(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111249
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】注水圧力決定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/00 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013014
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮城 充宏
(72)【発明者】
【氏名】平塚 裕介
(72)【発明者】
【氏名】熊本 創
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕泰
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA05
2D043AB01
2D043BB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】試験時間を短縮するための加圧浸透促進方式を用いた現場透水試験法において、地表面から水が流出することがない注水圧力を設定するための注水圧力決定方法を提案する。
【解決手段】試験開始から終了までの試験時間を決定する時間決定工程と、試験時間で地中に注水した水が地表面に到達するために必要な注水流量を算出する流量算出工程と、地盤の透水係数を仮定する透水係数仮定工程と、注水流量と透水係数とを利用して注水圧力を決定する圧力決定工程とを備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
現場透水試験における水の注水圧力を決定する注水圧力決定方法であって、
試験開始から終了までの試験時間を決定する時間決定工程と、
前記試験時間で地中に注水した水が地表面に到達するために必要な注水流量を算出する流量算出工程と、
地盤の透水係数を仮定する透水係数仮定工程と、
前記注水流量と前記透水係数とを利用して前記注水圧力を決定する圧力決定工程と、を備えていることを特徴とする、注水圧力決定方法。
【請求項2】
前記流量算出工程では、式1により注水流量を算出することを特徴とする、請求項1に記載の注水圧力決定方法。
【数1】
【請求項3】
前記圧力決定工程では、式2を利用して加圧水頭を算出し、前記加圧水頭に基づいて、前記注水圧力を決定することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の注水圧力決定方法。
【数2】
【請求項4】
前記地盤がダムの堤体であり、
透水係数の仮定値kaは、前記堤体の設計に用いる透水係数の設計基準値よりも大きい値とすることを特徴とする、請求項3に記載の注水圧力決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧浸透促進方式を用いた現場透水試験法における注水圧力決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムや堤防等の堤体の施工における品質管理の一つとして、現場透水試験を定期的に実施する必要がある。現場透水試験では、不飽和状態の堤体に対して、飽和状態の透水係数を評価する。
不飽和状態の地盤の現場透水試験法として、地盤工学会基準で規定された手法「締め固めた地盤の透水試験法(JGS1316)」がある。この手法は、マリオットサイフォンを用いて、孔内の水を一定に保ちながら、地盤に注水し、飽和状態に達した際の注水量と試験孔内で一定に保った水位の値から、飽和状態の透水係数を算定するものである。このときの注水量は、開始当初が最も多く、試験孔の周辺の地盤が飽和状態に近づくと一定量に収束する。しかしながら地盤を飽和状態にするまでの注水時間が長く、試験時間に時間がかかってしまう。
そのため、例えば特許文献1に示すように、地盤に水を圧入することで、飽和状態への到達時間を短縮する場合がある。地盤に水を圧入する場合には、水が地表面からあふれだすことがないように、注水圧力を調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、試験時間を短縮するための加圧浸透促進方式を用いた現場透水試験法において、地表面から水が流出することがない注水圧力を設定するための注水圧力決定方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、試験時間を設定し、地盤の飽和状態の広がり方を仮定して、試験時間終了時に地盤の飽和が地表面に到達する注水流量を求め、地盤の透水係数を仮定して、必要な加圧水頭を算出することで、水が地表面からあふれない注水圧力を設定できることを見出した。
この知見に基づく本発明の注水圧力決定方法は、試験開始から終了までの試験時間を決定する時間決定工程と、前記試験時間で地中に注水した水が地表面に到達するために必要な注水流量を算出する流量算出工程と、地盤の透水係数を仮定する透水係数仮定工程と、前記注水流量と前記透水係数とを利用して前記注水圧力を決定する圧力決定工程とを備えている。
かかる注水圧力決定方法によれば、注水した水が地表面から溢れ出さない圧力で、迅速に現場透水試験を実施でき、かつ、高精度に透水係数を得ることができる。
前記流量算出工程では、式1により注水流量を算出するのが望ましい。
また、前記圧力決定工程では、式2を利用して加圧水頭を算出し、前記加圧水頭に基づいて、前記注水圧力を決定するのが望ましい。
なお、前記地盤がダムの堤体の場合には、透水係数の仮定値kaは、前記堤体の設計に用いる透水係数の設計基準値よりも大きい値にするのが望ましい。
【0006】
【発明の効果】
【0007】
本発明の注水圧力決定方法によれば、試験時間を短縮するための加圧浸透促進方式を用いた現場透水試験法において、地表面から水が流出することがない注水圧力を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】現場透水試験用の注水管の設置状況を示す断面図である。
【
図2】現場透水試験に注水状況を示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係る注水圧力決定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】実施例1のシミュレーションによる注水した水の分布図である。
【
図6】実施例1と比較例1の推定透水係数の経時変化を示すグラフである。
【
図7】実施例2のシミュレーションによる注水した水の分布図である。
【
図8】実施例1~3のk
e/k
gの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、ダムの施工に伴い、品質管理を目的として定期的に実施する堤体の現場透水試験について説明する。現場透水試験は、不飽和状態の地盤の現場透水試験法として、地盤工学会基準で規定された手法「締め固めた地盤の透水試験法(JGS1316)」を採用する。
現場透水試験は、地下水位よりも高い位置にある不飽和状態の地盤(堤体)の飽和透水係数を測定するため、地盤に注水して飽和状態にする必要がある。本実施形態では、地盤内を飽和状態にする注水時間の短縮を目的として、水を圧入するものとする。
【0010】
図1,2に現場透水試験状況を示す。現場透水試験は、
図1に示すように、地盤Gを削孔することにより形成された試験孔6を利用して行う。具体的には、試験孔6に設置した試験装置1を通じて地盤Gに水Wを圧入する。試験装置1は、貯水部2と注水管3とを備えている。注水管3の下端部の外周には、注水管3の外面と試験孔6の内面(孔壁)との隙間を遮蔽するパッカー4が設けられている。試験孔6内のパッカー4よりも上の部分には、試験孔6の孔壁の崩落を抑制するための保護管5が設けられている。
地盤Gへの注水は、貯水部2に貯留された水Wを、注水管3を介して地盤G(試験装置2の下端)に供給することにより行う。水Wは、ポンプなどの加圧装置(図示せず)で貯水部2内を加圧することにより地盤Gに供給する。水Wは、注水管3を介して試験孔6の下端部に供給され、試験孔6の孔壁に露出した地盤Gに注水される(浸透する)。地盤Gへの注水は、注水流量がおおよそ一定になるまで行い、おおよそ一定となった注水流量から透水係数を求める。
なお、地盤Gに注水すると、
図2に示すように、注水した水Wが試験装置1(注水管3)を中心とした半径r(t)の球状の範囲(浸水範囲A)に広がると想定される。地盤Gへの注水は、注水した水が地表面GLから流出しないような加圧力により行う必要がある。すなわち、半径r(t)がパッカー4の下面から地表面GLまでの距離Lよりも小さくなるようにする。
【0011】
本実施形態では、試験時間を設定し、地盤Gの飽和状態の広がり方を仮定して、試験時間終了時に地盤Gの飽和が地表面GLに到達する注水流量を求め、地盤Gの透水係数を仮定して、必要な注水圧力(加圧水頭h
f)を算出することで、注水した水Wが地表面GLからあふれないようにする。
図3に、現場透水試験における水Wの注水圧力を決定する注水圧力決定方法の手順を示す。本実施形態の注水圧力決定方法は、
図3に示すように、時間決定工程S1と、流量算出工程S2と、透水係数仮定工程S3と、圧力決定工程S4とからなる。
【0012】
時間決定工程S1は、試験開始から終了までの試験時間t
uを決定する工程である。試験時間t
uは、注水した水Wが地表面GLに到達する時間(注水可能時間t
0)以下となるようにする設定する。最も効率的に現場透水試験を行うには、注水圧力をできるだけ大きくする必要があり、その時の条件は、t
u=t
0である。なお、試験時間t
uは、試験毎に決定する。
流量算出工程S2は、注水流量Q
eを算出する工程である。注水流量Q
eは、地盤Gに注水した水Wが試験時間t
uで地表面GLに到達するために必要な流量とする。注水した水Wが球状に広がると仮定して(
図2参照)、式1により注水流量Q
eを算出する。
【0013】
【0014】
透水係数仮定工程S3は、地盤の透水係数kaを仮定する工程である。透水係数kaは、設計基準値等に基づいて、安全側の評価となるように仮定する。一般的に、透水係数が高い地盤の方が注水した水Wがより早く地表面に到達するため、透水係数kaは、堤体の設計に用いる透水係数の設計基準値よりも大きい値とする。
圧力決定工程S4は、注水圧力を決定する工程である。注水圧力は、注水流量Qeと透水係数kaとを利用した式2により算出した加圧水頭kfとする。
【0015】
【0016】
本実施形態の注水圧力決定方法によれば、注水した水Wが地表面GLから溢れ出さない圧力で、迅速に現場透水試験を実施でき、かつ、高精度に透水係数を得ることができる。そのため、現場透水試験を効率的に実施することが可能となり、手間を低減できる。
また、地表面GL以上の高い水頭(加圧水頭kf)で注水するため、加圧しない場合よりも広範囲を飽和させた状態で透水係数を計測できる。広範囲を代表化した透水係数を求めることで、構造物(堤体)全体の透水係数を高精度に評価できる。また、試験区間以深の地下水面の位置に依存する従来の評価式(E-19法)において別途必要とされていた深度調査を省略できる。
【0017】
以下、ダムの堤体の締固め地盤の透水性を評価するために現場透水試験を実施することを想定して、具体的な数値を利用して本実施形態の注水圧力決定方法により注水圧力を決定する(実施例1)。
図4にダムの堤体7の概要を示す。実施例1では、ロックフィルダムを例示する。ロックフィルダムは、水を通しにくい粘土質の材料により形成されたコア部8と、コア部8の崩落を抑制するためにコア部8の両面にそれぞれ形成された砂や砂利からなるフィルター部9と、フィルター部9の外側に岩などを敷き詰めることにより形成されたロック部10とからなる。
ダムの堤体7のコア部8を想定し、透水係数の設計基準値を10
-7m/sとし、これよりもワンオーダ高い10
-6m/sを仮定透水係数k
aとした。また、間隙率n
eは0.2とし、試験区間lは、0.2~0.3m、幅0.1mとする。さらに、地表面GLから試験区間上端までの距離Lは0.2mとする。
試験時間t
uは3時間とした。
式1を用いて算出した注水流量Q
eと透水係数k
aから式2を用いて加圧水頭h
fを算出すると、4.34mとなる。
【0018】
次に、加圧水頭を4.34mとして注水した場合とについて、数値シミュレーションを行った。数値シミュレーションでは、積分差分法を用いた解析ソフトTOUGH2を使用して、不飽和浸透流解析を行った。
図5に3時間後の水飽和度の分布状況を示す。
図5に示すように、3時間後の注水した水の領域は、地表面GLに到達しておらず、注水した水Wが地表面GLから流出しないことが確認できた。
次に、数値シミュレーションにより算出される実施例1の推定透水係数k
eの時間変化を、地表面と同じ高さの水頭(加圧水頭=0.0m)で注水する従来の手法(比較例1)による推定透水係数k
eと比較した。推定透水係数k
eの時間変化は、数値シミュレーションにおける各時刻で出力される注水流量を評価式(式3)に代入して算出した。注水時間と透水係数の関係を
図6に示す。
【0019】
【0020】
図6に示すように、比較例1(従来の手法)による推定透水係数k
eは、実施例1(本実施形態の手法)による推定透水係数k
eに比べて大きかった。比較例1(加圧水頭=0.0m)により、実施例1によって注水開始から3時間後に得られる推定透水係数k
eと同じ値を得るためには、約200時間必要であった。したがって、本実施形態の注水圧決定方法を使用することで、透水試験に要する時間を大幅に削減できることを確認できた。
【0021】
なお、実際の地盤では、透水係数k
gにばらつきが想定されるため、地盤の透水係数が設計基準値(10
-7m/s)よりも大きかった場合(10
-6m/s)と小さかった場合10
-8m/s)を想定し、それぞれ加圧水頭を4.34mとして解析を行った。
図7に解析用透水係数を10
-6にした場合の3時間後の水飽和度の分布状況を示す。
図7に示すように、地盤の透水係数が設計基準値(10
-7m/s)よりも大きかった場合(10
-6m/s)であっても、地表面GLから水があふれないことが確認できた。つまり、万が一締固めが不十分で、高い浸透性を有している箇所が存在している場合であっても、本実施形態の注水圧力決定方法による決定した注水圧力によって現場透水試験を実施可能であることが確認できた。また、地盤の透水係数が設計基準値(10
-7m/s)よりも小さかった場合(10
-8m/s)であっても、周辺地盤が十分に飽和し、現場透水試験を実施可能であることが確認できた。
【0022】
解析用透水係数k
gを10
-6、10
-7、10
-8m/sとし、加圧水頭を4.34mとした解析の結果について、それぞれ式3を利用して推定透水係数k
eを算出した。
図8に推定透水係数k
e/解析用透水係数k
gの経時変化を示す。
図8に示すように、いずれのケースも、時間が経つにつれてk
e/k
gが1に漸近し、試験終了時では高い精度で解析用透水係数k
gを求められることが確認できた。
したがって、現場の地盤Gの透水係数が設計基準値に対してばらつきが生じている場合であっても、本実施形態の注水圧力決定方法を採用することで、地表面GLから注水した水Wが流出することなく効率的に現場透水試験を実施できることが確認できた。
【0023】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、ダムの堤体について説明したが、現場透水試験の実施の対象となる地盤はダムに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0024】
1 試験装置
2 貯水部
3 注水管
4 パッカー
5 保護管
6 試験孔
7 堤体
8 コア部
9 フィルター部
10 ロック部
G 地盤
GL 地表面
S1 時間決定工程
S2 流量算出工程
S3 透水係数仮定工程
S4 圧力決定工程