(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110984
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物、その製造方法およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/03 20060101AFI20230803BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20230803BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230803BHJP
C08G 63/02 20060101ALI20230803BHJP
C08G 63/123 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C08L67/03
C08K5/098
C08K3/013
C08G63/02
C08G63/123
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012551
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田邉 純樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 彬人
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF161
4J002CL062
4J002DA017
4J002DA087
4J002DA097
4J002DE107
4J002DE137
4J002DE147
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4J002DJ047
4J002DJ057
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4J029AA03
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4J029LA18
4J029LB04
4J029LB07
4J029LB08
4J029LB09
(57)【要約】
【課題】耐熱性と流動安定性に優れた液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供すること。
【解決手段】液晶ポリエステル樹脂(A)と、融点が320℃以下のアルカリ金属塩(B)を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、(B)を0.05~5重量部配合して得られることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂(A)と、融点が320℃以下のアルカリ金属塩(B)を配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、前記アルカリ金属塩(B)を0.05~5重量部配合して得られることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルカリ金属塩(B)が下記(i)で示されるカルボン酸とアルカリ金属からなる金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
(i)CnH2n+1COOH (nは2~5の整数を表す)
【請求項3】
前記液晶ポリエステル樹脂(A)が、下記構造単位(I)および下記構造単位(II)を含み、構造単位(I)および構造単位(II)の合計が、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して60モル~80モル%である請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【化1】
【請求項4】
前記液晶ポリエステル樹脂(A)が、下記構造単位(III)を含み、構造単位(III)が、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して2~20%である請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【化2】
【請求項5】
前記液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、さらに充填材を10~200重量部含む、請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
液晶ポリエステル樹脂(A)と、前記アルカリ金属塩(B)を溶融混練することにより請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を得る液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項8】
成形品が、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、ランプソケット、カメラモジュール、集積回路封止部品、およびインシュレーターからなる群から選択されるいずれかである請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。より詳しくは、耐熱性と流動安定性に優れる成形品を得ることのできる液晶ポリエステル樹脂、およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル樹脂は、その液晶構造のため、耐熱性、流動性、寸法安定性に優れる。このため、それらの特性が要求されるコネクタやリレーなどの電気・電子部品を中心に需要が急激に拡大しており、高温での加工や使用環境において変形しない耐熱性が求められている。加えて、近年の電子・電機部品の小型化や薄肉化が進んでおり、小型・薄肉部品を成形することが可能な流動性を有しつつも、その流動性が安定して維持可能な流動安定性も求められている。耐熱性は液晶ポリエステル樹脂のパッキング性、すなわち結晶化度を高めることで向上するが、液晶ポリエステル樹脂の固化時に結晶の粗大化や結晶サイズにばらつきが出てしまう。製品の形状が薄型で複雑になるほど、また、成形のショット数が多くなるほど、上記の固化時に形成される結晶サイズのバラツキによって、流動安定性が犠牲となってしまうため、両特性はトレード・オフの関係にあって両立は困難である。
【0003】
液晶ポリエステル樹脂は多様なモノマーからなっているため、その構造の組み合わせ方や、重合性を変化させるが可能である。また、溶融混練によって充填材やその他物質を添加して組成物とすることでも物性を変化させることができる。その例として、特許文献1においては、重合時に酢酸ナトリウムを触媒として0.02重量%添加してモノマーのブロック化率を変化させることで、高温剛性と滞留安定性に優れることが示されている。また、特許文献2には、酢酸カリウムの金属系触媒を200ppm以下含み重合することによって、着色無く耐ブリスター性に優れる液晶ポリエステルが得られることが示されている。特許文献3は、二価のアルカリ土類金属に高級脂肪酸が配位した化合物を特定量配合することで、計量安定性やフォギング性に優れることが開示されている。
【0004】
特許文献4には、硫酸カリウムといったアルカリ金属を添加することで着色性と機械物性が向上することが示されており、特許文献5には酸化カルシウムなどの金属塩を添加することで低ガス性であり機械物性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-178936号公報
【特許文献2】特開平11-246654号公報
【特許文献3】特開2015-63641号公報
【特許文献4】特開2003-160716号公報
【特許文献5】特開平9-53003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~5には、結晶構造を制御することによって液晶ポリエステル樹脂組成物の耐熱性と流動安定性を両立した例は示されておらず、十分ではない。本発明は、結晶構造を緻密に制御する新規メカニズムによって耐熱性と流動安定性を高いレベルで両立可能な液晶ポリエステル樹脂組成物、および成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の融点を有するアルカリ金属塩を含む液晶ポリエステル樹脂組成物が、耐熱性と流動安定性に優れた液晶ポリエステル樹脂組成物となることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)と、融点が320℃以下のアルカリ金属塩(B)を配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、前記アルカリ金属塩(B)を0.05~5重量部配合して得られることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。
(2)前記アルカリ金属塩(B)が下記(i)で示されるカルボン酸とアルカリ金属からなる金属塩であることを特徴とする(1)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
(i)CnH2n+1COOH (nは2~5の整数を表す)
(3)前記液晶ポリエステル樹脂(A)が、下記構造単位(I)および下記構造単位(II)を含み、構造単位(I)および構造単位(II)の合計が、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して60モル~80モル%である(1)または(2)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【0009】
【0010】
(4)前記液晶ポリエステル樹脂(A)が、下記構造単位(III)を含み、構造単位(III)が、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して2~20%である(1)~(3)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【0011】
【0012】
(5)前記液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、さらに充填材を10~200重量部含む、(1)~(4)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
(6)液晶ポリエステル樹脂(A)と、前記アルカリ金属塩(B)を溶融混練することにより(1)~(4)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を得る液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
(7)(1)~(5)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
(8)成形品が、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、ランプソケット、カメラモジュール、集積回路封止部品、およびインシュレーターからなる群から選択されるいずれかである(7)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、耐熱性と流動安定性に優れるため、耐熱性が求められ、薄肉部を有する成形品を寸法精度良く得ることができる。かかる樹脂組成物は、特に薄肉の箱型や筒型形状を有するコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、ランプソケット、カメラモジュール、集積回路封止部品、インシュレーターなどの電気・電子部品や機械部品に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂(A)と、融点が320℃以下のアルカリ金属塩(B)を配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、(B)を0.05~5重量部配合して得られる液晶ポリエステル樹脂組成物である。ここで、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分が反応した反応物を含むが、当該反応物は複雑な反応により生成されたものであり、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分および配合量により発明を特定するものである。
【0016】
<液晶ポリエステル樹脂(A)>
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)は、異方性溶融相を形成するポリエステルである。液晶ポリエステル樹脂(A)としては、例えば、後述するオキシカルボニル単位、ジオキシ単位、ジカルボニル単位などから異方性溶融相を形成するよう選ばれた構造単位から構成されるポリエステルなどが挙げられる。
【0017】
次に、液晶ポリエステル樹脂を構成する構造単位について説明する。
【0018】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)は、オキシカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を15~80モル%含むことが好ましい。耐熱性の観点から、20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。また、75モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましい。
【0019】
オキシカルボニル単位の具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸や6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸などに由来する構造単位を使用することができる。
【0020】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)は、ジオキシ単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジオールに由来する構造単位を7~40モル%含むことが好ましい。流動安定性の観点から、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。また、耐熱性の観点から。37モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
【0021】
芳香族ジオールに由来する構造単位としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシノール、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンなどに由来する構造単位が挙げられる。耐熱性に優れる観点から、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンに由来する構造単位を使用することが好ましい。
【0022】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を7~40モル%含むことが好ましい。流動安定性の観点から、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。また、耐熱性の観点から、37モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
【0023】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸などに由来する構造単位が挙げられる。入手性に優れ、耐熱性と流動安定性に優れる観点から、テレフタル酸、イソフタル酸に由来する構造単位を使用することが好ましい。
【0024】
また、上記構造単位に加えて、p-アミノ安息香酸、p-アミノフェノールなどから生成した構造単位を、液晶性や特性を損なわない程度の範囲でさらに有することができる。
【0025】
上記の各構造単位を構成する原料モノマーは、各構造単位を形成しうる構造であれば特に限定されないが、各構造単位の水酸基のアシル化物、各構造単位のカルボキシル基のエステル化物、酸ハロゲン化物、酸無水物などのカルボン酸誘導体などが使用されてもよい。
【0026】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として、下記構造単位(I)を含み、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位として、下記構造単位(II)を含み、構造単位(I)と構造単位(II)の合計が、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、60モル%~80モル%であることが好ましい。液晶ポリエステル樹脂(A)の結晶性および融点を制御した上で、耐熱性に優れる観点から、好ましくは63モル%以上、さらに好ましくは67モル%以上である。一方で、液晶ポリエステル樹脂(A)の結晶性および融点を制御した上で、流動安定性に優れる観点から、好ましくは78モル%以下、より好ましくはである76%以下、さらに好ましくは74モル%以下である。また、構造単位(I)と構造単位(II)は、いずれか一方の構造単位を有し、もう一方の構造単位が0モル%であってもよいが、液晶ポリエステル樹脂(A)の結晶性および融点を制御する観点から、それぞれが0モル%を超えることが好ましい。
【0027】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)の構造単位(I)の含有量は、耐熱性に優れる観点から、30モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましい。一方で、液晶ポリエステル樹脂(A)の結晶性および融点を制御した上で、流動安定性に優れる観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下が好ましい。
【0028】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)の構造単位(II)の含有量は、流動安定性に優れる観点から、5モル%以上が好ましく、10モル%以上が好ましい。一方で、耐熱性に優れる観点から、30モル%以下が好ましく、20モル%以下が好ましい。
【0029】
【0030】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)は、芳香族ジオールに由来する構造単位として、下記構造単位(III)を含み、構造単位(III)を液晶ポリエステル樹脂(A)の構造単位全量100モル%に対して2~20モル%含有することが好ましい。構造単位(III)はハイドロキノンに由来する構造単位である。2モル%以上含有することにより、流動安定性をより向上させることができる。より好ましくは4モル%以上であり、さらに好ましくは7.5モル%以上である。一方で、20モル%以下含有することにより、耐熱性をより向上させることができる。より好ましくは15モル%以下であり、さらに好ましくは12モル%以下である。
【0031】
【0032】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)は、芳香族ジオールに由来する構造単位として、下記構造単位(IV)を含み、構造単位(IV)を液晶ポリエステル樹脂(A)の構造単位全量100モル%に対して、3~30モル%含有することが好ましい。構造単位(IV)は4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位である。3モル%以上含有することにより、液晶ポリエステル樹脂(A)の結晶性および融点を制御でき、耐熱性が向上する。好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは7モル%以上である。一方で、30モル%以下含有することにより、液晶ポリエステル樹脂(A)の結晶性および融点を制御でき、流動安定性が向上する。より好ましくは25モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以下である。
【0033】
【0034】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位として、下記構造単位(V)を含み、構造単位(V)を液晶ポリエステル樹脂(A)の構造単位全量100モル%に対して、1~10モル%含有することが好ましい。下記構造単位(V)はイソフタル酸に由来する構造単位である。1モル%以上含有することにより、液晶ポリエステル樹脂(A)の結晶性および融点を制御でき、流動安定性が向上する。好ましくは2モル%以上であり、より好ましくは3モル%以上である。一方で、10モル%以下含有することにより、液晶ポリエステル樹脂(A)の結晶性および融点を制御でき、耐熱性が向上する。より好ましくは9モル%以下であり、さらに好ましくは8モル%以下である。
【0035】
【0036】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)の各構造単位の含有量は、液晶ポリエステルペレットを粉砕後、水酸化テトラメチルアンモニウムを添加し、島津製GCMS-QP5050Aを用いて熱分解GC/MS測定を行うことにより求めることができる。検出されなかった、あるいは検出限界以下の構造単位の含有量は0モル%として計算する。
【0037】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)は、耐熱性の観点から220℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。一方、加工時の液晶ポリエステル樹脂(A)の劣化を抑制し、成形時の金型汚れを抑制する観点から、液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、360℃以下が好ましく、355℃以下がより好ましく、350℃以下がさらに好ましい。
【0038】
融点(Tm)の測定は、示差走査熱量測定により行う。具体的には、まず、液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステル樹脂組成物を室温から20℃/分の昇温条件で加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm1)を観測する。吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm1)+20℃の温度でポリマーを5分間保持する。その後、20℃/分の降温条件で室温までポリマーを冷却する。そして、20℃/分の昇温条件でポリマーを加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm2)を観測する。融点(Tm)とは、該吸熱ピーク温度(Tm2)を指す。
【0039】
<液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法>
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。公知のポリエステルの重縮合法としては、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、ハイドロキノンに由来する構造単位、テレフタル酸に由来する構造単位、およびイソフタル酸に由来する構造単位からなる液晶ポリエステル樹脂を例に、以下が挙げられる。
【0040】
(1)p-アセトキシ安息香酸および4,4’-ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンとテレフタル酸、イソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶ポリエステル樹脂を製造する方法。
【0041】
(2)p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重合することによって液晶ポリエステル樹脂を製造する方法。
【0042】
(3)p-ヒドロキシ安息香酸フェニルおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニルから脱フェノール重縮合反応により液晶ポリエステル樹脂を製造する方法。
【0043】
(4)p-ヒドロキシ安息香酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶ポリエステル樹脂を製造する方法。
【0044】
なかでも(2)p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶ポリエステル樹脂を製造する方法が、液晶ポリエステル樹脂の末端構造の制御および重合度の制御に工業的に優れる点から、好ましく用いられる。
【0045】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法として、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。固相重合法による処理としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、液晶ポリエステル樹脂のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕する。粉砕したポリマーまたはオリゴマーを、窒素気流下、または、減圧下において加熱し、所望の重合度まで重縮合することで、反応を完了させる。上記加熱は、液晶ポリエステルの融点-50℃~融点-5℃(例えば、200~300℃)の範囲で1~50時間行うことができる。
【0046】
<アルカリ金属塩(B)>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、融点320℃以下のアルカリ金属塩(B)(以降、単にアルカリ金属塩(B)と記載することがある)を配合して得られるものである。
【0047】
液晶ポリエステル樹脂(A)とアルカリ金属塩(B)を配合することにより、液晶ポリエステル樹脂(A)のフェノール性末端あるいはカルボン酸末端にアルカリ金属塩(B)が反応し、液晶ポリエステル樹脂(A)の末端が一部アルカリ金属化する。アルカリ金属塩化した液晶ポリエステル樹脂が核となることによって、極めて緻密な結晶構造を形成することができる。緊密な結晶構造によって耐熱性が向上し、粗大結晶化が抑制され結晶サイズにムラがなくなることから流動安定性が向上するため、両特性を高いレベルで両立することができる。
【0048】
本発明で使用するアルカリ金属塩(B)の融点は320℃以下である。係る範囲とすることで、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法にて組成物とするときに、液晶ポリエステル樹脂(A)とアルカリ金属塩(B)が反応することができ、耐熱性と流動安定性が向上する。融点が320℃よりも高いと反応性が不十分となり耐熱性が向上しない。反応性をより向上させ、耐熱性と流動安定性を向上させる観点から、アルカリ金属塩(B)の融点は315℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。また、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。
【0049】
本発明で使用するアルカリ金属塩(B)の融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置により得られる融点である。具体的には、TAインスツルメンツ社製Q200により、アルカリ金属塩(B)を、室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm(B)1)の観測後、Tm(B)1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される昇温曲線中の吸熱ピーク温度を、アルカリ金属塩(B)の融点(Tm(B))とする。
【0050】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物におけるアルカリ金属塩(B)の配合量は、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、0.05~5重量部である。0.05重量部よりも少ない場合、液晶ポリエステル樹脂(A)とアルカリ金属塩(B)の反応が不十分となり、耐熱性が向上しない。また、5重量部よりも多い場合、アルカリ金属塩(B)から生じるガスや酸性物質によって液晶ポリエステル樹脂が分解してしまい、耐熱性が大きく低下する。耐熱性を向上させる観点から、0.1重量部以上が好ましく、0.2重量部以上がより好ましく、0.3重量部より大きいことがさらに好ましい。また、4重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、2重量部以下がさらに好ましい。
【0051】
本発明で使用するアルカリ金属塩(B)は、下記(i)で示されるカルボン酸とアルカリ金属からなる金属塩であることが好ましい。係る構造とすることで、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法にて組成物とするときに、液晶ポリエステル樹脂(A)中でアルカリ金属塩(B)が分散しやすくなり、耐熱性と流動安定性が向上する。さらに、下記(i)で示されるnが2以上のカルボン酸は、nが1の酸(すなわち酢酸)と比べて酸性度が低く、かつ沸点が高いことから、樹脂組成物としたときに液晶ポリエステル樹脂の分解を抑制することができ、耐熱性がより向上する。下記(i)で示されるカルボン酸としてはn=2のプロピオン酸が分散性、反応性と酸性度のバランスが良いことから好ましく用いられ、アルカリ金属としては、原子半径が適当であって核効果により耐熱性をより向上できる観点から、ナトリウムまたはカリウムが好ましく、なかでもナトリウムが好ましい。
(i)CnH2n+1COOH (nは2~5の整数を表す)
【0052】
<液晶ポリエステル樹脂組成物>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、前述した液晶ポリエステル樹脂(A)とアルカリ金属塩(B)を配合して得られるものであるが、その他の特性を付与するために充填材を含有してもよい。本発明で使用される充填材は、特に限定されるものではないが、例えば、繊維状、ウィスカー状、板状、粉末状、粒状などの充填材を挙げることができる。具体的には、繊維状、ウィスカー状充填材としては、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、および針状酸化チタンなどが挙げられる。板状充填材としては、マイカ、タルク、カオリン、ガラスフレーク、クレー、二硫化モリブデン、およびワラステナイトなどが挙げられる。粉状、粒状の充填材としては、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などが挙げられる。本発明に使用される上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用される上記の充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0053】
上記充填材中、特に引張強度や曲げ強度などの機械的強度、耐熱性、寸法安定性に優れる点から、ガラス繊維を使用することが好ましい。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものであれば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどを挙げることができる。
【0054】
上記充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤により処理されていてもよい。また、ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0055】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン、ホスファイト、チオエーテル類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される通常の添加剤を配合することができる。
【0056】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、充填材の含有量は、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、10~200重量部が好ましい。充填材含有量が10重量部以上であれば、成形品の機械強度を向上させることができるため好ましい。15重量部以上がより好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。一方、充填材含有量が200重量部以下であれば、流動安定性に優れた液晶ポリエステル樹脂組成物が得られるため好ましい。150重量部以下がより好ましく、100重量部以下がさらに好ましい。
【0057】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する方法は、下記の方法が挙げられる。
(α)前述した公知のポリエステルの重縮合法に準じて液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する際に、アルカリ金属塩(B)の存在下で重縮合を行い、液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する方法。
(β)アルカリ金属塩(B)を含まない液晶ポリエステル樹脂(A)に、所定量のアルカリ金属塩(B)を配合し、溶融混練する方法。
【0058】
液晶ポリエステル樹脂(A)とアルカリ金属塩(B)が短時間で適度に反応することで、耐熱性と流動安定性をより向上させることが可能なため、(β)に示した方法が好ましい。
【0059】
液晶ポリエステル樹脂(A)に、アルカリ金属塩(B)、充填材、および他の添加剤等を配合する方法としては、例えば、アルカリ金属塩(B)を含まない液晶ポリエステル樹脂(A)に、アルカリ金属塩(B)、充填材およびその他の固体状の添加剤等を配合するドライブレンド法や、アルカリ金属塩(B)を含まない液晶ポリエステル樹脂(A)、アルカリ金属塩(B)、および充填材にその他の液体状の添加剤等を配合する溶液配合法、アルカリ金属塩(B)、充填材およびその他の添加剤を液晶ポリエステル樹脂(A)の重合時に添加する方法や、アルカリ金属塩(B)を含まない液晶ポリエステル樹脂(A)、アルカリ金属塩、充填材およびその他の添加剤を溶融混練する方法などを用いることができる。なかでも溶融混練する方法が好ましい。溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点+50℃以下で溶融混練して液晶ポリエステル樹脂組成物とすることができる。なかでも二軸押出機が好ましい。
【0060】
二軸押出機については、液晶ポリエステル樹脂、および充填材の分散性を向上させるため、ニーディング部を1箇所以上設けていることが好ましく、2箇所以上設けていることがより好ましい。ニーディング部を上記のように設け、液晶ポリエステル樹脂組成物を上述の(β)の方法で製造する場合、アルカリ金属塩(B)を含まない液晶ポリエステル樹脂と、アルカリ金属塩(B)の分散性が向上して適度に反応することによって、前述したとおり耐熱性と流動安定性をより向上させることができる。ニーディング部の設置箇所は、例えば、充填材をサイドフィーダーから添加する場合、液晶ポリエステル樹脂(A)の可塑化を促進させるために、充填材のサイドフィーダーより上流側に1箇所以上、液晶ポリエステル樹脂と充填材との分散性を向上させるため、サイドフィーダーよりも下流側に1箇所以上の計2箇所以上設置することが好ましい。
【0061】
また、二軸押出機中の水分や混練中に生じた分解物を除去するため、ベント部を設けていることが好ましく、2箇所以上設けていることがより好ましい。ベント部の設置箇所は、例えば、充填材をサイドフィーダーから添加する場合、液晶ポリエステル樹脂(A)の付着水分を除去するために、充填材を投入するサイドフィーダーより上流側に1箇所以上、溶融混練時の分解ガス、充填材供給時の持ち込み空気を除去するため、サイドフィーダーよりも下流側に1箇所以上の計2箇所以上設置することが好ましい。ベント部は、常圧下としてもよく、減圧下としてもよい。
【0062】
混練方法としては、1)アルカリ金属塩(B)を含まない液晶ポリエステル樹脂(A)、アルカリ金属塩(B)、充填材およびその他の添加剤を元込めフィーダーから一括で投入して混練する方法(一括混練法)、2)アルカリ金属塩(B)を含まない液晶ポリエステル樹脂(A)、アルカリ金属塩(B)、およびその他の添加剤を元込めフィーダーから投入して混練した後、充填材およびその他添加剤をサイドフィーダーから添加して混練する方法(サイドフィード法)、3)アルカリ金属塩(B)を含まない液晶ポリエステル樹脂(A)、アルカリ金属塩(B)、およびその他の添加剤を高濃度に含むマスターペレットを作製し、次いで規定の濃度になるようにマスターペレットを液晶ポリエステル樹脂(A)および充填材と混練する方法(マスターペレット法)など、どの方法を用いてもかまわない。
【0063】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの公知の溶融成形を行うことによって、成形品に加工することが可能である。ここでいう成形品としては、射出成形品、押出成形品、プレス成形品、シート、パイプ、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの各種フィルム、未延伸糸、超延伸糸などの各種繊維などが挙げられる。特に加工性の観点から射出成形であることが好ましい。
【0064】
本発明の液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステル組成物を成形して得られる成形品は、金属端子部を有し、薄肉の箱型や筒型形状を有するコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、ランプソケット、カメラモジュール、集積回路封止材、インシュレーターなどの電気・電子部品に有用である。
【実施例0065】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。実施例中、液晶ポリエステル樹脂の組成および特性評価は以下の方法により測定した。
【0066】
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)の組成分析
粉砕した液晶ポリエステル樹脂ペレット0.1mgに、水酸化テトラメチルアンモニウム25%メタノール溶液2μLを添加し、島津製GCMS-QP5050Aを用いて熱分解GC/MS測定を行い、液晶ポリエステル樹脂中の各構成成分の組成比を求めた。
【0067】
(2)液晶ポリエステル樹脂(A)または液晶ポリエステル樹脂組成物の融点(Tm)
示差走査熱量測定(DSC)装置(TAインスツルメンツ社製Q200)により、ポリエステル樹脂(A)を室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される昇温曲線中の吸熱ピーク温度を液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)とした。
【0068】
(3)アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩(B)の融点(Tm(B))
示差走査熱量測定(DSC)装置(TAインスツルメンツ社製Q200)により、アルカリ金属塩(B)を室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm(B)1)の観測後、Tm(B)1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される昇温曲線中の吸熱ピーク温度をアルカリ金属塩(B)の融点(Tm(B))とした。なお、測定装置の測定可能温度よりも融点が高い場合は、>500℃以上として記載する。
【0069】
(4)耐熱性(荷重たわみ温度(DTUL)の評価)
各実施例および比較例により得られたペレットを、熱風乾燥機を用いて150℃で3時間乾燥した後、ファナック製ファナックα30C射出成形機に供し、射出シリンダー温度を液晶性ポリエステルの融点+20℃(2種以上の液晶性ポリエステルを配合している場合は、高い方の融点+20℃)、金型温度を90℃として、射出圧力を100MPa、速度を最低充填速度に設定し、127mm長×12.7mm幅×3.2mm厚の棒状試験片を作製した。得られた試験片について、ASTM D648に準拠し、HDT-500(安田精機製作所製)を用いて、荷重1.82MPaでの条件で荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。DTULの温度(℃)は高いほど優れ、215℃未満であれば耐熱性に劣る。
【0070】
(5)流動安定性(流動長ばらつきの評価)
各実施例および比較例により得られたペレットを、熱風乾燥機を用いて150℃で3時間乾燥した後、TUPARL TR30EHA射出成形機(ソディックプラステック製)に供し、金型温度を90℃として、5.0mm幅×0.2mm厚棒状試験片を、成形品の長さが30mmとなる射出シリンダー温度、射出速度および成形圧力の条件で350ショット成形した。得られた試験片について長さが29mm以下、または31mm以上となり、試験片長さのばらつきが生じている数を数えた。長さばらつきの数が少ないほど、流動安定性に優れるとした。
【0071】
各実施例および比較例において用いたアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩(B)を次に示す。
(B-1):プロピオン酸ナトリウム(Tm(B)290℃)
(B-2):プロピオン酸カリウム(Tm(B)160℃)
(B-3):酢酸カリウム(Tm(B)303℃)
(B-4):酢酸ナトリウム(Tm(B)330℃)
(B-5):酢酸カルシウム(Tm(B)210℃)
(B-6):ステアリン酸マグネシウム(Tm(B)90℃)
(B-7):酸化ナトリウム(Tm(B)>500℃)
(B-8):硫酸カリウム(Tm(B)>500℃)
【0072】
続いて、各実施例および比較例において用いた、無機充填材(C-1)~(C-3)を次に示す。
(C-1):ヤマグチマイカ(株)製 マイカ “NJ-030”
(C-2):富士タルク工業(株)製 タルク “RL217”
(C-3):日本電気硝子(株)製 EPG(70MD-01N)/P9W
【0073】
以下に、実施例および比較例において用いた液晶ポリエステルおよび液晶ポリエステル組成物(A-1)~(A-5)について製法とともに示す。
【0074】
[実施例1]
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸822重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル333重量部、ハイドロキノン84重量部、テレフタル酸275重量部、イソフタル酸148重量部、無水酢酸1185重量部(フェノール性水酸基合計の1.05当量)およびプロピオン酸ナトリウム(B-1)8.3重量部(液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して0.5重量部)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から330℃までを4時間で昇温させた。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが10kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂組成物(A-1)を得た。Tmは311℃であった。
【0075】
[比較例1]
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸822重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル333重量部、ハイドロキノン84重量部、テレフタル酸275重量部、イソフタル酸148重量部および無水酢酸1185重量部(フェノール性水酸基合計の1.05当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から330℃までを4時間で昇温させた。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが10kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A-2)を得た。Tmは310℃であった。
【0076】
[比較例2]
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸822重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル333重量部、ハイドロキノン84重量部、テレフタル酸275重量部、イソフタル酸148重量部、無水酢酸1185重量部(フェノール性水酸基合計の1.05当量)および酢酸カリウム(B-4)0.17重量部(液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して0.01重量部)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から330℃まで4時間で昇温させた。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが10kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂組成物(A-3)を得た。Tmは312℃であった。
【0077】
[製造例1]
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸822重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル475重量部、テレフタル酸275重量部、イソフタル酸148重量部および無水酢酸1185重量部(フェノール性水酸基合計の1.05当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から330℃まで4時間で昇温させた。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが10kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A-4)を得た。Tmは306℃であった。
【0078】
[製造例2]
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸998重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル214重量部、ハイドロキノン75重量部、テレフタル酸261重量部、イソフタル酸42重量部および無水酢酸1185重量部(フェノール性水酸基合計の1.05当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から350℃まで4時間で昇温させた。その後、重合温度を350℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが10kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A-5)を得た。Tmは328℃であった。
【0079】
実施例1および比較例1、2で得られたペレット(A-1)~(A-3)について、上記(1)に記載の方法で組成分析を行った結果、および(3)~(5)の評価を行った結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2~9および比較例3~9]
液晶ポリエステル樹脂(A-2)~(A-5)に対して、さらにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩(B-1)~(B-8)、および充填材(C-1)~(C-3)を、以下の実施例2~9、比較例3~9の製造方法に示した手法にて、溶融混練した液晶ポリエステル樹脂を作製し、上記(1)に記載の方法で組成分析を行った結果、および(3)~(5)の評価を行った結果についても表1に示す。
【0081】
実施例2~9、比較例3~9の製造方法
サイドフィーダーを備えた東芝機械製TEM35B型2軸押出機で、シリンダーC1(元込めフィーダー側ヒーター)~C6(ダイ側ヒーター)の、C3部にサイドフィーダーを設置し、C5部に真空ベントを設置した。ニーディングブロックをC2部、C4部に組み込んだスクリューアレンジを用い、液晶ポリエステル樹脂(A-2)~(A-5)、およびアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩(B-1)~(B-8)を表1に示す配合量で元込めフィーダーから投入し、無機充填材(C-1)~(C-3)を表1に示す配合量でサイドフィーダーから投入して、シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+10℃、スクリュー回転数を200rpmに設定し、溶融混練してペレットとした。なお、溶融混練中に多量のガスが発生するなど、溶融混練が困難であって評価不能であった組成物に関しては「溶融混練不可」とした。
【0082】
【0083】
表1の結果から、特定の融点を有するアルカリ金属塩を特定の配合量で含む本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、耐熱性と流動安定性に優れていることが分かる。そのため、薄肉の箱型や筒型形状を有するコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、ランプソケット、カメラモジュール、集積回路封止部品、インシュレーターなどの電気・電子部品や機械部品用途への使用に適しているといえる。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、耐熱性と流動安定性に優れるため、薄肉の箱型や筒型形状を有するコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、ランプソケット、カメラモジュール、集積回路封止部品、インシュレーターなどの電気・電子部品や機械部品用途に好適である。