(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110981
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20230803BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20230803BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H01L29/78 652H
H01L29/78 653C
H01L29/78 658H
H01L29/78 652K
H01L29/78 652M
H01L29/78 652L
H01L29/06 301F
H01L29/06 301V
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012548
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】久保 佑介
(57)【要約】
【課題】逆回復時間を短縮可能としたスプリットゲート構造のMISFETを実現する半導体装置を提供すること。
【解決手段】半導体装置10は、半導体基板12と、半導体基板12の主面12Aに接するとともにゲートトレンチ42を含む半導体層14と、ゲートトレンチ42内に設けられたスプリットゲート構造SGと、ゲートトレンチ42に充填されるとともに半導体層14を覆う絶縁層16,48とを備える。半導体装置10はさらに、半導体層14から移動するキャリアをトラップするべく半導体層14内および半導体基板12内のいずれか一方に形成されたトラップレベル領域TLを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面および前記主面とは反対側の裏面を含む半導体基板と、
前記半導体基板の前記主面に接する第1面および前記第1面とは反対側の第2面を含むとともに、前記第2面に凹設されたゲートトレンチを含む半導体層と、
前記ゲートトレンチ内に設けられたスプリットゲート構造と、
前記ゲートトレンチに充填されるとともに前記半導体層の前記第2面を覆う絶縁層と、
前記半導体層から移動するキャリアをトラップするべく前記半導体層内および前記半導体基板内のいずれか一方に形成されたトラップレベル領域と、
を備える半導体装置。
【請求項2】
前記トラップレベル領域は、前記ゲートトレンチの底面と前記半導体層の前記第1面との間の位置において前記半導体層内に形成されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記トラップレベル領域は、前記ゲートトレンチの前記底面と前記半導体層の前記第1面との間の中心位置から前記半導体層の前記第1面までの間の位置に形成されている、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記トラップレベル領域は、前記ゲートトレンチの前記底面と前記半導体層の前記第1面との間の中心位置から前記ゲートトレンチの前記底面までの間の位置に形成されている、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記トラップレベル領域は、前記半導体層の前記第2面から前記第1面に向かう前記ゲートトレンチの深さ方向において、前記ゲートトレンチの前記底面から10μm以内の深さ位置に形成されている、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体層は、
前記半導体層の前記第1面を含み、前記半導体基板の前記主面上に形成されたドリフト領域と、
前記ドリフト領域上に形成されたボディ領域と、
前記半導体層の前記第2面を含み、前記ボディ領域上に形成されたソース領域と、を含み、
前記トラップレベル領域は前記ドリフト領域に形成されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記トラップレベル領域は、前記半導体基板の前記主面から前記裏面に向かう方向において前記半導体基板の前記主面から15μm以内の深さ位置に形成されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記トラップレベル領域は、第1重粒子、前記第1重粒子よりも粒子質量が大きい第2重粒子、および電子線のうちのいずれか一つの照射によって形成されている、請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1重粒子がプロトンを含む、請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第2重粒子が3He++または4He++を含む、請求項8に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を用いたトレンチゲート型のトランジスタの一つに、スプリットゲート構造を有する金属-絶縁体-半導体電界効果トランジスタ(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor:MISFET)がある。特許文献1は、このようなスプリットゲート構造のMISFETを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MISFETはドレイン-ソース間にボディダイオードを含む。このボディダイオードに順方向に電流が流れる状態(オン状態)からボディダイオードがターンオフすると、逆回復電流がボディダイオードに流れる。逆回復電流は、MISFETのスイッチング損失(電力損失)を増加させる要因となる。このようなターンオフに伴うスイッチング損失を低減するには、逆回復時間を短縮することが求められる。したがって、スプリットゲート構造を有するMISFETにおいても逆回復時間を短縮する上で未だ改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様による半導体装置は、主面および前記主面とは反対側の裏面を含む半導体基板と、前記半導体基板の前記主面に接する第1面および前記第1面とは反対側の第2面を含むとともに、前記第2面に凹設されたゲートトレンチを含む半導体層と、前記ゲートトレンチ内に設けられたスプリットゲート構造と、前記ゲートトレンチに充填されるとともに前記半導体層の前記第2面を覆う絶縁層と、前記半導体層から移動するキャリアをトラップするべく前記半導体層内および前記半導体基板内のいずれか一方に形成されたトラップレベル領域とを備える。
【発明の効果】
【0006】
一態様による半導体装置は、逆回復時間を短縮可能としたスプリットゲート構造のMISFETを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、スプリットゲート構造を有するトレンチゲート型のMISFETが形成された一実施形態による例示的な半導体装置の概略断面図(
図2の一部拡大図)である。
【
図2】
図2は、スプリットゲート構造を有する半導体装置(MISFET)の概略断面図である。
【
図3】
図3は、トラップレベル領域の取り得る位置の例を示す半導体装置の概略断面図である。
【
図4】
図4は、第1~第3条件で形成された3種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合(第4条件)の逆回復特性とを示すIF=5Aの場合の電流波形図である。
【
図5】
図5は、第1~第3条件で形成された3種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合(第4条件)の逆回復特性とを示すIF=5Aの場合の電圧波形図である。
【
図6】
図6は、第5~第8条件で形成された4種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合(第4条件)の逆回復特性とを示すIF=5Aの場合の電流波形図である。
【
図7】
図7は、第5~第8条件で形成された4種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合(第4条件)の逆回復特性とを示すIF=5Aの場合の電圧波形図である。
【
図8】
図8は、第1~第3条件で形成された3種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合(第4条件)の逆回復特性とを示すIF=20Aの場合の電流波形図である。
【
図9】
図9は、第1~第3条件で形成された3種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合(第4条件)の逆回復特性とを示すIF=20Aの場合の電圧波形図である。
【
図10】
図10は、第5~第8条件で形成された4種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合(第4条件)の逆回復特性とを示すIF=20Aの場合の電流波形図である。
【
図11】
図11は、第5~第8条件で形成された4種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合(第4条件)の逆回復特性とを示すIF=20Aの場合の電圧波形図である。
【
図12】
図12は、第1~第8条件の場合における各種特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して本開示における半導体装置の実施形態を説明する。
なお、図示および説明を簡潔かつ明瞭にするために、図面に示される構成要素は必ずしも一定の縮尺で描かれていない。理解を容易にするために、特徴部分を拡大している場合があり、各構成要素の寸法比率は各図面で同じであるとは限らない。また、図示を明瞭にするために、断面図ではハッチングが省略されている場合がある。添付の図面は、本開示の実施形態を例示するに過ぎず、本開示を制限するものとみなされるべきではない。
【0009】
以下の詳細な記載は、本開示の例示的な実施形態を具体化する装置、システム、および方法を含む。この詳細な記載は本来説明のためのものに過ぎず、本開示の実施形態またはこのような実施形態の適用および使用を限定することを意図しない。
【0010】
[スプリットゲート構造を有する半導体装置(MISFET)の構造]
図1および
図2は、一実施形態による例示的な半導体装置の概略断面図である。なお、
図1は
図2の一部拡大図である。ただし、理解を容易にするために、
図1と
図2との間で一部の構成要素は異なる寸法比率で示されている。
【0011】
図2に示されるように、半導体装置10は、スプリットゲート構造SGを有するトレンチゲート型の金属-絶縁体-半導体電界効果トランジスタ(MISFET)として形成されている。半導体装置10は、半導体基板12、半導体層14、および絶縁層16を含む。半導体基板12は、例えばシリコン(Si)基板である。半導体基板12は、主面12A(
図2では上面)と、主面12Aとは反対側の裏面12B(
図2では下面)とを含む。
【0012】
以下、本開示において使用される「平面視」という用語は、明示的に別段の記載がない限り、互いに直交するXYZ軸(例えば
図2)のZ軸方向に対象物(半導体装置10またはその構成要素)を視ることをいう。Z軸は、半導体基板12の主面12A(および裏面12B)に直交する方向に対応する。以下では、説明を分かり易くするために、+Z方向を上、-Z方向を下、+X方向を右、-X方向を左と定義する。
【0013】
半導体層14は、半導体基板12の主面12A上に設けられている。半導体層14は、第1面14A(
図2では下面)と、第1面14Aとは反対側の第2面14B(
図2では上面)とを含む。半導体層14の第1面14Aは、半導体基板12の主面12Aに接している。例えば、半導体層14は、半導体基板12の主面12Aの全面を覆うように形成され得る。半導体層14は、例えばSiエピタキシャル層により形成されている。
【0014】
絶縁層16は、半導体層14の第2面14B上に設けられている。
図2では、絶縁層16は単一層として示されているが、複数層を含んでもよい。例えば、絶縁層16は、酸化シリコン(SiO
2)層および窒化シリコン(SiN)層のうちの少なくとも1つを含み得る。絶縁層16は、層間絶縁膜(Inter-layer dielectric:ILD)とも呼ばれる。
【0015】
半導体装置10はさらに、ソース電極層22、ドレイン電極層24、およびパッシベーション層26を含む。ソース電極層22は、絶縁層16上に設けられている。なお、図示していないが、半導体装置10はさらに、絶縁層16上に設けられたゲート電極層も含む。ドレイン電極層24は、半導体基板12の裏面12B上に設けられている。例えば、ドレイン電極層24は、半導体基板12の裏面12Bの全面を覆うように形成され得る。
【0016】
パッシベーション層26は、詳細な図示は省略するが、ソース電極層22とゲート電極層を覆いつつ、ソース電極層22の一部とゲート電極層の一部をそれぞれ電極パッドとして露出するように形成されている。パッシベーション層26は、例えば、SiO2層およびSiN層のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0017】
ドレイン電極層24が設けられた半導体基板12は、半導体装置10(MISFET)のドレイン領域として機能する。半導体層14は、半導体基板12(ドレイン領域)上に形成されたドリフト領域32と、ドリフト領域32上に形成されたボディ領域34と、ボディ領域34上に形成されたソース領域36とを含む。
【0018】
例えば、ドレイン領域に相当する半導体基板12は、n型不純物を含むn型領域として形成されている。ドリフト領域32は、半導体基板12(ドレイン領域)よりも低い濃度のn型不純物を含むn型領域として形成されている。ボディ領域34は、p型不純物を含むp型領域として形成されている。ソース領域36は、ドリフト領域32よりも高い濃度のn型不純物を含むn型領域として形成されている。n型不純物の例としては、リン(P)およびヒ素(As)等が挙げられる。p型不純物の例としては、ホウ素(B)およびアルミニウム(Al)等が挙げられる。
【0019】
半導体層14は、半導体層14の第2面14B(
図2では上面)に凹設された複数のゲートトレンチ42を含む。
図2に示されるように、複数のゲートトレンチ42のうちの少なくともいくつかは、等間隔で互いに平行に配置されている。
【0020】
スプリットゲート構造SGは、各ゲートトレンチ42内に設けられている。スプリットゲート構造SGは、ゲートトレンチ42内において互いに分離して設けられた埋込ゲート電極44とフィールドプレート電極46とを含む。また、スプリットゲート構造SGは、ゲートトレンチ42内に充填されたトレンチ絶縁層48を含む。なお、各ゲートトレンチ42内のスプリットゲート構造SGは同じ構成であるため、1つのスプリットゲート構造SGとその周囲の関連構造とについて以下に説明する。
【0021】
スプリットゲート構造SGにおいて、埋込ゲート電極44とフィールドプレート電極46は、トレンチ絶縁層48によって互いに分離されている。埋込ゲート電極44は、ゲートトレンチ42内においてフィールドプレート電極46よりも上方に位置している。トレンチ絶縁層48は、ゲートトレンチ42の側壁42Aおよび底壁42Bを覆っている。
【0022】
埋込ゲート電極44およびフィールドプレート電極46は、例えば導電性ポリシリコンによって形成され得る。トレンチ絶縁層48は、例えばSiO
2によって形成され得る。なお、トレンチ絶縁層48は、絶縁層16と同じ材料で形成されてもよいし、絶縁層16とは異なる材料で形成されてもよい。言い換えれば、ゲートトレンチ42内に充填されるとともに半導体層14の第2面14B(
図2では上面)を覆う絶縁層は、単一の絶縁層で形成されてもよいし、複数の絶縁層によって形成されてもよい。
【0023】
絶縁層16は、ゲートトレンチ42内に設けられた埋込ゲート電極44とトレンチ絶縁層48とを覆っている。絶縁層16は、平面視においてゲートトレンチ42の両側(
図2において左右側)に並設された複数のソーストレンチ52を含む。各ソーストレンチ52は、絶縁層16とソース領域36とを貫通してボディ領域34にまで達している。このソーストレンチ52の底部には、コンタクト領域54が形成されている。例えば、コンタクト領域54は、ボディ領域34よりも高い濃度のp型不純物を含むp型領域として形成されている。ソーストレンチ52には、ソース接続導体56が充填されている。このソース接続導体56は、ソース電極層22に接続されている。したがって、コンタクト領域54は、ソース接続導体56を介してソース電極層22に電気的に接続されている。
【0024】
ゲートトレンチ42において、トレンチ絶縁層48は、埋込ゲート電極44と半導体層14との間にも介在している。言い換えれば、埋込ゲート電極44と半導体層14とは、トレンチ絶縁層48によって(
図2においてY方向に)互いに離間している。詳細な図示は省略するが、埋込ゲート電極44は、絶縁層16を貫通するゲート接続導体を介して、絶縁層16上のゲート電極層に電気的に接続されている。したがって、埋込ゲート電極44には、ゲート電極層およびゲート接続導体を通じて制御電圧が印加される。埋込ゲート電極44に所定の閾値電圧以上の制御電圧が印加されると、ボディ領域34(p型領域)内にチャネルが(
図2においてZ方向に)形成される。このチャネルによりソース領域36(n型領域)とドリフト領域32(n型領域)とが導通することにより、MISFETがオン状態となる。
【0025】
また、トレンチ絶縁層48は、フィールドプレート電極46の周囲を囲んでいる。詳細な図示は省略するが、フィールドプレート電極46は、絶縁層16とトレンチ絶縁層48とを貫通するフィールドプレート接続導体を介して、ソース電極層22に電気的に接続されている。したがって、半導体装置10の動作時、フィールドプレート電極46にはソース電極層22およびフィールドプレート接続導体を通じてソース電圧が印加される。フィールドプレート電極46にソース電圧を印加することにより、ゲートトレンチ42の底部における電界集中を緩和してMISFETの耐圧を向上させることができる。
【0026】
[ボディダイオードの逆回復動作]
半導体装置10によって形成されるMISFETは構造上、そのドレイン-ソース間にボディダイオードを含む。
図2の構造の場合には、ボディダイオードは、ボディ領域34(p型領域)とドリフト領域32(n型領域)と半導体基板12(n型領域)とによって形成されている。このボディダイオードに順方向に電流が流れる状態(ボディダイオードのオン状態)からボディダイオードがターンオフすると、ボディダイオードに逆回復電流が流れる。
【0027】
例えば、半導体装置10は、インバータ回路などのスイッチング素子に適用され得る。この場合、半導体装置10(MISFET)のボディダイオードに順方向に電流が流れる動作状態が発生し得る。このボディダイオードがオン状態にあるとき、ドリフト領域32は多数のキャリアで満たされる状態となる。この状態でボディダイオードに逆バイアスが印加されると、すなわちソース電極層22がドレイン電極層24よりも低電位となると、ボディダイオードがターンオフする。
【0028】
ボディダイオードに逆バイアスが印加されると、ドリフト領域32に存在するキャリアのうちホールはソース電極層22に向かって移動する一方、ドリフト領域32に存在するキャリアのうち電子はドレイン電極層24に向かって移動するようになる。このキャリアの移動によってボディダイオードに逆方向に電流が流れる。その結果、ボディ領域34とドリフト領域32との境界におけるpn接合部から半導体層14の第1面14Aに向かって、ドリフト領域32内に空乏層が広がるようになる。
【0029】
このようにターンオフ時にボディダイオードに逆方向に流れる電流は、逆回復電流と呼ばれる。この逆回復電流は、一旦増加した後に、ドリフト領域32から排出されるキャリアの減少に伴って減少する。ダイオードの順方向電流が0(ゼロ)となってから、逆回復電流がその最大値の10%にまで減少するまでの時間は、逆回復時間と呼ばれる。また、逆回復時間の期間にわたる電流を積分した値は、逆回復電荷量と呼ばれる。
【0030】
[半導体装置のトラップレベル領域]
図1に示されるように、半導体装置10によって形成されるMISFETは、トラップレベル領域TLを含む。なお、
図1では、ドレイン電極層24(
図2参照)の図示は省略されている。
【0031】
トラップレベル領域TLは、半導体層14から移動するキャリアをトラップするべく、半導体層14内および半導体基板12内のいずれか一方に形成されている。トラップレベル領域TLは、半導体基板12の裏面12Bから荷電粒子を照射することにより形成された結晶欠陥に起因する領域である。トラップレベル領域TLには、キャリアをトラップして再結合させることにより消失させる再結合中心が多く存在しているため、半導体装置10のボディダイオードがターンオフしたときに半導体層14から移動するキャリア(電子)を速やかに消失させることができる。これにより、逆回復電流および逆回復時間を低減することができる。
【0032】
トラップレベル領域TLは、半導体層14内または半導体基板12内における荷電粒子の照射位置に領域中心を有しており、その領域中心から厚さ方向に所定の広がり範囲(例えば、1μm以上3μm以下程度の厚さ)で広がるように局所的に形成されている。なお、厚さ方向とは、荷電粒子を照射する半導体基板12の裏面12Bに対して垂直な方向(すなわち、Y軸方向)のことである。
【0033】
図1の例では、トラップレベル領域TLは、半導体層14に形成されている。例えば、トラップレベル領域TLは、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14A(
図1では下面)との間の位置において半導体層14内に形成され得る。上記したように、ボディダイオードのターンオフ時にはpn接合部から半導体層14の第1面14Aに向けてドリフト領域32内に空乏層が広がる。この空乏層が最大に広がったときの空乏層端部はゲートトレンチ42の底面を越え得る。したがって、トラップレベル領域TLをゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の位置に形成することにより、逆回復動作時に半導体層14からドレイン電極層24に向かって移動するキャリア(電子)のトラップ効果を高めることができる。
【0034】
ここで、ボディダイオードのターンオフ時に空乏層が最大に広がったときの空乏層端部の位置は、半導体装置10の設計条件および動作条件に応じてある程度予測することができる。
図1の例では、トラップレベル領域TLは、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の中心位置から半導体層14の第1面14Aまでの間の位置にトラップレベル領域TLの領域中心を有するように形成されている。この場合、トラップレベル領域TLの領域中心は、例えば、空乏層の最大広がり時における空乏層端部付近の位置となるように設定され得る。空乏層端部付近の位置にトラップレベル領域TL(すなわち、荷電粒子の照射位置)を設定することで、逆回復動作時におけるキャリアトラップ効果を高めることができる。
【0035】
例えば、トラップレベル領域TLは、荷電粒子の照射後、低温の熱処理(低温アニール)を行うことにより形成される。荷電粒子としては、例えば、プロトン、3He++、4He++、または電子線などが用いられる。プロトンは、第1重粒子の一例であり、3He++または4He++は、第1重粒子よりも粒子質量が大きい第2重粒子の一例である。質量の大きなヘリウム原子核(3He++または4He++)は、再結合中心の厚さ方向の分布域を狭くすることができるため、厚さ方向に関して狭い範囲に再結合中心を局所的に分布させることができる。
【0036】
また、低温アニールを行うことによって、照射された荷電粒子が活性化される。例えば、荷電粒子としてヘリウム原子核(3He++または4He++)を選択した場合には、例えば、320℃以上380℃以下(例えば350℃)で30分以上120分以下(例えば60分)の熱処理を行うことにより、導入されたヘリウム原子核を活性化できる。
【0037】
ここで、荷電粒子を照射するときのエネルギーを大きくすれば、荷電粒子の飛程が長くなるため、半導体基板12の裏面12Bから遠い位置にトラップレベル領域TLが形成される。反対に、荷電粒子を照射するときのエネルギーを小さくすれば、荷電粒子の飛程が短くなるため、半導体基板12の裏面12Bに近い位置にトラップレベル領域TLが形成される。したがって、トラップレベル領域TLの配置に応じて荷電粒子の照射エネルギーが設定される。荷電粒子の照射量は、例えば、5×1011個/cm2以上5×1012個/cm2以下に設定することができる。
【0038】
[トラップレベル領域の取り得る位置]
図3は、キャリアトラップ効果を有するトラップレベル領域のとり得る位置の例を示す半導体装置10の概略断面図である。なお、
図3は、例として4つのトラップレベル領域TL1~TL4を示しているが、とり得る位置は、
図3に示された位置に限定されない。また、位置の比較を容易にするために、
図3は4つのトラップレベル領域TL1~TL4を一緒に示しているが、半導体層14内および半導体基板12内のいずれか一方に一つのトラップレベル領域(例えば、
図1のトラップレベル領域TL)が形成される。
【0039】
図3において、トラップレベル領域TL1は、
図1に示されたトラップレベル領域TLに対応する。
図1を参照して説明したように、このトラップレベル領域TL1は、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の中心位置から半導体層14の第1面14Aまでの間の位置にトラップレベル領域TL1の領域中心を有するように形成されている。
【0040】
荷電粒子を照射する観点から言えば、トラップレベル領域TL1は、半導体基板12の裏面12Bから距離D1の位置において半導体層14内に形成されている。言い換えれば、トラップレベル領域TL1は、半導体層14の第2面14B(
図3では上面)から第1面14A(
図3では下面)に向かうゲートトレンチ42の深さ方向において、ゲートトレンチ42の底面から距離D11の深さ位置に形成されている。この距離D1(距離D11)の位置、すなわちトラップレベル領域TL1の位置は、例えば、上記した空乏層の最大広がり時における空乏層端部付近の位置に設定され得る。
【0041】
トラップレベル領域TL2は、ゲートトレンチ42の底面に隣接する位置に形成されている。なお、この例では、トラップレベル領域TL2は、ゲートトレンチ42とは交差していない。トラップレベル領域TL2は、半導体基板12の裏面12Bから距離D2(=D1+D11)の位置において半導体層14内に形成されている。言い換えれば、トラップレベル領域TL2は、ゲートトレンチ42の開口面(半導体層14の第2面14B)からゲートトレンチ42の深さD12(またはそれよりもわずかに大きい距離)に相当する位置に形成されている。このようにゲートトレンチ42の底面に隣接する位置に形成されたトラップレベル領域TL2もキャリアをトラップする効果を有する。
【0042】
トラップレベル領域TL3は、半導体基板12の裏面12Bから距離D3の位置において半導体基板12内に形成されている。また、トラップレベル領域TL4は、半導体基板12の裏面12Bから距離D4(<距離D3)の位置において半導体基板12内に形成されている。ボディダイオードのターンオフ時において、キャリア(電子)は半導体層14から半導体基板12を通じてドレイン電極層24に向けて移動する。したがって、半導体基板12内に形成されたトラップレベル領域TL3,TL4も、キャリアをトラップする効果を有する。
【0043】
一例として、スプリットゲート構造SGを有する半導体装置10が150V程度の素子耐圧を有するものとして製造される場合、半導体基板12の厚さ(主面12Aから裏面12Bまでの距離)は約93μm程度、半導体層14の厚さ(第1面14Aから第2面14Bまでの距離)は約15μm程度、パッシベーション層26の上面から半導体層14の第2面14Bまでの距離は6μm程度、ゲートトレンチ42の深さD12(深さ方向の距離)は約3μm以上10μm以下(例えば、約7μm程度)であり得る。
【0044】
この場合、例えば、距離D1は約96μm程度に設定され得るとともに、距離D11は約5μm程度に設定され得る。また、距離D2は、例えば約101(=96(D1)+5(D11))μm程度に設定され得る。例えば、トラップレベル領域が半導体層14に形成される場合、トラップレベル領域は、ゲートトレンチ42の深さ方向において、ゲートトレンチ42の底面から10μm以内の深さ位置に形成され得る。また、例えば、距離D3は約87μm程度に設定され得るとともに、距離D4は約82μm程度に設定され得る。例えば、トラップレベル領域が半導体基板12に形成される場合、トラップレベル領域は、半導体基板12の主面12Aから裏面12Bに向かう方向において半導体基板12の主面12Aから15μm以内の深さ位置に形成され得る。
【0045】
[トラップレベル領域の形成条件と逆回復特性との関係]
次に、
図4~
図12を参照してトラップレベル領域の形成条件と逆回復特性との関係について説明する。ここでは、異なる7つの条件で形成された7種類のトラップレベル領域についての逆回復特性とトラップレベル領域がない場合の逆回復特性とを比較して説明する。
【0046】
図4および
図5は、第1条件1A、第2条件1B、および第3条件1Cで形成された3種類のトラップレベル領域についての逆回復特性と、トラップレベル領域がない場合(第4条件1D)の逆回復特性とを示すグラフである。なお、
図4は、半導体装置10(MISFET)のボディダイオードに流れる順方向電流IFと時間との関係を示す電流波形図であり、
図5は、半導体装置10のドレイン-ソース間電圧Vdsと時間との関係を示す電圧波形図である。
図4および
図5のグラフは、順方向電流IFが例えば5A(
図4参照)の場合の測定結果を示している。
【0047】
図12に示されるように、第1~第3条件1A~1Cでは、トラップレベル領域を形成する荷電粒子としてヘリウム原子核(例えば
4He
++)が使用されている。また、第1および第2条件1A,1Bでは照射量が5×10
11個/cm
2に設定され、第3条件1Cでは照射量が1×10
12個/cm
2に設定されている。第4条件1Dでは、荷電粒子は照射されていないためトラップレベル領域は形成されていない。
【0048】
また、第1および第3条件1A,1Cでは、
図3において距離D4の位置(すなわち、半導体基板12内)にトラップレベル領域が形成されている。第2条件1Bでは、
図3において距離D3の位置(すなわち、半導体基板12内)にトラップレベル領域が形成されている。
【0049】
図4および
図12に示されるように、第1~第4条件1A~1Dを比較すると、逆回復電流Irr、逆回復時間trr、および逆回復電荷量Qrrは、第3条件1Cの時に最も低減されている。この結果から、荷電粒子が半導体基板12の裏面12Bからより離れた照射位置(停止位置)において半導体基板12内に照射されかつその照射量が高いとき、逆回復特性がより向上することが分かる。また、第1~第3条件1A~1Cの間では、ソフトリカバリー係数も第3条件1Cの時に最も低くなっておりノイズ耐性に優れるソフトリカバリー性が得られていることを示している。なお、第1~第3条件1A~1Cのいずれも、第4条件1Dよりも優れた逆回復特性を示している。したがって、トラップレベル領域がキャリアトラップ効果を生じさせて逆回復特性を向上させていることが分かる。
【0050】
図6および
図7は、第5条件2A、第6条件2B、第7条件2C、および第8条件2Dで形成された4種類のトラップレベル領域についての逆回復特性と、トラップレベル領域がない場合(第4条件1D)の逆回復特性とを示すグラフである。なお、
図6は、半導体装置10(MISFET)のボディダイオードに流れる順方向電流IFと時間との関係を示す電流波形図であり、
図7は、半導体装置10のドレイン-ソース間電圧Vdsと時間との関係を示す電圧波形図である。
図6および
図7のグラフは、順方向電流IFが例えば5A(
図6参照)の場合の測定結果を示している。
【0051】
図12に示されるように、第5~第8条件2A~2Dでは、トラップレベル領域を形成する荷電粒子としてヘリウム原子核(例えば
4He
++)が使用されている。また、第5および第6条件2A,2Bでは照射量が5×10
11個/cm
2に設定され、第7条件2Cでは照射量が1×10
12個/cm
2に設定され、第8条件2Dでは照射量が5×10
12個/cm
2に設定されている。
【0052】
また、第5および第7条件2A,2Cでは、
図3において距離D1の位置(すなわち、半導体層14内における空乏層端部付近)にトラップレベル領域が形成されている。第6条件2Bでは、
図3において距離D2の位置(すなわち、半導体層14内におけるゲートトレンチ42の底面付近)にトラップレベル領域が形成されている。第8条件2Dでは、
図3において距離D3の位置(すなわち、半導体基板12内)にトラップレベル領域が形成されている。
【0053】
図6および
図12に示されるように、第4~第8条件1D,2A~2Dを比較すると、逆回復電流Irr、逆回復時間trr、および逆回復電荷量Qrrは、第5~第7条件2A~2Cの間でほぼ同じである。一方、これらの第5~第7条件2A~2Cは、上述した第1~第3条件1A~1Cのときよりも優れた逆回復特性を示している。この結果から、荷電粒子が半導体層14内に照射されるとき、逆回復特性が(半導体基板12内に照射されるときよりも)向上することが分かる。また、第5~第7条件2A~2Cは、第1~第3条件1A~1Cのときよりも優れたソフトリカバリー性を示している。一方、第8条件2Dは、第5~第7条件2A~2Cとほぼ同じ逆回復特性を示しているが、ソフトリカバリー性については第5~第7条件2A~2Cよりも低くなっている。
【0054】
ここで、
図12を参照して第1~第3条件1A~1Cおよび第5~第8条件2A~2Dについての逆回復特性以外の他の特性について検討する。
図12に示されるように、荷電粒子が半導体基板12の裏面12Bからより離れた照射位置(停止位置)に照射されかつその照射量が高くなると、ドレイン-ソース間耐圧BVdss(降伏電圧)が向上する傾向にあることが分かる。一方で、オン抵抗Ronおよびボディダイオードの順方向電圧VFは徐々に上昇する傾向にあり、MISFETの閾値電圧Vthは徐々に低下する傾向にあることが分かる。ボディダイオードの順方向電圧VFの上昇は、ドレイン-ソース間のリーク電流を増加させる要因となり、閾値電圧Vthの低下は、セルフターンオン現象の発生等の信頼性低下を招く要因となり得る。
【0055】
したがって、良好なオン抵抗特性、耐電流リーク特性、および良好な閾値電圧を維持しつつ、逆回復特性を向上する観点からは、第5条件2Aで形成されたトラップレベル領域が最も望ましい。
【0056】
図8~
図11は、上記した第1~第4条件1A~1Dおよび第5~第8条件2A~2Dについて順方向電流IFが例えば20A(
図8および
図10参照)の場合の逆回復特性の測定結果を示すグラフである。
図8および
図10に示されるように、順方向電流IFが20Aの場合にも、順方向電流IFが5Aの場合と同様に、第1~第3条件1A~1Cおよび第5~第8条件2A~2Dのいずれも、第4条件1Dよりも優れた逆回復特性を示している。したがって、トラップレベル領域がキャリアトラップ効果を生じさせて逆回復特性を向上させていることが分かる。なお、ここでは図示は省略しているが、逆回復特性以外の他の特性の測定結果についても、順方向電流IFが5Aの場合に得られる結果(
図12参照)と同様な傾向を示す結果が得られている。したがって、良好なオン抵抗特性、耐電流リーク特性、および良好な閾値電圧を維持しつつ、逆回復特性を向上する観点からは、第5条件2Aで形成されたトラップレベル領域が最も望ましい。
【0057】
[半導体装置の作用]
スプリットゲート構造SGを含む半導体装置10は、半導体層14から移動するキャリアをトラップするべく半導体層14内および半導体基板12内のいずれか一方に形成されたトラップレベル領域TLを含む。
図1の例では、トラップレベル領域TLは、半導体層14内に形成されている。
【0058】
半導体装置10のボディダイオードに逆バイアスが印加されると、ボディダイオードに逆回復電流が流れる。このような逆回復動作時、トラップレベル領域TLは半導体層14から移動するキャリアをトラップして逆回復電流を減少させる。これにより、逆回復時間を減少させることができる。
【0059】
一実施形態の半導体装置10は、以下の利点を有する。
(1)スプリットゲート構造SGを含む半導体装置10は、半導体層14から移動するキャリアをトラップするべく半導体層14内に形成されたトラップレベル領域TL(TL1)を含む。半導体装置10のボディダイオードの逆回復動作時、トラップレベル領域TL(TL1)は、半導体層14から移動するキャリアをトラップして逆回復電流を減少させる。これにより、逆回復時間を減少させることができる。
【0060】
(2)トラップレベル領域TL(TL1)は、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の位置において半導体層14内に形成されている。この構成では、半導体層14を移動するキャリアをトラップする効果を高めて逆回復電流および逆回復時間を減少させることができる。
【0061】
(3)トラップレベル領域TL(TL1)は、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の中心位置から半導体層14の第1面14Aまでの間の位置に形成されている。例えば、トラップレベル領域TL(TL1)は、ボディダイオードの逆回復動作時に,半導体層14内において空乏層が最も広がったときの空乏層端部付近の位置に形成され得る。この構成では、半導体層14を移動するキャリアをトラップする効果をより高めて逆回復電流および逆回復時間を減少させることができる。
【0062】
(4)トラップレベル領域TL2は、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の中心位置からゲートトレンチ42の底面までの間の位置に形成されている。例えば、トラップレベル領域TL2は、半導体層14の第2面14Bから第1面14Aに向かうゲートトレンチ42の深さ方向において、ゲートトレンチ42の底面から10μm以内の深さ位置に形成されている。この構成でも、半導体層14を移動するキャリアをトラップする効果によって、逆回復電流および逆回復時間を減少させることができる。
【0063】
(5)トラップレベル領域TL3,TL4は、半導体基板12の主面12Aから裏面12Bに向かう方向において半導体基板12の主面12Aから15μm以内の深さ位置に形成されている。このように、トラップレベル領域TL3,TL4が半導体基板12に形成されている場合でも、半導体層14から半導体基板12に移動したキャリアをトラップする効果によって、逆回復電流および逆回復時間を減少させることができる。
【0064】
(6)トラップレベル領域TL(TL1,TL2,TL3,またはTL4)を形成する荷電粒子としてヘリウム原子核(3He++または4He++)を用いることで、再結合中心の厚さ方向の分布域を狭くすることができる。これにより、トラップレベル領域TLの厚さ方向に関して狭い範囲に再結合中心を局所的に分布させることができる。
【0065】
[変更例]
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態および以下の各変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0066】
・トラップレベル領域の位置は、上記実施形態で説明した位置(すなわち、各トラップレベル領域TL1~TL4の位置)に限定されない。トラップレベル領域は、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の位置において半導体層14内に形成されていればよい。したがって、トラップレベル領域は、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の中心位置から半導体層14の第1面14Aまでの間の位置に形成されてもよいし、あるいは、ゲートトレンチ42の底面と半導体層14の第1面14Aとの間の中心位置からゲートトレンチ42の底面までの間の位置に形成されてもよい。
【0067】
・逆回復特性を向上させる観点から、トラップレベル領域は、スプリットゲート構造SGの動作に影響を及ばさない範囲において、スプリットゲート構造SGと交差する位置において半導体層14内に形成されてもよい。
【0068】
本開示で使用される「~上に」という用語は、文脈によって明らかにそうでないことが示されない限り、「~上に」と「~の上方に」の意味を含む。したがって、例えば、「第1要素が第2要素上に実装される」という表現は、或る実施形態では第1要素が第2要素に接触して第2要素上に直接配置され得るが、他の実施形態では第1要素が第2要素に接触することなく第2要素の上方に配置され得ることが意図される。すなわち、「~上に」という用語は、第1要素と第2要素との間に他の要素が形成される構造を排除しない。
【0069】
本開示で使用されるZ軸方向は必ずしも鉛直方向である必要はなく、鉛直方向に完全に一致している必要もない。したがって、本開示による種々の構造(例えば、
図6に示される構造)は、本明細書で説明されるZ軸方向の「上」および「下」が鉛直方向の「上」および「下」であることに限定されない。例えば、X軸方向が鉛直方向であってもよく、またはY軸方向が鉛直方向であってもよい。
【0070】
本開示で使用される「第1~」、「第2~」などの数詞は単に構成部品を明確に区別するために用いたものであり、必ずしも順番どおりの構成部品を備えることが必須とされるものではない。
【0071】
[付記]
上記各実施形態および各変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。なお、各付記に記載された構成要素に対応する実施形態の構成要素の符号を括弧書きで示す。符号は、理解の補助のために例として示すものであり、各付記に記載された構成要素は、符号で示される構成要素に限定されるべきではない。
【0072】
(付記A1)
主面(12A)および前記主面(12A)とは反対側の裏面(12B)を含む半導体基板(12)と、
前記半導体基板(12)の前記主面(12A)に接する第1面(14A)および前記第1面(14A)とは反対側の第2面(14B)を含むとともに、前記第2面(14B)に凹設されたゲートトレンチ(42)を含む半導体層(14)と、
前記ゲートトレンチ(42)内に設けられたスプリットゲート構造(SG)と、
前記ゲートトレンチ(42)に充填されるとともに前記半導体層(14)の前記第2面(14B)を覆う絶縁層(16,48)と、
前記半導体層(14)から移動するキャリアをトラップするべく前記半導体層(14)内および前記半導体基板(12)内のいずれか一方に形成されたトラップレベル領域(TL;TL1;TL2;TL3;TL4)と、
を備える半導体装置(10)。
【0073】
(付記A2)
前記トラップレベル領域(TL;TL1;TL2)は、前記ゲートトレンチ(42)の底面と前記半導体層(14)の前記第1面(14A)との間の位置において前記半導体層(14)内に形成されている、付記A1に記載の半導体装置(10)。
【0074】
(付記A3)
前記トラップレベル領域(TL;TL1)は、前記ゲートトレンチ(42)の前記底面と前記半導体層(14)の前記第1面(14A)との間の中心位置から前記半導体層(14)の前記第1面(14A)までの間の位置に形成されている、付記A2に記載の半導体装置(10)。
【0075】
(付記A4)
前記トラップレベル領域(TL2)は、前記ゲートトレンチ(42)の前記底面と前記半導体層(14)の前記第1面(14A)との間の中心位置から前記ゲートトレンチ(42)の前記底面までの間の位置に形成されている、付記A2に記載の半導体装置(10)。
【0076】
(付記A5)
前記トラップレベル領域(TL;TL1;TL2)は、前記半導体層(14)の前記第2面(14B)から前記第1面(14A)に向かう前記ゲートトレンチ(42)の深さ方向において、前記ゲートトレンチ(42)の前記底面から10μm以内の深さ位置に形成されている、付記A4に記載の半導体装置(10)。
【0077】
(付記A6)
前記半導体層(14)は、
前記半導体層(14)の前記第1面(14A)を含み、前記半導体基板(12)の前記主面(12A)上に形成されたドリフト領域(32)と、
前記ドリフト領域(32)上に形成されたボディ領域(34)と、
前記半導体層(14)の前記第2面(14B)を含み、前記ボディ領域(34)上に形成されたソース領域(36)と、を含み、
前記トラップレベル領域(TL;TL1;TL2)は前記ドリフト領域(32)に形成されている、付記A1に記載の半導体装置(10)。
【0078】
(付記A7)
前記トラップレベル領域(TL;TL1)は、逆回復動作時に前記半導体層(14)内に空乏層が最も広がるときの空乏層端部付近に形成されている、付記A1~A6のうちのいずれか一つに記載の半導体装置(10)。
【0079】
(付記A8)
前記トラップレベル領域(TL3;TL4)は、前記半導体基板(12)の前記主面(12A)から前記裏面(12B)に向かう方向において前記半導体基板(12)の前記主面(12A)から15μm以内の深さ位置に形成されている、付記A1に記載の半導体装置(10)。
【0080】
(付記A9)
前記トラップレベル領域(TL;TL1;TL2;TL3;TL4)は、前記半導体層(14)内または前記半導体基板(12)内において前記トラップレベル領域(TL;TL1;TL2;TL3;TL4)の領域中心から厚さ方向に所定の広がり範囲で形成されている、付記A1~A8のうちのいずれか一つに記載の半導体装置(10)。
【0081】
(付記A10)
前記トラップレベル領域(TL;TL1;TL2;TL3;TL4)は、第1重粒子、前記第1重粒子よりも粒子質量が大きい第2重粒子、および電子線のうちのいずれか一つの照射によって形成されている、付記A1~A9のうちのいずれか一つに記載の半導体装置(10)。
【0082】
(付記A11)
前記第1重粒子がプロトンを含む、付記A10に記載の半導体装置(10)。
(付記A12)
前記第2重粒子が3He++または4He++を含む、付記A10に記載の半導体装置(10)。
【0083】
以上の説明は単に例示である。本開示の技術を説明する目的のために列挙された構成要素および方法(製造プロセス)以外に、より多くの考えられる組み合わせおよび置換が可能であることを当業者は認識し得る。本開示は、特許請求の範囲を含む本開示の範囲内に含まれるすべての代替、変形、および変更を包含することが意図される。
【符号の説明】
【0084】
10…半導体装置
12…半導体基板
12A…主面
12B…裏面
14…半導体層
14A…第1面
14B…第2面
16…絶縁層
22…ソース電極層
24…ドレイン電極層
26…パッシベーション層
32…ドリフト領域
34…ボディ領域
36…ソース領域
42…ゲートトレンチ
44…埋込ゲート電極
46…フィールドプレート電極
48…トレンチ絶縁層
SG…スプリットゲート構造
TL…トラップレベル領域
TL1,TL2,TL3,TL4…トラップレベル領域