(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111133
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】燃料電池システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20230803BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20230803BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20230803BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20230803BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/249
H01M8/0432
H01M8/04313
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012814
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戎崎 英世
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA21
5H127AB02
5H127AB04
5H127BA02
5H127BB02
5H127CC07
5H127DB47
5H127DB74
5H127DC42
5H127DC44
(57)【要約】
【課題】複数の燃料電池モジュール間の温度ばらつきを抑制することができる燃料電池システムおよび制御方法を提供する。
【解決手段】燃料電池システムは、複数の燃料電池モジュールと、前記燃料電池モジュールの各々の温度を計測可能に設けられた温度センサと、前記燃料電池モジュールの各々からの出力電流を個別に制御可能な出力電流制御回路と、前記温度センサを通じて取得した温度情報に基づいて前記出力電流制御回路を制御する制御装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池モジュールと、
前記燃料電池モジュールの各々の温度を計測可能に設けられた温度センサと、
前記燃料電池モジュールの各々からの出力電流を個別に制御可能な出力電流制御回路と、
前記温度センサを通じて取得した温度情報に基づいて前記出力電流制御回路を制御する制御装置と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御装置は、相対的に前記温度が高い前記燃料電池モジュールからの出力電流を小さくするとともに、相対的に前記温度が低い前記燃料電池モジュールからの出力電流を大きくする、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記温度情報は、各前記燃料電池モジュールの冷媒の入口温度と出口温度の温度差である
請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記複数の燃料電池モジュールからの総出力電流と、前記燃料電池モジュール毎の前記出力電流と前記温度情報との対応関係とに基づき、各前記燃料電池モジュールからの出力電流の前記総出力電流に対する分配比を算出し、算出した分配比となるように前記燃料電池モジュールの各々からの出力電流を個別に制御する
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記対応関係は、前記燃料電池モジュールの動作実績に基づき適宜更新される
請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
2以上の前記燃料電池モジュールの冷媒が同一の冷却器で冷却されたものである
請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
複数の燃料電池モジュールと、
前記燃料電池モジュールの各々の温度を計測可能に設けられた温度センサと、
前記燃料電池モジュールの各々からの出力電流を個別に制御可能な出力電流制御回路と、
前記出力電流制御回路を制御する制御装置と、
を備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記制御装置は、前記温度センサを通じて取得した温度情報に基づいて前記出力電流制御回路を制御する
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池の各セルを、第1発電部と、第1発電部を囲む第2発電部とから構成し、第1発電部の電流密度が第2発電部の電流密度より小さくなるようにした燃料電池システムが記載されている。特許文献1に記載されている燃料電池システムによれば、各セルにおいて、放熱性が外周側と比較して低いセルの中央側での発熱を抑制することができる。したがって、この燃料電池システムによれば、セル内の温度分布を均一化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池は、燃料電池セルを複数重ねることで構成された燃料電池スタックを単位として運用される。なお、本開示では、燃料電池スタックと燃料電池スタックの動作に係る他の構成とをまとめて備える構成と、燃料電池スタックとを総称して燃料電池モジュールという。特許文献1に記載されている構成によれば、各燃料電池モジュールが備える各燃料電池セル内での温度分布の均一化を図ることができる。しかしながら、複数の燃料電池モジュールを用いて燃料電池システムを構成する場合、燃料電池モジュール間の温度ばらつきを小さく抑制するという要求に対しては応えていないという課題がある。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数の燃料電池モジュール間の温度ばらつきを抑制することができる燃料電池システムおよび制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、複数の燃料電池モジュールと、前記燃料電池モジュールの各々の温度を計測可能に設けられた温度センサと、前記燃料電池モジュールの各々からの出力電流を個別に制御可能な出力電流制御回路と、前記温度センサを通じて取得した温度情報に基づいて前記出力電流制御回路を制御する制御装置と、を備える燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0007】
本開示燃料電池システムおよび制御方法によれば、複数の燃料電池モジュール間の温度ばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係る燃料電池システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る制御装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る制御装置の動作例を説明するための模式図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る制御装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の第2実施形態に係る制御装置の機能的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0010】
(第1実施形態)
以下、
図1~
図4を参照して、本開示の第1実施形態について説明する。
図1は、本開示の実施形態に係る燃料電池システムの構成例を示すブロック図である。
図2は、本開示の第1実施形態に係る制御装置の機能的構成を示すブロック図である。
図3は、本開示の実施形態に係る制御装置の動作例を説明するための模式図である。
図4は、本開示の実施形態に係る制御装置の動作例を示すフローチャートである。
【0011】
(燃料電池システム)
図1に示す燃料電池システム100は、n個のFC(Fuel Cell;燃料電池)モジュール(1)1-1、FCモジュール(2)1-2、…、FCモジュール(n)1-nと、n個のDC(直流)DCコンバータ(1)2-1、DCDCコンバータ(2)2-2、…、DCDCコンバータ(n)2-nと、マスターコントローラ3と、冷却システム4とを備える。ここで、nは2以上の整数である。なお、以下では、FCモジュール(1)1-1、FCモジュール(2)1-2、…、FCモジュール(n)1-nを総称する場合、FCモジュール1という。また、DCDCコンバータ(1)2-1、DCDCコンバータ(2)2-2、…、DCDCコンバータ(n)2-nを総称する場合、DCDCコンバータ2という。
【0012】
図1に示す燃料電池システム100は、例えば、作業機械、バス、鉄道等の車両や、船舶等の乗り物、家庭用、業務用、工業用等の発電システム等に利用される。以下では、図示していない燃料電池システム100に接続される他の装置等について具体例を出す場合、燃料電池システム100がダンプトラックに搭載されていることを前提とする。
【0013】
(FCモジュール)
FCモジュール1は、FCスタック10をそれぞれ備える。ただし、
図1ではFCモジュール(n)1-nのFCスタック10のみ示している。FCスタック10は、複数のFCセルを重ねることで構成される。FCスタック10は、図示していない水素の供給機構、空気(酸素)の供給機構および排出機構等に接続されていて、水素と空気中の酸素の反応によって発電する。FCモジュール(1)1-1、FCモジュール(2)1-2、…、FCモジュール(n)1-nは、発電した直流電力を、ケーブル5-1、5-2、…、5-nを介して、DCDCコンバータ(1)2-1、DCDCコンバータ(2)2-2、…、DCDCコンバータ(n)2-nへ出力する。また、FCスタック10は、冷却システム4によって供給される冷媒(以下、冷却水とする)によって冷却される。各FCモジュール1は、また、温度センサ11と、制御装置12と、温度センサ13とを備える。温度センサ11は、各FCモジュール1へ供給される冷却水の入口温度を計測する。温度センサ13は、各FCモジュール1へ供給される冷却水の出口温度を計測する。制御装置12は、温度センサ11が計測した冷却水の入口温度と温度センサ13が計測した冷却水の出口温度とを取得する。また、制御装置12は、冷却水の入口温度と出口温度の温度差である冷却水入出温度差ΔTを算出する。また、制御装置12は、算出した冷却水入出温度差ΔTを示すデータである温度情報を、通信線62を介してマスターコントローラ3へ出力する。冷却水入出温度差ΔTは、各FCスタック10の発熱量と冷却水の流量と応じた値になる。発熱量が大きいほど冷却水入出温度差ΔTは大きくなる。また、流量が小さいほど冷却水入出温度差ΔTは大きくなる。
【0014】
なお、温度センサ11と温度センサ13は、FCモジュール1外に設けられていてもよい。また、温度センサ11は、複数のFCモジュール1に1個あるいはFCモジュール1の数より小さい数だけ設けられていてもよい。また、各温度センサ11および各温度センサ13は、本開示に係る燃料電池モジュール1の各々の温度を計測可能に設けられた温度センサの一例である。
【0015】
なお、
図1では、FCモジュール(1)1-1で計測された冷却水入出温度差ΔTをT1、FCモジュール(2)1-2で計測された冷却水入出温度差ΔTをT2、また、FCモジュール(n)1-nで計測された冷却水入出温度差ΔTをTnとして表している。また、FCモジュール(1)1-1の出力電流をI1、FCモジュール(2)1-2の出力電流をI2、また、FCモジュール(n)1-nの出力電流をInとして表している。
【0016】
(DCDCコンバータ)
DCDCコンバータ2は、マスターコントローラ3から通信線61を介して送られてくる出力指令に基づいて、FCモジュール1から入力した直流電力を入力として、DCDCコンバータ2の出力電圧や出力電流を所定の値に制御して図示していない負荷へ出力する。出力指令は、例えば、FCモジュール1の出力電流の指令値を示す出力電流指令やFCモジュール1の出力電力の指令値を示す出力電力指令を含む。また、出力指令は、DCDCコンバータ2の出力電流の指令値とDCDCコンバータ2の出力電圧の指令値を示す指令を含む。なお、図示していない負荷は、例えば、蓄電池、インバータ、インバータに接続されたモータ等である。DCDCコンバータ2は、出力指令に含まれる出力電流指令に基づいてFCモジュール1の出力電流をFCモジュール1毎に制御する。あるいは、DCDCコンバータ2は、出力指令に含まれる出力電力指令に基づいてFCモジュール1の出力電力をFCモジュール1毎に制御する。なお、複数のDCDCコンバータ2は、一体として構成されてもよい。また、複数のDCDCコンバータ2は、本開示に係る燃料電池モジュール1の各々からの出力電流を個別に制御可能な出力電流制御回路の一例である。
【0017】
なお、複数のDCDCコンバータ2の出力は、並列に接続されていてもよいし、直列に接続されていてもよいし、あるいは、並列および直列に接続されていてもよい。例えば、各DCDCコンバータ2の出力を並列接続する場合、各DCDCコンバータ2はDCDCコンバータ2の出力電圧を同一とし、DCDCコンバータ2の出力電流を調節することで、各FCモジュール1からの出力電流(あるいは出力電力)を調節する。例えば、各DCDCコンバータ2の出力を直列接続する場合、各DCDCコンバータ2はDCDCコンバータ2の出力電流を同一とし、DCDCコンバータ2の出力電圧を調節することで、各FCモジュール1からの出力電流(あるいは出力電力)を調節する。
【0018】
(冷却システム)
冷却システム4は、ラジエタ(冷却器)41と、管42、43および44と、ポンプ45とを備える。ラジエタ41で冷却された冷却水は、管42、ポンプ45および管43を介して、各FCモジュール1へ供給される。この場合、管43の各分岐点46から各FCモジュール1へ冷却水が供給される。また、各FCモジュール1から吐出された冷却水は管44を介してラジエタ41へ戻される。
図4に示す冷却システム4は、各FCモジュール1に対して、1組のラジエタ41とポンプ45を共用している。
【0019】
複数のFCモジュールを冷却するシステムとしては、例えば、本実施形態のように1組のラジエタ41とポンプ45を各FCモジュール1で共用する場合(集中冷却方式とする)と、FCモジュール毎に1組のラジエタとポンプを個別に設ける場合(個別冷却方式とする)が考えられる。例えば2個程度の複数の燃料電池モジュールを組みで使用する場合であれば、個別冷却方式を採用することもできると考えられる。しかし車両などで効率的なラジエタ搭載箇所が車両前方などに限られる場合、個別冷却方式では冷却水ラインが煩雑になるとともに限られた車載スペースを圧迫することが課題となる。一方、例えば3個以上の燃料電池モジュールを組みで使用する場合、冷却水ラインを共通化し、例えば集中冷却方式のように冷却水を供給するためのポンプや排熱のためのラジエタを全体で1個ずつ設ける方式が有利になる場合があると考えられる。集中冷却方式では、冷却水ラインがコンパクトになるとともに、部品点数が削減されシステムが簡素化できる。
【0020】
しかしながら、集中冷却方式の場合、各燃料電池モジュールまでの配管長さや分岐の個数により冷却水量の分配ばらつきが生じる。このため冷却水流量が相対的に減少する燃料電池モジュールでは温度が上がることになる。全体システムとしてはその燃料電池モジュールの温度を適正に保つために冷却水ポンプやラジエタファンが制御される。ただしこの制御では全体システムとしての総出力は、冷却水流量が相対的に減少した燃料電池モジュールに律速され、全体の出力が低下する。またこの制御で各燃料電池モジュール間の温度ばらつきが緩和されることはない。そのため燃料電池モジュール毎の劣化速度のばらつきが抑制できず全体の寿命が短くなる。なお、燃料電池モジュールの劣化の要因として温度の影響は大きく高温下で作動した場合劣化が進むことが一般的に知られている。
【0021】
また、複数の燃料電池モジュールで性能がばらついた場合についても以下のように同様となる。性能低下は発熱量増加につながるため、性能低下した燃料電池モジュールの温度を適正に保つように冷却水ポンプやラジエタファンが制御されることとなる。この場合も全体システムとしての総出力は性能低下が相対的に大きい燃料電池モジュールに律速され、全体の出力が低下する。またこの制御で各燃料電池モジュール間の温度ばらつきが緩和されることはない。そのため燃料電池モジュール毎の劣化速度のばらつきが抑制できず全体の寿命が短くなる。
【0022】
そこで、本実施形態では、マスターコントローラ3が、温度センサ11および13を通じて取得した温度情報に基づいて各DCDCコンバータ2を制御することで、各燃料電池モジュール1間の温度ばらつきを抑制する。なお、マスターコントローラ3は、本開示に係る出力電流制御回路を制御する制御装置の一例である。
【0023】
(マスターコントローラ)
図2は、マスターコントローラ3(制御装置)の機能的構成を示すブロック図である。マスターコントローラ3は、例えばマイクロコンピュータ等のコンピュータと、そのコンピュータの周辺回路や周辺装置とを用いて構成することができる。そして、マスターコントローラ3は、そのコンピュータ等のハードウェアと、そのコンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、
図2に示す温度情報取得部31と、出力分配比算出部32と、出力指令決定部33とを備える。なお、コンピュータは、PLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて構成されていてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてもよい。
【0024】
温度情報取得部31は、各FCモジュール1から冷却水入出温度差ΔTを示すデータである温度情報を取得する。
【0025】
出力分配比算出部32は、温度情報に基づいて、各FCモジュール1からの出力電流の合計値である総出力電流に対する各FCモジュール1からの出力電流の割合である出力分配比を算出する。出力分配比は、FCモジュール1毎に設定される値であり、総出力電流に対する割合を示す。FCモジュール1毎の各出力分配比の値は、例えば各出力分配比の合計値を1として、0から1までの値をとる。出力分配比算出部32は、相対的に温度が高い燃料電池モジュール1からの出力電流を小さくするとともに、相対的に温度が低い燃料電池モジュール1からの出力電流を大きくするように、各出力分配比を算出する。なお、総出力電流は、例えば、負荷となるモータの駆動力の要求値等に応じて決定することができる。なお、出力分配比は、本開示に係る分配比に対応する。
【0026】
ここで、
図3を参照して、出力分配比算出部32による出力分配比の算出手法の例について説明する。
図3は、横軸に各FCモジュール1の出力電流、縦軸に各FCモジュール1の冷却水入出温度差ΔTをとり、FCモジュール(1)およびFCモジュール(n)における出力電流と冷却水入出温度差ΔTとの対応関係の例を示す。
図3に示す例では、出力電流がI12である場合、FCモジュール(n)では冷却水入出温度差ΔTはΔT13となり、FCモジュール(1)では冷却水入出温度差ΔTはΔT11となる。また、出力電流がI11である場合、FCモジュール(n)では冷却水入出温度差ΔTはΔT12となる。また、出力電流がI13である場合、FCモジュール(1)では冷却水入出温度差ΔTはΔT12となる。なお、I11<I12<I13であり、また、ΔT11<ΔT12<ΔT13である。
【0027】
一例として車両が必要とする電力を複数の燃料電池モジュール1から並列接続した複数のDCDCコンバータ2を介して供給する場合を考える。最も簡便な方法は、車両の必要電力を燃料電池モジュール1の個数nで割り、マスターコントローラ3が個々の燃料電池モジュール1に均等な電力を要求することである。しかし、複数の燃料電池モジュール1を並列接続し集中管理した冷却システムにおいて、冷却水の分配ばらつきや燃料電池モジュール1の性能ばらつきによって、燃料電池モジュール1毎に発熱量が異なる状況が想定される。この場合、均等な電力(電流I12)を要求した場合、
図3中で一点鎖線で囲んで示すように発熱量の違いから冷却水入出温度差ΔTが異なる状況が生まれる。具体的には発熱量が多い燃料電池モジュール1では冷却水入出温度ΔTが高くなる。前述のようにこの状態を継続すると高温状態の燃料電池モジュール1の劣化が進行し寿命が短くなる。そこで複数の燃料電池モジュール1の冷却水入出温度差ΔTを均等化するように個々の燃料電池モジュール1に対する要求電力を変更する。電力制御はDCDCコンバータ2の出力制御によって行われる。具体的には、
図3中二点鎖線で囲んで示したように、冷却水入出温度差ΔTが相対的に低い燃料電池モジュールは要求出力(要求電流)を増加させる(矢印A2)。一方、冷却水入出温度差ΔTが相対的に高い燃料電池モジュールは要求電力(要求電流)を減少させる(矢印A1)。ただしこの際、複数の燃料電池モジュール1の出力の総和は車両要求を満たしていることがもう一つの制約条件となり、各燃料電池モジュール1の要求電流変動代が決定される。
【0028】
なお
図3に示す燃料電池モジュール1の出力電流と冷却水入出温度差ΔTとの対応関係は、例えば、各FCモジュール1と冷却システム4の配置や配管、発電量や周囲温度、実験結果等に応じて等価モデルを構築する等して算出してもよい。あるいは、出力電流と冷却水入出温度差ΔTとの対応関係は、実際の車両での燃料電池モジュール1の動作実績に基づき適宜取得したり、更新したりするようにしてもよい。例えば、出力電流と冷却水入出温度差ΔTの所定時間の平均値に基づいて出力電流と冷却水入出温度差ΔTを取得することができる。なお、動作実績は、例えば、起動時や停止時を除き、通常走行している状態でのみ取得するようにしてもよい。
【0029】
この場合、出力分配比算出部32は、
図3に示すような燃料電池モジュール1毎の出力電流と冷却水入出温度差ΔTとの対応関係を参照し、出力分配比を算出する。
【0030】
あるいは、出力分配比算出部32は、次のようにして出力分配比を算出してもよい。すなわち、出力分配比算出部32は、まず、FCモジュール(1)、(2)、…、(n)の冷却水入出温度差ΔT=T1、T2、…、Tnの例えば平均値、中央値等を基準値として算出する。次に、出力分配比算出部32は、冷却水入出温度差ΔTが基準値より大きいFCモジュール1の出力分配比を小さくし、冷却水入出温度差ΔTが基準値より小さいFCモジュール1の出力分配比を大きくする。所定時間経過後、出力分配比算出部32は、再度、同様にして出力分配比を変更する。この場合、各FCモジュール1の冷却水入出温度差ΔTの基準値からの差分が小さくなるように、出力分配比が調節されることになる。
【0031】
また、出力指令決定部33は、総出力電流と、出力分配比算出部32が算出した出力分配比とに基づいて各FCモジュール1の出力を決定し、各DCDCコンバータ2に対して出力指令を送信する。
【0032】
次に、
図4を参照して、マスターコントローラ3による出力指令の決定処理について説明する。
図4に示す処理は、例えば所定の周期で繰り返し実行される。
図4に示す処理が開始されると、まず、温度情報取得部31が、各FCモジュール1から温度情報を取得する(ステップS1)。次に、出力分配比算出部32が、温度情報に基づいて出力分配比を算出する(ステップS2)。次に、出力指令決定部33が、総出力電流と出力分配比とに基づいて各FCモジュール1の出力を決定し、各DCDCコンバータ2に対して出力指令を送信する(ステップS3)。
【0033】
(作用・効果)
以上のように、本実施形態では、マスターコントローラ3(制御装置)が、燃料電池モジュール1の各々の温度を計測可能に設けられた温度センサ11および13を通じて取得した温度情報に基づいて、燃料電池モジュール1の各々からの出力電流を個別に制御可能なDCDCコンバータ2(出力電流制御回路)を制御する。この構成によれば、複数の燃料電池モジュール1間の温度ばらつきを抑制することができる。よって、本実施形態によれば、複数の燃料電池モジュール1からなる燃料電池システム100の発電能力を有効に利用することができる。また、本実施形態によれば、複数の燃料電池モジュール1の劣化を均等化しシステム寿命を長くすることができる。
【0034】
(変形例)
図1に示す燃料電池システム100では、例えば、DCDCコンバータ2をFCモジュール1と一体として構成したり、複数のFCモジュール1の1つにマスターコントローラ3を含めたりすることができる。温度センサは、冷却水の温度に代えてあるいは加えて、例えばFCスタック10の1箇所あるいは複数個所の温度を計測する温度センサとしてもよい。この場合、温度情報は、温度そのものとなる。
【0035】
(第2実施形態)
図5を参照して本開示の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態と比較して、
図1に示すマスターコントローラ3に対応する
図5に示すマスターコントローラ3aの構成が一部異なる。
図5に示すマスターコントローラ3aは、
図2に示すマスターコントローラ3と比較して対応関係更新部34と、対応関係実績36と対応関係テーブル37とを記憶する記憶部35とを追加の構成として備えている。本実施形態において対応関係は
図3を参照して説明した出力電流と冷却水入出温度差ΔTとの対応関係である。対応関係実績36は、車両の起動停止を1回とした場合に例えば3回分の動作実績を含む。対応関係テーブル37は、対応関係実績36に基づいて作成あるいは更新された出力電流と冷却水入出温度差ΔTと対応関係をFCモジュール1毎に表すテーブルである。
【0036】
対応関係更新部34は、例えば、車両の実際の走行時に、各FCモジュール1の出力電流(指令値)の所定時間の平均値と冷却水入出温度差ΔTの所定時間の平均値を取得して、対応関係実績36として記憶部35に記憶する。また、対応関係更新部34は、対応関係実績36に基づいて、対応関係テーブル37を作成および更新する。
【0037】
また、出力分配比算出部32は、対応関係テーブル37を参照して出力分配比を算出する。
【0038】
本実施形態によれば、要求電力に対する各FCモジュール1での出力配分を、対応関係テーブル37に基づいて迅速に決定することができる。また、経年的に変化する燃料電池の特性にも対応することが可能となる。
【0039】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上記実施形態でコンピュータが実行するプログラムの一部または全部は、コンピュータ読取可能な記録媒体や通信回線を介して頒布することができる。
【符号の説明】
【0040】
100…燃料電池システム、1、1-1、1-2、1-n…FCモジュール、2、2-1、2-2、2-n…DCDCコンバータ、3…マスターコントローラ、41…ラジエタ、42…ポンプ