(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011131
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】コンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材及びコンクリート製プレキャスト部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20230117BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20230117BHJP
E04B 1/04 20060101ALI20230117BHJP
E04B 1/61 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
E01D19/12
E04B5/02 R
E04B1/04 G
E04B1/61 502H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114770
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391010183
【氏名又は名称】極東興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】沖田 佳隆
(72)【発明者】
【氏名】可児 幸嗣
(72)【発明者】
【氏名】大河内 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】北原 慎也
(72)【発明者】
【氏名】谷 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】河金 甲
【テーマコード(参考)】
2D059
2E125
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG55
2E125AA57
2E125AE02
2E125AE07
2E125AG03
2E125AG23
2E125AG26
2E125BA02
2E125BB28
2E125BC07
2E125BE07
2E125BF05
2E125CA82
2E125EA01
2E125EB12
(57)【要約】
【課題】品質を低下させることなく、迅速に位置合わせできるとともに、安全に作業を行うことができるようにする。
【解決手段】一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面に、水平方向に所定の間隔で、平面視で溝型断面からなる溝型係合部6と、その後方に延びる雌継手アンカー部7とからなる雌継手3が縦溝5を外部に臨ませた状態で埋設され、他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面に、水平方向に所定の間隔で、先端が外部に突出形成された雄継手アンカー部9と、その先端に備えられた溝型係合部6内に挿入可能な定着部8とからなる雄継手4が埋設されている。ガイド部材は、プレキャスト床版1A、1Bの接合端面のうち、雌継手3及び雄継手4が配置されない位置に、上下方向に沿って延びるガイド溝23を備えた凹型ガイド部材21と、ガイド溝23に係合しガイド溝23に沿って移動可能なガイド凸部24を備えた凸型ガイド部材22とが、対向配置して構成される。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製プレキャスト部材同士を接合する際に用いられるガイド部材であって、
前記コンクリート製プレキャスト部材は、継手部を境に一方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、平面視で溝型断面からなる溝型係合部と、その後方に延びる雌継手アンカー部とからなる雌継手が縦溝を外部に臨ませた状態で埋設され、
継手部を境に他方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、先端が外部に突出形成された雄継手アンカー部と、その先端に備えられた前記溝型係合部内に挿入可能な定着部とからなる雄継手が埋設され、
前記ガイド部材は、前記コンクリート製プレキャスト部材の接合端面のうち、前記雌継手及び雄継手が配置されない位置に、上下方向に沿って延びるガイド溝を備えた凹型ガイド部材と、前記ガイド溝に係合し前記ガイド溝に沿って移動可能なガイド凸部を備えた凸型ガイド部材とが、対向して配置されてなることを特徴とするコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材。
【請求項2】
前記凹型ガイド部材及び凸型ガイド部材が、前記コンクリート製プレキャスト部材の接合端面に沿う方向の両端部にそれぞれ設けられている請求項1記載のコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材。
【請求項3】
前記凹型ガイド部材のガイド溝と前記凸型ガイド部材のガイド凸部との上下方向の係合長さAが、前記雌継手の溝型係合部と前記雄継手の定着部との上下方向の係合長さBより大きく設定されている請求項1、2いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材。
【請求項4】
前記凹型ガイド部材のガイド溝と前記凸型ガイド部材のガイド凸部との間隙が、これらの係合初期で大きく、これらの係合量が増すに従って徐々に小さくなるように形成されている請求項1~3いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材。
【請求項5】
前記一方側のコンクリート製プレキャスト部材に設置されたガイド部材が前記コンクリート製プレキャスト部材より上方に延出して設けられている請求項1~4いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材。
【請求項6】
上記請求項1~5いずれかに記載のガイド部材を用いたコンクリート製プレキャスト部材の接合方法であって、
前記凹型ガイド部材のガイド溝に前記凸型ガイド部材のガイド凸部を係合させながら、前記雌継手の溝型係合部に前記雄継手の定着部を挿入し、コンクリート製プレキャスト部材同士を結合した状態とした後、前記凹型ガイド部材及び凸型ガイド部材を取り外し、前記溝型係合部の内部空間及び溝型係合部の上部側空間及び/又は下部側空間と、一方側のコンクリート製プレキャスト部材と他方側のコンクリート製プレキャスト部材との間隙部分にグラウト材を充填することを特徴とするコンクリート製プレキャスト部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の床版などのコンクリート製プレキャスト部材同士を接合する際に用いられるガイド部材及びそれを用いたコンクリート製プレキャスト部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋梁などの床版取替え工事では、工期の短縮を図るために工場や現場ヤードなどで製作されたコンクリート製プレキャスト床版が用いられている。このコンクリート製プレキャスト床版同士を接続する継手構造としては、従来から種々の構造のものが提案され実用化されている。
【0003】
本出願人は、先の出願(下記特許文献1)において、コンクリート製プレキャスト部材同士を接合するための継手構造として、
継手部を境に一方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、平面視で溝型断面からなる溝型係合部と、その後方に延びる雌継手アンカー部とからなる雌継手が縦溝を外部に臨ませた状態で埋設され、
継手部を境に他方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、先端が外部に突出形成された雄継手アンカー部と、その先端に備えられた前記溝型係合部内に挿入可能な定着部とからなる雄継手が埋設され、
一方側のコンクリート製プレキャスト部材の雌継手に、他方側のコンクリート製プレキャスト部材の雄継手が係合し、コンクリート製プレキャスト部材同士を結合した状態とし、前記溝型係合部の内部空間及び溝型係合部の上部側空間及び/又は下部側空間と、一方側のコンクリート製プレキャスト部材と他方側のコンクリート製プレキャスト部材との間隙部分にグラウト材が充填されており、
前記溝型係合部が上下方向に長い縦長の形状で形成されるとともに、前記定着部が上下方向に長い縦長の形状で形成され、かつ前記雄継手アンカー部が上下方向平面に沿った平板形状で形成されている継手構造を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の継手構造では、先行床版の雌継手に、クレーンで吊り降ろししながら後行床版の雄継手を嵌合させているが、この際、雌継手と雄継手との余裕代は10~20mmと小さく、このような継手部を接合端面に沿って300~600mmのピッチで配置した場合、幅12mの床版では合計20~40個と多数になるため、以下の問題が生じていた。
【0006】
雌継手と雄継手の余裕代が小さく、このような継手部が接合端面に沿って多数設けられているため、雌継手と雄継手とを嵌合させる際の位置合わせに時間がかかり、施工性が低下する。
【0007】
床版から突出する雄継手を雌継手に挿入する際、両者の衝突により、部品の変形や破損のおそれがあるとともに、各継手の耐久性向上のために塗布されたエポキシ樹脂等からなる表面保護膜が剥離するおそれがあり、品質の低下が懸念される。
【0008】
また、床版同士の接合端面に多数の継手が配置されているため、吊り降ろし作業の位置調整に多くの作業員が必要となり、作業員の手足の挟まれなどの事故発生リスクが高まり、作業の安全性が低下する問題がある。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、コンクリート製プレキャスト部材の設置に当たって、品質を低下させることなく、迅速に位置合わせできるようにするとともに、安全に作業を行うことができるようにしたコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材及びコンクリート製プレキャスト部材の接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、コンクリート製プレキャスト部材同士を接合する際に用いられるガイド部材であって、
前記コンクリート製プレキャスト部材は、継手部を境に一方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、平面視で溝型断面からなる溝型係合部と、その後方に延びる雌継手アンカー部とからなる雌継手が縦溝を外部に臨ませた状態で埋設され、
継手部を境に他方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、先端が外部に突出形成された雄継手アンカー部と、その先端に備えられた前記溝型係合部内に挿入可能な定着部とからなる雄継手が埋設され、
前記ガイド部材は、前記コンクリート製プレキャスト部材の接合端面のうち、前記雌継手及び雄継手が配置されない位置に、上下方向に沿って延びるガイド溝を備えた凹型ガイド部材と、前記ガイド溝に係合し前記ガイド溝に沿って移動可能なガイド凸部を備えた凸型ガイド部材とが、対向して配置されてなることを特徴とするコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、前記コンクリート製プレキャスト部材の接合端面のうち、前記雌継手及び雄継手が配置されない位置に、上下方向に沿って延びるガイド溝を備えた凹型ガイド部材と、前記ガイド溝に係合し前記ガイド溝に沿って移動可能なガイド凸部を備えた凸型ガイド部材とが、対向して配置されているため、後行するコンクリート製プレキャスト部材を吊り降ろししながら雌継手の溝型係合部に雄継手の定着部を挿入する際、凸型ガイド部材のガイド凸部が凹型ガイド部材のガイド溝に沿って案内され、後行するコンクリート製プレキャスト部材の位置合わせが容易となる。したがって、雌継手の溝型係合部と雄継手の定着部との間の余裕代が小さい場合でも、施工性が低下するのが抑制され、工期短縮の効果が見込まれる。
【0012】
また、ガイド部材が直接的に雌継手や雄継手に接触してこれらをガイドするのではなく、ガイド部材が、コンクリート製プレキャスト部材の接合端面のうち、前記雌継手及び雄継手が配置されない位置に設けられているため、ガイド部材が直接的に雌継手や雄継手に接触せず、雌継手や雄継手がガイド部材に衝突するのが防止できるとともに、前記ガイド部材同士の係合によってガイドしているため、雌継手と雄継手が衝突するのも防止でき、継手の変形や破損のおそれがないとともに、各継手の表面に塗布された表面保護膜の剥離が生じなくなり、構造物の品質が維持でき、耐久性が低下するのが抑えられる。
【0013】
更に、前記凹型ガイド部材と凸型ガイド部材との係合によってガイドされながらコンクリート製プレキャスト部材の吊り降ろし作業が行われるため、位置調整に必要な作業員の数が少なくて済み、事故発生リスクが低減し、安全に作業を行うことができるようになる。
【0014】
請求項2に係る本発明として、前記凹型ガイド部材及び凸型ガイド部材が、前記コンクリート製プレキャスト部材の接合端面に沿う方向の両端部にそれぞれ設けられている請求項1記載のコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材が提供される。
【0015】
上記請求項2記載の発明では、前記凹型ガイド部材及び凸型ガイド部材を、コンクリート製プレキャスト部材の接合端面に沿う方向の両端部の2箇所にそれぞれ配置し、中間部には配置していないため、位置合わせにかかる時間の短縮を図ることができるととも、安全に作業を行うことができるようになる。
【0016】
請求項3に係る本発明として、前記凹型ガイド部材のガイド溝と前記凸型ガイド部材のガイド凸部との上下方向の係合長さAが、前記雌継手の溝型係合部と前記雄継手の定着部との上下方向の係合長さBより大きく設定されている請求項1、2いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材が提供される。
【0017】
上記請求項3記載の発明では、前記凹型ガイド部材のガイド溝と前記凸型ガイド部材のガイド凸部との上下方向の係合長さAを、前記雌継手の溝型係合部と前記雄継手の定着部との上下方向の係合長さBより大きく設定しているため、後行するコンクリート製プレキャスト部材を吊り降ろししながらコンクリート製プレキャスト部材同士を接合する際、前記凹型ガイド部材と凸型ガイド部材とが先行して係合し、その後、これらのガイド部材によってガイドされた状態で、雌継手の溝型係合部に雄継手の定着部が挿入するようになる。したがって、後行するコンクリート製プレキャスト部材が前記ガイド部材同士の係合によって確実に案内され、雌継手と雄継手の位置合わせにかかる時間が短縮できるとともに、これらの衝突が防止できる。
【0018】
請求項4に係る本発明として、前記凹型ガイド部材のガイド溝と前記凸型ガイド部材のガイド凸部との間隙が、これらの係合初期で大きく、これらの係合量が増すに従って徐々に小さくなるように形成されている請求項1~3いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材が提供される。
【0019】
上記請求項4記載の発明では、前記凹型ガイド部材のガイド溝と前記凸型ガイド部材のガイド凸部との間隙が、これらの係合初期で大きく、これらの係合量が増すに従って徐々に小さくなるように形成されているため、前記ガイド部材同士が係合しやすくなるとともに、雌継手と雄継手が中心位置に配置されやすくなる。
【0020】
請求項5に係る本発明として、前記一方側のコンクリート製プレキャスト部材に設置されたガイド部材が前記コンクリート製プレキャスト部材より上方に延出して設けられている請求項1~4いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト部材の接合用ガイド部材が提供される。
【0021】
上記請求項5記載の発明では、前記一方側のコンクリート製プレキャスト部材に設置されたガイド部材がコンクリート製プレキャスト部材より上方に延出して設けられているため、凹型ガイド部材と凸型ガイド部材とが確実に先行して係合し、これらのガイド部材の係合によってコンクリート製プレキャスト部材がガイドされた状態で雌継手と雄継手が係合するようになる。
【0022】
請求項6に係る本発明として、上記請求項1~5いずれかに記載のガイド部材を用いたコンクリート製プレキャスト部材の接合方法であって、
前記凹型ガイド部材のガイド溝に前記凸型ガイド部材のガイド凸部を係合させながら、前記雌継手の溝型係合部に前記雄継手の定着部を挿入し、コンクリート製プレキャスト部材同士を結合した状態とした後、前記凹型ガイド部材及び凸型ガイド部材を取り外し、前記溝型係合部の内部空間及び溝型係合部の上部側空間及び/又は下部側空間と、一方側のコンクリート製プレキャスト部材と他方側のコンクリート製プレキャスト部材との間隙部分にグラウト材を充填することを特徴とするコンクリート製プレキャスト部材の接合方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
以上詳説のとおり本発明によれば、コンクリート製プレキャスト部材の設置に当たって、品質を低下させることなく、迅速に位置合わせができるようになるとともに、安全に作業を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】コンクリート製プレキャスト床版1A、1Bを示す平面図である。
【
図8】雌継手3を示す、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は左側面図、(D)は右側面図、(E)は(B)のE-E断面図である。
【
図10】雄継手4を示す、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は左側面図、(D)は右側面図である。
【
図13】凹型ガイド部材21を示す、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図である。
【
図14】凸型ガイド部材22を示す、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図である。
【
図15】プレキャスト床版の接合要領手順図(その1)である。
【
図16】プレキャスト床版の接合要領手順図(その2)である。
【
図17】プレキャスト床版の接合要領手順図(その3)である。
【
図18】第2形態例に係るガイド部材の断面図である。
【
図19】第2形態例に係る凹型ガイド部材21’を示す、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図である。
【
図20】プレキャスト床版の接合要領手順図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0026】
本発明は、コンクリート製プレキャスト床版(以下、単にプレキャスト床版という。)同士を接合する際に用いられるガイド部材である。プレキャスト床版同士の接合に機械式継手構造を採用した場合、一般に、従来のループ継手や合理化継手に比べて、間詰部の鉄筋の設置を無くしたため省力化が図れるとともに、間詰め材の低減などにより大幅な工期短縮が図れるようになるが、継手自体が高価であり工費が嵩むとともに、位置合わせに高い精度が要求されるなどの欠点がある。そこで、本発明では、先行するプレキャスト床版と後行するプレキャスト床版とにそれぞれガイド部材を設置し、これらのガイド部材を係合させながら、後行するプレキャスト床版を吊り降ろすことにより、位置合わせの施工性に優れたガイド部材を提案するものである。
【0027】
(継手構造)
先ずはじめに、プレキャスト床版同士を接合する継手構造について説明すると、継手構造は、具体的には、
図1~
図3に示されるように、継手部2を境に一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面に、水平方向(橋軸直角方向)に所定の間隔で、平面視で溝型断面からなる溝型係合部6と、その後方に延びる雌継手アンカー部7とからなる雌継手3が縦溝5を外部に臨ませた状態で埋設され、継手部2を境に他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面に、水平方向に所定の間隔で、先端が外部に突出形成された雄継手アンカー部9と、その先端に備えられた前記雌継手3の溝型係合部6内に挿入可能な定着部8とからなる雄継手4が埋設され、
図4~
図7に示されるように、一方側のプレキャスト床版1Aの雌継手3に、他方側のプレキャスト床版1Bの雄継手4を係合させて、つまり雌継手3の溝型係合部6に雄継手4の定着部8を挿入して両床版を結合した状態とし、前記溝型係合部6の内部空間IS、溝型係合部6の上部側空間US及び一方側のプレキャスト床版1Aと他方側のプレキャスト床版1Bとの間隙部分Mにグラウト材18が充填されている。
【0028】
以下、さらに具体的に詳述する。
先ず、前記一方側のプレキャスト床版1Aに設けられた雌継手3について、
図4~
図8に基づいて詳述する。
【0029】
前記雌継手3は、詳細には
図8に示されるように、前側の端面に縦溝5が形成された、平面視で溝型断面からなる溝型係合部6と、前記溝型係合部6の前記縦溝5が形成された端面と対峙する端面から後方に向けて延びる雌継手アンカー部7とで構成された、金属製の部材である。
【0030】
前記溝型係合部6は、上面が開口するとともに、この開口する上面と連通して、前側の面に上下方向に沿う前記縦溝5が形成された箱形の形状を成している。前記溝型係合部6は、上面と同じように底面も開口させてもよいが、
図8(E)に示されるように、底部を閉塞する底板を設けることにより、有底の溝型断面とするのが好ましい。これにより、溝型係合部6の両側への開きが防止できるようになる。また、前記溝型係合部6の底面の中央部には、充填物連通用の開孔(図示せず)を設けてもよい。
【0031】
前記溝型係合部6は、上下方向に長い縦長の形状で形成されている。すなわち、
図8(B)に示される平面視における幅W及び奥行きCより、
図8(A)に示される正面視における高さHの方が大きな寸法で形成されている。前記溝型係合部6の高さHは、前記幅W又は奥行きCに対して、1.2~3倍、好ましくは1.5~2倍とするのがよい。また、前記溝型係合部6の高さHは、プレキャスト床版1Aの厚みに対して、50~90%、好ましくは60~80%程度がよく、プレキャスト床版1Aの厚み方向のほぼ中央位置に配置するのがよい。
【0032】
図8に示されるように、前記溝型係合部6の幅寸法Wは、概ね80~150mm、好ましくは100~130mmとされ、奥行き寸法Cは、前記幅寸法Wと同等以下とするのが好ましく、概ね60~120mm、好ましくは70~100mmとされる。
【0033】
図8(D)に示されるように、前記溝型係合部6に形成された縦溝5の幅Sは、20~60mm、好ましくは30~50mmとされ、後述する雄継手4を構成する雄継手アンカー部8の厚みに対して110~220%、好ましくは120~200%の寸法とされる。この雄継手アンカー部8の厚みに対する比率は、製作誤差ないし施工誤差の許容幅が密接に関係するため適切な数値範囲とすることが望ましい。また、この比率を大きくし過ぎると雄継手4の定着部8との掛かりが小さくなり、接合強度が低下するため所定の比率で形成することが望ましい。
【0034】
前記縦溝5は、溝型係合部6の上端縁から下端縁まで上下方向に貫通して形成してもよいが、
図8に示されるように、上端縁から下方向に途中までの長さで形成したU字状の縦溝とするのが好ましい。U字状の縦溝として下端部を接続することにより、縦溝5の両側への開きが防止できる。また、前記縦溝5は、
図8(D)に示されるように、全長に亘ってほぼ等幅に形成してもよいし、図示しないが、前記縦溝5の上端部に、上方に向けて徐々に溝幅が大きくなる傾斜部を設けてもよい。
【0035】
図4及び
図5に示されるように、一方側のプレキャスト床版1Aと他方側のプレキャスト床版1Bとを接合した状態では、他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面に突出形成された雄継手アンカー部8が前記縦溝5に挿入されるとともに、前記雄継手アンカー部8の先端に設けられた定着部8が前記溝型係合部6の内部空間に挿入されるようになっている。
【0036】
前記溝型係合部6の後方に延びる雌継手アンカー部7は、
図8に示されるように、上下方向平面に沿った平板形状で形成するのが好ましい。前記雌継手アンカー部7は、前記溝型係合部6の縦溝5が形成された壁面と対峙する壁面の中央部から所定の長さで後方に延びている。前記雌継手アンカー部7の後端には、両側に突出して、接合端面と平行する平面に沿った平板形状からなる後端定着部7aが設けられている。
【0037】
前記雌継手アンカー部7の高さ寸法は、全長に亘ってほぼ等幅で形成するのが好ましく、溝型係合部6の高さHに対して30~100%、好ましくは40~60%とするのがよい。
【0038】
前記雌継手アンカー部7は、プレキャスト床版1Aに配置された橋軸方向鉄筋15とは独立して配置するのが好ましい。つまり、雌継手3に作用する橋軸方向の応力は、実質的に雌継手アンカー部7のみによって支持されており、橋軸方向鉄筋15には作用していない。このように、雌継手アンカー部7を橋軸方向鉄筋15とは独立して設けることにより、橋軸方向鉄筋15の配置などにおいて設計の自由度が向上できるとともに、橋軸方向鉄筋15と接続する場合には、曲線や傾斜する鉄筋に対しての適用が困難となるが、鉄筋から独立して配置される本発明に係る雌継手3の場合は、隣り合う鉄筋に支障が出ない程度であれば適用が可能となる。
【0039】
また、雌継手アンカー部7の橋軸方向の長さは、溝型係合部6の奥行きCに対して、1.2~3倍、好ましくは1.5~2倍とするのがよく、プレキャスト床版1Aの橋軸方向の全長に亘って設ける必要はない。このように、雌継手アンカー部7の長さが短く、橋軸方向鉄筋15に接続していないため、プレキャスト床版1Aの製作時における取扱いが容易となり、ハンドリング性が良好となる。
【0040】
前記雌継手3を一方側のプレキャスト床版1Aに配置するには、
図4及び
図5に示されるように、溝型係合部6が、上面の開口部及び縦溝5を接合端面から外部に臨ませた状態で埋設され、前記雌継手アンカー部7が、プレキャスト床版1Aの躯体内部に完全に埋設された状態で配置する。
【0041】
前記雌継手3の製造法としては、形状の自由度を高くできる金型鋳造法によって製作するのが望ましい。これによって、前記溝型係合部6と雌継手アンカー部7とが一体的に形成でき、継手部本体とアンカー部とを溶接や圧接又はボルト締結などによることなく一体化することで、構造が安定化するとともに、疲労損傷の懸念がなくなり、高強度の継手構造が得られるとともに、プレキャスト床版1Aの製作が容易となる。また、金型鋳造法によって製作することによって、コンクリートとの付着強度が増加し、雌継手3の定着性が良好となる。
【0042】
次に、前記他方側のプレキャスト床版1Bに設けられた雄継手4について、
図4~
図6、
図9及び
図10に基づいて説明する。
【0043】
前記雄継手4は、詳細には
図9及び
図10に示されるように、先端側がプレキャスト床版1Bの接合端面から突出して設けられ、基端側がコンクリートに埋設される雄継手アンカー部9と、この雄継手アンカー部9の突出する先端に備えられ、前記雌継手3の溝型係合部6内に挿入可能な定着部8とから構成された、金属製の部材である。
【0044】
前記定着部8は、
図10(B)に示される平面視で、前記雄継手アンカー部9より両側に突出した幅広部分であり、前記雌継手3の溝型係合部6の内部空間に上面開口部から下方に向けて挿入可能に形成されている。
【0045】
前記定着部8は、上下方向に長い縦長の形状で形成されている。すなわち、
図10(B)に示される平面視における定着部8の幅Dより、
図10(A)に示される正面視における定着部8の高さKの方が大きな寸法で形成されている。前記定着部8の高さKは、前記溝型係合部6の高さHに対して、60~90%、好ましくは70~80%とするのがよく、
図5に示されるように、プレキャスト床版1A、1Bを接合した状態で、溝型係合部6の上下方向のほぼ中央に配置されるようにするのがよい。
【0046】
前記定着部8の幅Dは、上下方向の全長に亘ってほぼ等幅に形成され、その後方に延びる雄継手アンカー部9の両側からそれぞれほぼ同等の突出幅を有するように形成されている。前記定着部8の幅Dは、溝型係合部6に形成された縦溝5の幅Sより大きな寸法で形成され、
図6に示されるように、定着部8を溝型係合部6に挿入した状態で、接合端面と直交する方向(橋軸方向)に対して、定着部8の両側部と縦溝5の両側とが重なり代Uを有するようになっている。この重なり代Uが定着部8の高さ方向の全長に亘って形成されるため、雌継手3と雄継手4との係合面積が大きくなり、雌継手3と雄継手4との接合強度を高めることができるようになる。
【0047】
前記定着部8の後方に延びる前記雄継手アンカー部9は、上下方向平面に沿った平板形状で形成されている。このような平板形状からなる雄継手アンカー部9は、一端が他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面から突出し、定着部8の幅方向中央部に上下方向に沿って接続され、他端が他方側のプレキャスト床版1Bの躯体内部に埋設された状態で配置されている。前記雄継手アンカー部9の後端には、
図10(B)に示される平面視で両側に突出して、接合端面と平行する平面に沿った平板形状からなる後端定着部9aが設けられている。
【0048】
前記雄継手アンカー部9と定着部8とは、これらの接続部において、雄継手アンカー部9の高さと定着部8の高さとがほぼ同等に形成され、両者の上下端がほぼ一致するように形成するのが好ましい。これにより、定着部8に作用する応力を雄継手アンカー部9の全体でほぼ均等に受け持つことができるようになる。
【0049】
前記雄継手アンカー部9の高さは、
図10(A)に示される形態例では、中間部より後方を相対的に小さな高さで形成している。相対的に大きな高さで形成された前方部の高さに対して、相対的に小さな高さで形成された後方部の高さの割合は、40~80%、好ましくは55~75%とするのがよい。高さを変化させる際、急激に高さが変化する段差部などを設けると、そこに応力が集中し損傷の原因となるため、図示例のように徐々に高さが変化する傾斜部9bを設けるのが好ましい。この傾斜部9bの勾配としては、雄継手アンカー部9が延びる方向に対して30%以下、好ましくは20%以下とするのがよい。前記傾斜部9bは、雄継手アンカー部9の上下端のいずれか一方に設けてもよいが、図示例のように、上下両方の端縁に設けることによりテーパ状に形成するのが好ましい。前記傾斜部9bは、前記雄継手アンカー部9のうちプレキャスト床版1Bのコンクリートに埋設された部分に形成するのが好ましく、接合端面から突出する部分では、前記定着部8の高さKとほぼ同じ一定の高さで形成するのが好ましい。一方、図示しないが、前記雄継手アンカー部9が全長に亘ってほぼ均等の高さとなるように形成してもよい。これにより、雄継手アンカー部9の定着強度を更に高めることができる。このとき、前記雄継手アンカー部9の前側端縁及び後側端縁に接続される定着部8及び後端定着部9aは、前記雄継手アンカー部9の高さとほぼ同じ高さで形成するのが好ましい。
【0050】
前記雄継手アンカー部9の板厚Tは、全長に亘ってほぼ一定の寸法で形成してもよいし、変化させてもよい。いずれにしても、前記溝型係合部6の縦溝5の幅Sより小さな寸法で形成されている。
【0051】
前記雄継手4の製造法としては、鋼板を溶接などで接合して製作してもよいが、形状の自由度を高くできる金型鋳造法によって製作するのが望ましい。金型鋳造法で製作することによって、前記定着部8と雄継手アンカー部9とが一体的に形成でき、継手部本体とアンカー部とを溶接や圧接又はボルト締結などによることなく一体化することで、構造が安定化するとともに、疲労損傷の懸念がなくなり、高強度の継手構造が得られるとともに、プレキャスト床版1Bの製作が容易となる。また、金型鋳造法によって製作することによって、コンクリートとの付着強度が増加し、雄継手4の定着性が良好となる。
【0052】
(ガイド部材)
次いでガイド部材について、
図11~
図14に基づいて説明する。前記ガイド部材は、プレキャスト床版1A、1B同士を接合する際に、プレキャスト床版1A、1Bの接合端面に取り付けられるものである。プレキャスト床版1A、1Bの接合端面とは、前記雌継手3及び雄継手4を係合させて一方側のプレキャスト床版1Aと他方側のプレキャスト床版1Bとを対峙させた状態で、プレキャスト床版1A、1B同士の間隙部分Mにおける対向するコンクリート面のことである。
【0053】
具体的に、前記ガイド部材は、プレキャスト床版1A、1Bの接合端面のうち、前記雌継手3及び雄継手4が配置されない位置に、上下方向に沿って延びるガイド溝23を備えた凹型ガイド部材21と、前記ガイド溝23に係合し前記ガイド溝23に沿って移動可能なガイド凸部24を備えた凸型ガイド部材22とが、対向して配置されてなるものである。前記プレキャスト床版1A、1Bには、いずれか一方に、前記凹型ガイド部材21が固設され、他方に前記凸型ガイド部材22が固設されている。図示例では、一方側のプレキャスト床版1Aに凹型ガイド部材21が固設され、他方側のプレキャスト床版1Bに凸型ガイド部材22が固設されているが、これとは逆に、一方側のプレキャスト床版1Aに凸型ガイド部材22を固設し、他方側のプレキャスト床版1Bに凹型ガイド部材21を固設してもよい。
【0054】
各部材について更に詳細に説明すると、前記凹型ガイド部材21は、
図13に示されるように、一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面に沿って配置され、外面に前記ガイド溝23が形成されたガイド面部21aと、前記ガイド面部21aの上端から直交して延びるとともに、一方側のプレキャスト床版1Aの上面に沿って配置され、前記プレキャスト床版1Aに対する固定部が形成された固定面部21bとからなる断面略L形の部材を含んで構成されている。かかる部材の一例としては、汎用品である山形鋼(アングル)が好ましく用いられる。
【0055】
前記ガイド面部21aの外面には、上下方向中心線CLの両側に離隔して、それぞれ上下方向のほぼ全長に亘る板材25、25が積層して固設され、これら板材25、25の離隔部によって前記ガイド溝23が形成されている。前記板材25は、ガイド面部21aの外面に、溶接、接着等の公知の接合手段によって固設されている。
【0056】
一方、前記固定面部21bには、
図12に示されるように、一方側のプレキャスト床版1Aの上面に突設されたアンカーボルト30が挿通可能な1又は複数の通孔21cが形成されている。前記凹型ガイド部材21は、前記アンカーボルト30の上端部に通孔21cを挿通した後、上部からナットを螺合することによって、一方側のプレキャスト床版1Aに固設されている。
【0057】
なお、前記固定面部21bと一方側のプレキャスト床版1Aとの間には、
図12に示されるように、山形鋼からなる凹型ガイド部材21の隅部と、プレキャスト床版1Aの角部との干渉防止のため、所定厚みのスペーサー31が配置されている。
【0058】
前記凸型ガイド部材22も上記凹型ガイド部材21と同様に、
図14に示されるように、他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面に沿って配置され、外面に前記ガイド凸部24が形成されたガイド面部22aと、前記ガイド面部22aの上端から直交して延びるとともに、他方側のプレキャスト床版1Bの上面に沿って配置され、前記プレキャスト床版1Bに対する固定部が形成された固定面部22bとからなる断面略L形の部材を含んで構成されている。かかる部材の一例としては、汎用品である山形鋼(アングル)が好ましく用いられる。
【0059】
前記ガイド面部22aの外面には、上下方向中心線CL上に前記ガイド凸部24を形成する凸部材26が積層して固設されている。図示例では、前記凸部材26がガイド面部22aの上下方向の全長に亘る長方形の板材によって構成されるが、前記ガイド溝23に係合可能であれば、ガイド面部22aにおける上下方向の一部のみに配置された部材、例えばガイド面部22aの上下方向中心線CLの下端部に設けられた円板などによって構成することもできる。前記凸部材26は、前記ガイド面部22aの外面に、溶接、接着等の公知の接合手段によって固設されている。
【0060】
前記固定面部22bには、
図12に示されるように、他方側のプレキャスト床版1Bの上面に突設されたアンカーボルト32が挿通可能な1又は複数の通孔22cが形成されている。前記凸型ガイド部材22は、前記アンカーボルト32の上端部に通孔22cを挿通した後、上部からナットを螺合することによって、他方側のプレキャスト床版1Bに固設されている。
【0061】
なお、前記固定面部22bと他方側のプレキャスト床版1Bとの間には、
図12に示されるように、山形鋼からなる凸型ガイド部材22の隅部と、プレキャスト床版1Bの角部との干渉防止のため、所定厚みのスペーサー33が配置されている。
【0062】
前記ガイド部材を用いたプレキャスト床版の吊り降ろし作業は、前記凹型ガイド部材21のガイド溝23に前記凸型ガイド部材22のガイド凸部24を係合させながら、後行する他方側のプレキャスト床版1Bを吊り降ろす。この吊り降ろしに際しては、前記凹型ガイド部材21と凸型ガイド部材22とが係合するため、吊り降ろされる他方側のプレキャスト床版1Bが、橋軸方向に対しては前記凹型ガイド部材21が凸型ガイド部材22に当接することにより位置決めが行われるとともに、橋軸直角方向に対しては前記ガイド溝23にガイド凸部24が係合することにより所定の振れ幅に抑えられるようになる。
【0063】
図12に示されるように、継手部2を挟んでプレキャスト床版1A、1B同士を対峙させた状態で、プレキャスト床版1A、1Bの接合端面間で係合する凹型ガイド部材21及び凸型ガイド部材22の合計厚みVが、継手部2の幅E(プレキャスト床版1A、1B間の離隔幅)とほぼ一致する寸法で形成するのが好ましい。これにより、係合する前記凹型ガイド部材21及び凸型ガイド部材22をスペーサーとして、これらガイド部材同士を係合させながらプレキャスト床版1A、1Bを設置するだけで、継手部2の幅Eを特に調整することなく位置合わせができるようになる。
【0064】
前記凹型ガイド部材21及び凸型ガイド部材22からなるガイド部材は、プレキャスト床版1A、1Bの接合端面に1又は複数設けることができるが、特に、プレキャスト床版1A、1Bの接合端面に沿う方向の両端部にそれぞれ設けるのが好ましい。つまり、プレキャスト床版1A、1Bの接合端面のうち、橋軸直角方向の両端部にそれぞれ1箇所ずつ、合計2箇所に設けるのがよい。これにより、前記ガイド部材21、22が設けられた2箇所の位置合わせを行うだけで全ての雌継手3と雄継手4の位置合わせが可能になるので、位置合わせにかかる時間の短縮を図ることができるとともに、吊り降ろし作業に必要な作業員の数を大幅に削減できるので、作業員の手足の挟まれによる事故発生のリスクが低減でき、安全に作業を行うことができるようになる。
【0065】
図12に示されるように、凹型ガイド部材21のガイド溝23と凸型ガイド部材22のガイド凸部24との上下方向の係合長さAが、
図5に示されるように、雌継手3の溝型係合部6と雄継手4の定着部8との上下方向の係合長さBより大きくなるように形成するのが好ましい。前記係合長さAは、
図15(A)に示されるように、他方側のプレキャスト床版1Bを吊り降ろししたとき、凹型ガイド部材21と凸型ガイド部材22とが係合し始める位置から、一方側のプレキャスト床版1Aと他方側のプレキャスト床版1Bとが対峙する吊り降ろし完了位置までの上下方向の長さである。また、前記係合長さBは、他方側のプレキャスト床版1Bを吊り降ろししたとき、雄継手4の定着部8が雌継手3の溝型係合部6に挿入し始める位置から、一方側のプレキャスト床版1Aと他方側のプレキャスト床版1Bとが対峙する吊り降ろし完了位置までの上下方向の長さである。前記係合長さAを係合長さBより大きくすることにより、他方側のプレキャスト床版1Bを吊り降ろししてプレキャスト床版1A、1B同士を接合する際、
図15(A)に示されるように、凹型ガイド部材21と凸型ガイド部材22とが先行して係合され、このときの雌継手3と雄継手4は、
図15(B)に示されるように係合しておらず、その後更に吊り降ろすことによって、雌継手3の溝型係合部6に雄継手4の定着部8が挿入するようになる。このため、吊り降ろし設置される他方側のプレキャスト床版1Bがガイド部材21、22同士の係合によって確実に案内され、雌継手3と雄継手4の衝突が防止できるとともに、これらの位置調整が容易にできる。両者の係合長さの差(A-B)としては、5~100mm、好ましくは10~50mmとするのがよい。
【0066】
前記凹型ガイド部材21のガイド溝23と前記凸型ガイド部材22のガイド凸部24との橋軸直角方向の間隙は、上下方向の全長に亘って一定としてもよいが、
図13(A)及び
図14(A)に示されるように、これらの係合初期で大きく、これらの係合量が増すに従って徐々に小さくなるように形成するのが好ましい。これにより、係合初期ではガイド溝23にガイド凸部24が係合しやすくなるとともに、ガイド部材21、22同士の係合量が増加するに従って、橋軸直角方向の振れ幅が小さくなり、雌継手3に雄継手4がスムーズに挿入でき、雌継手3と雄継手4が中心位置に配置されるようになる。
【0067】
図示例では、先行設置された一方側のプレキャスト床版1Aに凹型ガイド部材21が取り付けられ、後行して吊り降ろし設置される他方側のプレキャスト床版1Bに凸型ガイド部材22が取り付けられており、ガイド溝23が上方に向けて拡開するテーパ状に形成されるとともに、ガイド凸部24が上下方向の全長に亘って一定の幅で形成されているが、ガイド溝23を上下方向に一定の幅で形成し、ガイド凸部24を下方に向けて先細の形状で形成した場合にも同様の効果が奏されるようになる。
【0068】
前記ガイド溝23とガイド凸部24との橋軸直角方向の間隙寸法としては、雄継手4の定着部8が雌継手3の溝型係合部6に挿入し始める吊り降ろし位置において、雌継手3と雄継手4の橋軸直角方向の隙間(余裕代)より小さくするのが好ましい。すなわち、前記凸型ガイド部材22と凹型ガイド部材21との係合初期においては、前記ガイド溝23とガイド凸部24との橋軸直角方向の間隙寸法を雌継手3と雄継手4の余裕代より大きく形成するのがよいが、その後更に吊り降ろしを行い、雄継手4の定着部8が雌継手3の溝型係合部6に挿入する段階に至った時点で、前記ガイド溝23とガイド凸部24との橋軸直角方向の間隙寸法は雌継手3と雄継手4の余裕代より小さくなるようにするのが好ましい。これにより、凹型ガイド部材21と凸型ガイド部材22との係合初期においては、これらガイド部材21、22同士が係合しやすくなるとともに、前記雌継手3と雄継手4とが係合する段階においては、これら雌継手3と雄継手4との衝突が確実に防止され、雌継手3に雄継手4がスムーズに挿入できるようになる。
【0069】
(プレキャスト床版1A、1Bの結合要領)
プレキャスト床版1A、1Bの結合要領について、
図15~
図17に基づいて説明する。
図15は、後行する他方側のプレキャスト床版1Bの吊り降ろし途中の状態を示したものであり、(A)に示されるように、凹型ガイド部材21のガイド溝23に凸型ガイド部材22のガイド凸部24が係合し始める状態を示したものである。また、
図15(B)は、そのときの雌継手3と雄継手4の位置関係を示したものである。
【0070】
予め、一方側のプレキャスト床版1Aに凹型ガイド部材21を固設するとともに、他方側のプレキャスト床版1Bに凸型ガイド部材22を固設しておく。
【0071】
次いで、設置済みの一方側のプレキャスト床版1Aに、後行する他方側のプレキャスト床版1Bを吊り降ろししながら鉛直方向に落とし込んで設置する。プレキャスト床版1Bの吊り降ろしは、
図15に示されるように、前記凹型ガイド部材21のガイド溝23に凸型ガイド部材22のガイド凸部24を係合させながら行う。
【0072】
図16に示されるように、雌継手3の溝型係合部6に雄継手4の定着部8を挿入し、プレキャスト床版1A、1B同士を結合した状態とする。その後、前記凹型ガイド部材21及び凸型ガイド部材22を取り外す。
【0073】
しかる後、
図17に示されるように、前記溝型係合部6の内部空間IS、溝型係合部6の上部側空間US及び一方側のプレキャスト床版と他方側のプレキャスト床版との間隙部分Mにグラウト材18を充填する。なお、前記グラウト材18に代えて、コンクリートを充填するようにしてもよい。
【0074】
(ガイド部材の第2形態例)
第2形態例のガイド部材については、上記形態例のガイド部材と異なる点について説明し、特に説明しない点は、上記形態例のガイド部材と同様であり、上記形態例のガイド部材の説明が適宜適用される。第2形態例に係るガイド部材は、上記形態例と比較して凹型ガイド部材21’の形態が異なる。
【0075】
第2形態例に係る凹型ガイド部材21’は、
図18及び
図19に示されるように、一方側のプレキャスト床版1Aより上方に延出して形成されている。具体的には、前記凹型ガイド部材21’は、一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面に沿うとともに、この接合端面から上方に延出して設けられ、外面に前記ガイド溝23が形成されたガイド面部21a’と、前記ガイド面部21a’の中間部から直交して延びるとともに、一方側のプレキャスト床版1Aの上面に沿って配置され、前記プレキャスト床版1Aに対する固定部が形成された固定面部21b’とからなる断面略T形の部材を含んで構成されている。かかる部材の一例としては、汎用品であるCT形綱が好ましく用いられる。
【0076】
前記ガイド面部21a’の外面には、上下方向中心線CLの両側に離隔して、それぞれ上下方向のほぼ全長に亘る板材25’、25’が積層して固設され、これら板材25’、25’の離隔部によって前記ガイド溝23が形成されている。
【0077】
前記凹型ガイド部材21’を一方側のプレキャスト床版1Aより上方に延出して形成することにより、
図20に示されるように、凹型ガイド部材21’と凸型ガイド部材22との係合開始状態で、雌継手3と雄継手4との間の距離が大きくなるため、雌継手3と雄継手4との衝突がより確実に抑えられるようになる。
【0078】
(他の形態例)
(1)上記形態例では、設置済みの先行する一方側のプレキャスト床版1Aに凹型ガイド部材21が取り付けられ、吊り降ろしながら設置される後行する他方側のプレキャスト床版1Bに凸型ガイド部材22が取り付けられていたが、これとは逆に先行する一方側のプレキャスト床版1Aに凸型ガイド部材22が取り付けられ、後行する他方側のプレキャスト床版1Bに凹型ガイド部材21が取り付けられるようにしてもよい。この場合、凹型ガイド部材21のガイド溝23と凸型ガイド部材22のガイド凸部24の間隙が、これらの係合初期で大きく、これらの係合量が増すに従って徐々に小さくなるようにするため、凹型ガイド部材21のガイド溝23を下方に向けて拡開する形状で形成するのが好ましい。
【0079】
(2)上記形態例では、一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面に雌継手3が設けられ、他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面に雄継手4が設けられているとして説明を行ったが、プレキャスト床版が3連以上接合されるようにしてもよい。3連以上のプレキャスト床版を接合する場合は、1つの矩形のプレキャスト床版の対向する一方側の面に雌継手3が設けられ、対向する他方側の面に雄継手4が設けられ、同様にして次順の後行するプレキャスト床版を順に接合していく手順で行われる。
【0080】
(3)上記形態例では、吊り降される後行するプレキャスト床版1Bに備えられた雄継手4を、設置済みの先行するプレキャスト床版1Aに備えられた雌継手3に、上方側から嵌合する施工手順としていたが、これとは逆に、吊り降ろされる後行するプレキャスト床版1Bに備えられた雌継手3を、設置済みの先行するプレキャスト床版1Aに備えられた雄継手4に、上方側から嵌合する施工手順としてもよい。この場合、雌継手3は下方側に開口する開放空間が設けられるように設置され、前側縦溝5が下端縁から上方に連続して延びるように形成されるようにするのが好ましい。この場合のグラウト材18の充填空間は、雌継手3の内部空間IS、雌継手3の下部側空間及び間隙部分Mとなる。
【0081】
(4)上記形態例では、溝型係合部6が有底の上面が開放した箱形に形成されていたが、上面及び下面が共に開放した上下方向に貫通した溝型断面で形成してもよい。この場合、溝型係合部6の上面及び下面を共に開放空間としておき、雄継手4を結合させた後、溝型係合部6の上部側空間US及び下部側空間の両方にそれぞれグラウト材18を充填する。
【0082】
(5)
図1~
図3に示されるように、一方側のプレキャスト床版1A及び他方側のプレキャスト床版1Bには、橋軸方向に合わせた位置に、橋軸方向のほぼ全長に亘って、それぞれ橋軸方向鉄筋15、17が橋軸直角方向に間隔を空けて複数配置されている。更に、これら橋軸方向鉄筋15、17の他に、橋軸直角方向鉄筋19…、橋軸直角方向PC鋼線20…などを十字方向に配設して堅固に補強を行うようにしてもよい。
【0083】
(6)前記雌継手3及び雄継手4の外面に定着用の凹凸部が設けられるようにしてもよい。この凹凸部としては、所定の方向に延びる凸条又は凹状を、該凸条又は凹状が延びる方向と直交する方向に間隔を空けて複数配置した形態とするのが好ましい。
【符号の説明】
【0084】
1A・1B…コンクリート製プレキャスト床版、2…継手部、3…雌継手、4…雄継手、5…縦溝、6…溝型係合部、7…雌継手アンカー部、8…定着部、9…雄継手アンカー部、15・17…橋軸方向鉄筋、18…グラウト材、19…橋軸直角方向鉄筋、20…橋軸直角方向PC鋼線、21…凹型ガイド部材、22…凸型ガイド部材、23…ガイド溝、24…ガイド凸部、25…板材、26…凸部材、IS…溝型係合部の内部空間、US…溝型係合部の上部側空間、M…間隙部分