(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111100
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】移動速度計測装置
(51)【国際特許分類】
G01P 3/42 20060101AFI20230803BHJP
G01P 3/44 20060101ALI20230803BHJP
G01P 15/18 20130101ALI20230803BHJP
【FI】
G01P3/42 D
G01P3/44 Z
G01P15/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012753
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】片山 諒一
(57)【要約】
【課題】耐久性を低下させることなく高い精度でローラの回転から移動速度を計測する。
【解決手段】計測対象であるローラ(110)の回転部位に取り付けられ、直交する2軸の加速度を検出する加速度検出部(120)と、加速度検出部(120)の検出結果から移動速度を求める演算部(140)とを備え、加速度検出部(120)は、2軸にローラ(110)の半径方向と周方向とを割り当て、半径方向加速度と周方向加速度とを検出し、演算部(140)は、半径方向加速度及び周方向加速度からローラの回転角度を算出し、回転角度を微分して角速度を算出し、ローラ(110)の直径と角速度とからローラ(110)移動速度を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象であるローラ(110)の回転部位に取り付けられ、直交する2軸の加速度を検出する加速度検出部(120)と、
前記加速度検出部(120)の検出結果から移動速度を求める演算部(140)とを備え、
前記加速度検出部(120)は、前記2軸に前記ローラ(110)の半径方向と周方向とを割り当て、半径方向加速度α1と周方向加速度α2とを検出し、
前記演算部(140)は、
前記半径方向加速度α1及び前記周方向加速度α2から前記ローラの回転角度θを算出し、
前記回転角度θを微分して角速度ωを算出し、
前記ローラ(110)の直径Dと前記角速度ωとから前記ローラ(110)の移動速度Vを算出する、
移動速度計測装置。
【請求項2】
前記演算部(140)は、2つの引数を取るアークタンジェントであるatan2を用いて、θ=atan2(-α1,-α2)として前記回転角度θを算出する、
請求項1に記載の移動速度計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動速度計測装置に関し、特に、ローラの回転からローラの移動速度を計測する移動速度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のローラの回転に基づいて移動速度を計測する場合、計測対象のローラに小型の計測用車輪を押しつけ、計測用車輪の回転軸の回転をエンコーダにより計測する手法が存在している。
例えば、盛り土の締め固め施工に用いられる振動ローラを有する締固め機械の移動速度を計測する場合、振動ローラに押しつけた計測用車輪の回転軸の回転をエンコーダにより計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
計測用車輪は、強い力で振動ローラに対して押しつけられ、振動ローラに対して常時接触を保つことで、誤差のない正確な計測をするように構成されている。一方、計測用車輪を振動ローラに押しつける力が弱いと、振動ローラと計測用車輪との接触が一時的に離れ、計測に誤差を生じることになる。従って、計測用車輪を振動ローラに押しつける力を強くすると、誤差のない計測をすることができる反面、計測用車輪の耐久性を低下させる問題が発生する。
【0005】
特許文献1に記載の振動ローラを有する締固め機械の場合、振動ローラに設けられた突起を近接センサにより検出し、振動ローラの回転から移動速度を検出することが提案されている。
この場合、振動ローラの振動に起因して、近接センサと振動ローラに設けられた突起との距離が変化することがある。近接センサの検出能力以上に突起が離れてしまうと、振動ローラの回転数を正確に検出できない問題が発生する。
【0006】
以上の説明では振動ローラを具体例にしているが、振動ローラ以外の他のローラの回転を検出する場合であっても、例えば、走行面の凹凸などにより同様の問題が発生することがある。
従って、ローラの回転の計測を、耐久性を低下させず、高い精度で実行できることが望まれている。
本発明は、耐久性を低下させることなく高い精度でローラの回転からローラの移動速度を計測することが可能な移動速度計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る移動速度計測装置は、計測対象であるローラの回転部位に取り付けられ、直交する2軸の加速度を検出する加速度検出部と、加速度検出部の検出結果から移動速度を求める演算部とを備え、加速度検出部は、2軸にローラの半径方向と周方向とを割り当て、半径方向加速度と周方向加速度とを検出し、演算部は、半径方向加速度及び周方向加速度からローラの回転角度を算出し、回転角度を微分して角速度を算出し、ローラの直径と角速度とからローラの移動速度を算出する。
【0008】
(2)本発明に係る移動速度計測装置において、演算部は、2つの引数を取るアークタンジェントであるatan2を用いて、θ=atan2(-α1,-α2)として回転角度θを算出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の移動速度計測装置によれば、2軸の加速度検出部により検出したローラの半径方向加速度及び周方向加速度からローラの回転角度を算出することにより、耐久性を低下させることなく、高い精度でローラの回転から移動速度を計測することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る移動速度計測装置の構成を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る移動速度計測装置における加速度検出部の取り付け状態を示す説明図である。
【
図3】実施の形態1に係る移動速度計測装置におけるローラと加速度検出部の回転状態を示す説明図である。
【
図4】実施の形態1に係る移動速度計測装置においてローラの回転に伴う半径方向加速度及び周方向加速度の変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の移動速度計測装置の実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一符号を付している。
【0012】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1における移動速度計測装置100について、
図1及び
図2を参照して説明する。ここでは、移動速度計測装置100が振動ローラに適用された場合を具体例として説明する。
【0013】
図1は、実施の形態1に係る移動速度計測装置100の構成を示す構成図である。
図2は、実施の形態1に係る移動速度計測装置100における加速度検出部120の取り付け状態を示す説明図である。
【0014】
[移動速度計測装置100の構成]
移動速度計測装置100は、主に、加速度検出部120、受信部130、演算部140、記憶部145、制御部150、起振部160を備えている。移動速度計測装置100は、振動ローラを有する締固め機械等の車両に設けられている。
【0015】
加速度検出部120は、加速度センサ121及び送信部122を備えている。加速度センサ121は、直交する2軸の加速度を検出することが可能である。具体的には、加速度センサ121は、ローラ110の半径方向の加速度と、ローラ110の周方向の加速度とを検出する。ここで、ローラ110の軸心に沿う方向を軸方向とし、ローラ110の半径に沿う方向を半径方向とし、ローラ110の回転方向に沿う方向を周方向とする。送信部122は、加速度センサ121の検出結果を、ローラ110の近傍に設置された受信部130に向けて送信する。
【0016】
受信部130は、ローラ110を有する車両のいずれかの部位において、加速度検出部120の送信部122から送信された加速度センサ121の検出結果を受信し、ローラ110の半径方向の加速度と周方向の加速度とを抽出する。
送信部122と受信部130とは、各種の無線通信あるいは光通信により通信可能に構成されている。なお、送信部122と受信部130との接続は無線通信あるいは光通信等に限られず、スリップリング等を用いて有線により接続することも可能である。
【0017】
演算部140は、ローラ110の半径方向加速度及び周方向加速度から、ローラ110の回転角度θを算出する。記憶部145は、ローラ110の直径D等の各種パラメータを記憶している。演算部140は、回転角度θを微分して角速度ω=dθ/dtを算出し、記憶部145に記憶したローラの直径Dと、微分により算出した角速度ωとから、V=(Dπω)/360としてローラ110の移動速度Vを算出する。
【0018】
制御部150は、算出されたローラ110の移動速度に応じた振幅の振動を発生するための起振制御信号を起振部160に与える。
起振部160は、制御部150からの起振制御信号に基づいて、鉛直方向の振動を生成し、生成した振動をローラ110に与える。
【0019】
計測対象のローラ110は、
図2に示すように、回転軸111、ホイール部112、外輪部113を備えている。
回転軸111は、図示しないベアリング等を介して、回転自在に車両等に支持されている。ホイール部112は、回転軸111を中心とするように外輪部113を保持している。外輪部113は、振動ローラとして振動を路面に与えることが可能なように、滑らかな面を保ちつつ堅固に構成されている。
【0020】
ローラ110が自走式の締固め機械に設けられた振動ローラである場合、ローラ110には図示しない車両のエンジンからの回転力と、起振部160からの鉛直方向の振動とが、回転軸111を通して与えられる。
ローラ110が手押し式の締固め機械に設けられた振動ローラである場合、手押し部からの進行方向の押圧力と、起振部160からの鉛直方向の振動とが、回転軸111に与えられる。
【0021】
加速度検出部120は、取り付け部125を介してローラ110の外輪部113の内側面に取り付けられている。外輪部113が鉄等を含む磁性体である場合、取り付け部は磁石により構成される。また、取り付け部125は、接着剤、外輪部113の内側に設けられたホルダ等であってもよい。
加速度検出部120は、ローラ110の半径方向を第1検出軸A1として半径方向加速度α1を検出し、ローラ110の周方向を第2検出軸A2として周方向加速度α2を検出する。
【0022】
[ローラの回転と加速度検出の関係]
ローラ110の回転に伴う加速度検出部120の加速度検出の様子を
図3により説明する。
図3は、実施の形態1に係る移動速度計測装置100におけるローラ110と加速度検出部120の回転状態を示す説明図である。
【0023】
図3の(a)~(e)は、反時計回りに回転するローラ110の90°毎の回転に伴う加速度検出部120の向き及び状態を示している。なお、ローラ110は、ほぼ一定の回転角度θで回転していると仮定する。
【0024】
図3の(a)において、加速度検出部120は、半径方向の第1検出軸A1で、半径方向加速度α1として重力加速度1Gを検出する。加速度検出部120は、周方向の第2検出軸A2で、周方向加速度α2=0を検出する。
【0025】
図3の(b)において、加速度検出部120は、半径方向の第1検出軸A1で、半径方向加速度α1=0を検出する。加速度検出部120は、周方向の第2検出軸A2で、重力加速度1Gを検出する。
【0026】
図3の(c)において、加速度検出部120は、半径方向の第1検出軸A1で、半径方向加速度α1として重力加速度-1Gを検出する。加速度検出部120は、周方向の第2検出軸A2で、周方向加速度α2=0を検出する。
【0027】
図3の(d)において、加速度検出部120は、半径方向の第1検出軸A1で、半径方向加速度α1=0を検出する。加速度検出部120は、周方向の第2検出軸A2で、重力加速度-1Gを検出する。
【0028】
図3の(e)において、加速度検出部120は、半径方向の第1検出軸A1で、半径方向加速度α1として重力加速度1Gを検出する。加速度検出部120は、周方向の第2検出軸A2で、周方向加速度α2=0を検出する。
【0029】
[検出した加速度と回転角度との関係]
加速度検出部120により検出される半径方向加速度α1と周方向加速度α2=0とローラ110の回転の関係をグラフに示すと
図4のようになる。
図4は、実施の形態1に係る移動速度計測装置100においてローラ110の回転に伴う半径方向加速度α1及び周方向加速度α2の変化を示す説明図である。
【0030】
図3では、90°毎の(a)~(e)の状態のみを示したが、半径方向加速度α1及び周方向加速度α2を回転角度θ毎に細かく検出すると、
図4のような波形を得ることができる。
図4において、半径方向加速度α1はcosθの波形を示しており、周方向加速度α2はsinθの波形を示している。
【0031】
なお、起振部160からローラ110に加わる鉛直方向の振動により、
図4の波形に細かな凹凸を生じることがある。このような細かな凹凸は、ローパスフィルタ等により波形整形することで除去される。従って、演算部140は、半径方向加速度α1と周方向加速度α2との比により、ローラ110の回転角度θを算出することができる。
すなわち、演算部140は、半径方向加速度α1と周方向加速度α2との2つの引数を取るアークタンジェントであるatan2を用いて、θ=atan2(-α1,-α2)として回転角度θを算出することができる。
【0032】
従来技術として説明した計測用車輪をローラに押しつける場合と比較して、実施の形態1では加速度検出部120をローラ110に固定しており、機械的可動部を用いる必要がないため、耐久性を低下させず、高い精度でローラ110の回転を計測することができる。
特許文献1に開示されたローラの突起を近接センサで検出する場合と比較して、実施の形態1ではローラ110に固定された加速度検出部120により加速度を計測するため、対象との距離の変化に影響されることがないため、耐久性を低下させず、高い精度でローラ110の回転を計測することができる。
【0033】
[その他の実施の形態]
実施の形態1において移動速度計測装置100が振動ローラを有する締固め機械に適用された場合を具体例として説明しているが、移動速度計測装置100により振動ローラ以外の他のローラの回転を検出することも可能である。
例えば、締固め機械以外の各種の建設機械の移動速度を計測する用途、管路内の距離を計測するローラ距離計などの用途に、実施の形態1の移動速度計測装置100を適用することができる。
【0034】
[実施の形態により得られる効果]
以上説明したように、本発明の実施の形態1の移動速度計測装置100によると、以下のような効果を得ることができる。
【0035】
実施の形態1の移動速度計測装置100は、計測対象であるローラ110の回転部位に取り付けられて直交する2軸の加速度を検出する加速度検出部120と、加速度検出部120の検出結果から移動速度Vを求める演算部140とを備え、加速度検出部120は、2軸にローラの半径方向と周方向とを割り当て、半径方向加速度α1と周方向加速度α2とを検出し、演算部140は、半径方向加速度α1及び周方向加速度α2からローラ110の回転角度θを算出し、回転角度θを微分して角速度ωを算出し、ローラ110の直径Dと角速度ωとからV=(Dπω)/360としてローラ110の移動速度Vを算出する。
【0036】
この移動速度計測装置100によれば、直交する2軸の加速度を検出する加速度検出部120により検出したローラの半径方向加速度α1及び周方向加速度α2からローラの回転角度θを算出することにより、機械的可動部や距離に影響される近接センサ等を用いる必要がなく、耐久性を低下させることなく、高い精度でローラの回転から移動速度Vを計測することが可能になる。
【0037】
実施の形態1の移動速度計測装置100において、演算部140は、半径方向加速度をα1、周方向加速度をα2、回転角度をθとした場合、2つの引数を取るアークタンジェントであるatan2を用いて、θ=atan2(-α1,-α2)として回転角度θを算出することにより、高い精度で回転角度θを求めることができ、高い精度でローラの回転から移動速度Vを迅速に計測することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の移動速度計測装置100は、振動ローラを有する締固め機械等の各種建設機械の移動速度の計測、管路内の距離を計測するローラ距離計などで、機械的可動部や近接センサ等を用いる必要がなく、耐久性を低下させることなく、高い精度でローラの回転から移動速度Vを計測するものであり、高信頼性を要求される用途に適している。
【符号の説明】
【0039】
100 移動速度計測装置、110 ローラ、111 回転軸、112 ホイール部、113 外輪部、120 加速度検出部、121 加速度センサ、122 送信部、125 取り付け部、130 受信部、140 演算部、145 記憶部、150 制御部、160 起振部、A1 半径方向の第1検出軸、A2 周方向の第2検出軸。