(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111050
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】除菌方法、除菌組成物、除菌製品及び除菌組成物の効力向上方法
(51)【国際特許分類】
A01N 65/36 20090101AFI20230803BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230803BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20230803BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20230803BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
A01N65/36
A01P3/00
A01N31/02
A01N25/02
A61L2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012679
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 智弘
(72)【発明者】
【氏名】田野 文音
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 奈都美
【テーマコード(参考)】
4C058
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA30
4C058BB07
4C058JJ08
4C058JJ24
4H011AA02
4H011BA06
4H011BB03
4H011BB22
4H011DA13
4H011DE15
(57)【要約】
【課題】水が付着している硬質部材の表面であっても高い除菌効果を発揮する除菌方法、除菌組成物、除菌製品及び除菌組成物の効力向上方法を提供する。
【解決手段】グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物を、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌方法は、除菌組成物に、除菌効力向上成分としてエタノールを含有させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物を、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌方法であって、
前記除菌組成物に、除菌効力向上成分としてエタノールを含有させることを特徴とする除菌方法。
【請求項2】
請求項1に記載の除菌方法において、
前記グレープフルーツ種子抽出物を0.15質量%以上含有させることを特徴とする除菌方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の除菌方法において、
前記エタノールを40容量%以上含有させることを特徴とする除菌方法。
【請求項4】
水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌組成物の効力向上方法であって、
グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした前記除菌組成物にエタノールを含有させることを特徴とする除菌組成物の効力向上方法。
【請求項5】
グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物を、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌方法であって、
噴霧後に前記水で希釈されたグレープフルーツ種子抽出物の濃度が0.015質量%以上となるように噴霧することを特徴とする除菌方法。
【請求項6】
請求項5に記載の除菌方法において、
前記除菌組成物中に除菌効力向上成分としてエタノールを含有させることを特徴とする除菌方法。
【請求項7】
グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とし、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌組成物であって、
当該除菌組成物中の前記グレープフルーツ種子抽出物の濃度が0.15質量%以上であることを特徴とする除菌組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の除菌組成物において、
除菌効力向上成分としてエタノールを含有していることを特徴とする除菌組成物。
【請求項9】
請求項7または8に記載の除菌組成物を噴霧容器に収容した除菌製品であって、
前記除菌組成物を0.003mL/cm2以上で噴霧可能に構成されている除菌製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水が付着している硬質部材の表面を除菌する除菌方法、除菌組成物、除菌製品及び除菌組成物の効力向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的によく用いられている除菌剤として、アルコール(エタノール)を有効成分とし、ポンプ式のハンドスプレー等によって除菌対象物に向けて噴霧するものが知られている。
【0003】
また、例えば特許文献1には、柑橘類の種子エキスと、重曹を含む弱アルカリ長期維持剤とを含有した除菌剤が開示されている。特許文献1の除菌剤は、調理台等に噴霧して使用することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えばキッチンシンク(流し台)は、一見すると、水によって表面が随時洗い流されているため清潔なように思われるけれども、本願発明者らの検討により、キッチンシンクの表面には多くの雑菌が存在していることが判明している。このため、キッチンシンクのように水で濡れている硬質表面で使用できる除菌剤が求められる。
【0006】
そこで従来のエタノールを有効成分とした除菌剤をキッチンシンク表面に噴霧して使用することが考えられるが、エタノールは70容量%前後の水溶液が最も除菌効果が高いとされ、これよりも濃度が低いと十分な効力が得られない。そこで本願発明者らが検討したところ、たとえばキッチンシンクのように水で濡れている硬質表面に上記除菌剤を噴霧した場合、当該除菌剤は10倍程度希釈されてしまうためエタノールによる除菌効果がほとんど得られなかった。
【0007】
また、エタノール以外の除菌有効成分も、その効力は濃度に依存するため、このような除菌有効成分を含む除菌剤を水で濡れている硬質表面上に噴霧したとしても、十分な除菌効果が得られないと考えられる。
【0008】
すなわち、従来の除菌剤では、水で濡れたままのキッチンシンク等の表面を除菌することができないと考えられる。水で薄まっても効力を発揮できるように、除菌有効成分の濃度を例えば通常の10倍以上とすることも考えらえるが、コストアップなどの問題が生じる。
【0009】
本開示は、かかる点に鑑みたものであり、その目的とするところは、水が付着している硬質部材の表面であっても高い除菌効果を発揮する除菌方法及び除菌組成物の効力向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本願発明者らは、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分として含む除菌剤を、水で濡れた硬質部材の表面に噴霧して使用する場合において、エタノールが効力増強成分として機能することを見出した。
【0011】
前述のように、エタノールは水で薄まるとほとんど除菌効果が得られないものであるが、そのように水で薄まったエタノールによってグレープフルーツ種子抽出物の効力増強効果があることはまったく意外な発見であった。
【0012】
そして、このようにエタノールを効力増強成分とすることにより、水で濡れた硬質部材の表面であってもグレープフルーツ種子抽出物が十分な除菌効力を発揮できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本開示に係る一態様では、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物を、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌方法を対象とし、除菌組成物に、除菌効力向上成分としてエタノールを含有させるものである。
【0014】
また、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌組成物の効力向上方法を対象とし、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物にエタノールを含有させてもよい。
【0015】
すなわち、たとえばエタノールを除菌有効成分とする除菌組成物は、水が付着した硬質部材の表面に噴霧した場合、エタノールが水で薄まってしまうため、当該エタノールによる除菌効果は期待できない。
【0016】
しかし、本開示によれば、有効成分としてグレープフルーツ種子抽出物を有しているので、水が付着した硬質部材の表面に噴霧して薄まった場合であっても十分な除菌効果を発揮する。そして、エタノールは、水によって薄まったグレープフルーツ種子抽出物の除菌効力向上成分として働くので、この除菌組成物は水で薄まったとしても十分な除菌効果を発揮できる。
【0017】
また、硬質部材の表面に存在している水で希釈された後のグレープフルーツ種子抽出物の濃度が0.015質量%以上となるように噴霧することもできる。このような濃度となるように噴霧することで、グレープフルーツ種子抽出物による除菌効果が十分に得られる。
【0018】
また、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とし、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌組成物を対象とし、当該組成物中のグレープフルーツ種子抽出物の濃度を0.15質量%以上とすることができる。この除菌組成物を噴霧容器に収容して除菌製品とすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、除菌有効成分としてグレープフルーツ種子抽出物を含有しているので、水が付着している硬質表面であっても除菌効果を発揮できる。そして、除菌組成物に除菌効力向上成分としてエタノールを含有させたので、水が付着している硬質部材の表面であっても高い除菌効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
本発明の実施形態に係る除菌組成物は、グレープフルーツ種子抽出物と、水と、除菌効力向上成分としてのエタノールとを少なくとも含有している。除菌組成物は、pH調整剤を含有していてもよい。除菌組成物は、グレープフルーツ種子抽出物の水溶液にエタノールを混合させた液状除菌剤と呼ぶことや、pH調整剤が含有された液状除菌剤ということもできる。グレープフルーツ種子抽出物の水溶液は、グレープフルーツ種子抽出物をイオン交換水に溶解させたものを用いることができる。
【0022】
この除菌組成物中のグレープフルーツ種子抽出物の濃度は、0.1質量%~5.0質量%の範囲で設定することができる。また、グレープフルーツ種子抽出物の濃度の下限値は、0.15質量%とすることができ、また0.2質量%としてもよい。また、グレープフルーツ種子抽出物の濃度の上限値は、3.0質量%とすることができ、また、0.8質量%とすることもできる。グレープフルーツ種子抽出物の濃度を上記範囲とすることにより、除菌組成物をキッチンシンク等の水で濡れた硬質表面に噴霧したときでも十分な除菌効力を得ることができる。また、この除菌組成物は乾いた(水で濡れていない)硬質表面に噴霧して使うこともでき、その場合は、当該表面においてグレープフルーツ種子抽出物が希釈されないので、上記濃度範囲とすることにより、高い除菌効力に加えて、当該表面において長期間にわたる抗菌持続効果も得ることができる。
【0023】
グレープフルーツ種子抽出物は、グレープフルーツの果実の種子から抽出精製されたものであって、一般に食品添加物として認められたものである。グレープフルーツ種子抽出物をグレープフルーツから得る場合には、収穫したグレープフルーツから種子を取り出し、取り出した種子を粉砕し、その粉砕したものから抽出することができる。このとき、未乾燥状態の粉砕物からグレープフルーツ種子抽出物を抽出してもよいし、凍結乾燥させた状態の粉砕物からグレープフルーツ種子抽出物を抽出してもよい。
【0024】
グレープフルーツ種子抽出物を抽出する際には、水やアルコール等の溶液を用いることができる。抽出用の溶媒として用いるアルコールは、例えばエタノール等を挙げることができる。グレープフルーツ種子抽出物を抽出する際、種子を例えば30℃以上に加温してもよい。グレープフルーツ種子抽出物には、脂肪酸やフラボノイド等が含有されている。グレープフルーツ種子抽出物は、食品グレードのものが好ましいが、必ずしも食品グレードで無くてもよい。
【0025】
除菌組成物中のエタノールの濃度は40容量%以上とされている。また、除菌組成物中のエタノールの濃度は50容量%以上とすることができ、また60容量%以上とすることができる。エタノールを40容量%以上含有していることにより、水で濡れた硬質表面に噴霧した場合にグレープフルーツ種子抽出物を有効成分として含む除菌剤が希釈されたとしても除菌効力を十分に向上させることが可能になる。尚、除菌組成物は乾いた(水で濡れていない)硬質表面に噴霧して使うこともでき、その場合は、除菌組成物中のエタノール濃度が上記範囲であることにより、高い除菌効力はもちろんのこと、速乾性のある除菌剤として優れた使用感を得ることができる。また、除菌組成物中のエタノールの濃度の上限は、例えば85容量%、または80容量%とすることができる。
【0026】
必須な成分ではないが、pH調整剤を含有する場合、除菌組成物はpH5以下の酸性、またはpH8以上のアルカリ性に調整されていることが好ましい。また、皮膚刺激低減の観点から、弱酸性あるいは弱アルカリ性の範囲であることがより好ましい。pH調整剤としては安全性の面から食品成分が好ましく、その場合、酸性に調整する場合は有機酸など、アルカリ性に調整する場合は炭酸塩やアミノ酸などが好適に用いられる。尚、本発明の除菌組成物は水で希釈されることを想定しているので、希釈後でもpHが安定するようにpH緩衝作用があるpH調整剤が好ましいが、仮に希釈によってpHが変化したとしても本発明の効果は得られる。
【0027】
除菌組成物は、使用者が操作可能な噴霧用レバーを有する噴霧容器(トリガー式ハンドスプレー容器)に収容して除菌製品とすることもできる。除菌組成物を噴霧容器から各種物品等に噴霧して使用することができる。噴霧用レバーを有する噴霧容器としては、従来から用いられている各種容器を挙げることができ、どのような容器であってもよい。噴霧用レバーを操作することで、内蔵された手動式ポンプを作動させて除菌組成物を噴霧することができる。噴霧口の大きさや数は特に限定されるものではない。また、シャワーノズルのような開口から除菌組成物を噴射してもよい。
【0028】
噴霧容器は、単位面積当たりに噴霧可能な除菌組成物の量を任意に調整可能である。例えば噴霧口の大きさや数を調整することで、噴霧対象の表面1cm2当たりに噴霧する除菌組成物の量を増減できる。本実施形態では、対象表面に対して除菌組成物が0.003mL/cm2以上となるように噴霧可能に構成されている。この噴霧量は、0.004mL/cm2以上としてもよい。対象表面の単位面積あたりに噴霧する除菌組成物の量を上記範囲とすることにより、当該表面に除菌組成物がまんべんなく行き渡り十分な除菌効果が得られる。また、噴霧量の上限は、0.05mL/cm2以下とすることができる。
【0029】
また、手押し式ポンプや電動ポンプを備えた噴霧装置によって除菌組成物を噴霧させることもできる。また、除菌組成物は、水が付着している硬質部材の表面に噴霧することができる。硬質部材の例としては、例えばキッチンのシンク、洗面所のシンク等を挙げることができるが、これら以外にも水が付着する可能性のある硬質部材、例えば水切りかご、三角コーナー、ストレーナー等に除菌組成物を噴霧することができる。硬質部材は、例えば樹脂製、金属製、陶器製等、いずれのものであってもよい。
【0030】
除菌組成物は、水が付着している硬質部材の表面以外にも、各種物品に塗布したり、滴下させることによって使用することもでき、また、例えば、まな板や包丁等の調理器具、調理台、食器、ふきん、タオルなどに直接噴霧して使用することもできる。除菌組成物は、衣類、床、壁、便器、洗面台、自動車の室内に噴霧して使用することもできる。除菌組成物を手に噴霧してもよい。
【0031】
(除菌方法)
除菌方法は、除菌組成物を用意する工程と、除菌組成物を除菌対象物に噴霧する噴霧工程とを備えており、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物を、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌方法である。除菌組成物を用意する工程では、上記のように調整された除菌組成物を上記容器に収容して準備する。噴霧工程では、使用者が上記容器を持ち、当該容器の噴霧口を、水が付着している硬質部材の表面に向けて噴霧用レバーを操作する。これにより、除菌組成物が、水が付着している硬質部材の表面に向けて噴霧される。詳細は後述する試験結果に基づいて説明するが、この除菌方法では、除菌組成物に、除菌効力向上成分としてエタノールを含有させることを特徴としている。
【0032】
この除菌方法では、硬質部材の表面に存在している水によって希釈された後のグレープフルーツ種子抽出物の濃度が0.015質量%以上となるように噴霧する。例えば、硬質部材の表面に存在している水によって10倍に希釈される場合には、噴霧前のグレープフルーツ種子抽出物の濃度が0.15質量%以上となるように、グレープフルーツ種子抽出物の含有量を設定しておけばよい。希釈後のグレープフルーツ種子抽出物の濃度が0.015質量%以上であれば、十分な除菌効果を発揮できる。
【0033】
(除菌組成物の効力向上方法)
次に、除菌組成物の効力向上方法について説明する。除菌組成物の効力は、除菌効力のことである。本方法は、水が付着している硬質部材の表面に噴霧して当該表面を除菌する除菌組成物の効力向上方法であり、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物にエタノールを含有させることを特徴としている。例えば、グレープフルーツ種子抽出物の水溶液にエタノールを添加してもよいし、エタノールにグレープフルーツ種子抽出物の溶液を添加してもよい。詳細は後述する試験結果に基づいて説明するが、いずれの方法であっても、除菌組成物の効力を向上させることができる。
【0034】
(シンクにおける希釈倍率の確認)
まず、一般的なキッチンシンク(流し台)において、水が付着した表面に除菌組成物を噴霧した場合に、当該除菌組成物がどれだけ希釈されるかを確認したので説明する。
キッチンのシンクを使用した後、シンクの表面にどのくらいの水が残っているかについて、以下のようにして試験した。まず、ステンレス製の一般的なキッチンのシンクにおいて、蛇口から10秒間ほど水を出してシンクの表面に水を流す。このとき、水が流れた範囲を流水範囲とする。その後、蛇口を止める。排水口への水流が止まった段階で、シンクの表面に付着している水をふきんで全て拭き取る。拭き取り前のふきんの重量と、拭き取り後のふきんの重量とを測定し、ふきんの重量の増加分を算出する。この増加分が水の重量となるので記録しておく。そして、シンクの表面の流水範囲の面積から、当該範囲における単位面積当たりの水の付着量を算出する。4回の平均値では、1cm2あたり0.0340mLであった。
【0035】
供試剤はトリガー式ハンドスプレー容器に収容し、噴霧して使用する。このようなハンドスプレー容器は公知のものを利用でき、その噴霧性状や噴霧量は特に限定されない。しかしながら、硬質表面にまんべんなく付着させることができるように霧状で広範囲に噴霧できることが好ましい。これに加え、乾いた(濡れていない)垂直の硬質表面に噴霧して使用する場合も想定すると、当該表面に付着した除菌組成物の過剰な液だれが発生しないように噴霧量が設定されていることが好ましい。本実施例でもそのようなハンドスプレー容器を使用している。具体的には、本実施例において、当該容器による噴霧性状は霧状であり、その噴霧範囲は、噴霧口から20cm離れたところで直径23cmの円状となるように、噴霧口の形状や大きさが設定されている。従って、噴霧面積は約416cm2となる。1回の操作で噴出する液体の量は1.5mLに設定されている。従って、1回の操作で1cm2当たりに付着する供試剤の量は、0.0036mLである。なお、複数回の噴射操作を行う場合は、容器を動かしながら操作を繰り返すことで、広い範囲に対してまんべんなく供試剤を付着させることができる。
【0036】
本実施形態のハンドスプレー容器に収容した供試剤を、水を流した後のシンクの表面にまんべんなく噴霧した場合、当該シンクの流水範囲の1cm2あたり0.0036mLの供試剤が付着し、当該表面に存在している1cm2あたり0.0340mLの水によって希釈されることになるので、その希釈倍率は約10倍である。この値はシンクの形状や水の付着具合等によって異なる可能性があるが、一般的なシンクの素材や表面の傾き等に大きな違いは無いので、10倍から大きく外れた希釈倍率になることはないと考えられる。
【0037】
(基礎効力試験)
本試験は、除菌組成物が水で希釈された場合の除菌効果を確認する基礎試験である。供試剤として、エタノール濃度65容量%でグレープフルーツ種子抽出物0.24質量%を含有している除菌組成物を用意した。除菌組成物はpH3の弱酸性に調整され、pH調整剤として有機酸を含んでいる。残余は水である。
【0038】
試験工程は以下の工程1~3に示すとおりである。
工程1.大腸菌または黄色ブドウ球菌の菌液と、供試剤とを試験管内で混ぜ合わせる。このとき、供試剤が菌液によって8倍、12倍、16倍および24倍に希釈されるように、混ぜ合わせる際の混合比を異ならせた複数のサンプルを作成する。なお、希釈した場合であってもpHはほとんど変わらなかった。また、対照(ブランク)として、供試剤を混合しない菌液サンプルを用意する。
工程2.60分静置する。
工程3.生菌数を数え、対照(ブランク)と比較することで除菌率を算出する。
【0039】
結果として、希釈倍率が8倍、12倍、16倍のサンプルでは、大腸菌および黄色ブドウ球菌の除菌率が99.99%以上であり、十分な除菌効果が得られた。一方、希釈倍率が24倍のサンプルでは、黄色ブドウ球菌の除菌率は99.99%であったものの、大腸菌は十分な除菌効果が得られなかった。
【0040】
ここで、もとの供試剤中のグレープフルーツ種子抽出物は0.24重量%であるから、これが16倍に希釈された後の濃度は0.015重量%である。従って、希釈後のグレープフルーツ種子抽出物の濃度が0.015重量%以上であれば、大腸菌に対しても十分な除菌効果が得られることがわかる。尚、アルカリ性に調整した供試剤や、pH調整剤を配合しない供試剤であっても、この濃度以上であれば同様の結果が得られる。
【0041】
また前述のように、水を流した後のシンクの表面に噴射した場合の希釈倍率は10倍程度であるから、もとの(希釈される前の)除菌組成物中のグレープフルーツ種子抽出物濃度が0.15重量%以上であれば、水を流した後のシンクの表面に噴霧した場合にも十分な除菌効果が得られると考えられる。
【0042】
(硬質表面上での除菌効力試験)
本除菌効力試験は、キッチンのシンクの表面等に付着した水によって供試剤が希釈された場合を想定し、硬質表面上の水たまりで希釈された供試剤の除菌効力を確認するための試験である。具体的には、5cm×5cmのポリエチレンテレフタレート(PET)製の板(以下、PET板という)を用意し、PET板を略水平に設置してシンクの底壁部を再現した。PET板が硬質部材に相当し、PET板の上面が硬質部材の表面に相当する。PET板の代わりに、例えば金属や陶器の板であってもよく、いずれのものでも同様な試験結果が得られる。
【0043】
供試剤は前述のトリガー式ハンドスプレー容器に収容した。すなわち、噴霧範囲は、噴霧口から20cm離れたところで直径23cmの円状であり、1回の操作で噴出する液体の量は1.5mLに設定されている。尚、トリガー式ハンドスプレー容器の上記構成は一例であり、噴霧範囲や1回の操作で噴出する液体の量は任意に設定することができる。
【0044】
試験場所は、室温が25℃に設定された無菌室であるが、室温が20℃程度であっても30℃程度であっても同様な試験結果が得られる。供試菌は大腸菌である。
【0045】
供試剤は、エタノール濃度77容量%でグレープフルーツ種子抽出物を含有していない除菌剤(比較例)と、エタノール濃度49容量%でグレープフルーツ種子抽出物0.18質量%を含有している除菌組成物(実施例1)と、エタノール濃度65容量%でグレープフルーツ種子抽出物0.18質量%を含有している除菌組成物(実施例2)と、エタノール濃度65容量%でグレープフルーツ種子抽出物0.24質量%を含有している除菌組成物(実施例3)の4つの供試剤を用意した。実施例1~3はいずれもpH調整剤として有機酸を含み、pH3の弱酸性である。比較例および実施例1~3の組成物の残余は水である。また、対照として無処理のものを用意した。
【0046】
試験工程は以下の工程1~4に示す通りである。
工程1.約107cfu/mLに調整した菌懸濁液0.4mLを上記PET板の上面に滴下した。この滴下後、上記PET板の上面には菌懸濁液による液だまりができ、その液だまりの面積は2.36cm2であった。菌懸濁液を滴下したPET板の上面は、水が付着している硬質部材の表面に相当し、菌懸濁液が水に相当する。
工程2.滴下直後に、上記PET板の上面から上方に20cm離れた所から鉛直下向きに供試剤を1回噴射し、PET板上に供試剤をまんべんなく付着させた。噴射後、10分間静置した。なお、対照(無処理)においては、この工程2は行わない。
工程3.供試剤の噴射から10分間経過後にSCDLP液体培地100mLで洗い出しを行い、段階希釈により希釈系列を作製し、各段階の希釈液200μLをSCDLP寒天培地にまき、生菌数を測定した。
工程4.各供試剤による除菌率を、対照の生菌数との比較で求めた。
次に、比較例および実施例1~3の供試剤が、水(菌懸濁液)によって何倍に希釈されたかを算出する。上記工程2で供試剤を噴射した後、菌懸濁液の液だまりの面積を測定すると12.5cm2であった。尚、工程1で滴下した直後よりも面積が広がっているが、これは噴射した供試剤が菌懸濁液に混入して表面張力が低下した結果だと考えられる。
【0047】
ここで前述のように、本実施形態のトリガー式ハンドスプレー容器から噴射された供試剤は、1cm2当たりに0.0036mLとなるようにまんべんなくPET板上に付着する。供試剤噴霧後、PET板の上面において広がった後の菌懸濁液の液だまりの面積が12.5cm2であるため、この液だまりに含まれる供試剤の量は、0.045mLとなる。この量の供試剤が、液だまりを形成する菌懸濁液0.4mLによって希釈されたことになるので、この場合、供試剤の希釈倍率は10倍となる。
【0048】
前述のように、水で濡れたシンクに供試剤を噴霧した場合の希釈倍率は約10倍であるから、本試験は、実使用場面に準じた希釈倍率での試験であるといえる。尚、希釈倍率は、7倍~15倍の範囲で同様な試験結果となる。
【0049】
続いて、試験結果について説明する。エタノール濃度77容量%でグレープフルーツ種子抽出物を含有していない比較例1では、上記液だまりを形成する菌懸濁液で10倍に希釈されると、エタノール濃度が7容量%程度まで大幅に低下する。このため、除菌効果は殆ど発揮されなかった。
【0050】
エタノール濃度49容量%でグレープフルーツ種子抽出物0.18質量%の実施例1では、99.9%の除菌率であり、十分な除菌効果が発揮された。また、エタノール濃度65容量%でグレープフルーツ種子抽出物0.18質量%の実施例2と、エタノール濃度65容量%でグレープフルーツ種子抽出物0.24質量%の実施例3は、ともに99.99%の除菌率であり、極めて高い除菌効果が発揮された。言い換えると、本実施形態の除菌組成物は、硬質表面に噴霧したときに、当該硬質表面に付着している水によって10倍に希釈されても十分な除菌効力を発揮する除菌組成物である。
【0051】
比較例1の試験結果で示されているように、エタノール濃度が77容量%の極めて高濃度の除菌剤であっても、液だまりに噴霧して10倍程度に希釈されてしまうと、除菌効果は発揮されない。しかし、比較例よりも低いアルコール濃度の実施例1~3では、99.9%または99.99%以上の除菌効果が発揮されている。これは、実施例1~3が含有するグレープフルーツ種子抽出物による除菌効果と考えられる。
【0052】
また、エタノール濃度49容量%の実施例1よりも、エタノール濃度65容量%の実施例2の方が、除菌効果が高くなっている。ところが、比較例の試験結果から明らかなように、エタノールは元の濃度が77容量%と高濃度であっても水で10倍も薄まったときにほとんど除菌効果がないので、元の濃度が49容量%(実施例1)であっても、65容量%(実施例2、3)であってもエタノール単体による除菌効果は発揮されない。そうすると、実施例1と実施例2の除菌効果の差は、エタノール自体による除菌効果の差を示しているものではなく、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物の除菌効果を、水で希釈されたエタノールによって向上させていることによるものである。
【0053】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、上述した除菌方法は、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物に、除菌効力向上成分としてエタノールを含有させる除菌方法であり、比較例、実施例1~3の試験結果によって示されているように、除菌組成物がキッチンのシンクの表面で10倍に希釈されたとしても、エタノールが除菌効力向上成分として有効に作用し、十分な除菌効力を得ることができる。
【0054】
また、グレープフルーツ種子抽出物を有効成分とした除菌組成物にエタノールを含有させると、除菌組成物の効力を向上させることができるので、除菌組成物がキッチンのシンクの表面で10倍程度に希釈されたとしても、十分な除菌効力を得ることができる。
【0055】
また、上記除菌組成物は、乾いた(水で濡れていない)硬質表面に噴霧して使用することもでき、その場合はグレープフルーツ種子抽出物による除菌効果に加え、長期間にわたる抗菌持続の効果も得ることができる。
【0056】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本開示に係る方法は、例えばキッチンのシンク、水切りかご、三角コーナー、ストレーナー等を除菌する場合に利用することができる。