(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111251
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】防水紙およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 21/16 20060101AFI20230803BHJP
D21H 19/82 20060101ALI20230803BHJP
D21H 19/22 20060101ALI20230803BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20230803BHJP
D21H 19/18 20060101ALI20230803BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20230803BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230803BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230803BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230803BHJP
B65D 5/62 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
D21H21/16
D21H19/82
D21H19/22
D21H19/20 A
D21H19/18
B32B27/10
B32B27/30 B
B32B27/30 A
B32B27/30 102
C09K3/18 101
B65D65/40 D
B65D5/62 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013016
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】松野 祐也
【テーマコード(参考)】
3E060
3E086
4F100
4H020
4L055
【Fターム(参考)】
3E060AB15
3E060AB16
3E060BC01
3E060DA21
3E086AB01
3E086AD05
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB71
3E086DA06
4F100AJ02A
4F100AJ02E
4F100AK00B
4F100AK00D
4F100AK12B
4F100AK12C
4F100AK12D
4F100AK12E
4F100AK21B
4F100AK21D
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AL01B
4F100AL01C
4F100AL01D
4F100AL01E
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100DG10A
4F100DG10E
4F100EH46B
4F100EH46D
4F100GB16
4F100JA05B
4F100JA05D
4F100JB06B
4F100JB06D
4F100JD05C
4F100JD05E
4F100JD15A
4F100JD15E
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00D
4F100YY00E
4H020AA03
4H020BA02
4L055AC06
4L055AC09
4L055AG51
4L055AG63
4L055AG64
4L055AG71
4L055AJ01
4L055BE09
4L055CD27
4L055CF41
4L055EA10
4L055EA20
4L055FA19
4L055GA47
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、優れた防水性を備えた紙を製造する技術を開発することである
【解決手段】本発明に係る防水紙は、(a)紙基材と、(b)紙基材の少なくとも片面に設けられた、ガラス転移点が65~260℃の合成樹脂を含む下塗り層と、(c)下塗り層の上に最外層として設けられた、スチレン・アクリル系樹脂およびワックスを含む防水層と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)紙基材と、
(b)紙基材の少なくとも片面に設けられた、ガラス転移点が65~260℃の合成樹脂を含む下塗り層と、
(c)下塗り層の上に最外層として設けられた、スチレン・アクリル系樹脂およびワックスを含む防水層と、
を有する防水紙であって、
防水層を塗工する前の、下塗り層を塗工した段階における撥水度が、紙パルプ試験方法No.68に規定する方法で測定するとR7以下である、上記防水紙。
【請求項2】
下塗り層にワックスが含まれない、請求項1に記載の防水紙。
【請求項3】
下塗り層に用いられる合成樹脂が、ポリビニルアルコールおよび/またはスチレン-アクリル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の防水紙。
【請求項4】
30分コッブ吸水度が7g/m2以下である、請求項1~3のいずれかに記載の防水紙。
【請求項5】
紙基材が多層抄きの板紙である、請求項1~4のいずれかに記載の防水紙。
【請求項6】
紙パルプ試験方法No.68に規定する撥水度がR7以下となるように、紙基材の少なくとも片面に、ガラス転移点が65~260℃の合成樹脂を含む下塗り層を設ける工程と、
下塗り層の上に、スチレン・アクリル系樹脂およびワックスを含む防水層を設ける工程と、
を含む、防水紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水紙とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の物品を包装するために、紙基材を用いた種々の形態からなる紙製容器や梱包材等が使用されている。一般に、紙製の容器や梱包材は、紙基材をベース素材とすることから、水蒸気等の透過が極めて容易であり、包装している物品から発生する湿気による強度低下を来すことがある。また、包装、梱包の対象となる物品によっては、外部から侵入する水蒸気等を著しく嫌うものがある。更に、チルド製品等のように氷を一緒に入れて輸送する場合、紙製の容器や梱包材が防水性を具備する必要がある。
【0003】
このため、紙基材の表面に、撥水性を有するワックス組成物を塗工してワックス層を形成する方法、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等をラミネートして樹脂被膜を形成する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、紙の少なくとも片面に、ワックスエマルジョンおよび水不溶性合成樹脂エマルジョンと共に界面活性剤を加えた混合液を塗布後、加熱処理を施して、最外層に界面活性剤の層を形成した防湿紙が記載されている。また、特許文献2には、基紙の少なくとも片面に、少なくとも2層の塗工層を有し、最表面に位置する塗工層はワックスを封入したマイクロカプセルを含有し、塗工量が固形分換算0.5g/m2以上2.5g/m2以下であり、この最表面の塗工層と基紙との間に位置する塗工層はアクリル系共重合体および/またはスチレン系共重合体を含有する防湿ライナが記載されている。さらに、特許文献3には、特定の乾燥条件で防水塗工層を乾燥することによって、高い水準での防湿性と防水性を兼ね備えた紙を製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-266096号公報
【特許文献2】特開2011-162899号公報
【特許文献3】特開2020-165039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脱プラスチックの流れの中で発泡スチロールを代替する紙製容器が要求されており、そのような容器を製造するために耐水撥水ライナが注目されている。
しかし、特許文献1のワックス層を形成する方法では、単にワックス組成物を1層塗工しても、透湿度を十分に抑制することは困難であり、透湿度を十分に抑制するためにはワックス組成物を多数回塗工することが必要となり、製造工程が著しく煩雑になる。また、特許文献2のような樹脂被膜でラミネートする方法では、ラミネート加工のため製造工程が煩雑となることに加え、樹脂被膜でラミネートした紙または板紙は、使用後に古紙として回収使用する際の離解性が著しく悪く、再利用化が困難であった。さらに、特許文献3の方法では、特定の乾燥条件を採用する必要があり、経済性に有利な方法とは言えなかった。
【0006】
また、単なる防湿紙では、防水性が充分でなく、例えば、チルド製品等のように氷を入れて輸送する容器や梱包材としての使用が困難である。従来から存在する、最外層に界面活性剤の層を形成しただけの防湿紙や、少なくとも2層の塗工層を設けただけの防湿ライナは、十分な防水性を備えるものではなかった。
【0007】
このような事情に鑑み、本発明の課題は、防湿性と防水性を兼ね備える防水紙とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、紙基材に対して、特定の合成樹脂を塗工して撥水性を調整してから防水剤を塗工することによって、防湿性と防水性に優れた紙を製造できることを見出した。
【0009】
以下に限定されるものではないが、本発明は、下記の態様を包含する。
[1] (a)紙基材と、(b)紙基材の少なくとも片面に設けられた、ガラス転移点が65~260℃の合成樹脂を含む下塗り層と、(c)下塗り層の上に最外層として設けられた、スチレン・アクリル系樹脂およびワックスを含む防水層と、を有する防水紙であって、防水層を塗工する前の、下塗り層を塗工した段階における撥水度が、紙パルプ試験方法No.68に規定する方法で測定するとR7以下である、上記防水紙。
[2] 下塗り層にワックスが含まれない、[1]に記載の防水紙。
[3] 下塗り層に用いられる合成樹脂が、ポリビニルアルコールおよび/またはスチレン-アクリル系樹脂を含む、[1]または[2]に記載の防水紙。
[4] 30分コッブ吸水度が7g/m2以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の防水紙。
[5] 紙基材が多層抄きの板紙である、[1]~[4]のいずれかに記載の防水紙。
[6] 紙パルプ試験方法No.68に規定する撥水度がR7以下となるように、紙基材の少なくとも片面に、ガラス転移点が65~260℃の合成樹脂を含む下塗り層を設ける工程と、下塗り層の上に、スチレン・アクリル系樹脂およびワックスを含む防水層を設ける工程と、を含む、防水紙の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防湿性とともに防水性を備えた紙の製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】防水性の評価に用いた搬器を示す図である(組み立て図)。
【
図2】防水性の評価に用いた搬器を示す図である(展開図)。
【
図3】防水性の評価に用いた搬器を示す図である(折り畳み図)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、防水紙に関する。本発明において防水紙とは、長時間水にさらしても水が浸みこまない紙のことを意味し、具体的には、後述するコッブ吸水度が30分の段階で40g/m2以下となる紙を防水紙という。好ましい態様において本発明に係る防水紙は、紙容器に水を入れて1週間放置しても水の浸み出しが発生せず容器の形状が変形しないか、若干変形はみられるが容器形状が維持される。より好ましい態様において本発明に係る防水紙は、紙容器に水を入れて3週間放置しても水の浸み出しが発生せず容器の形状が変形しないか、若干変形はみられるが容器形状が維持される。
【0013】
本発明に係る防水紙の用途には特に制限はなく、例えば、段ボール箱や包装個箱などとして用いることができ、例えば、鮮魚や野菜を始めとした食料品などを収容したり、洗剤等の吸湿性のあるものを内容物として収容したりできる。本発明に係る防水紙の坪量は特に制限されないが、例えば、30~800g/m2とすることができる。紙基材が単層紙である場合、防水紙の坪量は、例えば、30~350g/m2や50~300g/m2とすることができる。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、防水紙の坪量は75~800g/m2や100~700g/m2、さらには200~600g/m2とすることができる。
【0014】
本発明の防水紙は、好ましい態様において、表面の30分コッブ吸水度が40g/m2以下であり、25g/m2以下がより好ましく、15g/m2以下や7g/m2以下であってよい。本発明においてコッブ吸水度は、JIS P 8140に規定されたコッブ法に準拠して、100mlの蒸留水を塗工層に接触させ、規定時間後に吸収された水の単位面積あたりの重量を測定する。測定時間を伸ばした条件下でもコッブ吸水度が低いほど、塗工層の吸水性が低いものとなる。
【0015】
本発明の防水紙は、防湿性にも優れており、好ましい態様において、透湿度は100g/m2・24h以下であり、より好ましくは75g/m2・24h以下、さらに好ましくは50g/m2・24h以下である。ここで、紙の透湿度は、JIS Z 0208に準拠して防水紙の塗工層側から測定することができ、数値が小さいほど、防湿性が高いことを意味する。
【0016】
本発明の防水紙は、塗工面の王研式平滑度が15秒以上であることが好ましく、20秒以上がより好ましく、25秒以上がさらに好ましい。防水紙の塗工層の表面の平滑度が上記の範囲であることにより、塗工層の表面において高い光沢が得られ、より美粧性に優れた防水紙が得られる。
【0017】
紙基材
本発明に係る防水紙は、紙基材と、紙基材の少なくとも一方の面に設けられた下塗り層および防水塗工層と、を少なくとも有している。本発明において紙基材の坪量は特に制限されず、例えば、10~800g/m2とすることができる。紙基材が単層紙である場合、坪量は10~300g/m2の範囲で適宜設定することができ、例えば、紙基材がクラフト紙の場合、坪量を30~250g/m2の範囲で設定することができる。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、その坪量は70~800g/m2の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボールのライナの場合、坪量を80~600g/m2の範囲で設定することができる。
【0018】
本発明に用いる紙基材は特に制限はないが、好ましくは防水塗工層を設ける面の120秒コッブ吸水度が100g/m2以下、好ましくは75g/m2以下、より好ましくは50g/m2以下の範囲である。また、本発明に用いる紙基材は、120秒コッブ吸水度が5g/m2以上であり、好ましくは7g/m2以上、より好ましくは10g/m2以上である。本発明においては、ワックスなどの撥水剤や、樹脂を含むニス等の防水性を有しないコーティング剤(目止め剤)等を塗工するなどして紙基材の120秒コッブ吸水度を調整することもできるが、紙基材の120秒コッブ吸水度が上記の範囲であることにより、防水塗料の溶媒中に含まれた水分の過剰な浸透による紙力低下防止と、防水塗料中の固形分が紙層表面へ滞留することにより確実な被覆が行われ防水性と防湿性の向上を両立させることができる。
【0019】
紙基材の原料パルプとしては、特に制限なく公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、ケミカルパルプ(CP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)などの木材由来の各種パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプを挙げることができる。
【0020】
紙基材は、古紙パルプを含有するものであってもよく、また、古紙パルプを含有しないものであってもよい。古紙パルプを含有する場合であって、例えば、紙基材が単層紙である場合、好ましくは全パルプに占める古紙パルプの配合率は10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上とすることができ、また、100質量%(古紙由来のパルプのみからなる)とすることができる。また、古紙パルプ以外のパルプとしてクラフトパルプを配合してもよく、全量クラフトパルプとしてもよい。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、1層あたりの古紙パルプ配合率を上記の通りとすることができ、各層における古紙パルプ配合率が異なるものであってもよい。
【0021】
古紙パルプとしては、段ボール古紙、上白、特白、中白、白損などの未印刷古紙を離解した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙などに印刷された古紙、および筆記された古紙、廃棄機密文書等の紙類、雑誌古紙、新聞古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)などを使用することができる。
【0022】
また、紙基材の抄造では、サイズ剤や撥水剤を内添または外添させることができ、さらに、強度を向上させるために紙力増強剤を内添させることができる。サイズ剤としては、例えば、ロジン系サイズ剤、ロジンエマルジョン系サイズ剤、α-カルボキシルメチル飽和脂肪酸など、また、中性ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、カチオンポリマー系サイズ剤などが挙げられる。また、撥水剤としては、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ワックスなどが挙げられる。また、紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド(PAM)や変性でん粉などの従来から使用されている紙力増強剤が挙げられる。
【0023】
また、必要に応じて紙基材に公知の填料を内添させることができ、無機填料や有機填料を制限なく使用することができる。無機填料としては、例えば、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、クレー、焼成クレー、デラミネーティッドクレー、イライト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などが挙げられ、有機填料としては、例えば、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0024】
さらに、紙基材の品質に影響のない範囲で、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性アルミニウム化合物、水溶性アルミニウム化合物、多価金属化合物、シリカゾルなどを内添して使用してもよい。
【0025】
紙基材は、公知の抄紙方法で製造することができる。例えば、長網抄紙機、ギャップフォーマー型抄紙機、ハイブリッドフォーマー型抄紙機、オントップフォーマー型抄紙機、丸網抄紙機などを用いて行うことができるが、これらに限定されない。
【0026】
また、本発明の紙基材の平滑度を調整するため、必要に応じ平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理には、通常のカレンダ、スーパーカレンダ、グロスカレンダ、ソフトカレンダ、熱カレンダ、シューカレンダなどの平滑化処理装置を用いることができる。平滑化処理装置は、加圧装置の形態、加圧ニップの数、加温、線圧などを適宜調整してよい。
【0027】
下塗り層(目止め層)
本発明に係る防水紙は、防水塗工層を設ける前に、撥水度がR7以下となるように特定の合成樹脂を紙基材に塗工していることを特徴とする。合成樹脂を塗工することにより、紙表面を被覆することができ、表面の平滑性が向上するとともに防水塗工層の紙面への浸み込みが抑制されることから、防湿性および防水性が向上する。
【0028】
下塗り層を塗工した紙基材の撥水性は、紙パルプ試験方法No.68に規定する方法によって測定すればよく、本発明においては、防水層を塗工する前の下塗り層を塗工した段階における撥水度がR7以下であり、R5以下であることが好ましく、R3以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明に係る防水紙は、紙基材上に設けられた下塗り層を有しており、下塗り層は、最終的な防水性、さらには経済性などを踏まえて、任意の量を塗工することができる。好ましい態様において下塗り層の塗工量は、片面あたり0.1~15g/m2であり、より好ましくは0.5~10g/m2であり、1~7g/m2であってもよい。
【0030】
本発明に係る下塗り層は、ガラス転移点が65~260℃である合成樹脂を含む。合成樹脂のガラス転移点は、公知の方法で測定することができるが、熱重量分析(TGA)によって測定することが好ましい。合成樹脂のガラス転移点は、70~240℃が好ましく、75~220℃がより好ましい。また、合成樹脂のガラス転移点が、防水層の樹脂のガラス転移点よりも高いと、加熱処理を行った際に防水塗工層が剥離しにくくなり好適である。
【0031】
本発明に係る下塗り層に含まれる合成樹脂は、融点が65~260℃である合成樹脂を含む。合成樹脂の融点は、公知の方法で測定することができるが、示差走査熱量分析(DSC)によって測定することが好ましい。合成樹脂の融点は、70~240℃が好ましく、75~220℃がより好ましく、80~200℃がさらに好ましい。
【0032】
本発明の下塗り層に用いられる合成樹脂は、ガラス転移点が65~260℃であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類、スチレン-アクリル樹脂、アクリル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体、酢酸ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの水分散性高分子、スチレン-アクリル酸、スチレン-マレイン酸、オレフィン系化合物、アルキル(メタ)アクリレート系化合物、カゼイン、ポリビニルピロリドン、ゼラチン尿素樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン等が挙げられる。下塗り層の合成樹脂は、1つを単独で使用しても、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。本発明においては、これらの中でも後述する防水塗工層を設ける際に均一に塗布しやすくなることから、ポリビニルアルコール、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂を含む合成樹脂を下塗り層に使用することが好ましい。
【0033】
また、下塗り層にワックスが含まれている場合、ワックスが有する撥水性により後述する防水塗工層を均一に塗布しにくくなることがあるため、下塗り層にワックスが含まれていないことが好ましい。
【0034】
防水塗工層(上塗り層)
本発明に係る防水紙は防水塗工層を有しており、本発明に係る防水塗工層は、合成樹脂およびワックスを含有する。合成樹脂は、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂の少なくとも1種類を含有することが好適である。特に、合成樹脂がスチレン系樹脂および/またはアクリル系樹脂であることが好適である。
【0035】
本発明を構成する防水塗工層が含有することのできるスチレン系樹脂としては、構造中にスチレン骨格を有するスチレン系単量体の共重合割合が50質量%以上であることが好ましく、スチレン系単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0036】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0037】
また、スチレン単量体と共重合可能な単量体として、例えば、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートなどのアルキルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸などの不飽和カルボン酸、マレイン酸、イタコン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエンなどの共役ジエンなどが挙げられる。これらは1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0038】
本発明を構成する防水塗工層が含有することのできるアクリル系樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体であるアクリル系単量体の共重合割合が50質量%以上である樹脂であり、アクリル系単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0039】
アクリル系単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピルなどのアクリル酸エステルなどを挙げることができ、アクリル系樹脂は、これらのアクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合したものであってよい。
【0040】
また、アクリル系単量体と共重合可能な単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸無水物、メタクリル酸、アクリル酸などの不飽和カルボン酸などが挙げられる。これらは1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0041】
防水塗工層に用いる樹脂は、ガラス転移点が20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。ガラス転移点の上限は特に制限されないが、260℃以下であることが好ましく、240℃以下がより好ましく、220℃以下であることがさらに好ましい。また、防水塗工層に用いる樹脂は、融点が65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、75℃以上であることがさらに好ましい。防水性樹脂層の融点の上限は特に限定されないが、200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましい。本発明においては、下塗り層に用いられる樹脂のガラス転移点よりも防水層に用いられる樹脂のガラス転移点が低いことが好ましい。
【0042】
本発明においては、防水塗工層にワックスが含有されている。防水塗工層が含有するワックスとしては、合成ワックスであっても天然ワックスであってもよく、1つを単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。合成ワックスとしては、例えば、ポリエチレン系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリプロピレンワックス、油脂系合成ワックス(脂肪酸エステル系、脂肪酸アミド、ケトン・アミン類)、水素硬化油などが挙げられ、天然ワックスとしては、例えば、蜜蝋、セラック、イボタ蝋などの動物由来ワックス、木蝋、カルナパ、キャンデリラ、ライスなどの植物由来ワックス、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、スラックワックス、モンタンワックス、セレシン、オゾケライトなどの化石系ワックスなどを挙げることができ、特に、パラフィンを含む炭化水素系ワックスが好適である。
【0043】
本発明では、白色度を向上させることなどを目的として、防水性を損なわない範囲で防水塗工層に顔料を含有させてもよい。この場合、顔料を含有させることで防水塗工層の表面の白色度が、紙基材の白色度と比較して1%以上高くなっていることが好ましい。このような顔料としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーティッドクレー、タルク、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト、マイカ、モンモリトナイトなどの無機顔料を挙げることができ、これらの顔料を1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができる。これらの顔料の中で、特に、粒子が扁平な形状であるカオリンや炭酸カルシウムもしくはマイカは、防水性を阻害しにくいため特に好適である。このような扁平形状の無機顔料は、アスペクト比が10以上であることが好ましい。防水塗工層における顔料の含有量は、5~40質量%以下が好ましく、10質量%~35質量%以下がより好ましい。顔料の含有量が顔料の含有量が5質量%未満であると、白色度の向上効果が十分に得られず、40質量%を超えると、合成樹脂成分が有する防水塗工層の防湿性、防水性の機能が十分発揮できないことがあるので好ましくない。また、その他の塗工剤として、例えば、バインダー、安定剤、消泡剤、粘性改良剤、保水剤、防腐剤、着色剤などを含有させてもよい。
【0044】
本発明において防水塗工層は、上記のような成分を含有する塗工剤を紙基材上に塗工して乾燥することにより形成することができる。防水塗工層の塗工量は、4~20g/m2とすることが好ましく、5~15g/m2とすることがより好ましい。20g/m2を超えると、防水性のさらなる向上は望めない一方で、製造コストの増大を来すことがある。
【0045】
本発明の防水紙は、紙基材の少なくとも一方の面に、防水剤を塗工し、塗工した防水剤を乾燥することによって製造することができる。防水塗工層の形成は、公知の塗工方式を使用して塗工剤を塗工して行うことができ、例えば、エアナイフ塗工、カーテン塗工、ブレード塗工、ゲートロール塗工、ダイ塗工などの塗工方式を用いることができる。また、塗工層は、単層であっても複数層であってもよく、複数の塗工層を順次塗工してもよく、カーテン塗工などにより2層以上を同時に塗工してもよい。また複数の塗工層を設ける場合は、少なくとも1層が防水性を有する塗工層であればよく、最外の塗工層として防水剤を塗工することが好ましい。塗工層を乾燥する際、好ましくは、乾燥工程出口の塗工層温度が120℃未満となるように調整する。塗工剤を塗工する際の塗工速度は、塗工剤の粘度、目標塗工量を考慮して適宜設定することができる。
【0046】
紙基材に塗工された塗工剤を乾燥して塗工層とするが、この乾燥工程では、出口での塗工層温度が120℃未満とすることが好ましく、100℃以下となるように調整してもよい。出口での塗工層温度が120℃以上であると、塗工層におけるブリスターの発生率が高くなることがあり、また、塗工層が形成された後に巻き取られた防水紙にブロッキングが発生することがある。一方、出口での塗工層温度は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上とすることもできる。出口での塗工層温度が60℃未満であると、場合によって、塗工層が形成された後に巻き取られた防水紙にブロッキングが発生することがあるだけでなく、塗工層の乾燥が不十分であるため防水、防湿性能を十分に発現できないことがある。
【0047】
乾燥工程出口での塗工層温度の設定は、紙基材の坪量および紙厚を考慮して設定することができる。例えば、紙基材が多層抄き板紙であって坪量および紙厚の大きい段ボールのライナの場合、単層紙であって坪量および紙厚が相対的に小さいクラフト紙に比べて塗工層の表面にブリスターが発生し易い傾向にある。その理由は限定されないが、段ボールのライナの場合、クラフト紙に比べて坪量および紙厚が大きいと共に透気性が低いことが多く、クラフト紙と同じ紙中水分値であっても、乾燥工程において紙基材内部で気化した多くの水分が十分に逃げきれないため、塗工層の表面にブリスターが発生し易くなると考えられる。このため、紙基材の坪量および紙厚が大きいほど、乾燥工程出口での塗工層温度を、上記の範囲内で低目に調整することが好ましい。
【0048】
ここで、乾燥工程の出口とは、乾燥工程における乾燥ゾーンが1個の場合、当該乾燥ゾーンの出口であり、乾燥工程における乾燥ゾーンが複数個の場合、最も下流側の乾燥ゾーンの出口である。
【0049】
乾燥工程出口での塗工層温度の調整は、乾燥時間、乾燥ゾーンの温度の調節により行うことができる。乾燥時間は、紙基材の送り速度、乾燥ゾーンの個数、長さ、乾燥ゾーンの機器能力(風量、赤外線出力)などで決定される。また、乾燥方式としては、公知の乾燥方式を用いることができ、例えば、蒸気シリンダ加熱乾燥方式、熱風乾燥方式、ガス式赤外線乾燥方式、電気式赤外線乾燥方式などを挙げることができ、これらのいずれか1種、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができる。
【実施例0050】
以下に、具体例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の具体例によって限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとする。
【0051】
防水紙の製造
段古紙パルプ100%からなる裏層、古紙パルプ100%からなる中層、未晒クラフトパルプ70%および段古紙パルプ30%からなる表層を裏層:中層:表層=25:60:15の重量比で抄き合わせ、ドライヤにて乾燥後、カレンダを用いて平滑化処理を行って紙基材(ライナ)を製造した(坪量:約280g/m2、紙水分:7.5%、表面の120秒コッブ吸水度:30g/m2、30分コッブ吸水度:173.3g/m2、撥水度:R0)。
【0052】
紙基材の表層側に、それぞれバーブレードを用いて、下表に示す通りに下塗り層(目止め層)と上塗り層(防水層)を塗布し、乾燥工程出口における塗工層の温度が80℃となるよう熱風乾燥して防水紙のサンプルを製造した。
(塗工剤)
下記の塗工剤を使用した。なお、樹脂の融点は示差走査熱量測定装置(TAインスツルメント社製、DSC Q200)、ガラス転移点は熱重量測定装置(TAインスツルメント社製、TGA Q50)を用いてそれぞれ測定した。
・合成樹脂A:スチレン・アクリル系樹脂(濃度:10%、ガラス転移点:120℃)
・合成樹脂B:スチレン・アクリル系樹脂(濃度:10%、ガラス転移点:60℃)
・合成樹脂C:ポリビニルアルコール(クラレ、RS-2117、濃度:10%、ガラス転移点:80℃、融点:230℃)
・パラフィン系ワックス(星光PMC製)
・防水剤:スチレン・アクリル系樹脂(ガラス転移点:39℃)とパラフィン系ワックスを含有する塗料(マイケルマン、VaporCoat2200)
【0053】
【0054】
防水紙の評価
それぞれのサンプルについて、下記の手順により、紙質を評価した。
(坪量) JIS P 8124に準拠して測定した。
(コッブ吸水度) JIS P 8140に準拠し、コッブ法により測定を行った。すなわち、100mlの蒸留水を表側(塗工層側)に接触させ、規定時間後に吸収された水の単位面積あたりの重量を測定した。なお測定時間は防水性を評価するため、通常の規定時間である120秒(2分間)ではなく、30分として測定を行った。
(透気抵抗度) JIS P 8117に準拠し、塗工層側(表側)から王研式透気度試験機(旭精工製、EYO-55-1MN)を用いて測定した。なお、試験機の測定上限を超過したサンプルについては「10万秒以上」と評価した。
(光沢度) JIS P 8142に準拠して、表側(塗工層側)から測定した。
(透湿度) JIS Z 0208に準拠して、表側(塗工層側)から測定した。
(撥水度) JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.68「紙及び板紙-は
っ水性試験方法」に準拠し、塗工層側を測定した。
(防水性) A4サイズのサンプル1枚を表側(塗工層側)が内側になるように折りこみ、
図1に示す箱形の搬器を作り、そこに0.005%ブリリアントブルー溶液200mlを入れて、23℃、50%RHの環境下に3週間静置した。その後、ブリリアントブルー溶液を廃棄し、搬器の着色度合いに基づいて、以下の基準で防水性を評価した。
〇:着色が見られない、△:折部などで着色が見られる、×:全体的に着色している
(底部水分) 各サンプルについて、防水性評価を行った直後の搬器の底部中心付近を切り抜き採取した水分測定用の紙サンプルに対し、JIS P 8203に準拠して紙水分測定を行った結果を底部水分とした。
(耐熱性) A5サイズのサンプル1枚の表側(塗工層側)に同じサイズのアルミ箔を接触させ、中央部分を幅10mmにわたり120℃に加温したヒートシーラーを用いて2kgf/cmの力を加え3秒間加温・加圧した後、人力ではがした際の剥離性に基づいて、耐熱性を以下の基準で評価した。
〇:アルミ箔が塗工面に付着していない
△:アルミ箔に塗工面が薄く付着している
×:アルミ箔が塗工面と接着しており、かつ剥がすことが困難である
【0055】
【0056】
以上の表に示す結果から明らかなように、本発明によれば、透湿度が低く防水性が高い紙を得ることができた。サンプル17とサンプル18については、下塗り層(目止め層)を塗布した段階での撥水度が高すぎたため、防水剤を含む塗工液がはじかれてしまい、均一な上塗り層(防水層)を設けることができなかった。