(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111311
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】昇降装置の油圧回路に使用する切換弁
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20230803BHJP
B66F 3/24 20060101ALI20230803BHJP
F15B 11/024 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
E02F9/22 E
B66F3/24 K
F15B11/024 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013108
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000177184
【氏名又は名称】三陽機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】小郷 学
【テーマコード(参考)】
2D003
3H089
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003BA01
2D003CA02
2D003DA02
3H089AA33
3H089BB01
3H089BB15
3H089CC01
3H089CC12
3H089DA02
3H089DB03
3H089DB47
3H089DB49
3H089DB50
3H089GG02
3H089JJ07
3H089JJ17
(57)【要約】
【課題】リフトアームの瞬間的急下降が生じない増速上昇位置を選択可能な切換弁を提供する。
【解決手段】昇降装置のリフトアーム22を昇降するリフトシリンダ21と、リフトシリンダ21のリフトアップ作動室21aとリフトダウン作動室21bに圧油を供給する油圧ポンプ50との間に配設される切換弁(第2切換弁)52である。この切換弁は、油圧ポンプ50の圧油をリフトアップ作動室21aに供給すると共に、リフトダウン作動室21bの圧油を油圧タンク55に戻す通常上昇位置(リフトアップI)に加えて、油圧ポンプ50の圧油をリフトアップ作動室21aに供給すると共に、リフトダウン作動室21bの圧油を逆止弁70を介してリフトアップ作動室21aに対する給油路に合流させる増速上昇位置(増速リフトアップIII)を有することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降装置のリフトアームを昇降するリフトシリンダと、当該リフトシリンダのリフトアップ作動室とリフトダウン作動室に圧油を供給する油圧ポンプとの間に配設される切換弁であって、
前記油圧ポンプの圧油を前記リフトアップ作動室に供給すると共に、前記リフトダウン作動室の圧油を前記油圧タンクに戻す通常上昇位置に加えて、
前記油圧ポンプの圧油を前記リフトアップ作動室に供給すると共に、前記リフトダウン作動室の圧油を逆止弁を介して前記リフトアップ作動室に対する給油路に合流させる増速上昇位置を有することを特徴とする切換弁。
【請求項2】
請求項1の切換弁を有することを特徴とする自走式又は固定式の昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物を昇降する昇降装置の油圧回路に使用する切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
重量物を昇降する昇降装置の一例として、
図9のようにトラクタ10の前側に装着されるフロントローダ20がある。このフロントローダ20は、リフトシリンダ21によって昇降するリフトアーム22を有し、このリフトアーム22の先端に、バケット23をはじめとして、フォーク、グレーダ、ロールグラブ、コンテナバケット、ローディングフック等の各種先端アタッチメントが作業内容に応じて取り付けられる。
【0003】
リフトアーム22の先端側上部にはダンプシリンダ24が配設され、このダンプシリンダ24によって、バケット23が前傾(ダンプ作動)又は後傾(スクイ作動)するように構成されている。リフトアーム22の昇降作動とバケット23のダンプ及びスクイ作動は、
図8のようにトラクタ10の運転席に設けられた例えばジョイスティック式操作レバー25を、前後左右に操作することで行うようにしている。この操作レバー25は、リフトアーム22の昇降やバケット23のダンプ、スクイ作動の各単独操作のほか、リフトアーム22を上昇又は下降させながらバケット23をダンプ又はスクイ作動させるなど、複合操作ができるようになっている。
【0004】
フロントローダ20の油圧回路として、例えば特許文献1(特開平07-252857号公報)の油圧回路が知られている。この油圧回路は、
図11のように第1切換弁51と第2切換弁52を有する。第2切換弁52を図示のリフトアップ位置に切替えることにより、リフトシリンダ21のキャップ側(リフトアップ作動室)に圧油を供給してリフトアーム22を上昇させる。また、リフトアーム22を下降させる時は、リフトシリンダ21のヘッド側(リフトダウン作動室)に圧油を供給してリフトアーム22を下降させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リフトアーム22が上昇する速度は、トラクタポンプ流量(∝エンジン回転数)で定まる。しかしながら、バケット23に積荷がないか、積荷があっても比較的軽量の場合は、作業効率を高めるためにリフトアーム22をより速く上昇させたいという顧客ニーズがある。エンジン回転数を上げればリフトアーム22をより速く上昇させることができるが、それではエネルギーロスが大きい。
【0007】
一般に、シリンダ伸長時の負荷が軽負荷の場合に、ヘッド側の排出油をキャップ側に流入させる差動回路によって、シリンダ作動速度(伸長速度)を速くすることが行われている。しかしながら、フロントローダ20のリフトシリンダ21のように常時リフトアーム22の負荷が掛かっている場合、差動回路を組込んで
図8のジョイスティック式操作レバー25でリフトアップ作動を行うと、リフトアップ作動に切替えた瞬間にリフトアーム22が瞬間的に急下降する。すなわち、キャップ側の圧油がリフトアーム22の負荷で差動回路を介して逆にヘッド側に逃げる結果、リフトアーム22が瞬間的に「ガクン」と急下降する危険性がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、リフトアームの瞬間的急下降が生じない増速上昇位置を選択可能な切換弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る切換弁は、昇降装置のリフトアームを昇降するリフトシリンダと、当該リフトシリンダのリフトアップ作動室とリフトダウン作動室に圧油を供給する油圧ポンプとの間に配設される切換弁であって、前記油圧ポンプの圧油を前記リフトアップ作動室に供給すると共に、前記リフトダウン作動室の圧油を前記油圧タンクに戻す通常上昇位置に加えて、前記油圧ポンプの圧油を前記リフトアップ作動室に供給すると共に、前記リフトダウン作動室の圧油を逆止弁を介して前記リフトアップ作動室に対する給油路に合流させる増速上昇位置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の切換弁によれば、リフトアームの瞬間的急下降が生じない増速上昇位置を選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るフロントローダの側面図とその油圧回路(ニュートラル時)である。
【
図2】本発明の実施形態に係るフロントローダの側面図とその油圧回路(リフトアップ時)である。
【
図3】本発明の実施形態に係るフロントローダの側面図とその油圧回路(増速リフトアップ時)である。
【
図4】本発明の実施形態に係るフロントローダの側面図とその油圧回路(リフトダウン時)である。
【
図5】本発明の実施形態に係るフロントローダの側面図とその油圧回路(スクイ時)である。
【
図6】本発明の実施形態に係るフロントローダの側面図とその油圧回路(ダンプ時)である。
【
図7】変形実施形態1に係る3位置切換弁の油圧回路である。
【
図8】変形実施形態2に係る5位置切換弁の油圧回路である。
【
図9】従来のフロントローダを装着したトラクタの側面図である。
【
図10】従来のトラクタの操作レバーの操作方向を示す斜視図である。
【
図11】従来のフロントローダの側面図とその油圧回路(リフトアップ時)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る昇降装置としてのフロントローダとその油圧回路を、図面に基づいて説明する。
(●フロントローダとその油圧回路)
図1に示すように、フロントローダ20の本体を構成するリフトアーム22の先端部に、アタッチメントとしてのバケット23が支持ピン26によって回動可能に取り付けられている。リフトアーム22の基端部は、
図9のトラクタ10に固定的に設けられた支持ベースとしての支持ブラケット29に取り付けられている。
【0013】
すなわち、支持ブラケット29の上部に支持ピン30が設けられ、この支持ピン30によって、リフトアーム22の基端部が回動可能に支持されている。また、リフトアーム22の長手方向中間部の下側に設けられたブラケット32に支持ピン33が設けられ、この支持ピン33と支持ブラケット29の下部に設けられた支持ピン31との間に、リフトシリンダ21が配設されている。
【0014】
リフトシリンダ21は、片ロッド複動型の油圧シリンダであって、そのキャップ側が前記支持ピン31を介して支持ブラケット29に連結され、ヘッド側が前記支持ピン33を介してリフトアーム22のブラケット32に連結されている。
【0015】
リフトアーム22の長手方向中間部の上側にブラケット34が配設され、このブラケット34に支持ピン35が設けられている。また、リフトアーム22の先端側には、バケット23の背面に支持ピン39で連結された第1リンク40と、リフトアーム22の先端部に支持ピン41で連結された第2リンク42が配設されている。
【0016】
この第1リンク40と第2リンク42が連結ピン43によって互いに連結され、この連結ピン43と前記ブラケット34の支持ピン35との間に、ダンプシリンダ24が配設されている。ダンプシリンダ24は複動型の油圧シリンダであって、そのキャップ側が前記支持ピン35によってブラケット34に支持され、またヘッド側が連結ピン43によって第1リンク40および第2リンク42に連結されている。
【0017】
油圧源としての油圧ポンプ50はトラクタ10に装備され、この油圧ポンプ50とフロントローダ20が図示しない油圧カプラ等を介して着脱可能に接続されるようになっている。油圧ポンプ50に対して、図示するように第1切換弁51と第2切換弁52が並列状態で接続されている。
【0018】
従って、第1切換弁51と第2切換弁52は単独又は同時に操作可能である。この第1切換弁51と第2切換弁52の操作は、前述した
図10の操作レバー25で行うことができる。
【0019】
油圧ポンプ50の出口側にはリリーフ弁49が接続され、このリリーフ弁49を通して所定圧以上の排出油を油圧タンク55に逃がすようにしている。第1切換弁51は、切換位置としての第1位置I、第2位置IIおよび中立位置Nを有し、ダンプシリンダ24に第1油圧配管53を介して接続されている。
【0020】
第2切換弁52は、切換位置としての第1位置I、第2位置II及び中立位置Nを有し、第2油圧配管54を介してリフトシリンダ21に接続されている。第1油圧配管53と第2油圧配管54には、それぞれ、リリーフ弁46~48が設けられている。
【0021】
[フロントローダの作動]
前述したフロントローダ20は以下のように作動する。なお、
図1~
図6において、圧油が発生し又は排出油が流れる油圧配管を分かりやすいように太線で示す。
(●ニュートラル)
図1は、第1切換弁51と第2切換弁52が共に中立位置N(ニュートラル)に切り替えられた状態を示している。この中立位置Nの状態では、油圧ポンプ50の圧油がリフトシリンダ21とダンプシリンダ24のいずれにも供給されない。このため、リフトアーム22は停止状態を維持する。
【0022】
(●リフトアップ作動)
次に、リフトアーム22をリフトアップ作動させる時、
図2のように、第1切換弁51を中立位置Nにしたまま第2切換弁52を第1位置Iに切り替える。これにより、油圧ポンプ50の圧油がリフトシリンダ21のリフトアップ室に導入され、リフトアーム22が支持ピンを中心として矢印方向に上昇する。また、リフトシリンダ21のリフトダウン作動室の排出油が第2油圧配管54のリフトダウン側54bと第2切換弁52を通り、油圧タンク55に戻される。
【0023】
(●増速リフトアップ作動)
次に、増速リフトアップ作動について説明する。この増速リフトアップ(増速上昇)を行うために、
図3に示すように、第2切換弁52に増速上昇位置として増速リフトアップ切換位置IIIを増設する。すなわち、第2切換弁52は4位置切換弁となる。
【0024】
この増速リフトアップ切換位置IIIによって、リフトアップ作動時にリフトダウン作動室21bから排出される排出油を、第2油圧配管54のリフトダウン側54bを通り、さらに第2切換弁52の増速リフトアップ切換位置III(逆止弁70)を通り、再びリフトシリンダ21の今度はリフトアップ作動室21aに導入する。これにより、リフトダウン作動室21bから排出される排出油をリフトシリンダ21のリフトアップ作動に利用することができ、リフトアップ作動を増速(増速リフトアップ)することができる。
【0025】
この際、リフトアーム22の荷重によってリフトアップ作動室21aからリフトダウン作動室21bに圧油の逃げが発生しそうになっても、増速リフトアップ切換位置IIIに逆止弁70が配設されているので、圧油の逃げを防止することができる。したがって、リフトアーム22が瞬間的に「ガクン」と急下降するのを防止して作業の安全を確保することができる。
【0026】
(●リフトダウン作動)
次に、リフトアーム22をリフトダウン作動させる時、
図4に示すように、第1切換弁51を中立位置Nにしたまま第2切換弁52を第2位置IIに切り替える。これにより、油圧ポンプ50の圧油が第2切換弁52と第2油圧配管54を通って、リフトシリンダ21のリフトダウン作動室21bに導入される。リフトシリンダ21のリフトアップ作動室21aの排出油は、第2油圧配管54のリフトアップ側54aと第2切換弁52を通って油圧タンク55に戻される。
【0027】
(●スクイ作動)
次に、バケット23がスクイ作動する時は、
図5に示すように第2切換弁を中立位置Nにし、第1切換弁51を第1切換位置に切り替える。これにより、油圧ポンプ50の圧油が第1切換弁51と第1油圧配管53のスクイ側53aを通ってダンプシリンダ24のスクイ作動室24aに導入され、これによりバケット23がスクイ作動する。ダンプシリンダ24のダンプ作動室24bの排出油は、第1油圧配管53のダンプ側53bと第1切換弁51を通って油圧タンク55に戻される。
【0028】
(●ダンプ作動)
次に、バケット23をダンプ作動する時は、
図6に示すように、第2切換弁を中立位置Nに切り替え、第1切換弁51を第2切換位置IIに切り替える。これにより、油圧ポンプ50の圧油が第1切換弁51と第1油圧配管53のダンプ側53bを通って、ダンプシリンダ24のダンプ作動室24bに導入される。
【0029】
そして、ダンプシリンダ24が伸長作動してバケット23がダンプ作動する。ダンプシリンダ24のスクイ作動室24aの排出油は、第1油圧配管53のスクイ側53aと第1切換弁51を通って、油圧タンク55に戻される。
【0030】
(●変形実施形態1)
前述した第2切換弁52は4位置切換弁であるが、本発明は3位置切換弁や5位置切換弁にも適用可能である。
図7は、変形実施形態1に係る3位置切換弁152の油圧回路である。この3位置切換弁152は、ニュートラル、リフトアップおよび増速リフトアップの3位置に切換え可能である。
【0031】
リフトシリンダ21をリフトアップ作動した状態からニュートラルに切換えると、リフトアームの自重でリフトシリンダ21のキャップ側からの排出油が油圧配管のリフトアップ側54aを通して油圧タンク55に戻される(自然リフトダウン)。増速リフトアップに切換えると、前述と同様に、リフトダウン作動室21bから排出される排出油をリフトシリンダ21のリフトアップ作動に利用することができ、リフトアップ作動を増速(増速リフトアップ)することができる。リフトアームの荷重によってリフトアップ作動室21aからリフトダウン作動室21bに圧油の逃げが発生しそうになっても、増速リフトアップ切換位置に逆止弁70が配設されているので、圧油の逃げを防止することができる。
【0032】
(●変形実施形態2)
図8は、変形実施形態2に係る5位置切換弁152の油圧回路である。この5位置切換弁152は、ニュートラル、リフトアップ、リフトダウン、フローティングダウンおよび増速リフトアップの5位置に切換え可能である。
【0033】
増速リフトアップに切換えると、前述と同様に、リフトダウン作動室21bから排出される排出油をリフトシリンダ21のリフトアップ作動に利用することができ、リフトアップ作動を増速(増速リフトアップ)することができる。リフトアームの荷重によってリフトアップ作動室21aからリフトダウン作動室21bに圧油の逃げが発生しそうになっても、増速リフトアップ切換位置に逆止弁70が配設されているので、圧油の逃げを防止することができる。
【0034】
「フローティングダウン」はフローティング作業を行うためのもので、リフトシリンダ21のリフトアップ作動室21aからの排出油は自然に油圧タンク55に戻され、リフトアームは自重でゆっくりと降下している。リフトアームは自然降下し、その先端のアタッチメントが地表に接して地表の起伏に応じて傾動する。またリフトアームは上下に微動する。したがって、地表を傷つけることなく集草や整地等のフローティング作業が容易に行なうことができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明の切換弁はフロントローダ以外の各種昇降装置にも適用可能であって、当該昇降装置には、伸縮可能なリフトアーム(ブーム)の先端にバケットを取付けた高所作業車のような自走式昇降装置も含まれる。また、リフトアーム22は一体形に限らず長手方向中間部で屈曲可能な形式に変更することもできる。また、先端アタッチメントはバケット23に限らず、フォーク、グレーダ、ロールグラブ、コンテナバケット、ローディングフック等の各種先端アタッチメントを装着可能である。
【符号の説明】
【0036】
10:トラクタ 20:フロントローダ
21:リフトシリンダ 22:リフトアーム
23:バケット 24:ダンプシリンダ
46~49:リリーフ弁 50:油圧ポンプ
51:第1切換弁 52:第2切換弁
53:第1油圧配管 54:第2油圧配管
70:逆止弁