)【発明者】
【氏名】松井 雅文
(72)【発明者】
【氏名】小峰 友裕
(57)【要約】
【課題】原子力発電プラントの炉心状態を考慮して負荷追従運転を行うための運用プランの作成を支援する。
【解決手段】原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置は、運用プラン取得部、炉心状態算出部、及び、運用プラン判定部を備える。運用プラン取得部は、第1運用サイクルに対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プランを取得する。炉心状態算出部は、第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクルにおける原子力発電プラントの炉心状態を算出する。運用プラン判定部は、炉心状態に基づいて、原子力発電プラントにおいて運用プランの実施が可能であるか否かを判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1運用サイクルに対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プランを取得するための運用プラン取得部と、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクルにおける前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するための炉心状態算出部と、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するための運用プラン判定部と、
を備える、原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置。
【請求項2】
前記運用プラン、及び、前記炉心状態に基づいて、前記第1運用サイクルにおける前記原子力発電プラントの挙動を算出するためのプラント挙動算出部を更に備え、
前記運用プラン判定部は、前記挙動に基づいて、前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定する、請求項1に記載の原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置。
【請求項3】
前記原子力発電プラントは加圧水型炉を含み、
前記プラント挙動算出部は、前記加圧水型炉を含む一次冷却系について前記挙動を算出する、請求項2に記載の原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置。
【請求項4】
前記炉心状態算出部は、前記第2運用サイクルにおける前記原子力発電プラントから得たプロセスデータに基づいて、前記炉心状態を算出する、請求項1から3のいずれか一項に記載の原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置。
【請求項5】
前記運用プラン判定部は、前記炉心状態によって特定される軸方向出力分布が許容範囲であるか否かに基づいて判定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置。
【請求項6】
前記運用プラン判定部によって前記運用プランの実施が不能であると判定された場合、前記運用プランの代替プランを作成するための代替プラン作成部を更に備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置。
【請求項7】
前記代替プラン作成部は、前記代替プランとして、前記運用プランの出力変化レートを前記原子力発電プラントの仕様範囲内になるように変更した第1代替プランを作成する、請求項6に記載の原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置。
【請求項8】
前記代替プラン作成部は、前記第1代替プランの作成が不能である場合、前記代替プランとして、前記原子力発電プラントにおいて定格運転が継続的に実施される第2代替プランを選択可能である、請求項7に記載の原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置。
【請求項9】
第1運用サイクルに対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プランを取得するステップと、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクルにおける前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するステップと、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するステップと、
を備える、原子力発電プラントの運用プラン作成支援方法。
【請求項10】
コンピュータを用いて、
第1運用サイクルに対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プランを取得するステップと、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクルにおける前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するステップと、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するステップと、
を実現可能な、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置、運用プラン作成支援方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、風力、太陽光、水力、地熱等の再生可能エネルギを利用して発電を行う、再生可能エネルギ発電事業の拡大が進んでいる。再生可能エネルギを利用した発電では、環境条件等の変化に伴って発電量が変動しやすく、電力の需給バランスを調整するために、他の発電プラントによる発電量を再生可能エネルギの変動に伴って負荷追従運転することで調整力を確保している。例えば特許文献1では、再生可能エネルギの発電量の変動に対応して、火力発電プラントを負荷追従運転させるための制御に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-108493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように再生可能エネルギの発電量の変動に伴って火力発電プラントでは負荷追従運転による運用が増えているが、原子力発電プラントは発電コストが低廉で昼夜問わず安定して発電することができることから、基本的に定格出力を維持するような運用がなされている。近年、環境意識の高まりに伴って更なる再生可能エネルギの導入が進むことによる調整力の確保が必要となるにも関わらず、脱炭素や採算性の悪化などにより火力発電プラントが減少していく傾向があるため、火力発電プラントに代わって再生可能エネルギの発電量の変動に伴う負荷追従に対応するための新たな解決手段の模索が課題となっている。このような場合、前述のように基本的に定格出力を維持するような従来運用がなされていた原子力発電プラントにおいても再生可能エネルギの発電量の変動に伴って負荷追従運転を行うことが選択肢の一つとして考えられる。
【0005】
原子力発電プラントでは、例えば昼夜の電力需給バランスの変動に伴って、比較的長い時間にわたって予め設定された運用プランに基づいた負荷追従運転は従来から想定されていたが、再生可能エネルギの発電量の変動は、より短い時間スケールで生じる。原子力発電プラントの負荷追従運転の性能は、炉心状態やプラント挙動に依存することから、再生可能エネルギの発電量の変動に基づいて原子力発電プラントの運用プランを事前に作成し、当該運用プランに沿った原子力発電プラントの負荷追従運転を行う必要がある。しかしながら、原子力発電プラントが対応可能な運用プランの作成は容易でない。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、原子力発電プラントの炉心状態を考慮して負荷追従運転を行うための運用プランの作成を支援可能な原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置、運用プラン作成支援方法、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置は、上記課題を解決するために、
第1運用サイクルに対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プランを取得するための運用プラン取得部と、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクルにおける前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するための炉心状態算出部と、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するための運用プラン判定部と、
を備える。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る原子力発電プラントの運用プラン作成支援方法は、上記課題を解決するために、
第1運用サイクルに対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プランを取得するステップと、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクルにおける前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するステップと、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するステップと、
を備える。
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係るプログラムは、上記課題を解決するために、
コンピュータを用いて、
第1運用サイクルに対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プランを取得するステップと、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクルにおける前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するステップと、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するステップと、
を実現可能である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、原子力発電プラントの炉心状態を考慮して負荷追従運転を行うための運用プランの作成を支援可能な原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置、運用プラン作成支援方法、及び、プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】原子力発電プラントについて作成される運用プランの一例である。
図2図1の運用プランの作成から原子力発電プラントの実際の運用に適用するまでのタイムスケジュールを示す図である。
図3】一実施形態に係る運用プラン作成支援装置の構成を示すブロック図である。
図4】一実施形態に係る原子力発電プラントの概略構成図である。
図5】一実施形態に係る運用プラン作成支援方法を示すフローチャートである。
図6図5のステップS8で作成される第1代替プランを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
本開示の少なくとも一実施形態に係る運用プラン作成支援装置は、運用サイクルごとに設定される原子力発電プラントの運用プランの作成を支援するための装置である。原子力発電プラントが発電した電力は外部の電力系統(不図示)に供給されるが、電力系統には再生可能エネルギを含む他のエネルギを利用した発電プラントで発電された電力も供給される。再生可能エネルギの発電量は環境条件等によって変動しやすいため、原子力発電プラントでは、電力系統の需給バランスを確保するために適した運用プランが望まれる。
【0014】
図1は原子力発電プラントについて作成される運用プランOPの一例である。運用プランOPは、運用サイクルCにおける原子力発電プラントの出力P(発電量(MWh))のタイムスケジュールとして規定される。本実施形態では、運用サイクルは1日(24時間)に設定され、運用サイクル中における原子力プラントの出力Pの時間変化が規定される。
【0015】
図1に示す運用プランOPは、第1期間T1乃至第4期間T4を含む。第1期間T1では、原子力発電プラントの出力Pが定格出力に対応する第1出力P1に維持されており、例えば、再生可能エネルギによる発電量が低下する夜間に対応する時間帯である。第2期間T2では、原子力発電プラントの出力Pが第1出力P1から第2出力P2(<P1)に向けて、所定の第1出力変化率ΔP1(<0)で減少しており、例えば、再生可能エネルギによる発電量が増加する日中に移行する時間帯である。第3期間T3では、原子力発電プラントの出力Pが部分出力に対応する第2出力P2に維持されており、例えば、再生可能エネルギによる発電量が低下する日中に対応する時間帯である。第4時間T4は、原子力発電プラントの出力Pが第2出力P2から第1出力P1に向けて、所定の第2出力変化率ΔP2(>0)で増加しており、例えば、再生可能エネルギによる発電量が減少する夜間に移行する時間帯である。このような運用プランOPは、出力変化幅Pw(第1出力P1と第2出力P2との差)、出力変化率Pr、部分出力時間Pt(第2出力P2に維持される時間幅)によって特定可能である。
【0016】
図2図1の運用プランOPの作成から原子力発電プラントの実際の運用に適用するまでのタイムスケジュールを示す図である。原子力発電プラントでは運転サイクルごとに運用プランが事前に作成されることにより、運用プランに従った運用が実施される。例えば第1運用サイクルC1に対応する運用プランOPの作成は、第1運用サイクルC1の開始タイミングより十分に前に行われる必要がある。
【0017】
一般的に運用プランOPは原子力発電プラントの運用を行う電力事業者によって作成されるが、運用プランが実際の原子力発電プラントで実施されるまでには、電力事業者が運用プランOPの実施可否を評価判定した後、相応の期間(例えば電力市場への入札及び、約定されるための期間)が必要となる。そのため運用プランの作成は、これらの期間を考慮して第1運用サイクルC1の開始タイミングより十分前に行われる必要がある。本実施形態では、第1運用サイクルC1に対応する運用プランOPの作成は、第1運用サイクルC1の直前の第2運用サイクルC2で行われる場合について述べるが、第2運用サイクルC2より更に前の運用サイクルで行われてもよい。
【0018】
このように第1運用サイクルC1に対応する運用プランOPは事前に作成され、実際の原子力発電プラントで実施が可能であるか否かを判定する必要があるが、これは以下に説明する運用プラン作成支援装置100によって好適に行うことができる。運用プラン作成支援装置100は、例えば、コンピュータのような演算処理装置として構成され、より具体的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0019】
図3は一実施形態に係る運用プラン作成支援装置100の構成を示すブロック図である。運用プラン作成支援装置100は、運用プラン取得部110と、炉心状態算出部120と、プラント挙動算出部130と、運用プラン判定部140と、代替プラン作成部150とを備える。
【0020】
運用プラン取得部110は、原子力発電プラントの運用プランOPを取得するための構成である。図1を参照して前述した運用プランは、予め電力事業者によって作成されたものが電子化されてデータとなり、これが運用プラン作成支援装置100に入力されることで、運用プラン取得部110で取得される。
【0021】
炉心状態算出部120は、原子力発電プラントの炉心状態を算出するための構成である。炉心状態算出部120は、原子力発電プラントのプロセスデータを取得し、当該プロセスデータに基づいて炉心状態を算出する。プロセスデータは原子力発電プラントに設けられたセンサの検知信号や制御信号として取得され、所定の関数に入力されることによって炉心状態が求められる。
【0022】
ここで図4は一実施形態に係る原子力発電プラント1の概略構成図である。図4に示す原子力発電プラント1は、核分裂反応で発生する熱エネルギにより蒸気を生成するための原子炉2として、加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)を有するプラントが示されているが、他の実施形態では、原子炉2は沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)であってもよく、あるいは、加圧水型原子炉及び沸騰水型原子炉を含む軽水炉とは異なり、減速材又は冷却材として軽水以外の物質を用いるタイプの原子炉であってもよい。
【0023】
原子炉2は、一次冷却水が流れる一次冷却ループ4と、一次冷却ループ4に設けられる原子炉容器6(圧力容器)と、加圧器8と、蒸気発生器10と、一次冷却水ポンプ12とを含む。一次冷却水ポンプ12は、一次冷却ループ4において一次冷却水を循環させるように構成される。また、加圧器8は、一次冷却ループ4において、一次冷却水が沸騰しないように、一次冷却水を加圧するように構成される。このように原子炉2を構成する原子炉容器6、加圧器8、蒸気発生器10及び一次冷却水ポンプ12は、原子炉格納容器13に格納される。
【0024】
原子炉容器6にはペレット状の核燃料(例えばウラン燃料やMOX燃料等)を含む燃料棒14が収容されており、この燃料の核分裂反応で発生する熱エネルギにより、原子炉容器6内の一次冷却水が加熱される。原子炉容器6には、原子炉出力を制御するために、核燃料を含む炉心で生成される中性子数を吸収して調整するための制御棒16が設けられている。原子炉容器6内で加熱された一次冷却水は蒸気発生器10に送られ、熱交換により二次冷却ループ18を流れる二次冷却水を加熱して蒸気を発生させる。
【0025】
蒸気発生器10で発生された蒸気は、二次冷却ループ18を介して、原子炉容器6外にある不図示の蒸気タービンを回転駆動させる。これにより、蒸気タービンの仕事は、電気エネルギとして出力され、所定の電力系統に供給される。
【0026】
また一次冷却ループ4には、脱塩塔20、体積制御タンク22、充填ポンプ24を含む浄化ライン26が設けられる。浄化ライン26は、蒸気発生器10と一次冷却水ポンプ12との間から、一次冷却水ポンプ12と原子炉容器6との間に至るように、一次冷却ループ4をバイパスするように設けられる。脱塩塔20は、一次冷却ループ4から取り込んだ冷却水から無機塩類を除去する。体積制御タンク22は、一次冷却ループ4から浄化ライン26に取り込んだ冷却水の一部を貯留することにより、一次冷却ループ4を循環する冷却水量を調整する。充填ポンプ24は浄化ライン26を流れる冷却水の流量を調整する。
【0027】
このような構成を有する原子力発電プラント1を対象とする場合、炉心状態算出部120に入力されるプロセスデータは、例えば原子炉熱出力、制御棒位置、冷却材温度であり、炉心状態を示す状態量として軸方向出力分布が算出される。
【0028】
プラント挙動算出部130は、炉心状態算出部120で算出された炉心状態に基づいて、原子力発電プラントの挙動を算出するための構成である。プラント挙動算出部130の算出対象は、原子力発電プラント1が備える各構成の挙動であってよいが、図4に示すような加圧水型原子炉を有する原子力発電プラント1では、一次冷却系である一次冷却ループ4に含まれる各構成について挙動を算出してもよい。具体的には、プラント挙動算出部130は、一次冷却ループ4を構成する原子炉容器6、加圧器8、蒸気発生器10及び一次冷却水ポンプ12、浄化ライン26を構成する脱塩塔20、体積制御タンク22及び充填ポンプ24、並びに、これらを接続する配管等の挙動を算出する。
【0029】
運用プラン判定部140は、運用プラン取得部110で取得された運用プランが実施可能であるか否かを判定するための構成である。運用プラン判定部140による判定では、少なくとも炉心状態算出部120で算出された炉心状態が考慮されるが、更に、プラント挙動算出部130で算出されたプラント挙動も考慮されてもよい。運用プラン判定部140で実施可能と判定された運用プランOPはそのまま採用されることとなり、一方、実施不能と判定された運用プランOPは不採用となる。
【0030】
代替プラン作成部150は、運用プラン判定部140において運用プラン取得部110で取得された運用プランOPの実施が不能であると判定された場合に、運用プランOPに代わる代替プランAPを作成するための構成である。代替プランAPは、後述するように実施が不能であると判定された運用プランOPを改変することによって作成されてもよいし、時間に対して負荷が変化する負荷追従運転を断念して典型的な原子力発電プラント1のように定格運転を維持するような非負荷追従運転に対応するプランであってもよい。
【0031】
続いて上記構成を有する運用プラン作成支援装置100によって実施される運用プラン作成支援方法について説明する。図5は一実施形態に係る運用プラン作成支援方法を示すフローチャートである。図5では、第2運用サイクルC2の時点において、将来的な第1運用サイクルC1に対応する運用プランの作成を支援する場合について例示的に説明する。
【0032】
まず運用プラン取得部110は、判定対象となる運用プランOPを取得する(ステップS1)。ステップS1で取得される運用プランOPは、図1を参照して前述したように、現在(第2運用サイクルC2に含まれる時点)に対して将来的な第1運用サイクルC1における原子力発電プラント1の出力の時間変化として、例えば発電事業者等によって作成されたものが、電子化データとして取得される。
【0033】
続いて炉心状態算出部120は、原子力発電プラント1からプロセスデータを取得し(ステップS2)、当該プロセスデータに基づいて炉心状態を算出する(ステップS3)。これにより、第2運用サイクルC2に含まれる時点における炉心状態が算出される。またプラント挙動算出部130は、ステップS3で算出された炉心状態に基づいてプラント挙動を算出する(ステップS4)。
【0034】
続いて運用プラン判定部140はステップS1で取得された運用プランOPが実施可能であるか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5では、少なくともステップS3で算出された炉心状態が考慮され、またステップS4で算出されたプラント挙動も考慮されてもよい。
【0035】
より具体的に述べると、ステップS5の判定は、例えば、運用プランOPの特徴量である出力変化幅Pw(第1出力P1と第2出力P2との差)、出力変化率Pr、部分出力時間Pt(第2出力P2に維持される時間幅)が、それぞれ原子力発電プラント1の炉心状態やプラント挙動によって特定される仕様範囲内であるか否かによって判断される。この判断には、予め規定された仕様範囲に加えて、所定の尤度が考慮されてもよい。これにより運用プラン判定部140では、発電事業者等によって作成された第1運用サイクルC1に対応する運用プランの実施可否が第2運用サイクルC2の炉心状態に基づいて判定される。
【0036】
運用プランOPが実施可能であると判定された場合(ステップS5:YES)、運用プラン作成支援装置100は、ステップS1で取得された運用プランOPをそのまま採用する(ステップS6)。一方、運用プランOPが実施不能であると判定された場合(ステップS5:NO)、代替プラン作成部150は、ステップS1で取得された運用プランOPを不採用とし(ステップS7)、代替プランAPを作成する(ステップS8)。
【0037】
ステップS8では、代替プラン作成部150は、少なくとも1つの代替プランAPを作成する。本実施形態では、代替プラン作成部150は、複数の代替プランAPとして、互いに選択可能な第1代替プランAP1と第2代替プランAP2とを作成する。
【0038】
第1代替プランAP1は、ステップS1で運用プラン取得部110によって取得された運用プランOPの出力変化レートを原子力発電プラントの仕様範囲内になるように変更することにより作成される。図6図5のステップS8で作成される第1代替プランAP1を示す図である。この例では、ステップS5において、第4期間T4における出力変化率Prが仕様範囲外となることで実施不能であると判定された運用プランOPをベースとしており、実施不能であると判定された要因となった第4期間T4における出力変化率Prが仕様範囲内になるように変更されることで、第1代替プランAP1が作成されている(図6では、図1に示す変更前の運用プランOPを破線で示している)。この場合、ベースとなる運用プランOPの第4期間T4における出力変化率Prを、所定値ずつ変更していき、仕様範囲内になる値を探索することで、第1代替プランAP1の作成を行ってもよい。
【0039】
第2代替プランAP2は、原子力発電プラント1において定格運転が継続的に実施されるように規定される。つまり第2代替プランAP2は、前述の運用プランOPや第1代替プランAP1のような負荷追従運転を行うためのプランではなく、負荷追従運転を断念した場合に対応するプランである。
【0040】
このようにステップS8で第1代替プランAP1及び第2代替プランAP2が作成された場合、運用プラン作成支援装置100は、まず第1代替プランAP1を選択した場合に原子力発電プラント1で実施可能であるか否かを判定する(ステップS9)。ステップS9における第1代替プランAPの実施可否判定については、前述のステップS5に倣って行うことができる。その結果、第1代替プランAP1が実施可能であると判定された場合(ステップS9:YES)、運用プラン作成支援装置100は第1代替プランAP1を採用する(ステップS10)。一方、第1代替プランAP1が実施不可であると判定された場合(ステップS9:NO)、運用プラン作成支援装置100は第2代替プランAP2を採用する(ステップS11)。
【0041】
このように運用プラン作成支援装置100は、当初の運用プランOPの実施が不可である場合には、運用プランOPを変更しながら負荷追従運転を試みる第1代替プランAP1の実施可否を判定する。その結果、第1代替プランAP1でも実施が不可である場合には、負荷追従運転を断念した第2代替プランAP2を採用する。これにより、当初の運用プランOPに近い負荷追従運転を効率的に模索することができる。
【0042】
以上説明したように上記各実施形態によれば、将来の第1運用サイクルに対応する運用プランが実施可能であるか否かが、第1運用サイクルの前に実施される第2運用サイクルにおける炉心状態に基づいて判定される。これにより、負荷追従運転を含む運用プランの実現性を炉心状態に基づいて好適に判定し、原子力発電プラントで実現可能な運用プランの作成を支援できる。
【0043】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0044】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0045】
(1)一態様に係る原子力発電プラントの運用プラン作成支援装置(100)は、
第1運用サイクル(C1)に対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プラン(OP)を取得するための運用プラン取得部(110)と、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクル(C2)における前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するための炉心状態算出部(120)と、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するための運用プラン判定部(140)と、
を備える。
【0046】
上記(1)の態様によれば、第1運用サイクルに対応する運用プランが実施可能であるか否かが、第1運用サイクルの前に実施される第2運用サイクルにおける炉心状態に基づいて判定される。これにより、負荷追従運転を含む運用プランの実現性を炉心状態に基づいて好適に判定し、原子力発電プラントで実現可能な運用プランの作成を支援できる。
【0047】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記運用プラン、及び、前記炉心状態に基づいて、前記第1運用サイクルにおける前記原子力発電プラントの挙動を算出するためのプラント挙動算出部(130)を更に備え、
前記運用プラン判定部は、前記挙動に基づいて、前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定する。
【0048】
上記(2)の態様によれば、炉心状態に基づいて、第1運用サイクルにおける原子力発電プラントの挙動が算出される。運用プランの判定は、前述の炉心状態に加えて、このように算出された原子力発電プラントの挙動を考慮することで、将来の第1運用サイクルに対応する運用プランが実施可能であるか否かをより好適に判定できる。
【0049】
(3)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記原子力発電プラントは加圧水型炉を含み、
前記プラント挙動算出部は、前記加圧水型炉を含む一次冷却系について前記挙動を算出する。
【0050】
上記(3)の態様によれば、加圧水型炉(PWR)を有する原子力発電プラントにおいて、一次冷却系の挙動を考慮することで、将来の第1運用サイクルに対応する運用プランが実施可能であるか否かをより好適に判定できる。
【0051】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記炉心状態算出部は、前記第2運用サイクルにおける前記原子力発電プラントから得たプロセスデータに基づいて、前記炉心状態を算出する。
【0052】
上記(4)の態様によれば、第2運用サイクルにおける原子力発電プラントから得たプロセスデータを用いて、第2運用サイクルの炉心状態を好適に算出できる。
【0053】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記運用プラン判定部は、前記炉心状態によって特定される軸方向出力分布が許容範囲であるか否かに基づいて判定する。
【0054】
上記(5)の態様によれば、軸方向出力分布に基づいて特定される原子力発電プラントの炉心状態に基づいて、将来の第1運用サイクルに対応する運用プランが実施可能であるか否かをより好適に判定できる。
【0055】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記運用プラン判定部によって前記運用プランの実施が不能であると判定された場合、前記運用プランの代替プランを作成するための代替プラン作成部を更に備える。
【0056】
上記(6)の態様によれば、取得された運用プランの実施が不能であると判定された場合には、代替プランを作成することにより、負荷追従運転を行うための運用プランを好適に提案できる。
【0057】
(7)他の態様では、上記(6)の態様において、
前記代替プラン作成部は、前記代替プランとして、前記運用プランの出力変化レートを前記原子力発電プラントの仕様範囲内になるように変更した第1代替プランを作成する。
【0058】
上記(7)の態様によれば、実施が不能と判定された運用プランにおける出力変化レートを原子力発電プラントの仕様範囲内になるように変更して第1代替プランが作成される。これにより、実現可能な代替プランを、もとの運用プランをベースに好適に作成することができる。
【0059】
(8)他の態様では、上記(7)の態様において、
前記代替プラン作成部は、前記第1代替プランの作成が不能である場合、前記代替プランとして、前記原子力発電プラントにおいて定格運転が継続的に実施される第2代替プランを選択可能である。
【0060】
上記(8)の態様によれば、実施が不能と判定された運用プランにおける出力変化レートを変更して作成した第1代替プランの作成で困難である場合には、代替プランとして、定格運転を継続する第2代替プランを提案できる。
【0061】
(9)一態様に係る原子力発電プラントの運用プラン作成支援方法は、
第1運用サイクル(C1)に対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プラン(OP)を取得するステップと、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクル(C2)における前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するステップと、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するステップと、
を備える。
【0062】
上記(9)の態様によれば、第1運用サイクルに対応する運用プランが実施可能であるか否かが、第1運用サイクルの前に実施される第2運用サイクルにおける炉心状態に基づいて判定される。これにより、負荷追従運転を含む運用プランの実現性を炉心状態に基づいて好適に判定し、原子力発電プラントで実現可能な運用プランの作成を支援できる。
【0063】
(10)一態様に係るプログラムは、
コンピュータを用いて、
第1運用サイクル(C1)に対応し、負荷追従運転期間を含む、原子力発電プラントの運用プラン(OP)を取得するステップと、
前記第1運用サイクルより前に実施された第2運用サイクル(C2)における前記原子力発電プラントの炉心状態を算出するステップと、
前記炉心状態に基づいて、前記原子力発電プラントにおいて前記運用プランの実施が可能であるか否かを判定するステップと、
を実現可能である。
【0064】
上記(10)の態様によれば、第1運用サイクルに対応する運用プランが実施可能であるか否かが、第1運用サイクルの前に実施される第2運用サイクルにおける炉心状態に基づいて判定される。これにより、負荷追従運転を含む運用プランの実現性を炉心状態に基づいて好適に判定し、原子力発電プラントで実現可能な運用プランの作成を支援できる。
【符号の説明】
【0065】
1 原子力発電プラント
2 原子炉
4 一次冷却ループ
6 原子炉容器
8 加圧器
10 蒸気発生器
12 一次冷却水ポンプ
13 原子炉格納容器
14 燃料棒
16 制御棒
18 二次冷却ループ
20 脱塩塔
22 体積制御タンク
24 充填ポンプ
26 浄化ライン
100 運用プラン作成支援装置
110 運用プラン取得部
120 炉心状態算出部
130 プラント挙動算出部
140 運用プラン判定部
150 代替プラン作成部
AP 代替プラン
AP1 第1代替プラン
AP2 第2代替プラン
C1 第1運用サイクル
C2 第2運用サイクル
OP 運用プラン
図1
図2
図3
図4
図5
図6