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特開2023-111322油入りケーブルの異常発生の危険度の診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111322
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】油入りケーブルの異常発生の危険度の診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/28 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
G01N33/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013124
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】相原 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】京極 智輝
(72)【発明者】
【氏名】永田 健一
(72)【発明者】
【氏名】中村 豪志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 修
(72)【発明者】
【氏名】神保 安良
(72)【発明者】
【氏名】中村 槙之介
(57)【要約】
【課題】油入りケーブルの異常発生の危険度を高精度で評価する診断方法を提供すること。
【解決手段】トレンドグラフを作成する工程1と、最大油中溶解銅量を求める工程2と、最大油中溶解銅量からの減少量を求める工程3とを有し、要診断と評価された油入りケーブルにおいて、少なくとも特性値(a)~(c)を、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により異常発生の危険度を評価することを特徴とする診断方法。トレンドグラフを作成する工程1を有し、要診断と評価された油入りケーブルにおいて、少なくとも特性値(f)~(i)を、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により異常発生の危険度を評価することを特徴とする診断方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁油を使用した油入りケーブルにおいて、該油入りケーブル内における異常発生の危険度を評価する診断方法であって、
前記油入りケーブルの使用経過に応じて、該油入りケーブルから絶縁油を採取して、該絶縁油の油中溶解銅量、水素ガス発生量(H)、誘電正接(tanδ)および可燃性ガス総量(TCG)を測定し、得られた測定値に基づき、(A)誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフ、あるいは、(B)油中溶解銅量および誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフを作成する工程1と、
前記工程1で得られた測定値に基づき、最大油中溶解銅量を求める工程2と、
前記工程1で得られた測定値および前記工程2で求めた最大油中溶解銅量に基づき、最大油中溶解銅量からの減少量を求める工程3と、
を有し、
前記工程1で作成されたトレンドグラフで示される誘電正接(tanδ)が減少過程または減少後ほぼ定常状態となるトレンドの推移を有する油入りケーブルを、要診断と評価し、
前記要診断と評価された油入りケーブルにおいて、少なくとも下記特性値(a)~(c)を、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により前記異常発生の危険度を評価することを特徴とする診断方法。
(a)前記最大油中溶解銅量からの減少量、
(b)前記可燃性ガス総量(TCG)、および
(c)前記水素ガス発生量(H
【請求項2】
さらに、
前記トレンドグラフで示される有機銅化合物および硫化銅の生成期における可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveを求める工程4と、
前記トレンドグラフで示される有機銅化合物および硫化銅の生成期における水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを求める工程5と、
を有し、
前記(b)可燃性ガス総量(TCG)は、可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveであり、
前記(c)水素ガス発生量(H)は、水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveであることを特徴とする、請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記工程2において、
下記式(1)により、最大油中溶解銅量を求めることを特徴とする、請求項1または2に記載の診断方法。
[Cu]max=(tanδmax-tanδ)×{[Cu]/(tanδ-tanδ)}・・・(1)
(ただし、上記式(1)において、[Cu]maxは、最大油中溶解銅量であり、tanδmaxは、前記工程1で作成された誘電正接(tanδ)のトレンドグラフから導いた極大値であり、tanδは、油入りケーブルの使用開始前における絶縁油(新品の絶縁油)の誘電正接(tanδ)の値であり、tanδおよび[Cu]はそれぞれ、油入りケーブルの使用開始後のある時点における絶縁油の誘電正接(tanδ)および油中溶解銅量の各値である。)
【請求項4】
前記要診断と評価された油入りケーブルにおいて、前記特性値(a)~(c)と、下記特性値(d)および(e)のうち少なくとも一方の特性値とを、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により前記異常発生の危険度を評価することを特徴とする、請求項1から3までの何れか1項に記載の診断方法。
(d)前記絶縁油の油中溶解銅量、
(e)前記工程1で作成されたトレンドグラフで示される誘電正接(tanδ)が減少を開始した時点から減少を終了した時点までの経過年数
【請求項5】
さらに、前記工程1で得られた測定値に基づき、油中溶解銅量に対する誘電正接(tanδ)の比であるtanδ/Cuを求める工程6を有し、
前記tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値以上である場合と、前記tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値未満である場合とで、少なくとも一つの前記基準値を異なるものに設定することを特徴とする請求項1から4までの何れか1項に記載の診断方法。
【請求項6】
絶縁油を使用した油入りケーブルにおいて、該油入りケーブル内における異常発生の危険度を評価する診断方法であって、
前記油入りケーブルの使用経過に応じて、該油入りケーブルから絶縁油を採取して、該絶縁油の油中溶解銅量、水素ガス発生量(H)、誘電正接(tanδ)および可燃性ガス総量(TCG)を測定し、得られた測定値に基づき、(A)誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフ、あるいは、(B)油中溶解銅量および誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフを作成する工程1を有し、
前記工程1で作成されたトレンドグラフで示される誘電正接(tanδ)が減少過程または減少後ほぼ定常状態となるトレンドの推移を有する油入りケーブルを、要診断と評価し、
前記要診断と評価された油入りケーブルにおいて、少なくとも下記特性値(f)~(i)を、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により前記異常発生の危険度を評価することを特徴とする診断方法。
(f)前記絶縁油の油中溶解銅量、
(g)前記可燃性ガス総量(TCG)、
(h)前記水素ガス発生量(H)、および
(i)H/TCG
【請求項7】
さらに、
前記トレンドグラフで示される有機銅化合物および硫化銅の生成期における可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveを求める工程4と、
前記トレンドグラフで示される有機銅化合物および硫化銅の生成期における水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを求める工程5と、
を有し、
前記(g)可燃性ガス総量(TCG)は、可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveであり、
前記(h)水素ガス発生量(H)は、水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveであり、
前記(i)H/TCGが、H2Ave/TCGAveであることを特徴とする、請求項6に記載の診断方法。
【請求項8】
前記特性値(f)~(i)および特性値(j)油入りケーブルを布設した日からの経過年数を、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により前記異常発生の危険度を評価することを特徴とする、請求項6または7に記載の診断方法。
【請求項9】
さらに、前記工程1で得られた測定値に基づき、油中溶解銅量に対する誘電正接(tanδ)の比であるtanδ/Cuを求める工程6を有し、
前記tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値以上である場合と、前記tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値未満である場合とで、少なくとも一つの前記基準値を異なるものに設定することを特徴とする請求項6から8までの何れか1項に記載の診断方法。
【請求項10】
絶縁油を使用した油入りケーブルにおいて、該油入りケーブル内における異常発生の危険度を評価する診断方法であって、
診断日から、油入りケーブルを布設した日からの経過年数に対し所定の期間内までに測定された測定値のみを用いて異常発生の危険度を診断する請求項6から9までの何れか1項に記載の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入りケーブルの異常発生の危険度の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油入り変圧器などの油入り電気機器は、油入り電気機器の銅部品と絶縁油中の硫黄成分の反応により導電性の硫化銅が生成(硫化腐食)し、絶縁破壊を引き起こすために油入り電気機器に致命的な損傷を及ぼす場合があることが知られている。絶縁油中の推定硫黄成分としては、絶縁油中に含まれている硫黄成分や、絶縁紙等の部材から溶出する溶出硫黄成分や、絶縁油に後添加する酸化防止剤等の添加硫黄成分が考えられる。
【0003】
大型変圧器などの油入り電気機器では、絶縁体として油浸紙を使用するため、この油浸絶縁紙に硫化銅が付着したときはコイル間で短絡が発生し、破壊されることになり、海外では絶縁破壊事例として報告されている。また、同じ絶縁体として油浸紙を使用している油入りケーブルの劣化は、非常に緩やかであると考えられてきたが、近年、経年油入りケーブル線路における絶縁破壊事例も確認されている。
【0004】
大型変圧器などの油入り電気機器中の硫化銅生成に関わる反応メカニズムは、絶縁油中に添加された酸化防止剤ジベンジルジスルフィド(以下、「DBDS」と略称することがある。)との関係で詳細に検討されている。すなわち、DBDSがコイル銅に吸着し、次に、DBDSがコイル銅と反応してDBDS-銅錯体を生成し、さらに、DBDS-銅錯体がベンジルラジカル及びベンジルスルフェニルラジカルと硫化銅へと分解する反応が起こるためと報告されている(特許文献1~3を参照)。
【0005】
特許文献1および特許文献2では、稼動中の変圧器から絶縁油を採取し、DBDSやその分解物、副生成物などを分析して硫化銅の生成を予測し、油入り電気機器の異常発生の危険度を診断する方法を開示している。また、特許文献3では、絶縁油が空気雰囲気下にある場合に、絶縁油中のジベンジルスルホキシドの濃度を測定し、該濃度に基づいて、硫化銅の生成量を推定する方法を開示している。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1~3の診断方法は、絶縁油中にDBDSが添加されていることが不可欠であり、基本的にDBDSを添加していない絶縁油を用いている油入りケーブルの場合は、絶縁油中のDBDS-銅錯体生成量から絶縁油中の硫化銅生成量を推定できない問題点がある。また、従来、油入りケーブルの点検技術としては、絶縁油の誘電正接(tanδ)測定や、絶縁油中のガスを分析し、部分放電(絶縁油の局所的な絶縁破壊)により生成される可燃性ガス量を、劣化度合いの目安とする油中ガス分析が一般的であり、有機銅化合物や硫化銅の生成状況から危険度を診断する方法は実施されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-010439号公報
【特許文献2】特開2012-156232号公報
【特許文献3】特開2014-045212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の課題に鑑みてなされたものであり、油入りケーブル中の有機銅化合物および硫化銅の生成状況を推定し、有機銅化合物および硫化銅の生成期における特性値を総合的に評価することにより、油入りケーブルの異常発生の危険度を高精度で評価する診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した。その結果、絶縁油を使用した油入りケーブルの解体調査結果より、当該油入りケーブル中においても硫化銅が生成すること;硫化銅の生成原因と思われる絶縁油中の溶解銅量(以下、「油中溶解銅量」と記載する。)と絶縁油の誘電正接(tanδ)との間に相関関係が認められること;有機銅化合物および硫化銅生成時には、油中溶解銅量および誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフにおいてそれぞれの値が極大値をとった後に減少する傾向があること;有機銅化合物および硫化銅の生成時には絶縁油中に水素を含む可燃性ガスが発生し、絶縁油中の可燃性ガス総量(Total Combustible Gas:TCG)が増加すること;有機銅化合物および硫化銅の生成時には、複数の特有の特性値が変化すること;に着目した。
そして、油入りケーブルから採取した絶縁油の油中溶解銅量、誘電正接(tanδ)及び可燃性ガス量(TCG)と可燃性ガス中の水素ガス発生量から有機銅化合物および硫化銅の生成状況を推定することができ、有機銅化合物および硫化銅の生成期において測定・算出された特性値に基づいて、高精度で油入りケーブルの異常発生の危険度を診断することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の診断方法は、絶縁油を使用した油入りケーブルにおいて、該油入りケーブル内における異常発生の危険度を評価する診断方法であって、
前記油入りケーブルの使用経過に応じて、該油入りケーブルから絶縁油を採取して、該絶縁油の油中溶解銅量、水素ガス発生量(H)、誘電正接(tanδ)および可燃性ガス総量(TCG)を測定し、得られた測定値に基づき、(A)誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフ、あるいは、(B)油中溶解銅量および誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフを作成する工程1と、
前記工程1で得られた測定値に基づき、最大油中溶解銅量を求める工程2と、
前記工程1で得られた測定値および前記工程2で求めた最大油中溶解銅量に基づき、最大油中溶解銅量からの減少量を求める工程3と、
を有し、
前記工程1で作成されたトレンドグラフで示される誘電正接(tanδ)が減少過程または減少後ほぼ定常状態となるトレンドの推移を有する油入りケーブルを、要診断と評価し、
前記要診断と評価された油入りケーブルにおいて、少なくとも下記特性値(a)~(c)を、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により前記異常発生の危険度を評価することを特徴とする。
(a)前記最大油中溶解銅量からの減少量、
(b)前記可燃性ガス総量(TCG)、および
(c)前記水素ガス発生量(H
【0011】
また、本発明の診断方法は、絶縁油を使用した油入りケーブルにおいて、該油入りケーブル内における異常発生の危険度を評価する診断方法であって、
前記油入りケーブルの使用経過に応じて、該油入りケーブルから絶縁油を採取して、該絶縁油の油中溶解銅量、水素ガス発生量(H)、誘電正接(tanδ)および可燃性ガス総量(TCG)を測定し、得られた測定値に基づき、(A)誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフ、あるいは、(B)油中溶解銅量および誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフを作成する工程1を有し、
前記工程1で作成されたトレンドグラフで示される誘電正接(tanδ)が減少過程または減少後ほぼ定常状態となるトレンドの推移を有する油入りケーブルを、要診断と評価し、
前記要診断と評価された油入りケーブルにおいて、少なくとも下記特性値(f)~(i)を、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により前記異常発生の危険度を評価することを特徴とする。
(f)前記絶縁油の油中溶解銅量、
(g)前記可燃性ガス総量(TCG)、
(h)前記水素ガス発生量(H)、および
(i)H/TCG
【0012】
本発明の診断方法は、工程1で得られた測定値に基づき、油中溶解銅量に対する誘電正接(tanδ)の比であるtanδ/Cuを求める工程6を更に有し、
前記tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値以上である場合と、前記tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値未満である場合とで、少なくとも一つの前記基準値を異なるものに設定することが好ましい。
【0013】
このような本発明の診断方法は、油入りケーブルを構成する導体が、絶縁油中の炭化水素や非炭化水素化合物と反応し、銅錯体もしくは銅化合物として絶縁油中に溶解し、当該銅錯体等が高電界領域にある補強絶縁層の絶縁紙に誘電泳動により凝集し、銅触媒として絶縁油の酸化や銅錯体もしくは銅化合物との結合反応を促進させ、有機銅化合物を生成する、ひいては硫化銅を生成し、この有機銅化合物もしくは硫化銅が高電界領域に誘電泳動し、絶縁紙上に凝集堆積するとの推定に基づいている。また、油入りケーブル使用前の絶縁油について、誘電正接(tanδ)と油中溶解銅量との間に直線性の正の相関が認められるため、該最大油中溶解銅量は大きいほど、有機銅化合物および硫化銅の生成量が多くなるとの推定に基づいている。
【0014】
絶縁油を使用した油入りケーブルにおいて、特性値(a)~(c)に基づいて油入りケーブル内における異常発生の危険度を評価する診断方法(以下、「詳細法」と記載する場合がある。)では、油入りケーブル稼働時より蓄積してきた全てのデータを利用して、高精度で異常発生の危険度を評価することができる。より具体的には、詳細法では、特性値である(a)最大油中溶解銅量からの減少量、(b)可燃性ガス総量(TCG)、および(c)水素ガス発生量(H)、をそれぞれ予め設定しておいた基準値に基づき総合的に評価し、この評価結果に基づいて異常発生の危険度を評価する。
なお、油中溶解銅量は、有機銅化合物および硫化銅の生成要因となる銅量を表す指標であるため、有機銅化合物および硫化銅の生成に関連する因子である。また、可燃性ガス総量(TCG)量は、絶縁油溶存ガスの増加を表す指標である。
【0015】
絶縁油を使用した油入りケーブルにおいて、特性値(f)~(i)に基づいて油入りケーブル内における異常発生の危険度を評価する診断方法(以下、「簡易法」と記載する場合がある。)では、油入りケーブル稼働時より蓄積してきたデータの中から限られたデータ(診断日から、油入りケーブルを布設した日からの経過年数に対し所定の期間内までに測定された測定値)を利用する場合であっても、高精度で異常発生の危険度を評価することができる。より具体的には、簡易法では、特性値である(f)絶縁油の油中溶解銅量、(g)可燃性ガス総量(TCG)、(h)水素ガス発生量(H)、および(i)H/TCG、をそれぞれ予め設定しておいた基準値に基づき総合的に評価し、この評価結果に基づいて異常発生の危険度を評価する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の診断方法によれば、油中ガス分析(部分放電や熱劣化により発生したガスのトレンド傾向診断)、絶縁油の電気特性の低下傾向診断(tanδ、TCG、体積抵抗率、AC耐圧測定)、水の浸入診断(水分量測定)等による従来の診断方法とは異なる観点で、硫化銅生成メカニズムに基づいて診断するので、ジベンジルジスルフィドを添加していない絶縁油を使用した油入りケーブルについても高精度で異常発生の危険度を診断することができる。
【0017】
油入りケーブル稼働時より蓄積してきたデータの中から限られたデータを利用する場合には簡易法を利用し、油入りケーブル稼働時より蓄積してきたデータを利用する場合には詳細法を利用することによって、高精度で異常発生の危険度を評価することができる。従って、例えば、運転開始から30~40年を迎える油入りケーブルについて、手軽に精度よく異常発生の危険度を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】tanδとTCGの経時変化を示すトレンドグラフの一例を示す図である。
図2】TCGの平均値であるTCGAveの求め方を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による油入りケーブル(以下、「OFケーブル」と記載する。)内における異常発生の危険度を評価する診断方法を詳細に説明する。
【0020】
≪OFケーブルにおける劣化状況≫
OFケーブルは、単に油浸絶縁紙を絶縁体としただけでは、温度変化による絶縁油の圧力低下で絶縁油中に気泡が生じ、要求特性を満足しないため、導体(または金属被)の内側に油通路を設け、絶縁油に大気圧以上の圧力を外部に設置した油槽によって常時加え、高電界強度にも耐えられるように設計されている。OFケーブルの絶縁体は、テープ状の絶縁紙を巻き付けて絶縁油を含浸させることで構成される。その際、曲げ特性を向上させるために、通常、絶縁紙はラップさせず、ギャップを均等に設けて構成されている。
【0021】
OFケーブルの絶縁性能が低下する要因は、過熱による絶縁紙重合度の低下、振動・熱伸縮による損傷・変形・絶縁体の崩れ、負圧、漏油、絶縁油特性異常などが考えられている。OFケーブルの電気特性はAC電圧に対し裕度をもっているが、コアずれ等により絶縁紙のずれや損傷により欠陥が存在する場合、過電圧の侵入により欠陥部で部分放電が発生してガスが発生し、それが繰り返される場合には欠陥部にボイドとして存在する可能性がある。さらに、ボイドは絶縁耐力が著しく低いため、AC電圧の印加により部分放電が継続することも考えられる。
【0022】
≪OFケーブル中の硫化銅生成メカニズム≫
従来からのDBDSを添加した絶縁油中での硫化銅の生成は、DBDSと導体の銅が反応し、DBDS-銅錯体が絶縁油中に拡散し、油中拡散したDBDS-銅錯体が絶縁紙に吸着し、熱エネルギーにより分解されることで硫化銅が生成する、というメカニズムによるものと推定されている。
【0023】
一方、本発明では、OFケーブル中の硫化銅の生成は、(i)導体と絶縁油が反応し、(ii)銅錯体もしくは銅化合物として絶縁油中に溶解し、(iii)溶解した銅錯体もしくは銅化合物が誘電泳動により高電界領域に凝集し、(iv)銅触媒として絶縁油の酸化や銅錯体もしくは銅化合物との結合反応を促進させ、高分子状の有機銅化合物を生成し、(v)生成した有機銅化合物は高電界領域に誘電泳動によりさらに凝集し、高電界領域に凝集した銅錯体、銅化合物あるいは有機銅化合物が、絶縁紙あるいは絶縁油中に含まれる硫黄成分と反応することで硫化銅が生成する、というメカニズムによると推定している。そして、本発明では、銅錯体、銅化合物あるいは有機銅化合物と反応する硫黄成分は、DBDSのように絶縁油中に添加される成分とは限らず、絶縁紙の製造時に用いられた硫黄化合物に由来する硫黄成分や、絶縁油の原料である石油等に由来する硫黄成分も含まれると想定している。
【0024】
また、上記メカニズムでは、銅錯体もしくは銅化合物が絶縁油と反応して、高分子状の有機銅化合物が生成されると推定している。このような有機銅化合物は、分子量が大きい固体物質であり、高電界領域に誘電泳動により凝集しケーブルコア部等に堆積して、硫化銅と同様、絶縁性能の低下や、絶縁破壊を招く原因と想定される。
【0025】
すなわち、本発明による硫化銅生成メカニズムは、DBDSのような硫黄化合物を添加しない絶縁油の場合でも、反応速度は非常に遅いが、時間を掛けて有機銅化合物および硫化銅が生成するとの想定に基づいており、銅+絶縁油+高電界の3条件が、有機銅化合物および硫化銅の生成に必要であると推定している。
【0026】
≪硫化銅生成メカニズムに基づく診断法≫
上記のOFケーブル中の硫化銅生成メカニズムによれば、(ii)銅錯体もしくは銅化合物が絶縁油中に溶解する状態になると、油中溶解銅量及び絶縁油の誘電正接(tanδ)が増加し、その後、(iii)銅錯体もしくは銅化合物が高電界領域に凝集した時点で溶解量は最大値となり、やがて、(iv)有機銅化合物生成及び(v)硫化銅生成にともなって、油中溶解銅量及び絶縁油の誘電正接(tanδ)が減少する。
【0027】
一方、銅錯体の生成反応、有機銅化合物および硫化銅の生成反応にともなって発生するガスは絶縁油に吸収されるため、油中ガス濃度が増加し、油中の水素ガス発生量(H)および可燃性ガス総量(TCG)の測定値が増大する。
【0028】
図1は、上記のOFケーブル中の硫化銅生成メカニズムに基づく、絶縁油の誘電正接(tanδ)と油中の可燃性ガス総量(TCG)の増減を経時変化として示したトレンドグラフの一例である。
【0029】
ここで、誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)のトレンドグラフは、油中溶解銅量と可燃性ガス総量(TCG)のトレンドグラフと相関する。すなわち、誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)のトレンドグラフ(図1)より、これらの特性値の「減少」期が、有機銅化合物および硫化銅の生成期(なお、図1中では「硫化銅生成期」と省略して記載している。)に相当し、これらの特性値(絶対値)が大きいと、有機銅化合物および硫化銅になる油中溶解銅量が多いことから、有機銅化合物および硫化銅の生成量は多くなる、と推定することができる。よって、(A)誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフ、あるいは、(B)油中溶解銅量および誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフにおいて、誘電正接(tanδ)の最大値から、OFケーブル内における有機銅化合物および硫化銅の生成状況を推定することが可能となる。
【0030】
事前の試験により、油中溶解銅量と誘電正接の関係を示す近似直線の近似式は、一次式により表すことができることを確認している。これらの知見に基づき、本発明者らは、下記式(1)により、tanδ値の極大値から最大油中溶解銅量を推定できることを確認した。
[Cu]max=(tanδmax-tanδ)×{[Cu]/(tanδ-tanδ)}・・・(1)
上記式(1)において、[Cu]maxは、最大油中溶解銅量であり、tanδmaxは、誘電正接(tanδ)のトレンドグラフから導いた極大値であり、tanδは、新品の絶縁油の誘電正接(tanδ)の値であり、tanδおよび[Cu]はそれぞれ、使用開始後の実設備から、ある時点で採油した絶縁油の誘電正接(tanδ)および油中溶解銅量の各値である。
【0031】
上記式(1)によれば、新品の絶縁油の誘電正接の値(tanδ)と、実設備から採油した絶縁油の、過去の誘電正接の極大値(tanδmax)と、ある時点(例えば、直近の測定時点)における誘電正接(tanδ)および油中溶解銅量の各値から、容易に実設備の最大油中溶解銅量[Cu]maxを算出でき、これにより有機銅化合物および硫化銅の生成状況を推定することが可能となる。
すなわち、最大油中溶解銅量が大きい場合には、有機銅化合物および硫化銅になる油中溶解銅量が多いため、有機銅化合物および硫化銅の生成量は多くなる、と推定することができる。また、最大油中溶解銅量と直近の測定時の油中溶解銅量との差(最大油中溶解銅量からの減少量)が大きい場合には、その測定時において、既に有機銅化合物および硫化銅が多量に生成している、と推定することができる。
【0032】
<診断方法>
以下では、本発明の診断方法について詳細に説明する。本発明の油入りケーブル内における異常発生の危険度を評価する診断方法では、簡易法および詳細法の工程1として、油入りケーブルから採取した絶縁油について、油中溶解銅量、水素ガス発生量(H)、誘電正接(tanδ)、および可燃性ガス総量(TCG)を測定して、各測定値に基づいて、(A)誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフ、あるいは、(B)油中溶解銅量および誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフを作成する。なお、可燃性ガスとしては具体的に、水素、一酸化炭素、メタン、エタン、アセチレンなどを挙げることができる。
【0033】
診断日から、油入りケーブルを布設した日からの経過年数に対し所定の期間内までに測定された測定値のみを用いて異常発生の危険度を診断する場合は、後述する簡易法により異常発生の危険度の診断を行う。診断日から所定の期間内までに測定した測定値に加えて、さらに診断日から所定の期間よりも過去に測定した測定値も含めて異常発生の危険度を診断する場合は、後述する詳細法により異常発生の危険度の診断を行う。これにより、蓄積されたデータの保有状況に応じて、好適な診断方法を選択することができる。なお、「所定の期間」は、油入りケーブルを布設した日からの経過年数に応じて適宜、設定することができる。「所定の期間」の一例は、(油入りケーブルを布設した日からの経過年数)×0.25である。以下では、簡易法および詳細法を詳細に説明する。
【0034】
(1)簡易法
簡易法では、有機銅化合物および硫化銅の生成状況から、設備危険度を診断する。すなわち、(f)絶縁油の油中溶解銅量、(g)可燃性ガス総量(TCG)、(h)水素ガス発生量(H)、および(i)H/TCG、の各特性値を予め設定しておいた基準値に基づき総合的に評価し、該評価結果から特定の診断基準に基づき設備の異常発生の危険度を診断する。なお、(f)絶縁油の油中溶解銅量の基準値は1つ設定してもよいし、2つ以上を設定してもよい。
【0035】
簡易法ではさらに、トレンドグラフで示される有機銅化合物および硫化銅の生成期における可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveを求める工程4と、トレンドグラフで示される有機銅化合物および硫化銅の生成期における水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを求める工程5とを有し、前記(g)可燃性ガス総量(TCG)は可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveであり、前記(h)水素ガス発生量(H)は水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveであり、前記(i)H/TCGはH2Ave/TCGAveであることが好ましい。このように、(g)可燃性ガス総量(TCG)として可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveを用い、(h)水素ガス発生量(H)として水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを用い、(i)H/TCGとしてH2Ave/TCGAveを用いることによって、実際の経時変化の特性に近い数値となり、異常発生の危険度の診断精度を高めることができる。
【0036】
図2は、可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveの求め方を表す図であり、平均値TCGAveは区間積分の考え方に従って求める。例えば図2に示されるように、A(油入りケーブルの布設年)、B、CおよびDの4つの時点で可燃性ガス総量(TCG)を測定した場合には、AとBの中間時(2010年から2.5年経過した時点)、BとCの中間時(2015年から1.5年経過した時点)、およびCとDの中間時(2018年から1.0年経過した時点)でそれぞれの区間を区切る。そして、Aの可燃性ガス総量(TCG)はAからAとBの中間時までの期間(2.5年)であったものとし、Bの可燃性ガス総量(TCG)はAとBの中間時からBとCの中間時までの期間(2.5年+1.5年=4.0年)であったものとし、Cの可燃性ガス総量(TCG)はBとCの中間時からCとDの中間時までの期間(1.5年+1.0年=2.5年)であったものとし、Dの可燃性ガス総量(TCG)はCとDの中間時からDまでの期間(1.0年)であったものとする。そして、TCGAveは上記のようにして設定した各区間の面積の総和をAからDまでの年数で除することにより求める。例えば、図2ではTCGAveは、下記式(2)によって求めることができる。
TCGAve(ppm)
={A(50ppm×2.5年)+B(100ppm×4.0年)+C(250ppm×2.5年)+D(200ppm×1.0年)}/10.0年
=135ppm (2)
【0037】
上記TCGAveの求め方を一般化して説明すると、測定年をN、N、・・・Nとし(ただし、Nは油入りケーブルを布設した年、Nは最後に測定を行った年とする)、該N、N、・・・NにおけるTCGの測定値をそれぞれ、TCG、TCG、・・・TCGとした時、TCGAveは下記式(3)によって算出できる。
【数1】
【0038】
水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveについても、TCGAveと同様に区間積分の考え方に従って求める。H2Aveの求め方を一般化して説明すると、測定年をN、N、・・・Nとし(ただし、Nは油入りケーブルを布設した年、Nは最後に測定を行った年とする)、該N、N、・・・NにおけるHの測定値をそれぞれ、H2, 1、H2, 2、・・・H2, mとした時、H2Aveは下記式(4)によって算出できる。
【数2】
【0039】
簡易法ではさらに、前記特性値(f)~(i)および特性値(j)油入りケーブルを布設した日からの経過年数を、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により異常発生の危険度を評価することが好ましい。このように、特性値(f)~(j)を用いて異常発生の危険度を診断することによって、実際の経時変化の特性に近い数値となり、異常発生の危険度の診断精度を向上させることができる。
【0040】
なお、簡易法では、油中溶解銅量に対する誘電正接(tanδ)の比であるtanδ/Cuを求める工程6を更に有し、tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値以上である場合と、tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値未満である場合とで、少なくとも一つの基準値を異なるものに設定することが好ましい。この際、tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値以上である場合と、tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値未満である場合とで、上記(f)~(j)の全ての基準値を異なるものとしてもよいし、上記(f)~(j)の中で一部の基準値を異なるものとしてもよい。事前の調査により、tanδ/Cuが特定の設定値以上である場合と、特定の設定値未満である場合とで、特性値(f)~(j)の基準値が変わり得ることが分かっている。この理由は、tanδ/Cuが設定値より大きい場合は、その時点で、既に設備中の多くの箇所に有機銅化合物および硫化銅が生成しているが、その後設備の劣化位置と絶縁油の特性値を比較調査した結果、設備外部から内部に劣化する時はtanδ/Cuが設定値より大きい場合であった。そして、劣化程度が同じで劣化位置が設備外部の時と外部から内部までの時を比較すると,外部から内部までの時はTCGや減少量が低値傾向であることが確認されたためである。その結果、特性値(f)~(j)の基準値が変化するためと考えられる。このため、tanδ/Cuが設定値以上である場合と、設定値未満である場合とで、特性値(f)~(j)の中で少なくとも一つの基準値を異なるものとすることで、より高精度で異常発生の危険度を診断することができる。
【0041】
下記表1に、tanδ/Cuが0.9以上と、0.9未満とで異なる基準値を設定した例を示す。なお、下記表1において、(f)絶縁油の油中溶解銅量の基準値は2つ設定し、(g)可燃性ガス総量(TCG)として可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveを用い、(h)水素ガス発生量(H)として水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを用い、(i)H/TCGとしてH2Ave/TCGAveを用いた。
【0042】
(特性値(f)~(i)の基準値)
【表1】
本発明の一例では、特性値(f)~(j)について、上記表1に記載の基準値以上であるか、または、基準値未満であるか、を確認し、各特性値の確認結果を下記表2に従って総合的に評価して異常発生の危険度を診断する。なお、上記表1に記載の基準値は一例であり、油入りケーブルのタイプ・使用環境等に応じて適宜、好適な基準値を設定することができる。
【0043】
(異常発生の危険度の診断基準)
下記表2に示す基準で診断されたランクA~Dのうち、ランクAは異常発生の危険度が「大」、ランクBは異常発生の危険度が「中」、ランクCは異常発生の危険度が「小」、ランクDは異常発生の危険度が「極小」と診断する。
【表2】
【0044】
(異常発生の危険度の診断基準)
上記の順で危険度を評価しランク付けすることにより、設備の危険度を比較的簡易に判断することができ、また絶縁油を使用した油入りケーブルの解体調査結果とも一致した結果が得られる。なお、上記表2に記載の該当項目は一例であり、油入りケーブルのタイプ・使用環境等に応じて適宜、好適な該当項目を設定することができる。
【0045】
(2)詳細法
詳細法では上記(1)簡易法と同様に、(a)最大油中溶解銅量からの減少量、(b)可燃性ガス総量(TCG)、および(c)水素ガス発生量(H)、の各項目の値を予め設定しておいた基準値に基づき総合的に評価し、該評価結果から特定の診断基準に基づき設備の異常発生の危険度を診断する。
【0046】
詳細法ではさらに、トレンドグラフで示される有機銅化合物および硫化銅の生成期における可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveを求める工程4と、トレンドグラフで示される有機銅化合物および硫化銅の生成期における水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを求める工程5とを有し、(b)可燃性ガス総量(TCG)は可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveであり、(c)水素ガス発生量(H)は水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveであることが好ましい。このように、(b)可燃性ガス総量(TCG)として可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveを用い、(c)水素ガス発生量(H)として水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを用いることによって、実際の経時変化の特性に近い数値となり、異常発生の危険度の診断精度を高めることができる。
【0047】
詳細法では工程2において、工程1で得られた測定値に基づき、下記式(1)により最大油中溶解銅量を求めることが好ましい。ただし、下記式(1)において、[Cu]maxは、最大油中溶解銅量であり、tanδmaxは、工程1で作成されたトレンドグラフから導いた誘電正接(tanδ)の極大値であり、tanδは、油入りケーブルの使用開始前における絶縁油(新品の絶縁油)の誘電正接(tanδ)の値であり、tanδおよび[Cu]はそれぞれ、油入りケーブルの使用開始後のある時点における絶縁油の誘電正接(tanδ)および油中溶解銅量の各値である。なお、油入りケーブルの使用開始後のある時点とは、直近の(診断を行う際の)測定時点であることが好ましいが、有機銅化合物および硫化銅の生成期における過去の任意の測定時点であってもよい。
[Cu]max=(tanδmax-tanδ)×{[Cu]/(tanδ-tanδ)}・・・(1)
最大油中溶解銅量[Cu]maxが大きいと、有機銅化合物および硫化銅になる油中溶解銅量が多いことから、有機銅化合物および硫化銅の生成量は多い、と推定することができる。
【0048】
次いで、詳細法の工程3では、工程1で作成された可燃性ガス総量(TCG)のトレンドグラフから導かれる、有機銅化合物および硫化銅の生成期以降のある時点における絶縁油の油中溶解銅量([Cu])と、最大溶解銅量([Cu]max)との差([Cu]max-[Cu])として、最大油中溶解銅量からの減少量を算出する。なお、有機銅化合物および硫化銅の生成期以降のある時点とは、直近の(診断を行う際の)測定時点である(以下において同じ)。有機銅化合物および硫化銅の生成期以降のある時点における油中溶解銅量が、最大油中溶解銅量から大幅に減少している(減少量が大きい)場合には、その時点で、既に有機銅化合物および硫化銅が多量に生成量している、と推定することができる。
【0049】
詳細法では、要診断と評価された油入りケーブルにおいて、前記特性値(a)~(c)と、特性値(d)絶縁油の油中溶解銅量および特性値(e)工程1で作成されたトレンドグラフで示される誘電正接(tanδ)が減少を開始した時点から減少を終了した時点までの経過年数のうち少なくとも一方の特性値とを、それぞれ予め設定しておいた基準値に基づき評価した結果により異常発生の危険度を評価することが好ましい。このように、特性値(a)~(e)を用いて異常発生の危険度を診断することによって、実際の経時変化の特性に近い数値となり、異常発生の危険度の診断精度を向上させることができる。
【0050】
また、詳細法では、油中溶解銅量に対する誘電正接(tanδ)の比であるtanδ/Cuを求める工程6を更に有し、tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値以上である場合と、tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値未満である場合とで、少なくとも一つの基準値を異なるものに設定することが好ましい。この際、tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値以上である場合と、tanδ/Cuが予め設定しておいた設定値未満である場合とで、上記(a)~(e)の全ての基準値を異なるものとしてもよいし、上記(a)~(e)の中で一部の基準値を異なるものとしてもよい。事前の調査により、tanδ/Cuが特定の設定値以上である場合と、特定の設定値未満である場合とで、特性値(a)~(e)の基準値が変わり得ることが分かっている。この理由は、tanδ/Cuが設定値より大きい場合は、その時点で、既に設備中の多くの箇所に有機銅化合物および硫化銅が生成しているが、その後設備の劣化位置と絶縁油の特性値を比較調査した結果、設備内部に劣化する時はtanδ/Cuが設定値より大きい場合であった。そして、劣化程度が同じで劣化位置が設備外部の時と外部から内部までの時を比較すると、外部から内部までの時はTCGや減少量が低値傾向であることが確認されたためである。その結果、特性値(a)~(e)の基準値が変化するためと考えられる。このため、tanδ/Cuが設定値以上である場合と、設定値未満である場合とで、特性値(a)~(e)の中で少なくとも一つの基準値を異なるものとすることで、より高精度で異常発生の危険度を診断することができる。
【0051】
下記表3に、tanδ/Cuが0.9以上と、0.9未満とで異なる基準値を設定した例を示す。なお、下記表3において、(b)可燃性ガス総量(TCG)として可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAveを用い、(c)水素ガス発生量(H)として水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを用いた。
(特性値(a)~(e)の基準値)
【表3】
本発明の一例では、特性値(a)~(e)について、上記表3に記載の基準値以上であるか、または、基準値未満であるか、を確認し、各特性値の確認結果を下記表4に従って総合的に評価して異常発生の危険度を診断する。なお、上記表3に記載の基準値は一例であり、油入りケーブルのタイプ・使用環境等に応じて適宜、好適な基準値を設定することができる。
【0052】
下記表4に示す基準で診断されたランクA~Dのうち、ランクAは異常発生の危険度が「大」、ランクBは異常発生の危険度が「中」、ランクCは異常発生の危険度が「小」、ランクDは異常発生の危険度が「極小」と診断する。
【表4】
(異常発生の危険度の診断基準)
上記の順で危険度を評価しランク付けすることにより、設備の危険度を比較的簡易に判断することができ、また絶縁油を使用した油入りケーブルの解体調査結果とも一致した結果が得られる。なお、上記表4に記載の該当項目は一例であり、油入りケーブルのタイプ・使用環境等に応じて適宜、好適な該当項目を設定することができる。
【実施例0053】
次に、本発明による診断法による効果の確認結果を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0054】
(1)本診断法よる効果の確認
実設備(OFケーブル120線)について、本発明の診断方法(簡易法および詳細法)に基づいて診断した推定診断結果と、解体調査結果とを比較した。結果を表5に示す。なお、本発明の診断方法に基づく推定診断と、解体調査は、それぞれ以下の方法で行った。
【0055】
<本発明の診断方法に基づく推定診断>
まず、各実設備から採取した試料油について、以下の測定方法により、絶縁油の油中溶解銅量、水素ガス発生量(H)、誘電正接(tanδ)および可燃性ガス総量(TCG)を測定し、得られた測定値に基づき、誘電正接(tanδ)と可燃性ガス総量(TCG)の経時変化を示すトレンドグラフを作成した(簡易法または詳細法の工程1)。
【0056】
さらに、実設備(OFケーブル120線)のうち、ケーブルの布設日からの経過年数に対して所定の期間(経過年数×0.25年)で測定された測定値のみを用いて異常発生の危険度を診断するOFケーブル64線については簡易法の診断対象とし、ケーブルの布設日からの経過年数に対して所定の期間を超えて測定された測定値がある場合には全測定値を用いて詳細法により異常発生の危険度を診断する。OFケーブル56線については詳細法の診断対象とした。
【0057】
次に、簡易法の診断対象となるOFケーブル64線について、上記工程1で測定した可燃性ガス総量(TCG)および水素ガス発生量(H)から、(g)可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAve、(h)水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを算出し(簡易法の工程4および5)、(i)H2Ave/TCGAveを得た。この後、各実設備について得られた特性値である(f)絶縁油の油中溶解銅量、(g)可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAve、(h)水素ガス発生量(H)の平均値H2Ave、(i)H2Ave/TCGAve、および(j)油入りケーブルを布設した日からの経過年数を、上記表1に予め設定された基準値以上であるか、または基準値未満であるか、を確認し、この確認結果から上記表2の診断基準に基づき当該設備の異常発生の危険度を診断した。
【0058】
また、詳細法の診断対象となるOFケーブル56線について、上記工程1で測定した可燃性ガス総量(TCG)、水素ガス発生量(H)、誘電正接(tanδ)および絶縁油の油中溶解銅量から、可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAve、水素ガス発生量(H)の平均値H2Ave、および、上記式(1)に基づく最大油中溶解銅量を算出し(詳細法の工程2、4および5)、さらに工程2で求めた該最大油中溶解銅量から最大油中溶解銅量からの減少量を算出した(詳細法の工程3)。この後、各実設備について得られた特性値である(a)最大油中溶解銅量からの減少量、(d)絶縁油の油中溶解銅量、(b)可燃性ガス総量(TCG)の平均値TCGAve、(e)工程1で作成されたトレンドグラフで示される誘電正接(tanδ)が減少を開始した時点(誘電正接(tanδ)が極大値を示した時点)から減少を終了した時点までの経過年数、および(c)水素ガス発生量(H)の平均値H2Aveを、上記表3に予め設定された基準値以上であるか、または基準値未満であるか、を確認し、この確認結果から上記表4の診断基準に基づき当該設備の異常発生の危険度を診断した。
【0059】
(測定条件)
上記各種測定は、以下の手順で行った。
・誘電正接(tanδ)の測定
各実設備から採取した試料油50mlを液体用電極に入れ80℃に加熱し、1000V印加しtanδ測定器により測定した。
【0060】
・水素ガス発生量(H)および可燃性ガス総量(TCG)の測定
各実設備から採取した試料油の入った油採取注射器(200ml)をガスサンプリング装置にセットして、ガスクロマトグラフにより油中ガス(酸素、窒素、水素、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、六フッ化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素)を分離抽出し分析した。可燃性ガス総量(TCG)は、分析した水素、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、一酸化炭素の各ガス量の総量である。
【0061】
・絶縁油の油中溶解銅量の測定
各実設備から採取した試料油をキシレンにより10倍希釈し、調整溶液を作製し、該溶液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置により、絶縁油1kg当たりの油中溶解銅量(mg)を分析した。検量線用標準溶液の調整は、市販の油性銅含有標準溶液をブランク油とキシレンにより順に希釈して調整した標準溶液を用いた。
【0062】
<解体調査>
解体調査は、実設備の補強絶縁紙の沿面および内部、ケーブル絶縁紙の最内外層および内部の層について、有機銅化合物および硫化銅生成部である絶縁紙上の黒色部の生成様相と生成場所を目視確認することにより実施し、下記診断基準に基づきA~Dと評価した。
また、有機銅化合物および硫化銅の生成確認は、電子顕微鏡と蛍光X線分析装置により、絶縁紙上の黒色化部で銅(Cu)と硫黄(S)の両方が検出される場所を特定し、その特定場所について、有機銅化合物はフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により、赤外吸収スペクトルから絶縁油と酸化生成物および硫黄化合物の吸収ピークが検出されたことで確認し、硫化銅は顕微ラマン分光装置により硫化銅のラマンスペクトルが検出されたことで確認した。
【0063】
<診断基準>
A:放電痕や点状、スジ状を超える黒色部がある補強絶縁紙もしくはケーブル絶縁紙が厚さ方向に連続して積層し、絶縁性能的に危険な状態になるような積層状態である。
B:放電痕や点状、スジ状を超える黒色部がある補強絶縁紙もしくはケーブル絶縁紙が厚さ方向に連続して積層し、絶縁性能的に影響をあたえるような積層状態である。
C:点状、スジ状変色がある補強絶縁紙もしくはケーブル絶縁紙が最外層付近にのみあり、絶縁性能的な影響は小さい状態である。
D:黒色部はなし。
【0064】
下記表5に、本発明の診断方法による診断結果と、解体調査による調査結果との比較を示す。
【表5】
【0065】
表5に示すように簡易法で評価したケーブル(64線)では、実設備の解体調査結果に対して本発明の診断方法に基づく診断結果が、過小評価であったもの、および過大評価であったものがそれぞれ5設備および11設備存在したが、その他は解体調査結果と、本発明の診断結果は一致しており適合率は75.0%と高かった。また、詳細法で評価したケーブル(56線)では、実設備の解体調査結果に対して本発明の診断方法に基づく診断結果が、過小評価であったもの、および過大評価であったものがそれぞれ4設備および2設備存在したが、その他は解体調査結果と、本発明の診断結果は一致しており適合率は89.3%と非常に高かった。また、簡易法および詳細法の全体(120線)で見ると、98設備が解体調査結果と本発明の診断結果は一致しており、適合率は81.7%と非常に高かった。これらの結果から、本発明の診断方法によれば、実設備の解体調査結果に対応する結果が得られることが確認された。また、本発明の診断方法によれば、解体調査のように実設備を解体して試験する必要はなく、OFケーブルから試験油を採取するだけで、各測定評価を行うことができ、比較的簡便に実設備の危険度を診断することができることを確認できた。
図1
図2