(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111211
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
E04G23/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012955
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】坪田 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】金升 将征
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章仁
(72)【発明者】
【氏名】西垣 亮
(72)【発明者】
【氏名】井上 智晃
(72)【発明者】
【氏名】河野 亮
(72)【発明者】
【氏名】奥田 剛久
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA11
2E176DD61
2E176DD64
(57)【要約】
【課題】構造物の傾倒速度及び傾倒方向の少なくとも一方を制御することができる構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体を提供する。
【解決手段】地盤401から上方に向かって延在する着床式の構造物200を傾倒させる構造物の傾倒方法であって、構造物200を取り囲む水や空気から流体力を受ける抵抗部材110を構造物200に取り付ける設置工程と、抵抗部材110が取り付けられた構造物200を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤から上方に向かって延在する着床式の構造物を傾倒させる構造物の傾倒方法であって、
前記構造物を取り囲む流体から流体力を受ける抵抗部材を前記構造物に取り付ける設置工程と、
前記抵抗部材が取り付けられた前記構造物を傾倒させる傾倒工程と、
を含んでいる構造物の傾倒方法。
【請求項2】
前記構造物は、水底から延在する水上構造物とされ、
前記抵抗部材は、水中及び/又は空中に位置する請求項1に記載の構造物の傾倒方法。
【請求項3】
水底から上方に向かって延在する着床式の構造物を傾倒する構造物の傾倒方法であって、
水から浮力を受ける浮き部材を前記構造物に取り付ける設置工程と、
前記浮き部材が取り付けられた前記構造物を傾倒させる傾倒工程と、
を含んでいる構造物の傾倒方法。
【請求項4】
前記傾倒工程では、前記構造物の上部を牽引することで前記構造物を傾倒させる請求項1から3のいずれかに記載の構造物の傾倒方法。
【請求項5】
前記構造物は、互いに離間して設置された第1構造物及び第2構造物を有し、
前記傾倒工程の前に、前記第1構造物と前記第2構造物とを接続する接続工程を含み、
前記傾倒工程では、前記第1構造物を傾倒させることで連鎖的に前記第2構造物を傾倒させる請求項1から4のいずれかに記載の構造物の傾倒方法。
【請求項6】
水底から上方に向かって延在する着床式の構造物を傾倒する構造物の傾倒方法であって、
前記構造物を牽引する牽引部材を前記構造物の上部に取り付ける設置工程と、
前記牽引部材が取り付けられた前記構造物を牽引することで前記構造物を傾倒させる傾倒工程と、
を含んでいる構造物の傾倒方法。
【請求項7】
前記傾倒工程の前に、地側の前記構造物の部分とその上部の前記構造物の部分とに分離した切断部を形成する切断工程を含んでいる請求項1から6のいずれかに記載の構造物の傾倒方法。
【請求項8】
前記傾倒工程の前に、地側の前記構造物の部分とその上部の前記構造物の部分とに分離した切断部を部分的に形成する切断工程を含んでいる請求項1から6のいずれかに記載の構造物の傾倒方法。
【請求項9】
地盤から上方に向かって延在する着床式の構造物と、
該構造物に取り付けられ、前記構造物を取り囲む流体から流体力を受ける抵抗部材と、
を備えている傾倒用構造体。
【請求項10】
水底から上方に向かって延在する着床式の構造物と、
該構造物に取り付けられ、水から浮力を受ける浮き部材と、
を備えている傾倒用構造体。
【請求項11】
地盤から上方に向かって延在する着床式の構造物と、
前記構造物の上部に取り付けられ、前記構造物を牽引する牽引部材と、
を備えている傾倒用構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばタワー型構造物のように鉛直方向に延びる陸上の構造物を解体する場合、高所作業を極力避けた安価な解体方法としては、構造物の根元を切断して倒してから解体する方法が考えられる(例えば特許文献1)。構造物の切断は、例えば爆破やその他の機械的切断を用いて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような解体方法を着床型の水上構造物に適用した場合、(1)構造物が倒れる際に水面に波が立ち周辺にいる船舶等に危険が及ぶ可能性があり、(2)構造物が倒れる際及び構造物が倒れた後に構造物に付着した汚染物質(構造物の破片、粉塵、オイル等)や構造物に含まれる汚染物質が水中に飛散、流出して汚染の原因となる可能性があり、また、(3)倒れた構造物が水中に沈んでしまい構造物を回収できない可能性がある。
【0005】
また、水上構造物に限らず、タワー型の構造物を解体する際に構造物を安全に傾倒させるためには、構造物の傾倒速度及び傾倒方向の少なくとも一方を制御することが好ましい。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、構造物の傾倒速度及び傾倒方向の少なくとも一方を制御することができる構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体は以下の手段を採用する。
すなわち、本開示の一態様に係る構造物の傾倒方法は、地盤から上方に向かって延在する着床式の構造物を傾倒させる構造物の傾倒方法であって、前記構造物を取り囲む流体から流体力を受ける抵抗部材を前記構造物に取り付ける設置工程と、前記抵抗部材が取り付けられた前記構造物を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいる。
【0008】
また、本開示の一態様に係る傾倒用構造体は、地盤から上方に向かって延在する着床式の構造物と、該構造物に取り付けられ、前記構造物を取り囲む流体から流体力を受ける抵抗部材と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、構造物の傾倒速度及び傾倒方向の少なくとも一方を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】水上構造物の撤去前及び撤去後を示した図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係る傾倒用構造体の側面図である。
【
図4】本開示の第1実施形態に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図5】本開示の第1実施形態に係る傾倒用構造体の側面図である。
【
図6】本開示の第1実施形態の他の実施例に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図7】本開示の第1実施形態の他の実施例に係る傾倒用構造体の側面図である。
【
図12】本開示の第1実施形態の変形例に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図13】本開示の第2実施形態に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図14】本開示の第2実施形態に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図15】本開示の第3実施形態に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図16】本開示の第3実施形態に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図17】本開示の第3実施形態に係る傾倒用構造体の正面図である。
【
図18】本開示の第3実施形態の変形例に係る傾倒用構造体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、本開示の各実施形態に係る傾倒方法及び傾倒用構造体は、構造物200を解体する際に用いられる方法及び構造体である。
なお、ここでいう「解体」とは、構造物200自体を分解する作業を意味するのではなく、構造物200を地盤401から切り離して、据え付けられた場所から移動させることができる状態にするまでの作業を意味する。
また、「地盤401」とは、陸地のみならず海底や湖底等の水底を含む用語である。以下の各実施形態において、地盤401の種類について特に言及していない場合、地盤401は陸地及び水底を含むものとする。
【0012】
構造物200は、地盤401に据え付けられている状態において、地盤401から鉛直方向上方に向かって延在している(すなわち、鉛直方向に長手方向を有している)着床式の構造物である。
構造物200としては、気象観測タワー、海洋施設の脚構造、灯台、送電線塔、発電用の風車等が例示される。
【0013】
構造物200は、基礎210及び構造物本体220を有している。
なお、構造物200において、基礎210と構造物本体220との境界が明確に区別されている必要はない。
【0014】
基礎210は、鉛直方向に延在するとともに、下部が地盤401に打ち込まれている。
基礎210は、図示されたモノパイル式の他に、ジャケット式、トリポット式、トリパイル式等が採用されていてもよく、着床式のものであれば構造の具体的な形態は限定されない。
【0015】
構造物本体220は、鉛直方向において基礎210の上部に設けられる。
地盤401が水底の場合、すなわち構造物200が水上構造物の場合、構造物本体220は、上端を含む部分が水面403に現れている。
構造物本体220は、構造物200としての実質的な機能を発揮する部分である。構造物本体220はその機能を発揮するために必要な機器を含んでいるので、構造物本体220の重量は基礎210の重量よりも重い場合が多い。
【0016】
以下、構造物200の傾倒方法及び傾倒用構造体について、複数の実施形態を例にして具体的に説明する。
【0017】
[第1実施形態]
本開示の第1実施形態に係る構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体について、
図2から
図12を参照して説明する。
【0018】
本実施形態の構造物の傾倒方法では、構造物200に抵抗部材110が取り付けられて構成された傾倒用構造体310を傾倒させることで構造物200を傾倒させることとしている。
【0019】
図2及び
図3、
図4及び
図5並びに
図6及び
図7に示すように、傾倒用構造体310は、構造物200及び抵抗部材110を備えている。
【0020】
構造物200は、例えば水底から立設する水上構造物とされており、基礎210及び構造物本体220の下部が水中402に存在している。また、構造物本体220の上部が空中404に存在している。
なお、例えば、構造物200が陸地から立設する陸上構造物の場合、基礎210及び構造物本体220の全部が空中404に存在することになる。
【0021】
抵抗部材110は、構造物200(例えば構造物本体220の側面)に取り付けられた部材であって、構造物200を取り囲む流体から抵抗としての流体力を受ける部材である。
構造物200を取り囲む流体とは、構造物200が水上構造物の場合、水中402の水(
図2及び
図3参照)若しくは空中404の空気(
図4及び
図5参照)又は水及び空気の両方である。また、構造物200を取り囲む流体とは、構造物200が陸上構造物の場合、空中404の空気である。
【0022】
抵抗部材110は、軽量でありながら流体から抵抗を受ける部分の面積が大きいものや効率的に流体から抵抗を受けられるものが好ましく、例えば帆、板、羽根車等が例示される。
【0023】
[抵抗部材が帆の場合の例]
以下、抵抗部材110が帆とされた場合の具体例の構造について説明する。
図2及び
図3並びに
図4及び
図5に示すように、抵抗部材110は、支柱111及び帆本体112を有している。
【0024】
支柱111は、構造物本体220の側面に取り付けられるとともに水平方向に突出した長尺の棒状の部品である。
支柱111は、例えば構造物本体220に対して180度対称の位置に1本ずつ取り付けられている。これにより、構造物200は、抵抗部材110を介して水平方向(
図2の左右方向)において均一に流体力を受けることになる。
【0025】
帆本体112は、支柱111と構造物本体220との間に張られた膜状の部品である。帆本体112は、抵抗部材110において、流体からの抵抗の大部分を受ける部品である。
帆本体112は、例えば、支柱111の先端、支柱111の根元及び構造物本体220の側面の3点に接続されて張られる。この場合、帆本体112は、略三角形状をなす。
【0026】
なお、抵抗部材110の支柱111及び帆本体112の形態は上記の具体例に限られず、帆本体112が水中402の水及び/又は空中404の空気から流体力を受けられるように張られていればよい。
【0027】
[抵抗部材が羽根車の場合の例]
以下、抵抗部材110が羽根車とされた場合の具体例の構造について説明する。
図6及び
図7に示すように、抵抗部材110は、羽根車本体116及びダクト117を有している。
【0028】
羽根車本体116は、円筒状のダクト117の内側に収容されており、ダクト117の軸線Xd方向に沿って延びた回転軸Xf周りに回転可能とされている。
【0029】
羽根車本体116は、電動機等の駆動部(図示せず)によって駆動されてもよいし、単に回転自在に設置されているだけでもよい。
前者の場合、羽根車本体116の回転数を制御することで効率的に傾倒速度を調節することができる。後者の場合、流体力によって羽根車本体116が回転して抵抗が発生することになる。
【0030】
羽根車本体116を収容したダクト117は、支柱118によって構造物本体220に対して固定・接続されており、例えば構造物本体220に対して180度対称の位置に1つずつ取り付けられている。
【0031】
以上のように構成された抵抗部材110において、帆や羽根車が水中402の水及び/又は空中404の空気から流体力を受ける方向を変更できるように、例えば構造物200に対して抵抗部材110を回転可能・移動可能に構成してもよい。
【0032】
また、抵抗部材110は、構造物200の建設時に取り付けておいてもよいし、構造物200を解体する直前に取り付けてもよい。また、構造物200の建設時に支柱111又は支柱118を取り付けておき、解体の直前に帆本体112、又は羽根車本体116及びダクト117を取り付けてもよい。
【0033】
以上のように構成された傾倒用構造体310において、構造物200の根元付近に設定した切断面230で構造物200の全部又は一部を切断して傾倒用構造体310を傾倒させる。
このとき、抵抗部材110が水中402の水及び/又は空中404の空気から抵抗としての流体力を受けることで傾倒用構造体310の傾倒速度が低減される。
【0034】
なお、抵抗部材110として帆を採用した場合、例えば、帆本体112の抵抗を受ける面の面積の増減によって傾倒速度を調節することができる。
また、抵抗部材110として羽根車を採用した場合、例えば、羽根車の回転数を制御することで効率的に傾倒速度を調節することができる。
【0035】
構造物200を切断する際に、
図8から
図11に示すように、倒木と同様の工程を経ることで傾倒用構造体310の傾倒方向を調節できる。
【0036】
具体的には、まず、
図8及び
図9に示すように、構造物200の側面に受け口200aを形成する。
受け口200aは、傾倒用構造体310を傾倒させたい方向に形成される。
【0037】
次に、
図10に示すように、受け口200aの反対側にある構造物200の側面から受け口200aに向かって水平方向に沿って追い口200bを形成していく。このとき、傾倒の支点となるツル200cを残しておく。
【0038】
最後に、
図10及び
図11に示すように、受け口200aを閉じるような方向に傾倒用構造体310が傾倒するようにトリガとなる荷重を付与する。これによって、所望の方向に傾倒用構造体310を傾倒させることができる。
なお、トリガとなる荷重を付与する手段としては、第3実施形態で説明するウィンチ130(ワイヤ132)が例示される。
【0039】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
抵抗部材110を構造物200に取り付ける設置工程と、抵抗部材110が取り付けられた構造物200(すなわち、傾倒用構造体310)を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいるので、構造物200を傾倒させる際に、抵抗部材110が受ける流体力によって構造物200の傾倒速度を低減することができる。
これによって、安全に構造物200を傾倒させることができる。また、構造物200が水面403や地面に衝突する際の衝撃を低減することができる。
【0040】
[変形例]
図12に示すように、構造物200が例えば風車の場合、ブレードとブレードとの間に帆本体112を張ってもよい。
この場合、帆本体112は、例えば、ブレードの先端、隣接するブレードの先端及びハブの3点に接続されて張られる。
【0041】
[第2実施形態]
本開示の第2実施形態に係る構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体について、
図13から
図14を参照して説明する。
なお、本実施形態に係る傾倒用構造体320は、第1実施形態に係る傾倒用構造体310に対して、抵抗部材110を有しておらず浮き部材120を有している点で相違する。このため、同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0042】
本実施形態の構造物の傾倒方法は、構造物200に浮き部材120が取り付けられて構成された傾倒用構造体320を傾倒させることで構造物200を傾倒させることとしている。
【0043】
図13及び
図14に示すように、傾倒用構造体320は、構造物200及び浮き部材120を備えている。
なお、本実施形態の場合、構造物200は、海底等の水底から立設する水上構造物とされている。
【0044】
浮き部材120は、構造物200(例えば構造物本体220の側面)に取り付けられた部材であって、構造物200を取り囲む水から浮力を受ける部材である。
浮き部材120によって得られる浮力は、水底から切り離された構造物200を支えるものである。言い換えれば、水底から切り離された構造物200を支える浮力が発生するように、浮き部材120の仕様が設計される。
【0045】
浮き部材120は、構造物200の全周囲にわたって設けられてもよいし、周囲の一部に設けられてもよい。
浮き部材120は、例えばナイロンやゴム等の素材でできた袋状の物体の内部に気体を充満させて構成される。
【0046】
浮き部材120は、構造物200の建設時に取り付けておいてもよいし、構造物200を解体する直前に取り付けてもよい。
【0047】
以上のように構成された傾倒用構造体320において、構造物200の根元付近に設定した切断面230で構造物200の全部又は一部を切断する。
このとき、浮き部材120が水から浮力を受けることで、傾倒用構造体310が自重によって倒壊・傾倒することを回避できる。すなわち、構造物200が水底から切り離されたとしても構造物200を浮体物として自立させることができる。
【0048】
構造物200が水底から切り離されたら、所定の手段で傾倒用構造体320を傾倒させる。このとき、構造物200は浮き部材120によって自立した状態を維持しようとするので、構造物200を傾倒させる際に、構造物200の傾倒速度を調節することができる。
なお、傾倒用構造体320を傾倒させる手段としては、第3実施形態で説明するウィンチ130(ワイヤ132)が例示される。
【0049】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
浮き部材120を構造物200に取り付ける設置工程と、浮き部材120が取り付けられた構造物200(すなわち、傾倒用構造体320)を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいるので、構造物200が水底から切り離されたとしても構造物200を浮体物として自立させることができる。
これによって、構造物200を傾倒させる際に、構造物200の傾倒速度を調節することができ、安全に構造物200を傾倒させることができる。また、構造物200が水面403に衝突する際の衝撃を低減することができる。
【0050】
[第3実施形態]
本開示の第3実施形態に係る構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体について、
図15から
図17を参照して説明する。
なお、本実施形態に係る傾倒用構造体330は、第1実施形態に係る傾倒用構造体310に対して、抵抗部材110を有しておらず牽引部材132を有している点で相違する。このため、同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
本実施形態の構造物の傾倒方法は、構造物200に牽引部材132が接続された傾倒用構造体330を傾倒させる方法である。本実施形態の構造物の傾倒方法では、牽引部材132を牽引することで構造物200を傾倒させることとしている。
【0052】
図15に示すように、傾倒用構造体330は、構造物200及び牽引部材132を備えている。
【0053】
牽引部材132は、例えばウィンチ130が有するワイヤ132とされている。
ウィンチ130は、ワイヤ132に加えて、ウィンチ本体131を有している。
ウィンチ本体131は、ワイヤ132を引き出す/巻き取る部分とされている。
ワイヤ132は、一端がウィンチ本体131に接続され、他端が構造物200の上部(具体的には構造物本体220の上部)に接続されている。
【0054】
ウィンチ130は、
図15に示すように船舶500に設置されていてもよいし、
図16に示すように水底に設置されていてもよい。また、
図17に示すように、船舶500に設置されたウィンチ130及び水底に設置されたウィンチ130を組み合わせてもよい。
【0055】
いずれの場合であっても、複数台のウィンチ130が設置される。
図15の場合、3台のウィンチ130(ウィンチ130a、ウィンチ130b及びウィンチ130c)が設置されている。
【0056】
ウィンチ130のワイヤ132は、構造物200を解体する直前に取り付けておくことが好ましい。
【0057】
以上のように構成された傾倒用構造体330において、構造物200の根元付近に設定した切断面230で構造物200の全部又は一部を切断して傾倒用構造体330を傾倒させる。
【0058】
各ウィンチ130のうち、1台のウィンチ130(例えばウィンチ130a)が傾倒用構造体330を所定の方向(傾倒させたい方向)に牽引して、残りの2台のウィンチ130(例えばウィンチ130b及びウィンチ130c)がウィンチ130aの牽引力とのバランスをとって傾倒速度を調節する。
これによって、所望の方向に傾倒用構造体330を傾倒させつつ傾倒速度を調節することがきる。
【0059】
なお、構造物200を切断する際に、
図8から
図11に示すような倒木と同様の工程を経てもよい。この場合、ウィンチ130aの牽引力が傾倒用構造体330を傾倒させるトリガとなる。
【0060】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
構造物200の上部を牽引することで構造物200を傾倒させるので、牽引方向や牽引力によって傾倒速度や傾倒方向を制御することができる。
【0061】
[変形例]
例えば、
図15に示すウィンチ130b及びウィンチ130cが有する各ワイヤ132に代えて、
図18に示すように、構造物200(第1の構造物200)と他の構造物200(第2の構造物200)とを接続する接続部材141を設置してもよい。接続部材141は、例えばワイヤ141とされている。
【0062】
これによって、第1の構造物200を含む傾倒用構造体330を傾倒させることで、第2の構造物200を含む傾倒用構造体330を連鎖的に傾倒させることができる。すなわち、傾倒用構造体330の傾倒によって生じるワイヤ141の牽引力を、他の傾倒用構造体330を傾倒させるためのトリガとなる荷重として利用することができる。
また、傾倒用構造体330及び他の傾倒用構造体330は、ワイヤ141によって互いに支え合うことになるので、水底から切り離された直後の倒壊を防ぐことができる。
【0063】
以上の通り説明した各実施形態に係る構造物の傾倒方法及び傾倒用構造体は、例えば、以下のように把握される。
すなわち、本開示の一態様に係る構造物(200)の傾倒方法は、地盤(401)から上方に向かって延在する着床式の構造物を傾倒させる構造物の傾倒方法であって、前記構造物を取り囲む流体から流体力を受ける抵抗部材(110)を前記構造物に取り付ける設置工程と、前記抵抗部材が取り付けられた前記構造物を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいる。
【0064】
本態様に係る構造物の傾倒方法によれば、構造物を取り囲む流体から流体力を受ける抵抗部材を構造物に取り付ける設置工程と、抵抗部材が取り付けられた構造物を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいるので、構造物を傾倒させる際に、抵抗部材が受ける流体力によって構造物の傾倒速度を低減することができる。これによって、安全に構造物を傾倒させることができる。また、構造物が水面や地面に衝突する際の衝撃を低減することができる。
なお、ここでいう「地盤」とは、陸地のみならず海底や湖底等の水底を含む用語である。つまり、本態様で対象としている構造物は、陸上に設置されたものでもよいし、海底等の水底に設置されたものでもよい。
抵抗部材は、軽量でありながら流体から抵抗を受ける部分の面積が大きいものや効率的に流体から抵抗を受けられるものが好ましい。抵抗部材としては、帆、板、羽根車等が例示される。
【0065】
また、本開示の一態様に係る構造物の傾倒方法において、前記構造物は、水底から延在する水上構造物とされ、前記抵抗部材は、水中及び/又は空中に位置する。
【0066】
本態様に係る構造物の傾倒方法によれば、構造物は、水底から延在する水上構造物とされ、抵抗部材は、水中及び/又は空中に位置するので、水中の水及び/又は空中の空気から流体力を受けることができる。
【0067】
また、本開示の一態様に係る構造物の傾倒方法は、水底から上方に向かって延在する着床式の構造物を傾倒する構造物の傾倒方法であって、水から浮力を受ける浮き部材(120)を前記構造物に取り付ける設置工程と、前記浮き部材が取り付けられた前記構造物を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいる。
【0068】
本態様に係る構造物の傾倒方法によれば、水から浮力を受ける浮き部材を構造物に取り付ける設置工程と、浮き部材が取り付けられた構造物を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいるので、浮き部材が受ける浮力によって、水底から切り離された直後の構造物の倒壊を防ぎ、構造物を浮体物として自立させることができる。これによって、構造物を傾倒させる際に、傾倒速度を調節することができる。これによって、安全に構造物を傾倒させることができる。また、構造物が水面に衝突する際の衝撃を低減することができる。
【0069】
また、本開示の一態様に係る構造物の傾倒方法において、前記傾倒工程では、前記構造物の上部を牽引することで前記構造物を傾倒させる。
【0070】
本態様に係る構造物の傾倒方法によれば、傾倒工程では、構造物の上部を牽引することで構造物を傾倒させるので、牽引方向や牽引力によって傾倒速度や傾倒方向を制御することができる。
なお、牽引は複数の方向から行われることが好ましい。
【0071】
また、本開示の一態様に係る構造物の傾倒方法において、前記構造物は、互いに離間して設置された第1構造物及び第2構造物を有し、前記傾倒工程の前に、前記第1構造物と前記第2構造物とを接続する接続工程を含み、前記傾倒工程では、前記第1構造物を傾倒させることで連鎖的に前記第2構造物を傾倒させる。
【0072】
本態様に係る構造物の傾倒方法によれば、構造物は、互いに離間して設置された第1構造物及び第2構造物を有し、傾倒工程の前に、第1構造物と第2構造物とを接続する接続工程を含み、傾倒工程では、第1構造物を傾倒させることで連鎖的記第2構造物を傾倒させるので、複数ある構造物のうち一の構造物を傾倒させることで、他の構造物を連鎖的に傾倒させることができる。
また、第1構造物及び第2構造物は互いに支え合うことになるので、水底から切り離された直後の倒壊を防ぐことができる。
【0073】
また、本開示の一態様に係る構造物の傾倒方法は、水底から上方に向かって延在する着床式の構造物を傾倒する構造物の傾倒方法であって、前記構造物を牽引する牽引部材(132)を前記構造物の上部に取り付ける設置工程と、前記牽引部材が取り付けられた前記構造物を牽引することで前記構造物を傾倒させる傾倒工程と、を含んでいる。
【0074】
また、本開示の一態様に係る構造物の傾倒方法は、前記傾倒工程の前に、地側の前記構造物の部分とその上部の前記構造物の部分とに分離した切断部を形成する切断工程を含んでいる。
【0075】
また、本開示の一態様に係る構造物の傾倒方法は、前記傾倒工程の前に、地側の前記構造物の部分とその上部の前記構造物の部分とに分離した切断部を部分的に形成する切断工程を含んでいる。
【0076】
また、本開示の一態様に係る傾倒用構造体(310)は、地盤から上方に向かって延在する着床式の構造物と、該構造物に取り付けられ、前記構造物を取り囲む流体から流体力を受ける抵抗部材と、を備えている。
【0077】
また、本開示の一態様に係る傾倒用構造体(320)は、水底から上方に向かって延在する着床式の構造物と、該構造物に取り付けられ、水から浮力を受ける浮き部材と、を備えている。
【0078】
また、本開示の一態様に係る傾倒用構造体(330)は、地盤から上方に向かって延在する着床式の構造物と、前記構造物の上部に取り付けられ、前記構造物を牽引する牽引部材(132)と、を備えている。
【符号の説明】
【0079】
110 抵抗部材
111 支柱
112 帆本体
116 羽根車本体
117 ダクト
118 支柱
120 浮き部材
130 ウィンチ
131 ウィンチ本体
132 ワイヤ(牽引部材)
141 ワイヤ(接続部材)
200 構造物
200a 受け口
200b 追い口
200c ツル
210 基礎
220 構造物本体
230 切断面
310,320,330 傾倒用構造体
401 地盤
402 水中
403 水面
404 空中
500 船舶