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特開2023-111289ビタミンD活性を有するリトコール酸誘導体
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  • 特開-ビタミンD活性を有するリトコール酸誘導体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111289
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ビタミンD活性を有するリトコール酸誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07J 9/00 20060101AFI20230803BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C07J9/00 CSP
A61P3/02 102
A61K31/575
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013077
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】305013910
【氏名又は名称】国立大学法人お茶の水女子大学
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】棚谷 綾
(72)【発明者】
【氏名】南 真梨果
(72)【発明者】
【氏名】影近 弘之
(72)【発明者】
【氏名】増野 弘幸
【テーマコード(参考)】
4C086
4C091
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086DA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZC23
4C091AA01
4C091BB01
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE02
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091JJ03
4C091KK01
4C091LL01
4C091MM03
4C091NN01
4C091PA02
4C091PA05
4C091PB03
4C091QQ01
4C091RR10
(57)【要約】
【課題】十分なビタミンD3活性を有する新規なリトコール酸誘導体を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で示される化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を示す。Xは、-O-、または-NR-を示す。R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を示す。Xは、-O-、または-NR-を示す。R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を示す。)
【請求項2】
及びRがメチルである、請求項1に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
【請求項3】
Xが-O-を示し、Rがメチルまたはエチルを示す、請求項1に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
【請求項4】
Xが-NR-を示し、R及びRがそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示す、請求項1に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
【請求項5】
下記の何れかの化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
【化2】
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグを含む医薬。
【請求項7】
請求項1から5の何れか一項に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグを含む、ビタミンD受容体活性化剤。
【請求項8】
請求項1から5の何れか一項に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグを含む、ビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンD活性を有するリトコール酸誘導体に関する。本発明はさらに、上記リトコール酸誘導体を含む、医薬、ビタミンD受容体活性化剤並びにビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンDは、代謝活性化体である1α,25-ジヒドロキシビタミンD3がビタミンD受容体(VDR)に結合し、特異的遺伝子の発現を制御する。この遺伝子の発現の制御により、ビタミンDは、血中のカルシウム濃度維持、骨形成、免疫機能、細胞の分化・増殖制御などの重要な生理作用を担っている。これまでに、骨粗鬆症、乾癬及びがんなどの治療薬の開発を目的として、多数のVDRリガンドが開発され、そのうちの幾つかは医薬品として臨床応用されている。既存のVDRリガンドの多くは、天然型の1α,25-ジヒドロキシビタミンD3と同様にセコステロイド骨格を有している。セコステロイド骨格は、高活性を有する誘導体の開発には有用であるが、一般に化学的安定性が低く、煩雑な合成を要し、ビタミンD作用の多様な医薬応用性が限られている。そのため、非セコステロイド型の骨格を有するVDRリガンドの開発が望まれているが、そのような非セコステロイド型VDRリガンドの報告は少ない。
【0003】
リトコール酸が、VDRの内因性リガンドであることが見いだされているが、リトコール酸のVDR親和性は非常に弱く、生理的意義は不明である。特許文献1には、リトコール酸誘導体であるリトコール酸プロピオネートがVDRを活性化できることが記載され、非特許文献1には、リトコール酸アセテート及びリトコール酸プロピオネートが記載されている。特許文献2には、高いビタミンD3活性を有するリトコール酸誘導体が記載されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、リトコール酸アミド誘導体およびリトコール酸ジオール誘導体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5283043号公報
【特許文献2】国際公開WO2017/131144号公報
【特許文献3】国際公開WO2021/033766号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Masuno et al, Journal of Lipid Research, Volume 54, 2013, pages 2206-2213
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ビタミンD3活性を有するリトコール酸誘導体の報告はあるが、既存のリトコール酸誘導体はビタミンD3受容体に対する親和性が弱く、ビタミンD3活性は十分ではないものであった。特許文献2に記載のリトコール酸誘導体は高いビタミンD3活性を有しているが、体内動態において、血中から迅速に消失するという欠点があった。
【0008】
本発明は、十分なビタミンD3活性を有する新規なリトコール酸誘導体を提供することを解決すべき課題とする。さらに本発明は、並びに上記リトコール酸誘導体を含む医薬、ビタミンD受容体活性化剤並びにビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、3位にヒドロキシアルキル基を有するリトコール酸誘導体において、17位の側鎖にカルバメートまたはウレアを導入した誘導体が、優れたビタミンD3活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 下記一般式(I)で示される化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を示す。Xは、-O-、または-NR-を示す。R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を示す。)
[2] R及びRがメチルである、[1]に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
[3] Xが-O-を示し、Rがメチルまたはエチルを示す、[1]に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
[4] Xが-NR-を示し、R及びRがそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示す、[1]に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
[5] 下記の何れかの化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
【化2】
[6] [1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグを含む医薬。
[7] [1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグを含む、ビタミンD受容体活性化剤。
[8] [1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグを含む、ビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤。
【0011】
本発明によればさらに以下の発明が提供される。
[9] [1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグをヒトを含む哺乳動物に投与することを含む、ビタミンD受容体を活性化する方法。
[10] [1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグをヒトを含む哺乳動物に投与することを含む、ビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療のための方法。
[11] ビタミンD受容体の活性化において使用するための、[1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
[12] ビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療において使用するための、[1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグ。
[13] 医薬の製造のための、[1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグの使用。
[14] ビタミンD受容体活性化剤の製造のための、[1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグの使用。
[15] ビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤の製造のための、[1]から[5]の何れか一に記載の化合物、その塩、又はそのプロドラッグの使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物は、十分なビタミンD3活性を有する新規なリトコール酸誘導体である。本発明の化合物は、ビタミンD受容体活性化剤、並びにビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤等の医薬として有用である。また、本発明の化合物は、セコステロイド骨格を有さないことから、セコステロイド骨格を有する化合物より一般に化学的安定性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、HL-60細胞に対する分化誘導作用の用量作用曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について更に具体的に説明する。
本発明の化合物は、下記一般式(1)で示される。
【化3】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を示す。Xは、-O-、または-NR-を示す。R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を示す。)
【0015】
本発明の化合物は、17位の側鎖にカルボキシル基を有さないことから、体内動態において迅速に排泄されてしまうという問題が解消されることが想定される。
【0016】
本明細書における炭素数1から8のアルキル基は、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はこれらの組み合わせのいずれでもよい。炭素数1から6のアルキル基は、特に制限されないが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピルメチル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができ、中でも、メチル基、エチル基を好ましく挙げることができ、メチル基が特に好ましい。炭素数1から8のアルキル基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素など)、エーテル、芳香環などを挙げることができる。なお、エーテルまたは芳香環は、アルキル鎖の途中に存在していてもよい。
【0017】
好ましくは、Xが-O-を示し、Rがメチルまたはエチルを示す。
好ましくは、Xが-NR-を示し、R及びRがそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示す。
【0018】
及びRはそれぞれ独立に、同一の基でも異なる基でもよいが、同一の基であることが好ましい。R及びRがともにメチル基又はエチル基であることが好ましく、R及びRがメチルであることが特に好ましい。
【0019】
本発明の化合物の具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。
【化4】
【0020】
一般式(1)で示される化合物は、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、不斉炭素に基づく任意の光学活性体、ジアステレオ異性体などの立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。
【0021】
一般式(1)で示される化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩などの塩の形態で存在する場合もあるが、それらも本発明の範囲に包含される。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩などの有機酸塩を挙げることができ、塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩、エタノールアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。これらのほか、グリシン塩などのアミノ酸塩なども本発明の範囲に包含される。
【0022】
一般式(1)で示される化合物は、プロドラッグにしてもよい。プロドラッグは、生体に投与された後、酵素の作用や代謝的加水分解などにより、医薬的に活性な化合物になる。プロドラッグは、当業者に知られている酸誘導体であればよく、例えば、一般式(1)で示される化合物と適当なアルコールとの反応によって製造されるエステル、一般式(1)で示される化合物と適当なアミンとの反応によって製造されるアミド、カルボシル基の還元型として、24-アルコール体などが挙げられるが特に限定されない。
【0023】
一般式(1)で示される化合物、その塩及びそのプロドラッグは、水あるいは各種溶媒との付加物(水和物又は溶媒和物)の形で存在することもあるが、これらの付加物も本発明の範囲内のものである。溶媒和物における溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトニトリル等を挙げることができるが、特に限定されない。付加物(水和物又は溶媒和物)は、単独のものでもよいし、複数種の混合物でもよい。
【0024】
一般式(1)で示される化合物、その塩及びそのプロドラッグの任意の結晶形も本発明の範囲内のものである。
【0025】
一般式(1)に包含される代表的な化合物の製造方法を本明細書の実施例に詳細かつ具体的に記載した。当業者は、実施例に記載された具体的製造方法を参照しつつ、原料化合物、反応条件、試薬などを適宜選択し、必要に応じてこれらの方法に適宜の修飾ないし改変を加えることにより、一般式(1)に包含される化合物を製造することが可能である。
【0026】
一般式(1)に包含される代表的な化合物である化合物1a、化合物1b、化合物2aおよび化合物2bの合成は、特に限定されないが、後記の実施例に記載の方法に準じて行うことができる。化合物3を脱水ジクロロメタンに溶かし冷却し、イミダゾールとクロロトリメチルシランを加えて反応させることにより、化合物4を得ることができる。化合物4を脱水アセトンに溶かし、アルゴン置換した後に冷却し、トリエチルアミンとジフェニルリン酸アジドを加えて反応させることにより化合物5を得ることができる。
【0027】
化合物5を脱水トルエンに溶かし、脱水メタノールを加えてアルゴン下、加熱還流することにより化合物1aを得ることができる。
化合物5を脱水トルエンに溶かし、脱水エタノールを加えてアルゴン下、加熱還流することにより化合物1bを得ることができる。
化合物5を脱水トルエンに溶かし、アンモニア水を加えてアルゴン下、加熱還流することにより化合物2aを得ることができる。
化合物5 を脱水トルエンに溶かし、アルゴン下攪拌し、メチルアミンを加えてアルゴン下で攪拌することにより化合物2bを得ることができる。
【0028】
本発明の化合物は、ビタミンD受容体(VDR)に結合し、VDRを活性化することができる。本発明の化合物がビタミンD受容体(VDR)に結合し、それを活性化することは、ヒト急性前骨髄球性白血病細胞HL-60に対する細胞分化誘導作用を検定することにより検証することができる。細胞分化誘導の検定アッセイは、後記する試験例1に記載の通り、 Fujii et al. Bioorg. Med. Chem. 22 (2014) 5891-5901の「4.3.1. Assay of HL-60 cell differentiation-inducing activity」に記載の方法に準じた方法により行うことができる。
【0029】
上記の通り、本発明の式(1)で示される化合物は、VDRを活性化する作用を有する。従って、式(1)で示される本発明の化合物、その塩、又はそのプロドラッグを有効成分として含む医薬は、ビタミンD受容体活性化剤、又はビタミンD作用剤として有用である。式(1)で示される本発明の化合物、その塩、又はそのプロドラッグは、ビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤として用いることができる。ビタミンD受容体関連疾患としては、例えば、くる病、骨軟化症、骨粗鬆症、腎臓障害に基づく骨疾患や副甲状腺機能低下症、乾癬などの皮膚疾患、がん(白血病、乳がん、前立腺がん、大腸がん、膵臓がんなど)、自己免疫性疾患(慢性関節リウマチ、全身性ループスエリテマトーシスなど)、感染症(結核など)、非アルコール性脂肪肝炎、非アルコール性脂肪肝疾患などが挙げられるが、特に限定されない。
【0030】
本発明の医薬、ビタミンD受容体活性化剤及びビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤の有効成分としては、一般式(1)で示される化合物、その塩、又はそのプロドラッグを用いることができる。本発明の医薬、ビタミンD受容体活性化剤及びビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤としては、上記有効成分をそのまま投与してもよいが、一般的には、上記有効成分と1種又は2種以上の製剤用添加物を含む医薬組成物を調剤して投与することが望ましい。
【0031】
本発明の医薬、ビタミンD受容体活性化剤及びビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤の投与経路は特に限定されず。経口投与でも非経口投与でもよい。非経口投与としては、静脈内、筋肉内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与などが挙げられるが特に限定されない。
【0032】
経口投与に適する医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができる。
非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点鼻剤、経皮吸収剤、軟膏剤、クリーム剤、及び貼付剤等を挙げることができる。
【0033】
製剤用添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができ、医薬組成物の形態に応じて適宜のものを選択して使用することが可能である。
【0034】
経口投与用の製剤の調製に用いることができる製剤用添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D-マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0035】
注射あるいは点滴用の製剤の調製に用いることができる製剤用添加物としては、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール、界面活性剤等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の製剤用添加物を用いることができる。
【0036】
本発明の医薬、ビタミンD受容体活性化剤及びビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤はヒトなどの哺乳動物に投与することができる。
本発明の医薬、ビタミンD受容体活性化剤及びビタミンD受容体関連疾患の予防及び/又は治療剤の投与量は患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜増減されるべきであるが、一般的には、成人一日あたりの有効成分の量として10μg/kgから5000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは100μg/kgから1000mg/kg程度の範囲である。上記投与量の薬剤は一日一回に投与してもよいし、数回(例えば、2~4回程度)に分けて投与してもよい。
【0037】
また、本発明の一般式(1)で示される化合物、その塩又はそのプロドラッグは、実験用試薬として用いることもできる。ビタミンD受容体を有する細胞、組織、器官又は動物個体を本発明の一般式(1)で示される化合物、その塩又はそのプロドラッグで処理することによって、ビタミンD受容体を活性化させることができる。ビタミンD受容体を有する細胞としては、腎臓、腸管粘膜、骨髄、骨、乳腺、皮膚、神経由来の細胞などを挙げることができるが、特に限定されない。また、株化された動物細胞にビタミンD受容体遺伝子を導入することにより得られる組換え細胞を用いることもできる。ビタミンD受容体を有する組織及び器官としては、腎臓、腸管粘膜、骨髄、リンパ組織、骨、乳腺、皮膚、神経などを挙げることができるが、特に限定されない。動物個体としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ニワトリなどを挙げることができるが、特に限定されない。ビタミンD受容体の活性化は、VDR標的遺伝子(例えば、CYP24など)の発現誘導を測定することにより、確認することができるが特に限定されない。
【0038】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【実施例0039】
略称は以下を意味する。
TMCL:クロロトリメチルシラン
DPPA:ジフェニルリン酸アジド
【0040】
[合成スキーム]
【化5】
【0041】
<化合物4の合成>
化合物3 (29 mg, 0.067 mmol)を脱水ジクロロメタン (5 mL)に溶かし、0℃に冷却した。イミダゾール (36 mg, 0.53 mmol)とクロロトリメチルシラン (44 mg, 0.40 mmol)を加え、室温で1時間30分攪拌した。反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水に加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を留去することで白色固体の化合物4 (32 mg, quant.) を得た。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 2.40 (ddd, J = 15.6, 10.2, 5.4 Hz, 1 H), 2.26 (ddd, J = 16.5, 10.5, 5.4 Hz, 1 H), 1.96-1.92 (m, 1 H), 1.87-1.77 (m, 3 H), 1.74-1.70 (m, 1 H), 1.59-1.54 (m, 1H), 1.46-0.94 (m, 23 H), 1.22 (s, 3H), 0.92 (d, J = 6.6 Hz, 3 H), 0.90 (s, 3 H), 0.64 (s, 3 H), 0.10 (s, 9 H).
【0042】
<化合物5の合成>
化合物4 (23 mg, 0.045 mmol)を脱水アセトン (8 mL)に溶かし、アルゴン置換した後0℃に冷却した。トリエチルアミン (15 μL, 0.11 mmol)とジフェニルリン酸アジド (20 μL, 0.093 mmol)を加え、0℃で2時間攪拌した。反応液を飽和食塩水にあけ、ジクロロメタンで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後に溶媒を留去することで粗生成物5 (206 mg, 53%) を得た。精製を行わずに次の反応に進んだ。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 2.37 (ddd, J = 14.7, 11.1, 4.8 Hz, 1 H), 2.26 (ddd, J = 15.0, 9.9, 6.6 Hz, 1 H), 1.95-1.90 (m, 1 H), 1.87-1.72 (m, 5 H), 1.59-0.94 (m, 23 H), 1.22 (s, 3H), 0.90 (d, J = 6.6 Hz, 3 H), 0.90 (s, 3 H), 0.63 (s, 3 H), 0.09 (s, 9 H).
【0043】
<化合物1aの合成>
化合物5 (313 mg)を脱水トルエン (8 mL)に溶かし、脱水メタノール (50 μL, 1.24 mmol)を加えてアルゴン下、90℃で17時間加熱還流した。室温に戻した後に反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を留去したのち、PTLC (AcOEt : n-hexane = 1 : 5)で精製し、n-へキサンで再結晶を行うことで白色固体状の化合物1a (3.0 mg)を得た。
化合物1a:1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ4.54 (br, 1 H), 3.64 (s, 3 H), 3.28-3.21 (m, 1 H), 3.12-3.06 (m, 1 H), 1.95-1.91 (m, 1 H), 1.86-1.77 (m, 3 H), 1.75-1.71 (m, 1 H), 1.60-0.95 (m, 28 H), 1.21 (s, 3 H), 0.93 (d, J = 6.6 Hz, 3 H), 0.89 (s, 3 H), 0.62 (s, 3 H) ; 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 157.00, 71.44, 56.44, 56.06, 51.93, 51.18, 43.50, 42.68, 40.41, 40.10, 38.52, 37.38, 36.01, 35.85, 35.75, 34.93, 34.63, 33.68, 29.97, 29.93, 29.72, 28.31, 27.35, 26.40, 24.11, 23.92, 20.72, 18.53, 11.93; HRMS calcd for C29H51NNaO3 (M + Na)+ 484.3766, found 484.3761.
【0044】
<化合物1bの合成>
化合物5 (207 mg)を脱水トルエン (6 mL)に溶かし、脱水エタノール (50 μL)を加えてアルゴン下、70℃で46時間加熱還流した(0.8563 mmol, 16.4 eq.)。室温に戻した後に反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を留去したのち、 PTLC (AcOEt : n-hexane = 1 : 5)で精製し、n-へキサンで再結晶を行うことで白色固体状の化合物1b (4.4 mg)を得た。
化合物1b:1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ4.53 (br, 1 H), 4.1 (q, J = 7.2, 6.6 Hz, 2 H), 3.28-3.21 (m, 1 H), 3.12-3.06 (m, 1 H), 1.95-1.91 (m, 1 H), 1.86-1.77 (m, 3 H), 1.75-1.71 (m, 1 H), 1.60-0.95 (m, 31 H), 1.22 (s, 3 H), 0.93 (d, J = 6.6 Hz, 3 H), 0.90 (s, 3 H), 0.63 (s, 3 H) ; 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 159.99, 71.67, 60.60, 56.50, 56.12, 51.24, 49.35, 43.56, 42.74, 40.46, 40.16, 37.43, 36.06, 35.90, 35.81, 34.98, 34.69, 33.74, 30.02, 29.99, 29.77, 28.36, 27.41, 26.46, 24.16, 23.97, 20.77, 18.58, 14.67, 11.98; HRMS calcd for C30H53NNaO3 (M + Na)+ 498.3906, found 498.3918.
【0045】
<化合物2aの合成>
化合物5 (313 mg)を脱水トルエン (8 mL)に溶かし、28%アンモニア水 (0.5 mL)を加えてアルゴン下、70℃で21時間加熱還流した。室温に戻した後に反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を留去したのち、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (CHCl3 : MeOH = 100 : 1)で精製し、エタノールとn-ヘキサンで再結晶を行うことで白色固体状の化合物2a (9.8 mg)を得た。
化合物2a:1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ5.77 (br, 1H), 5.29 (br, 2H), 3.04-2.99 (m, 1 H), 2.88-2.82 (m, 1 H), 1.92-1.89 (m, 1 H), 1.82-1.74 (m, 3 H), 1.69-1.66 (m, 1 H), 1.53-0.90 (m, 25 H), 1.06 (s, 6 H), 0.87 (d, J = 6.0 Hz, 3 H), 0.88 (s, 3 H), 0.61 (s, 3 H);
【0046】
<化合物2bの合成>
化合物5 を含むクルード(206 mg)を脱水トルエン (6 mL)に溶かし、アルゴン下、65℃で1 時間攪拌した。室温に戻し、メチルアミン (40%, メタノール溶液, 10 μL, 0.2901 mmol, 12.1 eq.)を加えてアルゴン下で17.5 時間攪拌した。室温に戻した後に反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を留去したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (CH2Cl2 : MeOH = 25 : 1)で精製し、エタノールとn-ヘキサンで再結晶を行うことで白色固体状の化合物2b (3.3 mg, 0.007168 mmol, 30%)を得た。
化合物2b:1H NMR (600 MHz, MD3OD) δ3.10-3.06 (m, 1 H), 2.95-2.91 (m, 1 H), 2.57 (s, 3 H), 1.92-1.88 (m, 1 H), 1.82-1.74 (m, 3 H), 1.70-1.66 (m, 1 H), 1.55-0.88 (m, 25 H), 1.08 (s, 6 H), 0.86 (d, J = 6.6 Hz, 3 H), 0.84 (s, 3 H), 0.58 (s, 3 H) ; 13C NMR (150 MHz, MD3OD) δ 147.13, 72.00, 68.35, 61.91, 57.94, 57.72, 56.35, 52.07, 45.13, 43.91, 41.88, 41.56, 38.67, 37.45, 37.25, 36.20, 35.80, 35.04, 30.98, 29.91, 29.89, 29.39, 28.61, 27.73, 25.27, 24.52, 21.91, 19.10, 12.41; HRMS calcd for C29H52N2NaO2 (M + Na)+ 483.3923, found 483.3921.
【0047】
試験例1:HL-60細胞における細胞分化誘導検定
実施例1の化合物1a及び化合物1bに関して、ヒト急性前骨髄球性白血病細胞HL-60に対する細胞分化誘導作用を検討した。比較として活性型ビタミンD3を用いた。
【0048】
細胞分化誘導の検定アッセイは、 Fujii et al. Bioorg. Med. Chem. 22 (2014) 5891-5901の「4.3.1. Assay of HL-60 cell differentiation-inducing activity」に記載の方法と同様に行った。具体的には以下の通りである。
【0049】
HL-60細胞を、5%FBS(胎児ウシ血清)、ペニシリンG及びストレプトマイシンを添加したRPMI-1640培地において、37℃、5%COで培養した。細胞は、RPMI-1640(5%FBS)で8.0×10細胞/mLに希釈し、被験化合物のエタノール溶液を、最終濃度10-10~10-5Mになるように添加した。対照の細胞は、同量のエタノールのみで処理した。1α,25-ジヒドロキシビタミンD3は陽性対照として同時にアッセイした。細胞を37℃、5%COで4日間インキュベートした。分化した細胞の割合は、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)の還元能測定により測定した。細胞は、RPMI-1640(5%FBS)と、NBT(0.2%)及び12-O-テトラデカノイルホルボール13-アセテート (TPA; 200 ng/mL)を含む同量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中において37℃で20分間インキュベートした。濃い藍色のホルマザンを含む細胞の割合を、最低限の200細胞において測定した。
NBT還元能から算出した分化した細胞の割合(%)を、図1に示す。
【0050】
図1の結果から分かるように、本発明の化合物1a及び化合物1bは、活性型ビタミンD3と同様にHL-60細胞に対する分化誘導作用が高い。
図1